メルクマニュアル18版 日本語版
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糖尿病

糖尿病はインスリン分泌障害および種々の程度の末梢インスリン抵抗性で,高血糖につながる。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿である。晩期合併症は,血管疾患,末梢神経障害,および易感染性である。診断は血糖測定によって行う。治療は食事,運動,および血糖値を低下させる薬物で行い,薬物にはインスリンおよび経口血糖降下薬が含まれる。予後は血糖コントロールの程度によって様々である。

糖尿病(DM)にはⅠ型およびⅡ型の2種があり,特徴の組み合わせによって鑑別される(糖尿病と炭水化物代謝異常症: Ⅰ型糖尿病およびⅡ型糖尿病の一般的特徴表 1: 表を参照)。発症年齢(若年または成人)または治療の種類(インスリン依存性または非インスリン依存性)を表す用語はもはや正確ではなく,なぜならば年齢群および治療は病型間で重複するからである。

表 1

Ⅰ型糖尿病およびⅡ型糖尿病の一般的特徴

特徴

Ⅰ型

Ⅱ型

発症年齢

最も一般的には30歳未満

最も一般的には30歳以上

肥満の随伴

なし

きわめて一般的

制御に インスリン 治療を要する糖尿病性ケトアシドーシスの生じる傾向

あり

なし

内因性 インスリン の血漿濃度

きわめて低値〜検出不能

多様; インスリン 抵抗性および インスリン 分泌障害の程度によって低値,基準範囲内,または高値

双生児での一致率

50%

> 90%

特異的なHLA-D抗原との関連

あり

なし

診断時の膵島細胞抗体

あり

なし

膵島の病理

膵島炎,大半のβ細胞の選択的喪失

小さく正常な外見の膵島;アミロイド(アミリン)沈着は一般的

糖尿病合併症(網膜症,腎症,神経障害,動脈硬化性心血管疾患)を発症する傾向

あり

あり

経口血糖降下薬に反応する高血糖

なし

あり,初期には多数の患者が反応

耐糖能異常(耐糖能障害または空腹時血糖障害,糖尿病と炭水化物代謝異常症: 糖尿病および耐糖能異常の診断基準表 2: 表を参照)は,正常糖代謝と,加齢に伴って頻度の高まる糖尿病との中間にある,恐らくは過渡期の状態である。これは糖尿病の有意な危険因子であり,糖尿病発症の何年も前から存在することがある。心血管疾患のリスク上昇と関連するが,典型的な糖尿病性微小血管合併症は一般に生じない。

表 2

糖尿病および耐糖能異常の診断基準

検査

正常

耐糖能異常

糖尿病

FPG

< 100 (< 5.6)

100–125 (5.6–6.9)

126 (7.0)

OGTT

< 140 (< 7.7)

140–199 (7.7–11.0)

200 ( 11.1)

FPG=空腹時血糖値;OGTT=経口ブドウ糖負荷試験,2時間血糖値。

注釈:全ての数値は血糖値を指し,単位はmg/dL[mmol/L]である。

Ⅰ型: Ⅰ型糖尿病(従来は若年発症型またはインスリン依存型と呼ばれた)では,自己免疫性の膵β細胞破壊が原因でインスリン産生が欠如しており,この破壊は恐らく遺伝的に感受性の高い集団の環境暴露によって誘発される。破壊は数カ月または数年かけて無症状に進行し,インスリン濃度がもはや血糖値の調節に十分ではなくなる時点までβ細胞量は減少する。Ⅰ型糖尿病は一般に小児期または思春期に発症し,最近までは30歳以前に診断される最も一般的な病型であったが,成人でも発症する(潜在性自己免疫性成人糖尿病)。Ⅰ型は糖尿病症例全体の10%未満を占める。

自己免疫性β細胞破壊の病因には,感受性遺伝子,自己抗原,および環境因子の相互作用が関与するが,これは完全には理解されていない。感受性遺伝子には,主要組織適合複合体(MHC)内の遺伝子―特にHLA-DR3,DQB1*0201,およびHLA-DR4,DQB1*0302が含まれ,これらは90%を上回るⅠ型糖尿病患者に認められる―およびMHC以外の遺伝子が含まれており,MHC以外の遺伝子はインスリンの産生およびプロセッシングを調節し,MHC遺伝子と呼応して糖尿病のリスクを生むと考えられる。感受性遺伝子は一部の集団では他の集団よりも一般的にみられ,一部の民族(スカンジナビア人,サルデーニャ人)におけるⅠ型糖尿病の罹患率の高さを説明する。

