メルクマニュアル18版 日本語版
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α 1アンチトリプシン欠損症

Robert A. Wise, MD

α1アンチトリプシン欠損症は,肺の主要な抗蛋白分解酵素―α1アンチトリプシン―の先天的欠損で,成人において蛋白分解酵素による組織破壊と気腫の増大を招く。異常なα1アンチトリプシンの肝臓への蓄積は,小児でも成人でも肝疾患の原因となる。血清α1アンチトリプシン値が11mmol/L未満(80mg/dL)であれば,診断が確定する。治療は,禁煙,気管支拡張薬,感染症の早期治療,および特定の症例ではα1アンチトリプシン代替療法を行う。重度の肝疾患は,移植を必要とすることもある。予後は主に肺の障害の程度に関係する。

α1アンチトリプシンは好中球エラスターゼ阻害物質(抗プロテアーゼ)であり,その主な機能は,プロテアーゼを介した組織破壊から肺を守ることである。α1アンチトリプシンは肝細胞および単核細胞により合成され,血行を介して肺内へ濃度依存的に拡散する;一部は肺胞マクロファージや上皮細胞により二次的に産生される。蛋白の構造(およびそれに由来する機能性)および血行中のα1アンチトリプシンの量は,両親の対立遺伝子の相互優性発現により決定される;90種類以上の対立遺伝子が同定されており,プロテアーゼ阻害物質の表現型(PI*)を用いて表す。

いくつかの異型対立遺伝子の遺伝によりα1アンチトリプシン分子の構造に変化が生じ,重合および肝細胞内貯留が起こる。異常なα1アンチトリプシン分子の肝における蓄積は,新生児胆汁うっ滞性黄疸を患者の10〜20%に引き起こす;残りの患者は,おそらく異常蛋白を分解できるのであろうが,正確な発症予防機序ははっきりしていない。新生児の肝合併症例の約20%が小児期に肝硬変を発症する。小児期に肝疾患のない患者の約10%は,成人になって肝硬変を発症する。肝合併は肝癌のリスクを増大させる。

肺では,α1アンチトリプシン欠損症は好中球のエラスターゼ活性を増大し,それが組織の破壊を促進し,気腫につながる(特に喫煙者でみられるが,タバコの煙もプロテアーゼ活性を増大するからである)。α1アンチトリプシン欠損症は,COPDの全症例の1〜2%と推定される。

その他のα1アンチトリプシンの異型が関連している可能性のある障害には,皮下脂肪組織炎,致死性の出血(α1アンチトリプシンを好中球エラスターゼ阻害物質から凝固因子阻害物質へ転換する変異による),動脈瘤,潰瘍性大腸炎,糸球体疾患がある。

疫学と分類

重症のα1アンチトリプシン欠損症と気腫のある人の95%以上は,Z対立遺伝子がホモ接合であり(PI*ZZ),α1アンチトリプシン濃度は約30〜40mg/dL(5〜6μmol/L)である。正常母集団における有病率は,1/1500〜5000人である。ほとんどが北欧系の白人である;Z対立遺伝子はアジア系や黒人ではまれである。気腫はPI*ZZの患者で多いが,ホモ接合の非喫煙者の多くは気腫を発症しない;発症する人は通常はCOPDの家族歴がある人である。PI*ZZ喫煙者の寿命はPI*ZZ非喫煙者より短く,PI*ZZ非喫煙者はPI*MMの非喫煙者および喫煙者より寿命が短い。PI*MZヘテロ接合の非喫煙者は,正常人に比べ,長い間にはFEV1がより急速に低下するリスクが高くなりうる。

その他のまれな表現型には,PI*SZ,および対立遺伝子発現のない2つの型(PI*Z-nullとPI*null-null)がある(慢性閉塞性肺疾患(COPD): α1アンチトリプシン欠損症における表現型の発現表 3: 表を参照)。発現のない表現型では,α1アンチトリプシンの血清濃度は検出できない。機能異常を示すα1アンチトリプシンの正常な血清濃度が,まれな変異型にみられることもある。

