メルクマニュアル18版 日本語版
検索のヒント
ABCDEFGHI
JKLMNOPQR
STUVWXYZ
記号

セクション

トピック

心房細動

心房細動は速く不規則な心房調律である。症状には,動悸や,ときに脱力感,呼吸困難,前失神状態がある。心房血栓がしばしば形成され,塞栓性脳卒中の重大なリスクが生じる。診断は心電図により行われる。治療には,薬物を用いた心拍数コントロール,抗凝固療法を用いた血栓塞栓症の予防があり,ときに薬物またはカルジオバージョンによる洞調律への変換が行われる。

心房細動は心房内の無秩序型リエントリーを伴う多数の小波に起因している。しかしながら,多くの症例では,心房に隣接する静脈構造(通常は肺静脈)内の異所性起源の発火が心房細動の開始および恐らく維持に関与する。心房では,心房は収縮せず,房室伝導系は多くの電気刺激による衝撃を受けて一定しない興奮伝導および不規則な心室拍動を生み,心拍数は通常は頻拍の範囲内にある。

心房細動は最も一般的な不整脈の1つであり,米国では約230万人の成人が罹患する。男性および白人は女性および黒人よりも心房細動を発症する傾向が強い。有病率は年齢とともに増加する;80歳を超す高齢者のほぼ10%が罹患する。心疾患の患者に起こる傾向があり,心房収縮がないと心拍出量が低下するので,ときに心不全が増悪する。心房収縮の欠如は血栓形成の素因にもなる;脳血管塞栓事象の年間リスクは約7%である。脳卒中のリスクは,リウマチ性弁膜異常,甲状腺機能亢進症,高血圧症,糖尿病,左室収縮機能不全,または血栓塞栓事象の既往を有する患者でより高い。全身性塞栓症は,他の臓器(例,心臓,腎臓,消化管,眼)または四肢の機能不全や壊死も引き起こしうる。

病因と分類

最も一般的な原因は高血圧症,心筋症,僧帽弁または三尖弁の障害,甲状腺機能亢進症,およびアルコール多飲(休日症候群)である。まれな原因には,肺塞栓症,心房中隔欠損および他の先天性心疾患,COPD,心筋炎,心膜炎がある。60歳未満の患者における同定可能な原因を伴わない心房細動は,孤立性心房細動と呼ばれる。

急性心房細動とは,48時間未満に終息する新規発症心房細動である。

発作性心房細動とは,典型的には48時間未満に終息し,正常洞調律に自然に復帰する再発性心房細動である。

持続性心房細動は1週間を超えて持続し,正常洞調律に復帰するためには治療を必要とする。

永続性心房細動は洞調律に復帰させることができない。心房細動の持続が長いほど自然に復帰する頻度は低くなり,心房リモデリングが原因でカルジオバージョンは困難となる。

症状と徴候

心房細動はしばしば無症候性であるが,多くの患者は特に心室拍動が非常に速いとき(しばしば140〜160拍/分)に,動悸,漠然とした胸部不快感,または心不全症状(例,脱力感,浮遊感,呼吸困難)を示す。患者は急性脳卒中,または全身塞栓による他の臓器障害の症状および徴候も呈しうる。

脈拍は不規則であり,頸静脈波ではa波が消失する。心室拍動が速いときには左室の1回拍出量が末梢圧波の生成に十分であるとは限らないため,脈拍欠損(心尖部心室拍動が手首で触知される拍動より速い)が認められうる。

