メルクマニュアル18版 日本語版
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アルコール性肝疾患

(See also the American College of Gastroenterology's practice guideline Alcoholic Liver Disease: Proposed Recommendations for the American College of Gastroenterology.)

アルコールは一連の肝損傷を生じ,これは脂肪肝からアルコール性肝炎(しばしば中間段階とみなされる)そして肝硬変へ進行する。

アルコール摂取量は,ほとんどの西洋諸国で高い。米国では,純エタノール当量に換算した1人当たりの年間飲酒量は約10Lと推定されており;1500万人の人々がアルコールを乱用または依存している。男女比は11:4である。

危険因子

アルコール性肝疾患の主な原因としては,アルコール摂取量,アルコール乱用期間(通常8年以上),栄養状態,遺伝および代謝特性がある。感受性のある人では,アルコール摂取量と摂取期間,および肝疾患の発現との間に線形相関が通常みられる。女性では20g程度,男性では60gというわずかな量のアルコールを数年間毎日摂取すると重篤な肝障害が生じうる。1日60g以上を2〜4週間摂取すると,たとえ健康な男性でさえも脂肪肝を引き起こす;1日80gではアルコール性肝炎;および1日160gを10年以上摂取すると肝硬変に至ることがある。アルコール成分は,飲料容量(mL)とアルコール度数の積から推定できる。例えば,アルコール強度80(40%アルコール)の飲料約40mLには,16mLのアルコールが含まれる。アルコール1mLは約0.79gである。値は様々であるが,アルコール度数はほとんどのビールで約2〜7%,ほとんどのワインで10〜15%である。

アルコール依存症のうち,10〜20%のみが肝硬変を生じる。女性は男性よりも(体の大きさを考慮した場合でも)感受性があり,これはおそらく女性の胃粘膜にアルコール脱水素酵素が少なく,これがアルコールの酸化の第一段階を抑えるためと考えられる。アルコール性肝疾患はしばしば家族性にみられることから,遺伝因子(例,アルコールを除去する細胞質酵素欠乏)が示唆される。栄養障害,特に蛋白-エネルギー栄養障害は感受性を高める。その他の危険因子には,不飽和脂肪が多い食事,肝への鉄沈着,C型肝炎ウイルス感染の併発が含まれる。

病態生理

アルコールは,胃および小腸から容易に吸収される。アルコールは貯蔵されることはなく,90%超は酸化により代謝される。最初の分解産物はアセトアルデヒドで,3つの酵素経路によって生成される:アルコール脱水素酵素(代謝の約80%を占める),チトクロムP-4502E1(CYP2E1),およびカタラーゼである。

アセトアルデヒドは,ミトコンドリアのアルデヒド脱水素酵素により酢酸塩へ変換される。慢性アルコール摂取は酢酸塩の生成を促進する。この過程で水素を生じ,これがニコチン酸アデニンヌクレオチド(NAD)を還元型(NADH)に変換し,肝における酸化還元電位を上昇させる。これは脂肪酸を燃料として置換し,脂肪酸の酸化を低下させ,トリグリセリドの蓄積を促し,脂肪肝や高脂血症を引き起こす。さらに,過剰な水素はピルビン酸を乳酸へ変換し,これが糖産生を低下させ(その結果低血糖が生じることがある),腎性アシドーシス,尿酸塩排泄の抑制,高尿酸血症,ひいては痛風を引き起こす。

アルコール代謝はさらに肝の代謝亢進を生じ,これが低酸素症およびフリーラジカル誘導性の脂質過酸化障害を引き起こす。アルコールおよび栄養不足は,グルタチオンおよびビタミンAやEなどといった抗酸化物質を欠乏させるため,上記のような障害の素因となる。

アセトアルデヒドは,アルコール性肝炎における炎症や線維症の多くを引き起こす。これは肝の血行路(類洞)を裏打ちする星(伊東)細胞を,筋収縮成分を産生し活発にコラーゲンを生成する線維芽細胞に形質転換する。狭く充満した類洞は,輸送と血流を制限する。障害された肝がもはや解毒できなくなった消化管内毒素は,炎症性サイトカインの生成を促す。アセトアルデヒドおよび脂質過酸化産物は白血球を動員し,さらなる炎症性サイトカインの生成を引き起こす。これは炎症の悪循環を誘発し,結果的に線維症や肝細胞の喪失に至る。

脂肪は肝細胞全体に沈着し,これは周囲脂肪組織からの流入増加,トリグリセリド合成の増加,脂質酸化の減少,および肝からの脂肪輸送を障害するリポ蛋白生成低下の結果である。

