メルクマニュアル18版 日本語版
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大動脈解離

大動脈解離は,大動脈の内膜の裂傷を通して血液が急激に流入し,内膜と中膜が分離して偽腔が生じることである。内膜の裂傷は原発性のイベントであることも,中膜内の出血に続発することもある。解離は大動脈に沿ってどこにでも生じる可能性があり,近位または遠位に延長して他の動脈に及びうる。高血圧は重要な一因である。症状と徴候には,胸部または背部の引き裂かれるような痛みの突然の発症があり,解離は,大動脈弁閉鎖不全および分枝動脈の循環障害をもたらしうる。診断は画像検査(例,経食道心エコー検査,CT血管造影,MRI,大動脈造影)により行う。治療では常に,積極的な血圧コントロールおよび解離の進行をモニタリングする連続画像検査を行い,上行大動脈解離およびある種の下行大動脈解離には,大動脈の外科的修復術および人工血管留置が必要である。患者の5分の1は病院に到着する前に死亡し,最大で13が術中または周術期の合併症により死亡する。

解離の証拠は全剖検例の1〜3%にみられる。黒人,男性,高齢者,高血圧を有する人は特にリスクが高い。発生率のピークは50〜65歳,または先天性結合組織疾患(例,マルファン症候群)を有する患者の場合は20〜40歳である。

大動脈解離は解剖学的に分類される。ドベーキー分類は最も広く用いられており,上行大動脈で始まり,少なくとも大動脈弓に及び,ときにそれ以降まで及ぶ解離(Ⅰ型;50%);上行大動脈で始まり,上行大動脈に限局される解離(Ⅱ型;35%);左鎖骨下動脈起始部の直下の胸部下行大動脈から始まり,遠位に,またはまれに近位に広がる解離(Ⅲ型;15%)を区別する。より簡略なスタンフォード分類においては,上行大動脈に及ぶ解離(A型)と胸部下行大動脈に限局される解離(B型)とが区別される。大動脈解離は大動脈のどの部位からも始まるが,近位上行大動脈(大動脈弁から5cm以内)または胸部下行大動脈(左鎖骨下動脈起始部の直下)において最も一般的に起こる。典型的には妊娠中または分娩後の女性において,まれに個々の動脈(例,冠動脈,頸動脈)に限局して起こる。

病因と病態生理

大動脈解離は常に,大動脈中膜の変性が先在する場合に起こる。原因には結合組織の疾患および損傷がある(大動脈とその分枝の疾患: 大動脈解離に寄与する条件表 2: 表を参照)。アテローム硬化の危険因子,特に高血圧は,23を超える患者において一因となっている。内膜破裂(患者により原発性のイベントであることも,中膜内の出血に続発することもある)の後に血液が中膜に流入し,動脈に沿って遠位に,またはまれに近位に広がる偽腔を生じる。

表 2

大動脈解離に寄与する条件

カテゴリ

アテローム硬化の危険因子

コカイン

異脂肪血症

高血圧

喫煙

結合組織疾患,後天性

ベーチェット症候群

巨細胞性動脈炎

梅毒

高安動脈炎

結合組織疾患,先天性または遺伝性

大動脈二尖弁

大動脈縮窄

嚢胞性中膜壊死

エーレルス-ダンロー症候群

マルファン症候群

ターナー症候群

家族性胸部大動脈瘤

医原性

大動脈カテーテル法

大動脈弁手術

外傷

減速損傷

解離は,遠位部位の内膜破裂を通って大動脈真腔と再び連絡し,全身血流を維持することがある。しかし,分岐動脈(冠動脈を含む)の血液供給の減少,大動脈弁の拡張および逆流,心不全,外膜を介した心膜または左胸膜腔への血液流入,大動脈の致死的な破裂など,重篤な結果が一般的である。急性解離および発生して2週間未満の解離がこれらの合併症を最も引き起こしやすい;偽腔の血栓形成および真腔と偽腔の連絡が失われたことが証拠により示されれば,2週間以上でリスクは低下する。

大動脈解離の異型には,内膜の明らかな裂傷またはフラップを伴わない壁内の血腫による内膜と中膜の分離,血腫または偽腔を伴わない内膜の裂傷および隆起,アテローム性プラークの潰瘍形成により引き起こされる解離または血腫がある。これらの異型は,古典的な大動脈解離の前駆であると考えられている。

