メルクマニュアル18版 日本語版
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カルシウム濃度の異常

カルシウムは,筋収縮,神経伝導,ホルモン放出,および血液凝固の適切な機能に必要である。さらに,カルシウムは多数の酵素の調節に役立つ。

体内のカルシウム貯蔵量の維持は,食事からのカルシウム摂取,消化管からのカルシウム吸収,および腎臓からのカルシウム排泄に依存する。バランスのとれた食事からは,およそ1000mgのカルシウムが毎日摂取される。約200mg/日が胆汁およびその他の消化管分泌物から失われる。循環血液中のビタミンD濃度,特に1,25(OH)2D(1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール,カルシトリオール,または活性型ビタミンDホルモン,腎臓で不活性型の25(OH)Dから変換される)の濃度によって,およそ200〜400mgのカルシウムが腸管から毎日吸収される。残りの800〜1000mgは便中に認められる。カルシウム平衡は,平均200mg/日のカルシウムが腎臓から排泄されることで維持される。

細胞外および細胞内のカルシウム濃度は,細胞の形質膜や,小胞体,筋細胞の筋小胞体,ミトコンドリアなどの細胞内小器官の膜を通過する両方向性カルシウム輸送によっていずれも厳密に調節されている。細胞質のイオン化カルシウムは,μmolの範囲内(血漿濃度の1/1000未満)で維持されている。イオン化カルシウムは細胞内のセカンド・メッセンジャーとして作用しており,骨格筋の収縮,心筋および平滑筋の興奮-収縮連関,ならびに蛋白キナーゼおよび酵素のリン酸化の賦活に関与している。カルシウムは,サイクリックアデノシン一リン酸(cAMP)やイノシトール1,4,5-三リン酸など他の細胞内メッセンジャーの働きにも関与しており,これによってエピネフリン,グルカゴン,ADH(バソプレシン),セクレチン,コレシストキニンを含む多数のホルモンに対する細胞応答を媒介している。

細胞内での重要な役割にもかかわらず,体内のカルシウムのおよそ99%は主としてヒドロキシアパタイト結晶の形で骨に存在している。骨カルシウムのおよそ1%はECFと自由に交換可能なので,カルシウム平衡の変化を緩衝するために活用される。血漿総カルシウム濃度の基準範囲は8.8〜10.4mg/dL(2.20〜2.60mmol/L)である。総血中カルシウムの約40%はアルブミンを主とする血漿蛋白と結合している。残りの60%は,イオン化カルシウムや,リン酸(PO4)およびクエン酸と複合体を形成したカルシウムである。通常,総カルシウム(すなわち,蛋白結合カルシウム,複合型カルシウム,およびイオン化カルシウム)が臨床検査で測定される。イオン化カルシウムすなわち遊離カルシウムが血漿中で生理学的に活性を有するカルシウムなので,理想的にはこれを測定すべきである;この測定は技術的に困難なので,通常は血漿カルシウムの蛋白結合が著しく変化していると疑われる患者に限定される。イオン化カルシウムは一般に血漿総カルシウムのおよそ50%相当と見なされる。

カルシウム代謝の調節

カルシウムの代謝とPO4の代謝(水分と電解質代謝: リン酸濃度の異常を参照 )とは密接に関連している。カルシウム平衡およびPO4平衡の両者の調節は副甲状腺ホルモン(PTH)およびビタミンDの血中濃度に大きく影響され,程度は小さいがカルシトニンの血中濃度の影響も受ける。カルシウムおよび無機PO4の濃度は,これらが化学的に反応してCaPO4を形成できることによって互いに関連している。カルシウム濃度とPO4濃度(単位はmEq/L)との積は正常では60と見積もられる;積が70を上回ると,CaPO4の結晶が軟部組織に沈着する可能性が高くなる。血管組織への沈着は動脈硬化性血管疾患を助長する。

PTHは副甲状腺によって分泌される。いくつかの作用があるが,恐らく最も重要なものは低カルシウム血症の予防である。副甲状腺細胞は血漿カルシウム濃度の低下を感知し,これに反応してあらかじめ形成されたPTHを循環血液中に放出する。PTHは,腎臓および腸管からのカルシウム吸収を増進し,カルシウムおよびPO4を骨から迅速に動員すること(骨吸収)によって,数分以内に血漿カルシウム濃度を上昇させる。腎臓からのカルシウム排泄は一般にナトリウム排泄と並行しており,近位尿細管でのナトリウム輸送を支配するものと同じ多数の因子に影響される。しかし,PTHは遠位尿細管でのカルシウム再吸収をナトリウムとは無関係に増加させる。また,PTHは腎臓でのPO4再吸収を減少させ,それによって腎臓からのPO4喪失を増加させる。腎臓からのPO4の喪失は,PTHに反応してカルシウム濃度が上昇するにつれて,血漿中でのカルシウムとPO4との溶解度積が過剰になることを防ぐ。

また,PTHはビタミンD(ビタミンの欠乏症,依存症,および中毒症: ビタミンDを参照 )から最も活性の高い1,25(OH)2Dへの変換を刺激することによって血漿カルシウム値を上昇させる。この型のビタミンDは食物中カルシウムの腸管吸収率を高める。カルシウム吸収の増加にもかかわらず,長期にわたるPTH分泌の増加は,骨芽細胞の機能を抑制し破骨細胞活性を促すことによって一般に骨吸収を進行させる。PTHおよびビタミンDは,いずれも骨成長や骨リモデリングの重要な調節因子として機能する(ビタミンの欠乏症,依存症,および中毒症: ビタミンD欠乏症と依存症を参照 )。

副甲状腺機能の検査には,ラジオイムノアッセイによる血中PTH濃度の測定および総cAMPまたは腎性cAMPの尿中排泄量の測定がある。正確なPTH測定法が広く利用できるようになり,現在では尿中cAMPはほとんど測定されなくなっている。インタクトPTHを測定する方法が最良である。

カルシトニンは甲状腺傍濾胞細胞(C細胞)によって分泌される。カルシトニンには,細胞への取り込み,腎臓からの排泄,および骨形成を亢進させることによって血漿カルシウム濃度を低下させる傾向がある。カルシトニンが骨代謝に及ぼす作用は,PTHまたはビタミンDの作用よりもはるかに弱い。

低カルシウム血症

(新生児の低カルシウム血症については新生児における代謝,電解質,および中毒性障害: 低カルシウム血症を参照 。)

