メルクマニュアル18版 日本語版
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膵内分泌腫瘍

膵内分泌腫瘍は膵島細胞およびガストリン産生細胞から発生し,しばしば多くのホルモンを生成する。膵内分泌腫瘍は2つに大別できる。非機能性腫瘍は,胆道もしくは十二指腸の閉塞症状,消化管出血,または腹部腫瘤の原因となることがある。機能性腫瘍は特定のホルモンを過剰に分泌し,様々な症候群を引き起こす(尿細管間質性疾患: 急性尿細管壊死と腎前性高窒素血症の鑑別表 1: 表を参照)。これらの臨床的症候群は,多発性内分泌腫瘍(2つ以上の内分泌腺,通常,副甲状腺,下垂体,甲状腺,または副腎に腫瘍や過形成が発生する疾患群)においても起こることがある(多発内分泌腫瘍症候群を参照 )。

表 3

膵内分泌腫瘍

腫瘍

ホルモン

腫瘍部位

症状と徴候

ACTH産生腫瘍

ACTH

膵臓

クッシング症候群

ガストリノーマ

ガストリン

膵臓(60%)

十二指腸(30%)

その他(10%)

腹痛,消化性潰瘍,下痢

グルカゴノーマ

グルカゴン

膵臓

グルコース不耐性,発疹,体重減少,貧血

GRF産生腫瘍

成長ホルモン放出因子

肺(54%)

膵臓(30%)

空腸(7%)

その他(13%)

先端巨大症

インスリノーマ

インスリン

膵臓

空腹時低血糖

ソマトスタチノーマ

ソマトスタチン

膵臓(56%)

十二指腸/空腸(44%)

グルコース不耐性,下痢,胆石

VIP産生腫瘍

血管作動性小腸ペプチド

膵臓(90%)

その他(10%)

重度の水様性下痢,低カリウム血症,紅潮

機能性および非機能性腫瘍に対する治療は外科的切除である。転移のため根治手術が不可能な場合には,様々な抗ホルモン療法を機能性腫瘍に試してもよい。腫瘍がまれであることから,化学療法試験により確実な治療法が同定されていない。しかしながら,ストレプトゾトシンは膵島細胞に対して選択的活性をもち,単独または5-フルオロウラシルもしくはドキソルビシンとの併用で一般的に使用される。クロロゾトシンおよびインターフェロンを使用する施設もある。

インスリノーマ

インスリノーマは,インスリンを過剰分泌するまれな,膵β細胞由来の腫瘍である。主な症状は空腹時低血糖である。診断には,血糖値およびインスリン濃度の測定を伴う48または72時間絶食試験,続いて超音波内視鏡検査を行う。治療はできれば手術を行う。手術が奏効しない患者には,インスリン分泌を抑制する薬物(例,ジアゾキシド,オクトレオチド,カルシウムチャネル遮断薬β遮断薬,フェニトイン)を用いる。

全てのインスリノーマのうち,80%は単発性で,発見されれば根治切除可能である。インスリノーマの10%のみが悪性である。インスリノーマは1/250,000の頻度で起こり,年齢の中央値は50歳で,例外として多発性内分泌腫瘍(MEN)のⅠ型(インスリノーマの約10%)は20歳代で起こる。MENのⅠ型に関連するインスリノーマは多発性である可能性が高い。

外因性インスリンの不正な投与は,インスリノーマに似た低血糖発作を引き起こしうる。

症状と徴候

インスリノーマに続発する低血糖は絶食時に現れる。症状は潜行性であり,様々な精神および神経疾患に類似している場合がある。中枢神経系障害には,頭痛,錯乱,視覚障害,筋力低下,運動麻痺,運動失調,著しい人格変化などがあり,意識消失,発作,および昏睡に進行することもある。交感神経刺激症状(失神,脱力,振戦,動悸,発汗,飢餓感,神経過敏)は,しばしば欠如している。

診断

症状発現時に血糖値を測定すべきである。低血糖を認める場合は(血糖値40mg/dL[2.78mmol/L]未満),同時に採取した試料でインスリン濃度を測定すべきである。6μU/mL(42pmol/L)を越える高インスリン血症はインスリンの作用が原因であることを示唆し,血清インスリン値と血糖値の比が0.3(μU/mL)/(mg/dL)を越える場合も同様である。

インスリンは,Cペプチドによって結合されたα鎖およびβ鎖からなるプロインスリンとして分泌される。インスリン製剤はβ鎖のみからなるので,インスリンの不正な投与はCペプチドおよびプロインスリン濃度の測定により検出できる。インスリノーマ患者において,Cペプチドは0.2nmol/L以上で,プロインスリンは5pmol/L以上である。これらの濃度は,不正なインスリンの投与を行った患者では正常または低値である。

