メルクマニュアル18版 日本語版
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敗血症および敗血症性ショック

ショックおよび輸液蘇生術も参照 。)

敗血症,重症敗血症,および敗血症性ショックは,全身性細菌感染の結果として起こる炎症状態である。重症敗血症および敗血症性ショックでは,組織灌流の重大な減少がみられる。一般的な原因には,グラム陰性菌,ブドウ球菌,および髄膜炎菌などがある。症状はしばしば悪寒戦慄とともに始まり,発熱,低血圧,乏尿,および錯乱を含む。肺,腎臓,肝臓を含む多くの臓器で急性不全が起こる場合もある。治療では,積極的な輸液蘇生,抗生物質の投与,支持療法,ときとして血糖値の徹底的なコントロール,コルチコステロイドおよび活性化プロテインCの投与を行う。

重症度には,幅がある(敗血症および敗血症性ショック: 米国における敗血症表 1: 表参照)。

表 1

米国における敗血症

分類

症例数

粗死亡率(%)

年間死亡者数

敗血症

400,000

15

60,000

重症敗血症(敗血症に加えて臓器不全を有する)

300,000

20

60,000

敗血症性ショック(重症敗血症に加えて難治性低200,000血圧を有する)

200,000

45

90,000

敗血症 = 全身性炎症反応症候群で次の症状の2つ以上を含む:体温が38℃以上または36℃未満;脈拍が90拍/分以上;呼吸数が20回/分以上;白血球数が12,000個/mm3以上または4000個/mm3未満。

Data from Wenzel RP: Treating sepsis. N Engl J Med 2002; 347(13): 966–967.

敗血症は,全身性炎症反応症候群(SIRS)と呼ばれる反応を伴う全身性感染である。SIRSは,数多くの内因性炎症メディエーターが血流へ放出されて起きる全身症状を伴う急性炎症反応である。SIRSは急性膵炎および熱傷を含む重度の外傷によっても起こる。以前から次の2つ以上の項目に当てはまるものと定義されている:

  • 体温が38°C以上または36°C未満
  • 心拍数が90拍/分以上
  • 呼吸数が20回/分以上またはPaco2が32mmHg未満
  • 白血球数が12,000個/μL以上または4000個/μL未満,もしくは幼若型が10%を超える。

しかしながら,これらの基準は現在,示唆的だが診断に役立つほど正確ではないとみなされている。

重症敗血症は,少なくとも1つの臓器の不全の徴候を伴う敗血症である。典型的に,循環器不全は低血圧で示され,呼吸不全は低酸素血症で,腎不全は乏尿で,血液に関する不全は凝固障害で示される。

敗血症性ショックは,重症の敗血症で,初期の輸液蘇生にほとんど反応しない臓器低灌流と低血圧を伴うものである。

病因

敗血症性ショックの症例の大部分は,院内感染によるグラム陰性桿菌またはグラム陽性球菌によって引き起こされ,免疫不全状態の患者,慢性および消耗性疾患患者でしばしば起こる。まれに,カンジダまたは他の真菌によって引き起こされる。ブドウ球菌性および連鎖球菌性毒素によって起こる特殊な型のショックは,毒素性ショックと呼ばれる(グラム陽性球菌: 毒素性ショック症候群を参照 )。

敗血症性ショックは,新生児(新生児における感染症: 新生児敗血症を参照 ),35歳以上の患者,および妊婦でよく起こる。引き起こす原因,素因としては,糖尿病;肝硬変;白血球減少症,特に癌または細胞毒性薬物による治療に関連する場合;気管チューブ,血管または導尿カテーテル,排膿管,および他の異物を含む侵襲的デバイス;抗生物質またはコルチコステロイドを用いた先行する治療などがある。一般的に感染の原因となる部位は,肺および尿路,胆管,消化管を含む。

