メルクマニュアル18版 日本語版
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胃炎

Sidney Cohen, MD

胃炎は,感染(ヘリコバクター-ピロリ),薬物(NSAID,アルコール),ストレス,自己免疫疾患(萎縮性胃炎)など,複数の病態に起因する胃粘膜の炎症である。多くの症例は無症候性であるが,時に消化不良および消化管出血が起こる。内視鏡検査によって診断する。基礎疾患の治療を行うが,しばしば酸分泌抑制薬およびヘリコバクター-ピロリ感染に対して抗生物質を投与する。

胃炎は粘膜傷害の重症度に基づいて,びらん性または非びらん性に分類される。胃炎はまた病変部位(すなわち,噴門,胃体部,前庭部)に基づいて分類される。胃炎はさらに炎症細胞の種類に基づいて組織学的に急性または慢性に分類できる。病態生理に完全に一致する分類体系はなく,かなりの重複がある。一部の胃炎は,酸消化性疾患およびヘリコバクター-ピロリ感染症を伴う。さらに,用語はしばしば非特異的な(しばしば診断未確定の)腹部不快感および胃腸炎に対してあいまいに用いられる。

急性胃炎は,前庭部および胃体部の粘膜のPMN浸潤を特徴とする。

慢性胃炎は,ある程度の萎縮(粘膜の機能喪失を伴う)または化生を意味する。主に前庭部(それに続くG細胞喪失およびガストリン分泌減少を伴う)または胃体部(胃底腺消失による酸,ペプシン,内因子分泌減少を伴う)が侵される。

びらん性胃炎

びらん性胃炎は粘膜防御の障害に起因する胃粘膜びらんである。通常急性で,出血がみられるが,亜急性または慢性で症状がほとんどないまたは全くないこともある。内視鏡検査によって診断する。治療は支持的に行い,誘因を除去する。特定のICU患者(例,人工呼吸器装着,頭部外傷,熱傷,多発外傷)に対して酸分泌抑制薬による予防が有効である。

びらん性胃炎の原因としては,NSAID,アルコール,ストレスのほか,頻度は低いが,放射線,ウイルス感染(例,サイトメガロウイルス),血管損傷,直接的外傷(例,経鼻胃管)がある。

表在性びらんおよび点状粘膜病変が生じる。これらは最初の傷害後12時間で発生することがある。重症例または未治療例では,深いびらん,潰瘍,時に穿孔が生じることがある。病変は通常,胃体部に生じるが,前庭部も侵されることがある。

びらん性胃炎の一種である急性ストレス胃炎は,危篤状態の患者の約5%に起こる。発生率は,ICU滞在期間および患者が経腸栄養を受けていない期間とともに上昇する。病因として,消化管粘膜の血流低下による粘膜防御機能障害があるようである。頭部外傷または熱傷患者では酸分泌亢進も認められることがある。

症状,徴候,診断

軽度のびらん性胃炎患者はしばしば無症状であるが,一部の患者は消化不良,悪心,嘔吐を訴える。しばしば,最初の徴候は,吐血,下血,または経鼻胃管吸引物中の血液で,通常原因事象から2〜5日以内にみられる。出血は通常,軽度から中等度であるが,深い潰瘍がある場合,特に急性ストレス胃炎では,大量出血が起こることがある。急性および慢性びらん性胃炎の診断は内視鏡検査により行う。

予防

予防によって急性ストレス胃炎の発生率は低下しうる。しかしながら,予防は重度の熱傷,中枢神経系外傷,凝固障害,敗血症,ショック,多発外傷,48時間以上の人工呼吸器の装着,肝または腎不全,多臓器不全,消化性潰瘍または消化管出血の既往患者など,主に高リスクの特定ICU患者に有効である。

予防として,H2ブロッカー静脈内投与,プロトンポンプ阻害薬投与,または制酸薬経口投与を行い,胃内pHを4.0以上に上昇させる。pHの反復測定および用量調節は必要でない。出血の発生率は早期経腸栄養によっても低下しうる。

潰瘍の既往がない限り,単にNSAIDを服用している患者に酸分泌抑制は勧められない。.

