メルクマニュアル18版 日本語版
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心臓腫瘍

M. Jay Goodkind, MD

心臓腫瘍は原発性(良性または悪性)のことも転移性(悪性)のこともある。良性原発性腫瘍である粘液腫が最もよくみられるタイプである。心臓腫瘍はどの心組織にも生じ,弁または流入出路の閉塞,血栓塞栓症,不整脈,心膜疾患などの原因となる。診断は心エコー検査により行い,その後生検を行う。良性腫瘍の治療には通常,外科的切除を行うが,再発することも多い。転移性悪性腫瘍の治療法は腫瘍タイプおよび発生部位によって決まるが,一般に予後は不良である。

原発性心臓腫瘍は剖検で2000人に1人未満の頻度でみられ,転移性腫瘍は30〜40倍の頻度でみられる。通常,原発性心臓腫瘍は心筋または心内膜に発生するが,弁組織,心臓結合組織または心膜に由来することもある。

分類

良性原発性腫瘍: 粘液腫,乳頭状線維弾性腫,横紋筋腫,線維腫,血管腫,奇形腫,脂肪腫,傍神経節腫および心膜嚢胞などが挙げられる。

粘液腫が最もよくみられ,原発性心臓腫瘍全体の50%を占める。女性の発生率が男性の2〜4倍であるが,まれにみられる家族性腫瘍(Carney症候群)は男性の方が多い。粘液腫の約75%が左房に生じ,残りは孤立性腫瘍として他の心腔内に生じることもあれば,それほど一般的ではないが複数部位に生じることもある。約75%が有茎性であり,拡張期に僧帽弁を通って逸脱し,心室充満を妨げることがある;残りは広基無茎性である。粘液腫は粘液状,ゼラチン状であり,平滑で堅い小葉性のものと,もろく不均整のものがある。もろい不均整の粘液種は全身塞栓症のリスクを増大させる。

Carney症候群は,再発性の心臓粘液腫に伴い,皮膚粘液腫,粘液様乳線維腺腫,皮膚色素沈着病変(黒子,雀卵斑,青色母斑),多発性内分泌腫瘍(原発性の色素性結節性副腎皮質疾患で,クッシング症候群,成長ホルモンおよびプロラクチン分泌性の下垂体腫瘍,精巣腫瘍,甲状腺腺腫または甲状腺癌,卵巣嚢腫を引き起こす),砂状のメラニン性神経鞘腫,乳管腺腫,骨軟骨粘液腫の組み合わせがみられる家族性,常染色体優性の症候群である。しばしば若年齢で症状が発現し(年齢中央値20歳),多発性粘液腫を(特に心室に)生じ,高い粘液腫再発リスクを有する。

乳頭状線維弾性腫は次いで多くみられる良性原発性腫瘍である。これは主に大動脈弁および僧帽弁に生じる無血管性の乳頭腫である。男女とも同率で罹患する。中核から枝分かれした乳頭状の葉部を有し,イソギンチャクに似る。約45%が有茎性である。弁機能障害を引き起こすことはないが,塞栓症のリスクが高い。

横紋筋腫は原発性心臓腫瘍全体の20%,小児における原発性心臓腫瘍の90%を占める。横紋筋腫は主に乳児および小児が罹患し,その50%が結節性硬化症を併せもつ。横紋筋腫は通常多発性であり,左室の中隔壁または自由壁の内壁に生じ,心臓伝導系に影響を及ぼす。腫瘍は堅く白色の小葉性で,典型例では年齢とともに退行するが,少数の患者が左室流出路閉塞による頻拍性不整脈および心不全を発症する。

線維腫も主に小児に生じ,皮脂腺腫および腎腫瘍との関連がみられる。主に弁組織に生じ,炎症に反応して発生する。心臓伝導系を圧迫または侵害することがあり,不整脈および突然死の原因となる。線維腫には,全身性過成長,顎角化嚢胞,骨格異常および様々な良性および悪性の腫瘍を伴う症候群(Gorlin症候群,別名,基底細胞母斑症候群)の一部として生じるものもある。

