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深部静脈血栓症(DVT)

執筆者:

James D. Douketis

, MD, McMaster University

レビュー/改訂 2021年 2月
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深部静脈血栓症(DVT)とは,四肢(通常は腓腹部または大腿部)または骨盤の深部静脈で血液が凝固する病態である。DVTは肺塞栓症の第1の原因である。DVTは,静脈還流を阻害する病態,内皮の損傷または機能不全を来す病態,または凝固亢進状態を引き起こす病態によって発生する。DVTは無症状の場合もあるが,四肢に疼痛および腫脹が生じる場合もあり,肺塞栓症が直接の合併症の1つである。診断は病歴聴取と身体診察で行われ,客観的検査法(典型的にはduplex法による超音波検査)により確定される。DVTが疑われる場合,Dダイマー検査が用いられる;陰性の結果はDVTを除外する上で有用であるが,陽性の結果は非特異的であり,DVTの確定診断を得るにはさらなる検査が必要となる。治療は抗凝固薬による。十分な治療を迅速に行った場合の予後は一般に良好である。よくみられる長期合併症として静脈不全症があり,これに静脈炎後症候群を伴う場合もある。

DVTは下肢または骨盤に好発する(下肢の深部静脈 下肢の深部静脈 下肢の深部静脈 の図を参照)。DVTは上肢の深部静脈にも発生しうる(DVT症例の4~13%)。

下肢の深部静脈

下肢の深部静脈

下肢のDVTは, 肺塞栓症 肺塞栓症(PE) 肺塞栓症とは,典型的には下肢または骨盤の太い静脈など,他の場所で形成された血栓による肺動脈の閉塞である。肺塞栓症の危険因子は,静脈還流を障害する状態,血管内皮の障害または機能不全を引き起こす状態,および基礎にある凝固亢進状態である。肺塞栓症の症状は非特異的であり,呼吸困難,胸膜性胸痛などに加え,より重症例では,ふらつき,失神前状態,失神,... さらに読む 肺塞栓症(PE) (PE)を引き起こす可能性がはるかに高く,これはおそらく生じる血栓の量が多いことに起因する。大腿部の浅大腿静脈および膝窩静脈と腓腹部の後脛骨静脈および腓骨静脈が最も侵されやすい。腓腹部の静脈に生じたDVTが大きな塞栓の発生源となる可能性は比較的低いが,近位の大腿静脈まで進展して,そこからPEを引き起こす可能性もある。DVT患者の約50%は潜在性のPEを有し,PE患者の30%以上は証明可能なDVTを有する。

パール&ピットフォール

  • DVT患者の約50%は不顕性の肺塞栓症を有する。

DVTの病因

多くの因子がDVTの発生に寄与する可能性がある(静脈血栓症の危険因子 静脈血栓症の危険因子 静脈血栓症の危険因子 の表を参照)。がんはDVTの危険因子であり,特にがん患者のうち高齢者と血栓症を繰り返す患者で重要である。関連性は,腸管のがんや膵癌など粘液分泌性の内皮細胞腫瘍で最も強くみられる。特発性DVTと思われる患者は潜在がんを有している可能性があるが,がんの主要な危険因子があるか,潜在がんを示唆する症状がみられる場合を除いて,腫瘍に対する広範な精査は推奨されない。

DVTの病態生理

下肢のDVTで最も頻度の高い原因は以下のものである:

  • 静脈還流の障害(例,不動状態の患者)

  • 内皮の損傷または機能不全(例,下肢の骨折後)

  • 凝固亢進状態

上肢のDVTで最も頻度の高い原因は以下のものである:

