胃酸過多に対する薬物治療

執筆者:Nimish Vakil, MD, University of Wisconsin School of Medicine and Public Health
レビュー/改訂 2020年 1月
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    酸度を低下させるための薬剤が,消化性潰瘍胃食道逆流症(GERD),および様々な形態の胃炎に使用される。一部の薬剤は,Helicobacter pylori感染症の治療レジメンで使用される。薬剤としては以下のものがある:

    胃酸分泌の概要も参照のこと。)

    プロトンポンプ阻害薬

    この種の薬剤はH+,K+-ATPaseの強力な阻害薬である。この酵素は壁細胞の頂端側の分泌膜中に存在し,H+(プロトン)分泌において重要な役割を果たしている。これらの薬剤は,胃酸分泌を完全に阻害することができ,作用持続時間も長い。潰瘍治癒を促進するほか,H. pylori除菌レジメンの重要な構成要素でもある。プロトンポンプ阻害薬は効力が高いため,ほとんどの臨床状況でH2受容体拮抗薬に取って代わっている。

    現在米国で使用できるプロトンポンプ阻害薬は,エソメプラゾール,ランソプラゾール,パントプラゾール(これらは経口剤と静注剤がある),ならびにオメプラゾールおよびラベプラゾール(これらは経口剤のみ)である( see table プロトンポンプ阻害薬)。経口投与と静脈内投与で用量は同じである。米国では,オメプラゾール,エソメプラゾール,およびランソプラゾールは処方箋なしで入手できる。合併症のない十二指腸潰瘍に対しては,オメプラゾール20mg,1日1回またはランソプラゾール30mg,1日1回を4週間継続する。合併症のある十二指腸潰瘍(すなわち,多発性潰瘍,出血性潰瘍,1.5cmを超える潰瘍,重篤な基礎疾患を有する患者に発生した潰瘍)では,より高用量(オメプラゾール40mg,1日1回,ランソプラゾール60mg,1日1回または30mg,1日2回)で良好な反応が得られる。胃潰瘍は6~8週間の治療を要する。胃炎およびGERDは8~12週間の治療を要し,GERDはさらに長期維持療法を行う必要がある。

    表&コラム

    プロトンポンプ阻害薬による長期治療でガストリン濃度が上昇し,これにより腸クロム親和性細胞様細胞の過形成が生じる。しかしながら,本剤による治療を受けている患者に異形成や悪性化を示す所見は認められない。微量栄養素欠乏症(例,ビタミンB12およびマグネシウム)が少数の患者で報告されている。その絶対過剰リスクは患者1人当たり年間0.3~0.4%である。長期治療を受けている患者でClostridium difficileなどの腸管感染症のリスクが高くなる可能性を示唆した研究もあるが,この観察結果を裏付けていない研究もある。その絶対過剰リスクには,患者1人当たり0~0.09%の幅がみられる。慎重に実施された諸研究では,骨の健康への影響や,認知症,パーキンソン病,心疾患,および肺炎のリスクへの影響は示されていない。

    H2受容体拮抗薬

    これらの薬剤(シメチジン,ファモチジンの静注剤および経口剤ならびにニザチジンの経口剤)は,H2受容体へのヒスタミンの結合を競合的に阻害するため,ガストリン刺激による胃酸分泌が抑制され,これに比例して胃液量が減少する。ヒスタミンを介するペプシン分泌も減少する。ニザチジン,ファモチジン,およびシメチジンは米国では処方箋なしで入手できる。

    H2受容体拮抗薬は,消化管からの吸収が良好で,摂取後30~60分で作用が現れ,1~2時間後に最大の効果が得られる。静脈内投与した場合,作用はさらに速やかに発現する。作用持続時間は用量に比例し,6~20時間である。高齢患者ではしばしば用量を減量すべきである。

    十二指腸潰瘍には,シメチジン800mg,ファモチジン40mg,またはニザチジン300mg,1日1回就寝時または夕食後の6~8週間経口投与が効果的である。胃潰瘍では上記と同じレジメンによる8~12週間の治療で反応が得られることがあるが,夜間の胃酸分泌はそれほど重要ではないため,朝の投与が同等以上に効果的となる可能性がある。体重40kg以上の小児には成人用量を投与してもよい。これより体重が低い場合の経口投与量はシメチジン10mg/kg,12時間毎である。GERDには,現在も疼痛管理のために主にH2受容体拮抗薬が使用されている。この種の薬剤は,潰瘍性疾患では大半の患者でプロトンポンプ阻害薬に取って代わられている。胃炎は,ファモチジンを1日2回,8~12週間投与することで治癒する。

