メルクマニュアル18版 日本語版
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代謝性アシドーシス

代謝性アシドーシスは一次性のHCO3 -の低下であり,典型的には代償性のPco2低下を伴う;pHは著明に低下するか,またはわずかに基準範囲を下回る。代謝性アシドーシスは,血清中の未測定陰イオンの有無に基づいて高アニオンギャップまたは正常アニオンギャップに分類される。原因は,ケトン体および乳酸の蓄積,腎不全,薬物または毒素の摂取(高アニオンギャップ),消化管や腎からのHCO3 -喪失(正常アニオンギャップ)である。重症例の症状および徴候は,悪心・嘔吐,嗜眠,過呼吸である。診断は臨床的に行い,ABGや血清電解質も用いる。基礎にある原因を治療し,pHがきわめて低いときにはNaHCO3の静注が適応になることがある。

病因と病態生理

代謝性アシドーシスは,酸の産生や摂取の増加,酸排泄の低下,または消化管や腎臓からのHCO3 -喪失によって引き起こされる酸の蓄積である。酸負荷が呼吸性代償を上回ると酸性血症(動脈血pHが7.35未満)がもたらされる。原因はアニオンギャップに及ぼす影響によって分類される(酸-塩基の調節と障害: アニオンギャップを参照 囲み解説 1: 囲み解説および酸-塩基の調節と障害: 代謝性アシドーシスの原因表 3: 表を参照)。

表 3

代謝性アシドーシスの原因

高アニオンギャップ

ケトアシドーシス(糖尿病,慢性アルコール中毒,栄養不良,絶食)

乳酸アシドーシス

腎不全

代謝されて酸になる毒素

メタノール(ギ酸塩)

エチレングリコール(シュウ酸塩)

パラアルデヒド(酢酸塩,クロロ酢酸塩)

サリチル酸塩

乳酸アシドーシスを引き起こす毒素

CO2

シアン化物

イソニアジド

トルエン(初期には高ギャップ,続く代謝産物の排泄がギャップを正常化)

横紋筋融解症(まれ)

正常アニオンギャップ(高塩素性アシドーシス)

消化管からのHCO3 -喪失(下痢,回腸瘻造設,結腸瘻造設,腸瘻,イオン交換樹脂の使用)

尿管S状結腸吻合,尿管回腸導管

腎臓からのHCO3 -喪失

尿細管間質性腎疾患

腎尿細管性アシドーシス,Ⅰ型,Ⅱ型,Ⅳ型

副甲状腺機能亢進症

アセタゾラミド,CaCl2,MgSO4の摂取

その他

低アルドステロン症

高カリウム血症

アルギニン,リジン,NH4Clの非経口注入

NaClの急速注入

トルエン(遅発性)

高アニオンギャップ性アシドーシス: 高アニオンギャップ性代謝性アシドーシスの最も一般的な原因は,ケトアシドーシス,乳酸アシドーシス(酸-塩基の調節と障害: 乳酸アシドーシスを参照 ),腎不全,および毒素摂取である。

ケトアシドーシスはⅠ型糖尿病の一般的な合併症であるが,慢性アルコール中毒,栄養不良,および程度は軽いが絶食でも生じる。これらの状態において,生体ではブドウ糖代謝から遊離脂肪酸(FFA)代謝への転換が行われ,FFAは肝臓でケト酸,アセト酢酸,およびβヒドロキシ酪酸へと変換される(全て未測定陰イオン)。ケトアシドーシスは,先天性のイソ吉草酸血症およびメチルマロン酸血症のまれな症状でもある。

腎不全は,酸排泄およびHCO3 再吸収の減少によって高アニオンギャップ性アシドーシスを引き起こす。硫酸塩,リン酸塩,尿酸塩,および馬尿酸塩の蓄積によって高アニオンギャップは説明できる。

毒素には,酸性代謝産物を生むものや乳酸アシドーシスを誘発するものがある。横紋筋融解症は代謝性アシドーシスをまれに引き起こし,陽子および陰イオンが筋肉から直接放出されることが原因と考えられている。

正常アニオンギャップ性アシドーシス: 正常アニオンギャップ性アシドーシスの最も一般的な原因は,消化管や腎臓からのHCO3 喪失および腎臓の酸排泄障害である。正常アニオンギャップ性代謝性アシドーシスは高塩素性アシドーシスとも呼ばれ,これは腎臓がナトリウムとともにHCO3 を再吸収する代わりにClを再吸収するからである。

