メルクマニュアル18版 日本語版
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はじめに

消化管出血は,口から肛門までのどこからでも起こり,顕性の場合も不顕性の場合もある。多くの原因が考えられ(消化管出血: 消化管出血の一般的な原因表 1: 表を参照),上部消化管(トライツ靱帯より上)と下部消化管に分けられる。

表 1

消化管出血の一般的な原因

上部消化管

十二指腸潰瘍(20–30%)

胃または十二指腸のびらん(20–30%)

静脈瘤(15–20%)

胃潰瘍(10–20%)

マロリーワイス裂傷(5–10%)

びらん性食道炎(5–10%)

血管腫(5–10%)

動静脈奇形(5%未満)

下部消化管(比率は標本集団の年齢によって異なる)

裂肛

血管形成異常(血管拡張症)

大腸炎:放射線,虚血性

大腸癌

大腸ポリープ

憩室疾患

炎症性腸疾患:潰瘍性直腸炎/大腸炎,クローン病,感染性大腸炎

内痔核

小腸(まれ)

血管腫

動静脈奇形

メッケル憩室

腫瘍

慢性肝疾患患者,遺伝性凝固異常患者,特定の薬物を使用している患者は,原因にかかわらず出血を起こしやすく,出血の重症度も高い可能性がある。消化管出血に関連する薬物として,抗凝固薬(ヘパリン,ワルファリン),血小板機能に影響を及ぼす薬物(例,アスピリンおよび他の特定のNSAID,クロピドグレル,SSRI),粘膜防御に影響を及ぼす薬物(例,NSAID)などがある。

症状と徴候

消化管出血の症状は出血部位および出血速度によって異なる。

吐血は,赤色の血の嘔吐で,上部消化管出血を示唆し,通常,出血源は動脈または静脈瘤である。コーヒー残渣様吐物は,赤色のヘモグロビンが胃酸によって褐色のヘマチンに変化したもので減速または停止した出血に起因する。

血便は,直腸からの肉眼的に認める血液の排出で,通常,下部消化管出血を示唆するが,血液が腸を急激に通過する激しい上部消化管出血に起因することもある。

下血は,黒色のタール便で,通常,上部消化管出血を示すが,小腸または右側結腸が出血源であることもある。下血には約100〜200mLの上部消化管出血が必要で,下血は出血停止後数日間続くことがある。潜血がない黒色便は,鉄,ビスマス,種々の食物の摂取に起因すると考えられ,下血と間違えてはならない。

慢性的な潜在性出血は,消化管のどこにでも生じ,便検体の化学的検査で検出可能である。

重度の出血患者はショックの徴候(例,頻脈,頻呼吸,蒼白,発汗,乏尿,錯乱)を示すことがある。虚血性心疾患の基礎疾患を有する患者は,低灌流のため,狭心症または心筋梗塞を発症することがある。

出血がそれほど重症でない患者では,軽度の頻脈(心拍数100以上)が起こるだけであろう。2単位以上の急性失血後にしばしば起立時の脈拍変化(10回/分を越える変化)または血圧変化(10mmHg以上の低下)が起こる。しかしながら,起立性変化の測定は,重度の出血患者では賢明ではなく(失神を引き起こす可能性がある),軽度の出血患者,特に高齢患者では循環血液量の尺度として信頼できない。

慢性失血患者は貧血の症状および徴候(例,衰弱,易疲労性,蒼白,胸痛,眩暈)を示すことがある。消化管出血は,肝性脳症(肝疾患がある患者へのアプローチ: 門脈-体循環性脳症を参照 )または肝腎症候群(肝不全に続発する腎不全)を誘発することがある。

評価

診断的評価の前およびその期間中の静脈内輸液,輸血,他の治療による安定化は不可欠である。病歴聴取および身体診察に加えて,通常,検査を行う必要がある。

病歴: 患者の約50%において病歴から診断が示唆されるが,確認のため検査を行う必要がある。食物または制酸薬で軽減する心窩部痛は消化性潰瘍を示唆する。しかしながら,多くの出血性潰瘍患者に疼痛の既往がない。体重減少および食欲不振は消化管の悪性腫瘍を示唆する。肝硬変または慢性肝炎の既往は食道静脈瘤を示唆する。嚥下障害は食道癌または食道狭窄を示唆する。出血発症前の嘔吐および悪心は,食道のマロリーワイス裂傷を示唆するが,マロリーワイス裂傷患者の約50%にこの既往がない。

