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深部静脈血栓症

深部静脈血栓症(DVT)とは,四肢(通常はふくらはぎまたは大腿)または骨盤の深部静脈の血液の凝固である。DVTは肺塞栓症の主な原因である。DVTは,静脈還流を損なう状態,内皮の損傷または機能不全を来す状態,あるいは凝固能亢進を引き起こす状態によって起こる。DVTは無症状の場合も,四肢に痛みおよび腫脹を引き起こす場合もある。診断は病歴,身体診察,複式超音波検査法により行い,必要に応じてDダイマー検査やその他の検査を併せて行う。治療には抗凝固薬を用いる。速やかに適切な治療を行った場合,予後は一般に良好であり,一般的な長期合併症には静脈炎後症候群を伴うまたは伴わない静脈不全がある。

DVTは,上肢(DVTの症例の4〜13%),下肢,または骨盤部の深部静脈に生じうる(末梢静脈およびリンパ管疾患: 深部静脈。図 1: イラストを参照)。下肢のDVTは,恐らく血塊の負荷がより高いためか,肺塞栓症(PE)をはるかに起こしやすい。大腿部の表在性の膝窩静脈および大腿静脈ならびにふくらはぎの後脛骨静脈が最も罹患しやすい。ふくらはぎの静脈のDVTは大きな塞栓の源とはなりにくいが,大量の小塞栓を繰り返し引き起こしたり,近位の大腿静脈に移行したりし,そこから肺塞栓症を引き起こしうる。DVT患者の約50%は潜在性の肺塞栓症を有し,肺塞栓症患者の約20%は明らかなDVTを有する。

図 1

深部静脈。

深部静脈。

病因と病態生理

多くの要因がDVTに寄与しうる(末梢静脈およびリンパ管疾患: 静脈血栓症の危険因子表 1: 表を参照)。下肢のDVTは,静脈還流の障害(例,動けない患者における),内皮の損傷または機能不全(例,脚骨折の後),または凝固能亢進により最もしばしば起こる。

表 1

静脈血栓症の危険因子

年齢が>60歳

喫煙(受動喫煙を含む)

エストロゲン受容体モジュレーター(タモキシフェン,ラロキシフェン)

心不全

凝固能亢進性疾患

抗リン脂質抗体症候群

アンチトロンビンⅢ欠乏症

第Ⅴ因子ライデン変異(活性化プロテインC抵抗性))

遺伝性線溶障害

高ホモシステイン血症

ヘパリン誘発性の血小板減少症および血栓症

第Ⅷ因子の増加

第XI因子の増加

フォン・ヴィルブラント因子の増加

発作性夜間血色素尿症

プロテインC欠乏症

プロテインS欠乏症

プロトロンビン遺伝子のG-A変異

組織因子経路阻害薬

不動化

留置静脈カテーテル

四肢外傷

悪性腫瘍

骨髄増殖性疾患(過粘稠)

ネフローゼ症候群

肥満

経口避妊薬またはエストロゲン療法

妊娠および分娩後

静脈血栓塞栓症の既往

鎌状赤血球貧血

過去3カ月以内の手術

上肢のDVTは,中心静脈カテーテル,ペースメーカー,または注射薬の使用による内皮損傷によって最もしばしば起こる。上肢のDVTはときに上大静脈(SVC)症候群の一部として起こることや,凝固能亢進状態または胸郭出口における鎖骨下静脈圧迫によって起こることがあり,圧迫は正常もしくは過剰な第1肋骨,または線維性索状物によるものであることや(胸郭出口症候群),腕の激しい運動を行っているときに起こることがある(上肢のDVTの症例の1〜4%を占める労作性血栓症,別名,パジェット・シュレッター症候群)。

多くの悪性腫瘍はDVTの素因となり,DVTは一部の潜伏癌の前兆として知られている。しかしながら,DVT患者の85〜90%は基礎疾患に悪性腫瘍をもたない。

DVTは通常,静脈の弁尖から始まる。血栓はトロンビン,フィブリン,赤血球,加えて比較的少数の血小板からなり(赤色血栓),治療を行わないと血栓は近位に移動するか,数日で塞栓を起こすか,またはその両方である。