病理

脂肪肝,アルコール性肝炎,および肝硬変は,しばしばアルコール性肝疾患の別々の進行性症状として考えられる。しかしながらこれらの特徴はしばしば重複する。

脂肪肝(脂肪症)は,アルコール過剰摂取の際の初期の最も一般的な結果として認められる。これは場合によって可逆的である。脂肪肝はトリグリセリドの大きな液滴である大滴性脂肪の蓄積であり,これが肝細胞核を圧排する。これよりは少ないが,小さな液滴として小滴型の脂肪が認められることもあり,これは核を圧排することはない。小滴性脂肪はミトコンドリアの障害を意味する。肝臓は肥大し,割面は黄色である。

アルコール性肝炎 (脂肪性肝炎)は,いずれも様々な重症度を呈する脂肪肝,びまん性の炎症,および肝壊死(しばしば局所的)の組み合わせからなる。肝硬変が存在する場合もある。肝細胞障害では,顆粒性細胞質による腫脹(バルーン変性),もしくは細胞質に線維性蛋白(マロリー小体またはアルコール性ヒアリン小体)がみられる。重度の肝細胞障害は壊死に至る。終末肝細静脈におけるコラーゲン蓄積や線維症は,肝灌流を障害し,門脈圧亢進症を助長する。肝硬変の進行を示唆する組織学的所見として,細静脈周辺の線維症,小滴性脂肪,巨大ミトコンドリアなどが挙げられる。

肝硬変は進行した肝疾患であり,正常な肝構造を破壊する広範な線維化を特徴とする。脂肪の存在量は様々である。アルコール性肝炎が並存することもある。肝再生時の弱い代償作用により,比較的小型の結節(小結節性肝硬変)が生じ,肝臓が萎縮する。やがて,特に禁酒時に,これが大結節性肝硬変へ進行する場合がある(線維症と肝硬変: 病態生理を参照 )。

肝における 鉄蓄積は正常肝,脂肪肝,または肝硬変を伴うアルコール依存症患者の最大10%にみられる。鉄の摂取量や体内の鉄貯蔵量では,蓄積を予測することはできない。

症状と徴候

疾患の病期と重症度は症状に一致する。一般的に,患者の症状は30代に現れる;重度の疾患は約10年後に出現する。

脂肪肝は通常症状を示さない。13の患者では,肝が肥大し,平坦になり,ときに圧痛がある。

アルコール性肝炎は,軽度の可逆性疾患から致死的なものまである。中等度の症例において,患者は通常栄養不良で,疲労,発熱,黄疸,右上腹部痛,圧痛性のある肝腫大を呈し,ときに肝の血管雑音が聴取される。患者の状態はしばしば入院した初めの数週間で悪化する。重度の症例では,黄疸,腹水,低血糖,電解質異常,凝固障害や門脈-体循環性脳症を伴う肝機能不全,その他肝硬変の症状がみられる。重度の高ビリルビン血症20mg/dL超(360μmol/L以上),PTまたはINR延長(ビタミンK皮下投与に反応しない),または脳症が認められる場合,死亡のリスクは20〜50%であり,肝硬変のリスクは50%である。

肝硬変は,アルコール性肝炎のわずかな症状から肝疾患末期の合併症の症状まで,様々な症状を発現する。一般的に,門脈圧亢進症(しばしば食道静脈瘤および上部消化管出血,腹水,門脈-体循環性脳症を伴う),肝腎症候群,または肝細胞癌などもみられる。

慢性アルコール性肝疾患では,手掌筋膜のデュピュイトラン拘縮,くも状血管腫,末梢神経障害,ウェルニッケ脳症,コルサコフ精神病,そして男性では性腺機能低下および女性化の徴候(例,滑らかな肌,男性型脱毛症の欠如,女性化乳房,精巣萎縮)などが起こりうる。これらの症状は肝疾患よりもアルコールの影響を反映すると考えられる。栄養不良は耳下腺肥大を生じることがある。C型肝炎ウイルス感染はアルコール依存症患者の約25%に生じ,両者が合併することで肝疾患の進行を著しく悪化させる。

診断

1日当たりのアルコール摂取量が80gを超える患者では,肝疾患の原因としてアルコールが疑われる。診断に疑いがある場合,肝機能検査,CBC,肝炎に対する血清学的検査を行う。アルコール性肝疾患に特異的な検査法はない。

アミノトランスフェラーゼは中等度に上昇するが(300IU/L未満),肝障害の程度を反映する値ではない。さらに,ASTはALTを上回り,その比は2を超える。ALTの低値は基本的に,酵素が機能するために必要なピリドキサルリン酸(ビタミンB6)の摂取不足によるものである。ASTへの影響はさほど顕著ではない。血清γグルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の上昇は,エタノール誘発性の酵素誘導によるもので,他の薬物の使用,胆汁うっ滞,および肝損傷でもみられる。MCVが100fLを超える大赤血球症は,葉酸欠乏による大球性貧血と同様,アルコールの骨髄への直接的な影響を反映するもので,栄養不足のアルコール依存者で一般にみられる。肝疾患における重症度の指標としては,分泌能を示す血清ビリルビンや,合成能を示すPTまたはINRがある。血小板減少症は,アルコールの骨髄に対する直接毒性,または門脈圧亢進症でみられる脾機能亢進症などに起因する。

