(顎関節疾患の概要 顎関節疾患(TMD)の概要 顎関節疾患とは,顎関節,咀嚼筋,および関連する全ての構造に影響を及ぼす筋骨格系および神経筋疾患群に対する包括的用語である。顎関節疾患は,しばしば顎,顔面,および頸部の疼痛ならびに/または顎関節の機能障害(可動域の減少が多い)を呈し,しばしば 頭痛または耳痛を伴う。疼痛または機能障害が専門家のケアを受けようとするほど重度の場合に,患者は顎関... さらに読む も参照のこと。)
この病態は顎関節領域に影響を及ぼす最も一般的な疾患である。女性でより多くみられ,20代前半と 閉経 閉経 閉経は,卵巣機能の低下による生理的または医原性の月経停止(無月経)である。症状としては,ホットフラッシュ,盗汗,睡眠障害,閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause)(外陰・腟の萎縮などのエストロゲン欠乏による症状および徴候)などがある。診断は1年間の無月経を基準として臨床的に行う。症... さらに読む 期前後に二峰性の年齢分布を示す。
罹患筋では,疼痛およびトリガーポイント(関連痛を引き起こす)の両方が, ブラキシズム ブラキシズム ブラキシズムとは歯のクレンチング,またはグラインディングを意味する。 ブラキシズムは歯冠のエナメル質および象牙質をすり減らし最終的には磨耗させ,金属およびセラミッククラウンにダメージを与え,また歯の動揺を引き起こすことがある。ブラキシズムは多因子性の病態と考えられている。 胃食道逆流症(GERD)および/または... さらに読む (クレンチングまたはグラインディング)などの異常機能活動によって生じることがあり,ブラキシズムは2つの異なる疾患,すなわち睡眠時ブラキシズムまたは覚醒時ブラキシズムと認識されており,それぞれ病因が異なる。
筋筋膜性疼痛症候群は咀嚼筋に限らない。体のどこにも起こりうるが,最も一般的には頸部,肩,および背部の筋肉にみられる。
筋筋膜性疼痛症候群の症状と徴候
症状は,咀嚼筋の疼痛と圧痛であり,しばしば顎の運動時の疼痛と制限も生じる。睡眠時 ブラキシズム ブラキシズム ブラキシズムとは歯のクレンチング,またはグラインディングを意味する。 ブラキシズムは歯冠のエナメル質および象牙質をすり減らし最終的には磨耗させ,金属およびセラミッククラウンにダメージを与え,また歯の動揺を引き起こすことがある。ブラキシズムは多因子性の病態と考えられている。 胃食道逆流症(GERD)および/または... さらに読む および 睡眠呼吸障害 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は,睡眠時に生じ呼吸停止(10秒を超える無呼吸または低呼吸と定義される)を引き起こす部分的または完全な上気道閉塞エピソードから成る。症状としては,日中の過度の眠気,不穏状態,いびき,反復性覚醒,起床時の頭痛などがある。診断は睡眠歴および睡眠ポリグラフ検査に基づく。治療は,持続陽圧呼吸療法(CPAP),口腔内装置,および難治例では手術による。治療を行えば予後は良好である。ほとんどの症例は未診断かつ未治療の... さらに読む (閉塞性睡眠時無呼吸症候群および上気道抵抗症候群など)のいずれも,起床時に強くなり日中徐々に改善する頭痛と関連する。このような頭痛は 巨細胞性動脈炎 巨細胞性動脈炎 巨細胞性動脈炎は,胸部大動脈,大動脈から派生する頸部の大型動脈,および頸動脈の頭蓋外分枝を主に侵す。リウマチ性多発筋痛症の症状がよくみられる。症状および徴候には,頭痛,視覚障害,側頭動脈の圧痛,咀嚼時の顎筋の痛みなどがある。発熱,体重減少,倦怠感,疲労もよくみられる。赤血球沈降速度の亢進およびC反応性タンパク(CRP)値の上昇が典型的にみられる。診断は臨床的に行い,側頭動脈生検により確定する。高用量コルチコステロイドおよび/またはトシリ... さらに読む と区別しなければならない。異常機能活動が一日中続く場合は,顎筋の疲労,顎の痛み,頭痛などの覚醒時の症状が通常は悪化する。