一般的な合併症に,肺塞栓症に加え慢性静脈不全および静脈炎後症候群がある。はるかにまれにだが,急性DVTが有痛性白股腫または有痛性青股腫を引き起こすことがあり,両方とも速やかに診断および治療を行わないと,静脈の(湿性)壊疽に至りうる。

有痛性白股腫は妊娠中に起こるDVTのまれな合併症であり,脚が乳白色になる。病態生理は明らかでないが,浮腫が軟組織の圧力を,毛細血管の灌流の圧力を超えて上昇させる可能性がある。虚血は毛細血管の血流が損なわれた場合にのみ発症し,結果は湿性壊疽である。

有痛性青股腫では,広範な腸骨大腿静脈血栓症がほぼ完全な静脈閉塞を引き起こし,脚は虚血,極度の痛み,チアノーゼを呈する。静脈還流の阻害や,広範な浮腫による動脈血流の遮断が生じるため,病態生理には下肢の静脈および動脈の血流の完全なうっ滞が関与している可能性がある。結果として湿性壊疽が起こることがある。

DVTの異型はまれである。表在性の末梢静脈の細菌感染である化膿性(敗血症性)血栓性静脈炎は通常,感染および凝固をもたらす静脈カテーテル留置により引き起こされる。内頸静脈および周囲の軟組織の細菌(通常,嫌気性)感染である頸静脈化膿性血栓性静脈炎(Lemierre症候群)が扁桃咽頭炎に続いて起こることがあり,しばしば菌血症および敗血症を合併する。敗血症性骨盤血栓性静脈炎においては分娩後に骨盤の血栓症が発症し,周期熱を引き起こす。

DVTを伴わない血栓性静脈炎は,最も一般的には静脈内カテーテル留置または注入薬もしくは注射薬の使用により引き起こされる。

症状と徴候

ほとんどの深部静脈血栓はふくらはぎの小静脈に起こり,無症状で決して発見されない。症状と徴候(例,漠然とした疼く痛み,静脈の分布に沿った圧痛,浮腫,紅斑)は,存在する場合,非特異的であり,頻度,重症度は様々であり,腕と脚で類似している。拡張した表在性の側副静脈が肉眼でみえるようになるか,触知できるようになることがある。脚の遠位のDVTでは,膝を伸展した状態で足首を背屈することにより誘発されるふくらはぎの不快感(ホーマンズ徴候)がときに起こるが,感度も特異度も高くない。脚の圧痛,脚全体の腫脹,両ふくらはぎ間の3cmを超える外周差,圧痕浮腫,表在性の側副静脈が最も予測に役立ち,可能性のある他の診断がなく,3つ以上が組み合わさっている場合にDVTの可能性がある(末梢静脈およびリンパ管疾患: 臨床因子に基づく深部静脈血栓症の確率表 2: 表を参照)。軽い発熱症状がみられることがあり,DVTは,特に術後の患者においては,原因不明熱の原因となることがある。肺塞栓症が起こった場合,症状には息切れおよび胸膜炎性胸痛がある(肺塞栓症: 症状と徴候を参照 )。

表 2

臨床因子に基づく深部静脈血栓症の確率

因子

ふくらはぎまたは大腿の静脈の分布に沿った圧痛

脚全体の腫脹

ふくらはぎの腫脹(脛骨粗面の10cm下での測定で,両ふくらはぎ間の外周差が3cmを超える)

患脚においてより高度な圧痕浮腫

表在性の側副静脈の拡張

悪性腫瘍(6カ月以内に治療を中止した症例を含む)

下肢の不動化(例,麻痺,不全麻痺,ギプス)

過去4週間以内の,3日を超える不動化に至る手術

深部静脈血栓症と同等またはそれ以上の可能性のある他の診断

確率

確率は因子の数に等しく,他の診断がDVTと同等またはそれ以上に可能性がある場合は2を引く。

確率が高い: 3ポイント

確率が中程度:1–2ポイント

確率が低い: 0ポイント

Based on data from Anand SS Well, PS, Hunt, D et al: JAMA 279(14):1094–1099,1998.