病態生理

敗血症性ショックの病因は完全には解明されていない。炎症性刺激(例,細菌毒素)が,腫瘍壊死因子およびIL-1を含む炎症性メディエーターの産生を引き起こす。これらのサイトカインは,好中球の内皮細胞への付着を引き起こし,凝血機構を活性化して,微小血栓を生じさせる。また,ロイコトリエン,リポオキシゲナーゼ,ヒスタミン,ブラジキニン,セロトニン,およびIL-2を含む多数の他のメディエーターも放出する。これらは,IL-4およびIL-10などの抗炎症性メディエーターによって拮抗され,ネガティブフィードバックの機構が働いている。

まず,動脈および細動脈が拡張し,末梢動脈抵抗が減少する;心拍出量は典型的な病態では増加する。この段階は“ウォームショック(warm shock)”と呼ばれる。その後,心拍出量が減少し,血圧が下がり(末梢抵抗の増加を伴うまたは伴わない),ショックの通常の特徴が現れる。

心拍出量が増加する段階においてさえ,血管作動性メディエーターは血流に毛細血管(交換血管)を避けさせる(血液の分布異常)。このシャントによって減少した毛細血管流量は微小血栓による毛細血管閉塞とともに,O2運搬を減少させ,CO2および老廃物の除去を障害する。灌流の減少は機能不全を引き起こし,ときに腎臓,肺,肝臓,脳および心臓を含む1つまたは複数の臓器の不全を引き起こす。

凝固障害は,血管内凝固が大量の凝固因子を消費することで,または,それに対する反応として線維素溶解が亢進することで,またしばしばそれらの併発によって生じる。

症状,徴候,診断

敗血症において,患者は典型例では発熱,頻脈,および頻呼吸を呈するが,血圧は正常のままである。一般的に,原因となる感染による徴候がある。重症敗血症または敗血症性ショックが発生するとき,最初の徴候は錯乱または注意力の低下である。血圧は一般的に低下するが,皮膚は温かい。乏尿(0.5mL/kg/時未満)が存在する。その後,四肢が冷たく蒼白になり,末梢のチアノーゼと皮膚の斑状変化を伴う。さらに,不全臓器に特異的な徴候および症状を生ずる。

敗血症は,感染を有する患者で炎症または臓器機能不全による全身性の徴候を生じる患者で疑われる。同様に,敗血症でなければ説明のつかない全身性炎症の徴候を有する患者は,病歴,身体診察,尿検査および尿培養(特にカテーテルを留置された患者),血液の連続培養,他の疑わしい体液の培養を含む検査によって,敗血症かどうかを評価されるべきである。重症敗血症において,プロカルシトニンおよびC反応性蛋白の血中濃度は上昇し,診断の助けとなることもあるが,これらは特異的ではない。究極的には,診断は臨床所見による。

ショックの他の原因(例,循環血液量減少,心筋梗塞)は,病歴,身体診察,心電図および血清心疾患マーカーによって探される。心筋梗塞を伴わない場合でも,低灌流は,非特異的ST-T波異常,T波の逆転,上室性および心室性不整脈を含む虚血の心電図所見を引き起こす場合がある。

CBC,ABG,胸部X線,血清電解質,乳酸濃度または舌下Pco2,および肝機能がこれに加えて検査される。敗血症性ショックの発生時に,白血球数はまず4000個/μL未満まで減少し,多核白血球(PMN)は20%にまで低下することがある。しかしながら,この状況は1〜4時間以内に逆転し,通常,総白血球数が15,000個/μL以上,PMNが80%以上(大部分が幼若型)という有意な変化が生じる。血小板数の50,000個/μL以下までの急激な減少は,しばしば早期に存在する。