多くの患者は,評価時に症状がないので(したがって低血糖もない),診断には48または72時間絶食試験のための入院を必要とする。ほぼ全てのインスリノーマ患者(98%)が,絶食開始から48時間以内に症状を発現する;70〜80%は24時間以内に発現する。症状の原因としての低血糖は次のホウィップル三徴によって確定する:(1)症状は絶食時に起こる;(2)症状は低血糖時に起こる;(3)症状は炭水化物の摂取によって軽減する。症状発現時に,上記のようにホルモン濃度を測定する。

長時間絶食後にホウィップル三徴が認められず,1晩絶食後の血糖値が50mg/dL(2.78mmol/L)を越えている場合は,Cペプチド抑制検査を行ってもよい。インスリン注入(0.1U/kg/時)時に,インスリノーマ患者は,Cペプチド濃度を正常値(1.2ng/mL以下[0.40nmol/L以下])に抑制できない。

超音波内視鏡検査は90%を越える感度をもち,腫瘍の局在診断に役立つ。CTの有用性は確認されておらず,また動脈造影または選択的門脈および脾静脈カテーテル法は一般に不要である。

治療

手術による全治癒率はほぼ90%である。膵臓の表面,あるいは表面近くにある,小型で単発性のインスリノーマは通常,外科的に核出できる。単発性の大きなまたは深在性の腺腫が膵体部あるいは尾部にある場合,体部もしくは尾部(もしくは両方)に多発性病変がある場合,またはインスリノーマが見つからない場合(異常な状況),膵亜全摘術を施行する。1%未満の症例において,インスリノーマは十二指腸壁や十二指腸周囲の組織に異所性に存在し,手術中に熱心に探索しなければ発見されない。膵頭十二指腸切除術(ホウィップル式手術)は切除可能な膵頭部の悪性インスリノーマに行う。以前の膵亜全摘術の効果が不十分である場合は,膵全摘術を行う。

低血糖が続く場合は,ナトリウム利尿薬との併用でジアゾキシド1.5mg/kg,経口にて1日2回を開始できる。用量は4mg/kgまで増量できる。ソマトスタチン類似体であるオクトレオチド(100〜500μg,皮下注にて1日2回〜3回)は効果が一定ではないが,ジアゾキシド抵抗性の持続性低血糖患者に対し投与を検討すべきである。奏効患者では,持続性オクトレオチド製剤20〜30mg,筋注にて月1回に切り替えることがある。オクトレオチドは膵酵素分泌を抑制するので,オクトレオチド使用患者はまた,膵酵素剤を服用する必要があるかもしれない。インスリン分泌に対する効果がわずかで一定しない他の薬物にはベラパミル,ジルチアゼム,およびフェニトインなどがある。

症状を抑えることができなければ,化学療法が試されることがあるが,効果は限られている。ストレプトゾトシンの奏効率は30〜40%で,5-フルオロウラシルと併用した場合,60%の奏効率が得られ,最大2年間持続する。他の薬物にはドキソルビシン,クロロゾトシン,およびインターフェロンなどがある。

ゾリンジャー-エリソン症候群

(Z-E症候群;ガストリノーマ)

ゾリンジャー-エリソン症候群は,膵臓または十二指腸壁に通常発生するガストリン産生腫瘍によって引き起こされる。胃酸の過剰分泌および消化性潰瘍が結果として生じる。診断は血清ガストリン濃度の測定による。治療はプロトンポンプ阻害薬および外科的切除である。

ガストリノーマの80〜90%は膵臓または十二指腸壁に発生する。残りは脾門部,腸間膜,胃,リンパ節,または卵巣に発生する。患者の約50%が多発性腫瘍を有する。ガストリノーマは通常,小さく(直径1cm未満),増殖は緩徐である。約50%は悪性である。ガストリノーマ患者の約40〜60%に多発性内分泌腫瘍が認められる(多発内分泌腫瘍症候群を参照 )。

症状と徴候

ゾリンジャー-エリソン症候群は典型的に,活動性の消化性潰瘍として現れ,潰瘍は通常と異なった位置に起こる(最大25%が十二指腸球部より遠位に発生する)。しかしながら,25%もの患者に診断時に潰瘍が認められない。典型的な潰瘍症状および合併症(例,穿孔,出血,閉塞)が起こりうる。下痢は25〜40%の患者における初発症状である。