症状と徴候

典型的には,“引きちぎられるような”,または“引き裂かれるような”といった言葉でしばしば形容される,前胸部または肩甲骨間の耐えがたい痛みが突然起こる。痛みは,解離が大動脈に沿って広がるにつれ,しばしば発症部位から移動する。患者の最大20%が,激しい痛みによる失神,大動脈圧受容体の活性化,頭蓋外脳動脈閉塞,心タンポナーデを呈する。

場合によっては患者は脳卒中,心筋梗塞,腸管閉塞,脊髄への血液供給妨害による不全対麻痺または対麻痺,遠位動脈の急性閉塞による四肢虚血を呈する。

患者の約20%が主要動脈の脈拍の部分的または完全な欠損を有し,これは増強と減弱を繰り返すことがある。四肢の血圧には差があることがあり,その差はときに30mmHgを超え,この所見は予後不良を示唆する。大動脈弁閉鎖不全による雑音が,近位解離患者の約50%に聴取される。末梢にも大動脈弁閉鎖不全の徴候がみられることがある。まれに急性重症大動脈弁閉鎖不全により心不全が起こる。血液または炎症性の漿液の左胸膜腔への漏出は,胸水の徴候を引き起こしうる;四肢の動脈の閉塞は,末梢の虚血または神経障害の徴候を引き起こしうる。腎動脈閉塞は乏尿または無尿を引き起こしうる。心タンポナーデは奇脈および頸静脈怒張を引き起こしうる。

診断

胸痛,胸背痛,説明のつかない失神または腹痛,脳卒中,心不全の急性発症を呈するあらゆる患者において,特に四肢の脈拍または血圧が不均等である場合は,大動脈解離を考慮しなければならない。そのような患者には胸部X線が必要である;60〜90%において,縦隔陰影の幅が広がり,通常は発症部位を示す限局性の膨隆を伴う。左胸水がよくみられる。

胸部X線が解離を示唆する場合,患者が安定したら直ちに経食道心エコー検査(TEE),CT血管造影(CTA),または磁気共鳴血管造影(MRA)を行う。内膜のフラップおよび二重の内腔により解離が確定される。

多断面TEEは感度が97〜99%であり,Mモード心エコー検査を併用すると,特異度は100%近い。これはベッドサイドで20分以内で実施でき,造影剤を必要としない。TEEが利用できない場合はCTAが推奨され,陽性適中率は100%,陰性適中率は86%である。

大動脈解離に対するMRAの感度および特異度は100%に近い。しかし,時間がかかり,緊急時には不向きである。おそらく,亜急性または慢性の胸痛のある安定した患者に,解離が疑われるときに用いるのが最良である。

大動脈造影は,手術を検討している場合に選択肢となる。大動脈造影は,解離の原発部位と広がり,大動脈弁閉鎖不全の重症度,大動脈の主要分枝への波及の範囲を確認することに加え,冠動脈バイパス術の同時実施が必要か否かを判断するのに役立つ。大動脈弁閉鎖不全を調べて,同時に大動脈弁を修復または置換すべきか否かを判断するため,心エコー検査も行う必要がある。

心電図はほとんど例外なく実施される。しかし,正常から著しく異常(急性冠動脈閉塞または大動脈弁閉鎖不全における)まで所見に幅があるため,心電図は診断に有用ではない。可溶性エラスチン化合物および平滑筋ミオシン重鎖蛋白質の測定法が研究されており,これらは有望であるようだが,一般には行われていない。血清CPK-MBおよびトロポニンは,解離が心筋梗塞を引き起こしている場合を除き,大動脈解離と心筋梗塞を鑑別するのに役立つ。

血液が大動脈から漏出している場合,ルーチンの臨床検査で軽微な白血球増加および貧血が発見されることがある。LDH増加は,腹腔または腸間膜の動脈幹への波及を示す非特異的な徴候である。

診断的評価の早期に,心胸郭外科医の意見を求めるべきである。

予後

大動脈解離患者の約20%が病院に到着する前に死亡する。治療しない場合,死亡率は最初の24時間で1〜3%,1週間で30%,2週間で80%,1年で90%である。

治療を行った患者の院内死亡率は,近位解離で約30%,遠位解離で10%である。治療を受け,急性エピソードで死亡に至らなかった患者の生存率は5年で約60%,10年で40%である。遠隔死亡の約13は解離の合併症によるものであり,残りは他の疾患によるものである。

