海綿静脈洞血栓症の病因
海綿静脈洞は頭蓋骨底に位置する海綿状の静脈洞で,顔面の静脈からの静脈血が流入する。海綿静脈洞血栓症は一般的な顔面感染症(最も顕著なものは鼻せつ[50%],蝶骨洞炎または 篩骨洞炎 副鼻腔炎 副鼻腔炎はウイルス,細菌,もしくは真菌性感染症またはアレルギー反応による副鼻腔の炎症である。症状としては,鼻閉,膿性鼻汁,顔面痛または顔面の圧迫感などのほか,ときに倦怠感,頭痛,発熱もみられる。急性ウイルス性鼻炎を想定した治療には,蒸気吸入および血管収縮薬の局所薬または全身投与などがある。細菌感染が疑われる場合の治療は,アモキシシリン/ク... さらに読む [30%],および歯性感染症[10%])の極めてまれな合併症である。最も頻度が高い病原体は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(70%),次いでレンサ球菌(Streptococcus)属である;歯科または副鼻腔の感染症が基礎疾患である場合は嫌気性菌がより一般的である。
横静脈洞血栓症(乳様突起炎 乳様突起炎 乳様突起炎は乳突蜂巣の細菌感染症であり,典型的には,急性中耳炎の後に起こる。症状としては,乳様突起上の発赤,圧痛,腫脹,波動などがあり,耳介の変位を伴う。診断は臨床的に行う。治療はセフトリアキソンなどの抗菌薬により行い,薬物療法単独で無効な場合には,乳突蜂巣削開術を行う。 急性化膿性中耳炎では,炎症がしばしば側頭骨の乳突洞や乳突蜂巣にまで... さらに読む に関連する)および上矢状静脈洞血栓症(細菌性髄膜炎 急性細菌性髄膜炎 急性細菌性髄膜炎は,急速に進行する髄膜およびくも膜下腔の細菌感染症である。典型的な所見には,頭痛,発熱,項部硬直などがある。診断は髄液検査による。治療は抗菌薬およびコルチコステロイドにより,これらを可及的速やかに投与する。 ( 髄膜炎の概要および 新生児細菌性髄膜炎も参照のこと。)... さらに読む に関連する)も起こるが,海綿静脈洞血栓症に比べまれである。
海綿静脈洞血栓症の病態生理
第3,4,6脳神経ならびに第5脳神経の分枝である眼神経および上顎神経は海綿静脈洞に隣接しており,海綿静脈洞血栓症では侵されることが多い。海綿静脈洞血栓症の合併症には,髄膜脳炎, 脳膿瘍 脳膿瘍 脳膿瘍は脳内に膿が蓄積した状態である。症状としては,頭痛,嗜眠,発熱,局所神経脱落症状などがある。診断は造影MRIまたはCTによる。治療は抗菌薬に加えて,通常はCTガイド下穿刺吸引術または外科的ドレナージによる。 ( 脳感染症に関する序論も参照のこと。) 脳膿瘍は,脳の炎症領域が壊死に陥り,その周囲を神経膠細胞と線維芽細胞が被膜で覆うこと... さらに読む , 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中とは,神経脱落症状を引き起こす突然の局所的な脳血流遮断が生じる多様な疾患群である。脳卒中には以下の種類がある: 虚血性(80%):典型的には血栓または塞栓によって生じる 出血性(20%):血管の破裂によって生じる(例, くも膜下出血, 脳内出血) 明らかな急性脳梗塞の所見(MRIの拡散強調画像に基づく)を伴わない一過性(典型的には1... さらに読む , 失明 急性視力障害 数分から2日以内に発生する視力障害は通常急性とみなされる。片眼のみのこともあれば両眼のこともあり,視野全体に及ぶこともあれば一部に限局することもある。小さな視野欠損(例,小さな 網膜剥離による)のある患者は,自身の症状を「目がかすむ」と表現することがある。 急性視力障害の一般的原因には以下の3つがある:... さらに読む ,および 下垂体機能不全 下垂体ホルモンの単独欠損症 下垂体ホルモンの単独欠損症は,より 広範な下垂体機能低下症の発症初期段階であると考えられる。他の下垂体ホルモン欠乏の徴候がないか患者を観察する必要があり,トルコ鞍の画像検査を定期的に実施して下垂体腫瘍の徴候を確認すべきである。 (下垂体の構造および機能,ならびに視床下部と下垂体との関連については... さらに読む などがある。
海綿静脈洞血栓症の症状と徴候
