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急性冠症候群(ACS)(不安定狭心症;急性心筋梗塞)

急性冠症候群は急性冠動脈閉塞により引き起こされる。結果は閉塞の程度によって異なり,不安定狭心症から非ST上昇心筋梗塞(NSTEMI),ST上昇心筋梗塞(STEMI),および心臓性突然死まで様々である。症状はこれらの症候群(突然死を除く)のそれぞれにおいて同様であり,呼吸困難,悪心,および発汗を伴うまたは伴わない胸部不快感を含む。診断は心電図および血清学的マーカーの有無により行う。治療は抗血小板薬,抗凝固薬,硝酸薬,β遮断薬,またSTEMIでは線維素溶解薬による緊急再灌流,経皮的インターベンション,または,ときに冠動脈バイパス手術により行う。

米国では,年間約150万件の心筋梗塞が起きており,心筋梗塞による死者数は400,000〜500,000人で,約半数が病院到着前に死亡する(呼吸停止と心停止: 心停止を参照 )。

病因

急性冠動脈症候群(ACS)は通常,急性血栓がアテローム性冠動脈に形成されるときに起こる。アテローム性プラークはときに不安定になるか,または炎症を起こし,破裂または分裂を来し,血栓形成物質を露出させることにより,血小板および凝固カスケードを活性化し,急性血栓を生じさせる。血小板活性には膜糖蛋白Ⅱb/Ⅲa受容体の構造変化が関与しており,血小板の架橋(したがって凝集)を可能にする。ごくわずかな閉塞をもたらすアテロームであっても,破裂して血栓症に至ることがあり,50%を上回る症例において,狭窄は40%未満である。結果として生じる血栓は突然,心筋の各部への血流を阻害する。約23の患者に自然に血栓溶解が起こり,24時間後に血栓性閉塞が認められるのは約30%に過ぎない。しかしながら,実質的に全症例において,閉塞は組織壊死を引き起こすのに十分長い時間持続する。

これらの症候群はまれに,動脈塞栓症によって引き起こされる(例,僧帽弁または大動脈弁狭窄,感染性心内膜炎,または衰弱性心内膜炎において)。コカインの使用およびその他の冠動脈攣縮の原因により心筋梗塞が引き起こされることがある。攣縮誘発性の心筋梗塞が,正常またはアテローム性の冠動脈において生じることがある。

病態生理

初期の結果は閉塞の大きさ,位置,および持続時間により様々で,一過性の虚血から梗塞まで様々である。より新しく,より感度の高いマーカーの測定では,軽度の型であってもいくらかの細胞壊死が起きる可能性があることが示されている;したがって,虚血イベントは連続的なものであり,サブグループへの分類は有益だが,やや恣意的である。急性イベントの後遺症は主に,梗塞した心組織の質量およびタイプによる。

心筋機能障害: 虚血(しかし梗塞していない)組織の収縮力は障害され,結果として運動低下または無収縮部位が生じる;これらの部位は収縮期に拡大または膨隆することがある(奇異性運動と呼ばれる)。罹患領域の大きさにより作用が決定し,軽微〜軽度の心不全から心原性ショックまで様々である。ある程度の心不全が,急性心筋梗塞による入院患者の約23に起こる。心拍出量の減少および心不全が持続する場合は,虚血性心筋症と呼ばれる。乳頭筋に及ぶ虚血は,僧帽弁逆流につながることがある。

心筋梗塞: 心筋梗塞は,心筋部分への突然の冠血流量減少により起こる心筋壊死である。梗塞組織は永久的に機能不全となるが,回復可能性のある虚血領域が梗塞組織に隣接して存在する。

心筋梗塞は主に左室を侵すが,損傷が右室(RV)または心房に及ぶことがある。右室梗塞は,通常,右冠動脈または優位な左回旋枝の閉塞によるもので,右室充満圧の上昇を特徴とし,しばしば重度の三尖弁逆流や心拍出量の減少を伴う。下後壁梗塞により約12の患者にある程度の右室機能不全が生じ,10〜15%に血行動態の異常が認められる。低血圧またはショックを伴い,下後壁梗塞および頸静脈圧上昇がみられるあらゆる患者において,右室機能不全を考慮するべきである。左室梗塞に右室梗塞が合併すると,死亡リスクが有意に高くなる。

前壁梗塞は下後壁梗塞に比べて広範で,予後も不良の傾向にある。これらは通常,左冠動脈,特に前下行枝の閉塞により起こり,下後壁梗塞は右冠動脈または優位な左回旋枝の閉塞を反映する。

貫壁性梗塞は心外膜から心内膜までの心筋全層を含み,通常,心電図上の異常Q波を特徴とする。非貫壁性梗塞や心内膜下梗塞は,心室壁全層までは及ばず,STおよびT波(ST-T)の異常のみを生じる。心内膜下梗塞は通常,壁張力が最も高く,心筋灌流が循環動態変化の影響を最も受けやすい,心筋の内側13に生じる。これらの梗塞は遷延性低血圧の後に生じることがある。心室壁における壊死の深さは臨床的に正確に測定できないため,梗塞は通常,心電図上のST上昇またはQ波の有無により分類される。壊死心筋量は,クレアチンキナーゼの上昇程度および期間から概算できる。

電気的機能不全: 虚血細胞および壊死細胞は正常な電気的活動を行えず,結果として様々な心電図変化(主にST-T異常),不整脈,および伝導障害を引き起こす。虚血のST-T異常には,ST低下(しばしばJ点から下降傾斜),T波逆転,ST上昇(しばしば傷害電流と呼ばれる),および梗塞の超急性期にみられるT波の尖鋭化などがある。伝導障害は,洞結節,房室(AV)結節,または特殊伝導系組織の損傷を反映しうる。ほとんどの変化は一過性で,一部は恒久的である。

分類

分類は心電図上の変化および血中の心臓マーカーの有無による。予後と治療が異なるため,NSTEMIとSTEMIを鑑別することは有用である。

不安定狭心症(急性冠不全,心筋梗塞前狭心症,中間症候群)は次のように定義される:

  • 長時間にわたる(通常20分を超える)安静時狭心症
  • 少なくともカナダ循環器学会(CCS)クラスⅢの重症度の新規発症狭心症
  • 狭心症の進行;以前に診断され,頻度,重症度,持続時間の増大または閾値の低下が著明な狭心症(例,CCSクラスで1段階以上進行,または少なくともCCSクラスⅢに進行)。

また,ST低下,ST上昇,またはT波の逆転などの心電図変化が不安定狭心症の際に起きることがあるが,一過性である。心臓マーカーのうち,CPKは上昇しないが,トロポニンIはわずかに増加することがある。不安定狭心症は臨床的に不安定で,しばしば心筋梗塞または不整脈,または,あまり多くないが,突然死の前兆となる。

非ST上昇心筋梗塞(NSTEMI,心内膜下心筋梗塞)は,急性ST上昇またはQ波を伴わない心筋壊死(血中の心臓マーカーにより証明される)である。ST低下,T波逆転,またはその両方などの心電図変化が現れることがある。

ST上昇心筋梗塞(STEMI,貫壁性心筋梗塞)は,ニトログリセリンにより素早く回復しないST上昇,または新しい左脚ブロックを示す心電図変化を伴う心筋壊死である。Q波が現れることがある。

症状と徴候

ACSの症状は,ある程度は閉塞の範囲と位置によって決まり,非常に様々である。梗塞が大きい場合を除いて,症状のみにより虚血量を判断することは困難である。

急性イベントの後,多くの合併症が起こりうる。それらには通常,電気的機能不全(例,伝導障害,不整脈),心筋機能障害(例,心不全,心室中隔または自由壁の破裂,心室瘤,仮性心室瘤,心原性ショック),または弁機能不全(典型的には僧帽弁逆流)が関与している。電気的機能不全はあらゆる型のACSにおいて重要となりうるが,通常,重大な心筋機能障害を引き起こすには心筋の大部分が虚血性でなければならない。ACSのその他の合併症には,再発性虚血,壁在血栓症,心膜炎,および心筋梗塞後症候群(ドレスラー症候群)がある。

不安定狭心症: 不安定狭心症の症状は狭心症と同じであるが(冠動脈疾患: 症状と徴候を参照 ),異なる点は,痛みまたは不快感がより強く持続時間が長いこと,より軽い労作で誘発されること,安静時に自然発症すること(安静時狭心症),進行性(漸増型)の性質をもつこと,またはこれらの特徴の組み合わせを有することである。

