爪の変形は,しばしば異栄養症と併せて考えられるが,両者は若干異なる概念である;変形は一般に爪の形状の肉眼的変化とみなされるのに対し,異栄養症は爪の質感や組成の変化である(例,爪真菌症)。
爪異栄養症の約50%は真菌感染によって生じる。残りは外傷,先天異常,乾癬,扁平苔癬,良性腫瘍,ときにがんなどの様々な原因で生じる。
爪異栄養症の原因としての爪真菌症は診察で明らかになる場合もあるが,爪甲と爪下の組織片を採取して病理組織学的検査とPAS(過ヨウ素酸シッフ)染色,培養,または最近ではポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法による分析を行う場合も多い(1, 2)。
真菌以外による異栄養症には,診断のために爪甲または爪母の組織生検が必要になる場合がある。爪異栄養症は原因の治療により消失する場合もあるが,消失しない場合は,ネイリストによる適切なトリミングと研磨によって爪変形を隠せる場合がある。
(爪疾患の概要も参照のこと。)
総論の参考文献
1.Hafirassou AZ, Valero C, Gassem N, et al: Usefulness of techniques based on real time PCR for the identification of onychomycosis-causing species.Mycoses 60(10):638–644, 2017.doi: 10.1111/myc.12629.
2.Gupta AK, Nakrieko KA: Onychomycosis infections: Do polymerase chain reaction and culture reports agree?J Am Podiatr Med Assoc 107(4):280–286, 2017.doi: 10.7547/15-136.
先天性の爪変形
一部の先天性外胚葉異形成症では,爪が欠損する(無爪症)。先天性爪甲厚硬症では,爪床が肥厚して変色し,横方向に過度に弯曲する(巻き爪)。爪膝蓋骨症候群では,爪半月が三角形になり,母指の爪が部分的に欠損する。ダリエ病の患者では,爪に赤色および白色の線条と遠位部のV字状の切痕がみられることがある。
全身性疾患に合併する爪変形および爪異栄養症
プラマー-ビンソン症候群(未治療の重度の鉄欠乏症により生じる食道ウェブ)では,50%の患者で匙状爪(スプーン状に陥凹した爪)がみられる。
黄色爪症候群は,成長が遅く肥厚して過度に弯曲した黄色の爪を特徴とする,まれな疾患である。この疾患は典型的には,四肢のリンパ浮腫や慢性呼吸器疾患がある患者に生じる。報告症例の約半数で慢性気管支感染症がみられる。
Half-and-half nail(Lindsay nail)は,通常は腎不全患者でみられ,爪甲の近位半分が白くなり,遠位半分はピンク色または赤褐色になる。Half-and-half nailは慢性腎臓病患者の20~50%に生じるが,この爪異常はほかにもクローン病,肝硬変,ペラグラ,川崎病などの様々な慢性疾患で報告されている。この異常は健常者にも生じる(1)。
テリー爪(Terry nail)は,爪床の約80%が白色化し,遠位部が0.5~3.0mmの帯状に褐色からピンク色になることを特徴とする。テリー爪には,しばしば肝硬変,慢性心不全,および成人型糖尿病が合併する。Half-and-half nailとの鑑別が困難になることがある(1)。
白色爪は肝硬変で生じるが,遠位3分の1にピンク色の色調が残ることがある。強く白色化した爪はテリー爪(Terry nail)とも呼ばれ,慢性肝不全または腎不全,心不全,もしくは糖尿病の患者に認められることがある。テリー爪は爪甲白斑の一種であり,異常は爪自体ではなく爪床にあり,それにより爪が白色に見える。テリー爪では,爪のほぼ全体が不透明な白色を呈し,爪半月が視認できない。遠位端の爪床に正常な細いピンク色の領域がみられる。テリー爪は,ときに正常な老化の一部として生じることもある(1)。
Beau線は爪甲の横溝であり,爪甲の成長が一時的に緩徐になることで生じ,感染症,外傷,または全身性疾患の発症後のほか,化学療法の施行中に生じる可能性がある。爪甲脱落症も同様に,爪母の一時的な成長停止によって生じるが,この場合は爪の全層が侵され,近位部において爪甲が爪床から分離するという点でBeau線と異なる。手足口病の数カ月後に好発するが,他のウイルス感染症の後にも生じることがある。Beau線または爪甲脱落症が生じた爪は,時間の経過とともに正常な成長を再開する。
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全身性疾患に合併する爪変形および異栄養症に関する参考文献
1.Pitukweerakul S, Pilla S: Terry's nails and Lindsay's nails: Two nail abnormalities in chronic systemic diseases.J Gen Intern Med 31(8):970, 2016.doi: 10.1007/s11606-016-3628-z.
