メルクマニュアル18版 日本語版
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甲状腺機能亢進症(甲状腺中毒症)

甲状腺機能亢進症は,代謝亢進および血清遊離甲状腺ホルモン濃度の上昇を特徴とする。症状は多数あり,頻脈,倦怠感,体重減少,振戦などを呈する。診断は臨床的に行い,甲状腺機能検査も用いる。治療は原因によって異なる。

甲状腺機能亢進症は,甲状腺放射性ヨード取り込み率および血中甲状腺刺激物質の有無に基づいて分類できる( 甲状腺疾患: 様々な臨床状態における甲状腺機能の臨床検査表 1: 表を参照)。

表 1

様々な臨床状態における甲状腺機能の臨床検査

生理的状態

血清TSH

血清遊離T4

血清T3

24時間放射性ヨード取り込み率

甲状腺機能亢進症,未治療

低値

高値

高値

高値

甲状腺機能亢進症,T3中毒症

低値

基準範囲内

高値

基準範囲内または高値

原発性甲状腺機能低下症,未治療

高値

低値

低値または基準範囲内

低値または基準範囲内

下垂体疾患に続発する甲状腺機能低下症

低値または基準範囲内

低値

低値または基準範囲内

低値または基準範囲内

甲状腺機能正常,ヨード投与中

基準範囲内

基準範囲内

基準範囲内

低値

甲状腺機能正常,外因性甲状腺ホルモン投与中

基準範囲内

T4投与中であれば基準範囲内,T3投与中であれば低値

T3投与中であれば高値,T4投与中であれば基準範囲内

低値

甲状腺機能正常,エストロゲン投与中

基準範囲内

基準範囲内

高値

基準範囲内

Euthyroid Sick症候群

基準範囲内,低値,または高値

基準範囲内または低値

低値

基準範囲内

TSH=甲状腺刺激ホルモン;T4 =サイロキシン;T3 =トリヨードサイロニン。

病因

甲状腺機能亢進症は,血中の甲状腺刺激物質または自律的な甲状腺機能亢進が原因で甲状腺からの甲状腺ホルモン(T4およびT3)の合成と分泌が亢進した結果生じる。また,合成は亢進していないが甲状腺から甲状腺ホルモンが過剰に放出されても引き起こされる。このような放出は一般に各種甲状腺炎の破壊的変化によってもたらされる。多様な臨床症候群でも甲状腺の機能亢進が生じる。

Graves病(びまん性中毒性甲状腺腫)は甲状腺機能亢進症の最も一般的な原因であり,甲状腺機能亢進症および以下の1つ以上を伴うことを特徴とする:甲状腺腫,眼球突出,前脛骨粘液水腫。甲状腺TSH受容体に対する自己抗体が原因で,大半の自己抗体が抑制性であるのに対してこの自己抗体は刺激抗体であり,過剰なT4およびT3が持続的に合成,分泌される。(橋本甲状腺炎と同様に)Graves病はときにⅠ型糖尿病,白斑,若年性白髪,悪性貧血,結合組織病,多発性内分泌機能低下症候群など他の自己免疫疾患を伴うことがある。(Graves病の眼球突出の原因である)浸潤性眼症の病因については解明が進んでいないが,外眼筋および眼窩線維芽細胞の特異抗原に対する免疫グロブリンが原因となっている可能性がある。眼症は甲状腺機能亢進症の発症前に起こることもあれば20年後に起こることもあり,甲状腺機能亢進症の臨床経過とは独立してしばしば悪化したり改善したりする。正常な甲状腺機能とともにみられる典型的な眼症はeuthyroid Graves病と呼ばれる。

TSH分泌異常が原因となることはまれである。TSHを分泌する下垂体前葉腺腫を有する患者や下垂体が甲状腺ホルモンに抵抗性を示す患者を除いて,甲状腺機能亢進症患者のTSHは基本的に検出できない。TSH濃度は高く,いずれの疾患で産生されるTSHも正常TSHに比べて生物学的活性が高い。TSH分泌下垂体腺腫患者の血中ではTSHのαサブユニットが増加する(鑑別診断に有用)。