  • 中心静脈カテーテル,ペースメーカー,または注射薬物の使用による内皮損傷

上肢のDVTは,ときに上大静脈症候群(腫瘍による上大静脈の圧迫または浸潤に起因し,顔面腫脹,頸部の静脈怒張,および顔面紅潮などの症状を引き起こす)の一部として,または凝固亢進状態もしくは胸郭出口での鎖骨下静脈圧迫の結果として発生する。圧迫は正常な第1肋骨もしくは頸肋または線維帯に起因するか(胸郭出口症候群 胸郭出口症候群(TOS) 胸郭出口症候群とは,手,頸部,肩,または腕の疼痛および錯感覚を特徴とするが,明確な定義はない一群の疾患である。腕神経叢は胸郭の出口を横切っているため,この疾患には腕神経叢(および,おそらくは鎖骨下動静脈)の圧迫が関わっていると考えられる。診断方法は確立されていない。治療には理学療法や鎮痛薬などが用いられ,重症例では手術も行う。 発生機序はしばしば不明であるものの,腕神経叢は斜角筋の下および第1肋骨の上で胸郭出口を横切って腋窩に入るため,... さらに読む ),激しい腕の運動時に発生する(労作性血栓症,またはPaget-Schroetter症候群とも呼ばれ,上肢DVT症例の1~4%を占める)。

深部静脈血栓症は通常,静脈の弁尖から始まる。血栓はトロンビン,フィブリン,および赤血球と比較的少数の血小板から構成され(赤色血栓),無治療の場合,血栓が近位側に進展したり,血流に乗って肺に移動したりすることがある。

合併症

深部静脈血栓症の一般的な合併症としては以下のものがある:

はるかにまれにであるが,急性DVTから有痛性白股腫または有痛性青股腫を来すことがあり,ともに速やかに診断して治療を行わなければ,うっ血性壊疽につながる可能性がある。

有痛性白股腫は,妊娠中にみられるDVTのまれな合併症であり,下肢が乳白色を呈する。病態生理は明らかでないが,浮腫により軟部組織の圧力が毛細血管の灌流圧を超えて上昇する結果,それにより組織虚血と湿性壊疽を来す可能性がある。

有痛性青股腫では,広範な腸骨-大腿静脈血栓症によってほぼ完全な静脈閉塞が引き起こされ,下肢に虚血,極度の疼痛,およびチアノーゼが生じる。静脈還流の遮断または巨大な浮腫による動脈血流の遮断が生じるため,病態生理には下肢の静脈および動脈血流の完全なうっ滞が関与している可能性がある。結果としてうっ血性壊疽が生じることがある。

まれではあるが静脈血栓に感染が生じることがある。内頸静脈とその周囲軟部組織の細菌(通常は嫌気性菌)感染症である頸静脈化膿性血栓性静脈炎(Lemierre症候群)が扁桃咽頭炎に続いて発生することがあり,しばしば菌血症や敗血症を合併する。敗血症性の骨盤血栓性静脈炎では,分娩後に骨盤内で血栓症が発生して,そこに感染が生じ,間欠熱が引き起こされる。末梢の表在静脈への細菌感染により生じる化膿性(敗血症性)血栓性静脈炎は,感染と凝固で構成され,通常は静脈カテーテル留置が原因である。

DVTの症状と徴候

DVTは外来患者に発生することもあれば,手術または重大な内科的疾患の合併症として発生することもある。高リスクの入院患者では,ほとんどの深部静脈血栓は腓腹部の細い静脈で発生し,無症状で発見されないことがある。

DVTの症状や徴候(例,漠然とした疼く痛み,静脈の分布に沿った圧痛,浮腫,紅斑)がみられる場合にも,それらは非特異的であり,頻度および重症度は様々で,腕と下肢で類似する。拡張した表在部の側副静脈を視認ないし触知できることがある。下肢遠位部のDVTでは,膝関節を伸展した状態で足関節を背屈することで誘発される腓腹部の不快感(ホーマンズ徴候)がときにみられるが,感度および特異度ともに高くない。圧痛,下肢全体の腫脹,3cmを超える腓腹部周径の左右差,圧痕性浮腫,および表在部の側副静脈が最も特異的な所見と考えられ,これらが3つ以上併存し,かつ他に可能性の高い診断がない場合には,DVTの可能性が高くなる(深部静脈血栓症の確率 臨床因子に基づく深部静脈血栓症の確率 臨床因子に基づく深部静脈血栓症の確率 の表を参照)。

