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巨人症と先端巨大症

執筆者:

John D. Carmichael

, MD, Keck School of Medicine of the University of Southern California

レビュー/改訂 2021年 3月
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巨人症および先端巨大症は,ほぼ常に下垂体腺腫を原因とする成長ホルモン過剰分泌による症候群(hypersomatotropism)である。骨端線閉鎖以前であれば,結果として巨人症が生じる。閉鎖後であれば結果は先端巨大症となり,独特の顔貌およびその他の特徴をもたらす。診断は,頭蓋および手のX線撮影,ならびに成長ホルモンおよびインスリン様成長因子1の測定により,臨床的に行う。治療には原因腺腫の切除または破壊があり,ときに他の治療方法も用いられる。

成長ホルモン(GH)は身体の成長を刺激し,代謝を調節する。GHの合成および分泌においては,成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)が主要刺激物質であり,ソマトスタチンが主要抑制物質である。GHはインスリン様成長因子1(IGF-1,ソマトメジン-Cとも呼ばれる)の合成を調節し,IGF-1は主として成長を調節する。IGF-1は局所的に多数の組織から産生されるが,循環血中のIGF-1の主な供給源は肝臓である。GHの代謝作用は2相性である。GHはまずインスリン様作用を発揮して,筋肉や脂肪でのブドウ糖取込みを増加させ,肝臓や筋肉でのアミノ酸取込みとタンパク質合成を促進し,脂肪組織での脂肪分解を抑制する。数時間後には,より顕著な抗インスリン様代謝作用が生じる。この作用にはブドウ糖の取込みおよび利用の抑制があり,その結果血糖値が上昇して脂肪分解が亢進し,血漿中の遊離脂肪酸が増加する。

GH分泌腫瘍は大半が散発性であるが,X染色体の遺伝子異常(X連鎖先端肥大巨人症:X-linked acrogigantism),下垂体腫瘍形質転換遺伝子(PTTG:pituitary tumor transforming gene)の過剰発現,およびアリール炭化水素受容体相互作用タンパク(AIP:aryl hydrocarbon receptor–interacting protein)の変異が発見されている。GH分泌腺腫の多くは変異型Gsタンパク質(アデニル酸シクラーゼの刺激性の調節因子)を含む。変異型Gsタンパク質を含む細胞は,成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)がない状態でもGHを分泌する。また,異所性GHRH産生腫瘍(特に膵臓および肺)についても数例の報告がある。

巨人症と先端巨大症の症状と徴候

下垂体性巨人症

先端巨大症

先端巨大症では,GHの過剰分泌が通常20代から40代の間に始まる。骨端線閉鎖後にGHの過剰分泌が始まると,初期の臨床症状として顔貌粗造と手足の軟部組織の腫大がみられる。外見が変化し,指輪,手袋,靴のサイズが以前よりも大きくなる。疾患の経過を視覚的に追跡する上で患者の写真が重要である。

先端巨大症の臨床像

先端巨大症の成人では,粗い体毛が増加し,皮膚は肥厚してしばしば黒ずむ。皮脂腺および汗腺が肥大し機能が亢進するため,患者はしばしば発汗過多および不快な体臭を訴える。下顎骨の成長過剰により下顎の突出(顎前突症)および歯の不正咬合が生じる。喉頭軟骨の増殖により低くかすれた声になる。舌はしばしば肥大して皺壁が目立つ。長期に及ぶ先端巨大症では肋軟骨の成長により樽状胸となる。GH過剰に反応して関節軟骨の増殖が早い段階で起こり,その関節軟骨が壊死し腐食する可能性がある。関節症状は一般的であり,肢体不自由を招く変形性関節症が生じる可能性がある。

