黒色腫

(悪性黒色腫)

執筆者:Gregory L. Wells, MD, Ada West Dermatology and Dermatopathology
レビュー/改訂 2020年 12月
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悪性黒色腫は,色素のある部位(例,皮膚,粘膜,眼,中枢神経系)のメラノサイトから発生する。転移は真皮浸潤の深さと相関する。進展した場合の予後は不良である。診断は生検による。手術可能な腫瘍には広範な外科的切除を行うのが原則である。転移例には全身療法が必要であるが,治癒は困難である。

皮膚悪性腫瘍の概要も参照のこと。)

2020年には,米国で約100,350例の黒色腫症例が新たに発生し,約6850人が死亡していると推定される(1, 2)。生涯リスクは白人で約2.5%,黒人で0.1%,ヒスパニックで0.5%である(3)。過去8年間で発生率は一定している(以前は他の悪性腫瘍より速いペースで増加していた)。米国で診断される全ての皮膚悪性腫瘍のうち黒色腫の占める割合は5%未満であるが,死に至る皮膚悪性腫瘍としては黒色腫が最も多くを占めている。平均すると,米国では1時間に1名の患者が黒色腫により死亡していることになる。

黒色腫は主に皮膚に生じるが,口腔,性器,直腸部位の粘膜,ならびに結膜にも発生する。黒色腫はまた,眼の脈絡膜,髄膜(軟膜またはくも膜),爪床にも生じうる。黒色腫の大きさ,形状,および色調(通常は色素を伴う)と浸潤および転移の傾向は様々である。転移はリンパ行性と血行性の様式で生じる。局所転移が起きると,原発巣周囲に丘疹または結節が衛星状に形成され,それらは色素を有する場合と無色素性の場合がある。皮膚または内臓に転移することがあり,ときには原発病変が判明する前に転移性の結節や腫脹したリンパ節が発見されることもある。

総論の参考文献

  1. 1.American Cancer Society: Cancer Facts & Figures 2020.Atlanta, American Cancer Society, 2020.

  2. 2.Siegel RL, Miller KD, Jemal A: Cancer statistics, 2020.CA Cancer J Clin 70(1):7–30, 2020. doi: 10.3322/caac.21590

  3. 3.Melanoma Research Alliance: Melanoma statistics, 2020.

黒色腫の危険因子

黒色腫の危険因子としては以下のものがある(1):

  • 日光曝露,特に水疱形成を繰り返すサンバーン

  • 紫外線A波(UVA)による反復的な日焼けまたはソラレンとUVAの併用療法(PUVA療法)

  • 非黒色腫皮膚がん

  • 黒色腫の家族歴および既往歴

  • 色の薄い皮膚,そばかす

  • 異型母斑,特に5個を超える場合

  • 色素性母斑の数の増加

  • 免疫抑制

  • 悪性黒子の発生

  • 20cmを超える先天性色素性母斑(先天性巨大母斑)

  • 異型母斑症候群(dysplastic nevus syndrome)

  • 家族性異型母斑黒色腫症候群(familial atypical mole-melanoma syndrome)

先天性色素性母斑
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先天性色素性母斑(先天性巨大母斑)は悪性黒色腫の危険因子である。その大きさ(20cmを超える),不整な境界,および不均一な色に注目すること。
Image courtesy of Carl Washington, MD and Mona Saraiya, MD, MPH via the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.

黒色腫の既往がある患者では,新たな黒色腫は発生するリスクが高い。黒色腫の既往を有する第1度近親者が1人でもいる個人は,家族歴のない個人よりもリスクが高い(最大6倍または8倍)。

異型母斑症候群は,ほくろが多数あり(例,50個以上),そのうち少なくとも1個に異型がみられ,かつ少なくとも1個が直径8mmを超える場合である。

家族性異型母斑黒色腫症候群(familial atypical mole–melanoma syndrome)は,2名以上の第1度近親者に多発性の異型母斑および黒色腫が認められる場合であり,これに該当する個人は黒色腫のリスクが著明に高くなる(25倍)。

黒色腫は皮膚の色の濃い人々では頻度が低く,発生する場合も,爪床,手掌,および足底が好発部位となる。

黒色腫の約30%は色素のあるほくろから発生し(典型的なほくろと異型母斑からそれぞれ約半数ずつ),残りのほぼ全例は正常皮膚のメラノサイトから発生する。異型母斑(dysplastic nevius)は黒色腫の前駆病変である場合がある。小児期の黒色腫は非常にまれであるが,小児に生じる場合は,ほぼ常に髄膜内か先天性巨大母斑から発生する。黒色腫は妊娠中にも生じるが,妊娠によってほくろが黒色腫に変化する可能性が高まるわけではない;妊娠中は,ほくろの大きさが変化し,均一に濃色化することがしばしばある。全例で,一定以上の大きさ,不整な境界,最近の拡大,濃色化,潰瘍形成,出血など特定の懸念すべき特徴がみられる病変を評価すべきである(黒色腫の診断を参照)。

異型母斑
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この写真には,色素のある多数のほくろまたは異型母斑が生じた患者の背部が写っており,これらは悪性黒色腫の危険因子である。
Image courtesy of Carl Washington, MD and Mona Saraiya, MD, MPH, via the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.