微熱がみられることがある;DVTは明らかな感染源を欠いた発熱の原因であることがあり,特に術後患者ではその可能性が高くなる。発症した場合の 肺塞栓症の症状 症状と徴候 症状と徴候 としては,息切れや胸膜性胸痛などがある。

DVTに類似する非対称性の下肢の腫脹の一般的な原因には以下のものがある:

比較的まれな原因としては以下のものがある:

  • 静脈またはリンパ管の還流を妨げる腹部または骨盤内の腫瘍

両下肢に対称性の腫脹がみられる場合,その原因は一般に就下性の浮腫を引き起こす薬剤(例,ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬,エストロゲン,高用量オピオイド)の使用,静脈高血圧症(通常は右心不全による),および低アルブミン血症であるが,静脈不全症が併存して片側の下肢が対側より重症の場合には,腫脹は非対称性となることもある。

急性DVTに類似する腓腹部の疼痛の一般的な原因としては以下のものがある:

DVTの診断

  • 超音波検査

  • ときにDダイマー検査

病歴聴取と身体診察がDVTの検査前確率を判定する上で役立つ(深部静脈血栓症の確率 臨床因子に基づく深部静脈血栓症の確率 臨床因子に基づく深部静脈血栓症の確率 の表を参照)。診断は典型的にはドプラ血流測定による超音波検査(duplex法による超音波検査)による。追加検査(例,Dダイマー検査)の必要性とその選択および順序は,検査前確率およびときに超音波検査の結果に依存する。最善とされる単一の検査プロトコルはなく,アプローチの1例を 深部静脈血栓症が疑われる場合の検査アプローチの1例 深部静脈血栓症が疑われる場合の検査アプローチの1例 深部静脈血栓症が疑われる場合の検査アプローチの1例 の図に記載した。

深部静脈血栓症が疑われる場合の検査アプローチの1例

深部静脈血栓症が疑われる場合の検査アプローチの1例

超音波検査

超音波検査では,静脈の内層を直接描出することに加え,静脈の異常な圧縮率を証明するか,ドプラ法で静脈血流の障害を証明することによって,血栓を同定する。この検査は大腿および膝窩静脈の血栓症については感度が90%を超え,特異度は95%を超えるが,腸骨静脈または腓腹部の静脈の血栓症では,やや精度が低くなる。

Dダイマー

Dダイマーは線溶の副産物であり,その濃度が高いことは,近い過去に血栓が存在して溶解したことを示唆する。Dダイマー測定の感度および特異度は様々であるが,ほとんどは感度が高いが,特異度は低い。最も正確な検査法のみを用いるべきである。例えば,高感度な検査法の1つに酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)があり,感度は約95%である。

DVTの検査前確率が低い場合,感度の高い検査法でDダイマー値が正常と判定された患者では,DVTを安全に除外することができる。このため,Dダイマー検査で陰性となれば,DVTの可能性が低く,さらなる超音波検査が必要ない患者を同定することができる。一方,検査結果は他の病態によっても上昇する可能性があるため(例,肝疾患,外傷,妊娠,リウマトイド因子陽性,炎症,最近の手術,がん),陽性の結果は非特異的であり,さらなる検査が必要である。

DVTの検査前確率が中程度または高い場合は,duplex法による超音波検査と同時にDダイマー検査を施行することが可能である。超音波検査で陽性となれば,Dダイマーの測定値にかかわらず,診断確定となる。超音波検査でDVTの所見を認めない場合には,Dダイマー値が正常という所見がDVTを除外する上で有用となる。Dダイマー値が上昇している患者は,臨床的な疑いに応じて超音波検査を数日内に再度施行するか,静脈造影など,さらなる画像検査を行うべきである。

