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急性ポルフィリン症

急性ポルフィリン症では腹痛および神経症状の間欠的な発作が生じる。発作はある種の薬物およびその他の因子によって促進される。異型ポルフィリン症患者および遺伝性コプロポルフィリン症患者では日光暴露によって水疱性の発疹が生じることがある。診断は,発作中に認められる尿中のδ-アミノレブリン酸およびポルフィリン前駆体ポルホビリノーゲンの高値に基づいて行われる。発作の治療にはブドウ糖,またはより重度の場合はヘム静注を用いる。痛覚消失を含む症状の対症療法を必要に応じて行う。

急性ポルフィリン症には,有病率の順に,急性間欠性ポルフィリン症(AIP),異型ポルフィリン症(VP),遺伝性コプロポルフィリン症(HCP),およびきわめてまれなALAD欠損性ポルフィリン症がある。

ヘテロ接合体では,急性ポルフィリン症が思春期前に臨床的に発現することはまれであり,思春期後は約20〜30%のみに発現する。ホモ接合体では,発症は小児期で症状は重度である。

促進因子

多数の促進因子が存在し,典型的には欠陥酵素の触媒能以上にヘム合成を促進する。結果として,ポルフィリン前駆体ポルホビリノーゲン(PBG)およびδアミノレブリン酸(ALA)(またはALA脱水酵素[ALAD]欠損性ポルフィリン症の場合はALAのみ)の蓄積が生じる。

ホルモン因子は重要である。女性は,特にホルモンが変化する時期には男性よりも発作を起こしやすい(例,月経直前,経口避妊薬の使用,妊娠初期の数週間,出産直後)。それにもかかわらず,妊娠は禁忌ではない。

その他の因子には,薬物(バルビツール酸,他の抗痙攣薬,およびスルホンアミド系抗生物質―ポルフィリン症: 薬物とポルフィリン症*表 4: 表を参照)および生殖ホルモン(プロゲステロンおよび関連ステロイド),特に肝ALA合成酵素やチトクロムP-450酵素を誘導するものがある。発作は促進因子となる薬物に暴露してから通常24時間以内に生じる。低カロリー・低炭水化物食およびアルコールも症状を悪化させうる。感染症またはその他の疾患,外科手術,精神的問題などに起因するストレスがときに関係している。発作は通常多数の,ときに同定不能な因子によってもたらされている。

表 4

PDF 薬物とポルフィリン症*

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日光はVPおよびHCPの皮膚症状を促進する。

症状と徴候

症状および徴候には,神経系,腹部,または両方(内臓神経)が含まれる。発作は数時間または数日かけて発症し,最大数週間持続しうる。一部の遺伝子キャリアは生涯ほとんど発作を経験しない。他のキャリアは症状の再発を経験する。女性では,発作はしばしば月経周期の相と一致する。

急性ポルフィリン症発作: 便秘,倦怠感,被刺激性,および不眠が典型的には急性発作に先行する。一般的な発作症状は腹痛および嘔吐である。疼痛は耐え難いことがあり,腹部圧痛と不釣り合いである。腹部症状は内臓神経に対する作用または局所血管収縮虚血に起因する可能性がある。炎症がないので,腹部に圧痛はなく,腹膜徴候もない。体温および白血球数は正常またはわずかに上昇している。麻痺性イレウスの結果,腸の膨満が生じる恐れがある。発作中の尿は赤色または赤褐色でPBG陽性である。

末梢神経系および中枢神経系の全成分が関与する可能性がある。運動神経障害は,重度遷延性発作では一般的である。筋力低下は通常四肢に始まるが,あらゆる運動神経または脳神経を巻き込んで四肢麻痺に発展する恐れがある。延髄が関与すると換気不全が生じうる。

中枢神経系の関与は痙攣または精神障害(例,無感情,抑うつ,興奮,明らかな精神病,幻覚)をもたらす場合がある。痙攣,精神病的行動,および幻覚は低ナトリウム血症または低マグネシウム血症によることがあり,これらは不整脈の一因にもなりうる。