危険因子に関する参考文献

  1. 1.Bolognia J, Schaffer J, Cerroni L: Dermatology, ed.4.China, Elsevier Limited, 2018. 

黒色腫の分類

黒色腫には4つの主要な病型と,いくつかの頻度の低い亜型がある。

表在拡大型黒色腫

この病型は黒色腫全体の70%を占める。典型的には無症状であり,好発部位は女性の下肢と男性の体幹である。病変は通常,隆起して硬結を来した淡黄褐色ないし褐色の不整な局面であり,しばしば赤色,白色,黒色,青色の斑や,ときに隆起した暗青色の小結節を伴う。病変の拡大や色調の変化に伴い,辺縁に小さな切痕状の陥凹を認めることもある。組織学的には,異型メラノサイトが真皮および表皮に浸潤していることが特徴である。この病型の黒色腫にはBRAF遺伝子V600の活性化変異を認める場合が最も多い。

黒色腫(表在拡大型)
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表在拡大型黒色腫は米国では黒色腫全体の70%を占める。通常は,隆起して硬結を来した淡黄褐色ないし褐色の不整な局面として生じ,しばしば赤色,白色,黒色,青色の斑や,ときに隆起した暗青色の小結節を呈する。
Photo courtesy of Gregory L. Wells, MD.

結節型黒色腫

この病型は黒色腫全体の15~30%を占める。隆起した濃色の丘疹または局面として全身のあらゆる部位に生じ,その色調は真珠色から灰色さらには黒色まで様々である。ときに,病変がごくわずかな色素しか含まない場合や,血管性腫瘍のように見える場合がある。潰瘍化しない限り,結節型黒色腫は無症状であるが,通常は病変が急速に増大することによって受診に至る。

結節型黒色腫
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この病変の隆起は,通常は灰色から黒色に見える結節型黒色腫の特徴と一致する。
Photo courtesy of Gregory L. Wells, MD.

悪性黒子型黒色腫

この病型は黒色腫全体の5%を占める。高齢患者に生じる傾向がある。悪性黒子(Hutchinson freckleまたは表皮内悪性黒色腫―そばかす様の淡黄褐色または褐色の斑)から発生する。通常は顔面をはじめとする慢性的な日光曝露のある部位に生じ,症状を伴わない淡黄褐色ないし褐色の平坦で不整形の大小の斑を呈し,表面には暗褐色または黒色の斑点が散在する。悪性黒子では,正常なメラノサイトと悪性メラノサイトの両方が表皮に限局している。悪性メラノサイトが真皮に浸潤すると,その病変は悪性黒子型黒色腫と呼ばれ,遠隔転移を起こすようになる。この病型の黒色腫は,C-kit遺伝子に変異がある場合が最も多い。

悪性黒子型黒色腫(顔面)
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この画像には,左頬部の悪性黒子型黒色腫が写っており,境界不整で色が不均一な多発性の斑が特徴的である。
Image courtesy of Carl Washington, MD and Mona Saraiya, MD, MPH, via the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.
悪性黒子型黒色腫
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この写真の病変は悪性黒子型黒色腫である。この病変に認められる特徴的所見は,不整形の平坦な病変(大小の斑)と不規則に散在する褐色または黒色の斑点(一部は濃色)である。
Photo courtesy of Gregory L. Wells, MD.