自己抗原にはグルタミン酸脱炭酸酵素,インスリン,インスリノーマ関連蛋白,およびβ細胞中の他の蛋白が含まれる。これらの蛋白はβ細胞の正常な代謝回転またはβ細胞傷害(例,感染による)の際に暴露または放出され,細胞性免疫反応を活性化してβ細胞の破壊(膵島炎)につながると考えられている。グルカゴン分泌α細胞は障害されないままである。自己抗原に対する抗体は血清中に検出され,β細胞破壊に対する反応(原因ではなく)であると考えられる。

数種のウイルス(コクサッキーウイルス,風疹ウイルス,サイトメガロウイルス,エプスタイン-バーウイルス,およびレトロウイルスを含む)はⅠ型糖尿病の発症と関連づけられている。ウイルスはβ細胞に直接感染してそれを破壊するか,または自己抗原への暴露,自己反応性リンパ球の活性化,免疫反応を刺激する自己抗原の分子配列の模倣(分子擬態),もしくは他の機序によって間接的にβ細胞破壊を引き起こす可能性がある。

食事も要因である。乳児の乳製品(特に牛乳および乳蛋白βカゼイン)への暴露,飲水中の高濃度硝酸塩,およびビタミンD摂取不足はⅠ型糖尿病のリスク上昇と関連づけられている。早期(4カ月未満)または後期(7カ月以降)にグルテンおよび穀物に暴露すると膵島細胞自己抗体の産生が増加する。これらが関連する機序は不明である。

Ⅱ型: Ⅱ型糖尿病(従来は成人発症型または非インスリン依存型と呼ばれた)では,インスリン分泌が不十分である。特に病初期には,インスリン濃度はしばしばきわめて高くなるが,末梢インスリン抵抗性および肝での糖新生増加が原因で,このインスリン濃度では血糖値の正常化には不十分となる。インスリン産生はその後減少し,高血糖をさらに悪化させる。Ⅱ型糖尿病は一般に成人で生じ,加齢とともにより頻度が高くなる。若年成人と比較して,高齢者では食後,特に大量の炭水化物を摂取後に血糖値がより高値に達し基準範囲に戻るには時間がかかるが,この一部は内臓脂肪/腹部脂肪の蓄積増加および筋肉量減少によるものである。

小児肥満が蔓延するにつれて小児におけるⅡ型糖尿病の頻度もますます高まってきている:小児の新規発症糖尿病の40〜50%が最近ではⅡ型である。糖尿病を有する成人の90%以上がⅡ型である。Ⅱ型糖尿病の有病率が民族内(特にアメリカインディアン,ヒスパニック,アジア人)および罹患者の親族において高いことから立証されるように,明らかな遺伝的決定因子が存在する。最も一般的なⅡ型糖尿病の原因遺伝子は同定されていない。

病因は複雑で,完全には理解されていない。 インスリン 分泌がインスリン抵抗性を代償できなくなると高血糖が生じる。インスリン抵抗性はⅡ型糖尿病の患者やそのリスクを有する者に特徴的であるが,β細胞機能不全およびインスリン分泌障害の証拠も存在し,これにはブドウ糖静注に反応して生じる第1相 インスリン 分泌の障害,正常なパルス状インスリン分泌の喪失,インスリンプロセッシング障害を示唆するプロインスリン分泌増加,膵島アミロイドポリペプチド(正常ではインスリンとともに分泌される蛋白)の蓄積が含まれる。高血糖はβ細胞の脱感作および/またはβ細胞の機能不全を引き起こすので,高血糖自体がインスリン分泌を障害することがある(糖毒性)。インスリン抵抗性の存在下では,これらの変化は典型的には発生までに数年かかる。