海綿静脈洞血栓症の初期症状は,進行性かつ重度の頭痛または顔面痛で,通常は片眼性で眼窩後部と前頭部に限局する。高熱がよくみられる。後に,眼筋麻痺(初期には典型的には第6脳神経),眼球突出,および眼瞼浮腫が現れ,しばしば両眼性となる。顔面の知覚が低下または消失することがある。意識レベルの低下,錯乱,痙攣発作,および局所神経脱落症状は,中枢神経系への波及の徴候である。また,海綿静脈洞血栓症の患者では瞳孔不同または散瞳(第3脳神経の障害), 乳頭浮腫 乳頭浮腫 乳頭浮腫は頭蓋内圧亢進による視神経乳頭の腫脹である。頭蓋内圧亢進を起こさない原因(例,悪性高血圧,網膜中心静脈血栓症)による視神経乳頭の腫脹は,乳頭浮腫とはみなされない。初期症状はなく,あっても数秒間視力が障害される程度である。乳頭浮腫は直ちに原因究明をする必要がある。診断は眼底検査に加え,通常脳画像検査およびそれに続いてときに腰椎穿刺な... さらに読む ,および視力障害も認めることがある。
海綿静脈洞血栓症の診断
MRIまたはCT
海綿静脈洞血栓症はまれであるためしばしば誤診される。 眼窩蜂窩織炎 眼窩隔膜前蜂窩織炎および眼窩蜂窩織炎 眼窩隔膜前蜂窩織炎(眼窩周囲蜂窩織炎)とは,眼瞼,および眼瞼を取り囲み眼窩隔膜より前方にある皮膚の感染症である。眼窩蜂窩織炎とは,眼窩隔膜より後方の組織の感染症である。いずれも外部の感染巣(例,創傷),鼻腔または歯から波及した感染症,または他の部位の感染症の転移によって起こりうる。症状としては眼瞼痛,変色,腫脹などがあり,眼窩蜂窩織炎では... さらに読む に合致する徴候がある患者では考慮すべきである。海綿静脈洞血栓症を眼窩蜂窩織炎と鑑別する特徴には,脳神経障害,両眼性,精神状態の変化などがある。
診断は神経画像検査に基づいて行う。MRIがより望ましいが,CTも役立つ。有用な補助検査には血液培養および 腰椎穿刺 腰椎穿刺後およびその他の低髄液圧性頭痛 腰椎穿刺または自発性あるいは外傷性髄液漏により髄液の量および圧が減少することで,低髄液圧性頭痛が引き起こされる場合がある。 ( 頭痛患者へのアプローチも参照のこと。) 腰椎穿刺による髄液の採取は,特発性または外傷性髄液漏の場合と同じく髄液の量および圧の減少をもたらす。 腰椎穿刺後の頭痛は一般的で,通常は数時間から1~2日後に起き,重度とな... さらに読む などがある。
海綿静脈洞血栓症の予後
死亡率は全ての海綿静脈洞血栓症患者の30%であり,基礎に 蝶形骨洞炎 副鼻腔炎 副鼻腔炎はウイルス,細菌,もしくは真菌性感染症またはアレルギー反応による副鼻腔の炎症である。症状としては,鼻閉,膿性鼻汁,顔面痛または顔面の圧迫感などのほか,ときに倦怠感,頭痛,発熱もみられる。急性ウイルス性鼻炎を想定した治療には,蒸気吸入および血管収縮薬の局所薬または全身投与などがある。細菌感染が疑われる場合の治療は,アモキシシリン/ク... さらに読む がある患者では50%である。さらに30%の患者では重篤な続発症(例,眼筋麻痺,失明,脳卒中による障害,下垂体機能低下)を伴い,これらが永久に残る可能性がある。
海綿静脈洞血栓症の治療
高用量抗菌薬の静注
ときにコルチコステロイド
海綿静脈洞血栓症患者の初期の抗菌薬には,ナフシリン(nafcillin)またはオキサシリン1~2gの4~6時間毎投与に第3世代セファロスポリン系薬剤(例,セフトリアキソン1g,12時間毎)を併用することなどがある。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S. aureus)が多い地域では,ナフシリン(nafcillin)またはオキサシリンに代わってバンコマイシン1gを12時間毎に静注すべきである。基礎に副鼻腔炎または歯性感染症がある場合には,嫌気性菌に対する薬物(例,メトロニダゾール500mg,8時間毎)を追加すべきである。
基礎に 蝶形骨洞炎 治療 副鼻腔炎はウイルス,細菌,もしくは真菌性感染症またはアレルギー反応による副鼻腔の炎症である。症状としては,鼻閉,膿性鼻汁,顔面痛または顔面の圧迫感などのほか,ときに倦怠感,頭痛,発熱もみられる。急性ウイルス性鼻炎を想定した治療には,蒸気吸入および血管収縮薬の局所薬または全身投与などがある。細菌感染が疑われる場合の治療は,アモキシシリン/ク... さらに読む がある例で,特に24時間以内に抗菌薬に対して臨床反応がない場合には,外科的な副鼻腔ドレナージが適応となる。
海綿静脈洞血栓症の二次治療には,脳神経障害に対するコルチコステロイド(例,デキサメタゾン10mg,静注または経口,6時間毎)などがある;ほとんどの患者が抗菌薬に反応するため抗凝固薬の投与については議論があり,有害作用が有益性を上回る可能性がある。
海綿静脈洞血栓症についてのより詳細な情報
Plewa MC, Tadi P, Gupta M: Cavernous sinus thrombosis.StatPearls Publishing, Treasure Island, 2020.