低カルシウム血症とは,血漿蛋白濃度が基準範囲内にあるときに総血漿カルシウム濃度が8.8mg/dL(2.20mmol/L)未満,または血漿イオン化カルシウム濃度が4.7mg/dL(1.17mmol/L)未満となることである。原因には,副甲状腺機能低下症,ビタミンD欠乏症,および腎疾患がある。症状には,感覚異常,テタニーのほか,重度であれば痙攣,脳症,心不全がある。診断には血漿カルシウム濃度の測定を行う。治療にはカルシウム投与を行い,ときにビタミンDを併用する。

病因と病態生理

低カルシウム血症には多数の原因がある。いくつかを以下に挙げる。

副甲状腺機能低下症: 副甲状腺機能低下症は,低カルシウム血症および高リン酸血症を特徴とし,しばしば慢性テタニーを引き起こす。副甲状腺機能低下症は副甲状腺ホルモン(PTH)の欠乏に起因し,甲状腺摘出術中に複数の副甲状腺が誤って切除または損傷されることがしばしば原因となる。一過性の副甲状腺機能低下症は甲状腺亜全摘術後に一般的にみられる。恒久的な副甲状腺機能低下症は,熟練した外科医が執刀した甲状腺摘出術では術後3%未満に生じる。低カルシウム血症の症状は,通常は術後約24〜48時間経って発現するが,数カ月後または数年後に生じることもある。PTH欠乏症は,癌に対する根治的甲状腺摘出術や,副甲状腺そのものに対する手術(副甲状腺の亜全摘術または全摘術)の後で,より一般的にみられる。副甲状腺亜全摘術後の重度低カルシウム血症の危険因子には,術前の重度高カルシウム血症,巨大腺腫の摘出,およびアルカリホスファターゼ高値がある。

特発性副甲状腺機能低下症は,副甲状腺が欠損もしくは萎縮する,孤発性または遺伝性のまれな疾患である。これは小児期に発症する。副甲状腺は,胸腺形成不全および鰓弓から生じる動脈の異常(ディ・ジョージ症候群)に伴ってときに欠損している。その他の遺伝性の病型としては伴性遺伝性副甲状腺機能低下症候群,アジソン病,粘膜皮膚カンジダ症がある。

偽性副甲状腺機能低下症: 偽性副甲状腺機能低下症はまれな一群の障害であり,ホルモン欠乏ではなく標的臓器のPTH抵抗性を特徴とする。これらの障害が複合して遺伝的に伝達される。

Ⅰa型偽性副甲状腺機能低下症(オルブライト遺伝性骨異栄養症)患者では,アデニル酸シクラーゼ複合体を刺激するGsα1蛋白(GNAS1)に変異が認められる。結果的に,PTHに対する正常な腎臓のリン酸利尿反応や尿中サイクリックアデノシン一リン酸(cAMP)の増加は起こらない。患者は通常,高リン酸血症の結果として低カルシウム血症を呈する。二次性副甲状腺機能亢進症および副甲状腺機能亢進性骨疾患が起こることがある。随伴する異常には,低身長,丸顔,大脳基底核石灰化を伴う精神遅滞,中手骨および中足骨の短縮,軽度甲状腺機能低下,その他の軽微な内分泌異常がある。GNAS1の対立遺伝子は母親のものだけが腎臓で発現するので,異常遺伝子が父親由来である患者では,本疾患の身体的特徴が多数認められるにもかかわらず低カルシウム血症,高リン酸血症,そして二次性副甲状腺機能亢進症が生じず,この状態はときに偽性偽性副甲状腺機能低下症と呼ばれる。

Ⅰb型偽性副甲状腺機能低下症については,さらに解明が進んでいない。この患者には低カルシウム血症,高リン酸血症,二次性副甲状腺機能亢進症が認められるが,それ以外の異常は随伴しない。

Ⅱ型偽性副甲状腺機能低下症は,Ⅰ型よりもさらに稀である。罹患者では,外因性PTHによって尿中cAMPは正常に上昇するが,血漿カルシウムや尿中リン酸(PO4)は上昇しない。cAMPに対する細胞内抵抗性が提唱されている。

ビタミンD欠乏症: ビタミンD欠乏は,食事からの摂取不足や,肝胆道系疾患または腸の吸収不良による吸収低下に起因すると考えられる。また,ある種の薬物(例,フェニトイン,フェノバルビタール,リファンピン)に伴うビタミンD代謝異常や,皮膚の日光暴露不足によっても生じる。後者は,施設に入所している高齢者および北方気候で全身を完全に覆う衣服を着用する人々(例,英国のイスラム教徒女性)における後天性ビタミンD欠乏症の重要な原因である。Ⅰ型ビタミンD依存性くる病(偽性ビタミンD欠乏性くる病)は,1-α-ヒドロキシラーゼをエンコードする遺伝子の変異が関与する常染色体劣性遺伝疾患である。1-α-ヒドロキシラーゼは正常では腎臓に発現し,25(OH)Dを活性型ビタミンDである1,25(OH)2Dに変換するために必要である。Ⅱ型ビタミンD依存性くる病では,標的臓器が1,25(OH)2Dに反応できない。ビタミンD欠乏症,低カルシウム血症,重度の低リン酸血症が生じる。筋力低下,疼痛,および典型的な骨変形が起こりうる(ビタミンの欠乏症,依存症,および中毒症: 症状と徴候を参照 )。

腎疾患: 腎毒素(例,重金属)が原因の後天性近位尿細管性アシドーシス,遠位尿細管性アシドーシスなどの腎尿細管疾患は,腎臓からの異常なカルシウム喪失や,腎臓での1,25(OH)2Dへの変換低下による重度低カルシウム血症を引き起こす場合がある。特にカドミウムは,近位尿細管細胞を損傷しビタミンD変換を阻害することによって低カルシウム血症をもたらす。

腎不全では,腎細胞の直接傷害および高リン酸血症による1- α-ヒドロキシラーゼの抑制が1,25(OH)2Dの形成を減少させ,低カルシウム血症をもたらす恐れがある。

その他の原因: マグネシウムの欠乏は腸の吸収不良または食事からの摂取不足に伴って生じ,低カルシウム血症を引き起こすことがある。相対的なPTHの欠乏やPTH作用に対する末端器官の抵抗性が生じて,血漿マグネシウム濃度は1.0mg/dL未満(0.5mmol/L未満)となる;補充によってPTH濃度および腎臓でのカルシウム保持は改善する。

急性膵炎では,炎症を起こした膵臓から放出される脂肪分解産物がカルシウムをキレートする際に低カルシウム血症が引き起こされる。

低蛋白血症は血漿カルシウムの蛋白結合分画を減少させる場合がある。蛋白結合の減少による低カルシウム血症は無症候性である。イオン化カルシウムは変化しないので,これは偽性低カルシウム血症と呼ばれている。

特に重度の嚢胞性線維性骨炎患者で副甲状腺機能亢進症を外科的に治療した後には骨形成亢進にカルシウム摂取が追いつかない状態となり,これはhungry bone症候群と呼ばれている。