胞状奇胎妊娠,絨毛癌,および妊娠悪阻では,弱い甲状腺刺激物質であるヒト絨毛ゴナドトロピン(hCG)の血清濃度が上昇する。hCG濃度は妊娠第1トリメスターに最大値に達して血清TSHを低下させ,同時に血清遊離T4の軽度上昇がときに観察される。甲状腺刺激の亢進は,部分的に脱シアル化されたヒト絨毛ゴナドトロピン(hCG)の濃度上昇に引き起こされている可能性があり,この変異型hCGはシアル化されたhCGよりも強い甲状腺刺激物質であると見受けられる。胞状奇胎妊娠,絨毛癌,および妊娠悪阻に伴う甲状腺機能亢進症は一過性で,胞状奇胎妊娠が排出される,絨毛癌が適切に治療される,または妊娠悪阻が緩和される,といったことになれば正常な甲状腺機能が回復する。

非自己免疫性常染色体優性甲状腺機能亢進症は乳児期に発現する。これは持続的な甲状腺刺激をもたらすTSH受容体遺伝子の突然変異が原因である。

中毒性単結節性甲状腺腫または中毒性多結節性甲状腺腫(プランマー病)は,TSH受容体遺伝子の突然変異によって甲状腺が持続的に刺激されて,ときに生じる。中毒性結節性甲状腺腫患者には,Graves病患者にみられる自己免疫症状や血中抗体はみられない。また,Graves病とは対照的に,中毒性単結節性甲状腺腫および中毒性多結節性甲状腺腫は通常寛解しない。

炎症性甲状腺疾患(甲状腺炎)には,亜急性肉芽腫性甲状腺炎,橋本甲状腺炎,および橋本甲状腺炎の異型である無痛性リンパ球性甲状腺炎などがある(甲状腺疾患: 無痛性リンパ球性甲状腺炎を参照 )。甲状腺中毒症は甲状腺の破壊的な変化および貯蔵ホルモンの放出が原因であって,合成亢進によるものではない。甲状腺機能低下症が続くこともある。ホジキンリンパ腫(ホジキン病)や喉頭癌などの非甲状腺悪性疾患に対して頸部に高線量放射線療法を行った結果,しばしば恒久的な甲状腺機能低下症が生じる。

薬物誘発性甲状腺機能亢進症はリチウム投与によって引き起こされる場合があり,甲状腺機能亢進症もしくは甲状腺機能低下症を伴う,または伴わない甲状腺腫が形成される。アミオダロンおよびインターフェロンαは甲状腺機能亢進症を伴う甲状腺炎や他の甲状腺疾患を誘発することがある。これらの薬物を投与中の患者は厳密に監視すべきである。

人為性甲状腺中毒症は意識的または偶発的な甲状腺ホルモンの過剰摂取によってもたらされる甲状腺機能亢進症である。

過剰なヨード摂取は甲状腺放射性ヨード取り込み率の低下を伴う甲状腺機能亢進症を引き起こす。これは,基礎に非中毒性結節性甲状腺腫のある患者(特に高齢患者)にヨードを含有する薬物(例,アミオダロン,ヨード含有去痰薬)を投与したり,ヨードを多量に含む造影剤を用いて放射線学的検査を行ったりするとしばしば生じる。病因は,過剰なヨードが機能的に自律した(すなわちTSHの調節下にない)甲状腺領域に基質として供給されホルモンが産生されることであると考えられる。通常,循環血液中に過剰なヨードが残存する間,甲状腺機能亢進症は持続する。

転移性甲状腺癌も考えられる原因である。機能性の転移性濾胞腺癌,特に肺転移が甲状腺ホルモンを過剰に産生することがまれにある。

卵巣甲状腺腫は,卵巣奇形腫が真性甲状腺機能亢進症を引き起こせるだけの十分な甲状腺組織を含むときに生じる。放射性ヨードの取り込みが骨盤でみられ,甲状腺による取り込みは通常は抑制される。

甲状腺クリーゼは急性型の甲状腺機能亢進症で,未治療または治療が不十分な重度甲状腺機能亢進症に起因する。これはまれであり,Graves病患者または中毒性多結節性甲状腺腫患者に生じる(単発の中毒性結節はあまり一般的ではなく,通常は重症度も低い)。感染,外傷,外科手術,塞栓症,糖尿病性ケトアシドーシス,または妊娠中毒症によって促進される可能性がある。