DVTに類似する非対称性の脚の腫脹の一般的な原因は,表在性静脈炎,軟組織外傷,蜂巣炎,骨盤の静脈またはリンパ管の閉塞,静脈還流を妨げる膝窩部滑液包炎(ベーカー嚢胞)である。腹部または骨盤部の腫瘍はややまれな原因である。就下性浮腫を引き起こす薬物(例,ジヒドロピリジンカルシウムチャネル拮抗薬,エストロゲン,高用量のオピオイド)の使用,静脈高血圧(通常,右心不全による),低アルブミン血症は,対称性,両側性の脚の腫脹を引き起こすが,静脈不全が併存し,片方の脚でより悪化している場合は,腫脹は非対称性であることもある。

急性DVTに類似するふくらはぎの痛みの一般的な原因には,静脈不全および静脈炎後症候群;ふくらはぎに痛みを伴う紅斑を引き起こす蜂巣炎;ふくらはぎの腫脹,痛み,およびときに内踝領域に挫傷を引き起こす,膝窩(ベーカー)嚢胞の破裂(偽性DVT);腓腹筋腱または足底筋腱の部分的または完全な断裂がある。

診断

病歴および身体診察は,DVTの検査前確率を判定するのに役立つ(末梢静脈およびリンパ管疾患: 臨床因子に基づく深部静脈血栓症の確率表 2: 表を参照)。診断はドプラ血流検査を併用した超音波検査(複式超音波検査)により行う。追加検査(例,Dダイマー検査)の必要性およびその選択と順序は,超音波検査の結果と検査前確率による。唯一の最良の検査プロトコルというものはない。

超音波検査は,静脈の内層を直接視覚化することにより,および静脈の異常な圧縮率を示すか,ドプラ血流検査によって静脈血流の障害を示すことにより血栓を同定する。この検査は大腿および膝窩の静脈血栓症については感度は90%を超え,特異度は95%を超えるが,腸骨またはふくらはぎの静脈血栓症についてはそれほど正確ではない。

DVTの検査前確率が中程度または高い場合,複式超音波検査と同時にDダイマー検査を行うべきである。Dダイマーは線溶の副産物であり,高濃度は血栓が最近存在して溶解したことを示唆する。この検査の感度は90%を超えるが特異度はわずか5%であるため,高濃度が診断の助けになるわけではないが,循環Dダイマーがないことは,DVTの可能性の最初の推定値が50%未満で,複式超音波検査結果が陰性であるときには特に,DVTの除外に役立つ。DVTおよび肺塞栓症は,固相酵素結合免疫測定法(ELISA)を用いたDダイマーの値が陰性であるときにも起こっているが,より特異的で迅速な,新しいラテックス凝集反応検査または全血凝集反応検査によって,DVTの確率が中程度または低いときにDVTの除外にルーチンに使用できる程度までDダイマー検査の信頼性が向上する可能性が高い。

静脈造影は,放射線不透過性色素が静脈血栓症およびアレルギー反応を引き起こす可能性があるため,また,超音波検査が非侵襲的でより容易に使用でき,ほぼ同程度に正確にDVTを発見できるため,ほとんど使用されない。静脈造影は,超音波検査の結果は正常だが事前のDVTの疑いが強いとき,または超音波検査の結果が異常でありDVTの疑いが低いときに適応となる。合併症を起こす確率は2%であり,ほとんどは造影剤アレルギーによる。

静脈造影に代わる非侵襲的な方法の研究が行われている。そのなかには磁気共鳴静脈造影およびT1強調グラジエントエコー・シーケンスおよび水励起高周波パルスを用いた血栓の直接のMRIがあり,理論的には,後者からは深部静脈と亜区域の肺動脈の血栓を同時に描出できる。

DVTが確定され,原因(例,不動化,手術,脚の外傷)が明らかな患者にはそれ以上の検査は必要ない。症状と徴候が肺塞栓症を示唆する場合は,追加の画像検査(例,換気-血流[V/Q]スキャンまたはらせんCT)が必要である。