過剰なカテコールアミンは一般に情動不安および頻脈を生じさせる。まれに,カテコールアミン誘発性の不整脈が突然死を引き起こす。一過性の高血圧を伴う動揺性高血圧症は血管を変化させ,治療しなければ不可逆性の高血圧へと進展する。急性ポルフィリン症の腎不全は多因子によるものである;急性高血圧症(慢性的な高血圧症につながりうる)は主要な促進因子である可能性が高い。

亜急性/亜慢性症状: 一部の患者では程度の軽い症状(例,便秘,倦怠感,頭痛,背部痛または大腿部痛,感覚異常,頻脈,呼吸困難,不眠,精神障害,痙攣)が遷延する。

VPおよびHCPの皮膚症状: 内臓神経症状が認められない場合でも,皮膚の脆弱性および水疱性発疹が露光部に生じる場合がある。しばしば患者は日光暴露との関連に気づかない。皮膚症状はPCTの皮膚症状と同一である。

晩期症状: 急性発作時の運動障害が,発作の間欠期に持続性の脱力をもたらす場合がある。AIPでは,肝細胞癌,高血圧症,腎障害が中年以降より一般的になり,恐らくこれはVPおよびHCP,特にポルフィリン症発作の既往のある患者にもいえる。

診断

急性発作: 急性発作は急性腹症(ときに不必要な外科手術につながる)の他の原因や原発性神経障害または精神障害と混同されるので,誤診は一般的である。しかし,過去に遺伝子キャリアと診断された患者や家族歴が陽性の患者ではポルフィリン症を疑うべきである。既知の遺伝子キャリアであってもなお,他の原因を考慮しなければならない。

症状発生前には存在しなかった赤色または赤褐色の尿は主要な徴候であり,本格的な発作の際に認められる。原因不明の腹痛を呈する患者で,特に重度の便秘,嘔吐,頻脈,筋力低下,延髄病変,または精神症状が生じた場合には,尿検体を調べるべきである。

ポルフィリン症が疑われる場合には,定量的または半定量的な迅速検査法を用いて尿でPBGを分析する。結果が陽性の場合または臨床的に疑いが強い場合にはALAおよびPBGの定量的測定が必要となり,同じ検体での測定が望ましい。基準範囲の5倍を上回るPBG濃度またはALA濃度は,障害の潜伏期間中でもポルフィリン前駆体の排泄が増加している遺伝子キャリアでない限りは急性ポルフィリン症発作を示す。

尿中のPBGおよびALAが基準範囲内であれば別の診断を考慮しなければならない。ALAが高値でPBGが基準範囲内またはわずかに高値であれば,鉛中毒やALAD欠損性ポルフィリン症が示唆される。24時間尿検体の分析は有用ではない。その代わりに随時尿検体が用いられ,PBG濃度およびALA濃度を検体のクレアチニン濃度と関連させることによって希釈を補正する。電解質およびマグネシウムを測定すべきである。過度の嘔吐あるいは下痢とそれに伴う低張液補充,またはADH不適合分泌症候群(SIADH)による低ナトリウム血症が存在する可能性がある。

病型の決定: 治療は急性ポルフィリン症の病型によって変わらないので,特定の病型の同定は主に血縁者での遺伝子キャリアの発見に有用となる。様々な型の急性ポルフィリン症はポルフィリン(および前駆体)の特徴的な蓄積パターンおよび血漿中,尿中,糞便中への排泄パターンによって鑑別される。尿検査でALA濃度およびPBG濃度の上昇が明らかにされたときには,糞便中のポルフィリンを測定すべきである。糞便中のポルフィリンは,AIPでは通常は基準範囲内またはわずかに上昇しているが,HCPおよびVPでは上昇している。しばしばこれらのマーカーは障害の無活動期には存在しない。皮膚急性ポルフィリン症では,特徴的な蛍光を伴う血漿ポルフィリンがしばしば認められる。赤血球PBG脱アミノ酵素濃度が基準範囲の約50%であればAIPを示唆する。白血球プロトポルフィリノーゲン酸化酵素濃度の低下およびコプロポルフィリノーゲン酸化酵素の濃度の低下は,それぞれVP,HCPを示唆する。

