唾液腺腫瘍

執筆者:Bradley A. Schiff, MD, Montefiore Medical Center, The University Hospital of Albert Einstein College of Medicine
レビュー/改訂 2021年 1月
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大半の唾液腺腫瘍は良性であり,耳下腺に生じる。無痛性の唾液腺の腫瘤が最も頻度が高い徴候であり,穿刺吸引細胞診によって評価する。CTおよびMRIによる画像検査が役に立つ。悪性腫瘍に対しては,治療は切除および放射線による。長期的結果はがんの悪性度に関連する。

頭頸部腫瘍の概要も参照のこと。)

一般に,悪性腫瘍のリスクは唾液腺が小さくなるにつれて増大する。約85%の唾液腺腫瘍が耳下腺において発生し,次いで顎下腺と小唾液腺に生じ,約1%が舌下腺に生じる。約75~80%は良性であり,増殖が遅く,可動性で,無痛であり,通常は正常な皮膚または粘膜下の単発性結節である。ときに嚢胞性の場合には軟らかいが,ほとんどの場合は硬い。

良性腫瘍

良性の唾液腺腫瘍には多くの種類がある。多形腺腫(混合腫瘍としても知られる)は最も一般的な良性の唾液腺腫瘍である。その他の良性腫瘍としては,乳頭状嚢腺リンパ腫(Warthin腫瘍としても知られる),オンコサイトーマ,腺腫などがある。

悪性の可能性がある良性腫瘍

多形腺腫(混合腫瘍)は悪性化することがあるが,通常,これは良性腫瘍が15~20年存在した後にのみ生じる。多形腺腫の悪性化が起きると,多形腺腫由来癌と呼ばれるようになる。腫瘍中のがん成分が転移するため,多形腺腫由来癌は非常に侵襲性の高い腫瘍であり,治療を行っても治癒率は非常に低い。

良性の円柱腫は,ゆっくりと悪性化し,小唾液腺(および気管)の最も一般的な悪性腫瘍である腺様嚢胞癌になることがある。この悪性腫瘍の好発年齢は40~60歳であり,症状としては重度の疼痛のほか,しばしば顔面神経麻痺がみられる。神経周囲浸潤および進展を来す傾向があり,主な腫瘍塊から何センチも進展していることがある。リンパ行性転移は一般的ではない。肺転移が一般的であるが,その場合でも,患者はかなり長期間生存する可能性がある。

悪性唾液腺腫瘍

その他の悪性腫瘍は比較的まれであり,急速な成長または突然の急成長を特徴とする。硬く,結節状で,隣接組織に固着していることがあり,しばしば辺縁が不明瞭である。最終的には,被覆している皮膚もしくは粘膜の潰瘍化,または隣接組織への浸潤が生じることがある。

粘表皮癌が最も一般的な唾液腺癌であり,典型的には20~50代で発生する。あらゆる唾液腺に発生し,最も一般的には耳下腺にみられるが,顎下腺または口蓋小唾液腺でもみられる。中悪性度および高悪性度の粘表皮癌は所属リンパ節に転移することがある。

一般的な耳下腺腫瘍である腺房細胞癌が,40~50代の人で生じる。腺房細胞癌はより緩徐な経過をたどり,また多巣性に発生する。

症状と徴候

大半の良性および悪性の唾液腺腫瘍は,無痛性腫瘤として現れる。しかしながら,悪性腫瘍が神経に浸潤し,限局性ないし局所性の疼痛,しびれ,錯感覚,複合性局所疼痛症候群(カウザルギー),運動機能の喪失などを引き起こす場合もある。

診断

  • 穿刺吸引細胞診

  • 腫瘍の範囲を評価するためのCTおよびMRI

CTおよびMRIにより腫瘍の位置が確認され,その範囲が示される。腫瘤の穿刺吸引細胞診により,細胞の種類を確定する。治療を選択する前に,しばしば所属リンパ節への転移,または肺,肝臓,骨,もしくは脳への遠隔転移の検索が必要となる。

治療

  • 手術,ときに放射線療法併用

良性腫瘍の治療は手術である。切除が不十分であると,再発率は高い。

悪性唾液腺腫瘍に対しては,切除可能例では手術(およびときにその後放射線療法)が第1選択の治療法である。現在,唾液腺癌に効果的な化学療法はない。

粘表皮癌の治療は,高悪性度病変に対する広範囲切除および術後の放射線治療から成る。主に粘液細胞を侵す低悪性度の組織型では5年生存率は95%であり,主に類表皮細胞を侵す高悪性度の組織型では50%である。所属リンパ節転移に対して,外科的切除および術後放射線療法で対処する必要がある。

腺様嚢胞癌の治療は広範囲にわたる外科的切除であるが,神経周囲浸潤の傾向があることから局所再発がよくみられる。リンパ行性転移は比較的まれであるため,待機的なリンパ節治療が必要になる可能性は低い。5年および10年生存率は非常に良好であるが,15年および20年生存率は不良であり,多くの患者で遠隔転移が生じる。最初の診断および治療から何年も(通常は10年以上)経った後ではあるが,肺転移および死亡がよくみられる。

腺房細胞癌の予後は広範囲切除後は良好である。

多形腺腫由来癌に対する一次治療は,全ての病変の完全切除を目標とする耳下腺切除術である。頸部郭清術は,リンパ節転移が認められる場合に施行するほか,リンパ節転移の所見が認められない一部の患者でも考慮する。

全ての手術は顔面神経を温存するように設計し,腫瘍の顔面神経への直接的な浸潤がある症例でのみ犠牲にする。

要点

  • 唾液腺腫瘍の約20~25%のみが悪性である;耳下腺が侵されることが最も多い。

  • 癌は硬く,結節性で,隣接組織に固着していることがある;疼痛および神経浸潤(しびれおよび/または筋力低下)がよくみられる。

  • がんが確定したら,生検ならびにCTおよびMRIを施行する。

  • 手術を用いて治療し,ときに特定のがんには放射線療法を併用する。

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. National Cancer Institute’s Summary: Salivary Gland Cancer Treatment

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