敗血症性ショックは,PTH放出の抑制および25(OH)Dから1,25(OH)2Dへの変換の減少による低カルシウム血症を引き起こす可能性がある。

高リン酸血症は低カルシウム血症をもたらすが,その機序はほとんど解明されていない。腎不全やそれに続くPO4貯留を来した患者では,特にその傾向が強い。

低カルシウム血症をもたらす薬物には,高カルシウム血症の治療に一般に用いられる薬物(水分と電解質代謝: 治療を参照 ),ビタミンD代謝を変化させる抗痙攣薬(フェニトイン,フェノバルビタール)およびリファンピシン,クエン酸で抗凝固処理を行った血液の輸血(>10単位),ならびに2価イオンキレート薬であるエチレンジアミン四酢酸を含有する造影剤がある。

カルシトニン過剰分泌は低カルシウム血症を引き起こしうると予想されるが,甲状腺髄様癌由来のカルシトニンが循環血液中に大量に存在する患者では血漿カルシウム濃度の低値はまれにしか生じない。

症状と徴候

低カルシウム血症はしばしば無症候性である。副甲状腺機能低下症の存在は,基礎疾患の臨床症状(例,白内障,大脳基底核石灰化症,特発性副甲状腺機能低下症における慢性カンジダ症)によってしばしば示唆される。

低カルシウム血症の臨床症状は,細胞膜電位の異常が神経筋の易興奮性をもたらすことによる。背部および下肢の筋肉の痙攣が一般的にみられる。潜在性の低カルシウム血症は軽度のびまん性脳症をもたらすことがあり,原因不明の認知症,抑うつ,または精神疾患を呈する患者ではこれを疑うべきである。乳頭浮腫がときに認められ,低カルシウム血症が遷延すると白内障が生じることもある。血漿カルシウム濃度が7mg/dL未満(1.75mmol/L未満)の重度低カルシウム血症は,テタニー,喉頭痙攣,全身性痙攣を引き起こす恐れがある。

テタニーは重度低カルシウム血症に起因することを特徴とするが,重度アルカローシスでみられるように,目立った低カルシウム血症を伴わずに血漿カルシウムのイオン化画分が減少して生じる場合もある。テタニーは,口唇,舌,手指,足の感覚異常からなる感覚症状,遷延し有痛性の場合もある手足の痙攣,全身性の筋肉痛,および顔面筋の痙攣を特徴とする。テタニーは顕在性で症状が突発することもあれば,潜伏性で誘発試験を必要とすることもある。潜伏性テタニーは,一般にさほど重度ではない血漿カルシウム低値でも生じる:その場合の濃度は7〜8mg/dL(1.75〜2.20mmol/L)である。

クボステック徴候およびトルソー徴候はベッドサイドで容易に誘発され,潜伏性テタニーが確認できる。クボステック徴候とは,外耳道の直前で顔面神経を軽く叩打すると誘発される顔面筋の不随意収縮である。これは健常者の10%以下,急性低カルシウム血症患者の大半に認められるが,慢性低カルシウム血症患者ではしばしば存在しない。トルソー徴候とは手の痙縮が促進されることで,止血帯または収縮期血圧を20mmHg上回るように膨らませた血圧測定用カフで前腕を3分間加圧して手への血液供給を抑えることで誘発される。トルソー徴候はアルカローシス,低マグネシウム血症,低カリウム血症,高カリウム血症でもみられ,電解質異常が確認できない者でも約6%に生じる。

重度低カルシウム血症患者では不整脈または心ブロックがときに出現する。低カルシウム血症の心電図は,典型的にはQTcおよびST間隔の延長を示す。T波の増高または陰転といった再分極の変化も起こる。

慢性低カルシウム血症に伴って,乾燥した鱗状の皮膚,割れやすい爪,硬い毛髪など,その他多数の異常が認められる。カンジダ感染は低カルシウム血症でも時折みられるが,最も一般的には特発性副甲状腺機能低下症患者で生じる。低カルシウム血症が遷延するとときに白内障が起こり,これは血漿カルシウムを是正しても改善しない。

診断

総血漿カルシウム濃度が8.8mg/dL未満(2.20mmol/L未満)であれば低カルシウム血症と診断される。しかし,血漿蛋白濃度の低下によって血漿中の総カルシウム濃度は低下するがイオン化カルシウム濃度は低下しないので,イオン化カルシウムはアルブミン濃度に基づいて推定すべきである( 水分と電解質代謝: イオン化カルシウム濃度の推定を参照 囲み解説 1: 囲み解説)。イオン化カルシウム低値が疑われれば,総血漿カルシウム値が基準範囲内であっても直接測定が必須となる。低カルシウム血症患者では,腎機能(例,BUN,クレアチニン),血清PO4,マグネシウム,アルカリホスファターゼを測定すべきである。

囲み解説 1

イオン化カルシウム濃度の推定

イオン化カルシウム濃度はルーチンの臨床検査から推定でき,通常は精度も妥当である。アシドーシスでは蛋白結合の減少によってイオン化カルシウムが増加する一方,アルカローシスではイオン化カルシウムは減少する。低アルブミン血症では,主に蛋白結合カルシウムの低値を反映して血漿カルシウムの測定値はしばしば低くなるが,イオン化カルシウムは基準範囲内の場合もある。血漿総カルシウムの測定濃度は,アルブミンが1g/dL低下または上昇する毎に約0.8mg/dL(0.20mmol/L)低下または上昇する。したがって,アルブミン濃度が2.0g/dL(基準値4.0g/dL)であれば,それだけで血漿カルシウムの測定値は1.6mg/dL低下するはずである。同様に,多発性骨髄腫にみられるような血漿蛋白の増加は血漿総カルシウム濃度を上昇させうる。

低カルシウム血症に明らかな原因(例,アルカローシス,腎不全,または大量輸血)がなければ,さらなる検査が必要となる。インタクトPTHの濃度を測定すべきである。低カルシウム血症はPTH分泌の主要な刺激因子なので,低カルシウム血症ではPTH値は上昇するはずである。したがって,PTHが低値,または基準下限値であっても不適切であり,副甲状腺機能低下症が示唆される。PTHが検出不能な濃度であれば,特発性副甲状腺機能低下症が示唆される。副甲状腺機能低下症は,血漿カルシウムが低値,血漿PO4が高値,アルカリホスファターゼが基準範囲内であることを特徴とする。血漿PO4濃度の上昇を伴う低カルシウム血症は腎不全を示唆する。