家系研究: 遺伝子キャリアの子供が疾患を遺伝的に受け継ぐリスクは50%である。早期診断およびカウンセリングは罹病のリスクを低下させるので,罹患家系の小児には可能な限り早期に検査を行うべきである。発端者で原因変異が同定されているのであれば,遺伝子検査が用いられる。同定されていなければ適切な赤血球または白血球の酵素濃度を測定する。(羊水穿刺または絨毛膜生検を用いた)子宮内診断には遺伝子分析が利用できるが,大半の遺伝子キャリアの予後は良好なのでほとんど適応にならない。

予後と治療

医療およびセルフケアの進歩は症候性患者の予後を改善している。それでもなお,一部の患者では再発性発作または恒久的な麻痺や腎不全を伴う進行性疾患が生じる。また,強力な鎮痛薬の必要性が薬物依存を生む恐れもある。

全ての急性ポルフィリン症の治療は本質的に同一である。誘引となっている可能性のあるもの(例,薬物)を同定し,それを中止または是正する。発作が軽度でない限り,患者を暗く静かな個室に入院させる。心拍数,血圧,および水や電解質の平衡を監視する。神経学的状態,膀胱機能,筋肉および腱の機能,呼吸機能,パルスオキシメトリーによる酸素濃度も持続的に監視する。症状(例,疼痛,嘔吐)はポルフィリン生成作用のない薬物を用いて必要に応じて治療する(ポルフィリン症: 薬物とポルフィリン症*表 4: 表を参照)。

ブドウ糖(1日300〜500g)はALA合成酵素を阻害して症状を緩和する。嘔吐がなければ経口で投与できるが,そうでなければ静注する。水分過剰とその結果生じる低ナトリウム血症を回避するために,50%ブドウ糖液1 Lを中心静脈カテーテルから24時間かけて投与することがある。

ヘムの静注は重度発作または筋力低下に対して迅速に行われるべきである。ヘムは通常3〜4日で症状を消失させる。ヘムによる治療が遅れると,神経障害がさらに進行して,回復は遅れ恐らくは不完全になる。ヘムは,米国では滅菌水で戻す凍結乾燥ヘマチンとして入手できる。用量は3mg/kg,1日1回を4日間静注する。この剤形ではヘムの分解産物が急速に形成され,注入部位で静脈炎を引き起こす可能性があり,一過性の抗凝固作用を示すこともある。副作用はヒトアルブミンを加えて戻すことによって低減できる。アルギン酸ヘムはより安定性が高く,一般に毒性のない代替物である。

予防

リスクを有する者は,有害となりうる薬物(ポルフィリン症: 薬物とポルフィリン症*表 4: 表を参照),アルコール,情動ストレス,有機溶剤への暴露(例,ペンキまたはドライクリーニング),急激なダイエット,絶食を避けるべきである。肥満に対する食事は体重を漸減させるようなものとし,寛解期間中のみ採用すべきである。VPまたはHCPのキャリアは日光暴露を最小限にとどめるべきである;紫外線のみを遮断する日焼け止めは無効であるが,不透明な二酸化チタン剤は有益である。ポルフィリン症患者団体は,書面による情報や直接のカウンセリングを提供している。

患者はキャリアと分かるように医療記録に目立つように記してもらい,キャリアであることを立証し観察を警告するカードを携帯すべきである。

高炭水化物食は急性発作のリスクを低減しうる。高炭水化物食または1時間に1個の角砂糖は急性発作の症状の緩和に役立つ場合がある。肥満および齲歯のリスクを減らすために,長期の使用は避けるべきである。

再発性で予測可能な発作を経験する患者(典型的には月経周期と関連する発作を起こす女性)では,発症予定日の少し前にp-pill投与または予防的ヘム療法を行うと有益となる場合がある。標準治療はなく,専門医を受診すべきである。一部の女性にみられる頻回な月経前発作は,ゴナドトロピン放出ホルモンアナログおよび低用量エストロゲンの併用投与によって抑える。経口避妊薬の使用がときに奏効するが,プロゲスチン成分がポルフィリン症を悪化させる恐れがある。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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