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心停止

心停止はあらゆる致死的疾患の最終的な病態である。また心停止は,突然(心機能があった人において,症状の発現から24時間以内と定義)起こる可能性があり,米国では年間約400,000人が病院外で心停止を起こし,その死亡率は90%である。

病因

成人において,突然の心停止は主に心疾患(あらゆる種類,しかし特に冠動脈疾患)が原因である。かなりの割合で,突然の心停止が心疾患の初発症状となっている。心停止の他の原因としては,心疾患以外(特に肺塞栓症,消化管出血,外傷)が引き起こす循環性ショック,換気不全,代謝障害(薬物過剰摂取を含む)などがある。

小児では,心原性の(心疾患が原因の)突然の心停止は,はるかに頻度が少ない(15〜20%未満)。その代わり,外傷,中毒,および様々な呼吸器疾患(例,気道閉塞,煙の吸入,溺水,感染症,乳幼児突然死症候群)などが主な原因としてあげられる。

病態生理

心停止は広範囲の虚血を引き起こし,結果として蘇生後,細胞レベルで患者に有害な作用を及ぼす。主として直接的な細胞損傷および浮腫形成である。浮腫は脳では特に有害であり(膨張に対して余分な空間がない),蘇生後に頭蓋内圧亢進,およびそれに伴う脳灌流の低下を引き起こす。蘇生が成功した患者の多くに,短期または長期の脳機能障害が生じる。

ATP産生が低下すると,膜のもつ統合的機能が消失し,Kの流出およびNaとCaの流入が起こる。Na過剰は細胞浮腫を生じさせる。Ca過剰はミトコンドリアを損傷し(ATP産生を抑制),一酸化窒素の産生を促進し(有害なフリーラジカルの形成につながる),ある特定の状況では,細胞の内容物に損傷を与えるプロテアーゼを活性化させる。

ニューロンにおけるイオンの異常な流れはさらに脱分極を引き起こし,神経伝達物質を放出させる。特に有害な神経伝達物質はグルタミン酸塩で,特定のCaチャネルを活性化し,細胞内のCa過剰を悪化させる。

炎症性メディエーター(例,IL-1B,腫瘍壊死因子-α)が生成され,そのいくつかは,微小血管血栓症および血管の統合的機能を消失させ,さらなる浮腫を形成させる。アポトーシスは重度の虚血において無数のメディエーターによって活性化され,細胞死を加速させる。

症状と徴候

重症患者または終末期の患者において,心停止が起こる前にはしばしば,速く浅い呼吸,低血圧,意識レベルの段階的低下など臨床症状の悪化時期がある。別の場合の心停止では,前触れもなく虚脱が起こるが,ときに短時間(5秒未満)のけいれん発作を伴う。

診断と治療

診断は呼吸停止,脈拍消失,および意識消失の臨床所見による。動脈圧は測定不能である。心電図モニターは心室細動,心室頻拍,または心静止を示す。ときには,灌流時のリズム(例,洞徐脈)が存在し,これは真の脈なし電気活動(電気収縮解離)または脈拍が検出不能な極度の低血圧を示す。

小児では典型的には徐脈性不整脈で,次いで心静止となる;しかしながら,小児の約15〜20%が心室頻拍または心室細動を呈する。したがって,呼吸器症状が先行していない心停止を有するあらゆる小児において,迅速な除細動が考慮されなければならない。

患者は,治療可能性のある原因,例えば低酸素症,大量の循環血液量喪失,心タンポナーデ,緊張性気胸,または重症の肺塞栓などについて評価されるべきである。残念ながら,原因の多くはCPRの際には判明しない。診察および胸部X線検査で緊張性気胸を発見できる。もし可能ならば,心臓超音波検査により,心収縮を発見でき,心タンポナーデ,極度の循環血液量減少(心臓内が空の状態),肺塞栓を示唆する右室の過負荷,心筋梗塞を示唆する局所の壁運動の異常も認識できる。心停止の原因は速やかに治療されなければならない。治療可能な症状は存在しないが,心臓の動きが検出されるか,脈がドプラによって示される場合,重度の循環性ショックとみなされ,大量の輸液に加え,昇圧薬(例,ノルエピネフリン,ドパミン,またはエピネフリン)が静注される。

さらなる治療は心肺蘇生法とともに実施する。迅速な治療がいずれにしても不可欠である。

心肺蘇生法

(新生児の蘇生については周産期における問題: 新生児蘇生を参照 。)