NSTEMIおよびSTEMI: NSTEMIとSTEMIの症状は同じである。イベントの数日〜数週間前に,約23 の患者が不安定狭心症または増強型狭心症,息切れ,および疲労を含む前駆症状を経験する。通常,梗塞の最初の症状は,疼痛または圧迫感として表現される深い胸骨下の内臓痛であり,背部,下顎,左腕,右腕,肩,またはこれら全ての領域にしばしば放散する。痛みは狭心症と類似するが,通常,より重度で長時間持続し,しばしば呼吸困難,発汗,悪心,および嘔吐を伴い,安静またはニトログリセリンにてほとんど軽快しないか,軽快しても一時的にのみである。しかしながら,不快感は軽度のことがあり,急性心筋梗塞の約20%は無症候性で(または患者には疾患として認識されない漠然とした症状を生じる),糖尿病患者においてより一般的である。一部の患者には失神がみられる。患者はしばしば自らの不快感を消化不良と解釈するが,これは特に,自然回復がげっぷまたは制酸薬の摂取に起因すると誤解されるためである。女性は非典型的な胸部不快感を呈する傾向が強い。高齢患者は,虚血性胸痛よりも呼吸困難をより多く訴えることがある。重度の虚血発作では,患者はしばしば重大な疼痛を経験し,不隠状態になり,恐怖感を抱く。特に下壁心筋梗塞で,悪心および嘔吐が生じることがある。左室不全,肺水腫,ショック,または重大な不整脈による呼吸困難および脱力が支配的になることがある。

皮膚は蒼白で,冷たく,発汗がある場合がある。末梢性または中心性チアノーゼを呈することもある。脈は弱く,血圧は様々であるが,初期にある程度の疼痛時高血圧を呈する患者が多い。

心音は通常,やや弱く,第4心音はほとんど常に認められる。心尖部に柔らかい吹鳴様収縮期雑音を聴取することがある(乳頭筋機能不全を反映)。初診時に,摩擦音またはさらに強い雑音が,先在する心障害またはその他の診断を示唆することがある。心筋梗塞症状の発症後数時間以内に聴取される摩擦音は,心筋梗塞よりもむしろ急性心膜炎を示唆する。しかしながら,通常は一過性の摩擦音は一般的にSTEMI後2日目および3日目にみられる。触診したとき,約15%の患者の胸壁に圧痛がある。

右室梗塞では,右室充満圧の上昇,頸静脈の拡張(しばしばクスマル徴候を伴う−心疾患患者へのアプローチ: 静脈を参照 ),明るい肺野,および低血圧などの徴候が認められる。

診断

ACSは,胸痛または胸部不快感を主な症状とする30歳を超える男性および40歳を超える女性(糖尿病患者ではより若い)において考慮するべきである。痛みは,肺炎,肺塞栓症,心膜炎,肋骨骨折,肋骨肋軟骨解離,食道攣縮,急性大動脈解離,腎結石,脾梗塞,または様々な腹部疾患の痛みと鑑別しなければならない(心疾患患者へのアプローチ: 胸痛を参照 )。以前に裂孔ヘルニア,消化性潰瘍,または胆嚢障害の診断が下された患者の場合,臨床医は,新たな症状がこれらの障害に起因すると考えることに慎重にならなければならない。

不安定狭心症,NSTEMI,STEMIを鑑別する初期および経時的心電図,ならびに経時的心臓マーカーの測定を行うが,このアプローチはいずれのACSが疑われるときも同じである。迅速に評価し心電図を記録すべき胸痛患者を直ちに同定するため,全ての救急治療室にトリアージシステムを設けるべきである。パルスオキシメトリーおよび胸部X線検査(特に,大動脈解離を示唆する縦隔拡張を調べるため)も行う。

心電図: 心電図は最も重要な検査で,発症から10分以内に行うべきである。線維素溶解薬はSTEMI患者には有益だが,NSTEMI患者ではリスクが増加することがあるため,心電図は臨床的決断の中心となる。

STEMIの場合,初期心電図は通常,診断に有効で,損傷領域の2つ以上の隣接した誘導に1mm以上のST上昇を示す(冠動脈疾患: 急性左室前壁梗塞(発症から数時間以内に得られた記録)。図 1: イラスト冠動脈疾患: 急性左室前壁梗塞(24時間後)。図 2: イラスト冠動脈疾患: 急性左室前壁梗塞(数日後)。図 3: イラスト冠動脈疾患: 急性左室下壁横隔膜側梗塞(発症から数時間以内に得られた記録)。図 4: イラスト冠動脈疾患: 急性左室下壁横隔膜側梗塞(24時間後)。図 5: イラスト冠動脈疾患: 急性左室下壁横隔膜側梗塞(数日後)。図 6: イラストを参照)。 病的Q波は必ずしも診断に用いられない。特に下方誘導(Ⅱ,Ⅲ,aVF)ではST上昇がわずかであるため,心電図は慎重に判読しなければならない;ときに判読者の注意が,誤ってST低下の誘導に向けられる。症状が特徴的である場合,心電図上のST上昇は,心筋梗塞の診断に対し90%の特異度と45%の感度を有する。経時的な記録(1日目は8時間毎,その後,毎日入手)にて,徐々に安定した正常パターンに向かう場合,または数日の間に異常Q波が深くなる場合は,診断が確定する傾向にある。

図 1

急性左室前壁梗塞(発症から数時間以内に得られた記録)。

急性左室前壁梗塞(発症から数時間以内に得られた記録)。

Ⅰ,aVL,V4,V6誘導で著明な超急性ST上昇がみられ,その他の誘導で相反性低下がみられる。

図 2

急性左室前壁梗塞(24時間後)。

急性左室前壁梗塞(24時間後)。

ST上昇の程度が減少している;Ⅰ,aVL,V4,V6誘導で顕著なQ波の発達およびR波の消失がみられる。

図 3

急性左室前壁梗塞(数日後)。

急性左室前壁梗塞(数日後)。

顕著なQ波およびR波電位の消失が持続している。ST部分は現在,本質的に等電位である。心電図は今後数カ月間,おそらくゆっくりとしか変化しない。

図 4

急性左室下壁横隔膜側梗塞(発症から数時間以内に得られた記録)。

急性左室下壁横隔膜側梗塞(発症から数時間以内に得られた記録)。

Ⅱ,Ⅲ,aVF誘導に超急性ST上昇がみられ,その他の誘導に相反性低下がみられる。

図 5

急性左室下壁横隔膜側梗塞(24時間後)。

急性左室下壁横隔膜側梗塞(24時間後)。

Ⅱ,Ⅲ,aVF誘導で顕著なQ波の発達が,ST上昇の程度の減少とともにみられる。

図 6

急性左室下壁横隔膜側梗塞(数日後)。

急性左室下壁横隔膜側梗塞(数日後)。

ST部分は現在,等電位である。Ⅱ,Ⅲ,aVF誘導にみられる異常Q波は,心筋瘢痕の持続を示す。

非貫壁性(非Q波)梗塞は,通常,心内膜下または心筋中間層にあるため,心電図上,診断可能なQ波や顕著なST上昇を生じない。むしろ非貫壁性(非Q波)梗塞は,さほど顕著でなく,変化し,または非特異的でときに解釈が難しい,様々な程度のST-T異常を呈するに過ぎないことが多い(NSTEMI)。そのような異常が,反復してとった心電図上で消失する(または悪化する)場合,虚血の可能性が非常に高い。しかしながら,反復してとった心電図が変化しないとき,急性心筋梗塞の可能性は低く,なお臨床的に疑われる場合は,診断するためにその他の証拠が必要になる。無痛時にとられた心電図が正常であっても,不安定狭心症は除外されない;疼痛時にとられた正常心電図は狭心症を除外しないが,疼痛が虚血性でないことを示唆する。

右室梗塞が疑われる場合,15誘導心電図が通常記録される;追加誘導がV4Rに置かれ,後壁梗塞を検出するために,V8およびV9にも置かれる。

心筋梗塞の心電図診断は,左脚ブロックの波形があるときはSTEMI変化に似ているためより困難である。QRS波と一致したST上昇は,少なくとも2つの胸部誘導における5mmを超えるST上昇と同様に,心筋梗塞を強く示唆する。しかし一般に,疑わしい症状および新規発症(または陳旧性かどうか不明)の左脚ブロックを有する患者は,STEMIの場合と同様に治療される。