治療

重度の胃炎では,必要に応じて静脈内輸液および輸血によって出血を管理する。内視鏡的止血を試み,万一の場合は外科手術(胃全摘術)を行う。多くの側副血管が胃に血液を供給しているため,血管造影によって重度の胃出血が止まる可能性は低い。患者がまだ受けていなければ酸分泌抑制薬投与を開始すべきである。

比較的軽度の胃炎に必要な治療は,原因物質の除去および胃液酸性度を低下させる薬物(胃炎および消化性潰瘍: 胃酸に対する薬物療法を参照 )の使用だけであろう。

非びらん性胃炎

非びらん性胃炎は,主にヘリコバクター-ピロリ感染によってもたらされる様々な組織学的異常を指す。大部分の患者は無症状である。この病態は内視鏡検査で発見される。治療として,ヘリコバクター-ピロリ除菌,時に酸分泌抑制が行われる。

病理

表在性胃炎: 主な浸潤炎症細胞は,リンパ球,形質細胞,好中球である。炎症は表在性で,前庭部と胃体部の両方またはその一方が侵される。通常,萎縮や化生を伴わない。有病率は年齢とともに増加する。

深在性胃炎: 深在性胃炎は症候性である可能性が高い(例,漠然とした消化不良)。単球および好中球は筋層までの粘膜全体に浸潤するが,そのような浸潤で予測されるような滲出液や陰窩膿瘍はめったに認められない。斑状に分布することがある。表在性胃炎が存在することがあり,部分的な腺萎縮および化生が存在することもある。

胃萎縮: 胃炎,ほとんどの場合,長期の前庭部胃炎(時にB型胃炎と呼ばれる)に続いて,胃腺の萎縮が起こることがある。一部の胃萎縮患者では,壁細胞に対する自己抗体が出現するが,通常,胃体部胃炎(A型胃炎)および悪性貧血に関連している。

萎縮は特異的な症状なしに起こることがある。内視鏡検査では,萎縮が進行して粘膜下の血管が透視できるようになるまで,粘膜は正常にみえることがある。萎縮がこれ以上進まない状態に近づくにつれて,酸およびペプシンの分泌が減少し,また,内因子が欠乏することがあり,その結果としてビタミンB12の吸収不良が起こる。

化生: 慢性非びらん性胃炎は次の2種類の化生を伴うことが多い:粘液腺および腸上皮化生。

粘液腺化生(偽幽門腺化生)は高度の胃腺の萎縮に伴って起こり,特に小弯線上の粘液腺(前庭部粘膜)に進行性に取って代わる。胃潰瘍が認められることがあるが(通常,前庭部粘膜と胃体部粘膜の接合部),それがこれらの化生変化の原因であるか結果であるかは不明である。

腸上皮化生は通常,慢性粘膜傷害に反応して前庭部から始まり,胃体部にまで及ぶことがある。胃粘膜細胞は,腸粘膜に類似した外観,つまり,杯細胞,内分泌(腸クロム親和性または腸クロム親和性様)細胞,および痕跡絨毛を有するようになり,場合によっては,類似した機能的特徴(吸収性)を有するようになることがある。組織学的に,完全型(最も一般的)または不完全型に分類される。完全型化生では,胃粘膜は,組織学的および機能的に完全に小腸粘膜に変化し,栄養吸収能力およびペプチド分泌能力を有する。不完全型化生では,上皮は大腸の組織学的所見に近い所見を呈し,高頻度に異形成を示す。腸上皮化生は胃癌の原因となることがある。

症状と診断

多くのヘリコバクター-ピロリ関連胃炎患者は無症状であるが,患者によっては軽度の消化不良または他の漠然とした症状を訴えることがある。しばしばこの病態は他の目的で行われる内視鏡検査時に発見される。無症候性患者は検査の適応とならない。胃炎が同定された時点で,ヘリコバクター-ピロリの検査の適応となる。

治療

慢性非びらん性胃炎の治療として,ヘリコバクター-ピロリ除菌を行う(胃炎および消化性潰瘍: 治療を参照 )。ヘリコバクター-ピロリ関連表在性胃炎の高い有病率および比較的低い臨床的続発症(すなわち,消化性潰瘍)の発生率を考慮すると,無症候性患者の治療については多少議論の余地がある。しかしながら,ヘリコバクター-ピロリはクラスJの発癌物質であり,除菌によって癌のリスクが除去される。ヘリコバクター-ピロリ陰性患者に対しては,酸分泌抑制薬(例,H2ブロッカー,プロトンポンプ阻害薬)または制酸薬を使用して症状の治療を行う。