心肺蘇生法(CPR)は,心停止に対する系統的で順次的な手順による対応であり,呼吸および循環の消失の認識,胸骨圧迫および人工呼吸による一次救命処置(BLS),最終的な気道確保および調律コントロールを伴う二次救命処置(ACLS),および蘇生後管理を含む。胸骨圧迫の迅速な開始および早期の除細動(適応の場合)が成功の鍵となる。CPRの迅速さ,効率,および正当な適用が神経学的に良好な転帰を直接決定づけるが,まれな例外として,冷水に浸かったことによる著しい低体温があり,その場合,長時間の(最大で60分)の心停止の後であっても蘇生が成功する場合がある。

患者の反応がないこと(叩く,揺さぶる,または大声で呼びかけて確認),および呼吸の消失を確認後,救助者は(除細動器の要請も含め)助けを求め,ABC(Airway:気道,Breathing:呼吸,Circulation:血液循環,呼吸停止と心停止: 成人の総合的な緊急心臓治療。図 6: イラスト参照)の順に従って一次救命処置を始める。次に除細動(D:defibrillation)を手動または自動の除細動器を用いて行い,心室細動(VF)または無脈性心室頻拍(VT)を灌流時のリズムとすることを試みる。

図 6

成人の総合的な緊急心臓治療。

成人の総合的な緊急心臓治療。

1人および2人の救助者による一次救命処置で用いられる手技は, 呼吸停止と心停止: 医療従事者のためのCPRの技術表 2: 表に記載しているが,これらの専門技術は米国内では米国心臓協会(American Heart Association;1-800-AHA-USA1)または他国内では同様の機構が後援しているようなトレーニングコースで習得するのが最良である。

表 2

医療従事者のためのCPRの技術

救助者1人の場合のCPR

救助者2人の場合のCPR

呼吸の大きさ

成人

胸骨圧迫は100回/分の速度で,30回毎に人工呼吸を2回(各1秒)

胸骨圧迫は100回/分の速度で,30回毎に人工呼吸2回(1秒)*

人工呼吸1回につき約500mL(過換気に注意する)

小児(1〜8歳)

胸骨圧迫は100回/分の速度で,30回毎に人工呼吸2回(1秒持続)

胸骨圧迫は100回/分の速度で,15回毎に人工呼吸2回(1秒持続)*

成人よりも少量の呼吸(胸部が隆起する程度)

乳児(1歳未満)

胸骨圧迫は100回/分の速度で,30回毎に人工呼吸2回(1秒持続)

胸骨圧迫は100回/分の速度で,15回毎に人工呼吸2回(1秒持続)*

救助者の口腔内の空気をわずかに吹き込む

*さらに進んだ気道確保が適当な場合,人工呼吸8〜10回/分を胸骨圧迫を中断せずに行う。

気道および呼吸

目撃者のいる心停止で,3分以内に除細動器の使用が可能な場合を除き,気道の開通が最優先事項となる(呼吸停止と心停止: 異物の除去および上気道の確保を参照 )。

口対口(成人および小児)または口対口鼻(乳児)人工呼吸を始める。輪状軟骨圧迫は,気管挿管によって気道確保が達成されるまで,2人目の救助者によって継続的に加えられる場合がある。硬い軟骨輪上に強い圧力を加えることで,食道を閉塞し,換気による胃膨満の可能性を最小限にして,逆流が起きた場合に胃内容物の流出を食い止める;年少児では気管を潰さないようにするために,圧力はかなり弱めにしなければならない。腹部膨満が生じる場合は,気管の開通性を再確認し,人工呼吸によって輸送する空気の量を減らす。胃膨満を軽減させるための経鼻胃管挿入は,挿入時に胃内容物の誤嚥を伴う逆流が起こる可能性があるため,吸引装置が利用できるまで遅らせる。著しい胃の膨満が換気を妨げ,前述の方法で是正されない場合,患者を側臥位にし,上腹部を圧迫し,気道を確保する。

気管挿管は,「気道確保と管理」(呼吸停止と心停止: 気道確保と管理を参照 )の個所で説明しているように実施する。しかしながら,気管挿管を行うために除細動を遅らせることはなく,また可能であれば,挿管の間も胸骨圧迫は中断せずに続ける。

循環

胸骨圧迫: 虚脱したところを目撃されなかった患者において,救助者は胸骨圧迫心マッサージ(非開胸式心マッサージ)を直ちに開始すべきであり,人工呼吸と交互に実施する。目撃された心停止では,胸骨圧迫よりも先行して,可能であれば3分以内に除細動を行う。