診断

診断は心電図により行われる。所見には,P波の消失,QRS群間のf(細動)波(不規則なタイミング,不規則な形態;300/分を超える拍動では基線の波動は全ての誘導に常に出現するわけではない),および不規則な不規則RR間隔がある(不整脈および伝導障害: 心房細動。図 10: イラストを参照)。他の不規則調律の心電図も心房細動に類似する場合があるが,独立したP波または粗動波の存在から鑑別可能であり,これらはときに迷走神経刺激を用いてより鮮明にできる。筋振戦または電気的干渉はf波に類似することがあるが,基本調律は規則的である。 心房細動は,心室性期外収縮または心室頻拍に類似する現象(アッシュマン現象)も引き起こす。この現象は典型的には,短いRR間隔が長いRR間隔の後に続く場合に起こる;その長い間隔はヒス束下伝導系の不応期を延長させ,その後のQRS波は変行伝導し,典型的には右脚ブロックとなる。

図 10

心房細動。

心房細動。

初期評価では,心エコー検査および甲状腺機能検査が重要である。器質的心疾患(例,左房拡大,過去または現在の虚血を示唆する左室壁運動異常,弁膜異常,心筋症)の評価や,脳卒中の他の危険因子(例,心房血のうっ血または血栓,複雑な大動脈プラーク)の同定に心エコー検査が行われる。心房血栓は心耳に好発し,経胸壁心エコー検査よりは経食道心エコー検査によって極めて高い精度で検出することができる。

治療

新規発症の心房細動患者の場合には,明らかな基礎疾患が疑われれば,入院は有益であるが,再発性の心房細動患者では,他の症状から基礎疾患が示唆されるようなことがなければ入院は不要である。いったん原因が管理されれば,心房細動の治療では心室レートのコントロール,リズムコントロール,および血栓塞栓症の予防に焦点を当てる。

心室レートのコントロール: 持続時間にかかわらず心房細動を呈する患者では,症状を改善し頻脈誘発性心筋症を予防するために心拍数のコントロール(典型的には安静時で80/分未満)が必要となる。

頻拍(例,140〜160拍/分)の急性発作に対しては房室結節遮断薬が静注される(用量に関しては,不整脈および伝導障害: 抗不整脈薬(ヴォーン-ウイリアムズ分類)表 2: 表を参照)。 注意:房室副伝導路が関与する場合(幅の広いQRSにより示される),房室結節遮断薬はWolff-Parkinson-White症候群の患者に用いるべきではない;これらの薬物は副伝導路を介した伝導頻度を増加させるので,心室細動を引き起こす可能性がある。もしカテコールアミン過剰が疑われれば(例,甲状腺疾患において,労作により誘発される症例), β遮断薬(例,メトプロロール,エスモロール)が望ましい;非ジヒドロピリジン系カルシウムチャネル拮抗薬(例,ベラパミル,ジルチアゼム)も有効である。ジゴキシンは最も効果が小さいが,もし心不全が存在すれば望ましい場合もある。これらの薬物は経口で長期の心拍数コントロールに使用できる。β遮断薬,非ジヒドロピリジン系カルシウムチャネル拮抗薬,およびジゴキシン―単独または併用―が無効のときには,アミオダロンが必要となる場合がある。

心拍数コントロール用の薬物に反応しない患者,またはそれを服用できない患者には,完全房室ブロックを惹起するために房室結節の高周波アブレーションを行うことがある;恒久的ペースメーカーの挿入がその後必要になる。房室結節の1伝導路のみのアブレーション(房室結節修正)により,心室に到達する心房興奮数が減少してペースメーカーの必要性がなくなるが,この方法は完全な房室結節のアブレーションよりも効果は小さいと考えられている。

リズムコントロール: 心不全患者または新規発症心房細動に直接起因する他の血行動態不全患者では,心拍出量を改善するために正常洞調律の回復が適応となる。他の症例では,心房細動から正常洞調律への変換が最適であるが,そうすることが可能な抗不整脈薬(クラスⅠa,Ⅰc,Ⅲ)は副作用のリスクを有し,死亡率を増加させうる。洞調律への変換は必ずしも長期抗凝固療法の必要性をなくすわけではない。