凝固能亢進を発見する検査は議論のあるところだが,特発性,再発性のDVTを有する患者,DVTおよびその他の血栓症の個人歴または家族歴を有する患者,明らかな素因のない若年患者において,ときに行われる。一部の証拠は,凝固能亢進の存在は,臨床的な危険因子と同程度にはDVTの再発を予測しないことを示唆している。DVT患者に悪性腫瘍のスクリーニングを行ってもあまり成果がない。悪性腫瘍の発見を目的とする完全な病歴聴取および身体診察,ならびに診察により示される臓器特異的な検査を伴う,ルーチンの予防的スクリーニングで恐らく十分である。

予後

適切な治療を行わないと,下肢のDVTが致死的な肺塞栓症をもたらすリスクは3%であり,上肢のDVTによる死亡は非常にまれである。再発性のDVTのリスクは,一過性の危険因子(例,手術,外傷,一時的な不動化)を有する患者で最も低く,持続的な危険因子(例,心不全,悪性腫瘍)を有するか,特発性のDVTを有するか,過去のDVTの回復が不完全な(残存血栓)患者で最も高い。ワルファリンを中止した後にdダイマー濃度が250ng/mL未満であることは,DVTまたは肺塞栓症の再発リスクが比較的低いことを予測する一助となる。静脈不全のリスクは予測不可能である。静脈炎後症候群の危険因子には,近位の血栓症,再発性の同側のDVT,体重過多(BMIが22〜30kg/m2),肥満(BMIが30kg/m2超)がある。

図 2

深部静脈血栓症が疑われる場合の検査のアプローチの1例。

深部静脈血栓症が疑われる場合の検査のアプローチの1例。

治療

治療は第一に肺塞栓症の予防を目的とし(肺塞栓症: 予防も参照 ),第二に症状の軽減ならびに慢性静脈不全および静脈炎後症候群の予防を目的とする。下肢と上肢のDVTの治療は一般に同じである。

全DVT患者に抗凝固薬を投与し,最初は注射用ヘパリン(未分画または低分子量),続いて24〜48時間以内にワルファリンを開始する。最初の24時間の抗凝固療法が不十分であると肺塞栓症のリスクが増大する。肺塞栓症が疑われる場合,重度の症状に非経口的な鎮痛薬が必要な場合,他の疾患のために外来患者を帰宅させることが安全でない場合,または処方された治療を順守することを他の要因(例,機能的,社会経済的)が妨げる可能性がある場合を除き,急性DVTは外来で治療が可能である。一般的な支持療法として,アスピリンとNSAID以外の鎮痛薬による疼痛管理(抗血小板作用があるため),および不活動の期間中の脚の挙上(静脈の圧迫を避けるため,枕など表面の柔らかいものにより支持する)がある。患者は耐えられる限り身体的活動をしてよく,早期の活動が血塊の移動と肺塞栓症のリスクを高めるという証拠はない。

抗凝固薬: 低分子量ヘパリン(LMWH;例,エノキサパリン,ダルテパリン,レビパリン,チンザパリン―肺塞栓症: 手術患者における深部静脈血栓症および肺塞栓症のリスクを参照 表 4: 表)は外来で投与できるため,選択すべき初期治療である。DVTの再発,血栓の拡大,肺塞栓症による死亡のリスクを減らすうえで,LMWHは未分画ヘパリン(UFH)と同程度に効果的である。LMWHはUFHと同様にアンチトロンビンⅢ(凝固因子プロテアーゼを阻害する)の作用を加速し,凝固第Ⅹa因子と,程度はこれより低いが凝固第Ⅱa因子の不活化をもたらす。またLMWHはアンチトロンビンⅢを介する抗炎症性を有し,これは血塊の器質化を促進し症状と炎症を軽減する。

LMWHは典型的には,体重に基づく標準用量(例,エノキサパリン1.5mg/kg,皮下,1日1回,または1mg/kg,皮下,2時間毎,1日最高200mgまで,またはダルテパリン200単位/kg,皮下,1日1回)で皮下投与される。肥満体の患者には用量を多めにする必要があり,悪液質の患者では用量を少なめにする必要がある。腎不全を有する患者にはUFHによる治療が最善である。LMWHは活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を大幅に延長しはしないためモニタリングは不要であり,反応は予測可能であり,LMWHの過量投与と出血の間に明らかな関係はない。ワルファリンにより十分な抗凝固作用が得られるまで治療を継続する。しかしながら,初期の証拠はLMWHがハイリスク患者における長期のDVT治療に効果的であることを示唆しており,したがって一部の患者ではLMWHがワルファリンの代替として容認されうるが,ワルファリンは低価格で投与が容易であるため選択すべき治療となることが多い。