多くの消化管分泌物はHCO3 - に富み(例,胆汁,膵液,腸液),下痢,チューブドレナージ,瘻孔からの喪失はアシドーシスを引き起こしうる。尿管S状結腸吻合(尿路閉塞または膀胱切除後に尿管をS状結腸に挿入する)では,尿のCl-と交換に結腸からHCO3 -が分泌,喪失されて尿のアンモニアが再吸収され,このアンモニアがNH3 +およびH+に分離する。イオン交換樹脂はHCO3 -に結合することでまれにHCO3 -喪失を引き起こす。

腎尿細管性アシドーシス(異常腎輸送症候群: 尿細管性アシドーシスを参照 )では,H+分泌(Ⅰ型およびⅣ型)またはHCO3 -吸収(Ⅱ型)のいずれかが障害される。酸排泄障害および正常アニオンギャップは腎不全初期,尿細管間質性腎疾患,および炭酸脱水酵素阻害薬(例,アセタゾラミド)摂取時にもみられる。

症状と徴候

症状および徴候(酸-塩基の調節と障害: 酸-塩基障害の臨床的影響表 2: 表を参照)は主に原因のそれである。軽度の酸性血症自体は無症候性である。より重症の酸性血症(pHが7.10未満)は悪心,嘔吐,および倦怠感を引き起こしうる。アシドーシスが急速に発生したならば,より高いpHで症状が生じる場合もある。最も特徴的な徴候は過呼吸(正常数の長く深い呼吸)であり,代償性の肺胞換気亢進を反映している。

重度の急性酸性血症では,低血圧およびショックを伴う心機能不全,心室性不整脈,ならびに昏睡が生じやすくなる。慢性酸性血症は骨の脱石灰化障害(くる病,骨軟化症,骨減少症)を引き起こす。

診断

代謝性アシドーシスおよび適切な呼吸性代償の認識については酸-塩基の調節と障害: 診断で考察されている。代謝性アシドーシスの原因解明は,アニオンギャップを用いることから始まる。

アニオンギャップ増加の原因が臨床的に明らかな場合もあるが(例,循環血液量減少性ショック,血液透析の未実施),そうでなければ血液検査に血糖,BUN,クレアチニン,乳酸,および考えられる毒素の検査を含めるべきである。サリチル酸濃度は大半の検査室で測定可能であるが,メタノールおよびエチレングリコールは通常測定できず,これらの存在は浸透圧ギャップによって示唆されることがある。血清浸透圧の計算値(2[Na]+[血糖]/18+BUN/2.8+血中アルコール/5)を浸透圧の測定値から減じる。差が10を上回れば浸透活性物質の存在が示唆され,これは高アニオンギャップ性アシドーシスの場合にはメタノールまたはエチレングリコールである。エタノール摂取は浸透圧ギャップおよび軽度アシドーシスを引き起こしうるが,決してこれを著明な代謝性アシドーシスの原因とみなすべきではない。

アニオンギャップが正常で原因が明らかでなければ(例,著明な下痢),尿中の電解質を測定して,[Na]+[K]-[Cl]のように尿のアニオンギャップを算出する。基準範囲(消化管からの喪失が認められる患者を含む)は30〜50mEq/Lで,増加は腎臓からのHCO3 -喪失を示唆する(腎尿細管性アシドーシスの評価については異常腎輸送症候群: 診断を参照 )。