末端黒子型黒色腫

この病型は黒色腫全体の2~10%を占めるにすぎない。発生率はおそらく皮膚の色素沈着に関係なく同じと考えられるが,皮膚の色の濃い人々では他の病型の黒色腫の発生がまれであるため,そのような人々では末端黒子型黒色腫が最も頻度の高い病型となる。手掌,足底,および爪下の皮膚に発生し,悪性黒子型黒色腫に類似した特徴的な組織像を示す。この病型の黒色腫は,しばしばC-kit遺伝子に変異を来している。

末端黒子型黒色腫
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この画像では,中指に爪甲を縦方向に伸びる色素沈着(爪甲色素線条;青矢印)と爪半月を越えて後爪郭まで進展した色素沈着(Hutchinson徴候;赤矢印)を認め,さらに母指に円形の色素性病変を認める。末端黒子型黒色腫は,皮膚の色の濃い人々では最も頻度の高い病型の黒色腫であり,手掌,足底,または爪下の皮膚に発生する。この患者は末端黒子型黒色腫(悪性黒色腫の一型)と診断された。
Image courtesy of Carl Washington, MD and Mona Saraiya, MD, MPH, via the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.
末端黒子型黒色腫(足趾)
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この写真には,母趾上の末端黒子型黒色腫が写っている。この黒色腫は手掌,足底,または爪下の皮膚に発生する。
Photo courtesy of Gregory L. Wells, MD.

無色素性黒色腫

無色素性黒色腫は,色素を産生しない黒色腫の一種である。4つの主な病型のいずれかである可能性もあるが,多くはスピッツ様黒色腫,線維硬化性黒色腫,神経向性黒色腫などの頻度の低い病型に分類される。

黒色腫の10%未満で発生する無色素性黒色腫は,色調は淡赤色,紅色,または淡褐色で,境界は明瞭である場合がある。その外観から良性病変や非黒色腫皮膚がんが示唆される場合もあり,そのことが診断の遅れや,ときに予後の悪化につながることもある。

無色素性黒色腫
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この黒色腫は無色素性である。
DR P. MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

黒色腫の診断

  • 生検

黒色腫と良性病変の鑑別には,偏光型および液浸接触型のダーモスコープが有用となる場合がある。しかしながら,ほくろに懸念すべき特定の特徴(黒色腫のABCDEとして知られる)を認める場合は,生検と組織学的評価を考慮すべきである。

  • A(Asymmetry):非対称性―外観が非対称である

  • B(Border):境界―境界が不整である(すなわち,円形でも卵円形でもない)

  • C(Color):色調―ほくろの内部に色の異なる部分がある,色が通常のものと異なる,または同じ患者の他のほくろと比べて色が有意に異なるまたは濃い

  • D(Diameter):直径―6mmを超える

  • E(Evolution):変化―30歳以上の患者に新しいほくろが出現した,または,ほくろが変化を続ける

リスクのある患者には,既存のほくろに生じる変化を検出し,黒色腫を示唆する所見を認識するための自己検診を指導することができる。

その他のレッドフラグサインとしては以下のものがある:

  • 最近の拡大または形状の変化

  • 表面の特徴または硬さの変化

  • 周囲の皮膚における炎症の徴候(出血,潰瘍,そう痒,または圧痛を伴うことがある)

ただし,最近の拡大,濃色化,潰瘍形成,または出血は通常,黒色腫がすでに皮膚深層に浸潤していることを意味する。

疑いがある場合は,真皮全層を含めて,病変の辺縁をわずかに越える範囲で生検を行うべきである。診断が早ければ救命の可能性が高まり,また黒色腫の特徴が一定でないことから,わずかでも疑わしい病変があれば生検を行うべきである。色調がまだらで(例,赤色調,灰色調,または青色調の陰影を混じた褐色または黒色),視認または触知可能な不整な隆起があり,かつ境界部に角状の陥凹または切痕がみられる病変から生検材料を採取できれば,黒色腫をより早期に診断することができる。

大半の病変には切除生検を行うべきであるが,解剖学的に問題の生じやすい部位と整容上重要な部位は例外であり,そのような場合は,広範なshave biopsyを行うことができる。悪性黒子などのより広範な病変には,いくつかの部位で病変全体を代表するようにshave biopsyを行うことで,診断率が高まる可能性がある。病理医が一連の切片を検討することにより,黒色腫の最大の厚みを判定することができる。組織学的診断がつく前に根治手術を行うべきではない。

ときに腫瘍(特に遠隔転移を起こしている場合)に対して遺伝学的検査を行って遺伝子変異を検索することがあり,例えば,BRAF遺伝子にV600変異がある転移性黒色腫には,BRAF阻害薬であるベムラフェニブによる治療が勧められる。

鑑別診断としては,基底細胞癌有棘細胞癌脂漏性角化症異型母斑,青色母斑,皮膚線維腫ほくろ,血腫(特に手足に生じたもの),静脈湖,化膿性肉芽腫,局所的な血栓を生じた疣贅などがある。

病期分類

黒色腫の病期分類は,臨床基準と病理学的基準に基づくものであり,従来のTNM(tumor-node-metastasis)分類と密接に対応している。この病期分類システムでは,黒色腫を原発巣,所属リンパ節転移,および遠隔転移の状況に基づいて分類する:

  • I期およびII期:限局性の原発性黒色腫

  • III期:所属リンパ節への転移を認める場合

  • IV期:遠隔転移を認める場合

病期は生存期間と強く相関する。センチネルリンパ節生検(SLNB)と呼ばれる低侵襲の顕微鏡的な病期診断法があり,病期をより正確に判定できるという点で大きな進歩となっている。推奨される病期診断検査は,黒色腫のBreslow深達度(腫瘍細胞の浸潤深度)と組織学的特徴に基づいて行う;潰瘍形成は,Breslow深達度が0.8mm未満の黒色腫において比較的リスクが高いことを示唆する(病変の厚さと潰瘍形成に基づく黒色腫の病期分類の表を参照)。病期診断の検査としては,センチネルリンパ節生検,臨床検査(例,血算,乳酸脱水素酵素,肝機能検査),胸部X線,CT,PETなどがあり,皮膚科医,腫瘍医,一般外科医,形成外科医,皮膚病理医を含めた協同チームとして行う。

表&コラム

黒色腫の予後

黒色腫は原発巣から急速に進展することがあり,発見から数カ月で患者が死亡する場合もあるが,早期のごく表在性の病変であれば,5年治癒率は非常に高くなっている。したがって,治癒は早期診断と早期治療にかかっている。

腫瘍が皮膚原発で(中枢神経系や爪下の黒色腫ではない),転移を来していない場合の生存率は,診断時の腫瘍の厚さに依存する。5年生存率はIA期の黒色腫患者で97%,IIC期の黒色腫患者で53%であり,10年生存率はIA期の黒色腫患者で93%,IIC期の黒色腫患者で39%である。

粘膜黒色腫(特に肛門直腸黒色腫)は,白人以外の人種で多くみられ,発見時にはかなり限局しているように見えることが多いが,予後は不良である。

黒色腫がリンパ節に転移した場合の5年生存率は,潰瘍形成の程度と転移したリンパ節の数に応じて,25~70%となる。黒色腫が遠隔部位に転移した場合の5年生存率は,約10%である。

リンパ球浸潤の程度は,患者の免疫系による反応を反映し,腫瘍の浸潤度や予後と相関する可能性がある。治癒の可能性は,リンパ球浸潤が最も表層の病変に限局している場合に最も高くなり,より深層への腫瘍細胞の浸潤,潰瘍形成,および血管またはリンパ管浸潤があると低下する。

市販された遺伝子発現の検査法(DecisionDx®-Melanoma)は,I期またはII期の黒色腫患者で転移のリスクが高いか低いかを判断する上で参考になる可能性がある。この検査法はコンセンサスガイドラインにはまだ掲載されておらず,患者が免疫療法を受けるべきか否かの判断にこれを用いることは,現時点では推奨されない。

黒色腫の治療

  • 外科的切除

  • 場合によりアジュバント療法として放射線療法,イミキモド,または凍結療法

  • 転移性または切除不能の黒色腫には,免疫療法(例,ペムブロリズマブ,ニボルマブ,イピリムマブ),分子標的療法(例,ベムラフェニブ,ダブラフェニブ,エンコラフェニブ),および放射線療法

(American Academy of Dermatology AssociationのGguidelines of care for the management of primary cutaneous melanomaも参照のこと。)

黒色腫の治療は主に外科的切除(広範囲局所切除)による。切除マージンの広さについては議論があるが,深さ0.8mm未満の病変については,腫瘍縁から1cm離して切除すれば十分という見解に大半の専門医が合意している。深さが0.8mm未満であるが潰瘍を伴う腫瘍では,センチネルリンパ節生検を考慮できる。より深い病変には,さらに広いマージン,より根治性の高い手術,およびセンチネルリンパ節生検が適当となる場合がある。

悪性黒子型黒色腫および悪性黒子に対する治療は,通常は広範囲局所切除であり,必要に応じて植皮も行う。強力な放射線療法の有効性ははるかに低い。表皮内悪性黒色腫の理想的治療は外科的切除である。これはときに,段階的切除すなわちMohs顕微鏡手術によって達成できるが,この手技では,切除標本に腫瘍が認められなくなるまで(術中に顕微鏡検査で判断する)腫瘍の辺縁組織を逐次切除していく。患者が外科的治療を拒否する場合や外科的治療の適応がない場合(例,併存症のため,整容上重要な部位に病変があるため)は,イミキモドおよび凍結療法を考慮することができる。その他の大半の治療法については,除去する必要がある罹患毛包に十分到達しないのが通常である。