Ⅰ型偽性副甲状腺機能低下症は,血中PTH濃度が基準範囲内または高値であるにもかかわらず低カルシウム血症が存在することによって鑑別できる。血中PTH濃度が高値であるが,尿中にcAMPおよびPO4は認められない。副甲状腺抽出物または組み換えヒトPTHを注射して行う誘発試験では,血漿中または尿中のcAMP濃度は上昇しない。Ⅰa型偽性副甲状腺機能低下症患者は低身長および第1,4,5中手骨の短縮といった骨格異常もしばしば呈する。Ⅰb型患者には,腎症状はあるが骨格異常はない。

Ⅱ型偽性副甲状腺機能低下症では,外因性PTHは尿中cAMP濃度を上昇させるが,リン酸尿の誘発や血漿カルシウム濃度の上昇は起こさない。Ⅱ型偽性副甲状腺機能低下症と診断する前に,ビタミンD欠乏症を除外しなければならない。

骨軟化症またはくる病では,X線上に典型的な骨格異常が認められることがある(ビタミンの欠乏症,依存症,および中毒症: 診断を参照 )。血漿PO4濃度はしばしば軽度に低下し,骨からのカルシウム動員の増加を反映してアルカリホスファターゼが上昇する。血漿中の25(OH)Dおよび1,25(OH)2Dの測定が,ビタミンD欠乏症とビタミンD依存状態との鑑別に役立つことがある。家族性低リン酸血症性くる病は,随伴する腎臓からのPO4喪失によって認識される。

治療

テタニーには,グルコン酸カルシウムの10%溶液10mLを10分かけて静注する。反応は劇的であるが,わずか数時間しか持続しないと考えられる。反復投与を行うか,10%グルコン酸カルシウム20〜30mLを5%ブドウ糖液1Lに溶解して,続く12〜24時間かけて持続的に追加注入する必要が生じるであろう。カルシウム注入は,ジゴキシンを投与されている患者では危険なので緩徐に行い,持続的に心電図モニタリングを行うべきである。テタニーに低マグネシウム血症が付随するときは,カルシウムまたはカリウムの投与に一過性に反応することもあるが,恒久的な改善にはマグネシウムを補充するしかない(水分と電解質代謝: 治療を参照 )。

甲状腺摘出術後または副甲状腺部分摘出術後の一過性の副甲状腺機能低下症には,カルシウムを経口補給すれば十分な場合もある。しかし,慢性腎不全患者または末期腎疾患患者における副甲状腺亜全摘術後の低カルシウム血症は,特に重度で遷延する可能性がある。術後にカルシウムの長期非経口投与が必要となる場合がある;経口のカルシウムおよびビタミンDで十分となるまで,1g/日ものカルシウム元素の補給を5〜10日間要することがある。このような状況における血漿アルカリホスファターゼ高値は,カルシウムが骨に迅速に取り込まれている徴候であると考えられる。大量の非経口カルシウムは,通常はアルカリホスファターゼ濃度が低下し始めるまで必要である。

慢性低カルシウム血症には,カルシウムや,ときにビタミンDを経口で補給すれば通常は十分である。カルシウムはグルコン酸カルシウム(1g当たりカルシウム元素90mg)または炭酸カルシウム(1g当たりカルシウム元素400mg)として投与でき,これによってカルシウム元素1〜2g/日が供給される。いずれのビタミンD製剤も十分に働くが,合成カルシトリオール[1,25(OH)2D]などの1-ヒドロキシル化合物や,ジヒドロタキステロールなどの偽性1-ヒドロキシル化アナログは,作用の発現も体内からの排泄もより迅速である。カルシトリオールは腎臓での代謝変換を必要としないので,腎不全で特に有用である。副甲状腺機能低下症患者は通常0.5〜2μg/日の経口カルシトリオールに反応する。偽性副甲状腺機能低下症はときにカルシウムの経口補給のみで管理できる。カルシトリオールの効果を得るには1〜3μg/日が必要である。

カルシウム(カルシウム元素1〜2g/日)およびPO4水分と電解質代謝: 治療を参照 )が食事やサプリメントから十分に補給されない限りビタミンD療法は無効である。重度の症候性高カルシウム血症を伴うビタミンD中毒が,ビタミンDアナログによる治療の深刻な合併症となることがある。血漿カルシウム濃度の監視を当初は毎週,カルシウム濃度安定後は1〜3カ月間隔で実施すべきである。通常,カルシトリオールやジヒドロタキステロールの維持量は時間とともに減少する。

ビタミンD欠乏症によるくる病は,わずか10 μg(400IU/日)のビタミンD(ビタミンD2またはD3として)に反応する;骨軟化症があれば,125μg/日(5000IU/日)のビタミンDを6〜12週間投与して,その後10μg/日(400IU/日)に減じる。治療初期には2g/日のカルシウムの追加が望ましい。日光暴露不足によるくる病または骨軟化症の患者では,日光暴露の増加や紫外線ランプによる治療が必要な全てであると考えられる。

Ⅰ型ビタミンD依存性くる病はカルシトリオール0.25〜1.0μg/日の経口投与に反応する。Ⅱ型ビタミンD依存性くる病患者は,いかなる種類のビタミンDにも反応しない(遺伝性1,25(OH)2D抵抗性がより理解しやすい用語として提案されている)。治療は骨病変および低カルシウム血症の重症度による。重症例では,最大6μg/kg体重,または総量で30〜60μg/日のカルシトリオールを最大3g/日のカルシウム元素と併用する必要がある。ビタミンD治療には血漿カルシウム濃度のモニタリングが必要である;高カルシウム血症が生じることもあるが,これは一般にビタミンDの用量調節に迅速に反応する。

高カルシウム血症

高カルシウム血症とは,総血漿カルシウム濃度が10.4mg/dL(2.60mmol/L)を上回るか,または血漿イオン化カルシウム濃度が5.2mg/dL(1.30mmol/L)を上回ることである。主な原因は副甲状腺機能亢進症,ビタミンD中毒,癌である。臨床像には多尿,便秘,筋力低下,錯乱,昏睡がある。診断は,イオン化カルシウムおよび副甲状腺ホルモンの血漿濃度によって行う。カルシウムの排泄を増加し骨のカルシウム吸収を抑制する治療には,生理食塩水,ナトリウム利尿,パミドロン酸などの薬物を用いる。

病因と病態生理

高カルシウム血症は通常は過剰な骨吸収に起因する。高カルシウム血症の主な原因をここに列挙し, 水分と電解質代謝: 高カルシウム血症の主要原因表 7: 表にも示す。

表 7

高カルシウム血症の主要原因

骨吸収過剰によるもの

骨転移を伴う癌:特に固形癌,白血病,リンパ腫,多発性骨髄腫

甲状腺機能亢進症

悪性腫瘍の体液性高カルシウム血症,すなわち骨転移を伴わない癌の高カルシウム血症

長期臥床:特に発育中の若年者,整形外科のギプスおよび/または牽引治療を受けている患者,骨パジェット病患者;骨粗鬆症,対麻痺,および四肢麻痺の高齢者にもみられる

副甲状腺ホルモン過剰:原発性副甲状腺機能亢進症,副甲状腺癌,家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症,進行した二次性副甲状腺機能亢進症