静脈造影

静脈造影は,かつてはDVTの診断において決定的な役割を果たしていたが,現在では,非侵襲的でより容易に施行でき,DVTの検出においてほぼ同等の診断精度を備える超音波検査に,ほぼ取って代わられている。静脈造影は,超音波検査が正常であるが,検査前のDVTの疑いが強い場合に適応となりうる。合併症発生率は2%であり,大半が造影剤アレルギーによるものである。

その他の検査

静脈造影に代わる非侵襲的な検査法の研究が進められている。具体的には,静注造影剤を用いるMR静脈造影法や,グラディエントエコー法と水励起パルスによるT1強調画像で血栓を直接描出するMRIなどがあり,後者では理論的に,深部静脈と亜区域レベルの肺動脈に生じた血栓を(肺塞栓症の診断のために)同時に描出することが可能である。

症状と徴候からPEが示唆される場合は,追加の画像検査(例,CT肺血管造影,頻度は低いが換気血流[V/Q]シンチグラフィー)が必要である。

原因の特定

DVTの確定診断が得られ,原因(例,不動状態,手術,下肢外傷)も判明している患者には,それ以上の検査は必要ない。 凝固亢進を検出するための検査 診断 健常者では,凝固を促進する力と凝固を阻止する力および線維素を溶解する力との間で 恒常性が保たれている。多くの遺伝的因子,後天的因子,および環境因子により,凝固の方向にバランスが傾き,病的な血栓が静脈(例, 深部静脈血栓症[DVT]),動脈(例, 心筋梗塞, 虚血性脳卒中),または心腔内に形成されることがある。血栓は,形成された部位で血流閉... さらに読む については議論があるが,特発性(もしくは原発性)DVTまたは再発性のDVTを有する患者,その他の血栓症の既往または家族歴を有する患者,および明らかな素因がない若年患者では,ときに行われる。凝固亢進の存在は臨床的な危険因子ほどDVTの再発を予測しないことを示唆するエビデンスもある。

DVT患者に対するがんスクリーニングは,あまり成果がない。徹底的な病歴聴取と身体診察に基づき選択した検査とがんの検出を目標とした基本的な「ルーチン」検査(血算,胸部X線,尿検査,肝酵素,血清電解質,血中尿素窒素[BUN],クレアチニン)でおそらく十分である。さらに,年齢および性別に応じて定められているがんスクリーニング(例,マンモグラフィー,大腸内視鏡検査)を実施すべきである。

DVTの予後

十分な治療を行わない場合,下肢のDVTが致死的なPEをもたらすリスクは3%であり,上肢のDVTによる死亡は非常にまれである。DVTの再発リスクは,一過性の危険因子(例,手術,外傷,一時的な不動状態)を有する患者で最も低く,持続的な危険因子(例,がん)を有する患者,特発性のDVT患者,過去のDVTの回復が不完全な(残存血栓)患者で最も高い。ワルファリン中止後に測定されたDダイマー値が正常であることは,DVTまたはPEの再発リスクが比較的低いことを予測する一助となる。静脈不全症のリスクは予測が難しい。静脈炎後症候群の危険因子としては,近位部の血栓症,同側でのDVTの再発,BMI(body mass index)22kg/m2以上などがある。

DVTの治療

  • 抗凝固療法

  • ときに下大静脈フィルター,血栓溶解薬,または手術

一般的な支持療法として鎮痛薬による疼痛コントロールがあり,これには非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の短期コース(3~5日間)が含まれる場合がある。NSAIDおよびアスピリンによる長期治療は,これらの薬剤の抗血小板作用により出血性合併症のリスクが増大する可能性があるため,避けるべきである。また,非活動期には下肢の挙上(静脈圧迫を回避するため,枕など表面が柔らかい物で支える)が推奨される。身体活動は患者が耐えられる程度で許可してもよく,早期からの活動再開によって血栓の移動やPEのリスクが高まったり,静脈炎後症候群のリスクを軽減する助けになったりするといったエビデンスはない(1 治療に関する参考文献 深部静脈血栓症(DVT)とは,四肢(通常は腓腹部または大腿部)または骨盤の深部静脈で血液が凝固する病態である。DVTは肺塞栓症の第1の原因である。DVTは,静脈還流を阻害する病態,内皮の損傷または機能不全を来す病態,または凝固亢進状態を引き起こす病態によって発生する。DVTは無症状の場合もあるが,四肢に疼痛および腫脹が生じる場合もあり,肺塞栓症が直接の合併症の1つである。診断は病歴聴取と身体診察で行われ,客観的検査法(典型的にはdupl... さらに読む 治療に関する参考文献 )。