皮膚疾患に合併する爪変形
乾癬では,爪にいくつかの変化がみられるが,具体的には,不整な点状陥凹,oil spot(限局的に淡黄褐色に変色した領域),爪床からの爪甲の部分的剥離(爪甲剥離症),爪甲の肥厚および崩壊などがある。爪乾癬は,治療抵抗性の乾癬性疾患との間に独立した関連がみられ,乾癬性関節炎発症の危険因子である。爪乾癬の治療は容易ではないが,免疫調節薬が最も効果的である(1, 2)。外用療法が若干の改善につながる可能性がある。デバイスを用いた治療(例,レーザー,光)には,その有効性を判断するためにさらなる研究が必要である。
爪母の扁平苔癬は初期,縦方向の隆起,亀裂,爪半月の紅斑,爪甲遠位部の分離など,可逆的な爪変化を引き起こす。時間が経過すると,瘢痕のほか,爪甲萎縮,翼状爪,完全な爪甲の喪失などの不可逆的変化が生じることがある。爪部の扁平苔癬には,永続的な醜形を予防するために早期からの管理が必要である。治療選択肢としては,コルチコステロイドの外用,病変内注射,全身投与などがある。しかしながら,一部の患者では治療後に再発することがある。翼状爪は,扁平苔癬によって生じる病態であり,爪甲の近位部から外方に向かうV字状の瘢痕形成を特徴とし,最終的には爪の喪失に至る。
円形脱毛症では,一定の幾何学的パターンを示す規則的な点状陥凹を伴うことがある。点状陥凹は小さく微細である。円形脱毛症では重度の爪甲縦裂症(爪甲が脆くなり破綻する病態)もみられる場合がある。治療選択肢としては,コルチコステロイドの病変内投与および外用や,スクアリン酸ジブチルエステルなどの感作物質の外用などがある。トファシチニブやアプレミラストなどの新しい治療法については,ある程度有望な成績が示されている。
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皮膚疾患に合併する爪変形に関する参考文献
1.van de Kerkhof P, Guenther L, Gottlieb AB, et al: Ixekizumab treatment improves fingernail psoriasis in patients with moderate-to-severe psoriasis: Results from the randomized, controlled and open-label phases of UNCOVER-3.J Eur Acad Dermatol Venereol 31(3):477–482, 2017.doi: 10.1111/jdv.14033.
2.Merola JF, Elewski B, Tatulych S, et al: Efficacy of tofacitinib for the treatment of nail psoriasis: Two 52-week, randomized, controlled phase 3 studies in patients with moderate-to-severe plaque psoriasis.J Am Acad Dermatol 77(1):79–87, 2017.doi: 10.1016/j.jaad.2017.01.053.
変色
がん化学療法薬(特にタキサン系)は黒色爪(爪甲の色素沈着)を引き起こすことがあり,それはびまん性の場合もあれば,横方向に帯状に生じる場合もある。一部の薬剤は爪の色に特徴的な変化を引き起こすことがある:
キナクリン:紫外線下で爪が緑黄色または白色に見える。
シクロホスファミド:Onychodermal band(爪甲先端部で爪甲と爪床遠位部を接着している部分)が暗い灰色または青色調に変色する。
ヒ素:爪がびまん性に褐色化することがある。
テトラサイクリン系,ケトコナゾール,フェノチアジン系,スルホンアミド系,フェニンジオン(phenindione):爪が褐色調または青色に変色することがある。
金療法:爪が明褐色または暗褐色になることがある。
銀塩(銀皮症):爪がびまん性に青灰色になることがある。
喫煙またはマニキュアの使用は,爪および指尖部の黄色ないし褐色調の変色につながることがある。
Image provided by Thomas Habif, MD.