心拍出量は正常の30〜40%しかないが,胸骨圧迫心マッサージは,理想的には圧迫毎に触知可能な脈拍を生じさせる。しかしながら,胸骨圧迫中の脈拍触知は難しく,しばしば信頼できない。終末呼気のCO2モニタリングにより,胸骨圧迫中の心拍出量をよりよく推定できる;つまり灌流が不十分な患者は肺への静脈還流量が少なく,それゆえ終末呼気CO2が少ない。大きさが正常で,対光反応のある瞳孔は,適切な脳循環と酸素化を示す。対光反応はあるが散大した瞳孔は,脳損傷は生じていないかもしれないが,脳の酸素化が不十分なことを示しうる。しかしながら,心臓作用薬の大量投与,その他の薬物,または白内障は瞳孔の大きさおよび反応を変化させることがあるため,持続的に散大した反応のない瞳孔は,脳損傷や脳死の証明にならない。自発呼吸の回復または開眼が,循環の回復を示すこともある。

開胸式心マッサージが有効な場合もあるが,その使用は,胸部穿孔性損傷,心タンポナーデ,および術中の心停止で既に開胸されている場合に限られる。開胸術は訓練と経験を必要とするため,こうした限られた適応にのみ行うのが最良である。

胸骨圧迫の合併症: 肝損傷は最も重篤な(ときに致死的な)合併症であり,通常,胸骨の下方位置を圧迫することで引き起こされる。胃の破裂はまれに起こる合併症である(特に胃が空気で膨張する場合)。遅延性の脾臓破裂が起こることは非常にまれである。より頻繁に起こる合併症は胃内容物の逆流であり,誤嚥が続発して,致死的になりうる誤嚥性肺炎を生じさせる。

十分な血流を生じさせる強い胸部圧迫が重要であるため,肋軟骨解離および肋骨骨折は,ときに避けられない。小児は胸壁が柔軟なので,骨折は極めてまれである。体外式胸骨圧迫心マッサージ後の肺への骨髄塞栓がまれに報告されるが,それが死亡につながるという明白な証拠はない。肺損傷はまれであるが,気胸が肋骨骨折に続いて生じることがある。重篤な心筋損傷は起こらないが,例外として,先在する心室瘤への傷害が考えられる。これら損傷への懸念から,救助者はCPRの実施をためらうべきではない。

モニタリングおよび静脈内投与: ECGモニタリングは心臓のリズムを同定する方法として定着している。静脈確保する際には,CPRの間は2本のラインを確保して、静脈へのアクセスを確実にする。肘部の太い末梢ラインが望ましい。成人において,もし末梢静脈路が確保できなければ,鎖骨下静脈または内頸静脈の中心静脈路が確保される。骨髄路および大腿静脈(重症患者へのアプローチ: 骨髄内輸液を参照 )は小児では望ましい代用ラインである。大腿静脈カテーテル(中心静脈まで進められる長いカテーテルが望ましい)は,CPRを中断する必要がなく,致死的な合併症の発生率が低いため実用的であるが,挿入を誘導するための大腿動脈拍動が得られないため,留置成功率が低い。

注入する輸液または薬物の種類と用量は,臨床的状態に左右される。通常,0.9%生理食塩水(静脈路の開通を保つためだけに十分な程度)を静注でゆっくりと注入する;大量輸液(晶液,コロイド溶液,血液)は,心停止が循環血液量減少によって起こった場合のみ必要となる(ショックおよび輸液蘇生術: 輸液による蘇生を参照 )。

除細動

成人の心停止で最もよくみられるリズムはVFであり,灌流時のリズムへ迅速に引きもどすことが必須である。無脈性VTもVFと同様の治療を行う。

除細動器が利用できない場合のみ,前胸部叩打法が勧められる。強い前胸部叩打はまれにVFまたはVTを機能的な調律に変えうるが,心停止の状況において有害な影響(例,VTをVFに変える)の証拠はない。しかしながら,これは小児には勧められない。1〜2回の叩打は,胸部の20〜25cm上方で握った拳から胸骨の中央と下3分の1との中間に加えられる。

迅速な直流通電(DC)除細動は,抗不整脈薬より効果的である;しかしながら,除細動の成功は時間に左右され,成功率はVF(または無脈性VT)発症後,1分ごとに約10%ずつ低下する。自動体外式除細動器(AED)は,最小限の訓練を受けた救助者にもVTまたはVFの治療を可能にする。AEDを最初に対応する者(パトカーまたは消防車)に持たせ,公共の場に設置することで,蘇生率は向上するようである。

