メルクマニュアル18版 日本語版
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中枢性尿崩症(バソプレシン感受性尿崩症)

Ian M. Chapman, MBBS, PhD

水分と電解質代謝: 循環血液量が正常な低ナトリウム血症の抗利尿ホルモン分泌異常症候群,および異常腎輸送症候群: 腎性尿崩症を参照 。)

尿崩症(DI)は,視床下部-下垂体障害によるバソプレシンの欠乏(中枢性DI[CDI])または腎臓のバソプレシン抵抗性(腎性DI[NDI])に起因する。多尿および多飲を呈する。水抑制試験で尿が最大に濃縮されないことによって診断がつく;バソプレシン濃度および外因性バソプレシンに対する反応は,CDIとNDIとの鑑別に役立つ。治療はデスモプレシン(DDAVP)またはリプレシンの鼻腔内投与である。非ホルモン療法には,利尿薬(主にサイアザイド系)およびクロルプロパミドなどのADH放出薬がある。

病因と病態生理

多尿はADH欠乏であるCDI,NDI,強迫的または習慣的な飲水(心因性多飲)に起因する。下垂体後葉がADHの貯蔵と放出の主要部位であるが,ADHは視床下部内で合成される。視床下部神経核および一部の神経下垂体路が損傷されない限り,新たに合成されたホルモンは循環血流中に放出される。神経分泌ニューロンのわずか10%程度が障害されずに温存されていれば,CDIは回避される。したがって,CDIの病理には常に,視床下部の視索上核および室傍核,または下垂体茎の大部分が関与する。

CDIは完全(バソプレシンの欠如)または部分的(バソプレシン量の不足)である。CDIは原発性のことがあり,神経下垂体系の視床下部神経核に著明な減少がみられる。第20染色体のバソプレシン遺伝子の異常が常染色体優性遺伝形式の原発性CDIの原因であるが,多くの例は特発性である。CDIは二次性(後天性)のこともあり,種々の病変によって引き起こされるが,この中には下垂体切除術,頭部外傷(特に頭蓋底骨折),トルコ鞍の上部および内部の腫瘍(原発性または転移性),ランゲルハンス細胞肉芽腫症(ヒスチオサイトーシス-ハンド-シュラー-クリスチャン病),肉芽腫(サルコイドーシスまたは結核),血管病変(動脈瘤および血栓症),ならびに感染症(脳炎または髄膜炎)がある。

症状と徴候

発症は緩徐潜行性または急激で,いかなる年齢でも生じる。原発性CDIの唯一の症状は多飲症および多尿である。二次性CDIでは,関連病変の症状および徴候も認められる。多量の水分が摂取され,大量(3〜30L/日)のきわめて薄い尿(比重は通常1.005未満,浸透圧200mOsm/L未満)が排泄される。夜間多尿がほぼ必発する。尿中への喪失が持続的に補充されなければ,脱水および循環血液量減少が急激に生じる恐れがある。

診断

CDIは多尿の他の原因,特に心因性多飲症(表: を参照)およびNDIと鑑別しなければならない。CDI(およびNDI)に対する全ての試験は,健常者の血漿浸透圧上昇は尿浸透圧上昇を伴う尿量減少をもたらす,という原則に基づく。

表 4

多尿の一般的な原因

バソプレシン感受性多尿

ADHの合成低下

原発性尿崩症

遺伝性(通常は常染色体優性)

糖尿病,視神経萎縮,神経性難聴,膀胱および尿管のアトニーに関連

後天性尿崩症(原因は本文中で概説)

ADHの放出低下(心因性多飲症または口渇誘発尿崩症)

バソプレシン抵抗性多尿

先天性腎性尿崩症(通常は伴性劣性)

後天性腎性尿崩症

慢性腎疾患

全身性疾患または代謝性疾患(例,骨髄腫,アミロイドーシス,高カルシウム腎症または低カリウム腎症,鎌状赤血球症)

薬物(リチウム,デメクロサイクリン)

浸透圧利尿

ブドウ糖(糖尿病)

