唾液腺炎

執筆者:Clarence T. Sasaki, MD, Yale University School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 11月
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唾液腺炎は,唾液腺の細菌感染症であり,通常,結石による閉塞または腺の分泌低下が原因である。症状は,腫脹,疼痛,発赤,および圧痛である。診断は臨床的に行う。CT,超音波検査,およびMRIが原因の同定に役立つ。治療には抗菌薬を用いる。

唾液腺炎の病因

通常,唾液腺炎は唾液の分泌低下または導管の閉塞後に生じるが,明らかな原因なしに発生することもある。大唾液腺は耳下腺,顎下腺,および舌下腺である。

唾液腺炎は耳下腺に好発し,典型的には以下の者に生じる:

最も一般的な起因菌は,黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)である;他には,レンサ球菌,大腸菌群,および種々の嫌気性細菌などがある。

耳下腺の炎症は,口腔への放射線療法または甲状腺癌に対する放射性ヨード療法を受けたことがある患者でも生じる(1,2,3)。この炎症は,ときに唾液腺炎と記載されるが,細菌感染症であることはまれである(特に発熱がない場合)。若年性反復性耳下腺炎は,小児(4~6歳が最も多い)に発生する病因不明の疾患であり,しばしば思春期までに消失する。アレルギー,感染,遺伝,および自己免疫疾患は原因として確認されていない。ムンプスの可能性があるものを除けば,依然として小児の耳下腺炎で2番目に多い病型である(4)。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Erkul E, Gillespie MB: Sialendoscopy for non-stone disorders: the current evidence.Laryngoscope Investig Otolaryngol 1(5):140-145, 2016.doi: 10.1002/lio2.33

  2. 2.An YS, Yoon JK, Lee SJ, et al: Symptomatic late-onset sialadenitis after radioiodine therapy in thyroid cancer.Ann Nucl Med 27(4):386-91, 2013.doi: 10.1007/s12149-013-0697-5

  3. 3.Kim YM, Choi JS, Hong SB, et al: Salivary gland function after sialendoscopy for treatment of chronic radioiodine-induced sialadenitis.Head Neck 38(1):51-8, 2016.doi: 10.1002/hed.23844

  4. 4.Schwarz Y, Bezdjian A, Daniel SJ: Sialendoscopy in treating pediatric salivary gland disorders: a systematic review.Eur Arch Otorhinolaryngol 275(2):347-356, 2018.doi: 10.1007/s00405-017-4830-2

唾液腺炎の症状と徴候

発熱,悪寒,ならびに片側性の疼痛および腫脹が生じる。唾液腺は硬く,広範な圧痛があり,上を覆う皮膚の紅斑および浮腫を伴う。罹患した腺を圧迫することによってしばしば導管から膿が排出されることがあり,膿は培養すべきである。局所の腫大は膿瘍を示唆している可能性がある。

唾液腺炎の診断

  • CT,超音波検査,またはMRI

CT,超音波検査,およびMRIは,臨床的に明らかではない唾液腺炎または膿瘍を確定できるが,MRIでは閉塞している結石を見落とすことがある。罹患した唾液腺の導管から膿を排出できる場合,膿をグラム染色および培養に供する。

唾液腺炎の治療

  • ブドウ球菌に有効な抗菌薬

  • 局所的な処置(例,唾液分泌を促進する物質,温罨法)

初期治療は,黄色ブドウ球菌(S. aureus)に対して有効な抗菌薬(例,ジクロキサシリン250mg,経口にて1日4回,第1世代セファロスポリン系薬剤,またはクリンダマイシン)により行い,培養の結果に応じて変更する。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S. aureus)(MRSA)の保菌率上昇(特に長期介護施設の高齢者)に伴い,バンコマイシンが必要となることが多い。0.12%クロルヘキシジンの含嗽剤を1日3回用いると,口腔内の細菌負荷が減少し,口腔衛生が促進される。

水分補給,唾液分泌を促進する物質(例,レモン果汁,硬い飴,または他の唾液産生を誘発する物質),温罨法,腺のマッサージ,および良好な口腔衛生もまた重要である。膿瘍は排膿が必要である。

ときに慢性または再発する唾液腺炎の患者に対し,耳下腺浅葉切除術または顎下腺摘出術が適応となる。

他の唾液腺感染症

流行性耳下腺炎はしばしば耳下腺の腫脹を引き起こす( see table 耳下腺をはじめとする唾液腺腫大のその他の原因)。

HIV感染患者では,耳下腺腫脹が1か所以上のリンパ上皮性嚢胞に続発することが多い。

バルトネラ(Bartonella)感染により引き起こされるネコひっかき病は,しばしば耳下腺周囲のリンパ節を侵襲し,隣接部位からの進展によって耳下腺に感染する場合がある。ネコひっかき病は自然に軽快するが,しばしば抗菌薬療法が行われ,膿瘍が生じる場合には切開排膿が必要となる。

扁桃または歯の非定型抗酸菌感染症が,連続して大唾液腺に波及することがある。精製ツベルクリン(PPD)検査は陰性の場合があり,診断には生検および抗酸菌のための組織培養が必要となることがある。治療の推奨については議論がある。選択肢としては,掻爬による外科的デブリドマン,感染組織の完全切除,抗結核薬療法の使用(必要症例はまれ)などがある。

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