血管腫は,良性腫瘍の5〜10%を占める。症状を呈する患者は少数である。最もしばしば,他の理由により行われた診察で偶然見つかる。

心膜の奇形腫は主に乳児および小児が罹患し,しばしば大血管基部に付着する。約90%が前縦隔,残りは主に後縦隔に位置する。

脂肪腫は幅広い年齢層で発症する。心内膜または心外膜に発生し,大きな有茎性の基部を有する。多くは無症候性であるが,血流閉塞または不整脈を引き起こすものもある。

褐色細胞腫を含め,傍神経節腫が心臓に生じることはまれであるが,心臓に生じる場合は通常,迷走神経終末に近い心基部に限局される。カテコールアミン分泌による症状が現れる。

心膜嚢胞は,胸部X線像では心臓腫瘍または心膜液貯留に類似している。通常は無症候性であるが,圧迫症状(例,胸痛,呼吸困難,咳)を引き起こすものもある。

悪性原発性腫瘍: 悪性原発性腫瘍には肉腫,心膜中皮腫および原発性リンパ腫がある。

肉腫は最も多くみられる悪性腫瘍であり,(粘液腫に次いで)二番目に多くみられる原発性心臓腫瘍である。肉腫は主に中年成人に生じる(平均41歳)。ほぼ40%が血管肉腫であり,そのほとんどが右房に発生し,心膜を侵襲して右室流入路閉塞,心膜タンポナーデおよび肺転移をもたらす。その他のタイプには,未分化肉腫(25%),悪性線維性組織球腫(11〜24%),平滑筋肉腫(8〜9%),線維肉腫,横紋筋肉腫,脂肪肉腫および骨肉腫があり,左房に発生しやすく,僧帽弁閉塞および心不全を引き起こす。

心膜中皮腫はまれで,年齢を問わず生じ,女性よりも男性に多い。タンポナーデを引き起こし,脊柱,隣接する軟組織および脳に転移することがある。

原発性リンパ腫はきわめてまれであり,通常AIDS患者をはじめとする免疫不全患者に生じる。この腫瘍は急速に成長し,心不全,不整脈,タンポナーデおよび上大静脈(SVC)症候群を引き起こす。

転移性腫瘍: 肺癌,乳癌,軟組織肉腫および腎癌が,心臓転移の原発巣として最もよくみられる。悪性黒色腫,白血病およびリンパ腫はしばしば心臓に転移するが,この転移は臨床的に重大なものではない。免疫不全(通常はAIDS)患者においてカポジ肉腫が全身的に広がった場合,心臓にも及ぶことがあるが,臨床的に心合併症をみることはまれである。

症状と徴候

心臓腫瘍は,はるかに一般的な疾患(例,心不全,脳卒中,冠動脈疾患)に典型的な症状と徴候を呈する。良性原発性心臓腫瘍の症状と徴候は腫瘍のタイプ,位置,大きさ,もろさによって異なり,心臓外,心筋内,心腔内に分類される。

心臓外の症状および徴候には全身的なものと機械的なものがある。発熱,悪寒,嗜眠,関節痛,体重減少などの全身症状を引き起こすのは粘液腫に限られ,サイトカイン(例,IL-6)の放出によるものと考えられる;点状出血が生じることもある。このような所見は,細菌性心内膜炎,結合組織疾患,潜在性悪性腫瘍を誤って示唆しうる。機械的症状(例,呼吸困難,胸部不快感)は,心腔もしくは冠動脈の圧迫または心膜内の腫瘍成長もしくは出血による心膜刺激もしくはタンポナーデによって生じる。心膜腫瘍は心膜摩擦音を生じることもある。

心筋内の症状および徴候は不整脈に起因し,通常は房室ブロックもしくは心室内ブロックまたは発作性の上室頻拍もしくは心室頻拍によるものである。この原因となるのは,伝導系を圧迫または侵害する腫瘍である(特に横紋筋腫および線維腫)。

心腔内の症状および徴候には,弁機能と血流のいずれかまたは両者の閉塞(弁狭窄,弁機能不全または心不全の原因となる)をもたらす腫瘍によるものと,血栓または腫瘍断片による体循環(脳,冠動脈,腎,脾,肢)または肺の塞栓をもたらす腫瘍(特にゼラチン状粘液腫)によるものがある。体位によって腫瘍に関連する血行動態および物理的力が変化することがあり,これに伴って心腔内の症状および徴候が変化しうる。