肥満および体重増加はⅡ型糖尿病におけるインスリン抵抗性の重要な決定因子である。肥満や体重増加には遺伝的決定因子も存在するが,食事,運動,生活様式も反映される。脂肪組織は,インスリン刺激性のブドウ糖輸送および筋肉でのグリコーゲン合成酵素活性を障害する遊離脂肪酸の血漿濃度を増加させる。脂肪組織は内分泌器官として機能するとも考えられ,糖代謝に有利(アディポネクチン)または不利(腫瘍壊死因子α,IL-6,レプチン,レジスチン)な影響を及ぼす複数の因子(アディポサイトカイン)を放出する。子宮内での成長抑制および低出生体重もその後の生涯におけるインスリン抵抗性と関連づけられており,出生前の環境が糖代謝に及ぼす影響を反映している可能性がある。

その他の病型: 少数の糖尿病症例を説明するその他の原因には,β細胞機能,インスリン作用,ミトコンドリアDNAに影響を及ぼす遺伝子欠損(例,若年発症成人型糖尿病),膵疾患(例,嚢胞性線維症,膵炎,ヘモクロマトーシス),内分泌障害(例,クッシング症候群,先端巨大症),毒素(例,殺鼠薬ヴァコール),薬物誘発性糖尿病があり,薬物では特にグルココルチコイド,β遮断薬,プロテアーゼ阻害薬,および治療薬のナイアシンが原因となる。妊娠はある程度の インスリン 抵抗性を全ての女性で引き起こすが,ごく少数のみが妊娠糖尿病を発症する(妊娠中の合併症: 妊娠中の糖尿病を参照 )。

症状と徴候

糖尿病の最も一般的な症状は高血糖症状である:糖尿によって引き起こされた浸透圧利尿が,起立性低血圧や脱水へと進行しうる頻尿,多尿,多飲をもたらす。重度の脱水は脱力,疲労,および精神状態の変化を引き起こす。症状は血糖値の変動につれて出現したり消失したりする。過食は高血糖の随伴症状であるが,典型的には患者の一番の関心事ではない。高血糖は体重減少,悪心・嘔吐,および視力障害を引き起こす恐れもあり,細菌または真菌に感染しやすくなる。

Ⅰ型糖尿病患者は典型的には症候性の高血糖を呈し,ときに糖尿病性ケトアシドーシス(DKA,糖尿病と炭水化物代謝異常症: 糖尿病性ケトアシドーシスを参照 )もみられる。一部の患者は,糖尿病の急性発症に続いて蜜月相(血糖値が基準範囲近くとなる長いが一過性の時期)を経験し,これはインスリン分泌の部分的な回復によるものである。

Ⅱ型糖尿病患者は症候性の高血糖を呈することもあるが,しばしば無症状であり,患者の病状はルーチンの検査でのみ検出される。初期症状が糖尿病合併症(後述参照)の症状である患者もおり,糖尿病がしばらく持続していたことが示唆される。一部の患者では高浸透圧性昏睡が初期にみられ,これは特にストレス下や,コルチコステロイドなどの薬物によって糖代謝がさらに障害されたときに生じる。

合併症

長年にわたるコントロール不良の高血糖は,主として小血管(細小血管性)および/または大血管(大血管性)に影響を及ぼす複数の合併症につながる。血管障害の発症機序には,血清蛋白および組織蛋白の糖付加(糖化最終産物形成を伴う),スーパーオキシド産生,シグナル分子プロテインキナーゼCの活性化(血管透過性を亢進させ内皮機能不全を引き起こす),ヘキソサミン生合成経路およびポリオール経路の促進(組織内でのソルビトール蓄積につながる),高血圧症および異常脂質血症(糖尿病に随伴して一般的にみられる),動脈微小血栓,ならびに高血糖および高インスリン血症の炎症誘発効果や血栓誘発効果(血管の自己調節を障害する)がある。免疫機能不全はもう1つの主要合併症であり,高血糖が細胞性免疫に直接及ぼす影響に起因する。

頻度が高く破壊的な糖尿病の3症状の基礎には細小血管障害がある:3症状とは網膜症,腎症,および神経障害である。細小血管障害は皮膚の治癒を著しく障害するので,皮膚の完全性がわずかに破壊されただけでも深い潰瘍が生じて容易に感染を起こしうる。徹底した血糖コントロールによってこれらの合併症の多くを予防できるが,一度生じてしまった合併症は回復しないこともある。