除細動パドルまたはAEDパッドは,胸骨右縁に沿って鎖骨と第2肋間腔の間,および第5または第6肋間腔の心尖部に置く。従来の除細動器は,導電性のペーストまたはゲルパッド(導電性の物質がAEDパッドに組み込まれている)とともに使われる。まず1回のみの電気ショックを与える(以前は3回連続の電気ショックが推奨されていた)。二相性除細動器のエネルギーレベルは120〜200ジュール(小児では2ジュール/kg)で,単相性除細動器は360ジュールに設定される。CPRを直ちに再開する。電気ショック後リズムチェックはCPRから2分経過するまで行わない;継続的にモニタリングされている患者では,これより前に調べる可能性がある。その後の電気ショックは,1回目と同レベルまたはそれを超えるエネルギーレベル(最大360ジュール,小児では2〜4ジュール/kg)で行う。VFまたはVTが持続する患者には,後述の薬物療法が行われる。

特殊状況

電撃による事故では,救助者は自分が感電することを避けるため,患者が電源に接触していないことを確認しなければならない。非金属の鉤竿や棒を使用したり,救助者をアースにつなぐことで,CPR開始前に患者を安全に電源から引き離すことができる。

溺水の場合,人工呼吸は浅瀬で始める場合もあるが,胸骨圧迫は患者を硬い場所に水平に寝かせなければ効果的には行えない。患者をサーフボードまたは浮袋にのせることで,効果が上がる場合もある。

外傷に続いて心停止が起きた場合は,気道閉塞を心停止の原因から除外するため,気道確保および気道の異物除去,気道を清浄にするとともに,一定の時間換気を行うことが優先される。頸椎の動きを最小限にするため,下顎挙上のみを行い,頭部後屈とあご先挙上は行わない。しかしながら,外傷性心停止の患者のほとんどが,失血による著しい循環血液量減少,または致死的な脳損傷を有しているので,胸骨圧迫は効果がない。外傷性心停止の原因で生存可能なものは,主に心タンポナーデや緊張性気胸などだが,それらは直ちに穿刺による減圧を必要とし,これができないかまたは効果がない場合,BLSは無益である。

ACLSのための薬物

心停止の患者においては,長年広く使用されているにもかかわらず,生存退院の割合を改善すると証明できる薬物はない。薬物の中には心拍再開の割合を改善するものもあり,投与は妥当である(用量については,小児も含めて呼吸停止と心停止: 蘇生に用いる薬物*表 3: 表参照)。

表 3

PDF 蘇生に用いる薬物*

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末梢静脈路のある患者では,薬物注入に続いて輸液をボーラス注入(成人では“全開で流し”;幼児では3〜5mL)して,薬物を中心循環へと流す。静脈路または骨髄路が確保できない患者では,アトロピンおよびエピネフリンを(適応の場合は),静注での用量の2〜2.5倍の量で気管チューブを通して投与する。

第1選択薬: エピネフリンはその有用性に議論が起こっているものの心停止において用いられる主要な薬物である。投与は3〜5分毎に行われる。エピネフリンはαおよびβ-アドレナリン作用を兼ね備えている。α-アドレナリン作用は冠動脈の拡張期圧を上昇させ,その結果,胸骨圧迫の間の心内膜下灌流を増加させる。エピネフリンは除細動の成功率も上昇させる。しかしながら,β-アドレナリン作用は,O2必要量(特に心臓の)を上昇させ,血管拡張を引き起こすので有害となりうる。エピネフリンの心腔内注射は,気胸,冠動脈破裂,心タンポナーデを起こしうるので勧められない。

バソプレシン40単位の単回投与は,エピネフリンの代わりとなるが(成人のみ),エピネフリンよりも優れているとは証明されていない。

硫酸アトロピンは,心拍数および房室結節を介した伝導を増加させる副交感神経遮断薬である。この薬物は心静止(小児を除いて),徐脈性不整脈,高度な房室結節伝導抑制に対して投与されるが,生存率に及ぼす効果は示されていない。

アミオダロンは,除細動が成功しない場合,エピネフリンやバソプレシンの投与に続いて,単回投与されることがある。アミオダロンは,除細動成功後にVTまたはVFが再発した場合にも有用である可能性があり,その場合,より少ない用量が10分かけて投与され,その後に持続注入が行われる。

他の薬物: 塩化カルシウムは,高カリウム血症,高マグネシウム血症,低カルシウム血症,またはカルシウムチャネル遮断薬の中毒を有する患者に対して推奨される。他の患者では,細胞内カルシウム量がすでに正常よりも多いため,さらなるカルシウムは有害になりやすい。腎臓透析を受けている患者の心停止は,しばしば高カリウム血症の結果,または高カリウム血症とともに起こるため,こうした患者にはベッドサイドでのカリウム測定ができない場合,カルシウムを試しに投与すると効果が得られる場合がある。カルシウムはジギタリス中毒を悪化させ,また,それ自体が心停止を引き起こしうるので注意が必要である。