心臓マーカー: 心臓マーカーは,心筋細胞壊死後に血流に放出される心臓酵素(例,CPK-MB)および細胞内容物(例,トロポニンI,トロポニンT,ミオグロビン)である。心臓マーカーは損傷後,それぞれ異なる時期に現れ,異なる速度で減少する(冠動脈疾患: 急性心筋梗塞後の血中の心臓マーカーの相対的な時期およびレベル。図 7: イラストを参照)。通常,いくつかの異なるマーカーを定期的に,典型的には1日に6〜8時間毎に測定する。より便利で新しいベッドサイド検査は,より短い間隔(例,発症後0,1,3,および6時間)で行うと,同程度の良好な感度が得られる。

図 7

急性心筋梗塞後の血中の心臓マーカーの相対的な時期およびレベル。

急性心筋梗塞後の血中の心臓マーカーの相対的な時期およびレベル。

MGB =ミオグロブリン。

トロポニンは心筋梗塞に最も特異的であるが,梗塞を伴わない虚血によっても上昇することがある;値の上昇(実際の数値は用いられた検定により様々である)は,診断に有効と考えられる。不安定狭心症患者においてトロポニン値が境界値近くまで上昇している場合は,有害事象のリスク増加を示すため,さらに評価し治療する必要がある。偽陽性はときに心不全および腎不全で起こる。CPK-MBはわずかに特異度が劣る。偽陽性は腎不全,甲状腺機能低下症,および骨格筋の損傷に伴って生じる。ミオグロビンは心筋梗塞に特異的ではないが,その他のマーカーよりも早く増加するため,診断がつかない心電図を有する患者のトリアージを助ける初期警告徴候となることがある。

その他の検査: ルーチンの臨床検査は診断に寄与しないが,得られた場合は,組織壊死(例,赤血球沈降速度亢進,左方移動を伴う中程度の白血球上昇)に対応する非特異的な異常を示唆する。

心臓マーカーまたは心電図が陽性の場合,診断を下すのに心筋画像(心血管検査および手技: 画像診断法も参照 )は必要ない。しかしながら,心筋梗塞患者では,ベッドサイドの心エコー検査は機械的合併症を検出するのに非常に有用である。ACSを示唆する症状を有するが,診断がつかない心電図および正常な心臓マーカーがみられる患者は,退院前または退院後間もないうちに負荷画像検査(薬理学的負荷または運動負荷を伴う放射性核種または心エコー画像)を受けるべきである。そうした患者の画像異常は,その後3〜6カ月の合併症のリスク増加を示す。

先端にバルーンが付いた肺動脈カテーテルを用いた右心カテーテル法(重症患者へのアプローチ: 肺動脈カテーテルモニタリングを参照 )は,右心圧,肺動脈圧,肺動脈閉塞圧および心拍出量の測定に使用できる。この検査は通常,患者に重大な合併症(例,重度の心不全,低酸素血症,低血圧)がある場合にのみ行われる。

冠動脈血管造影は,診断と治療(例,血管形成術,ステント術)を組み合わせることが最も多い。しかしながら,虚血が生じている証拠(心電図所見や症状)がある場合や,血行動態不安定,再発性心室頻拍,および虚血イベントの再発を示唆するその他の異常を有する患者において,診断的に用いられることがある。

予後

不安定狭心症: 不安定狭心症患者の約30%は発症後3カ月以内に心筋梗塞を発症し,突然死は比較的少ない。胸痛を伴う顕著な心電図変化は,その後の心筋梗塞または死亡のリスクがより高いことを示す。

NSTEMIおよびSTEMI: 全死亡率は約30%で,これらの患者のうち50〜60%は病院到着前に(典型的には心室細動により)死亡する。院内死亡率は約10%(典型的には心原性ショックによるもの)であるが,左室不全の重症度により大きく異なる(冠動脈疾患: 急性心筋梗塞のKILLIP分類と死亡率*表 3: 表を参照)。 心原性ショックにより死亡する患者のほとんどに,左室重量の50%以上を侵す,梗塞または瘢痕と新たな梗塞の混在が認められる。次の5つの臨床所見から,STEMI患者の死亡の90%を予測できる(冠動脈疾患: STEMIにおける30日間の死亡リスク表 4: 表を参照):高齢(全死亡の31%),収縮期血圧低下(24%),Killipクラスが2以上(15%),頻拍(12%),および前壁梗塞(6%)。糖尿病患者および女性は死亡率が高い傾向にある。

表 3

急性心筋梗塞のKILLIP分類と死亡率*

クラス

PAO2

臨床所見

院内死亡率

1 正常 左室(LV)不全の臨床的証拠はみられない 3–5%
2 わずかに減少 軽度〜中等度の左室不全 6–10%
3 異常 重度の左室不全,肺水腫 20–30%
4 重度の異常 心原性ショック:低血圧,頻拍,意識鈍磨,四肢冷感,乏尿,低酸素症 > 80%
*疾患の経過中に,検査を繰り返して算出。
†室内の空気の呼吸時に測定。
Modified from Killip T, Kimball JT: Treatment of myocardial infarction in a coronary care unit. A two-year experience with 250 patients. The American Journal of Cardiology 20:457–464, 1967.

表 4

STEMIにおける30日間の死亡リスク

スコア

危険因子

ポイント

 

年齢 75

3

 

年齢65–74

2

 

糖尿病,高血圧,または狭心症

1

 

収縮期血圧< 100mmHg

3

 

心拍数> 100拍/分

2

 

KillipクラスⅡⅣ

2

 

体重< 67 kg

1

 

前壁ST上昇または左脚ブロック

1

 

治療までの時間>4時間

1

 

可能な合計ポイント

0–14

リスク

 

合計ポイント

30日間の死亡率(%)

 

0

0.8

 

1

1.6

 

2

2.2

 

3

4.4

 

4

7.3

 

5

12.4

 

6

16.1

 

7

23.4

 

8

26.8

 

> 8

35.9

STEMI = ST上昇心筋梗塞。

Based on data from Morrow DA et al: TIMI risk score for ST-elevation myocardial infarction: a convenient, bedside, clinical score for risk assessment at presentation. Circulation 102 (17):2031–2037, 2000 and ACC/AHA guidelines for the management of patients with acute myocardial infarction.

急性心筋梗塞後の最初の入院時に無事に退院した患者の1年死亡率は8〜10%である。ほとんどの死亡は最初の3〜4カ月に起こる。持続性心室性不整脈,心不全,心室機能低下,および再発性虚血は高リスクを示す。多くの専門家が,退院前または6週間以内の負荷心電図を推奨している。運動能力が良好で心電図異常を伴わない場合は,良好な予後に関連しており,それ以上の評価は通常は不要である。運動能力が低い場合は,不良な予後に関連している。

回復後の心機能は,急性発作後に生存しえた機能心筋量に大きく依存する。過去の梗塞による瘢痕は急性損傷を増大させる。左室重量の50%を上回る損傷の場合,長期生存はまれである。

一般的治療

治療は苦痛の軽減,虚血の是正,梗塞サイズの縮小,心仕事量の軽減,ならびに合併症の予防および治療に主眼を置く。ACSは医学的緊急事態であり,転帰は迅速な診断と治療に大きく影響される。

治療は診断と同時に行われる。確実な静注経路を確保し,O2を投与するとともに(典型的には鼻カニューレにて2L),持続的な単一誘導心電図モニタリングを開始しなければならない。救急隊員による入院前の介入(適応があり可能なときの心電図,アスピリンのチュアブル錠,早期血栓溶解療法,および適切な病院へのトリアージを含む)は,死亡および合併症のリスクを低下させうる。

ベッドサイドの心臓マーカー検査は,24時間観察ユニットまたは胸痛センターで管理できる,ACSの疑いがある低リスク患者(例,初期に心臓マーカー陰性および診断しにくい心電図を呈する患者)を同定するのに役立つことがある。より高リスクの患者は,モニタリングされている入院病棟または冠動脈疾患集中治療室(CCU)に入院すべきである。いくつかの有効なツールはリスクの層別化に役立つことがある。心筋梗塞における血栓溶解療法(TIMI)のリスクスコアは,おそらく最も広く使用されている(冠動脈疾患: STEMIにおける30日間の死亡リスク表 4: 表および冠動脈疾患: NSTEMIにおける14日間の有害事象*のリスク表 5: 表を参照)。NSTEMI,および中リスクまたは高リスクの疑いがある患者は,入院治療室に入るべきである。STEMI患者はCCUに入るべきである。

表 5

NSTEMIにおける14日間の有害事象*のリスク

スコア

危険因子

ポイント

 

年齢> 65

1

 

冠動脈疾患の危険因子(3つ以上該当で1ポイント)

1

 

家族歴

 
 

高血圧

 
 

現喫煙者

 
 

コレステロール高値

 
 

糖尿病

 
 

既知の冠動脈疾患(狭窄が50%以上)

1

 

以前にアスピリンを慢性的に使用

1

 

過去24時間に安定狭心症のエピソードが2回

1

 

心臓マーカーの上昇

1

 

リスクのレベルは合計ポイントに基づく:1–2 =低リスク;3–4 =中リスク;5–7 =高リスク。

絶対リスク

 

合計ポイント

 

14日間のイベントリスク(%)*

 

0または1

 

4.7

 

2

 

8.3

 

3

 

13.2

 

4

 

19.9

 

5

 

26.2

 

6または7

 

40.9

*イベントには全ての原因による死亡,心筋梗塞,および,緊急の血行再建を必要とする再発性虚血が含まれる。

NSTEMI =非ST上昇心筋梗塞。

Based on data from Antman EM et al: The TIMI risk score for unstable angina/non-ST elevation MI: A method of prognostication and therapeutic decision making. JAMA 284:835–42, 2000.