糖尿病網膜症: 糖尿病網膜症は米国における成人の失明の最も一般的な原因である(網膜疾患: 糖尿病網膜症も参照 )。初期には網膜毛細血管の微小動脈瘤を,晩期には黄斑浮腫および血管新生を特徴とする。初期には症状や徴候はないが,限局性の霧視,硝子体剥離または網膜剥離,部分的または全体的な視力喪失がやがて生じ,進行速度はきわめて多様である。診断には網膜検査を用い,治療としてはアルゴンレーザーによる光凝固術または硝子体茎切除術を行う。厳格な血糖コントロール,早期発見,および治療が失明の予防にきわめて重要である。

糖尿病腎症: 糖尿病腎症(糸球体疾患: 糖尿病性腎症も参照 )は米国における慢性腎不全の主要な原因である。糸球体基底膜の肥厚,メサンギウムの拡大,および糸球体硬化を特徴とする。これらの変化は糸球体性高血圧および進行性のGFR低下を引き起こす。全身性の高血圧が進行を加速させる恐れがある。糖尿病性腎症は通常,ネフローゼ症候群または腎不全が生じるまでは無症候性である。診断は尿中アルブミンの検出によって行う。試験紙法での尿蛋白陽性は,300mg/日を上回るアルブミン排出および進行した糖尿病腎症(または不適切に採取もしくは保存された検体)を意味する。試験紙法で蛋白陰性であれば,随時尿検体のアルブミン:クレアチニン比,または24時間尿の尿中アルブミンを測定するとよい。比が30mg/gを上回る,またはアルブミン濃度が30〜300mg/24時間であれば,微量アルブミン尿および早期糖尿病腎症を意味する。治療は,血圧コントロールと組み合わせた厳格な血糖コントロールである。ACE阻害薬および/またはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬を使用して,微量アルブミン尿の初発徴候がみられた時点,もしくはさらに早い時点から高血圧症を治療すべきであり,なぜならばこれらの薬物は糸球体内圧を低下させて腎保護作用を示すからである。

糖尿病神経障害: 糖尿病神経障害は,微小血管症由来の神経虚血,高血糖が神経に直接及ぼす影響,および神経機能を障害する細胞内の代謝変化の結果である。複数の病型があり,対称性多発性神経障害(小径線維型および大径線維型がある)ならびに自律神経障害を含む。対称性多発性神経障害は最も一般的で,遠位の手足に影響を及ぼす(ストッキング-グローブ型の分布);感覚異常,感覚不全,または触覚,振動覚,固有感覚,もしくは温度覚の無痛性消失を示す。下肢では,合わない靴および異常な体重負荷によって生じた足外傷の知覚鈍麻にこれらの症状がつながる場合があり,これに続いて足の潰瘍および感染,骨折,亜脱臼,脱臼,または正常な足構造の破壊(シャルコー関節)が生じる恐れがある。小径線維型神経障害では疼痛,しびれ感,温度覚消失が特徴で,振動覚および位置覚は保たれる。足潰瘍や神経障害性関節変形が生じやすく,自律神経障害の発生率も高い。大径線維型神経障害はより頻度が高く,筋力低下,振動覚および位置覚の消失,深部腱反射の消失を特徴とする。足の内在筋の萎縮および下垂足が一般的にみられる。

自律神経障害によって起立性低血圧,運動耐容能低下,安静時頻脈,嚥下困難,悪心・嘔吐(胃不全麻痺による),便秘,下痢(ダンピング症候群を含む),便失禁,尿閉,尿失禁,勃起不全,逆行性射精,腟潤滑の低下などが生じる場合がある。

糖尿病神経障害のその他の病型には,神経根障害,脳神経障害,単神経障害が含まれる。神経根障害はしばしば近位のL2〜L4の神経根に影響して下肢の疼痛,脱力,萎縮を引き起こすか(糖尿病性筋萎縮),または近位のT4〜T12の神経根に罹患して腹痛を引き起こす(多発神経根障害)。脳神経障害は,第3脳神経に影響を及ぼすと復視,眼瞼下垂,瞳孔不同を,第4および第6脳神経に罹患すると運動麻痺を引き起こす。単神経障害は指の脱力およびしびれ感(正中神経)または下垂足(腓骨神経)を引き起こす。糖尿病患者は,手根管症候群などの神経圧迫障害も起こしやすい。単神経障害はいくつかの部位で同時に生じることもある(多発単神経炎)。いずれも主に高齢者で発症し,数カ月かけて自然に軽快する。