下顎は開口時に偏位するが, 顎関節内障 顎関節内障 最も一般的な顎関節内障の病態は,下顎頭との位置関係における関節円板の前方への転位である。しばしば,開口時に,関節痛およびはじけるような音/クリック音が生じ円板が正常な位置に戻る。頻度は低いが,円板が転位したままとなり,開口が制限されることもある。診断は病歴と身体診察に基づく。処置は鎮痛薬,顎を安静に保つ,筋肉の弛緩,理学療法,口腔内装置療法による。もしこれらの方法が奏効しない場合,手術が必要となることもある。早期の処置により,結果が大き... さらに読む の開口時に比べ,突然生じたり,常に開口と同時に生じたりすることは通常はない。診察者が下顎前歯を愛護的に加圧することで,罹患筋を伸ばして患者の開口を補助し,何もしない場合の最大開口時よりも,口を1~3mm余分に開けることができる。
筋筋膜性疼痛症候群の診断
臨床的評価
ときに睡眠ポリグラフ検査
単純な試験が診断に役立つことがある:2枚または3枚分の舌圧子を両側の最後方の大臼歯間に置き,患者に徐々に閉口するよう指示する(1, 2 診断に関する参考文献 筋筋膜性疼痛症候群(以前は筋筋膜痛機能障害症候群[MPDSまたはMFPDS]として知られていた)は正常な顎関節の患者に生じることがある。これは,咀嚼筋における筋肉の緊張,疲労,または(まれに)攣縮によって引き起こされる。症状としては,咀嚼器やその周囲または頭頸部の他部位に及ぶ疼痛および圧痛と,しばしば顎の可動性の異常がある。診断は病歴と身体診察に基づく。鎮痛薬,筋肉の弛緩,異常機能活動(例,クレンチングおよびグラインディング)の是正,口... さらに読む )。関節腔に作り出された伸延が症状を緩和することがある。X線検査は通常関節炎の除外診断のみに役立つ。 巨細胞性動脈炎 巨細胞性動脈炎 巨細胞性動脈炎は,胸部大動脈,大動脈から派生する頸部の大型動脈,および頸動脈の頭蓋外分枝を主に侵す。リウマチ性多発筋痛症の症状がよくみられる。症状および徴候には,頭痛,視覚障害,側頭動脈の圧痛,咀嚼時の顎筋の痛みなどがある。発熱,体重減少,倦怠感,疲労もよくみられる。赤血球沈降速度の亢進およびC反応性タンパク(CRP)値の上昇が典型的にみられる。診断は臨床的に行い,側頭動脈生検により確定する。高用量コルチコステロイドおよび/またはトシリ... さらに読む が疑われる場合,赤血球沈降速度(赤沈)値を測定する。
睡眠呼吸障害が疑われる場合は睡眠ポリグラフ検査を行うべきである。
診断に関する参考文献
Schiffman E, Ohrbach R, Truelove E, et al: Diagnostic criteria for temporomandibular disorders (DC/TMD) for clinical and research applications: Recommendations of the International RDC/TMD Consortium Network and Orofacial Pain Special Interest Group.J Oral Facial Pain Headache 28(1):6-27, 2014.doi: 10.11607/jop.1151.
Peck C, Goulet JP, Lobbezoo F, et al: Expanding the taxonomy of the diagnostic criteria for temporomandibular disorders (DC/TMD).J Oral Rehabil 41(1):2-23, 2014.doi: 10.1111/joor.12132.