診断

この症候群は病歴によって疑われ,特に症状が標準的な酸分泌抑制療法に抵抗性を示す場合に疑われる。

最も信頼できる検査は血清ガストリンである。全ての患者が150pg/mL以上を示す;一致する臨床像と胃酸の過剰分泌(15mEq/時以上)を示す患者において著しい高値(1000pg/mL以上)がみられた場合に診断が確定する。しかしながら,中等度の高ガストリン血症は,低酸状態(例,悪性貧血,慢性胃炎,プロトンポンプ阻害薬の使用),ガストリンクリアランスの低下を伴う腎不全,広範囲の腸切除,クロム親和性細胞腫において起こりうる。

セクレチン誘発検査は,ガストリン濃度が1000pg/mL未満の患者において有用な場合がある。セクレチン2μg/kgを静脈内にボーラス投与し,血清ガストリン濃度を連続的に測定する(投与の10および1分前,ならびに投与の2,5,10,15,20および30分後)。ガストリノーマに特徴的な反応は,ガストリン濃度の上昇で,胃前庭部のG細胞過形成または典型的な消化性潰瘍で起こる反応とは逆の反応である。また,ヘリコバクター-ピロリ感染(一般に,消化性潰瘍および中等度のガストリン分泌過剰をもたらす)について患者を評価すべきである。

診断が確定した時点で,腫瘍の局在診断を行う必要がある。最初の検査は腹部CTまたはソマトスタチン受容体シンチグラフィであるが,これにより原発腫瘍および転移性疾患が同定されることがある。拡大およびサブトラクションを伴う選択的動脈造影法も有用である。転移の徴候が認められず,原発巣が不明である場合は,超音波内視鏡検査を行うべきである。選択的動脈内セクレチン注入法を代わりに使用してもよい。

予後と治療

5年および10年生存率は,孤立性腫瘍を外科的に切除した場合,90%を越えるが,不完全切除の場合には,それぞれ43%および25%である。

酸分泌抑制: プロトンポンプ阻害薬が第1選択薬である:オメプラゾールまたはエソメプラゾール40mg,経口にて1日2回。症状が消失し,酸分泌が低下した時点で,用量を漸減してもよい。維持量を投与する必要がある;患者は手術を受けなければ,これらの薬物を無期限に服用する必要がある。

オクトレオチド注射剤,100〜500μg,1日2回〜3回皮下注射によっても,胃酸分泌が低下することがあり,プロトンポンプ阻害薬があまり奏効しない患者において症状が緩和することがある。長期間作用型のオクトレオチド20〜30mg,筋注にて月1回を使用してもよい。

手術: 外科的切除は,明白な転移のない患者に試みるべきである。手術では,十二指腸切開術や術中内視鏡透視または超音波検査が腫瘍の局在診断に役立つ。ガストリノーマが多発性内分泌腫瘍症候群の一部でなければ,外科的切除により患者の20%が治癒する可能性がある。

化学療法: 転移性疾患のある患者においては,ストレプトゾシン+5-フルオロウラシルまたはドキソルビシンの併用療法が,膵島細胞腫瘍に対する望ましい化学療法である。この化学療法は腫瘍を縮小し(患者の50〜60%),血清ガストリン濃度を低下させる可能性があり,またオメプラゾールの補助療法として有用である。転移性病変のある患者は化学療法によって治癒しない。

VIP産生腫瘍

VIP産生腫瘍は,血管作動性小腸ペプチド(VIP)を分泌する非β膵島細胞腫瘍で,水様性下痢,低カリウム血症,および無酸症を呈する症候群(WDHA症候群)を来す。診断は血清VIP濃度に基づき,腫瘍の局在診断はCTおよび超音波内視鏡検査による。治療は外科的切除である。

これらの腫瘍のうち,50〜75%が悪性で,診断時に極めて大きい(7cm)ものもある。約6%において,VIP産生腫瘍は多発性内分泌腫瘍の一部として発生する(多発内分泌腫瘍症候群を参照 )。

症状と徴候

主な症状は長引く大量の水様性下痢(空腹時便量750〜1000mL/日以上,非空腹時便量3000mL/日以上)と,低カリウム血症,アシドーシス,および脱水の症状である。半数において,下痢が持続する;残りの半分では,下痢の重症度は経時的に変化する。診断前の下痢期間は,33%では1年未満であるが,25%では5年以上である。嗜眠,筋力低下,悪心,嘔吐,および,痙攣性の腹痛がしばしば起こる。下痢発作時には,患者の20%においてカルチノイド症候群に似た潮紅が生じる。