ルーチンの継続モニタリングに一貫して有用であるのは,単一誘導心電図で記録された心拍数および調律のみである。しかしながら,一部の臨床医は,一過性の再発性ST上昇または低下を同定するのに,継続的なST部分の記録を伴うルーチンのマルチ誘導モニタリングを推奨している。そのような所見は,症状がみられない患者であっても虚血を示唆し,より積極的な評価および治療を必要としうる高リスク患者を同定する。

資格のある看護師であれば,心電図の不整脈を判読し,その治療のプロトコルを開始できる。全ての要員は心肺蘇生の方法を知っておくべきである。

症状を悪化させる疾患(例,貧血,心不全)は積極的に治療する。

治療室は静かで,落ち着いた,安らげる場所であるべきである。個室(1部屋1床)が望ましく,モニタリングを行いかつ,プライバシーを確保すべきである。通常,訪問者および電話は,最初の数日間は家族に限定される。壁時計,カレンダー,外が見える窓,ならびにラジオ,テレビ,および新聞へのアクセスは,患者を病室に順応させ,孤立感を予防するのに役立つ。

ベッド上安静は最初の24時間は必須である。線維素溶解薬またはPCIを用いた再灌流が成功している患者を含む,合併症(例,血行動態不安定,虚血の進行)のない患者は,初日に椅子に座り,受動運動を開始し,室内便器を使用できる。その後まもなく,トイレへの歩行およびストレスのない事務を許可する。再灌流が成功しない,または合併症がみられる場合は,より長期のベッド上安静が必要となるが,患者(特に高齢患者)はできるだけ早く体を動かすべきである。ベッド上安静が長期化すると,急激に身体機能が低下し,起立性低血圧,運動能力の低下,労作中の心拍数の増加,および深部静脈血栓症のリスク増加を来す。ベッド上安静の長期化により,抑うつおよび無力感も強くなる。

不安,気分変化,否認が一般的に認められる。軽度の精神安定薬(通常,ベンゾジアゼピン)が投与されることが多いが,この種の薬物はほとんど不要と考えている専門家が多い。

抑うつは発症後3日目までに多く出現し,回復期のいずれかの時点でほとんどの患者に認められる。急性期を経過した後の最も重要な課題は,抑うつの管理,リハビリテーション,長期予防プログラムの導入であることが多い。ベッド上安静,活動制限,および障害の重症度の過度の強調は,抑うつ傾向に拍車をかけることになるため,患者はできるだけ早く起座位になり,ベッドから出て,適切な活動に従事することが推奨される。障害の影響,予後,および個別のリハビリテーションプログラムを患者に説明すべきである。

いきみを避けるために便軟化剤(例,ビサコジル)を用いて正常な腸機能を維持することは重要である。尿閉は,高齢者,特に数日間のベッド上安静の後またはアトロピン投与後に一般的である。カテーテルが必要な場合があるが,通常,患者が立位または座位で排尿できる場合は抜去できる。

病院では喫煙が禁止されているため,入院が禁煙を助けることがある。全ての医療従事者は,恒久的に禁煙させるために,相当の努力を払わねばならない。

急性疾患患者はほとんど食欲がないが,少量の美味しい食事は意欲を高めるためによい。患者には通常,Naを2〜3gに減らした1500〜1800kcal/日の軟らかい食事を提供する。Na制限は,心不全の証拠がなければ最初の2日または3日以後は必要ない。患者には,健康的な食事について教育するために用いられる,低コレステロールおよび低飽和脂肪の食事が提供される。

心筋梗塞の胸痛は通常,12〜24時間以内に消失するため,胸痛が持続または後に再発する場合は検査を行う。それにより,再発性虚血,心膜炎,肺塞栓症,肺炎,胃炎,または潰瘍などの合併症が示されることがある。

薬物

血塊形成を避ける抗血小板薬および抗血栓薬は,ルーチンに使用される。抗虚血薬(例,β遮断薬,静注ニトログリセリン)は,特に胸痛または高血圧がみられるときに頻繁に追加される(冠動脈疾患: 冠動脈疾患に対する薬物表 2: 表を参照)。 線維素溶解薬(冠動脈疾患: 米国で利用できる静注線維素溶解薬表 6: 表を参照)はときにSTEMIに対して用いられるが,不安定狭心症またはNSTEMIの転帰を悪化させる。

表 6

PDF 米国で利用できる静注線維素溶解薬

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胸痛はモルヒネまたはニトログリセリンにより治療できる。モルヒネ2〜4mgの静注を必要に応じて15分毎に反復投与することは非常に効果的であるが,呼吸および心筋収縮力を抑制する恐れがあり,また,強力な静脈拡張作用を有する。モルヒネによる二次的な低血圧および徐脈は,通常,速やかに下肢を挙上することにより回復させることができる。ニトログリセリンは最初に舌下投与され,その後,必要な場合は持続点滴静注を行う。

ほとんどの患者は救急治療室到着時に,血圧が正常,または,わずかに上昇しているが,血圧はその後数時間で次第に低下していく。高血圧が持続する場合は,血圧を低下させ心仕事量を減少させるために,降圧薬療法,できれば静注ニトログリセリンによる治療が必要である。重度の低血圧,またはその他のショック徴候は予後不良を示すため,静注輸液および,ときに昇圧薬により積極的に治療しなければならない(ショックおよび輸液蘇生術: 予後と治療を参照 )。

抗血小板薬: 例えば,アスピリン,クロピドグレル,チクロピジン,および糖蛋白(GP)Ⅱb/Ⅲa阻害薬などがある。禁忌でなければ,全ての患者にアスピリン160〜325mg(腸溶性でない)を初診時に,およびその後,81mg,1日1回を恒久的に投与すべきである。飲み込む前に,初回量を噛み砕いて服用すると吸収が速くなる。アスピリンは短期および長期の死亡リスクを低下させる。アスピリンを服用できない場合は,クロピドグレル75mg,1日1回またはチクロピジン250mg,1日2回を使用することがある。チクロピジンには好中球減少症のリスクがあり,白血球を定期的にモニタリングしなければならないため,チクロピジンの代わりに主にクロピドグレルがルーチン使用されている。早期のインターベンションが計画されていない不安定狭心症またはNSTEMIを有する患者では,アスピリンとクロピドグレルの両方が少なくとも1カ月間投与される。

GPⅡb/Ⅲa阻害薬(アブシキシマブ,チロフィバン,エプチフィバチド)は,静注投与すべき強力な抗血小板薬である。それらはPCIとともに,特にステント留置したときに用いられるのが一般的であり,その結果は,薬物が少なくともPCIの6時間前に開始される場合に良好なようである。PCIを行わない場合,GPⅡb/Ⅲa阻害薬は高リスク患者,特に心臓マーカーが上昇している患者,適切な薬物療法にもかかわらず症状が持続する患者,またはその両方の患者に投与される。GPⅡb/Ⅲa阻害薬は24〜36時間継続し,注入期間が終了する前に血管造影を行う。線維素溶解薬との併用によるGPⅡb/Ⅲa阻害薬のルーチン使用は,このときは推奨されない。

抗血栓薬: 禁忌(例えば,活動性の出血,または,ストレプトキナーゼもしくはアニストレプラーゼの使用)でない限り,低分子量ヘパリン(LMWH)または未分画ヘパリンのどちらかをルーチン投与する。不安定狭心症およびNSTEMIの場合,どちらの薬物も使用できる。STEMIの場合,薬物の選択は再灌流の方法による。未分画ヘパリンを用いる場合,活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を6時間後にモニタリングし,その後,対照値の1.5〜2倍になるまで6時間毎にモニタリングする;LMWHでは,aPTTの測定は不要である。