治療

治療は基礎にある原因に対して行う。腎不全やエチレングリコール,メタノール,およびサリチル酸による中毒に血液透析が必要となる。

NaHCO3を用いた酸性血症治療はある種の状況においてのみ明確に適応となり,その他の状況では恐らく有害である。代謝性アシドーシスがHCO3 -の喪失または無機酸の蓄積に起因するときは(すなわち正常アニオンギャップ性アシドーシス),HCO3 -療法は一般に安全かつ適切である。しかし,アシドーシスが有機酸の蓄積に起因するときは(すなわち高アニオンギャップ性アシドーシス),HCO3 -については議論のあるところで,このような状況ではHCO3 -が死亡率を明らかに改善することはなく,いくつかの潜在的リスクが存在する。基礎疾患の治療に伴い,乳酸およびケト酸は代謝されてHCO3 -に戻る;したがって外因性HCO3 -負荷は“オーバーシュート”代謝性アルカローシスを引き起こしうる。いかなる状況でも,HCO3 -がナトリウムおよび循環血液量の増加や低カリウム血症をもたらす可能性があり,呼吸性駆動を抑制することによって高炭酸ガス血症も引き起こしうる。さらに,HCO3 -は細胞膜を通過して拡散しないので細胞内アシドーシスは修正されず,追加されたHCO3 -の一部がCO2に変換されて細胞内に入り,加水分解されてH+およびHCO3 -になるので,逆説的に細胞内アシドーシスは増悪する可能性がある。

こうした議論やその他の論議にもかかわらず,多くの専門家は依然HCO3 -静注を重度の代謝性アシドーシス(pHが7.00未満)に推薦しており,目標pHは7.20とされている。

治療には2つの計算が必要である。1つ目はHCO3 -をどの程度まで増加させなければならないかでKassirer-Bleichの式によって算出され,pHが7.2のときの[H+]値として63nmol/Lを使用する:

63 = 24 × Pco2/HCO3

または

目標HCO3 - = 0.38 × Pco2

その値に達するために必要なHCO3 -の量は:

必要とされるNaHCO3(mEq)=(目標[HCO3 -観察された[HCO3 -])×0.4×体重(kg)

この量のNaHCO3を数時間かけて投与する。血清pHおよびHCO3 -濃度を投与の30分〜1時間後に測定し,血管外HCO3 -と平衡させる。

NaHCO3の代替には,代謝性の酸(H+)と呼吸性の酸(H2CO3)の両方を緩衝するアミノアルコールであるトロメタミン,NaHCO3と炭酸塩(炭酸塩はCO2を消費してHCO3 -を発生させる)の等モル混合物であるcarbicarb,および乳酸の酸化を促進するジクロロ酢酸がある。これらの有益性はいずれも立証されておらず,特有の合併症を引き起こす。

K+欠乏は代謝性アシドーシスでは一般的であり,必要に応じて経口または非経口のKClで治療すべきである。

乳酸アシドーシス

乳酸アシドーシスは乳酸の過剰産生,代謝低下,またはその両方に起因する。

乳酸はブドウ糖代謝およびアミノ酸代謝の正常な副産物である。乳酸アシドーシスの最も重篤な病型であるA型は,O2欠乏中にATPを産生するために,虚血組織で乳酸が過剰に産生されたときに生じる。過剰産生は,典型的には循環血液量減少性ショック,心原性ショック,または敗血症性ショックにおいて組織灌流が低下している間に生じ,灌流の不十分な肝臓での乳酸代謝低下によって増悪する。肺疾患による一次性低酸素症および種々の異常ヘモグロビン症に伴って生じることもある。

B型乳酸アシドーシスは組織灌流が正常(したがってATP産生も正常)な状態で生じ,予後はさほど悪くない。乳酸産生は,激しい筋肉使用(例,身体運動,けいれん,低体温性悪寒),アルコール摂取,癌,ビグアナイド類などの薬物(例,フェンホルミン,および頻度は低いがメトホルミン),ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬,または種々の毒素によって増加することがある(酸-塩基の調節と障害: 代謝性アシドーシスの原因表 3: 表を参照)。代謝は肝不全またはチアミン欠損症の結果低下する場合がある。

D-乳酸アシドーシスは乳酸アシドーシスのまれな病型であり,空回腸バイパス患者または腸切除後患者の結腸で生じる細菌性糖質代謝の産物,D-乳酸が全身性に吸収される。乳酸デヒドロゲナーゼはL-乳酸塩しか代謝できないので,D-乳酸は循環血液中に存続する。

D-乳酸アシドーシスを除き,所見および治療は他の代謝性アシドーシスと同様である。D-乳酸アシドーシスでは, HCO3 -の低下から予測されるよりもアニオンギャップは減少しており,尿浸透圧ギャップ(尿浸透圧の計算値と測定値との差)が存在する可能性がある。治療には補液および炭水化物制限が行われ,ときに抗生物質(例,メトロニダゾール)が用いられる。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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