ビタミンD中毒;ビタミンA中毒

消化管からの過剰なカルシウムの吸収および/または取り込みによるもの

ミルク-アルカリ症候群

サルコイドーシスおよびその他の肉芽腫性疾患

ビタミンD中毒

血漿蛋白濃度の上昇によるもの

機序の不明なもの

アルミニウム誘発性骨軟化症

乳児の高カルシウム血症

リチウム中毒,テオフィリン中毒

粘液水腫,アジソン病,クッシング病の術後

神経遮断薬性悪性症候群

サイアザイド系利尿薬による治療

測定時のアーチファクト

汚染されたガラス製品に対する血液暴露

採血時の静脈うっ滞遷延

原発性副甲状腺機能亢進症は,1つまたはそれ以上の副甲状腺による副甲状腺ホルモン(PTH)の過剰分泌に起因する全身疾患である。これは恐らく,高カルシウム血症の最も一般的な原因である。発生頻度は年齢とともに上昇し,閉経後女性ではさらに高い。頸部放射線照射後30年以上経過した場合にも高い頻度で生じる。家族性および散発性の病型がある。家族性の副甲状腺腫によるものは,他の内分泌腫瘍を有する患者に生じる(多発内分泌腫瘍症候群を参照 )。原発性副甲状腺機能亢進症は,低リン酸血症および過度の骨吸収を引き起こす。無症候性高カルシウム血症が最も頻度の高い初発所見であるが,特に長期にわたる高カルシウム血症によって高カルシウム尿症が起きているときには腎結石症も多くみられる。組織学的検査では,原発性副甲状腺機能亢進症患者の約90%で副甲状腺腺腫が明らかにされるが,腺腫と正常腺との鑑別はときに困難である。症例の約7%が,2腺以上の過形成によるものである。副甲状腺癌は症例の3%に発生する。

家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症症候群(FHH)は,常染色体優性遺伝形質として遺伝する。大半の症例ではカルシウム感知受容体遺伝子の不活性化変異が関与しており,PTH分泌の阻害に必要なだけの血漿カルシウム濃度の上昇が生じる。その結果PTHが分泌されてリン酸(PO4)排泄が誘発される。持続性高カルシウム血症(通常は無症候性)がしばしば若い頃から発症し,基準範囲内またはやや高値を示すPTH,低カルシウム尿症,および高マグネシウム血症も認められる。腎機能は正常で,腎結石症はまれである。しかし,重度の膵炎がときに生じる。この症候群は副甲状腺過形成と関連があり,副甲状腺亜全摘術によって緩和されるものではない。

二次性副甲状腺機能亢進症は,腎不全または腸管吸収不良症候群などの病態に起因する長期の低カルシウム血症がPTHの分泌増加を刺激したときに生じる。高カルシウム血症が起こることもあれば,頻度は低いがカルシウム濃度は基準範囲内のこともある。副甲状腺のカルシウム感受性は,著明な腺過形成およびカルシウム設定値(すなわち,PTH分泌を減少させるために必要なカルシウム量)の上昇によって弱められている可能性がある。

三次性副甲状腺機能亢進症では,自律的なPTH分泌過剰が血漿カルシウム濃度にかかわらず引き起こされる。三次性副甲状腺機能亢進症は一般に,数年間経過する末期腎不全の患者のように,二次性副甲状腺機能亢進症が長期間存在する患者に生じる。

入院患者では,癌が高カルシウム血症の一般的な原因である。いくつかの機序があるが,骨吸収の結果として最終的に血漿カルシウムの上昇が生じる。癌の体液性高カルシウム血症(すなわち,骨転移を伴わない,またはごく軽微な骨転移を伴う高カルシウム血症)は,扁平上皮癌,腎細胞癌,乳癌,前立腺癌,および卵巣癌に付随して一般的に生じる。癌による体液性高カルシウム血症を伴う症例の多くは,以前はPTHの異所性産生が原因とされていた。しかし,これらの腫瘍の一部は,骨および腎臓の両方のPTH受容体に結合して破骨細胞性骨吸収など多くのPTH類似作用をもたらすPTH関連ペプチドを分泌する。造血器癌(骨髄腫が最も多いが,ある種のリンパ腫やリンパ肉腫も含む)は,破骨細胞を刺激して骨を再吸収させる一群のサイトカインの産生を介して高カルシウム血症を引き起こし,骨溶解性病変および/またはびまん性骨減少をもたらす。高カルシウム血症は,破骨細胞を活性化するサイトカインまたはプロスタグランジンの局所産生および/または転移性腫瘍細胞による直接的な骨吸収に起因すると考えられる。

内因性ビタミンD[1,25(OH)2D]高値も別の原因として考えられる。充実性腫瘍を有する患者の大半では血漿濃度は低いが,リンパ腫患者ではときに高値となる。薬理学的用量の外因性ビタミンDは,過度の骨吸収,および腸管からのカルシウム吸収増加をもたらし,高カルシウム血症や高カルシウム尿症を引き起こす(ビタミンの欠乏症,依存症,および中毒症: ビタミンD中毒症を参照 )。

サルコイドーシス,結核,ハンセン病,ベリリウム中毒,ヒストプラスマ症,コクシジオイデス症などの肉芽腫性疾患は,高カルシウム血症や高カルシウム尿症につながる。サルコイドーシスでの高カルシウム血症および高カルシウム尿症は,25(OH)Dから1,25(OH)2Dへの変換が調節されないことが原因とみられ,恐らくはサルコイド肉芽腫内の単核細胞に発現する1-α-水酸化酵素による。同様に,結核および珪肺症を有する高カルシウム血症患者の血漿1,25(OH)2D高値が報告されている。高カルシウム血症およびハンセン病を呈する患者の一部には1,25(OH)2D低値がみられるので,場合によっては別の機序が高カルシウム血症の原因となっているはずである。

長期臥床,特にリスクのある患者の長期床上絶対安静(水分と電解質代謝: 高カルシウム血症の主要原因表 7: 表参照)が,骨吸収の加速による高カルシウム血症をもたらす可能性がある。高カルシウム血症は,床上安静開始後数日から数週間で発症する。体重負荷がかかる状態に戻れば高カルシウム血症は迅速に回復する。特に骨ページェット病患者は床上安静時に高カルシウム血症を起こしやすい。

