壊疽性膿皮症

執筆者:Julia Benedetti, MD, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2020年 7月
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壊疽性膿皮症は,慢性かつ進行性に好中球性の皮膚壊死が生じる病態であり,病因は不明であるが,しばしば全身性疾患に合併し,ときに皮膚損傷に合併する。診断は臨床的に行う。治療法としては,創傷ケアのほか,重症度に応じた抗炎症薬または免疫抑制薬の使用などがある。

壊疽性膿皮症の病因

壊疽性膿皮症の病因は不明であるが,様々な全身性疾患に合併することがあり,具体的には炎症性腸疾患関節リウマチ,がん,血液疾患(例,意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症骨髄異形成症候群真性多血症)などがある。免疫応答の異常が関与すると考えられている。患者の大半が25~55歳である。様々な亜型として発症することがある。

壊疽性膿皮症の病態生理

壊疽性膿皮症の病態生理はあまり解明されていないが,好中球走化性に関する問題が関与している可能性がある。病変内ではインターロイキン8が過剰発現している。約30%の患者では,皮膚に外傷ないし損傷が生じた後に壊疽性膿皮症の潰瘍化がみられ,この現象はパテルギーと呼ばれている。

壊疽性膿皮症の症状と徴候

ほとんどの場合,壊疽性膿皮症は炎症性の紅色丘疹,膿疱,または結節として始まる。この病期の病変はせつや虫刺症に似ることがあるが,その後潰瘍化して急速に拡大し,潰瘍底は壊死を起こして腫脹し,辺縁は暗褐色から紫色を帯びるようになって隆起する。辺縁部の下掘れ(すなわち,辺縁部の下にある支持組織の欠損)がよくみられるが,本疾患に特有の所見ではない。発熱や倦怠感などの全身症状もよくみられる。複数の潰瘍が融合して大きな潰瘍を形成し,しばしば蜂巣状または篩状の瘢痕を生じることがある。

症状および徴候は亜型により多様である。

潰瘍型(古典型)

最も頻度が高いこの亜型では,上述のように潰瘍が形成されるが,その好発部位は下肢と体幹部(特に殿部および会陰)である。

壊疽性膿皮症,潰瘍型(古典型)
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この写真には,下肢に生じた潰瘍性病変が写っており,底部は壊死しており,境界部は暗褐色から紫色で隆起している。
© Springer Science+Business Media

水疱型(非定型)

比較的頻度の低いこの亜型は,しばしば血液疾患の患者に生じる。病変は通常,水疱として始まり,びらんを生じて表在性潰瘍となる。上肢および顔面が最もよく侵される。

壊疽性膿皮症,水疱型(非定型)
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この写真には,上肢に表在性病変を形成している,びらんを生じた多発性の水疱が写っている。
© Springer Science+Business Media

膿疱型

この亜型は炎症性腸疾患の増悪中に生じることが多い。紅斑に囲まれた疼痛を伴う膿疱が生じる。関節痛がよくみられる。

増殖型(表在性肉芽腫性膿皮症)

この亜型では,単発性かつ進行が緩徐で,軽度の疼痛を伴う局面または浅い潰瘍が,ほとんどの場合頭部または頸部に生じる。辺縁部には下掘れが生じず,底部には壊死を生じない。

壊疽性膿皮症,増殖型(表在性肉芽腫性膿皮症)
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この写真には,境界部の隆起も底部の壊死も認めない単一の表在性潰瘍が写っている。
© Springer Science+Business Media

その他の亜型

壊疽性膿皮症は,炎症性腸疾患患者のストーマ周囲(ストーマ周囲壊疽性膿皮症),性器(性器の壊疽性膿皮症)などの他の部位,または骨,角膜,中枢神経系,心臓,小腸,肝臓,肺,筋肉などの皮膚以外の部位(皮膚外の壊疽性膿皮症)にも生じることがある。

壊疽性膿皮症の診断

  • 臨床的評価

壊疽性膿皮症の診断は臨床所見に基づくが,潰瘍形成の他の原因を除外した上での除外診断となる。外科的な壊死組織の切除後に潰瘍が拡大する場合は,壊疽性膿皮症が強く示唆される。病変の生検はしばしば診断に役立たないが,診断の裏付けになることはあり,病変先端部からの生検の40%で,表在血管に好中球およびフィブリンを伴った血管炎を認める。

水疱型(非定型)壊疽性膿皮症の患者は,血液疾患の発症がみられないか,定期的な臨床的評価および血算によりモニタリングすべきである。

壊疽性膿皮症の治療

  • 創傷ケア

  • コルチコステロイド

  • 腫瘍壊死因子(TNF)α阻害薬

  • ときに他の抗炎症薬または免疫抑制薬

  • 外科的な壊死組織切除の回避

創傷の治癒は,比較的滲出の少ない局面に対しては水分保持性の密閉ドレッシング,滲出性の強い局面に対しては吸収性ドレッシングにより促進することが可能である。難治例では,生物学的創傷被覆材やその他の特殊なドレッシング材が必要になることがある。Wet-to-dryドレッシングは避けるべきである。強力なコルチコステロイドまたはタクロリムスの外用療法は,表在性および早期病変の治療に役立つ可能性がある。

より重度の症状には,プレドニゾン60~80mg,経口,1日1回が一般的な第1選択の治療法である。TNF-α阻害薬(例,インフリキシマブ,アダリムマブ,エタネルセプト)が効果的である(特に炎症性腸疾患を合併している患者)。シクロスポリン3mg/kg,経口,1日1回もかなり効果的である(特に進行が速い場合)。ジアフェニルスルホン,アザチオプリン,シクロホスファミド,メトトレキサート,クロファジミン,サリドマイド,およびミコフェノール酸モフェチルも使用され,治療成功が報告されている。ミノサイクリンなどの抗菌薬も増殖型(表在性)壊疽性膿皮症に使用されている。

創傷拡大のリスクがあるため,外科的治療は控える(1)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Alavi A, French LE, Davis MD, et al: Pyoderma gangrenosum: An update on pathophysiology, diagnosis and treatment.Am J Clin Dermatol 18(3):355–372, 2017.doi: 10.1007/s40257-017-0251-7

壊疽性膿皮症の要点

  • 壊疽性膿皮症は,全身性疾患に合併することが多く,おそらくは免疫を介して発生する。

  • いくつかの亜型があり,そのうち潰瘍型(潰瘍底に壊死が生じ,境界部が紫色を帯びて隆起し,辺縁部に下掘れが生じた病変が下肢,殿部,または会陰に生じるもの)の頻度が最も高い。

  • 壊疽性膿皮症は臨床的に診断する。

  • 創傷ケアを最適化し,外科的な壊死組織切除は控える。

  • 早期病変の治療では強力なコルチコステロイドまたはタクロリムスを外用し,より重症症状の治療にはコルチコステロイドの全身投与,腫瘍壊死因子(TNF)α阻害薬,または他の抗炎症薬もしくは免疫抑制薬を用いる。

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