爪甲に出現する白い横線(Mees線)は,化学療法,急性ヒ素中毒,悪性腫瘍,心筋梗塞,タリウムおよびアンチモン中毒,ならびにフッ素症で生じるほか,エトレチナート療法中にも生じることがある。それらの線は爪床の変化によるものではなく,本当に爪甲が白色化したものであり,原因が排除されれば,正常な爪の成長とともに消失する。Mees線は指の外傷でも生じるが,通常は外傷性の白色線条が爪全体に生じることはない。
真菌の一種であるTrichophyton mentagrophytesは,爪甲の表面をチョーク様に白く変色させる。
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緑色爪症候群はPseudomonas属細菌の感染により生じる。一般に無害の感染症であり,1指または2指の爪に生じるのが通常で,目立つ青緑色が特徴である。爪が刺激物質に曝露するか水に過度に曝露した爪甲剥離症または慢性爪囲炎患者に生じることが多い。爪甲剥離症または慢性爪囲炎を効果的に治療すれば,Pseudomonas感染症は消失する。患者は刺激物質への曝露や過度の湿気を回避すべきである。頻繁に爪切りを行うことで,治療に対する反応が向上する。
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正中爪変形(median nail dystrophy,median canaliform dystrophy)
正中爪変形(median nail dystrophy)は,爪甲の小さな亀裂が側方に伸び,常緑樹(例,クリスマスツリーなどのモミの木)の枝のように見えるのが特徴である。亀裂および隆起が嗜癖性爪変形(habit-tic nail deformity―爪中央部の異栄養症で,別の指で擦る,つつくなどの動作で生じる爪母の反復的外傷を原因とする)でみられるものに類似する。正中爪変形は原因不明の場合もあるが,外傷が何らかの役割を果たしていると考えられる。少数の症例では,爪を反復的に打ちつけるデジタル機器を頻繁に使用することが原因として示唆されている。患者が反復的な軽度の外傷につながりうる行為を全てやめれば,就寝時に0.1%タクロリムスを非密封下で外用する治療が有効となる。
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爪甲色素線条
爪甲色素線条は,後爪郭および爪上皮から爪甲の遊離端まで縦方向に伸びる色素沈着帯である。爪母のメラノサイトによりメラニンの沈着が起きることで,色素沈着が生じる。メラニンの沈着は,メラノサイトの活性化(爪細胞におけるメラニン産生の増加)またはメラノサイトの過剰増殖(爪母におけるメラノサイト産生の増加)により増強する。
メラノサイトの活性化は,皮膚の色が濃い人々では正常な生理的異型である場合もある。この異型はしばしばethnic melanonychiaと呼ばれ,治療は不要である。メラノサイト活性化のその他の原因としては,外傷,妊娠,アジソン病などの内分泌疾患,感染,炎症後色素沈着,特定の薬剤(ドキソルビシン,フルオロウラシル,ジドブジン,ソラレン類など)の使用などがある。
メラノサイトの過形成は,爪母の色素性母斑や爪の黒子などの良性の病態,または悪性黒色腫によって生じる。爪母の悪性黒色腫に関連する頻度の高い因子としては,中年期以降の新規発症,利き手の母指または利き足の母趾の色素沈着,急速な増殖または濃色化,3mmを超える幅,爪甲異栄養症の合併,Hutchinson徴候(色素沈着の後爪郭および/または側爪郭への進展)などがある。黒色腫が疑われる症例では,迅速な生検および治療が不可欠である(1)。
Image courtesy of Carl Washington, MD, and Mona Saraiya, MD, MPH, via the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.
爪甲色素線条に関する参考文献
1.Leung AKC, Lam JM, Leong KF, Sergi CM: Melanonychia striata: Clarifying behind the black curtain.A review on clinical evaluation and management of the 21st century.Int J Dermatol Apr 21, 2019.doi: 10.1111/ijd.14464.