難再吸収性物質(マンニトール,ソルビトール,尿素)

水制限試験は最も単純で信頼性が高いCDI診断法であるが,患者が絶えず監視下にあるときのみ行うべきである。重篤な脱水が生じる恐れがある。さらに,心因性多飲症が疑われる患者は隠れて飲水しないように観察しなければならない。早朝に体重測定,電解質濃度測定および浸透圧測定用の静脈血採血,ならびに尿浸透圧測定を行うことによってこの試験は開始される。尿を1時間毎に採取して比重または浸透圧(後者が望ましい)を測定する。水制限は,起立性低血圧および体位性頻脈が出現するまで,体重が開始時より5%以上減少するまで,または連続採取された尿検体の比重が0.001以上もしくは浸透圧が30mOsm/L以上増加しなくなるまで継続する。血清電解質および浸透圧を再測定して,水性バソプレシン5単位を皮下注射する。注射60分後に比重測定または浸透圧測定用に最後の採尿を行い,試験を終了する。

正常反応では,水制限後の最大尿浸透圧(通常は比重1.020または浸透圧700mOsm/Lを上回る)は血漿浸透圧より高値となる; バソプレシン 投与後に浸透圧がさらに5%以上上昇することはない。一般に,CDI患者は血漿浸透圧以上に尿を濃縮できないが,バソプレシン投与後には尿浸透圧を50%よりも高めることができる。部分CDI患者はしばしば血漿浸透圧以上に尿を濃縮できるが, バソプレシン 投与後に9%を超える尿浸透圧の上昇を示す。NDI患者は血漿浸透圧以上に尿を濃縮することができず,バソプレシン投与にも全く反応を示さない。

血中ADHの測定は最も直接的なCDI診断法である;水制限試験終了時( バソプレシン 投与前)の濃度は,CDIでは低く,NDIでは適切に上昇している。しかし,ADH濃度は測定が難しく,この検査は日常臨床の場でルーチンには行えない。さらに,水制限試験はきわめて正確なので,ADHの直接測定は不要になる。脱水後または高張食塩水注入後の血漿バソプレシン濃度は診断に有用である。

心因性多飲症: 心因性多飲症は鑑別診断が困難となることがある。患者は最大6L/日の水分を摂取,排泄し,しばしば感情的に不安定である。CDIおよびNDIの患者と異なり,通常は夜間多尿または口渇による夜間覚醒はない。この状態で大量の水分摂取を継続すると,生命を脅かす低ナトリウム血症につながる恐れがある(水分と電解質代謝: 低ナトリウム血症を参照 )。

急性心因性多飲症患者は,水制限中は尿を濃縮できる。しかし,慢性的な水分摂取は腎髄質の浸透圧を低下させるので,多飲が長期に及ぶ患者は水制限中も尿を最大まで濃縮できず,部分CDI患者と同様の反応を示す。CDIとは異なり,心因性多飲症患者は水制限後に外因性バソプレシンに反応を示さない。この反応はNDIに似ているが,バソプレシンの基礎濃度がNDIでの高値と比較して低い点で異なる。水分摂取を2L/日以下に長期間制限すると,正常な尿濃縮力が数週間以内に回復する。