対称性多発神経障害の診断は,感覚欠損およびアキレス腱反射減弱の検出で行う;ナイロン製モノフィラメントの軽い接触を検出する能力が消失していれば足潰瘍のリスクが高い患者であると同定される(糖尿病と炭水化物代謝異常症: 糖尿病患者の足のスクリーニング。図 1: イラストを参照)。筋電図および神経伝導検査はあらゆる種類の神経障害に必要で,ときに非糖尿病性神経根障害や手根管症候群など神経障害症状の他の原因を除外するために使用される。厳格な血糖コントロールは神経障害を軽減しうる。症状緩和のための治療には,カプサイシンクリームの局所塗布,三環系抗うつ薬(例,イミプラミン),SSRI(例,デュロキセチン),抗痙攣薬(例,ガバペンチン,カルバマゼピン),およびメキシレチンがある。感覚消失患者は足を毎日調べて足の小外傷を検出し,それが下肢を脅かす感染へと進展しないように予防すべきである。

図 1

糖尿病患者の足のスクリーニング。

糖尿病患者の足のスクリーニング。

モノフィラメントの触覚計で各足の特定部位に触れ,曲がるまで押しつける。この検査では一定で再現性の高い軽触刺激が与えられ,感覚変化の長期監視に使用できる。いずれの足でも検査を行い,各部で感覚の有無(+または)を記録する。

大血管障害: 大血管のアテローム性動脈硬化症は高インスリン血症,異常脂質血症,および糖尿病に特徴的な高血糖症の結果である。症状は,狭心症,心筋梗塞(MI),一過性脳虚血発作,脳卒中,末梢動脈疾患である。

糖尿病心筋症は,心外膜のアテローム性動脈硬化,高血圧,左室肥大,微小血管疾患,内膜機能不全,自律神経機能不全,肥満,代謝障害など多数の因子に起因すると考えられる。患者は左室の収縮機能および拡張機能の障害による心不全を呈し,MI後は心不全がさらに起こりやすくなる。診断は病歴および診察に基づいて行い,スクリーニング検査の役割は進化している。治療はアテローム性動脈硬化症の危険因子を厳格にコントロールすることであり,血糖値,脂質,および血圧の正常化を,禁煙,ならびにアスピリンおよびACE阻害薬の連日服用と組み合わせて行う。微小血管疾患とは対照的に,血糖コントロールの強化のみでは有効な予防策とはいえない。

感染: 高血糖が顆粒球およびT細胞の機能に及ぼす悪影響が原因で,糖尿病患者は細菌や真菌に感染しやすい。最も一般的なものは皮膚や粘膜の真菌感染(例,口腔カンジダ症,腟カンジダ症)および足の細菌感染(骨髄炎を含む)であり,後者は典型的には下肢血流不全や糖尿病性神経障害によって悪化する。

他の合併症: 糖尿病による足の合併症(皮膚変化,潰瘍形成,感染,壊疽)は一般的にみられ,血管疾患,神経障害,および関連する免疫抑制に起因する。

糖尿病患者では,筋梗塞,手根管症候群,デュピュイトラン拘縮,癒着性関節包炎,強指症など,いくつかのリウマチ性疾患の発症リスクが上昇している。また,糖尿病性網膜症とは無関係な眼疾患(例,白内障,緑内障,角膜剥離,視神経症),肝・胆道疾患(例,非アルコール性脂肪肝疾患[脂肪変性および脂肪性肝炎],肝硬変,胆嚢結石症),ならびに皮膚疾患(例,白癬感染症,下肢潰瘍,糖尿病性皮膚障害,糖尿病性リポイド類壊死症,糖尿病性浮腫性硬化症,白斑,環状肉芽腫,黒色表皮腫[インスリン抵抗性の徴候])を呈することもある。抑うつや認知症も一般的である。

診断

糖尿病は典型的な症状および徴候によって示され,血糖測定によって確定される。8〜12時間絶食後の測定(空腹時血糖[FPG])または高濃度ブドウ糖液摂取2時間後の測定(経口ブドウ糖負荷試験[OGTT])が最も優れている(糖尿病と炭水化物代謝異常症: 糖尿病および耐糖能異常の診断基準表 2: 表参照)。OGTTが糖尿病および耐糖能障害を診断する感度はFPGよりも高いが,高価で簡便性に乏しく,再現性も低い。したがって,妊娠糖尿病の診断(妊娠中の合併症: 妊娠中の糖尿病を参照 )および研究目的以外でルーチンに用いられることはまれである。