抗凝固薬

DVT患者には全例で抗凝固薬を投与する。一般に,初期治療として(未分画または低分子)ヘパリンの注射剤を5~7日間投与し,続いて経口薬による長期治療を開始する。ワルファリンを開始する予定の患者には,ヘパリンの注射剤の開始から24~48時間以内にワルファリンを開始する。第Xa因子阻害薬(エドキサバン)またはダビガトランエテキシラートの内服を開始することになっている患者には,ヘパリン注射剤の5~7日間の投与を終了した日に内服を開始させる。アプローチがこのように異なる理由は,ワルファリンを開始する場合,治療効果が得られるまでに約5日かかるためである;それゆえ,速効性のヘパリンと5~7日間重複させる必要がある。一方,経口第Xa因子阻害薬およびダビガトランは,内服後2~3時間以内に治療効果が得られるため,これらの薬剤をヘパリンの注射剤と重複させる必要はない。特定の患者(例,腸骨-大腿静脈領域の広範なDVTを有する患者,特定のがん患者)では,経口薬への切替えの代わりに,低分子ヘパリンによる治療を継続してもよい。あるいは,ヘパリンの注射剤を先に投与せず,選択された直接作用型経口抗凝固薬(リバーロキサバンまたはアピキサバン)による抗凝固療法を開始してもよいが,これらの薬剤はワルファリンより価格が高いため使用が制限されることがある。(American College of Chest Physiciansが推奨するAntithrombotic Therapy for VTE Diseaseも参照のこと。)

最初の24~48時間の抗凝固療法が不十分であると,再発またはPEのリスクが増大する可能性がある。急性DVTは外来での治療が可能であるが,重度の症状のために鎮痛薬の注射剤が必要な場合,他の疾患のために退院後の安全を確保できない場合,および他の因子(例,機能面,社会経済面)により処方された治療の遵守が困難となる可能性がある場合は例外である。

下大静脈(IVC)フィルター

抗凝固薬の禁忌がある下肢DVTの患者と十分な抗凝固療法にもかかわらず再発性DVT(または塞栓)がみられた患者では,肺塞栓症の予防にIVCフィルターが有用となりうる。IVCフィルターは下大静脈の腎静脈直下に,カテーテルを用いて経内頸静脈的または経大腿静脈的に留置される。一部のIVCフィルターは抜去することができ,一時的な使用(例,抗凝固療法の禁忌が軽快または消失するまで)が可能である。

IVCフィルターは血栓による急性合併症のリスクを低減するが,長期の合併症が発生する可能性がある(静脈側副血行路が発達して塞栓がIVCフィルターを迂回する経路が形成され,またDVTの再発リスクが増大する)。また,IVCフィルターは逸脱する可能性や血栓により閉塞する可能性もある。したがって,DVTの再発患者とDVTの是正不可能な危険因子を有する患者には,IVCフィルターが留置された状態でも抗凝固薬が必要である。血栓が形成されたフィルターは,両側性の下肢静脈うっ滞(急性の有痛性青股腫を含む),下半身虚血,および 急性腎障害 急性腎障害(AKI) 急性腎障害は,数日間から数週間で腎機能が急速に低下する病態であり,これにより,尿量減少の有無にかかわらず,血中に窒素化合物が蓄積する(高窒素血症)。原因は重度の外傷,疾患,または手術による腎臓の灌流低下である場合が多いが,ときに急速進行性の内因性の腎疾患に起因する場合もある。症状としては,食欲不振,悪心,嘔吐などがある。無治療の場合,痙攣... さらに読む を引き起こす可能性がある。フィルターの逸脱に対する治療法は,血管造影による処置,あるいはもし必要なら,外科的方法による抜去である。IVCフィルターは広く使用されているにもかかわらず,PEの予防における効果は十分に研究されておらず,証明されていない。IVCフィルターは可能であれば必ず抜去すべきである。