病態生理

甲状腺機能亢進症では血清T3は通常T4よりも上昇するが,これは恐らくT3の分泌,および末梢組織でのT4からT3への変換が亢進するからである。一部の患者では,T3のみが上昇する(T3中毒症)。T3中毒症は,Graves病,多結節性甲状腺腫,自律機能性単発性甲状腺結節など,甲状腺機能亢進症をもたらす通常疾患のいずれでも発現する可能性がある。T3中毒症を治療しないと,通常患者は甲状腺機能亢進症に典型的な臨床検査異常(すなわち,T4および123I取り込み率の上昇)も呈するようになる。様々な甲状腺炎で一般に甲状腺機能亢進段階が認められ,続いて甲状腺機能低下段階になる。

症状と徴候

大半の症状および徴候は原因にかかわらず同様である。例外として浸潤性眼症および浸潤性皮膚病が挙げられ,これらはGraves病でのみ生じる。

臨床症状は劇的なこともあれば軽微なこともある。甲状腺腫または結節が認められる場合もある。甲状腺機能亢進症の一般的な症状および徴候の多くは,アドレナリン過剰症状に類似しており,神経質,動悸,活動亢進,多汗,暑さに対する過敏性,倦怠感,食欲亢進,体重減少,不眠,脱力感,および腸管運動亢進(ときに下痢)などがみられる。月経過少を呈することもある。徴候には,温かく湿った皮膚,振戦,頻脈,脈圧の上昇,心房細動,動悸などが含まれる。

高齢患者,特に中毒性結節性甲状腺腫がある患者は非定型的に発現して(無自覚または潜在性の甲状腺機能亢進症),うつ病や認知症により近い症状を呈することがある。大半には眼球突出や振戦はみられない。心房細動,失神,意識状態の変化,心不全,および脱力感などの方が生じやすい。症状および徴候は単一の臓器系にのみ関与していることがある。

眼徴候は凝視,眼瞼運動の遅れ,眼瞼の後退,結膜の軽度充血などで,主にアドレナリン刺激過剰によるものである。これらの徴候は治療の成功とともに通常は寛解する。浸潤性眼症はより重篤な結果でGraves病に特有であり,甲状腺機能亢進症の何年も前または後に生じる可能性がある。特徴としては,眼窩痛,流涙,刺激感,羞明,後眼窩組織の増殖,眼球突出,外眼筋へのリンパ球浸潤があり,このリンパ球浸潤はしばしば複視に至る眼筋衰弱をもたらす。

浸潤性皮膚病は前脛骨粘液水腫(粘液水腫は甲状腺機能低下症を示唆するので紛らわしい用語)とも呼ばれ,特徴としては蛋白性基質による圧痕の生じない浸潤を通常は前脛骨領域に認める。Graves眼症不在時に発現することはまれである。病変は初期にしばしばかゆみおよび紅斑を伴い,徐々に硬く腫れ上がる。浸潤性皮膚病は甲状腺機能亢進症の何年も前または後に発現することがある。

甲状腺クリーゼでは突然激しい甲状腺機能亢進症状が生じ,以下の1つまたはそれ以上を伴う:発熱,著明な脱力感および筋肉の消耗,感情の著明な動揺を伴う極端な精神不安定,錯乱,精神病,昏睡,嘔気,嘔吐,下痢,軽度の黄疸を伴う肝腫大。心臓血管虚脱およびショックを呈することもある。甲状腺クリーゼは生命にかかわる緊急事態であり,迅速な治療を要する。

診断

診断は病歴,身体診察,および甲状腺機能検査に基づいて行う。病因がTSH分泌型の下垂体腺腫または甲状腺ホルモンに対する下垂体抵抗性にあるとき以外は甲状腺機能亢進症患者のTSHは抑制されているので,血清TSH測定は最良の検査である。遊離T4は増加している。しかし,重度全身疾患患者(euthyroid sick症候群で生じる偽性低値に類似)およびT3中毒症では,甲状腺機能亢進症でT4が見かけ上基準原発性範囲内となることがある。甲状腺機能亢進症の軽微な症状および徴候が認められる患者で遊離T4が基準範囲内でTSHが低値の場合は,血清T3を測定してT3中毒症を検出すべきであり,高値であれば診断が確定する。