乳児期の特発性高カルシウム血症(染色体異常: 隣接遺伝子症候群の例を参照 表 1: 表)はきわめてまれな散発性の障害で,顔面形成異常,心血管異常,腎血管性高血圧症,高カルシウム血症を伴う。PTHおよびビタミンDの代謝は正常であるが,カルシウム注入に対するカルシトニンの反応が異常なことがある。

ミルク-アルカリ症候群では,通常,炭酸カルシウム制酸薬を用いた消化不良の自己治療または骨粗鬆症予防の目的で過剰量のカルシウムおよび吸収性アルカリ剤が摂取され,高カルシウム血症,代謝性アルカローシス,腎機能不全が生じる。消化性潰瘍および骨粗鬆症に有効な薬物が市販されるようになり,本症候群の発生頻度は大幅に低下した。

症状と徴候

軽度高カルシウム血症では患者の多くが無症状である。この病態はしばしばルーチンの臨床検査スクリーニングで発見される。高カルシウム血症の臨床症状には,便秘,食欲不振,悪心・嘔吐,腹痛,腸閉塞がある。腎濃縮機構の障害は多尿,夜間多尿,多飲につながる。血漿カルシウム濃度が12mg/dL(3.00mmol/L)を上回ると,情緒不安定,錯乱,せん妄,精神病,昏迷,昏睡を引き起こす。神経筋症状には骨格筋の筋力低下がある。腎結石症を伴う高カルシウム尿症が一般的にみられる。頻度は低いが,遷延性または重度の高カルシウム血症は腎石灰沈着(腎実質内のカルシウム塩沈着)により可逆的な急性腎不全や不可逆的な腎障害をもたらす。消化性潰瘍および膵炎が副甲状腺機能亢進症患者に生じることがあり,この理由は高カルシウム血症とは無関係である。

重度の高カルシウム血症は,心電図でQTc間隔の短縮を引き起こし,特にジゴキシン服用患者では不整脈が生じることがある。18mg/dL(4.50mmol/L)を上回る高カルシウム血症では,ショックや腎不全が生じる場合があり,死に至ることもある。

診断

高カルシウム血症は,血漿総カルシウム濃度が10.4mg/dL(2.60mmol/L)を上回るか,または血漿イオン化カルシウム濃度が5.2mg/dL(1.30mmol/L)を上回ることで診断される。血漿カルシウムは人為的原因で高値となりうる(水分と電解質代謝: 高カルシウム血症の主要原因表 7: 表を参照)。高カルシウム血症は血清蛋白低値によって見逃される可能性もある;蛋白質およびアルブミンが異常であるか,またはイオン化カルシウム高値が臨床的に疑われるならば(例,高カルシウム血症の症状がある場合),血漿イオン化カルシウム濃度を測定すべきである。

原因は,95%以上の患者では病歴や臨床所見から明らかである。初回評価では,病歴,特に過去の血漿カルシウム濃度の見直し,身体診察,胸部X線,ならびに電解質,BUN,クレアチニン,イオン化カルシウム,PO4,アルカリホスファターゼ,および血清蛋白免疫電気泳動を含む臨床検査を実施すべきである。この評価で高カルシウム血症の明らかな原因がみつからない患者では,インタクトPTHおよび24時間尿中カルシウムを測定すべきである。

無症候性高カルシウム血症が長年存在する,または複数の親族に存在するならばFHHである可能性が高い。原発性副甲状腺機能亢進症は一般に中年期以降に認められるが,症状出現の数年前から存在する可能性がある。明らかな原因がない場合に,血漿カルシウム濃度が11mg/dL(2.75mmol/L)未満であれば副甲状腺機能亢進症またはその他の非悪性の原因が示唆されるが,13mg/dL(3.25mmol/L)を上回れば癌が示唆される。

胸部X線は特に有用であり,結核,サルコイドーシス,珪肺症など大半の肉芽腫性疾患のほか,原発性肺癌や,肩,肋骨,胸椎の骨溶解性病変および骨パジェット病病変を明らかにする。

X線像には二次性副甲状腺機能亢進症の骨への影響も現われ,これは長期透析患者で最も一般的である。線維性嚢胞性骨炎(しばしば原発性副甲状腺機能亢進症を原因とする)では,PTHによる過剰刺激によって破骨細胞活性が亢進し,線維性変性,嚢胞形成,および線維性結節形成を伴う骨希薄化を引き起こす。特徴的な骨病変は比較的進行した疾患にのみ認められるので,無症状の患者にはX線検査は推奨されない。X線検査では典型的に骨嚢胞,頭蓋骨の不均一な外観,指節骨や遠位鎖骨の骨膜下骨吸収が認められる。

高カルシウム血症の原因の診断はしばしば臨床検査に依存する。

副甲状腺機能亢進症では,血漿カルシウム濃度が12mg/dL(3.00mmol/L)を上回ることはまれであるが,血漿イオン化カルシウム濃度はほぼ常に高値を示す。血漿PO4濃度が低値であれば副甲状腺機能亢進症が示唆され,特に腎臓からのPO4排泄増加を併発するときにいえる。副甲状腺機能亢進症によって骨代謝回転が亢進すると,血漿アルカリホスファターゼはしばしば上昇する。インタクトPTHの上昇,特に不適合な(すなわち,低カルシウム血症不在下での)上昇によって診断が確定する。内分泌腫瘍の家族歴,小児期の頸部放射線照射,またはその他の明らかな原因がなければ,原発性副甲状腺機能亢進症が示唆される。慢性腎疾患は二次性副甲状腺機能亢進症の存在を示唆するが,原発性副甲状腺機能亢進症も存在する可能性がある。慢性腎疾患患者で,血漿カルシウム濃度が高く血漿PO4濃度が基準範囲内であれば原発性副甲状腺機能亢進症が示唆されるが,PO4値が上昇していれば二次性副甲状腺機能亢進症が示唆される。

副甲状腺手術の前に副甲状腺組織の局在を確認する必要性については議論が続いている。高分解能CTスキャン(CTガイド下生検および甲状腺静脈潅流路血の免疫測定法を併用,または非併用),MRI,高分解能超音波検査,デジタルサブトラクション血管造影,ならびにタリウム201-テクネチウム99スキャンのいずれもが使用されてきておりきわめて正確であるが,熟練した外科医が執刀する副甲状腺摘出術の治癒率は通常高く,これらの検査によって改善されてはいない。副甲状腺イメージング用の放射標識診断薬であるテクネチウム99セスタミビは,これまでの物質よりも高い感度および特異度を有し,孤発性腺腫の同定に有用となりうる。