出血の既往(例,紫斑,斑状出血,血尿) は,出血性素因(例,血友病,肝不全)を示すことがある。血性下痢,発熱,腹痛は,炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎,クローン病)または感染性大腸炎(例,赤痢菌サルモネラ菌カンピロバクター,アメーバ症)を示唆する。 血便は憩室症または血管形成異常を示唆する。トイレットペーパーまたは有形便の表面にのみ付着する鮮血は内痔核を示唆するが,便と混在している血液はさらに近位の出血源を示唆する。

薬歴によって,胃粘膜バリアを破壊し,胃粘膜を損傷する薬物(例,アスピリン,NSAID,アルコール)の使用が判明することがある。

身体診察: 鼻血または咽頭を伝っていく血液は出血源として上咽頭を示唆する。クモ状血管腫,肝脾腫大,腹水は,慢性肝疾患でよくみられ,そのため食道静脈瘤でよくみられる。動静脈奇形,特に粘膜の動静脈奇形は,遺伝性出血性毛細血管拡張症(ランデュ-オスラー-ウェーバー症候群)を示唆する。皮膚の爪床および消化管の毛細血管拡張は,全身性硬化症または混合性結合組織疾患を示すことがある。

便色,腫瘤,裂傷,痔核を調べるために直腸指診を行う必要がある。化学的便潜血検査が終了した時点で診察は全て終了する。便潜血は,特に45歳以上の患者において,結腸癌またはポリープの最初の徴候であることがある。

検査: 潜血陽性患者については,CBCを行うべきである。より著明な出血のある患者については,凝固検査(血小板数,プロトロンビン時間,部分トロンボプラスチン時間)および肝機能検査(ビリルビン,アルカリホスフォターゼ,アルブミン,AST,ALT)も行う必要がある。出血が持続する場合は,血液型検査および交差適合試験を実施する。重度出血患者では,ヘモグロビンおよびヘマトクリットを最大6時間毎に測定するとよい。さらに,通常1つ以上の診断法を行う必要がある。

上部消化管出血が疑われる患者全員(例,吐血,コーヒー残渣様吐物,下血,大量直腸出血)に経鼻胃管吸引および洗浄を行うべきである。血液の混入した経鼻胃管吸引物は活動性の上部消化管出血を示すが,上部消化管出血患者の約10%では経鼻胃管吸引物中に血液の混入が認められない。コーヒー残渣様物質は,出血速度が遅いか,出血が止まっていることを示す。出血の徴候がなく胆汁が戻されれば,経鼻胃管を抜去する;そうでなければ,持続性または再発性出血のモニタリングを行うためにそのまま留置しておく。

上部消化管出血を調べるために,上部消化管内視鏡検査(食道,胃,十二指腸の検査)を行うべきである。内視鏡検査は診断に加えて治療にも使用できるので,多量の出血に対しては迅速に行うべきであるが,出血が止まった場合や極めて少なくなった場合には24時間延長してもよい。上部消化管バリウムX線検査は急性の出血には全く役に立たない。血管造影法は,上部消化管出血(主に肝胆道瘻からの出血)の診断において限られた役割しか果たさないが,特定の治療手技(例,塞栓術,血管収縮薬の注入)を可能にする。

痔出血に特有の症状を有する患者に緊急に必要な検査は,軟性S状結腸鏡検査および硬性肛門鏡検査だけであろう。他の全ての血便患者に大腸内視鏡検査を行うべきであるが,この検査は多量の持続性出血がなければルーチンの前処置後に待機的に実施できる。そのような患者では,迅速な前処置(ポリエチレングリコール溶液5〜10L,経鼻胃管または経口にて3〜4時間)でしばしば十分に観察できる。大腸内視鏡検査で出血源を観察できず,持続性出血の速度が十分に速い場合(0.5〜1mL/分以上),血管造影で出血源が特定されることがある。血管造影を行う人によっては,検査の的を絞るために最初に放射性核スキャンを行う人もいるが,これに関する有益性は証明されていない。

潜血陽性便は消化管のあらゆる部位の出血に起因するため,潜血による診断は困難なことがある。内視鏡検査が望ましい方法であり,上部または下部消化管のいずれを最初に検査するかは症状によって決まる。大腸内視鏡検査を実施できない場合または患者がそれを拒否した場合には,下部消化管に対して二重造影法によるバリウム注腸およびS状結腸鏡検査を実施してもよい。上部消化管内視鏡検査および大腸内視鏡検査の結果が陰性で便潜血が持続している場合は,上部消化管造影と小腸造影,小腸内視鏡検査(小腸鏡検査),テクネチウム標識コロイドまたはRBCスキャン,血管造影を検討すべきである。