UFHは腎臓により除去されないため,入院患者および腎機能不全または腎不全(クレアチニンクリアランスが10〜50mL/分)を有する患者には,LMWHの代わりにUFHを使用することがある。UFHをボーラスおよび注入により投与し(肺塞栓症: ヘパリンの体重ベース計算表を参照 表 3: 表),aPTTが基準範囲の1.5〜2.5倍(またはプロタミン滴定法で測定した血清ヘパリンの最低濃度が0.2〜0.4単位/mL)と定義される十分な抗凝固作用を得る。患者の運動性を促進するために,非経口UFHの代わりにUFH3500〜5000単位,皮下,8〜12時間毎を投与してもよく,用量は投与前に測定したaPTTに基づいて調節してよい。ワルファリンにより十分な抗凝固作用が得られるまで治療を継続する。

ヘパリンの合併症には出血,血小板減少症(LMWH使用時にはまれ),じんま疹,およびまれに血栓症およびアナフィラキシーがある。UFHの長期使用は低カリウム血症,肝酵素値上昇,骨粗鬆症を引き起こす。まれに,皮下投与したUFHが皮膚の壊死を引き起こす。入院患者および恐らく外来患者に,連続CBCおよび便潜血検査により出血のスクリーニングを行うべきである。過剰なヘパリン化による出血は硫酸プロタミンにより止めることができる。用量はLMWH 1mgにつきプロタミン1mgであり,生理食塩水20mL中1mgとして投与し,10〜20分かけてゆっくりと注入する。2回目の投与が必要な場合,1回目の用量の12とすべきである。しかしながら,プロタミンはLMWHによる第Ⅹa因子の不活化を部分的にしか中和しないため,正確な用量ははっきりしていない。全ての注入に際して,低血圧およびアナフィラキシー様反応に似た反応がみられないか患者を観察すべきである。

ワルファリンは,妊婦(へパリン投与を継続すべきである)およびワルファリン投与中に静脈血栓塞栓症が新たに発症したか悪化した患者(下大静脈フィルター留置の候補となる)を除く全ての患者の長期抗凝固療法に選択すべき薬物である。ワルファリンを開始する前にヘパリンにより十分な抗凝固作用(aPTT:基準範囲の1.5〜2.5倍)を得る必要があるプロテインC欠乏症患者を除き,ワルファリン5〜10mgをヘパリンとともに直ちに開始できる。高齢者および肝障害を有する患者は,典型的にはワルファリンの用量を低めにする必要がある。治療目標はINR2.0〜3.0である。ワルファリン投与の最初の1〜2カ月の間は週毎に,その後は月毎にINRをモニタリングする;用量を0.5〜3mgずつ増減してINRをこの範囲に維持する。ワルファリンの投与を受けている患者には,起こりうる薬物相互作用について,処方箋なしで買える薬用ハーブとの相互作用を含め,情報を与えるべきである。

DVTの一過性の危険因子(例,不動化,手術)を有する患者は3〜6カ月でワルファリンを中断できる。修正不可能な危険因子(例,凝固能亢進)を有する患者,既知の危険因子のない自発性DVT患者,再発性DVT患者,肺塞栓症の病歴のある患者は,少なくとも6カ月間,そして合併症が起こらない限りは恐らく一生の間,ワルファリンの投与を受けるべきである。低リスク患者においては,強度の低いワルファリン(INRを1.5〜2.0に維持する)は少なくとも2〜4年の間は安全で効果があるが,この治療法はルーチンに推奨可能となる前に,安全性のさらなる証明が必要である。

