(甲状腺機能の概要 甲状腺機能の概要 甲状腺は前頸部の輪状軟骨直下に位置し,峡部で連結された2つの葉から成る。甲状腺濾胞細胞は,主に以下の2種類の甲状腺ホルモンを産生する: テトラヨードサイロニン(サイロキシン,T4) トリヨードサイロニン(T3) これらのホルモンは,核内受容体に結合し幅広い遺伝子産物の発現を変化させることによって実質的に全身のあらゆる組織の細胞に作用する。... さらに読む も参照のこと。)
先行するウイルス性上気道感染症の病歴がよくみられる。組織学的検査では, 橋本甲状腺炎 橋本甲状腺炎 橋本甲状腺炎は甲状腺の慢性自己免疫性炎症で,リンパ球の浸潤を伴う。所見には,無痛性の甲状腺腫大および甲状腺機能低下症状がある。診断には抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体の抗体価高値を証明することが含まれる。生涯にわたるL-チロキシン補充が一般的には必要となる。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。) 橋本甲状腺炎は北米の原発性甲状腺機能低下症の最も一般的な原因であると考えられている。女性に数倍多く発生する。発生率は年齢とともに上昇し,... さらに読む や 無痛性リンパ球性甲状腺炎 無痛性リンパ球性甲状腺炎 無痛性リンパ球性甲状腺炎は自然に軽快する亜急性疾患であり,分娩後の女性で最もよくみられる。症状は,初期には甲状腺機能亢進症状,次に甲状腺機能低下症状がみられ,その後一般には甲状腺機能は正常な状態に戻る。甲状腺機能亢進期の治療はβ遮断薬により行う。甲状腺機能低下症が恒久的な場合には,生涯にわたってサイロキシン補充が必要となる。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。) 「無痛性(silent)」という用語は,... さらに読む に比べて甲状腺へのリンパ球浸潤がみられることは少ないが,特徴的な巨細胞浸潤,多形核白血球,および濾胞破壊を認める。
亜急性甲状腺炎の症状と徴候
前頸部の疼痛および発熱が認められる。頸部痛は左右に移動する特徴を示すが,やがて1カ所に落ち着くこともあり,しばしば下顎や耳に放散する。歯痛,咽頭炎,耳炎などとしばしば混同され,嚥下や頭位変換によって増強する。破壊された濾胞からホルモンが放出されるため,病初期には甲状腺機能亢進症状が一般的である。他の甲状腺疾患よりも倦怠感や疲労が強い。身体診察では,甲状腺は左右非対称に腫大し,固く,圧痛を認める。
亜急性甲状腺炎の診断
臨床所見
遊離サイロキシン(T4)および甲状腺刺激ホルモン(TSH)の各値
赤血球沈降速度(赤沈)
放射性ヨード摂取率
診断は主に臨床的に行い,該当する病歴を有する患者で圧痛を伴う腫大した甲状腺の所見に基づく。TSHおよび少なくとも遊離T4の測定による甲状腺検査も通常実施する。診断の確定には,放射性ヨード摂取率を測定すべきである。
病初期の 臨床検査所見 甲状腺機能の臨床検査 甲状腺は前頸部の輪状軟骨直下に位置し,峡部で連結された2つの葉から成る。甲状腺濾胞細胞は,主に以下の2種類の甲状腺ホルモンを産生する: テトラヨードサイロニン(サイロキシン,T4) トリヨードサイロニン(T3) これらのホルモンは,核内受容体に結合し幅広い遺伝子産物の発現を変化させることによって実質的に全身のあらゆる組織の細胞に作用する。... さらに読む としては,遊離T4およびトリヨードサイロニン(T3)の上昇,TSHおよび甲状腺の放射性ヨード摂取率の著明な低下(しばしば0),および赤沈の亢進がある。数週間後に,甲状腺に貯蔵されたT4およびT3は枯渇して一過性の甲状腺機能低下症が生じ,これに伴って遊離T4およびT3の低下,TSHの上昇,甲状腺放射性ヨード摂取率の回復がみられる。甲状腺抗体が弱陽性となることがある。2~4週間間隔での遊離T4,T3,およびTSHの測定により,病期が特定される。
診断が不確かであれば,穿刺吸引細胞診が有用である。カラードプラによる甲状腺の超音波検査では,バセドウ病における血流の増加とは対照的に,多数の不規則な無エコー領域および血流の低下が示される。
亜急性甲状腺炎の予後
亜急性甲状腺炎は自然に軽快し,一般に数カ月で鎮静化するが,ときに再発し,濾胞破壊が広範である場合には恒久的な 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの欠乏である。診断は典型的な顔貌,嗄声および言語緩徐,乾燥皮膚などの臨床的特徴,ならびに甲状腺ホルモン低値による。サイロキシン投与などにより管理を行う。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺機能低下症は年齢を問わず生じるが,特に高齢者でよくみられ,その場合症状が軽微で認識しにくい可能性がある。甲状腺機能低下症は以下に分類される: 原発性:甲状腺の疾患に起因する... さらに読む をもたらすことがある。
亜急性甲状腺炎の治療
非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)
ときに,コルチコステロイド,β遮断薬,またはその両方
不快感は,高用量のアスピリンまたはNSAIDで治療する。中等度の症状がある症例では,コルチコステロイド(例,プレドニゾン15~30mg,1日1回経口投与,3~4週間かけて用量を漸減)により48時間以内に全症状が消失する。
甲状腺機能亢進による煩わしい症状は,短期間のβ遮断薬により治療する場合がある。甲状腺機能低下症が顕著または持続する場合には,甲状腺ホルモン補充療法が必要になる場合がある(まれに恒久的)。
亜急性甲状腺炎の要点
亜急性甲状腺炎の臨床像は通常,発熱,頸部痛,および圧痛を伴う甲状腺の腫大である。
初期には甲状腺機能亢進がみられ,甲状腺刺激ホルモン(TSH)は低下し,遊離サイロキシン(T4)は上昇する;ときに,その後一過性の甲状腺機能低下がみられ,TSHは上昇し,遊離T4は低下する。
治療は非ステロイド系抗炎症薬,ときにコルチコステロイドおよび/またはβ遮断薬との併用による。