原因はしばしば臨床的に診断される(例,薬物への暴露,Graves病に特異的な徴候の存在)。そうでなければ,123Iを用いて甲状腺放射性ヨード取り込み率を測定する。甲状腺機能亢進症がホルモン過剰産生によるときは,甲状腺放射性ヨード取り込み率は通常上昇する。

Graves病を検出するためにTSH受容体抗体を測定することもできるが,新生児Graves病のリスクを評価するために妊娠第3トリメスターで測定する場合を除けば測定が必要なことはまれである;TSH受容体抗体は容易に胎盤を通過して胎児の甲状腺を刺激する。Graves病患者のほとんどは血中抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体を有し,それよりも少数に抗サイログロブリン抗体が認められる。

不適切なTSH分泌はまれである。上昇した血中遊離T4濃度およびT3濃度,および基準範囲内または上昇した血清TSH濃度を伴う甲状腺機能亢進症が発現したときに診断は確定する。

人為性甲状腺中毒症が疑われる場合には,血清サイログロブリンを測定する;甲状腺機能亢進症の他の全ての原因における場合とは異なり,血清サイログロブリンは通常低値または基準下限を示す。

甲状腺放射性ヨードの取り込みはヨード摂取と反比例するので,過剰なヨード摂取が原因の甲状腺機能亢進症では放射性ヨード取り込み率の低下が一般的である。

治療

治療は原因によって異なる。

ヨード: 薬理学的用量のヨードは,T3およびT4の放出を数時間以内に抑制してヨードの有機化を阻害するが,この一過性の効果は数日から1週間持続し,その後は通常抑制効果は消失する。ヨードは,甲状腺クリーゼの救急救命処置や,甲状腺以外の緊急手術を行っている甲状腺機能亢進症患者,甲状腺亜全摘術を行う甲状腺機能亢進症患者の術前処置(甲状腺の血管分布を減少させるので)に用いられる。ヨードは一般的に甲状腺機能亢進症のルーチン治療には用いられない。通常用量は,飽和ヨウ化カリウム溶液2〜3滴(100〜150mg),1日3回または1日4回経口投与,または0.9%生理食塩水1Lにヨウ化ナトリウム0.5〜1gを加えて12時間毎に緩徐に静注する。

ヨード療法の合併症には,唾液腺の炎症,結膜炎,発疹などがある。イポダートナトリウムおよびヨーパン酸は過剰にヨードを供給してT4からT3への変換を強力に阻害する。これらの薬物の1種と,同じくT4からT3への変換を強力に阻害するデキサメタゾンとの併用は,1週間以内に甲状腺機能亢進症状を和らげ,血清T3濃度を基準範囲内に戻すことができる。

プロピルチオウラシルおよびメチマゾール: これらの抗甲状腺薬は甲状腺ペルオキシダーゼに拮抗し,ヨードの有機化を抑制し,カップリング反応を障害する。高用量のプロピルチオウラシルは末梢でのT4からT3への変換も阻害する。約20〜50%のGraves病患者は,いずれかの薬物を1〜2年間使用した後に寛解状態を維持する。甲状腺の大きさが正常まで回復するか著明に縮小する,血清TSH濃度が基準範囲内に戻る,治療前の甲状腺機能亢進症がさほど重度ではない,などは長期寛解の良好な予後を示唆する徴候である。抗甲状腺薬療法とL-サイロキシンの併用はGraves病患者の寛解率を向上させない。中毒性結節性甲状腺腫はまれにしか寛解に至らないので,抗甲状腺薬療法は外科治療または131I療法の前処置でのみ投与される。

通常の開始量は,プロピルチオウラシルでは100〜150mg,8時間毎に経口投与,メチマゾールでは5〜20mg,1日3回経口投与である。T4およびT3の濃度が基準範囲内に回復したときには用量を最小有効量まで減らすが,これは通常プロピルチオウラシルで50mg,1日3回,メチマゾールで5〜15mg,1日1回である。通常は2〜3カ月でコントロールが得られる。プロピルチオウラシルの用量を150〜200mg,8時間毎まで増量することによって,より迅速な制御が可能になる。このような用量またはさらなる高用量(最大400mg,8時間毎)は,一般的に甲状腺クリーゼ患者などの重症患者に限られる。臨床状態をみながら1年間または数年間は維持量を継続する。カルビマゾールはヨーロッパで広く用いられ,急速にメチマゾールに変換される。通常の開始量はメチマゾールの開始量と同様で,維持量は5〜20mg,1日1回,2.5〜10mg,1日2回,または1.7〜6.7mg,1日3回である。