治療

大動脈解離ですぐに死亡しなければ患者をICUに入院させ,動脈内血圧モニタリングを行うべきである;尿量のモニタリングに留置尿道カテーテルを用いる。手術の可能性があるときは,血液型の検査を行い,濃厚赤血球4〜6単位のクロスマッチ試験を行う必要がある。血行動態的に不安定な患者には挿管を行うべきである。

収縮期血圧を110mmHg以下または脳,冠動脈,腎の灌流がそれぞれ適切に行える最低限のレベルに維持するために,動脈圧,動脈のずれ応力,心室収縮力,および痛みを減少させる薬物を直ちに開始する。通常はβ遮断薬が第一に用いられる。プロプラノロール0.5mg,静注,次いで1〜2mg,3〜5分毎を,脈拍が60〜70拍/分に低下するまで,または30〜60分かけて総投与量0.15mg/kgに達するまで投与する;この投与量は心室の収縮力を低下させ,ニトロプルシドの反射変時作用に対抗する。β遮断維持にはこの用量を2〜4時間毎に反復静注投与する。COPDや喘息を有する患者には,より心選択性の高いβ遮断薬を投与してもよい。 選択肢としては,メトプロロール5mg,静注を15分間隔で最大4回,またはエスモロール50〜200μg/kg/分を点滴静注,またはラベタロール(αおよびβアドレナリン遮断薬)1〜2mg/分,点滴静注,もしくは5〜20mg,初回静注ボーラス投与して10〜20分毎に20〜40mgを,血圧がコントロールされるまで,もしくは総投与量が300mgに達するまで追加投与し,次いで必要に応じ20〜40mgを4〜8時間毎に追加投与するなどがある。β遮断薬の代替薬としては,カルシウムチャネル拮抗薬(例,ベラパミル0.05〜0.1mg/kg,静注ボーラス,またはジルチアゼム0.25mg/kg[最大25mg],静注ボーラス,または5〜10mg/時間持続注入)がある。

β遮断薬の使用にもかかわらず収縮期血圧が110mmHgを超えたままであるなら,血圧コントロールのためにニトロプルシド点滴静注を0.2〜0.3μg/kg/分で開始し,必要に応じて漸増(しばしば200〜300μg/分まで)してもよい。血管拡張に反応した反射性交感神経亢進が心室の収縮性と大動脈のずれ応力を上昇させ,解離を悪化させるため,β遮断薬またはカルシウムチャネル拮抗薬なしにニトロプルシドを投与すべきではない。

合併症がなく安定した,下行大動脈に限局される解離(B型)および大動脈弓の安定した孤立性の解離には,薬物療法のみを試みるのが適切である。解離が近位大動脈に及ぶ場合は,事実上常に手術が適応となる。四肢または内臓虚血,コントロール不良の高血圧,持続的な大動脈拡大,解離の拡大,大動脈破裂の証拠がある場合も,解離の型にかかわらず手術が適応となる。マルファン症候群患者における急性遠位解離にも手術が最善であることがある。

手術の目的は,偽腔へのエントリーを閉鎖し,人工血管で大動脈を再建することである。大動脈弁に重度の逆流がある場合は,大動脈弁尖のつり上げ,または弁置換により治療しなければならない。手術の転帰は,早期に積極的な介入を行った場合に最もよく,死亡率は7〜36%の範囲である。転帰不良の予測因子には,低血圧,腎不全,70歳を超える年齢,胸痛の突然の発症,脈拍の欠損,心電図におけるST上昇などがある。

偽腔へのエントリーを閉鎖して真腔の開存性を改善するステントグラフト,バルーンによる開窓術(真腔と偽腔を隔てる解離のフラップに開口部をつくる)またはその両方は,A型の解離と術後の持続的な末梢虚血を有する患者における,およびB型の解離を有する患者に末梢の虚血性合併症が発現した場合における,非侵襲的な代替法である。

手術した患者を含め全ての患者は,通常はβ遮断薬,カルシウムチャネル拮抗薬,ACE阻害薬を含む,長期の降圧薬療法を受ける。降圧薬の併用はほとんどどのようなものでもかまわないが,例外は,主に血管拡張により作用を呈する薬物(例,ヒドララジン,ミノキシジル)および内因性交感神経作用をもつβ遮断薬(例,アセブトロール,ピンドロール)である。激しい身体活動を避けることがしばしば推奨される。退院の前および6カ月目および1年目,その後1〜2年毎にMRIを行う。

最も重要な遠隔期合併症には,再解離,脆弱化した大動脈における局所動脈瘤の形成,進行性の大動脈弁閉鎖不全などがある。これらの合併症は外科的修復術を要することがある。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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