急速な除細動には,同期式カルジオバージョンまたは薬物が使用できる。除細動を試みる前に心室拍動を120/分未満に制御するべきであり,もし心房細動が48時間を超えて存在するならば抗凝固療法を行うべきである(除細動は,用いられる方法にかかわらず血栓塞栓症のリスクを増加させる)。 ワルファリンを用いた抗凝固療法(不整脈および伝導障害: 血栓塞栓症の予防を参照 )は,可能な場合,除細動3週間前以前から維持し,心房細動が再発しうるため,無期限に継続するべきである。代わりにヘパリンを用いた抗凝固療法および経食道心エコー検査を実施する場合もある;もし心房内血塊が認められなければ,カルジオバージョンを速やかに行うこともある。

同期式カルジオバージョン(100ジュール,必要に応じて200および360ジュールで続ける)は,患者の75〜90%で心房細動を正常洞調律に復帰させるが,再発率は高い。手技後の洞調律の有効性と維持は,手技の24〜48時間前にクラスⅠa,Ⅰc,またはⅢの薬物を用いることで改善される。カルジオバージョンは,持続時間の短い心房細動,孤立性心房細動,または可逆的な原因を伴う心房細動の患者において効果が高く,左房が拡張しているとき(5cm超),心房心耳の血流が遅いとき,または顕著な構造的心疾患が基礎にあるときにはさほど効果はない。

洞調律に変換するための薬物には,クラスⅠa(プロカインアミド,キニジン,ジソピラミド),Ⅰc(フレカイニド,プロパフェノン),およびⅢ(アミオダロン,ドフェチリド,イブチリド,ソタロール)の抗不整脈薬がある(不整脈および伝導障害: 抗不整脈薬(ヴォーン-ウイリアムズ分類)表 2: 表を参照)。全てが患者の約50〜60%に有効であるが,副作用が異なる。これらの薬物は,β遮断薬または非ジヒドロピリジン系カルシウムチャネル拮抗薬により心拍数がコントロールされるまでは用いるべきではない。これらの抗不整脈薬は,洞調律の長期維持(カルジオバージョンの既往を伴うまたは伴わない)にも用いられる。選択は患者の忍容性による。しかしながら,迷走神経緊張が亢進している安静時または就寝中のみ,またはほぼその場合にのみ起こる発作性心房細動には迷走神経抑制作用を有する薬物(例,ジソピラミド)が特に有効となる可能性があり,労作誘発性心房細動はβ遮断薬を用いることでより効果的に予防しうる。

心不全患者では,ACE阻害薬およびアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は,心房細動の基盤となる心筋の線維化を抑制する可能性があるが,ルーチンの心房細動治療におけるこれらの薬物の役割はまだ明らかにされていない。

血栓塞栓症の予防: カルジオバージョン時およびほとんどの患者の長期治療中には,血栓塞栓症の予防対策が必須となる。

ワルファリンはINR値2〜3に調整して,48時間を超える孤立性心房細動に対する選択的カルジオバージョンの3週間以上前から投与し,カルジオバージョン成功後も4週間継続するべきである。血栓塞栓症の危険因子の存在下では,再発性発作性心房細動,持続性心房細動,または永続性心房細動を呈する患者には抗凝固薬を無期限に継続するべきである。孤立性心房細動の単発エピソードを有する健康な患者には抗凝固療法を4週間行う。

アスピリンはワルファリンよりも効果は低いが,血栓塞栓症の危険因子のない患者またはワルファリンが禁忌の患者に用いられる。INRモニタリングを必要としない直接トロンビン阻害物質であるキシメラガトラン(経口で36mg,1日2回)は,ハイリスク患者における脳卒中予防においてワルファリンと同等と考えられるが,ワルファリン以上に推奨されるためにはさらなる試験が必要である。ワルファリンおよび抗血小板薬が絶対禁忌の場合,左心耳は外科的に結紮するか,経カテーテル装置を用いて縫合する。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

ページの先頭へ

前へ: 房室ブロック

次へ: 心房粗動

イラスト
個人情報の取扱いご利用条件