隣接する線維組織および神経内線維組織の増殖により神経が圧迫されるため,末梢神経障害がよくみられる。下垂体腫瘍による頭痛が一般的である。腫瘍がトルコ鞍上まで進展し視交叉を圧迫すると,両耳側半盲が出現することがある。心臓,肝臓,腎臓,脾臓,甲状腺,副甲状腺,結腸,および膵臓は正常よりも大きい;甲状腺の腫大はびまん性のこともあれば多結節性のこともある。患者のおそらく3分の1に心疾患(例, 冠動脈疾患 冠動脈疾患の概要 冠動脈疾患では,冠動脈の血流が障害され,そのほとんどがアテロームに起因する。臨床像としては,無症候性心筋虚血, 狭心症, 急性冠症候群( 不安定狭心症, 心筋梗塞), 心臓突然死などがある。診断は症状,心電図検査,負荷試験,ときに冠動脈造影による。予防法は可逆的な危険因子(例,高コレステロール血症,高血圧,運動不足,肥満,糖尿病,喫煙)の... さらに読む 冠動脈疾患の概要 ,心拡大,弁閉鎖不全,ときに 心筋症 心筋症の概要 心筋症は心筋の原発性疾患である。冠動脈疾患や弁膜症,先天性心疾患といった構造的心疾患とは明確に異なる疾患概念である。心筋症は病理学的特徴に基づき,以下に示す3つの主な病型に分類される( 心筋症の病型の図を参照): 拡張型 肥大型 拘束型 虚血性心筋症という用語は,重症 冠動脈疾患の患者で(梗塞領域の有無にかかわらず)発生することがある,心... さらに読む )が生じ,心疾患による死亡リスクが倍増する。 高血圧症 高血圧 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,原発性アルドステロン症,糖尿病,または肥満に起因する。高血圧は重症となるか長期... さらに読む 高血圧 は患者の最大3分の1に発生する。いびきはよくみられる症状であり, 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は,睡眠時に生じ呼吸停止(10秒を超える無呼吸または低呼吸と定義される)を引き起こす部分的または完全な上気道閉塞エピソードから成る。症状としては,日中の過度の眠気,不穏状態,いびき,反復性覚醒,起床時の頭痛などがある。診断は睡眠歴および睡眠ポリグラフ検査に基づく。治療は,持続陽圧呼吸療法(CPAP),口腔内装置,および難治例では手術による。治療を行えば予後は良好である。ほとんどの症例は未診断かつ未治療の... さらに読む が患者の40~50%に発生する。GH過剰の結果,大腸ポリープが増加する。悪性腫瘍,特に消化器癌のリスクが2~3倍に増加する。GHは尿細管でのリン酸の再吸収を増大させ,結果,軽度の高リン血症が生じる。先端巨大症および巨人症患者では約半数近くに耐糖能異常がみられるが,臨床的に意味のある 糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリン,経口血糖... さらに読む が生じる患者は約10%のみである。

巨人症と先端巨大症の診断

  • CTまたはMRI

  • インスリン様成長因子1(IGF-1)値

  • 通常は成長ホルモンの値

特徴的な臨床所見から診断が可能である。トルコ鞍のMRIは下垂体腺腫の診断に選択すべき画像検査である。CT,MRI,または頭蓋X線で,皮質の肥厚,前頭洞の拡大,ならびにトルコ鞍の拡大および侵食が示される。手のX線写真は末節骨のカリフラワー様肥大変形および軟部組織の肥厚を示す。

先端巨大症が疑われる患者では,血清IGF-1を測定すべきである;IGF-1は典型的には顕著に上昇し(3~10倍),IGF-1はGHとは異なり変動しないため,GH過剰分泌の最も簡単な判定方法である。IGF-1値は治療に対する反応のモニタリングにも使用できる。

血漿GHは,典型的には高値となる。採血は患者の朝食前(基礎分泌状態)に行うべきである;健常者では,GH基礎値は低値または検出限界未満である。一過性のGH上昇は正常であり(GHのパルス状分泌のため),病的過剰分泌と鑑別しなければならない。ブドウ糖負荷後のGH抑制の程度の測定が依然標準とされているため,血漿GH高値を示す患者ではこの検査を行うべきである;しかしながら,結果は分析方法に依存し,正常な抑制のカットオフ値については議論がある。健常者では,75gブドウ糖経口負荷から120分以内にGH分泌が1ng/mL未満(1μg/L未満)に抑制される(カットオフ値を0.4ng/mL未満[0.4μg/L未満]とすることもしばしばある)。大半の先端巨大症患者はかなりの高値を示す。一部の症例では,血漿GH基礎値は治療への反応のモニタリングにも用いられる。

トルコ鞍のCTまたはMRIを施行し,腫瘍を検索すべきである。腫瘍が認められない場合,下垂体GHの過剰分泌はGHRHを異所性に過剰産生する中枢神経系以外の腫瘍が原因である可能性がある。血漿GHRH高値を証明することで診断を確定できる。異所性産生部位を検索する際には,肺および膵臓を最初に評価する。

診断時には, 糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリン,経口血糖... さらに読む ,心疾患,消化器癌を含めた合併症に対するスクリーニングを実施すべきである。糖尿病の検査として,空腹時血漿血糖値,糖化ヘモグロビン(HbA1C)の測定,または経口ブドウ糖負荷試験が実施されることがある。心疾患を検出するため,心電図検査,およびできれば心エコー検査を施行する。結腸癌を検出するため,大腸内視鏡検査を施行する。フォローアップスクリーニングは,初期検査の結果および患者の治療への反応によって異なる。

巨人症と先端巨大症の治療

  • 手術または放射線療法

  • ときに,GHの分泌または活性を抑制する薬物療法

外科的治療

ほとんどの患者で,手術による下垂体腫瘍の選択的切除が第1選択の治療法とみなされている。安全な外科的切除を妨げる併存症のある患者および切除不能な腫瘍のある患者では,一次治療として薬物療法を行うことがある。外科的切除後の寛解率は,下垂体腺腫の大きさおよび浸潤の程度ならびに脳神経外科医の経験値に依存する。