呼吸性アルカローシス(Paco2の低下および動脈血pHの上昇)を伴う過換気が早期に生じて,乳酸血症に対して代償する。血清HCO3は通常低く,血中の乳酸は増加する。ショックが進むにつれ,代謝性アシドーシスが進行し,血清pHが低下する。早期の呼吸不全は,Pao2が70mmHg未満の低酸素血症を引き起こす。びまん性浸潤影が胸部X線上に現れることがある(急性肺障害および急性呼吸促迫症候群を参照 )。BUNおよびクレアチニンは,腎機能不全の結果として,通常,進行性に上昇する。ビリルビンおよびトランスアミナーゼは上昇することもあるが,顕性の肝不全は一般的でない。

重症敗血症を有する患者の最大で50%が,相対的な副腎機能不全(すなわち,基礎値のコルチゾール濃度が正常またはわずかに上昇しているが,さらなる負荷または外因性の副腎皮質刺激ホルモン[ACTH]に反応して有意に上昇しない)を生じる。副腎機能は午前8時に血清コルチゾールを測定して検査する;5mg/dL未満の濃度はこのような患者では不十分である。また,合成ACTHの250μg投与の前後にコルチゾールを測定する方法もあり,この場合,9μg/dL未満の上昇は不全とみなされる。しかしながら,ほとんどの医師は検査を行わずに単に補充用量のコルチコステロイドを投与する。

肺動脈カテーテルによる血行動態の測定は,ショックの明確な種類が不明な場合または大量の輸液(例,0.9%生理食塩水4〜5Lを6〜8時間に投与)が必要な場合に用いられる。循環血液量減少性ショックとは違い,敗血症性ショックのあいだの心拍出量は正常ないし増加し,末梢抵抗は減少する傾向が強い。中心静脈圧(CVP)と肺動脈楔入圧(PAOP)は,いずれも異常となる可能性が少なく,循環血液量減少性,閉塞性または心原性のショックとは異なる(ショックおよび輸液蘇生術: 病因と分類を参照 )。心エコー法(経食道エコー法を含む)は,心機能の評価に対する圧評価の代用となる検査として有用である。

予後と治療

敗血症性ショック患者の死亡率は減少しており,現在,平均が40%である(患者の背景によって,10〜90%の範囲に及ぶ)。転帰が不良となるのは,しばしば早期(例,疑われてから6時間以内)に積極的な治療を開始しなかったときである。一旦代償不全性代謝性アシドーシスを伴う重度の乳酸性アシドーシスとなると,特に多臓器不全に関連している場合には,敗血症性ショックは不可逆的で致命的となる。

敗血症性ショックの患者はICUで治療すべきである。以下を頻繁にモニタリングすべきである(重症患者へのアプローチ: 肺動脈カテーテルモニタリングも参照 ):血圧;CVP;パルスオキシメトリー;ABG;血糖値,乳酸,電解質レベル;腎機能,そしてできれば舌下PCO2。腎灌流のよい指標となる尿排出量は,留置カテーテルを用いて測定すべきである。

0.9%生理食塩水を用いた輸液蘇生は,CVPが8mmHg(10cmH2O)に達するか,PAOPが12〜15mmHgに達するまで行うべきである。大量輸液による蘇生は,低血圧を伴う乏尿の患者の禁忌とはならない。必要とされる輸液の量はしばしば正常な血液量をはるかに超え,4〜12時間かけて10Lに達する場合がある。PAOPまたは心エコー法は,左室機能の限界および輸液過剰による初期の肺水腫を同定できる。

敗血症性ショックの患者が,CVPまたはPAOPが目標値まで上昇した後も低血圧が持続する場合,平均血圧を少なくとも60mmHgまで上昇させるためにドパミンを投与してもよい。ドパミン用量が20μg/kg/分を超える場合,他の血管収縮薬(通常はノルエピネフリン)が加えられる。しかしながら,高用量のドパミンおよびノルエピネフリンにより生じた血管収縮は,臓器低灌流およびアシドーシスを引き起こす危険があり,また,これらの薬物は生存率を向上させるとは証明されていない。