診断のために画像診断をルーチンに用いる必要性はない。他の理由で行う場合,腹部超音波やCTによって,脂肪肝が示唆されたり,脾腫,門脈圧亢進症,または腹水の証拠が見つかる可能性がある。

アルコール性肝疾患が疑われるような異常を呈する患者では,他の治療可能な肝疾患,特にウイルス性肝炎などのスクリーニング検査を行うべきである。脂肪肝,アルコール性肝炎,および肝硬変の特徴は重複するため,患者を特定のカテゴリーに分類するよりも(これは肝生検でのみ決定できる),精確な所見を記載することの方がより有用である。肝生検は,肝疾患の重症度を判定するために行う(肝疾患および胆道系疾患に対する検査: 肝生検を参照 )。生検は肝疾患を確定するほか,よくある原因としてのアルコール過剰摂取を同定し,肝損傷の病期を確定するのにも役立つ。鉄蓄積がみられる場合,鉄成分の定量および遺伝子検査により遺伝性ヘモクロマトーシスを除外できる。

予後と治療

アルコール性肝疾患の予後は,肝線維症と炎症の度合いによって決まる。禁酒した場合,線維症を伴わない脂肪肝およびアルコール性肝炎は可逆性である;禁酒した場合,脂肪肝の完全寛解は6週間以内に起こる。線維症および肝硬変は非可逆性である。肝硬変やその合併症(腹水,出血)が一度起こった場合,5年生存率は約50%である;禁酒を行えばその率は高くなり,飲酒を継続すれば率は低下する。アルコール性肝疾患,特に慢性C型肝炎を伴う場合,肝細胞癌を生じやすい。

禁酒は治療の基本である;これによってアルコール性肝疾患によるさらなる障害を防ぎ,延命をもたらすことができる。治療遵守が難しいため,思いやりのあるチームアプローチが欠かせない。患者の動機が続くのであれば,アルコール依存者更生会(Alcoholics Anonymous)などの支持団体により優れた結果が得られる場合がある(薬物使用と薬物依存: 維持を参照 )。

全般的な管理では支持療法に重点をおく。禁酒初期の数日間は特に,栄養価の高い食事やビタミン(特にビタミンB類)を与える。しかしながら,サプリメントが転帰に影響することは証明されておらず,これはアルコール性肝炎を伴う入院中の患者においてもいえる。アルコール離脱時はベンゾジアゼピンが必要となる(例,ジアゼパム)。著しいアルコール性肝疾患患者に過剰の鎮静薬を与えると肝性脳症を促進させることがある。

特定の合併症(例,感染,食道静脈瘤による出血,特異的な栄養欠乏,ウェルニッケ脳症,コルサコフ精神病,電解質異常,門脈圧亢進症,腹水,門脈-体循環性脳症)については本書の別の個所で考察されている。

アルコール性肝疾患に対する特異的な治療はほとんどない。アルコール性肝炎における副腎皮質ステロイドの有用性については議論されているが,これらの薬剤は最も重症の患者には有用であると思われる。線維化を減少させる薬剤(例,コルヒチン,ペニシラミン),または炎症を抑える薬剤(例,ペントキシフィリン)の有効性は証明されていない。アルコールによる肝臓の高代謝状態が推測される場合,プロピルチオウラシルがいくらか効果を示すかもしれないが,受け入れられたことはない。(See also the Cochrane review abstract on use of propylthiouracil for alcoholic liver disease.)抗酸化剤(例,S-アデノシル-l-メチオニン,多価不飽和ホスファチジルコリン)は肝損傷を改善させるものとして有望であるが,さらなる研究が必要である。(See also the Cochrane review abstract on use of s-adenosyl-L-methionine for alcoholic liver disease.)オオアザミ(ミルクシスル)やビタミンAおよびEなどといった抗酸化剤の効果は証明されていない。(See also the Agency for Healthcare Research and Quality's Evidence Report Milk Thistle: Effects on Liver Disease and Cirrhosis and Clinical Adverse Effects.)

肝移植は,活動性肝疾患がみられない場合は80%,急性アルコール性肝炎では50%という非アルコール性肝疾患の生存率に匹敵する5年生存率をもたらす。最大50%の患者が移植後に飲酒を再開してしまうため,ほとんどの移植プログラムでは術前に6カ月間の禁酒が必要とされる。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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