ブドウ糖負荷後に測定したGH値,およびIGF-1値が正常範囲内になれば,腫瘍の外科的切除により治癒がみられてきた傾向がある。一方または両方の値が異常であれば,通常さらなる治療が必要である。GH過剰の管理が不十分であれば,高血圧や心不全が生じ,死亡率が上昇する。先端巨大症における死亡の予測因子には,高血圧,年齢,放射線の使用,および下垂体機能低下症(特に副腎皮質刺激ホルモン欠損症)などがある。IGF-IおよびGH値を正常範囲まで低下させると,死亡率が正常レベルまで低下するようである。

薬物療法

一般に,手術の禁忌がある場合,手術または放射線療法で治癒しない場合,または放射線療法が奏効するまで待機している場合は,薬物療法の適応となる。先端巨大症の治療に利用できる薬剤には,腫瘍からのGH分泌を標的とする薬剤およびGH受容体レベルでGHを遮断する薬剤などがある。

ソマトスタチン受容体リガンドは,主にソマトスタチン受容体サブタイプ2(SSTR-2)との相互作用を介して下垂体腫瘍からのGH分泌を減少させるため,治療の支柱とされている。このクラスの薬剤にはオクトレオチドおよびランレオチドなどがあり,これらはSSTR-2に対して高い親和性を有し,短時間作用型(オクトレオチド)および長時間作用型(オクトレオチドLARおよびランレオチド)製剤がある。SSTR-1,2,3,および5に親和性のあるソマトスタチン受容体リガンドであるパシレオチドも利用でき,短時間作用型および長時間作用型製剤がある。全てのソマトスタチン受容体リガンドは腫瘍を縮小させる可能性も有する。

オクトレオチドは20mg,筋注を月1回から開始し,3回目の注射後に有効用量まで用量を調整する。有効用量の範囲は月10~40mgである。ランレオチドは月に60~120mgの用量で投与され,コントロール良好の患者では長期投与(6~8週毎に120mg)も可能である。オクトレオチドまたはランレオチドでIGF-I値を正常に戻すことができない場合は,一般にパシレオチドが考慮される。オクトレオチドには経口薬もあり,この場合1日2回内服する。

カベルゴリンはドパミン作動薬であり,単独で使用するか,またはソマトスタチン受容体リガンドと併用され,下垂体でのGH分泌を抑制することによって作用する。カベルゴリンは典型的には軽症例に使用され,経口薬という利点がある。

GH受容体拮抗薬であるペグビソマントは毎日皮下注射で投与し,症状を軽減しIGF-I値を低下させるが,GH値は低下させず,下垂体腫瘍にも作用しない。ペグビソマントは医師の監督下で負荷量40mgを皮下投与した後,維持量として10mgを1日1回皮下投与し,IGF-I値に応じて4~6週間毎に5mgずつ漸増する。

放射線療法

放射線療法は治療のどの段階でも使用できるが,典型的には手術が不可能な場合に限り一次治療として使用される。先端巨大症患者の治療における放射線治療のタイミングは医療機関によって異なる。下垂体に約5000cGyを照射する定位放射線治療が施行されるが,GH値は数年間正常範囲まで低下しないことがある。加速陽子線(重粒子照射)を用いた治療ではより高線量(10,000cGy相当)の放射線を下垂体に照射できるが,このような治療法は脳神経および視床下部を損傷するリスクが高く,利用できる施設は限られる。

放射線照射の数年後に 下垂体機能低下症 汎下垂体機能低下症 汎下垂体機能低下症は,下垂体前葉機能の部分的または完全な喪失により内分泌機能が低下して生じる症候群である。欠乏しているホルモンによって多様な臨床的特徴が生じる。診断には,画像検査,ならびに下垂体ホルモンの基礎値および様々な誘発刺激後の値の測定を要する。治療は原因により異なるが,一般に腫瘍切除およびホルモン補充療法が行われる。 (下垂体の構造および機能,ならびに視床下部と下垂体との関連については... さらに読む が発生することがよくある。放射線損傷は蓄積するため,従来のγ線照射の後に陽子線治療を用いるべきではない。下垂体腫瘍がトルコ鞍外に進行性に拡大している患者および腫瘍全体が切除できない患者では,手術と放射線療法の両方を併用するアプローチが適応となり,そのような例はしばしば認められる。

巨人症と先端巨大症の要点

  • 巨人症および先端巨大症は通常,過剰量の成長ホルモン(GH)を分泌する下垂体腺腫により引き起こされる;まれに,下垂体腫瘍以外の腫瘍が成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)を分泌することにより引き起こされる。

  • 巨人症は,小児期の骨端線閉鎖以前にGHの過剰分泌が始まると生じる。

  • 先端巨大症には,成人期に始まるGHの過剰分泌が関与している;骨および軟部組織に様々な異常が生じる。

  • インスリン様成長因子1およびGH値を測定して診断する;下垂体腫瘍を検出するため,中枢神経系の画像検査を施行する。

  • 下垂体腫瘍は手術または放射線療法により除去する。

  • 腫瘍を除去できない場合は,オクトレオチドまたはランレオチドを投与してGHの分泌を抑制する。

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