治療

CDIは,ホルモン補充および是正可能な原因の処置によって治療できる。適切な処置がなされなければ,恒久的な腎障害が生じうる。

デスモプレシン(DDAVP)は血管収縮特性がわずかな合成バソプレシンアナログで,大半の患者で12〜24時間と長時間持続する抗利尿作用を示し,経鼻,皮下注,静注,または経口で投与できる。デスモプレシンは成人にも小児にも適した製剤で,2種の点鼻液が利用可能である。目盛り付き経鼻カテーテルを備えた滴瓶は,5μgから20μgまで用量を増加して投与できる利点があるが扱いにくい。0.1mL中に10μgのデスモプレシンを含む溶液を送達する噴霧瓶は扱いやすいが,固定量しか投与できない。個人差がきわめて大きいので,各患者で所定用量の作用持続時間を確認しなければならない。作用持続時間は,定時の尿量および尿浸透圧を追跡することによって確認できる。夜間の用量は,夜間多尿の予防に必要な最低量とする。朝および夕の用量は別々に調整すべきである。成人の通常量の幅は10〜40μgで,大半の成人は10μg,1日2回を要する。3カ月から12歳までの小児に対する通常量の幅は2.5〜10μg,1日2回である。過剰投与は水分貯留および血漿浸透圧低下につながり,幼児では痙攣発作を引き起こす可能性もある。このような場合はフロセミドを投与して利尿を誘発する。頭痛は厄介な副作用であるが,一般に用量を減らすと消失する。まれにデスモプレシンは軽度の血圧上昇を引き起こす。鼻粘膜からの吸収は不安定で,これは特に上気道感染症またはアレルギー性鼻炎があるときにいえる。デスモプレシンの経鼻腔投与が不適切なときには,点鼻用量の約110量を皮下注射することもできる。急速な効果が必要であれば(例,循環血液量減少時),デスモプレシンは静注でも使用できる。経口デスモプレシンでは,点鼻剤との用量の同等性は予測できないので,各患者で用量を漸増する必要がある。初回量は0.1mg,1日3回経口で,維持量は通常0.1〜0.2mg,1日3回である。

合成薬であるリプレシン(リジン-8-バソプレシン)は2〜4単位(7.5〜15μg)を3〜8時間毎に鼻腔内に噴霧して投与するが,作用持続時間が短いので大半はデスモプレシンに代えられている。

水性バソプレシン5〜10単位を皮下または筋肉内に注射すると,通常は持続時間が6時間以下の抗利尿反応が得られる。したがって,この薬物は長期治療にはほとんど使用できないが,意識消失患者での初期治療および外科手術中のCDI患者には使用できる。合成バソプレシンは,各患者に適した用量および間隔で1日2回から4回の鼻腔噴霧としても投与される。油性タンニン酸バソプレシン0.3〜1mL(1.5〜5単位)の筋肉内注射は最長96時間まで症状を制御できる。

少なくとも3種の非ホルモン薬が多尿の改善に有用である:サイアザイド系を主とする種々の利尿薬,クロルプロパミド,カルバマゼピン,クロフィブラートなどのADH放出薬,および中等度有効なプロスタグランジン阻害薬である。これらの薬物は特に部分CDIに有用であり,外因性ADHによる副作用を引き起こさない。

サイアザイド系利尿薬は部分CDIや完全CDI(およびNDI)で逆説的に尿量を減少させ,これは主に細胞外液量を減少させ近位尿細管での再吸収を増加させた結果である。クロロサイアザイド15〜25mg/kgによって尿量は25〜50%減少する。溶質負荷を低減することによって尿の排泄量を減らすので,塩分摂取制限も役立つであろう。

クロルプロパミド,カルバマゼピン,およびクロフィブラートは,一部の部分CDI患者でバソプレシンの用量を減らしたり,投与の必要性をなくしたりできる。いずれの薬物もNDIには無効である。クロルプロパミド(3〜5mg/kg,1日1回または1日2回経口投与)はADHをいくらか放出させ,さらに腎でのADH作用を増強する。クロフィブラート(500〜1000mg,1日2回経口投与)またはカルバマゼピン(100〜400mg,1日2回経口投与)は成人にのみ推奨される。これらの薬物を利尿薬と共力的に使用することがある。しかし,著明な低血糖がクロルプロパミドによって引き起こされる恐れがある。

プロスタグランジン阻害薬(インドメタシン0.5〜1.0mg/kg,1日3回経口投与など,大半のNSAIDは有効)は尿量を減少させうるが,一般に10〜25%以上ではなく,恐らくこれは腎血流量および糸球体ろ過率(GFR)が低下するからである。インドメタシンとともに,ナトリウム摂取制限およびサイアザイド系利尿薬はNDIで尿量をさらに低減する上で有用である。

最終改訂月 2007年2月

最終更新月 2005年11月

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