副作用には,アレルギー反応,肝機能異常,および約0.1%の患者にみられる可逆性の顆粒球減少症がある。患者がある薬物にアレルギーを示したときには別の薬物に変更してもよいが,交叉感受性が生じる可能性がある。顆粒球減少症が生じた場合は他の薬物への変更はすべきでなく,別の治療法(例,放射性ヨード,外科手術)を行うべきである。

それぞれの薬物に長所と短所がある。メチマゾールは1日1回の投与しか要らず,コンプライアンスを向上させる。さらに,40mg/日未満のメチマゾールが投与される際には,顆粒球減少症が生じることは一般的にない;プロピルチオウラシルではいかなる用量でも顆粒球減少症が起こりうる。妊娠中や授乳中に抗甲状腺薬療法を行わねばならない場合には,胎盤を通過したり母乳に移行したりしにくいのでプロピルチオウラシルが選択される。しかし,メチマゾールも胎児や乳児の合併症を招かずに妊娠中や授乳中の女性に支障なく投与されている。甲状腺クリーゼ治療にもプロピルチオウラシルが選択されるが,これは使用されている用量(800〜1200mg/日)が末梢でのT4からT3への変換を部分的に阻害するからである。

β遮断薬: アドレナリン刺激による甲状腺機能亢進症の症状および徴候は,β遮断薬に反応することがあり,プロプラノロールが最も汎用されている。その他の症状は典型的には反応しない( 甲状腺疾患: 甲状腺機能亢進症に対するプロプラノロールの効果表 2: 表を参照)。

表 2

甲状腺機能亢進症に対するプロプラノロールの効果

改善する現象

改善しない現象

頻脈

振戦

精神症状

熱不耐性および発汗(ときどき)

下痢(ときどき)

近位筋ミオパシー(ときどき)

眼瞼運動の遅れ

O2消費:(褐色細胞腫患者にみられるような)過剰なカテコールアミンはO2消費を亢進させるが,O2消費の主要な刺激因子は甲状腺ホルモンである。

甲状腺腫

血管雑音

血中サイロキシン濃度

体重減少

(安定化することはあるが改善はしない)

眼球突出

プロプラノロールは甲状腺クリーゼに適応となる( 甲状腺疾患: 甲状腺クリーゼの治療表 3: 表を参照)。経口投与では通常2〜3時間以内に,静注では数分以内に急速に心拍数を減少させる。また,プロプラノロールは甲状腺機能亢進症を伴う頻脈,特に高齢患者での頻脈に適応となるが,これは抗甲状腺薬が十分な効果を発揮するまでに通常数週間を要するからである。カルシウムチャネル拮抗薬は,β遮断薬が禁忌の患者で頻脈性不整脈を調節する。

表 3

甲状腺クリーゼの治療

ヨード:ヨウ化カリウム飽和溶液5滴,またはルゴール液10滴,1日3回経口;ヨウ化ナトリウム1gを24時間かけて緩徐に点滴静注,またはヨーパン酸0.5g,1日2回

プロピルチオウラシル:600mgをヨードより先に経口投与,その後400mg,6時間毎

プロプラノロール:40mg,1日4回経口;または1mg,注意深い監視の下で4時間毎に緩徐に静注;投与速度が1mg/分を超えるべきではない;2分後に1mgを再度投与する場合もある。

ブドウ糖液静注

脱水および電解質平衡異常の是正

高体温に対する冷却ブランケット

心房細動に対して必要であれば抗不整脈薬(例,カルシウムチャネル拮抗薬,アデノシン,β遮断薬)