エノキサパリンは選択すべきLMWHで,入院時に開始すると最も効果的である。ナドロパリンおよびダルテパリンも効果的である。新しい直接抗血栓薬であるヒルジンおよびビバリルジンの有用性については,さらなる臨床試験が必要である。

β遮断薬: 禁忌(例えば,徐脈,心ブロック,低血圧,または喘息)でない限り,特にハイリスク患者にはこれらの薬物が推奨される。β遮断薬は心拍数,動脈圧,および収縮力を低下させ,それにより心仕事量およびO2需要が減る。最初の数時間以内に投与される静注β遮断薬は,梗塞サイズ,再発率,心室細動発生率,および死亡リスクを減少させることにより,予後を改善する。梗塞サイズは回復後の心機能を大部分決定する。

心拍数および血圧は,β遮断薬による治療の間,注意深くモニタリングしなければならない。徐脈または低血圧が生じた場合は減量する。副作用が過度の場合は,βアドレナリン作動薬のイソプロテレノール1〜5μg/分を静注することにより回復することがある。

硝酸薬: 短時間作用型の硝酸薬であるニトログリセリンは,特定の患者において心仕事量を減らすのに用いられる。ニトログリセリンは静脈,動脈,および細動脈を拡張させ,左室前負荷および後負荷を軽減する。その結果,心筋のO2需要が低下し,虚血が軽減する。心不全,広範前壁梗塞,持続性胸部不快感,または高血圧を有する患者には,最初の24〜48時間に,ニトログリセリンの静注投与が推奨される。血圧は10〜20mmHg低下させてよいが,収縮期血圧80〜90mmHg未満には低下させない。長期使用は,再発性胸痛または持続性肺うっ血を有する患者に有益となることがある。ハイリスク患者では,最初の数時間に投与されるニトログリセリンは,梗塞サイズを縮小させ,短期死亡リスクを改善し,長期死亡リスクも改善する可能性がある。ニトログリセリンは,心筋梗塞に合併症を伴わない低リスク患者にはルーチン投与しない。

他の薬物: ACE阻害薬は心筋梗塞患者,特に前壁梗塞,心不全,または頻拍を伴う患者の死亡リスクを低下させるようである。回復初期では,高リスク患者において最も効果が大きい。ACE阻害薬は血栓溶解療法後24時間以上経過し安定してから投与すべきであり,持続的に薬効が得られるため,長期処方されることがある。

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は,(例えば咳のために)ACE阻害薬に忍容性がない患者の効果的な代替薬になりうる。現在,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は,心筋梗塞後の第一選択の治療法ではない。禁忌には,低血圧,腎不全,両側腎動脈狭窄,およびアレルギーの既往がある。

不安定狭心症およびNSTEMIの治療

薬物は前述のように投与される。LMWHか未分画ヘパリンのどちらかを用いることができる。特定の患者では,PCI(またはときにCABG)も使用されることがある。線維素溶解薬は,不安定狭心症やNSTEMIには適応がない。リスクが潜在的有益性を上回る。

PCI: 緊急PCIは,不安定狭心症やNSTEMIにルーチンには適応されない。しかしながら,PCIを伴う早期の血管造影(可能であれば入院から72時間以内)は,ハイリスク患者(冠動脈疾患: STEMIにおける30日間の死亡リスク表 4: 表を参照),特に血行動態不安定,心臓マーカーの著明な上昇,またはその両方がみられる患者,および,最大限の薬物療法にもかかわらず症状がみられる患者に適応される。このアプローチは,GPⅡb/Ⅲa阻害薬も用いられるときには特に,転帰を改善する。中リスク患者および持続性心筋虚血の証拠がある患者では,原因病変を同定するため,また,その他の病変の範囲と左室機能を評価するために,早期の血管造影が適応となる。したがって,PCIまたはCABGの潜在的有益性を決定できる。

STEMIの治療

前述のように,アスピリン,β遮断薬,および硝酸薬が投与される。ヘパリンまたはLMWHはほぼ常に用いられ,選択すべき薬物は再灌流の方法によって決まる。

STEMIでは,侵された心筋への血流をPCIまたは線維素溶解薬によって速やかに回復させることにより,死亡リスクが劇的に減少する。緊急CABGは,冠動脈の解剖学的構造が複雑な患者(緊急血管造影中に認められる)の約3〜5%において最良である。PCIが成功しない,または(例えば,急性冠動脈解離において)使用できないときもCABGを考慮しなければならない。熟練した外科医が行う場合,急性STEMIに対するCABGの死亡率は約4〜12%で,合併症発生率は20〜43%である。

PCI: 心筋梗塞発症の3時間以内に熟練者が行えば,PCIは線維素溶解薬よりも効果的で,再灌流の好ましい方法である。しかしながら,PCIがその間に利用できない場合や禁忌の場合は,静注の線維素溶解薬を用いる。facilitated PCI(血栓溶解療法を併用するPCI)では,PCI施行前に線維素溶解薬を患者に投与する。PCI施行前に線維素溶解薬を投与すべき正確な時間枠は未だ明らかでない。

後で施行するPCIの適応には,血行動態不安定,線維素溶解薬に対する禁忌,経静脈ペーシングが必要または保留中の悪性不整脈,電気的除細動を繰り返し必要とする悪性不整脈,および,75歳を上回る年齢が含まれる。胸痛またはST上昇が血栓溶解薬の投与開始後60分以上持続する場合,または,胸痛およびST上昇が再発するが再発後90分以内にPCIを開始できる場合にのみ,線維素溶解薬投与後のPCIを考慮すべきである。PCIが利用できない場合は,線維素溶解薬を反復投与できる。

PCI施行後,特にステントを使用する場合,アブシキシマブ(好まれるGPⅡb/Ⅲa阻害薬)を用いた補助療法を開始し,その後18〜24時間継続する。

線維素溶解薬(血栓溶解薬): 線維素溶解薬を用いた再灌流は,心筋梗塞発症後最初の数分間から数時間に行われると最も効果的である。線維素溶解薬の投与開始は早いほどよい。目標は,“救急外来入室から血栓溶解療法開始までの(door-to-needle)”時間を30〜60分にすることである。3時間以内に最も効果が大きいが,薬物は最大12時間まで効果的であると考えられる。賛否両論はあるが,訓練を受けたパラメディックによる病院到着前の線維素溶解薬の使用は,治療までの時間を有意に短縮でき,転帰が評価されている。アスピリンと併用すると,線維素溶解薬は院内死亡率を30〜50%低下させ,心室機能を改善する。

線維素溶解薬の心電図基準には,2つ以上の隣接した誘導におけるST上昇,典型的な症状および(陳旧性かどうか不明の)左脚ブロック,純後壁心筋梗塞(15誘導心電図で確認される,V1における大きなR波,およびV1−V4誘導におけるST低下)が含まれる。心筋梗塞の超急性期に巨大T波を呈する患者が少数いる。この所見は現在の線維素溶解薬の基準を満たさず,ST上昇が発現しているかどうかを見るために,20〜30分おきに心電図を繰り返す。

線維素溶解薬の絶対禁忌には,大動脈解離,心膜炎,過去の出血性脳卒中(時期は問わない),過去1年以内の虚血性脳卒中,活動性の内部出血(月経以外),および頭蓋内腫瘍が含まれる。相対禁忌には,(最初の降圧療法後に)180/110mmHgを超える血圧,4週間以内の外傷または大手術,活動性消化性潰瘍,妊娠,出血性素因,圧迫不可能な血管穿刺,および現在,抗凝固療法中(INRが2を超える)であることが含まれる。ストレプトキナーゼまたはアニストレプラーゼの投与を以前に受けたことがある患者にはその薬物を投与しない。

組織プラスミノーゲン活性化因子(TNK),アルテプラーゼ(rTPA),レテプラーゼ(rPA),ストレプトキナーゼ,およびアニストレプラーゼ(アニソイル化プラスミノゲン活性化因子複合体―APSAC)は,全て静注で投与されるプラスミノゲン活性化因子である。それらは,単鎖プラスミノゲンを線溶作用のある二重鎖プラスミノゲンに変換する。これらの薬物は,特徴および投与方法がそれぞれ異なる(冠動脈疾患: 米国で利用できる静注線維素溶解薬表 6: 表を参照)。