副甲状腺の初回手術後に副甲状腺機能亢進症が残存または再発した場合には画像診断が必要であり,頸部から縦隔の全域の通常とは異なる部位で機能異常を来した副甲状腺が明らかにされることがある。テクネチウム99セスタミビは恐らく最も感度の高い画像検査法である。副甲状腺摘出術を再度実施する前に複数の画像検査(テクネチウム99セスタミビに加えて,MRI,CT,または高分解能超音波法)を用いる必要がときに生じる。

血漿カルシウム濃度が12mg/dL(3.00mmol/L)を上回るならば,副甲状腺機能亢進症よりもむしろ腫瘍や高カルシウム血症のその他の原因が示唆される。癌の体液性高カルシウム血症ではしばしば,PTHは低値または検出不能でPO4も低値を示す;代謝性アルカローシス,低塩素血症,低アルブミン血症がしばしば認められる。PTHの低値によって,これは原発性副甲状腺機能亢進症と鑑別される。また,癌の体液性高カルシウム血症は血漿中にPTH関連ペプチドが検出される場合にも診断できる。

貧血,尿毒症,および高カルシウム血症が同時に認められれば骨髄腫が示唆される。骨髄腫は骨髄検査または単クローン性免疫グロブリン血症の存在によって確定する。

骨ページェット病が疑われるならば,まずは単純X線検査を実施する(骨ページェット病を参照 )。

FHH,サイアザイド療法,腎不全,およびミルク-アルカリ症候群は,高カルシウム尿症を伴わない高カルシウム血症をもたらす。FHHは,若年で発症する,しばしば高マグネシウム血症が生じ,および他の親族に高カルシウム尿症を伴わない高カルシウム血症が存在するという点で,原発性副甲状腺機能亢進症と鑑別される。カルシウムの尿中排泄率(クレアチニンクリアランスに対するカルシウムクリアランスの比)は,FHHでは低く(<1%),原発性副甲状腺機能亢進症ではほぼ常に高い(1〜4%)。インタクトPTHは,恐らくは副甲状腺のフィードバック調節の変化を反映して高値または基準範囲内となる。

カルシウム制酸薬過剰摂取の既往に加えて,高カルシウム血症や代謝性アルカローシス,ときに低カルシウム尿症を伴う尿毒症を合併していることで,ミルク-アルカリ症候群は認識される。カルシウムおよびアルカリの摂取を停止したときに血漿カルシウム濃度が基準範囲内に迅速に回復すれば診断は確定するが,腎石灰化症が存在すれば腎不全は持続する場合もある。循環血液中のPTHは通常抑制されている。

サルコイドーシスやその他の肉芽腫性疾患,一部のリンパ腫による高カルシウム血症では,1,25(OH)2Dの血漿濃度が高値を示すことがある。ビタミンD中毒も1,25(OH)2D高値を特徴とする。甲状腺中毒症やアジソン病など,高カルシウム血症が他の内分泌疾患を原因とするときは,基礎疾患の典型的な臨床検査所見が診断確定を助ける。

治療

血漿カルシウムを低下させる方策は主として4つある:これは,腸管からのカルシウム吸収の抑制,カルシウムの尿中排泄の増加,骨吸収の抑制,透析による過剰なカルシウムの除去である。使用される治療法は高カルシウム血症の程度と原因の両方による。

軽度高カルシウム血症(血漿カルシウム濃度<11.5mg/dL[<2.88mmol/L])で症状が軽いときには,確定診断まで治療を延期する。診断後に基礎にある原因を治療する。症状が顕著であれば,血漿カルシウム濃度の低下を目的とした治療が必要である。経口PO4を用いてもよい。これは食事とともに服用すると一部のカルシウムと結合して吸収が妨げられる。開始量はPO4元素250mg(ナトリウム塩またはカリウム塩として),1日4回とする。下痢が生じない限り,必要に応じて500mg,1日4回まで増量してもよい。別の治療に,等張生理食塩水およびループ利尿薬を投与して尿中カルシウム排泄を増加させる方法がある。ほぼ全ての重度高カルシウム血症患者で循環血液量は低下しているので,深刻な心不全がない限りまずは生理食塩水1〜2Lを2〜4時間かけて投与する。約250mL/時の尿量を維持する(1時間毎にモニター)ために,必要に応じてフロセミド20〜40mgを2〜4時間毎に静注する。体液喪失を回避するよう注意を怠ってはならない。低カリウム血症および低マグネシウム血症を回避するために,治療中は4時間毎にカリウムやマグネシウムを監視し,必要に応じて静脈内投与で補充する。2〜4時間で血漿カルシウム濃度は低下しだし,24時間以内にほぼ基準範囲まで下がる。

中等度高カルシウム血症(血漿カルシウム濃度が11.5mg/dL[2.88mmol/L]を上回るが18mg/dL[4.51mmol/L]未満である)は,前述のように等張生理食塩水やループ利尿薬で治療するか,原因によっては骨吸収を抑える薬物(通常はカルシトニン,ビスホスホネート,もしくは頻度は低いがプリカマイシンや硝酸ガリウム),コルチコステロイド,またはクロロキンを用いて治療する。

カルシトニン(サイロカルシトニン)は,正常では高カルシウム血症に反応して甲状腺のC細胞から分泌される速効性ペプチドホルモンである。カルシトニンは,破骨細胞活性を阻害することによって血漿カルシウム濃度を低下させると推定される。用量4〜8IU/kgのサケカルシトニンを12時間毎に皮下投与する方法が安全である。作用時間が短く,タキフィラキシーが起こり,患者の40%以上では反応が見られないことから,癌による高カルシウム血症の治療におけるその有用性は限られている。しかし,サケカルシトニンおよびプレドニゾンの併用によって,一部の癌患者では数カ月間にわたって血漿カルシウム濃度を制御できる場合がある。カルシトニンが作用しなくなったならば,2日間中止してから(その間プレドニゾンは継続)再開する。

ビスホスホネート類は破骨細胞を抑制する。これらは通常,癌による高カルシウム血症の治療選択薬である。ページェット病および癌による高カルシウム血症の治療には,エチドロン酸7.5mg/kg,1日1回を3〜5日間にわたって静注する。20mg/kg,1日1回経口による維持も行われる。癌による高カルシウム血症には1回量を30〜90mgとしてパミドロン酸を静注することもあり,再投与は7日後以降にのみ行う。これは血漿カルシウム濃度を最大2週間低下させる。ゾレドロネートも4〜8mgを静注する場合があり,平均で40日間を上回る期間にわたって血漿カルシウム濃度を低下させる。カルシウムを基準範囲内に維持するために,経口ビスホスホネート類(アレンドロネートまたはリセドロネート)を投与することがある。