血栓溶解薬

血栓溶解薬(アルテプラーゼ,テネクテプラーゼ[tenecteplase],ストレプトキナーゼなど)は,血栓を溶解する作用を有し,一部の患者で抗凝固薬単独よりも効果的である可能性があるが,出血リスクがヘパリンよりも高い。したがって,血栓溶解薬を考慮するのは慎重に選択したDVT患者にのみにすべきである。血栓溶解薬が有益となりうる患者は,腸骨-大腿静脈領域の広範なDVTを有し,下肢の虚血が存在するか発生しつつあり(例,有痛性青股腫),かつ出血の危険因子がない60歳未満の患者などである。

手術

手術が必要になることはまれである。しかしながら,血栓溶解薬に反応しない有痛性白股腫または青股腫には,肢切断に至る恐れがある壊疽の予防を試みるため,血栓除去術,筋膜切開術,またはその両方が必須である。

治療に関する参考文献

DVTの予防

  • 不動状態の予防

  • 抗凝固療法(例,低分子ヘパリン,フォンダパリヌクス,用量調節ワルファリン,直接作用型経口抗凝固薬)

  • 間欠的空気圧迫法

下大静脈(IVC)フィルター 下大静脈(IVC)フィルター 深部静脈血栓症(DVT)とは,四肢(通常は腓腹部または大腿部)または骨盤の深部静脈で血液が凝固する病態である。DVTは肺塞栓症の第1の原因である。DVTは,静脈還流を阻害する病態,内皮の損傷または機能不全を来す病態,または凝固亢進状態を引き起こす病態によって発生する。DVTは無症状の場合もあるが,四肢に疼痛および腫脹が生じる場合もあり,肺塞栓症が直接の合併症の1つである。診断は病歴聴取と身体診察で行われ,客観的検査法(典型的にはdupl... さらに読む 下大静脈(IVC)フィルター はDVTを予防することはできないが,ときに肺塞栓症(PE)を予防する目的で留置されることがある。抗凝固薬の禁忌がある下肢DVTの患者と十分な抗凝固療法にもかかわらず再発性DVT(または塞栓)がみられた患者では,PEの予防にIVCフィルターが有用となりうる。また,特定の手術の後の患者または複数の重度外傷がある患者におけるPEの一次予防など,効力が証明されていない状況でもIVCフィルターが使用されることがある。

DVTの要点

  • 症状と徴候は非特異的であるため,警戒が必要であり,特に高リスク患者では細心の注意を払う必要がある。

  • 低リスク患者ではDダイマー検査を行い,その結果が正常であれば基本的に深部静脈血栓症(DVT)は除外できる;それ以外の患者には超音波検査を施行すべきである。

  • 初期治療ではヘパリン(未分画ヘパリンまたは低分子ヘパリン[LMWH])の注射剤を投与した後,経口抗凝固薬(ワルファリン,ダビガトラン,または第Xa因子阻害薬)またはときにLMWHを投与する;あるいは,経口第Xa因子阻害薬であるリバーロキサバンおよびアピキサバンを初期治療および継続的治療に使用してもよい。

  • 治療期間は危険因子の有無とその性質に依存するが,典型的には3カ月または6カ月間であり,一部の患者では生涯にわたる治療が必要となる。

  • 重大な疾患で寝たきりの患者と特定の手術を受ける患者には,予防的治療が必要である。

  • 推奨される予防策は早期の歩行再開,下肢の挙上,および抗凝固薬であり,抗凝固薬を投与すべきでない患者には,間欠的空気圧迫装置,弾性ストッキング,またはその併用が有益となる可能性がある。

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