硫酸マグネシウムはランダム化比較試験において転帰を改善するとは示されていない。しかしながら,トルサード型心室頻拍の患者,マグネシウム欠乏の患者またはその疑いのある患者(すなわち,アルコール中毒,長期の下痢)において役立つ可能性がある。

プロカインアミドは,難治性のVFまたはVT治療の第2選択薬である。しかしながら,プロカインアミドは,小児のPEAには推奨されない。

フェニトインはVFまたはVTの治療にほとんど使用されないが,ジギタリス中毒が原因の場合および他の薬物が効かない場合にのみ用いられる。リズムが改善するまで,または総投与量が18mg/kgに達するまで,50mg/分で投与する。

炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)は,心停止の原因が高カリウム血症,高マグネシウム血症,または複雑な心室性不整脈を伴う三環系抗うつ薬の過剰服用時でなければ,もはや推奨されない。小児において,心停止が長引いている(10分を超える)場合,NaHCO3の使用を考慮すべきである;換気が適切な場合のみ投与する。NaHCO3を使用する場合,注入前と投与50mEq(小児では1〜2mEq/kg)毎に動脈pHをモニタリングすべきである。

CPRのあいだ,リドカインおよびブレチリウムはもはや使用しない。

調律障害の治療

VF/無脈性VT は1回のDCショックによって治療するが,できれば二相性波形を用い,また,心マッサージの中断はできるだけ少なくする。推奨エネルギーレベルは異なる:二相性波形の電気ショックでは120〜200ジュール,単相性波形の電気ショックでは360ジュールである。これが成功しなければ,エピネフリン1mg,静注で3〜5分毎に反復投与を行う。代用として,バソプレシン40Uの静注が一度だけ投与できる(小児には行わない)。同ネルギーレベルの除細動をそれぞれの薬物投与から1分後に試みる(二相性波形で治療する場合エネルギーレベルを電気ショックごとに段階的に上昇させることが効果があるかどうかは不明である)。VFが持続する場合,アミオダロン300mgを静注する。その後,VF/VTが再発する場合は,150mgを投与し,続いて1mg/分の注入を6時間毎に行い,その後0.5mg/分とする。(小児のエネルギーレベルについては呼吸停止と心停止: 小児の蘇生の指針表 4: 表を参照;用量については呼吸停止と心停止: 蘇生に用いる薬物*表 3: 表を参照。)

表 4

PDF 小児の蘇生の指針

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心静止(asystole)に似た波形がモニターリードの緩みや接続の切断によって示されるので,モニターの接続を確認し,代わりのリードにおいてリズムを見るべきである。心静止が確認され,心ブロックが疑われる場合,経皮的ペーシングを実施し,患者はエピネフリン(1mg,静注で3〜5分毎),およびアトロピン(1mg,静注で3〜5分毎に総用量0.04mg/kgまで)を反復投与する。電気的ペーシングはまれに成功するが,効果を発揮させるには,早期に開始しなければならない。重要なことだが,アトロピンとペーシングは心静止の小児には禁忌である。心静止に対する除細動は(“細かいVFの可能性”もあるかもしれないが),電気ショックが灌流のない心臓を傷つけるため勧められない。

脈なし電気活動(PEA) は,心電図上電気波形がみられるにもかかわらず生じる循環虚脱である。脈なし電気活動を有する患者は,0.9%生理食塩水500〜1000mL(20mL/kg)およびエピネフリン0.5〜1.0mg(静注)を3〜5分毎に反復投与する。もし心拍数が60回/分未満ならば,アトロピン0.5〜1mgを静注する。心タンポナーデは脈なし電気活動を起こす場合があるが,これは通常,すでに心膜液のある患者または広範囲に胸部外傷を有する患者に起こる。そのような状況においては,直ちに心膜穿刺術を行う(心膜炎: 心膜穿刺術。を参照 図 2: イラスト)。タンポナーデは心停止のまれな原因だが,疑われる場合は心膜穿刺術または,直ちに利用できるならば,超音波検査によって確認できる。

蘇生術の終了

CPRは心肺機能が安定するか,患者が死を宣告されるか,1人きりの救助者が体力的に蘇生を続けられなくなるまで続けなければならない。低体温の患者に心停止が起きた場合,CPRは体温が34°Cに上昇するまで継続すべきである。

死を宣告するという決定はいくぶん主観的で,処置までの心停止の時間,年齢,それまでの健康状態,およびその他の要因を考慮に入れるが,通常はCPRおよびACLSから30〜45分後に心拍再開(ROSC)できていない時点で決定される。