筋筋膜性疼痛症候群の処置/治療
弱い鎮痛薬
口腔内装置
就寝時の抗不安薬の服用の考慮が可能
理学療法の考慮
歯科医師が作製した口腔内装置により上下の歯の接触が阻止され,それにより ブラキシズム ブラキシズム ブラキシズムとは歯のクレンチング,またはグラインディングを意味する。 ブラキシズムは歯冠のエナメル質および象牙質をすり減らし最終的には磨耗させ,金属およびセラミッククラウンにダメージを与え,また歯の動揺を引き起こすことがある。ブラキシズムは多因子性の病態と考えられている。 胃食道逆流症(GERD)および/または... さらに読む による損傷を軽減できる。市販の熱可塑性(ボイルアンドバイト)のマウスガードが多くのスポーツ用品店または薬局で購入できる;しかし,このような装置は一時的に使用するもので短期の診断ツールと考えるべきである。このようなマウスガードは望ましくない歯の移動や,逆説的な筋肉活動の増加を引き起こす可能性があるため,口腔内装置の作製,装着,および調整は理想的には歯科医師が行うべきである。
就寝時における低用量のベンゾジアゼピン系薬剤の服用は,急性増悪と症状の一時的緩和にしばしば効果的であるが,睡眠時無呼吸症候群などの 睡眠障害を併発 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は,睡眠時に生じ呼吸停止(10秒を超える無呼吸または低呼吸と定義される)を引き起こす部分的または完全な上気道閉塞エピソードから成る。症状としては,日中の過度の眠気,不穏状態,いびき,反復性覚醒,起床時の頭痛などがある。診断は睡眠歴および睡眠ポリグラフ検査に基づく。治療は,持続陽圧呼吸療法(CPAP),口腔内装置,および難治例では手術による。治療を行えば予後は良好である。ほとんどの症例は未診断かつ未治療の... さらに読む している患者は,これらの疾患を増悪させる可能性があるため,抗不安薬および筋弛緩薬の使用には注意を要する。非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)またはアセトアミノフェンなどの弱い鎮痛薬の単独または組合せが適応となる。一部の症例では,シクロベンザプリン(cyclobenzaprine)が筋弛緩に有用である。症状は慢性であるため,おそらく急性増悪時の短期投与以外には,オピオイドは使用すべきではない。慢性疼痛の一部の症例では,医師の管理下での抗うつ薬投与が有用である。
患者は覚醒時の異常機能活動(例,顎のクレンチング,歯のグラインディング)をやめるよう学ばなければならない。硬い食物やチューインガムは避けるべきである。理学療法,リラクゼーションを促進するバイオフィードバック,カウンセリングが一部の患者に有用である。理学療法には 経皮的電気神経刺激 電気刺激 疼痛および炎症の治療の目的は,運動を促進し,筋肉や関節の協調運動能力を向上させることである。薬剤を使用しない治療法としては,運動療法,温熱,冷却,電気刺激,頸椎牽引,マッサージ,鍼治療などがある。これらの治療法は,筋肉,腱,および靱帯の多くの疾患に用いられている( Professional.see table 薬剤を使用しない疼痛治療の適応)。処方者は以下の項目を記載しなければならない:... さらに読む (TENS)および「スプレーとストレッチ法」があるが,それは痛みのある部位の皮膚を氷で冷却,または塩化エチルなどの皮膚冷却薬をスプレーした後,顎を伸ばして開ける方法である。ボツリヌス毒素が使用され筋攣縮の緩和に成功することがある。ほとんどの患者では,たとえ無処置でも,2~3年以内に有意な症状が消失する。
筋筋膜性疼痛症候群の要点
筋筋膜性疼痛症候群は顎関節痛の原因として顎関節障害よりも一般的である。
異常機能活動(例,ブラキシズム)によって咀嚼筋の緊張,疲労,および(まれに)攣縮が生じることがある。
患者は咀嚼筋の疼痛と圧痛を訴え,顎の運動が疼痛により制限され,ときに頭痛も伴う。
就寝時の口腔内装置の使用とベンゾジアゼピン系薬剤が非オピオイド鎮痛薬とともに有用な場合がある。