組織プラスミノゲン活性化因子は5秒間,単回ボーラス投与され,レテプラーゼは2回ボーラス投与されるため,組織プラスミノゲン活性化因子およびレテプラーゼは最もしばしば推奨される。投与方法がより複雑なその他の線維素溶解薬に比べて,投与時間が短縮し投薬ミスが減少する。アルテプラーゼと同様に,組織プラスミノゲン活性化因子には中程度の頭蓋内出血リスクがあり,その他の線維素溶解薬に比べて再開通率が高く,高価である。レテプラーゼは組織プラスミノゲン活性化因子と同様に,頭蓋内出血のリスクおよび再開通率が最も高く,高価である。

ストレプトキナーゼは,特に以前に使用したことがある場合,アレルギー反応を誘発することがあり,30〜60分かけて注入により投与しなければならないが,頭蓋内出血の発生率は低く,比較的安価である。ストレプトキナーゼに関連したアニストレプラーゼは,同様にアレルギー性で,若干高価であるが,単回ボーラス投与できる。どちらもヘパリンの併用が不要である。両方とも,再開通率はその他のプラスミノゲン活性化因子よりも低い。

アルテプラーゼは,迅速または初回負荷法により90分かけて投与する。アルテプラーゼは,静注へパリンの併用により開通性が改善し,非アレルギー性で,その他の線維素溶解薬に比べて再開通率が高く,高価である。

抗血栓薬: ストレプトキナーゼまたはアニストレプラーゼを投与するか,またはその他の禁忌が存在する場合を除いて,未分画静注ヘパリンまたはLMWHを全てのSTEMI患者に投与する。ヘパリンを用いる場合,aPTTを6時間後にモニタリングし,その後6時間毎に,aPTTが対照値の1.5〜2倍になるまでモニタリングする;LMWHではaPTTの測定は不要である。患者の血栓塞栓イベントのリスクが高い場合,抗血栓薬を72時間以上継続することがある。

組織プラスミノゲン活性化因子と併用するLMWHのエノキサパリンは,未分画ヘパリンと同様に効果的で,費用対効果が高いようである。エノキサパリンと,アルテプラーゼ,レテプラーゼ,またはPCIとの併用は十分に研究されていない。静注投与の直後に最初の皮下投与を行い,血行が再建されるまで,または患者が退院するまで皮下投与を継続する。75歳を上回る患者の場合,エノキサパリンを組織プラスミノゲン活性化因子と併用すると,頭蓋内出血のリスクが増加するようである。これらの患者では,体重に応じた投与量の未分画ヘパリンが選択される。

静注ヘパリンをストレプトキナーゼまたはアニストレプラーゼと併用することは,現在推奨されていない。皮下注ヘパリンの潜在的利益と抗血栓薬不使用の潜在的利益の比較については,明らかでない。しかしながら,全身の塞栓症のリスクが高い患者(すなわち,広範囲前壁心筋梗塞,既知の左室血栓,または心房細動[AF]がある患者)では,ヘパリン静注はその後の血栓塞栓イベント発生率を低下させる。

合併症

電気的機能不全は心筋梗塞患者の90%以上に認められる(不整脈および伝導障害も参照 )。一般的に,最初の72時間に死亡を引き起こす電気的機能不全には,心拍出量を減少させ血圧を低下させるほど速い頻拍(病巣の位置は問わない),モビッツⅡ型ブロック(第2度)または完全(第3度)房室ブロック,心室頻拍(VT),および心室細動(VF)がある。心収縮停止は,進行性左室不全およびショックの末期的所見として以外はまれである。心調律の障害がある患者は,原因または要因となりうる低酸素症および電解質異常について調べる。

洞結節障害: 洞結節に血液供給する動脈が侵されると,洞結節障害が起こりうる;既存の洞結節障害(高齢者に一般的)がある場合に起こりやすい。最も一般的な洞結節障害である洞徐脈は,通常,低血圧がみられるか,または心拍数が50/分未満でない限り治療しない。過度ではないにせよ,心拍数が低い場合は,心仕事量の低下,およびおそらく梗塞サイズの縮小を意味する。(心筋灌流を低下させることがある)低血圧を伴う徐脈の場合,硫酸アトロピン0.5〜1mg,静注が用いられ,反応が不十分な場合は数分後に再投与できる。大量投与は頻拍を誘発する可能性があるため,少量を数回投与するのが最良である。ときに,一時的に経静脈ペースメーカーを挿入しなければならない。

持続的な洞性頻拍は通常,予後不良で,しばしば左室不全および心拍出量の減少を反映する。心不全またはその他の明らかな原因が認められない場合,この不整脈は,緊急度に応じてβ遮断薬を経口投与または静注投与すると反応することがある。

心房性不整脈: 心房性不整脈(心房性異所性収縮,心房細動,そしてあまり多くないが,心房粗動)は心筋梗塞患者の約10%に起こり,左室不全または右房梗塞を反映している場合がある。発作性心房性頻拍はまれで,通常,その既往がある患者に起こる。心房性異所性収縮は通常は良性だが,頻度が増加する場合は原因,特に心不全を検索する。頻回の心房性異所性収縮はβ遮断薬に反応することがある。

心房細動は通常,最初の24時間以内に起きる場合は一過性である。危険因子には,年齢が70歳を上回る,心不全,心筋梗塞の既往歴,広範囲前壁梗塞,心房梗塞,心膜炎,低カリウム血症,低マグネシウム血症,慢性肺疾患,および低酸素症などがある。線維素溶解薬は発生率を低下させる。再発性発作性心房細動は予後不良の徴候で,全身塞栓のリスクを高める。

心房細動では全身塞栓のリスクがあるため,通常,ヘパリンを用いる(不整脈および伝導障害: 心房細動を参照 )。静注β遮断薬(例,アテノロール2.5〜5.0mgを2分間にわたり,総量10mgまで10〜15分で投与,メトプロロール2〜5mgを2〜5分毎に,総量15mgまで10〜15分で投与)は,心室拍動数を減少させる。心拍数および血圧は厳重にモニタリングする。心室拍動数が十分に低下した場合,または収縮期血圧が100mmHg未満に低下した場合は,治療を中止する。静注ジゴキシンは,β遮断薬ほど効果的でないが,心房細動および左室収縮機能不全の患者にのみ,慎重に用いる。通常,効果的に心拍数を減少させるには,ジゴキシン投与から少なくとも2時間かかる。明らかな左室収縮機能不全または幅の広いQRS波を呈する伝導遅延がない患者では,静注ベラパミルまたは静注ジルチアゼムが考慮される。心拍数を長期間コントロールするのに,ジルチアゼムが静注で投与されることがある。

心房細動が循環状態を損なう(例,左室不全,低血圧,または胸痛を引き起こす)場合,緊急の電気的除細動が行われる。電気的除細動後に心房細動が再発する場合は,静注アミオダロンを考慮すべきである。

心房粗動では,心房細動と同様に心拍数のコントロールを行うが,ヘパリンは不要である。

伝導障害: モビッツⅠ型ブロック(ウェンケバッハブロック,PR間隔の漸進的延長)は,下壁横隔膜側梗塞に比較的一般的で,通常,自己限局性で,めったに悪性度の高いブロックに進行しない。モビッツⅡ型ブロック(心拍の欠落)は,幅の広いQRS波を伴う完全心ブロック(心房パルスが心室に到達しない)と同様に,通常,広範囲前壁心筋梗塞を示し,両方ともまれである。完全(第3度)房室ブロックの頻度は梗塞部位による。完全房室ブロックは下壁梗塞患者の5〜10%に起こり,通常は一過性である。完全房室ブロックは,合併症のない前壁梗塞患者の5%未満に起こるが,右脚ブロックおよび左脚後枝ヘミブロックを有する患者では最大26%に起こる。

モビッツⅠ型ブロックは通常,治療の必要がない。心拍の欠落を伴う真のモビッツⅡ型ブロックまたは徐脈を伴う幅の広いQRS波の房室ブロックでは,一時的な経静脈ペーシングが選択すべき治療である。一時的な経静脈ペースメーカーを留置できるまで,体表式ペーシングが使用できる。イソプロテレノール注入は一時的に心調律および心拍数を回復することがあるが,2需要および不整脈のリスクを増加させることから,使用されない。アトロピン0.5mg,3〜5分毎,総量2.5mgまでは,心室収縮回数の減少を伴う幅の狭いQRSの房室ブロックに有用なことがあるが,幅の広いQRSを伴う新たな房室ブロックには推奨されない。