蘇生後の管理

心拍再開は蘇生の中間目標にすぎない。生存退院できる患者はROSCの患者のわずか3〜8%である。良好な転帰を得るために,生理学的パラメータを最適にし,基礎症状を治療しなければならない。成人においては,心筋梗塞(冠動脈疾患: 急性冠症候群(ACS)を参照 )を認識し,迅速に再灌流療法(例,血栓溶解,経皮的冠動脈形成術)を開始することは特に重要である。注意:激しいCPRの後の血栓溶解は,ときに心タンポナーデを引き起こす。

蘇生後の臨床検査としてはABG,CBC,血液生化学(電解質,血糖値,BUN,クレアチニンおよび心疾患マーカーを含む)などがある。(クレアチンホスホキナーゼは,CPRによる筋骨格損傷が原因で通常上昇する。)動脈Pao2は正常値(80〜100mmHg)の近くに保たれるべきである。ヘマトクリット(Hct)は30以上に,血糖値は80〜120mg/dLに維持されるべきで,電解質,特にKは正常範囲内であるべきである。

血圧のサポート: 平均動脈圧(MAP)は,高齢者では80mmHgを超えるように,また比較的若くそれまで健康だった患者では60mmHgを超えるように維持するべきである。高血圧の患者では,適切な目標値は,収縮期血圧が心停止前の値より30mmHg低値である。

平均動脈圧が低い患者または左室不全の徴候を有する患者では,肺動脈カテーテルモニタリング(重症患者へのアプローチ: 肺動脈カテーテルモニタリングを参照 )で心拍出量,肺動脈楔入圧(PAOP),および混合静脈血O2飽和度(末梢循環の指標)を測定すると,治療指標の調節が可能となり,効果が得られることがある。混合静脈O2飽和度は60%を超えているべきである。

低いMAPと低い中心静脈圧または低いPAOPを有する患者には,0.9%生理食塩水による輸液負荷を250mLずつ増加させながら注入すべきである。中等度に低いMAP(70〜80mmHg)と正常または高い中心静脈圧/PAOPを有する高齢者には,変力薬,例えばドブタミン(2〜5μg/kg/分から始める)を投与する場合がある。代用薬としては,アムリノンまたはミルリノンが用いられる(呼吸停止と心停止: 蘇生に用いる薬物*表 3: 表参照)。これらが効果を示さないならば,変力作用および血管収縮作用のあるドパミンの使用を考慮すべきである。代わりとなる薬物は,エピネフリンおよび末梢神経収縮薬のノルエピネフリンおよびフェニレフリンである(呼吸停止と心停止: 蘇生に用いる薬物*表 3: 表参照)。血管作動薬は血管抵抗を上昇させ,臓器灌流を特に腸間膜床において低下させるため,低-正常のMAPを達成するために最小限の用量で使用されるべきである。またこれらの薬物は,心臓の能力が蘇生後の心機能障害によって低下している場合,心臓の仕事量を増加させる。遷延した心筋梗塞の可能性がある患者において,MAPが70mmHg未満のままなら,大動脈内バルーン-カウンターパルセーションを考慮すべきある。正常なMAPと高い中心静脈圧/PAOPを有する患者は,変力薬による治療,またはニトロプルシドやニトログリセリンによる後負荷軽減のいずれかで好転する場合がある。

大動脈内バルーン-カウンターパルセーションは,薬物では治療が難しい左室ポンプ不全を原因とする低心拍出量循環状態を補助することが可能である。バルーンカテーテルは,経皮的または動脈切開によって大腿動脈から挿入され,胸部大動脈の左鎖骨下動脈のわずかに手前の位置まで逆行性に進められる。そのバルーンは拡張期のたびに膨らみ,冠動脈血流を増加させ,収縮期のあいだは萎んで後負荷を軽減させる。この方法は,ショックの原因が手術または経皮的インターベンションによって潜在的に修正可能である場合(例,主要な冠動脈の閉塞を伴う急性心筋梗塞,急性僧帽弁閉鎖不全,または心室中隔欠損)の,一時しのぎの手段として基本的には価値がある。

調律障害の処置: VFまたはVTは蘇生後に再発する場合があるが,予防的な抗不整脈薬は生存率を向上させず,もはや適応ではない。しかしながら,そのような調律を呈する患者は,プロカインアミドまたはアミオダロンを用いて,前述の通りに治療されることがある。

蘇生後の速い上室性頻拍は,心停止および蘇生に伴う高濃度のβ-アドレナリン作動性カテコールアミン(内因性および外因性の両方)が原因で頻繁に起こる。これらの調律は,極端であったり,遷延したり,または低血圧や冠虚血の徴候に関連するならば,治療されるべきである。エスモロールの投与は静注で50μg/kg/分から始める。