癌による高カルシウム血症患者には,5%ブドウ糖液50mLに溶解したプリカマイシン25μg/kg,1日1回を4〜6時間かけて静注する方法も有効であるが,他の治療の方が安全なので使用されることはまれである。硝酸ガリウムも癌による高カルシウム血症に有効であるが,腎毒性があり,臨床的に使用された経験が限られているという理由でまれにしか使用されない。

ビタミンD中毒,乳児の特発性高カルシウム血症,およびサルコイドーシスを有する患者の大半では,コルチコステロイド類(例,プレドニゾン20〜40mg,1日1回経口)の追加によってカルシトリオールの産生,ひいてはカルシウムの腸管吸収が抑えられ,高カルシウム血症を効果的に制御できる。骨髄腫,リンパ腫,白血病,または転移癌の患者の一部では,プレドニゾン40〜60mg,1日1回が必要となる。しかし,このような患者のうち50%を上回る者がコルチコステロイド類に反応せず,反応がみられるときでも数日を要することから,通常は他の治療が必要になる。

リン酸クロロキン500mg,1日1回を経口投与すると,1,25(OH)2D合成が阻害されてサルコイドーシス患者の血漿カルシウム濃度が低下する。用量依存性の網膜傷害を検出するためにルーチンの眼科検査(例,網膜検査を6〜12カ月毎)を必ず実施する。

重度高カルシウム血症(血漿カルシウム濃度>18mg/dL[>4.50mmol/L]または重度の症状を伴う)には,上述の治療に加えて低カルシウム透析液による血液透析が必要になる場合がある。腎不全患者の重度高カルシウム血症の是正に完全に満足のいく方法はないが,血液透析が恐らくは最も安全で信頼できる短期治療である。

PO4(リン酸二ナトリウムPO4またはリン酸一カリウムPO4)静注は,高カルシウム血症が生命を脅かすもので他の方法に応答しないとき,および短期血液透析が不可能なときにのみ用いるべきである。24時間に1gを超えて静注すべきではなく,通常は2日間で1〜2回投与すれば血漿カルシウム濃度は10〜15日間低下する。軟部組織石灰化および急性腎不全が生じることがある。硫酸ナトリウムの静注は,PO4の注入よりも危険で効果は小さいので使用すべきではない。

腎不全患者の副甲状腺機能亢進症の治療では,食事からのPO4摂取制限と,炭酸カルシウムまたはセベラマーなどのPO4結合薬を併用して,高リン酸血症や転移性石灰化を予防する。腎不全,特に長期透析患者では,重度の骨軟化症を来す骨への蓄積を予防するためにアルミニウム含有化合物を避けるべきである。PO4結合薬を使用しても食事からのPO4摂取制限は必要となる。腎不全ではビタミンDの投与が有害となる恐れがあり,カルシウムおよびPO4の頻繁なモニタリングが必要である。治療は,(アルミニウムと無関係な)症候性骨軟化症,二次性副甲状腺機能亢進症,または副甲状腺摘出術後の低カルシウム血症の患者に限定すべきである。二次性副甲状腺機能亢進症を抑制するために経口カルシトリオールが経口カルシウムとともにしばしば投与されるが,末期腎疾患患者での成績は様々である。非経口用のカルシトリオール,またはパリカルシトールなどのビタミンDアナログの方がこのような患者の二次性副甲状腺亢進症の予防に優れており,これはより高い血漿濃度の1,25(OH)2DがPTHの放出を直接抑制するからである。透析患者のビタミンD療法には血清カルシウム濃度高値がしばしば合併する。単純性骨軟化症は経口カルシトリオール0.25〜0.5μg/日に反応することもあるが,副甲状腺摘出術後の低カルシウム血症の是正には2 μg/日のカルシトリオールおよび2g/日以上のカルシウム元素を長期投与する必要が生じうる。カルシウム模倣薬シナカルセットは,血清カルシウムの上昇を伴わない透析患者のPTH濃度を低下させる新しい種類の薬物である。アルミニウムに起因する骨軟化症は,アルミニウムを含有するPO4結合薬を大量に服用してきた透析患者に通常は生じる。このような患者では,カルシトリオールによって骨病変が改善する前にデフェロキサミンによるアルミニウムの除去が必要である。

症候性または進行性の副甲状腺機能亢進症は外科的に治療する。腺腫様の副甲状腺は切除する。再手術時の外科的探索で副甲状腺の局在を確認することは典型的に困難なので,残存する副甲状腺組織も一般には切除する。術後の副甲状腺機能低下症を予防するために,正常とみられる副甲状腺の小片を通常は胸鎖乳突筋腹や前腕皮下に移植する。持続性副甲状腺機能低下症が発症した場合に後日自家移植ができるように,副甲状腺組織の凍結保存もときに実施される。

軽度の原発性副甲状腺機能亢進症患者の手術適応については議論がある。NIH Workshop on Asymptomatic Primary Hyperparathy-roidismの2002年概要書では,手術適応として下記が挙げられている:血漿カルシウム濃度が基準上限を1mg/dL(0.25mmol/L)よりも上回る;400mg/日(10mmol/日)を上回るカルシウム尿が認められる;クレアチニンクリアランスが同年齢の対照者の値の30%未満である;股関節,腰椎,または橈骨の最大骨密度が対照者よりも2.5標準偏差低い(Tスコア= 2.5);年齢が50歳未満である;追跡調査のコンプライアンス不良が見込まれる。手術が実施されないのであれば,患者は活動性を維持し(すなわち,高カルシウム血症を増悪させうる長期臥床を回避し),低カルシウム食を摂り,水分を大量に摂取して腎結石症の発生する可能性を最小限とし,サイアザイド系利尿薬など血漿カルシウム濃度を上昇させうる薬物を避けるべきである。血漿カルシウム濃度および腎機能を6カ月毎に監視する。骨密度は12カ月毎に監視する。

手術適応のない無症候性原発性副甲状腺機能亢進症患者は保存的に治療するが,潜在性骨病変,高血圧,および寿命に関する懸念が残る。FHHは組織学的に異常な副甲状腺組織に起因するが,副甲状腺亜全摘術に対する反応は満足のいくものではない。顕性の臨床症状はまれなので,薬物療法をときに実施すれば通常は十分である。

副甲状腺機能亢進症が軽度であれば,血漿カルシウム濃度は術後24〜48時間以内に基準範囲の直下まで低下する;血漿カルシウム濃度は監視されなければならない。重度の嚢胞性線維性骨炎患者では,術前の数日間にカルシウム元素10〜20gが投与されない限りは遷延性で症候性の低カルシウム血症が術後に生じうる。術前にカルシウムを投与しても,骨カルシウムが不足している間は大量のカルシウムやビタミンDが必要になる可能性がある(水分と電解質代謝: 治療を参照 )。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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