感染症など基礎疾患の治療

コルチコステロイド:ハイドロコルチゾン100mg,8時間毎に静注,またはデキサメタゾン8mg,1日1回静注

クリーゼ制御後に行う根治治療は,131Iによる甲状腺の破壊または外科治療からなる。

放射性ヨードナトリウム(131I,放射性ヨード): 米国では,131Iが甲状腺機能亢進症の最も一般的な治療である。放射性ヨードは,小児を含む全てのGraves病患者および中毒性結節性甲状腺腫患者に対する治療の第1選択としてしばしば推奨される。甲状腺の反応が予測できないので,131Iの用量は調節が困難であり,一部の医師は標準量として8mCiを投与する。甲状腺機能を正常化するのに十分な131Iが投与されると,患者の約25%で1年後には甲状腺機能が低下し,その発症件数は年々上昇を続ける。したがって,大半の患者では最終的に甲状腺機能が低下する。しかし,低用量を用いれば再発率が上昇する。10〜15mCiといった大量投与は,しばしば6カ月以内に甲状腺機能低下症を引き起こす。放射性ヨードは妊娠中には使用しない。放射性ヨードが,腫瘍,白血病,甲状腺癌,後年妊娠した女性から生まれた小児の出生時欠損などの発生頻度を増加させるという証拠はない。

手術: 外科手術は,抗甲状腺薬治療後に再発したが131I治療を拒否するGraves病患者や,他の薬物を忍容できない患者,巨大甲状腺腫を有する患者,中毒性甲状腺腫および多結節性甲状腺腫を有する若年患者の一部に適応となる。外科手術は巨大結節性甲状腺腫を有する高齢患者で行われることもある。

通常,手術によって正常な機能が回復する。術後の再発率は2〜16%と多様である;甲状腺機能低下症のリスクは手術の範囲と直接関連しており,約1/3の患者に生じる。声帯麻痺および副甲状腺機能低下症はまれな合併症である。術前にヨウ化カリウム飽和溶液3滴(約100〜150mg),1日3回を10日間経口投与して甲状腺の血管分布を減少させるとよい。ヨード投与前に患者の甲状腺機能を正常化させるべきなので,プロピルチオウラシルまたはメチマゾールも投与しなければならない。デキサメタゾンおよびヨーパン酸を追加して迅速に甲状腺機能を正常化させることもできる。甲状腺切除術または放射性ヨード治療を過去に受けた患者では,外科処置がより困難になる。

甲状腺クリーゼの治療: 甲状腺クリーゼの治療法を甲状腺疾患: 甲状腺クリーゼの治療表 3: 表に示す。

浸潤性皮膚病および眼症の治療: (Graves病にみられる)浸潤性皮膚病では,局所コルチコステロイドがときにかゆみを和らげる。皮膚病は通常,数カ月または数年後に自然寛解する。眼症は内分泌医と眼科医が共同で治療にあたるべきで,コルチコステロイド,眼窩照射,および外科手術が必要になることもある。

無症候性甲状腺機能亢進症

無症候性甲状腺機能亢進症は,血清遊離T4およびT3が基準範囲内にある患者において,血清TSHが低値で甲状腺機能亢進の症状を全く呈しないか,あってもわずかにしか呈しない状態である。

無症候性甲状腺機能亢進症は,無症候性甲状腺機能低下症(甲状腺疾患: 無症候性甲状腺機能低下症を参照 )と比べるとはるかにまれである。血清TSH濃度が0.1mU/L未満の患者では,心房細動の発生頻度増加(特に高齢患者),骨密度低下,骨折増加,および死亡率上昇がみられる。基準範囲をわずかに下回る程度の血清TSHを示す患者はこれらの特徴を呈しにくい。多くの無症候性甲状腺機能亢進症患者はレボサイロキシンを使用しており,甲状腺癌または甲状腺結節を有する患者でTSHの抑制を維持することを目標に治療を行っているのでない限り,これらの患者では用量の減少が最も適切な管理法である。無症候性甲状腺機能亢進症のその他の原因は,臨床的に明らかな甲状腺中毒症の原因と同一である。

内因性の無症候性甲状腺機能亢進症患者(血清TSHが0.1mU/L未満),特に心房細動または骨密度低下を呈する患者は治療の適応である。通常の治療は131Iで行う。軽度の症状(例,神経質)を呈する患者では,抗甲状腺薬療法を試行する価値がある。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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