    ラニチジン(経口剤,静注剤,およびOTC医薬品)は,ヒトに対する発がん物質である可能性が高いN-ニトロソジメチルアミン(NDMA)の濃度が許容範囲を超えているため,米国を始めとする多くの国々で市場から排除されている。シメチジンとファモチジンが代替薬であり,NDMAを含有せず,プロトンポンプ阻害薬もNDMAを含有しない。

    シメチジンは弱い抗アンドロゲン作用を有し,長期使用によって可逆性の女性化乳房のほか,頻度は低いが,勃起障害が起こる。急速静注後の精神状態の変化,下痢,発疹,薬剤熱,筋肉痛,血小板減少,洞徐脈および低血圧が,全てのH2受容体拮抗薬で報告されており,発生率は一般に治療患者の1%未満であるが,高齢患者ではより頻度が高い。

    シメチジン,およびより程度は低いが,他のH2受容体拮抗薬は,ミクロソームCYP系と相互作用を起こすため,この酵素系を介して排出される他の薬剤(例,フェニトイン,ワルファリン,テオフィリン,ジアゼパム,リドカイン)の代謝を遅延させることがある。

    制酸薬

    これらの薬剤は胃酸を中和し,ペプシンの活性(胃液pHが4.0を超えて上昇すると減弱する)を低下させる。さらに,一部の制酸薬はペプシンを吸着する。制酸薬は,他の薬剤(例,テトラサイクリン,ジゴキシン,鉄)の吸収に干渉する可能性がある。

    制酸薬は,症状を軽減し,潰瘍治癒を促進し,再発を減少させる。比較的安価であるが,5~7回/日服用する必要がある。潰瘍治癒のための制酸薬の至適な用法・用量は,液剤15~30mLまたは錠剤2~4錠を毎食1および3時間後と就寝時に服用するものと考えられる。制酸薬の1日総投与量は200~400mEqの中和能を有するはずである。しかしながら,消化性潰瘍の治療では,制酸薬は胃酸分泌抑制療法に取って代わられており,短期的な症状緩和のためだけに使用されている。

    一般に,制酸薬は以下の2種類に分類される:

    • 吸収性

    • 非吸収性

    吸収性制酸薬(例,炭酸水素ナトリウム,炭酸カルシウム)は,迅速かつ完全な中和作用を有するが,アルカローシスを引き起こす可能性があるため,短期間(1日または2日間)の使用に限定すべきである。

    非吸収性制酸薬(例,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウム)は全身性の有害作用が少ないことから,本剤の方が望ましい。

    水酸化アルミニウムは比較的安全で,よく使用される制酸薬である。長期使用では,アルミニウムが消化管内でリン酸と結合するため,リン酸欠乏がときに生じる。リン酸欠乏のリスクは,アルコール依存症患者,低栄養患者,および腎疾患患者(血液透析患者を含む)で上昇する。水酸化アルミニウムは便秘をもたらす。

    水酸化マグネシウムはアルミニウムと比較してより効果的な制酸薬であるが,下痢を惹起することがある。下痢を抑制するため,多くの市販の制酸薬はマグネシウム制酸薬とアルミニウム制酸薬を配合している。少量のマグネシウムが吸収されるため,腎疾患患者に対してはマグネシウム製剤は慎重に使用すべきである。

    プロスタグランジン類

    特定のプロスタグランジン類(特にミソプロストール)は,壁細胞のヒスタミン刺激が惹起するサイクリックAMPの生成を低下させることで胃酸分泌を阻害し,粘膜防御を増強する。合成プロスタグランジン誘導体は,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)がもたらす粘膜損傷のリスクを軽減する目的で主に用いられる。NSAIDによる潰瘍のリスクが高い患者(すなわち,高齢患者,潰瘍または潰瘍合併症の既往を有する患者,およびコルチコステロイドを併用している患者)には,NSAIDに加えてミソプロストールの経口剤を200μg,1日4回で食事とともに服用させてもよい。ミソプロストールの頻度の高い有害作用は腹部痙攣および下痢であり,30%の患者で発生する。ミソプロストールは強力な堕胎薬であるため,避妊法を用いていない妊娠可能年齢の女性では絶対的禁忌である。

    スクラルファート

    この薬剤はショ糖-アルミニウム複合体であり,胃酸中で解離し,炎症部位に物理的なバリアを形成して酸,ペプシン,および胆汁酸塩から保護する作用がある。また,ペプシンと基質の相互作用を阻害し,粘膜プロスタグランジン産生を促進し,胆汁酸塩と結合する。胃酸分泌やガストリン分泌には影響を及ぼさない。スクラルファートは,潰瘍粘膜に栄養効果をもたらすと考えられ,これは成長因子と結合して潰瘍部位で濃縮させることに起因している可能性がある。スクラルファートの全身吸収はごくわずかである。3~5%の患者で便秘が発生する。スクラルファートは他の薬剤に結合し,その吸収に干渉する可能性がある。

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