胃切除後胃炎

胃切除後胃炎は,胃部分切除術または胃亜全摘術後に起こる胃の萎縮である(ガストリン産生腫瘍の場合を除く)。

残存する胃体部粘膜の化生がよくみられる。胃炎の程度は通常吻合部で最も高度である。

複数の機序が原因となっている:胆汁逆流は,そうした外科手術後によくみられ,胃粘膜を損傷する;前庭部のガストリン消失によって壁細胞およびペプシン分泌細胞の刺激が低下し,萎縮が生じる;迷走神経切断により迷走神経の栄養作用が消失しうる。

胃炎の特異的症状はない。胃切除後胃炎はしばしば重度の萎縮に進行し,無酸症となる。内因子の分泌が止まることがあり,結果としてビタミンB12 欠乏が生じる(輸入脚における細菌異常増殖により悪化することがある)。胃腺癌の相対リスクは,胃部分切除術から15〜20年後に増加するようである;しかしながら,胃切除後癌の絶対発生率は低いので,おそらくルーチンの内視鏡サーベイランスは費用対効果が高いとは言えない。だが,そのような患者に上部消化管症状または貧血が発現した場合には内視鏡検査を行うべきである。

まれな胃炎症候群

メネトリエ病: このまれな特発性疾患は30〜60歳の成人にみられ,男性に好発する。前庭部ではなく胃体部の胃粘膜ヒダの著明な肥厚として発現する。腺萎縮および著明な腺窩上皮過形成が起こり,しばしば粘液腺化生および粘膜肥厚を伴い,炎症はほとんどない。消化管蛋白質の損失に起因する低アルブミン血症(最も一貫性のある異常検査所見)を認めることがある(蛋白漏出性胃腸症)。疾患が進行するにつれて,胃酸およびペプシンの分泌が減少し,低酸症が起こる。

症状は非特異的で,一般に心窩部痛,悪心,体重減少,浮腫,下痢が認められる。鑑別診断として,(1)多発性胃潰瘍が起こることがあるリンパ腫,(2)モノクローナルBリンパ球の広範な浸潤を伴う粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫,(3)胃粘膜皺襞肥厚を伴うゾリンジャー-エリソン症候群,(4)下痢を伴う粘膜ポリープと蛋白漏出性胃腸症であるクロンカイト-カナダ症候群がある。深部粘膜生検を伴う内視鏡検査または腹腔鏡下胃全層生検にて診断を下す。

抗コリン薬,酸分泌抑制薬,コルチコステロイドなど,様々な治療薬が使用されているが,十分な有効性が証明されているものはない。重度の低アルブミン血症の場合には,胃部分切除術または胃全摘術を要することがある。

好酸球性胃炎: 前庭部では粘膜,粘膜下層,筋層への広範な好酸球浸潤がしばしば認められる。通常は特発性であるが,線虫の寄生によって起こることもある。症状には,悪心,嘔吐,早期満腹感がある。病変部の内視鏡生検によって診断する。特発性の症例では,コルチコステロイドによる治療が成功することもあるが,幽門閉塞が起こった場合には,外科手術が必要であろう。

粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫(偽リンパ腫): このまれな病態は,胃粘膜への大量のリンパ球浸潤を特徴とし,この特徴はメネトリエ病に似ていることがある。

全身性疾患による胃炎: サルコイドーシス,結核,アミロイドーシス,他の肉芽腫性疾患は胃炎を引き起こしうるが,胃炎が最も重要であることはめったにない。

物理的要因による胃炎: 放射線および腐食剤(特に酸性化合物)の摂取は胃炎の原因となりうる。16Gy以上の放射線への暴露は,著明な深在性胃炎を引き起こし,通常胃体部よりも前庭部が侵される。幽門狭窄および穿孔は放射線誘発胃炎の合併症である可能性がある。

感染性(敗血症)胃炎: ヘリコバクター-ピロリ感染を除いて,細菌の胃侵入はまれで,主に虚血,腐食剤摂取,放射線暴露後に起こる。X線検査では,粘膜の外側にガスが描出される。病態は外科的急性腹症として現れることがあり,死亡率は非常に高い。しばしば外科手術を要する。

衰弱した患者または免疫不全患者は,サイトメガロウイルス,カンジダ,ヒストプラスマ,ムコールによるウイルス性または真菌性胃炎を起こすことがある;滲出性胃炎,食道炎,十二指腸炎患者については,これらの診断を検討すべきである。.

最終改訂月 2007年1月

最終更新月 2005年11月

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