心室性不整脈: これらの不整脈は一般的で,低酸素症,電解質不均衡(低カリウム血症,おそらく低マグネシウム血症),または(電気的活性のない)梗塞組織に隣接した虚血細胞における交感神経の過剰亢進により引き起こされることがある。心室性不整脈の治療可能な原因を検索し,それを治療する。血清カリウム濃度は4.0mEq/L以上に維持すべきである。塩化カリウムの静脈投与が推奨され,通常,10mEq/時を注入できるが,重度の低カリウム血症(カリウム濃度が2.5mEq/L未満)では,中心静脈ラインを介して20〜40mEq/時を注入できる。

心筋梗塞後によくみられる心室性異所性収縮に,特異的治療は必要ない。

非持続性心室頻拍(30秒未満)および心拍数が少ない持続性心室頻拍(促進型固有心室調律)で血行動態不安定を伴わない場合は,通常,最初の24〜48時間に治療する必要がない。多形性心室頻拍,持続性(30秒以上)単形性心室頻拍,または不安定症状(例,心不全,低血圧,胸痛)を伴うあらゆる心室頻拍は,同期式電気的除細動にて治療する。血行動態不安定を伴わない心室頻拍は,静注リドカイン,プロカインアミド,またはアミオダロンを用いて治療できる。一部の臨床医は,血清マグネシウム濃度が低いかどうかにかかわらず,硫酸マグネシウム2g,静注を5分間かけて投与して複雑な心室性不整脈を治療している。心室頻拍は心筋梗塞の数カ月後に起きることがある。後期の心室頻拍は貫壁性梗塞患者においてより起こりやすく,持続しやすい。

心室細動は,心筋梗塞発症後最初の24時間(通常は6時間以内)に,患者の5〜12%に起こる。後期の心室細動は通常,持続性または再発性の心筋虚血を示し,血行動態の悪化を伴う場合は,予後不良の徴候である。心室細動は,直ちに非同期電気的除細動にて治療する(呼吸停止と心停止: 調律障害の治療を参照 )。

早期心筋梗塞において静注β遮断薬投与,その後,経口β遮断薬を継続投与すると,心室性不整脈(心室細動を含む)の発生率,および心不全や低血圧でない患者の死亡率が低下する。その他の薬物(例,リドカイン)による予防治療は死亡リスクを増加させるため,推奨されない。

急性期の後,複雑な心室性不整脈または非持続性心室頻拍により,特に重大な左室収縮機能不全を伴う場合は,死亡リスクが増加する。植込み型除細動器(ICD)を考慮すべきである。プログラムされた心内膜刺激は,最も効果的な抗不整脈薬を選択する,またはICDの必要性を決定するのに役立つことがある。抗不整脈薬またはICDを用いて治療する前に,冠動脈造影およびその他の検査を行い,PCIまたはCABGが必要としうる再発性心筋虚血を検索する。

心不全: 大きな梗塞がある(心電図または血清マーカーによる)患者,および機械的合併症,高血圧,または拡張機能不全がある患者は,心不全をより発症しやすい。臨床所見は梗塞サイズ,左室充満圧の上昇,および心拍出量減少の程度による。呼吸困難,肺底部における吸気時のラ音,および低酸素血症がよくみられる。

治療は重症度によって決まる。軽度の症例では,心室充満圧を低下させるループ利尿薬(例えば,フロセミド20〜40mg,静注,1日1回または1日2回)を用いれば十分であることが多い。重症例では,前負荷および後負荷を軽減させるために血管拡張薬(例,静注ニトログリセリン)がしばしば用いられる;治療中,右心(スワンガンツ)カテーテル法により肺動脈閉塞圧を測定することが多い。100mmHgを超える収縮期血圧が維持されている限り,ACE阻害薬を用いる。低用量投与される短時間作用型ACE阻害薬(例,カプトプリル3.125〜6.25mg,経口投与,4〜6時間毎,忍容性に応じて増量)は,初期治療に最適である。最大用量に達したら(カプトプリルは最大50mg,1日3回),長期投与のため長時間作用型ACE阻害薬(例,フォシノプリル,リシノプリル,ラミプリル)に変更する。心不全がニューヨーク心臓学会のクラスⅡまたはそれより悪い場合(心不全および心筋症: ニューヨーク心臓協会(NYHA)の心不全分類を参照 表 1: 表),アルドステロン阻害薬(例,エプレレノン,スピロノラクトン)を追加すべきである。重度の心不全では,大動脈内バルーンパンピングにより,一時的な血行動態サポートが得られることがある。血行再建や外科的修復が実施可能でないときは,心臓移植を考慮する。左室または両室の長期植込み型補助装置が移植へのブリッジとして用いられることがあり,移植が不可能な場合,左室補助装置はときに恒久的治療として用いられる。ときに,そのような装置の使用は回復をもたらし,3〜6カ月で取り外せる。

心不全が低酸素血症を引き起こす場合は,(Pao2を約100mgHgに維持するために)鼻カニューレによりO2を投与する。これは,心筋に酸素を供給し,虚血領域を縮小するのに役立つことがある。

乳頭筋疾患: 乳頭筋機能不全は,梗塞の最初の数時間に約35%の患者で起こる。乳頭筋虚血は僧帽弁尖の接合不全を引き起こすが,これはほとんどの患者で一過性である。しかし一部の患者では,乳頭筋または自由壁の瘢痕により恒久的な僧帽弁逆流が生じる。乳頭筋機能不全は心尖部の収縮後期雑音を特徴とし,典型的には治療しなくても消散する。

乳頭筋断裂は右冠動脈閉塞による下後壁梗塞後に起きることが最も多い。乳頭筋断裂は急性かつ重度の僧帽弁逆流を生じる。乳頭筋断裂は,心尖部の大きな全収縮期雑音および振戦の突然の出現を特徴とし,通常は肺水腫を伴う。ときに,重度の逆流の症状はないが臨床的に疑われる場合に,心エコー検査を行う。僧帽弁の修復術または置換術が効果的である。

心筋破裂: 心室中隔または自由壁の破裂は急性心筋梗塞患者の約1%に起きる。これにより15%の院内死亡が起きる。

心室中隔穿孔はまれであるが,乳頭筋断裂の8〜10倍多い。心室中隔穿孔は,第3または第4肋間胸骨左縁の心尖部より内側における大きな収縮期雑音および振戦の突然の出現を特徴とし,左室不全の徴候の有無にかかわらず,低血圧を伴う。確定診断はバルーンカテーテルを用いて,右房,右室,および肺動脈の血液O2飽和度またはPo2を比較して行う。ドプラ心エコー検査と同様,右室のPo2の有意な上昇により診断できる。治療は手術により行うが,梗塞した心筋が最大限に治癒できるように,心筋梗塞後,最大6週間まで遅延すべきである;血行動態不安定が持続する場合は,死亡リスクが高くても,より早期の手術が適応となる。

自由壁破裂は加齢とともに発生率が上昇し,女性に多い。動脈圧の突然の消失,洞調律の一時的な維持,および多くの場合,心タンポナーデ徴候を特徴とする。手術はまれにしか成功しない。自由壁破裂は,ほとんどが常に致死的である。

心室瘤: 心室壁(通常は左室壁)に限局した膨隆が,大きい梗塞部位に生じることがある。心室瘤は,大きい貫壁性梗塞(通常は前壁梗塞)がある場合は特によくみられる。心室瘤は,数日,数週間,または数カ月間で発生することがある。心室瘤は破裂しにくいが,再発性心室性不整脈,心拍出量の減少,および全身性の塞栓症を伴う壁在血栓につながることがある。奇異性の前胸部運動が視診または触診で認められるとき,心室瘤が疑われる。心電図は持続性ST上昇を示し,胸部X線は心陰影の特徴的な膨隆を示す。心エコー検査は,確定診断および血栓の存在確認のために行われる。左室不全または不整脈が持続するときに,外科的切除が適応となることがある。急性心筋梗塞の際にACE阻害薬を使用すると,左室リモデリングが軽減し,心室瘤の発生率が低下する可能性がある。

仮性心室瘤は左室自由壁の不完全な破裂で,心膜により限局される。仮性心室瘤はほとんど常に血栓を含み,しばしば完全に破裂する。仮性心室瘤は外科的に修復する。

低血圧および心原性ショック: 低血圧は,心室充満の低下または広範囲心筋梗塞に続発する収縮力の喪失によるものと考えられる。頻拍および末端器官の低灌流(尿量の減少,精神錯乱,発汗,四肢冷感)を伴う顕著な低血圧(例,収縮期血圧が90mmHg未満)は,心原性ショックと呼ばれる(ショックおよび輸液蘇生術: 心原性および血管閉塞性ショックも参照 )。心原性ショックでは,肺うっ血が急速に現れる。