表在拡大型または結節型黒色腫は,通常は広範囲局所切除により治療されてきた。リンパ節の臨床的評価またはセンチネルリンパ節生検の組織学的評価でリンパ節が侵されている場合は,リンパ節郭清が推奨される。

転移例

転移性黒色腫の一般的な治療法としては以下のものがある:

  • 免疫療法

  • 分子標的療法

  • 放射線療法

  • まれに外科的切除

転移性黒色腫の患者には,全例でこれらの治療法を全て考慮すべきである。最終決定は一般に腫瘍医が個別化して判断するが,それぞれの実施可能性に左右される場合もある。

一般に転移例は手術不能であるが,限局性の転移巣と所属リンパ節転移は一部の症例では切除可能で,残存病変の排除につながり,生存期間を延長できる可能性がある。

PD-1(programmed death 1)抗体(ペムブロリズマブおよびニボルマブ)による免疫療法は,生存期間を延長する。これらの薬剤は,がんに対するT細胞のエフェクター応答を減弱させる受容体分子であるPD-1を阻害する。

イピリムマブ(CTLA-4[cytotoxic T lymphocyte-associated antigen 4]に対するモノクローナル抗体)も生存期間を延長する可能性がある別の免疫療法薬である。この薬剤は,T細胞のアネルギーを阻止する結果,免疫系が腫瘍細胞を自由に攻撃できるようにすることによって作用する。

分子標的療法としてはベムラフェニブ,ダブラフェニブ,エンコラフェニブなどがあるが,これらはBRAFの活性を阻害する結果,腫瘍細胞の増殖を鈍化または停止させることによって作用する。これらの薬剤は転移例の生存期間を延長しており,さらにMEK(mitogen-activated protein kinase)阻害薬を追加してMEK1とMEK2を(トラメチニブ,コビメチニブ,およびビニメチニブにより)阻害することで,生存期間をさらに延長することができる。

細胞傷害性薬剤による化学療法については,転移例の生存期間を改善する効果は示されておらず,通常は他の選択肢がなくなるまで温存される。

臨床的には明らかでない微小転移を抑制するための遺伝子組換え型の生体応答調節薬によるアジュバント療法も,手術不能の転移性黒色腫に使用することができる。

脳転移の症状緩和のために放射線療法を用いてもよいが,反応は不良である。

以下の治療法が研究段階にある:

  • リンホカイン活性化キラー細胞または抗体の輸注(進行例が対象)

  • ワクチン療法

黒色腫の予防

黒色腫には紫外線曝露が関連しているとみられるため,曝露を抑えるためのいくつかの対策が推奨される。

  • 日光の回避:普段から日陰にいるようにし,午前10時から午後4時まで(日光が最も強い時間帯)の戸外活動を最小限とし,日光浴や日焼けマシーンの使用を控える

  • 防護用の衣服の着用:長袖シャツ,ズボン,つばの広い帽子

  • サンスクリーン剤の使用:UVA/UVBに対する広域の防御効果がある紫外線防御指数(SPF)30以上のものを指示通りに使用する(すなわち,2時間毎および水泳後または発汗後に塗布し直す);日光曝露の時間を延長させるために使用すべきではない

しかしながら,これらの対策で黒色腫の発生率や死亡率が低下するかどうかを判断するには,現状のエビデンスでは不十分であるが,非黒色腫皮膚がん(基底細胞癌有棘細胞癌)においては,紫外線防御を行うことで新たながんの発生が着実に減少する。

黒色腫の要点

  • 米国で診断される全ての皮膚悪性腫瘍のうち黒色腫の占める割合は5%未満であるが,死に至る皮膚悪性腫瘍としては黒色腫が最も多くを占めている。

  • 黒色腫は皮膚,粘膜,結膜,眼の脈絡膜,髄膜,および爪床に生じることがある。

  • 黒色腫は典型的なほくろや異型母斑から発生することもあるが,大半はそうではない。

  • 医師(および患者)は,ほくろに対して,その大きさ,形状,境界,色調,および表面の特徴の変化と,出血,潰瘍化,そう痒,および圧痛の有無について,モニタリングを行うべきである。

  • わずかでも疑いのある病変には生検を行う。

  • 黒色腫は可能な限り常に切除する(特に転移していない場合)。

  • 黒色腫が切除不能または転移性の場合は,免疫療法(例,ペムブロリズマブ,ニボルマブ),分子標的療法(例,イピリムマブ,ベムラフェニブ),放射線療法,および切除を考慮する。

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