診断

診断には分泌性下痢(便の浸透圧が血漿浸透圧とほぼ同じで,便中のNaおよびK濃度の合計の2倍が,測定された便の浸透圧に当たる)の証明が必要である。分泌性下痢の他の原因,特に,下剤の乱用を除外する必要がある(下部消化管症状を訴える患者へのアプローチ: 下痢を参照 )。そのような患者において,血清VIP濃度を測定すべきである(理想的には下痢発作時)。顕著な高値を示す場合に診断が確定するが,短腸症候群および炎症疾患の場合に軽度の上昇が起こることがある。転移部位を特定するために,VIP高値の患者に対して,超音波内視鏡検査およびオクトレオチドシンチグラフィまたは動脈造影などの腫瘍の局在診断を行うべきである。

電解質およびCBCを測定すべきである。高血糖と耐糖能異常は50%以下の患者において起こる。高カルシウム血症が半数の患者において起こる。

治療

まず,水分および電解質を補給する必要がある。便中喪失を補い,アシドーシスを避けるために重炭酸塩を投与する必要がある。水分補給とともに水分および電解質の便中喪失が増加するため,持続的経静脈補給が困難になることがある。

オクトレオチドは通常,下痢を抑制するが,大量に必要なことがある。奏効者に持続性オクトレオチド製剤20〜30mg,月1回筋肉内投与が有効なことがある。オクトレオチドは膵酵素分泌を抑制するので,オクトレオチド使用患者はまた,膵酵素剤を受ける必要があるかもしれない。

腫瘍摘出術で,限局性腫瘍患者の50%が治癒する。転移性腫瘍のある患者では,肉眼で見える全ての腫瘍を摘出すると,一時的に症状が緩和することがある。ストレプトゾシンとドキソルビシンの併用療法は,奏効すれば(患者の50〜60%),下痢を軽減し,腫瘍を縮小させる。化学療法では治癒しない。

グルカゴノーマ

グルカゴノーマは,グルカゴンを分泌する膵α細胞の腫瘍で,高血糖および特徴的な皮疹を引き起こす。診断はグルカゴン高値および画像検査による。CTおよび超音波内視鏡検査により腫瘍の局在診断を行う。治療は外科的切除である。

グルカゴノーマは非常にまれであるが,原発および転移病変が緩徐に増殖するという点で他の膵島細胞腫瘍と似ている:15年生存も一般的である。グルカゴノーマの80%は悪性である。症状発現の平均年齢は50歳である;患者の80%が女性である。少数の患者に多発性内分泌腫瘍Ⅰ型が認められる。

症状と徴候

グルカゴノーマはグルカゴンを産生するので,症状は糖尿病の症状と同じである。しばしば体重減少,正色素性貧血,低アミノ酸血症,および低脂血症が認められるが,最も顕著な臨床像は,滑らかで光沢のある朱色の舌と口唇炎をしばしば伴う四肢の慢性皮疹である。表皮壊死を伴う,茶褐色の剥脱性紅斑性病変は壊死性遊走性紅斑と呼ばれる。

診断

グルカゴノーマ患者のほとんどでグルカゴン値は1000pg/mLを越える(正常値200未満)。しかしながら,中等度の上昇が腎不全,急性膵炎,重度のストレス,および空腹時において起こる。診断には症状との相関関係が必要である。腹部CTに続いて超音波内視鏡検査を行うべきである;CTで判明しない場合は,MRIを行ってもよい。

治療

腫瘍摘出により全ての症状が軽減する。切除不能,転移性,または再発性腫瘍については,ストレプトゾシンとドキソルビシンの併用療法で治療し,これによって血中免疫活性グルカゴン濃度が低下し,症状が軽減し,奏効率(50%)が改善することがあるが,生存率が改善する可能性は低い。オクトレオチド注射によってグルカゴン産生が部分的に抑制され,紅斑が軽減するが,オクトレオチドはインスリン分泌を低下させるので,耐糖能も低下することがある。オクトレオチドは,グルカゴン過剰による異化作用に起因する食欲不振および体重減少を素早く回復させることがある。奏効患者では,持続性オクトレオチド製剤20〜30mg,筋注にて月1回に切り替えることがある。オクトレオチドは膵酵素分泌を抑制するので,オクトレオチド使用患者はまた,膵酵素剤を服用する必要があるかもしれない。

亜鉛の局所塗布,経口投与,または非経口投与によって紅斑が消失することがあるが,消失は単なる水分補給やアミノ酸,脂肪酸の静脈内投与後に起こることがあり,このことは亜鉛欠乏だけが紅斑の原因ではないということを示唆している。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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