治療

(See also the American College of Gastroenterology's practice guidelines on management of the adult patient with acute lower GI bleeding.)吐血,血便,下血は緊急事態とみなすべきである。全ての重度消化管出血患者にICU入室と,消化器専門医および外科医の両者による診察が推奨される。一般に,治療は気道維持および循環血液量の回復を目的として行う。止血および他の治療は出血の原因によって異なる。

気道: 活動性上部消化管出血患者の死亡の主な原因は,血液の誤嚥とそれに続く呼吸障害である。これを予防するために,咽頭反射が不十分な患者,感覚および機能が鈍化した患者,意識不明の患者については,特に上部消化管内視鏡検査またはセングスターケン-ブレークモアチューブ留置を行う場合,気管内挿管を検討すべきである。

輸液蘇生術: 環血液量減少または出血性ショック(ショックおよび輸液蘇生術: 輸液による蘇生を参照 )患者の場合と同様に,静脈内輸液を開始する:循環血液量減少の徴候が緩和するまで,健常成人に対しては生理食塩液を500〜1000mLずつ2Lまで静脈内投与する(小児に対しては20mL/kg,1回繰り返してもよい)。 さらに蘇生術を行う必要がある患者には,濃厚赤血球を輸血すべきである。輸血は,循環血液量が回復するまで継続し,その後,持続的な失血を補うために必要に応じて行う。患者に症状がある場合を除いて,ヘマトクリットが30で安定すれば輸血を中止してもよい。ヘマトクリットが21未満,または呼吸困難もしくは冠虚血などの症状を有する患者でない限り,通常,慢性出血患者に輸血は行わない。

血小板数を注意深くモニタリングすべきである;重度出血がある場合は血小板輸血を要することがある。抗血小板薬(例,クロピドグレル,アスピリン)使用患者では血小板機能異常が認められ,しばしば出血量が増加する。これらの薬物を使用している患者に重度の持続性出血が認められる場合には血小板輸血を検討すべきであるが,循環血中の残留薬物(特にクロピドグレル)によって輸血血小板が不活化される可能性がある。

止血: 消化管出血は,患者の約80%において自然に止まる。残りの患者は何らかの介入を必要とする。特異的療法は出血部位によって異なる。止血のための早期介入は,特に高齢患者において,死亡率を最小限に抑えるために重要である。

消化性潰瘍については,持続性出血または再出血を内視鏡的凝固法(双極電気凝固法,注入硬化療法,ヒータープローブ法,レーザー)で治療する。潰瘍のクレーター内に見える非出血性血管も治療する。内視鏡下に止血できなければ,出血部位の縫合を行うために外科手術を行う必要がある。外科医によっては,同時に酸分泌減少術(胃炎および消化性潰瘍: 手術を参照 )を行うものもある。

活動性の静脈瘤出血は,内視鏡的結紮術,注入硬化療法,経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)で治療できる。

時に,電気メス,ヒータープローブ法,希釈エピネフリン注入による大腸内視鏡的止血術で憩室または血管腫からの重度の持続性下部消化管出血を抑制できる。ポリープは,スネアまたは焼灼器によって切除できる。これらの方法が無効または実行不可能である場合は,血管造影と同時に塞栓術またはバソプレシン注入を行うと成功することがある。しかしながら,腸への側副血行路は限られているため,血管造影は腸虚血または腸梗塞のリスクが極めて高い。バソプレシン注入の止血成功率は約80%であるが,患者の約50%において出血が再発する。また,高血圧および冠虚血のリスクがある。持続性出血(4単位を越える輸血/24時間を必要とする)患者に対して外科手術を施行してもよいが,出血部位の特定が非常に重要である。盲目的半結腸切除術(術前に出血部位を同定しない)は,指定区域切除よりも死亡リスクがはるかに高い。しかしながら,手術が不必要に遅れないように精密検査を迅速に行う必要がある。

内痔核による急性または慢性の出血は,ほとんどの場合,自然に止まる。難治性出血患者は,肛門鏡を用いて,輪ゴム結紮法,注入療法,凝固法,外科手術で治療する。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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