表 3

α1アンチトリプシン欠損症における表現型の発現

表現型

α1アンチトリプシンの血清濃度

気腫のリスク

PI*ZZ

2.5–7 μmol/L

PI*MZ

17–33 μmol/L

ごくわずかに上昇

PI*SZ

8–16 μmol/L

わずかに上昇

PI*SS

15–33 μmol/L

ごくわずかに上昇

PI*null-null

0

PI*Z-null

0–5 μmol/L

PI*MM

20–48 μmol/L

正常

症状と徴候

肝合併症がある幼児は,生後1週目の間に胆汁うっ滞性黄疸および肝腫大を呈す;黄疸は通常2〜4カ月までに消失する。肝硬変を小児期または成人期に発症することがある(肝硬変および肝細胞癌の症状や徴候については,本書の別の個所で考察されている)。

α1アンチトリプシン欠損症は,多くは若年性肺気腫の原因となる;症状や徴候はCOPDのときと同じである(喘息: 症状と徴候を参照 )。肺疾患は非喫煙者より喫煙者でより早期に発症するが,どちらの症例でも25歳前はまれである。肺疾患の重症度には大きなバラツキがある;PI*ZZ喫煙者でも肺機能が良好に保持されている者もいるが,PI*ZZ非喫煙者で重度に障害されている者もいる。一般人口の調査で同定されたPI*ZZの人(すなわち,症状または肺疾患のない人)は,喫煙の有無にかかわらず,指標個体(肺疾患があるために同定された人)より良好な肺機能を有する傾向がある。集団としてみると,重症のα1アンチトリプシン欠損症のある非指標個体で,喫煙歴のない人たちは,寿命は平均的で,中等度の肺機能障害があるに過ぎない。気流閉塞は,男性において,また喘息,繰り返す気道感染症,職業性塵暴露,肺疾患の家族歴のある人において,より高頻度で起こる。α1アンチトリプシン欠損症における最も一般的な死因は,肺気腫,次いで肝硬変,肝癌もしばしばある。

皮下脂肪組織炎は,皮下の軟部組織の炎症性疾患で,症状は硬結した,圧痛のある,変色したプラークまたは結節として,典型的には下腹部,臀部,大腿部に現われる(過敏症および炎症性疾患: 脂肪織炎を参照 )。

診断

α1アンチトリプシン欠損症が疑われるのは,45歳前に気腫を発症する喫煙者;職業性暴露のない非喫煙者で,どの年齢で気腫を発症しても;主に肺下部の気腫(胸部X線で示される)がある患者;気腫または原因不明の肝硬変の家族歴がある患者;皮下脂肪組織炎の患者;黄疸または肝酵素の上昇がある新生児;原因不明の肝疾患を有するあらゆる患者である。診断は,α1アンチトリプシンの血清濃度が80mg/dL未満(11μmol/L未満)であることにより確定する。

治療

肺疾患の治療は,精製ヒトα1アンチトリプシン(60mg/kgを45〜60分かけて週1回静注投与,または250mg/kgを4〜6時間かけて月1回投与[プールのみ])を用いて行い,それにより,α1アンチトリプシンの血清濃度を,目標とする発症予防濃度である80mg/dL(正常値の35%)を上回る値に維持する。肺気腫は恒久的な構造変化をもたらすため,治療は損傷した肺の構造や機能を改善できないが,肺気腫の進行を阻止するために行われる。治療は非常に費用がかかるため,肺機能の異常が軽度また中等度で,血清α1アンチトリプシンが80mg/dL未満(11μmol/L未満)の非喫煙患者に行われる。これは重症の患者,または正常ないしヘテロ接合の表現型を有する患者には適応とならない。

禁煙,気管支拡張薬の使用,呼吸器感染の早期治療は,気腫のあるα1アンチトリプシン欠損症患者では特に重要である。肝細胞内の異常なα1アンチトリプシン蛋白の誤った折り畳みを戻すことができるフェニル酪酸を用いて,蛋白の放出を刺激する,などの実験的治療が研究されている。障害が重症な60歳未満の患者には肺移植を考慮すべきである。α1アンチトリプシン欠損症の肺気腫の治療に,肺容量減少術を用いることには賛否両論ある。遺伝子治療は,研究中である。

肝疾患の治療は維持療法による。酵素補充療法は,疾患が酵素の欠損よりむしろ異常なプロセシングが原因であるため,有効ではない。肝不全のある患者には,肝移植が行われることもある。

皮下脂肪組織炎の治療は十分に確立されていない。コルチコステロイド,抗マラリア薬,テトラサイクリン系薬物が用いられている。

最終改訂月 2007年1月

最終更新月 2005年11月

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