粘液腫の症状および徴候は通常,全身的なものと心腔内のものの組み合わせにより生じる。粘液腫は僧帽弁狭窄によく似た拡張期雑音を生じるが,体位により音の大きさおよび位置が心拍毎に変化する。有茎性の左房粘液腫の約15%は,拡張期に腫瘍が僧帽弁口に落ち込むときに,聴取可能な“腫瘍プロップ”音を生じる。粘液腫は不整脈も引き起こす。レイノー現象およびばち状指はそれほど典型的ではないが生じることもある。

線維弾性腫はしばしば剖検で偶然見つかり通常は無症候性であるが,全身塞栓の発生源となることがある。横紋筋腫は通常,無症候性である。線維腫は不整脈および突然死を引き起こす。血管腫は通常,無症候性であるが,心臓外,心筋内,心腔内のいずれの症状も呈しうる。奇形腫は,大動脈および肺動脈の圧迫または上大静脈(SVC)症候群による呼吸困難およびチアノーゼを引き起こす。

悪性心臓腫瘍の症状および徴候は急性に始まり,より急速に進行する。心臓肉腫は,最も一般的には心室流入路の閉塞および心膜タンポナーデの症状を呈する。中皮腫は心膜炎またはタンポナーデの症状を呈する。原発性リンパ腫は,難治性進行性の心不全,タンポナーデ,不整脈および上大静脈(SVC)症候群を引き起こす。転移性心臓腫瘍は,急激な心拡大,タンポナーデ(血性心膜液の急速な貯留によるもの),心ブロック,その他の不整脈,原因不明の突然の心不全などを呈する。発熱,倦怠感,体重減少,寝汗および食欲不振もみられる。

診断

診断は,心臓腫瘍よりはるかに一般的な疾患に症状および徴候が類似するためにしばしば遅れ,心エコー検査により確定し,生検で組織タイプを調べる。心房腫瘍を視覚化するには経食道心エコー検査のほうがよく,心室腫瘍には経胸壁心エコー検査のほうがよい。結果がはっきりしない場合,心電図同期核医学画像診断,CTまたはMRIを用い,まれに心臓カテーテル法実施時の心室造影を必要とする。生検は,カテーテル法実施時または開胸時に行う。

粘液腫患者においては,症状が非特異的であるため心エコー検査の前にしばしば広範囲の検査が行われる。貧血,血小板減少症,白血球数増加,赤血球沈降速度亢進,C反応性蛋白増加,γグロブリン増加がよくみられる。心電図では左房拡大がみられる。ルーチンの胸部X線検査では,右房粘液腫または奇形腫のCa沈着が前縦隔腫瘤として認められる。粘液腫は,外科的に除去した塞栓に腫瘍細胞が見つかるときに診断されることもある。

不整脈および心不全に伴い結節性硬化症の特徴がみられれば横紋筋腫または線維腫が示唆される。心臓外悪性腫瘍があることが分かっている患者に新たな心臓の症状および徴候を認める場合,心臓転移が示唆される;胸部X線では心陰影に異様な変化がみられる。

治療と予後

良性原発性腫瘍の治療には外科的切除を行い,その後5〜6年にわたり連続的な心エコー検査により再発がないかモニタリングする;腫瘍切除は,外科手術を禁忌とする他の疾患(例,認知症)がない限り実施する。外科手術は通常治癒的である(3年生存率95%)。例外としては,横紋筋腫はほとんどが自然に退行するため治療の必要はなく,心膜奇形腫は緊急に心膜穿刺術が必要である。線維弾性腫の患者には,弁修復術または弁置換術を要する。横紋筋腫または線維腫が多病巣性である場合,外科的切除は通常無効であり,生後1年以降の予後は不良で,5年生存率は15%にとどまる。

悪性原発性腫瘍は予後が不良であるため,治療法は通常緩和的(例,放射線治療,化学療法,合併症の管理)である。

転移性心臓腫瘍の治療法は発生部位によって決まり,全身化学療法または緩和療法などを行う。

最終改訂月 2007年5月

最終更新月 2005年11月

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