最も頻度の高い合併症は出血である。大量出血(生命を脅かす出血,または7日間以内に2単位以上の血液の喪失と定義される)の危険因子には,年齢が65歳以上;消化管出血または脳卒中の既往;最近の心筋梗塞;貧血の併存(Hctが30%未満),腎不全(血清クレアチニンが1.5mg/dL超),糖尿病がある。抗凝固作用はビタミンKにより逆転でき,用量はINRが5〜9の場合は1〜4mg,経口投与,INRが9を超える場合は5mg,経口投与,出血が起こっている場合は10mg,静注(アナフィラキシーを避けるためゆっくり投与する)である。出血が重度の場合は,凝固因子,新鮮凍結血漿,またはプロトロンビン複合体の濃縮製剤の輸注も行うべきである。出血を伴わない過抗凝固(INRが3または4を超える)は,投与を数回休止し,より頻回のINRのモニタリングを行い,続いてより低用量でワルファリンを投与することにより管理できる。まれに,プロテインCまたはSの欠乏症を有する患者や第Ⅴ因子ライデン変異を有する患者において,ワルファリンは皮膚壊死を引き起こす。

直接トロンビン阻害薬(例,ヒルジンの皮下投与,レピルジン,ビバリルジン,デシルジン,アルガトロバン,キシメラガトラン)および第Ⅹa因子の選択的阻害薬(例,フォンダパリヌクス)などの他の抗凝固薬が,急性DVTの治療に研究されている。キシメラガトランはメラガトラン(投与の難しい直接トロンビン阻害薬)に代謝される経口プロドラッグであり,患者のモニタリングが必要なく,有効性においてLMWHおよびワルファリンと同等であるようである。

下大静脈フィルター(IVCF): IVCFは,下肢のDVTを有し抗凝固薬が禁忌の患者,または十分な抗凝固療法にもかかわらず再発性DVT(または塞栓)を有する患者において,肺塞栓症の予防に役立つ。IVCFは内頸静脈または大腿静脈のカテーテルにより腎静脈の直下の下大静脈に留置される。IVCFは急性および亜急性の血栓性合併症のリスクを低減するが,長期の合併症が起こる可能性がある(例,静脈側副血行路が発達し,塞栓がIVCFを逃れる経路となる)。また,IVCFは移動することがある。したがって,再発性DVT患者またはDVTの修正不可能な危険因子を有する患者にはやはり抗凝固薬が必要であり,IVCFは,抗凝固療法の禁忌が鎮静化または軽減するまでのある程度の予防となる。IVCFは広く使用されているにもかかわらず,肺塞栓症の予防における有効性は研究されておらず,証明されていない。

血栓溶解薬: ストレプトキナーゼ,ウロキナーゼ,アルテプラーゼは血塊を溶解し,ヘパリンのみよりも効果的に静脈炎後症候群を予防すると思われるが,出血のリスクはより高い。これらの薬剤の使用は研究中である。血栓溶解薬は近位の大きな血栓,特に腸骨大腿静脈のもの,および有痛性白股腫または有痛性青股腫に適応となる。静脈内投与には留置カテーテルによる局所の灌流が望ましい。

手術: 手術を要することはまれである。しかしながら血栓溶解薬に無反応の有痛性白股腫または有痛性青股腫には,肢切断に至る恐れがある壊疽の予防を試みるため血栓除去術,筋膜切開術,またはその両方が必須である。

予防

DVTのリスクが低い患者(例,小手術を受けているが,DVTの臨床的な危険因子はない患者や,飛行機旅行中のように一時的に長時間の非活動状態になければならない患者)には,歩くか,それでなければ定期的に脚を動かすように勧めるべきであり,薬物療法は必要ない。1時間に10回の背屈で恐らく十分である。

DVTのリスクがより高い患者(例,DVTの臨床的な危険因子を有する場合に小手術を受けている患者,危険因子がなくても大手術,特に整形外科手術を受けている患者,寝たきりの患者)には追加の予防的治療が必要である(肺塞栓症: 手術患者における深部静脈血栓症および肺塞栓症のリスクを参照 表 4: 表)。これらの患者のほとんどは血栓が形成される前に同定,治療できる。手術後は両脚を挙上し,椅子に座ること(これは,脚を下垂した姿勢にすることにより静脈還流を妨げる)を避けることが役立つ。患者のリスクレベル,手術の種類(該当する場合),予防的治療の予想期間,禁忌,副作用,相対的費用,使いやすさ,地域の慣例基準に応じて,追加治療として低用量UFH,LMWH,ワルファリン,より新しい抗凝固薬,圧迫装置もしくはストッキング,またはその組み合わせなどを行う。