急性心筋梗塞に関連しないVFまたはVTによる心停止の患者は,植え込み型除細動器(ICD)の候補者である。最近のデバイスはペースメーカーと同様に植え込まれ,心臓内のリードおよび,ときには皮下の電極を有する。それらは不整脈を感知し,除細動または心臓ペーシングを適応に応じて行う。

神経学的なサポート: 心停止からの蘇生後に成人の8〜20%は,ある程度の中枢神経系機能障害を経験する。低酸素性脳障害は,直接的なニューロンの虚血性損傷および脳浮腫により生じる(呼吸停止と心停止: 病態生理を参照 )。障害は蘇生後48〜72時間に進行する可能性がある。

酸素化および脳灌流圧(低圧を避ける)の維持は,脳の合併症を減少できる。また,高血糖は虚血後の脳を障害するので徹底的に治療すべきで,低血糖が証明された場合を除いては,ブドウ糖投与は避けなければならない。

さらに現在,軽度の低体温状態にすることの効果について納得できる証拠がある。アイスパックによる表面の冷却は,深部体温を30〜34°Cまで低下させることができる。別の冷却法には,心肺バイパスまたは新たに使用可能となった血管内冷却法などがある。

フリーラジカル捕捉薬,抗酸化薬,グルタミン酸阻害薬,カルシウムチャネル遮断薬を含む数多くの薬物療法は,理論上は有益であり,多くは動物による試験では成功しているが,臨床試験で効果を証明しているものはない。

乳幼児および小児におけるCPR

CPRの実施にもかかわらず,乳児および小児の心停止での死亡率は80〜97%である。呼吸停止死亡率はほぼ25%である。神経学的転帰は,しばしば非常に不良である。

CPRを必要とする小児の約50〜65%は1歳未満であり,その大半は6カ月未満である。新生児の約6%で出生時に蘇生術が必要となり(周産期における問題: 新生児蘇生を参照 ),出生時の体重が1500g未満の場合,その発生率は著しく上昇する。

小児のCPRの転帰を報告する際には,標準化されたアウトカムガイドラインに従うべきで,例えば,改訂Pittsburgh Outcome Categories Scaleは脳および全身的な活動の状況を反映する(呼吸停止と心停止: 小児の脳機能に関する分類スケール*表 5: 表参照)。

表 5

小児の脳機能に関する分類スケール*

スコア

分類

説明

1

正常

年齢相応レベルの機能;発達状態が適当な就学前年齢の小児;学童期の小児では普通学級に通っている

2

軽度の障害

年齢相応のレベルで交流できる;コントロールされ,日常の活動を妨げない軽度の神経疾患(例,発作性疾患);就学前年齢小児は軽度の発達遅延がみられる場合があるが,日常生活に関する発達上の全ての目安の75%以上で,10パーセンタイルを超える;学童期の小児は普通学級に通うが,学年は年齢相応ではないか,認知障害のために年相応の学年にはついていけない

3

中等度の障害

年齢相応の機能を下回る;コントロールができず,活動を著しく制限する神経疾患;就学前年齢小児の日常生活に関する発達上の目安のほとんどの活動は,10パーセンタイルを下回る;学童期の小児は日常生活の活動を行うことができるが,認知障害または学習障害のために特殊学級に通う

4

重度の障害

就学前年齢小児の日常生活の活動の目安は,10パーセンタイルを下回り,小児は日常生活の活動を行うために過度に他人に依存する;学童期の小児は学校に通えないほど障害がある;学童期の小児は日常生活の活動のため他人に依存する;就学前および学童期の小児の異常な運動動作には,痛みに対する無目的な,除皮質的な,または除脳的な反応が含まれる

5

昏睡または植物状態

意識がない

6

死亡

 

*どの基準に対しても,分類には機能の最も悪いレベルを用いる。障害は神経疾患が原因の場合のみスコアに加える。評価は医療記録または保護者との面談に基づいて行う。

From Recommended Guidelines for Uniform Reporting of Pediatric Advanced Life Support: The Pediatric Utstein Style; Statement for Health Care Professionals from the Task Force of the American Academy of Pediatrics, the American Heart Association, and the European Resuscitation Council; Pediatrics 96(4):765–779, 1995.