O2はマスクまたは鼻プロングによって与えられる。その後,気管挿管および機械的人工換気が呼吸不全のために必要とされることがある(呼吸不全および機械的人工換気を参照 )。

非経口的抗生物質は,血液,体液および創傷部の検体をグラム染色および培養用に採取した後で投与されるべきである。迅速な経験的治療が必須で,命を救える場合もあるが,抗生物質の選択には,疑わしい原因,臨床状況,微生物の知識とその特定の入院病棟に共通する感受性のパターンに関する知識,および事前の培養検査の結果などに基づいた根拠ある推測が必要である。

原因不明の敗血症性ショックに対する1つの投与計画は,ゲンタマイシンまたはトブラマイシン(5.1mg/kg,静注で1日1回)と第3世代セファロスポリン(セフォタキシム2g,6〜8時間毎,またはセフトリアキソン2g,1日1回,もしくはシュードモナスが疑われる場合はセフタジジム2g,静注で8時間毎)の併用投与である。代替案として,セフタジジムとフルオロキノロンの一種(例,シプロフロキサシン)の併用投与を行う場合もある。最大投与量のセフタジジム(2g,静注で8時間毎)またはイミペネム(1g,静注で6時間毎)による単独療法は有効な場合があるが,推奨されない。

耐性ブドウ球菌または腸球菌が疑われる場合には,バンコマイシンを加えなければならない。腹部が発生源の場合には,嫌気性菌に効果のある薬物(例,メトロニダゾール)も含めるべきである。培養および感受性の検査結果が出たら,それに応じて抗生物質の投与計画を変更する。抗生物質はショックが回復して感染の証拠が消失した後も,数日間は投与を続ける。

膿瘍は排膿し,壊死組織(例,梗塞した腸管,壊疽性の胆嚢,膿瘍のできた子宮)は外科的に切除しなければならない。感染部位を除去しない限り,患者の病状は抗生物質治療にもかかわらず悪化し続ける。

糖尿病だと判明していない患者でさえ,血糖値の徹底した正常化は,重篤な状態の患者において転帰を改善する。インスリンの持続静注(亜鉛結晶製剤1〜4U/時)では,血糖値を80〜110mg/dL(4.4〜6.1mmol/L)に保つために投与量を調節する。このアプローチは頻繁な(例,1〜4時間毎)血糖値の測定を必要とする。

コルチコステロイド療法は効果を示す。治療は薬理学的用量よりもむしろ補充用量を用いる。ある投与計画では,ヒドロコルチゾン50mg,静注で6時間毎(または100mg,8時間毎)とフルドロコルチゾン50μg,経口で1日1回の投与で,血行動態が不安定な間,およびその後3日間行う。

活性化プロテインC(ドロトレコギンα)は線維素溶解活性と抗炎症活性を有する組み換え薬で,早期に投与を開始した場合,重症敗血症および敗血症性ショックに有用と思われるが,効果は,APACHE IIスコア(重症患者へのアプローチ: APACHE Ⅱスコアリングシステム*を参照 表 4: 表)が25を超えることで定義される死の危険を伴う患者のみにおいて証明されている。用量は24μg/kg/時で,96時間の持続静注による。出血が最も一般的な合併症なので,禁忌となるのは,3カ月以内の出血性脳卒中,2カ月以内の脊髄または頭蓋内手術,出血のリスクを伴う急性外傷,および頭蓋内腫瘍などである。その他の重篤な出血のリスクが高い患者(例,血小板減少または最近の消化管出血,ヘパリンの併用投与,最近のアスピリンまたは他の抗凝固薬の使用)においては,リスク―利益の評価が必要となる。

重症敗血症に対する他の治療は,高熱に対する冷却および腎不全の早期治療(例,持続血液濾過:v-v)を含む。

内毒素の脂質A分画に対するモノクローナル抗体,抗ロイコトリエン,および腫瘍壊死因子に対する抗体を用いた実験は成功していない。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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