爪甲鉤弯症
爪甲鉤弯症は,爪甲が肥厚して弯曲する爪異栄養症の一種であり,母趾に好発する。足に合わない靴の着用により生じる。高齢者に多い。治療は変形した爪を切って形を整えることである。
Image provided by Barbara A.Gilchrest, MD.
爪甲剥離症
爪甲剥離症は,爪甲が爪床から分離または完全に脱落する病態である。テトラサイクリン系薬剤(光線性爪甲剥離症),ドキソルビシン,フルオロウラシル,心血管治療薬(特にプラクトロールおよびカプトプリル),クロキサシリンおよびセファロリジン(まれ),トリメトプリム/スルファメトキサゾール合剤,ジフルニサル,エトレチナート,インドメタシン,イソニアジド,グリセオフルビン,またはイソトレチノインによる治療を受けている患者において,薬物反応として生じることがある。単純性(すなわち,別の爪疾患や皮膚疾患を合併していない)の爪甲剥離症は,水,柑橘類果汁,化学物質への頻繁な曝露など,刺激物質への曝露によっても生じる。手および指の刺激性接触皮膚炎が爪甲剥離症に至ることがある(1)。爪床へのCandida albicansの定着が起こる可能性があるが,基礎にある刺激物質への曝露に対処すれば,Candidaに対する治療の如何にかかわらず,爪甲剥離症は治癒に至る。
乾癬または甲状腺中毒症の患者でも,部分的な爪甲剥離症が生じることがある。
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爪甲剥離症に関する参考文献
1.Vélez NF, Jellinek NJ: Simple onycholysis: A diagnosis of exclusion.J Am Acad Dermatol 70(4):793–794, 2014.doi: 10.1016/j.jaad.2013.09.061.
爪甲損傷癖
この疾患では,患者が自分の爪をいじって自傷行為を行う結果,横方向に平行する複数の溝および隆起(洗濯板状の変形または嗜癖性爪変形[habit-tic nail deformity])が生じることがある。1指の爪上皮を押し戻す行為を習慣的に行う患者で最も多くみられ,この行為により爪甲が成長する過程で異栄養症が生じる。爪甲損傷癖では爪下出血も生じることがある。
巻き爪
巻き爪に関する参考文献
1.Demirkıran ND: Suture treatment for pincer nail deformity: An inexpensive and simple technique.Dermatol Surg Feb 6, 2019.doi: 10.1097/DSS.0000000000001818.
2.Shin WJ, Chang BK, Shim JW, et al: Nail plate and bed reconstruction for pincer nail deformity.Clin Orthop Surg 10(3):385–388, 2018.doi: 10.4055/cios.2018.10.3.385.
3.Won JH, Chun JS, Park YH, et al: Treatment of pincer nail deformity using dental correction principles.J Am Acad Dermatol 78(5):1002–1004, 2018.doi: 10.1016/j.jaad.2017.08.014.
爪下血腫および爪床外傷
爪下血腫は,通常は外傷の結果として,血液が爪甲と爪床の間に貯留することで生じる。爪下血腫は拍動性の有意な疼痛と青黒色への変色を引き起こし,小さくない限り,最終的には爪甲の剥離や一時的な脱落を来す可能性がある。原因が挫滅損傷の場合,爪下の骨折および爪床または爪母の損傷が生じることがある。爪床または爪母の損傷は永続的な爪変形につながることがある。
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損傷が急性の場合,爪甲穿孔術(例,焼灼機器,18G針,または赤熱したペーパークリップにより爪甲に穴を開ける)を行って貯留した血液を排出することで,疼痛の緩和に役立つことがあるが,24時間以上経過すると,血液が凝固するため,爪甲穿孔術は有益とならない。抜爪して爪床の損傷を修復する治療により永続的な爪変形のリスクを低減できるかどうかは不明である。
粗造爪
爪の腫瘍
良性および悪性腫瘍が爪部を侵し,変形を引き起こすことがある。良性腫瘍としては,粘液嚢腫,化膿性肉芽腫,グロムス腫瘍などがある。悪性腫瘍としては,ボーエン病,有棘細胞癌,悪性黒色腫などがある。悪性腫瘍が疑われる場合は,迅速に生検を行って外科医に紹介することが強く推奨される。
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