リンパ球減少症

執筆者:Mary Territo, MD, David Geffen School of Medicine at UCLA
レビュー/改訂 2020年 1月
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リンパ球減少症は,総リンパ球数が成人で1000/μL(1 × 10/L)未満または2歳未満の小児で3000/μL(3 × 10/L)未満となった状態である。続発症として,日和見感染症,悪性疾患および自己免疫疾患のリスク増加などがある。血算でリンパ球減少症が認められた場合は,続いて免疫不全症の有無を調べる検査およびリンパ球亜群の解析を行うべきである。治療は基礎疾患に対して行う。

リンパ球は細胞性免疫の構成要素であり,B細胞とT細胞があるが,ともに末梢血中に存在し,リンパ球の約75%がT細胞,約25%がB細胞である。リンパ球が占める割合は,白血球総数のわずか20~40%であるため,白血球分画を含まない白血球数の測定では,リンパ球減少症が見逃される場合がある。

リンパ球数の正常値は,成人で1000~4800/μL(1 to 4.8 × 109/L),2歳未満の小児で3000~9500/μL(3 to 9.5 × 109/L)である。6歳での正常下限は1500/μL(1.5 × 109/L)である。正常値は検査室間で若干異なる場合がある。

血中T細胞の約65%はCD4陽性(ヘルパー)T細胞である。したがって,リンパ球減少症のほとんどの患者でT細胞の絶対数,特にCD4陽性T細胞数の減少が認められる。成人血液中のCD4陽性T細胞数は平均1100/μL(1.1 × 109/L)(範囲300~1300/μL[0.3~1.3 × 109/L])で,T細胞のもう1つの主要なサブグループであるCD8陽性(抑制性)T細胞数は平均600/μL(範囲100~900/μL)である。

リンパ球の特定のサブセット(例,CD4+,CD8+,B,ナチュラルキラー細胞)の欠乏は,血中リンパ球数に反映されないことがあるが,機能的なリンパ球減少症を引き起こす場合がある。また,血液中のリンパ球は全リンパ球プールのごく一部にしか相当しておらず,他のリンパ組織(例,リンパ節,脾臓)および非リンパ組織(例,肺,肝臓)のリンパ球の組成や数と必ずしも相関するとは限らないことに注意することも重要である。

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リンパ球減少症の病因

リンパ球減少症では,以下の分類が可能である。

  • 後天性

  • 遺伝性

後天性リンパ球減少症

後天性リンパ球減少症は,他のいくつかの疾患に伴い発生することがある(リンパ球減少症の原因の表を参照)。

最も一般的な原因は以下のものである:

  • タンパク質-エネルギー低栄養

  • AIDSおよびその他の特定のウイルス感染症

タンパク質-エネルギー低栄養は,世界で最も一般的な原因である。

AIDSは,リンパ球減少症を引き起こす最も一般的な感染症で,HIVに感染したCD4陽性T細胞の崩壊から生じる。リンパ球減少症は,胸腺またはリンパ組織の構造破壊から生じるリンパ球産生障害を反映していることもある。HIVまたはその他のウイルスによる急性ウイルス血症では,ウイルスによる活動性感染症に起因するリンパ球の崩壊の加速,脾臓もしくはリンパ節でのリンパ球の捕捉,または気道へのリンパ球の遊走がみられる場合がある。

医原性のリンパ球減少症は,細胞傷害性薬剤による化学療法,放射線療法,または抗リンパ球グロブリン(またはその他のリンパ球抗体)の投与によってもたらされる。ソラレンと紫外線A波照射を用いた乾癬の長期治療によりT細胞が破壊される場合がある。長期のグルココルチコイド療法により,リンパ球の崩壊が誘発される可能性がある。

リンパ腫,自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス関節リウマチ重症筋無力症など),および消化管疾患または収縮性心膜炎によって引き起こされるタンパク漏出性胃腸症に伴ってリンパ球減少症が発生する場合がある。

遺伝性リンパ球減少症

遺伝性リンパ球減少症(リンパ球減少症の原因の表を参照)は以下の疾患で生じることが最も多い:

遺伝性免疫不全疾患およびリンパ球産生障害を伴う疾患で発生することがある。他にウィスコット-アルドリッチ症候群アデノシンデアミナーゼ欠損症プリンヌクレオチドホスホリラーゼ欠損症などの遺伝性疾患がT細胞破壊の亢進に関与する場合がある。多くの疾患で,抗体産生も不十分である。

表&コラム

リンパ球減少症の症状と徴候

リンパ球減少症自体は一般に症状を引き起こさない。しかし,以下のような関連疾患の所見がみられることがある:

  • 細胞性免疫不全を示す扁桃またはリンパ節の消失または退縮

  • 皮膚の異常(例,脱毛症,湿疹,膿皮症,毛細血管拡張)

  • 血液疾患の所見(例,蒼白,点状出血,黄疸,口腔内潰瘍)

  • HIV感染またはホジキンリンパ腫が示唆される全身性リンパ節腫脹および脾腫

リンパ球減少症のある患者では,反復性感染症がみられたり,まれな微生物による感染症が発生したりする。Pneumocystis jiroveciiサイトメガロウイルス麻疹,および水痘肺炎は,多くの場合致死的である。リンパ球減少症は,発がんおよび自己免疫疾患の危険因子でもある。

リンパ球減少症の診断

  • 臨床的に疑われる場合(反復性感染症,またはまれな感染症)

  • 血算と白血球分画

  • リンパ球亜群および免疫グロブリン濃度の測定

リンパ球減少症は,ウイルス,真菌,または寄生虫感染症を繰り返す患者で疑われるが,通常は血算で偶然発見される。P. jirovecii,サイトメガロウイルス,麻疹,または水痘肺炎でリンパ球減少症を伴う場合は,免疫不全が示唆される。

リンパ球減少症のある患者ではリンパ球亜群を測定する。抗体産生を評価するために免疫グロブリン濃度の測定も行うべきである。反復性感染症の既往がある患者では,最初のスクリーニング検査が正常でも,免疫不全に関して徹底的な臨床検査を行う。

リンパ球減少症の治療

  • 合併する感染症の治療

  • 基礎疾患の治療

  • ときに静注用または皮下注用免疫グロブリン製剤

  • 場合によっては造血幹細胞移植

後天性リンパ球減少症の場合,通常は根底にある要因の除去または基礎疾患の治療奏効により寛解する。慢性IgG欠乏症,リンパ球減少症,および反復性感染症が認められる患者であれば,静注または皮下注用免疫グロブリン製剤が適応となる。造血幹細胞移植は,先天性免疫不全症の全ての患者に検討可能で,治癒が期待できる。

このような患者への生ワクチンの接種は避ける(感染を引き起こすリスクがあるため)。不活化または組換えワクチンは安全であるが,その効力はリンパ球減少症の種類および重症度によって様々である。

リンパ球減少症の要点

  • リンパ球減少症は,ほとんどの場合AIDSまたは低栄養に起因するが,遺伝性のものも,様々な感染症,薬剤,または自己免疫疾患に起因するものもある。

  • ウイルス,真菌,または寄生虫による反復性感染症が生じる。

  • リンパ球亜群および免疫グロブリン濃度を測定すべきである。

  • 治療は,通常原因に対して行うが,ときに静注または皮下注用免疫グロブリン製剤のほか,先天性免疫不全症の患者では幹細胞移植が助けになることがある。

  • このような患者では生ワクチンの接種を避ける。

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