左室充満の低下は,特にループ利尿薬による集中治療を受けている患者では,血流量減少に続発する静脈還流量の減少により生じることが最も多いが,右室梗塞を反映することもある。顕著な肺うっ血は,原因として左室収縮力の喪失(左室不全)を示唆する。治療は原因によって決まる。一部の患者では,原因の決定に際し,心内圧を測定するため肺動脈カテーテルを用いる必要がある。肺動脈閉塞圧が18mmHg未満の場合,通常は血液量減少により充満低下が起こりやすく,肺動脈閉塞圧が18mmHgを上回る場合,左室不全が起こりやすい。血液量減少による低血圧では,通常,左心過負荷(左房圧の過度な上昇)を伴うことなく,0.9%生理食塩水を用いた慎重な補液が可能である。しかしながら,ときに左室機能が著しく低下しているため,十分量の補液によって肺水腫を伴うレベル(25mmHgを超える)にまで肺動脈閉塞圧が急上昇する。左房圧が高い場合,低血圧は左室不全によるものと考えられ,利尿薬が無効の場合は,変力作用薬による治療または循環維持療法が必要となることがある。

心原性ショックでは,αまたはβ作動薬が一時的に有効なことがある。ドパミンはαおよびβ1作用をもつカテコールアミンであり,0.5〜1μg/kg/分で投与を開始し,満足すべき効果が得られるまで,または投与量が約10μg/kg/分になるまで増量する。これを上回る投与量は血管収縮に加え,心房性および心室性不整脈を誘発する。β作動薬であるドブタミンは,2.5〜10μg/kg/分を静注,またはそれ以上の用量で投与されることがある。ドブタミンは低血圧を引き起こしたり,悪化させたりすることが多く,末梢血管抵抗の上昇を伴う心拍出量の減少に続発して低血圧がみられる場合に,最も効果的である。血管収縮作用も必要な場合は,ドブタミンよりドパミンが効果的なことがある。難治例では,ドブタミンとドパミンが併用されることがある。大動脈内バルーンパンピングにより,一時的に患者を補助できることが多い。血塊の直接溶解,血管形成術,または緊急CABGにより,心室機能が大幅に改善することがある。冠動脈の解剖学的構造が適していれば,持続性虚血,難治性心室性不整脈,血行動態不安定,またはショックに対してPCIまたはCABGを考慮する。

右室の虚血または梗塞: 右室梗塞はまれに単独で起こり,通常は左室下壁梗塞を伴い,初期徴候として,以前に安定していた患者に低血圧が現れることがある。右側心電図誘導はST変化を示すことがある。0.9%生理食塩水1〜2Lによる水分補給が有効であることが多い。ドブタミンが役立つことがある。硝酸薬および利尿薬は,前負荷(とそれによる心拍出量)を減らし,重度の低血圧を引き起こすため,使用されない。

再発性虚血: 心筋梗塞後12〜24時間に持続または再発するあらゆる胸痛は,再発性虚血を示しうる。心筋梗塞後の虚血性疼痛は,より多くの心筋が梗塞のリスクに曝されていることを示す。通常,再発性虚血は心電図上の可逆的なST-T変化により同定でき,血圧が上昇していることもある。しかしながら,再発性虚血は患者の最大13において無症候性(痛みのない心電図変化)であるため,経時的心電図を1日目は8時間毎,その後,毎日ルーチンにとる。再発性虚血は不安定狭心症と同様に治療する。舌下または静注ニトログリセリンが通常,有効である。虚血心筋を救うために冠動脈造影およびPCIまたはCABGを考慮すべきである。

壁在血栓症: 壁在血栓症は急性心筋梗塞患者の約20%に起こる。左室血栓症を有する患者の約10%に全身性の塞栓が起こり,リスクは最初の10日間が最も高いが,少なくとも3カ月持続する。リスクは,(特に中隔遠位部および心尖部に及ぶ)広範前壁梗塞,拡張した左室のびまん性運動低下,または慢性心房細動を有する患者で最も高い( 60%)。塞栓のリスクを減少させるため抗凝固薬を投与する。禁忌でなければ,十分量の静注ヘパリンを投与し,次いで,ワルファリンを3〜6カ月間投与してINRを2〜3に維持する。拡張した左室のびまん性運動低下,左室瘤,または慢性心房細動がみられる場合は,抗凝固薬を恒久的に継続する。アスピリンが恒久的に使用されることもある。

心膜炎: 心膜炎(心膜炎を参照 )は,心壁を貫通して心外膜に至る心筋壊死の拡大により引き起こされ,急性貫壁性心筋梗塞患者の約13に発症する。心筋梗塞発症後24〜96時間に通常,摩擦音が始まる。摩擦音がこれ以前に聴取されることはまれだが,ときに,出血性心膜炎が心筋梗塞早期に合併する。急性タンポナーデはまれである。心膜炎は,心電図上のびまん性のST上昇および,ときにPR間隔の短縮により診断する。心エコー検査は頻繁に行われるが,通常は正常である。ときに,少量の心膜液貯留,さらには予期しないタンポナーデも検出される。アスピリンまたはその他のNSAIDは通常,症状を軽減する。高用量または長期使用のNSAIDまたはコルチコステロイドは,梗塞の治癒を損なうことがあるため,避けるべきである。

心筋梗塞後症候群(ドレスラー症候群): 心筋梗塞後症候群は,急性心筋梗塞発症数日から数週間後,場合によっては数カ月後に一部の患者に出現し,発生率は,近年低下しているようである。この症候群は,発熱,摩擦音を伴う心膜炎,心膜液貯留,胸膜炎,胸水,肺浸潤巣,および関節痛を特徴とする。この症候群は,壊死した心筋細胞由来の物質に対する自己免疫反応により引き起こされる。心筋梗塞後症候群は再発することがある。心筋梗塞後症候群を,梗塞の拡大または再発と鑑別するのは難しい。しかしながら,心筋梗塞後症候群では,心臓マーカーは有意に上昇せず,心電図変化は非特異的である。NSAIDは通常,効果的だが,何度か症候群が再発することがある。重症例では,他のNSAIDまたはコルチコステロイドによる短期間の集中治療が必要になることがある。高用量のNSAIDやコルチコステロイドは,急性心筋梗塞後の早期心室治癒の妨げとなりうるため,数日以上は使用されない。

リハビリテーションと退院後の治療

退院後最初の3〜6週間で運動量を徐々に増やしていく。患者にとってしばしば大きな関心事である性的活動の再開,および,その他の適度な運動は奨励されることがある。急性心筋梗塞後6週間心機能が良好に維持されれば,ほとんどの患者は全ての通常の活動に復帰できる。ライフスタイル,年齢,および心臓の状態に適した定期的な運動プログラムは,虚血イベントのリスクを低下させ,全般的な健康状態を増進する。

急性疾患およびACSの治療を利用して,患者に危険因子の修正を強く促すべきである。患者の身体および感情の状態を評価し,それらについて患者と話し合い,ライフスタイル(例,喫煙,食事,仕事および趣味,運動)について助言し,積極的に危険因子を管理することにより,予後が改善しうる。

薬物: いくつかの薬物は心筋梗塞後の死亡リスクを明らかに低下し,禁忌または忍容性がない場合を除いて使用される。

アスピリンは,心筋梗塞後の患者において死亡率および再梗塞率を15〜30%低下させる。長期投与には,アスピリン腸溶錠81mg,1日1回が推奨される。データは,アスピリンを伴うまたは伴わないワルファリンが死亡率および再梗塞率を低下させることを示唆している。

β遮断薬は,標準的な治療法と考えられている。最もよく利用できるβ遮断薬(例,アセブトロール,アテノロール,メトプロロール,プロプラノロール,チモロール)は,少なくとも7年間,心筋梗塞後の死亡率を約25%低下させる。

ACE阻害薬は全ての心筋梗塞後患者に投与される。これらの薬物では,内皮機能を改善することにより長期の心保護作用が得られる。咳または発疹(しかし血管性浮腫または腎機能不全でない)のためにACE阻害薬に忍容性がない場合,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬を代用することがある。

HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)が処方される。心筋梗塞後にコレステロール値を低下させると,コレステロール値が高いまたは正常な患者における,再発性虚血イベント発生率および死亡率が低下する。スタチンは,初期のコレステロール値にかかわらず,心筋梗塞後患者に有益と考えられている。HDL低値またはトリグリセリド高値が主な問題である心筋梗塞後患者では,フィブラートが有益なことがあるが,有益性の証拠についてはよく分かっていない。脂質低下薬は,重大な副作用が生じない限り,恒久的に継続すべきである。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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