小児CPRと成人CPRの主な相違点

心停止前: 窮迫する小児の徐脈は,心停止が迫っている徴候である。新生児,乳児,幼児では低酸素血症により徐脈となりやすいが,児童では最初は頻脈となる傾向がある。心拍数が60回/分未満で換気補助でも末梢循環不全の徴候を有する乳児または小児は,胸骨圧迫を受けるべきである(呼吸停止と心停止: 胸骨圧迫。図 7: イラスト参照)。心ブロックに伴う徐脈はまれだが,起こりうる。

図 7

胸骨圧迫。

胸骨圧迫。

A:新生児および小さな乳児では,両手で胸囲を包み込めるので,胸骨圧迫には両母指を隣同士に並べて実施することが望ましい。非常に小さな新生児に行う場合は,母指は重ねる。B:乳児には2本指法を用いる。圧迫のあいだ,指は直立させたまま維持すべきである。新生児では,図の位置では低すぎる(つまり,剣状突起またはその下になってしまう);正しい位置は乳頭線のすぐ下である。C:小児に対する胸骨圧迫の手の位置。(Adapted from American Heart Association: Standards and Guidelines for CPR. Journal of the American Medical Association 1992; 268:2251–2281. Copyright 1992, American Medical Association.)

適切な酸素化および換気の後には,エピネフリンが選択薬となる。

血圧は適正なサイズの腕帯で測定すべきであるが,非常に状態の悪い小児では,直接観血的動脈圧モニタリングが必須となる。

血圧は年齢によって変化する。年齢ごとの正常値の下限(5パーセンタイル未満)を覚えるための簡単な指針は以下である:生後1カ月未満,60mmHg;生後1カ月〜1歳,70mmHg;1歳を超える場合,70+2×年齢。したがって,5歳児において低血圧は80mmHg未満(70+2×5)と定義される。非常に重要なのは,小児には強い代償機構(心拍数増加,全身性血管抵抗の上昇)があるため,より長く血圧を維持するということである。一旦低血圧が起こると,心肺停止がすぐに引き起こされる。低血圧が起こる前に,ショックの徴候(心拍数の増加,冷たい四肢,毛細血管再充満時間が2秒を超える,弱い末梢脈拍)を治療するために全力を尽くすべきである。

器具と環境: 器具のサイズ,薬物の用量,およびCPRパラメータは,患者の年齢および体重によって変わる(呼吸停止と心停止: 蘇生に用いる薬物*表 3: 表および呼吸停止と心停止: 小児の蘇生の指針表 4: 表参照)。対象となる器具には,除細動器のパドルまたは電極パッド,マスク,換気バッグ,エアウェイ,喉頭鏡ブレード,気管チューブ,吸引カテーテルなどがある。体重は推測するのではなく実際に測定すべきだが,測定する代わりに,身長をもとに標準的な患者の体重を示す目盛りの付いた市販の測定テープを用いることができる。テープによっては,体重ごとに推奨薬用量および器具の推奨サイズが印刷されたものもある。薬用量は端数を切り捨てなければならず,例えば,2歳半の乳児には2歳児用の用量を投与すべきである。

新生児と小児は体容量に対し体表面積が大きく,皮下組織が少ないため,熱喪失が起こりやすい。CPRの実施中および蘇生後は適度な体外温度環境が重要で,新生児では36.5°C,小児では35°Cまでとする。深部体温35°C未満の低体温では蘇生をより困難にする(前述の蘇生後の低体温の有益な影響とは異なる)。

気道: 上気道の構造は小児では成人と異なる。顔,下顎,外鼻孔は小さく,一方で頭部は大きく,頸部は相対的に短い。舌は口の大きさに対して大きく,喉頭は頸部の比較的高い位置にあり前方へ傾いている。喉頭蓋が長く,気管の最も細い部分が輪状軟骨部の声帯下にあるため,カフなしの気管チューブを使用できる。幼児では喉頭がより前方にあり,喉頭蓋がより柔軟で長いので,通常,喉頭鏡の直ブレードの方が,曲ブレードよりも声帯が見やすい。

調律障害: 心静止において,アトロピンとペーシングは用いない。

VFおよび無脈性VTは心停止の約15〜20%にすぎない。バソプレシンは適応しない。除細動器を用いる場合,絶対的エネルギー量は成人よりも少なく,単相性では2〜4ジュール/kgにすべきである(呼吸停止と心停止: 小児の蘇生の指針表 4: 表参照)。2ジュール/kgから始めて,必要ならば,3回目の除細動ショックまでに最大量の4ジュール/kgに上昇させることが推奨される。小児の二相性除細動によるエネルギー量は低めと考えられるが,まだ確定していない。

成人用ケーブル付きの自動体外式除細動器(AED)を1歳という低年齢の小児に対して用いる場合があるが,小児用のケーブル付きのAED(最大50ジュールの二相性ショック)が,1〜8歳児には望ましい。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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