低用量UFH5000単位,皮下を,手術の2時間前およびその後8〜12時間毎に,7〜10日間または患者が完全に歩行できるようになるまで投与する。手術を受けていない寝たきりの患者には5000単位,皮下,12時間毎を,無期限に,または危険因子が逆転するまで投与する。

LMWHはDVTおよび肺塞栓症の予防に低用量UFHよりも効果的であるが,費用のために広範な使用は制限される。エノキサパリン30mg,皮下,12時間毎,ダルテパリン2500単位,1日1回,およびチンザパリン3500単位,1日1回は同等に効果がある。

ワルファリン2〜5mg,1日1回,またはINRを1.5〜2に維持するために調節された用量がルーチンで投与されるが,有効性および安全性は証明されていない。

より新しい抗凝固薬(例,ヒルジン,キシメラガトラン,ダナパロイド,フォンダパリヌクス)はDVTおよび肺塞栓症の予防に効果があるが,ヘパリンおよびワルファリンと比較した費用効果と安全性についてさらなる研究が必要である。アスピリンはDVTおよび肺塞栓症の予防にプラセボより優れているが,使用できる他の全ての薬物よりも劣っている(肺塞栓症: 血栓塞栓症における抗凝固療法の選択肢を参照 表 5: 表)。

間欠的空気圧迫(IPC)は,ポンプを使ってプラスチックの中空のゲートルを周期的に膨張および収縮させ,下腿およびときに大腿を外部から圧迫する。間欠的空気圧迫(IPC)は術前および術中に,抗凝固薬の代わりに,または抗凝固薬と併せて使用する。IPCは近位のDVTよりもふくらはぎのDVTの予防に効果があり,したがって股関節または膝の手術の後には不十分であると考えられる。IPCは肥満の患者には通常禁忌であり,理論的には,予防的治療を行わないと潜在性のDVTを発症する不動化された患者では肺塞栓症を誘発しうる。

段階的圧迫ストッキングの利益は低リスクの外科患者を除いて疑問である。しかしながら,ストッキングとその他の予防法を組み合わせることで,いずれかの単独アプローチよりも防止効果がありうる。

静脈血栓塞栓症の発生率の高い外科的手技または障害(例,整形外科手術,選択的神経手術,脊髄損傷,多発外傷)には,低用量UFHもアスピリンも十分ではない。股関節および下肢の整形外科手術には,LMWHまたは用量調節ワルファリンが推奨される。総膝関節置換術ではLMWHとIPCは同等であり,臨床的な危険因子を有する患者には併用療法を考慮するべきである。整形外科手術においては手術前に予防的治療を開始し,その後少なくとも7日間は継続すべきである。神経手術においては,頭蓋内出血が懸念されるため理学処置(IPC,弾性ストッキング)が使用されているが,LMWHは容認される代替法であると思われる。ハイリスク患者において,IPCとLMWHの併用はそれぞれの単独療法よりは効果が高いことがある。限られたデータは,脊髄損傷や多発外傷の患者におけるIPC,弾性ストッキング,およびLMWHの併用を支持している。

静脈血栓塞栓症と出血のリスクがいずれもきわめて高く,抗凝固薬の投与を受けている患者では,IVCFの留置が選択肢となる。

予防的治療は急性心筋梗塞または虚血性脳卒中の病歴がある患者にも適応となる。静注ヘパリンや血栓溶解薬をまだ投与されていない患者においては低用量UFHが効果的であり,抗凝固薬が禁忌のときはIPC,弾性ストッキング,またはその両方を使用する。脳卒中の後は,低用量UFHかLMWHを用いてもよく,IPC,弾性ストッキングまたはその両方が有益なこともある。その他の推奨案には,心不全患者への低用量UFH,転移性乳癌患者への用量調節ワルファリン(INRが1.3〜1.9),中心静脈カテーテルが留置されている癌患者へのワルファリン1mg,1日1回がある。

静脈不全および静脈炎後症候群の一次予防は,30〜40mmHgの圧力が得られる膝丈の圧迫ストッキングである。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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