臨床では,糖尿病または空腹時血糖調節障害は,血糖または糖化ヘモグロビン(HbA1c)の随時測定を用いてしばしば診断される。随時血糖値が200mg/dL(11.1mmol/L)を上回れば診断がつくが,この値は採血前の食事に影響されることがあり,検査を繰り返して確認しなければならない;糖尿病症状の存在下では2回の検査は不要となる場合もある。HbA1cの測定結果は,測定前2〜3カ月の血糖値を反映する。6.5%を上回る値は血糖の異常高値を示す。しかし,測定法および基準範囲はいまだに標準化されておらず,測定値は偽高値または偽低値となる可能性もある(糖尿病と炭水化物代謝異常症: モニタリングを参照 )。これらの理由から,HbA1cはFPGやOGTT試験ほど糖尿病の診断において信頼性が高いとは今のところみなされておらず,主に糖尿病コントロールのモニタリングに使用すべきである。

尿糖測定は以前は一般的に使用されていたが,感度も特異度も高くないので,診断やモニタリングにはもはや使用されていない。

Ⅰ型糖尿病の高リスク者(例,Ⅰ型糖尿病患者の同胞および子)では,膵島細胞抗体または抗グルタミン酸脱炭酸酵素抗体の有無を検査する場合があり,これらの抗体の発現は臨床的な疾患の発症に先立つ。しかし,高リスク者に対する予防策として立証されたものはなく,したがってこのようなスクリーニングは通常は研究の場に限られている。

Ⅱ型糖尿病の危険因子は,年齢45歳以上,肥満,座っていることの多い生活様式,糖尿病の家族歴,血糖調節障害の既往,妊娠糖尿病または4.1kgを上回る産児,高血圧症または異常脂質血症の既往,多嚢胞性卵巣症候群,黒人,ヒスパニック,アメリカインディアンである。過体重患者(体格指数が25kg/m2以上)におけるインスリン抵抗性のリスクは,血清トリグリセリドが130mg/dL(1.47mmol/L)以上,トリグリセリド/高密度リポ蛋白(HDL)比が3.0(1.8)以上,およびインスリン値が108pmol/L以上になると上昇する。これらの患者では,血糖値が基準範囲内にある間は少なくとも3年毎に1回,空腹時血糖値異常が明らかにされたならば少なくとも年1回は空腹時血糖値を測定して,糖尿病のスクリーニングを行うべきである(糖尿病と炭水化物代謝異常症: 糖尿病および耐糖能異常の診断基準表 2: 表を参照)。

全てのⅠ型糖尿病患者では診断の5年後から糖尿病合併症のスクリーニングを開始すべきであり,Ⅱ型糖尿病患者では診断時からスクリーニングを開始する。圧覚,振動覚,痛覚,または温度覚の障害について少なくとも年に1回は患者の足を検査すべきであり,これらは末梢神経障害の特徴である。圧覚はモノフィラメントの触覚計を用いることで最もうまく検査できる(糖尿病と炭水化物代謝異常症: 糖尿病患者の足のスクリーニング。図 1: イラストを参照)。足全体,特に中足骨頭下の皮膚に,ひび割れや,潰瘍形成,壊疽,爪真菌感染,脈拍減弱,脱毛などの虚血徴候がないかを調べる。眼底検査は眼科医が実施すべきである;スクリーニングの間隔については議論があるが,網膜症が確定している患者で年1回から,少なくとも1回の検査で網膜症が認められなかった患者で3年毎までにわたる。蛋白尿または微量アルブミン尿を検出するために年1回の随時尿検査または24時間尿検査が適応となり,血清クレアチニンを測定して腎機能を評価すべきである。心疾患のリスクをふまえて,ベースライン時の心電図が重要とみなされることが多い。脂質プロファイルを少なくとも年1回,異常があるときにはそれよりも頻繁に検査すべきである。

治療

治療は高血糖をコントロールして症状を改善し合併症を予防すると同時に,低血糖の出現を最小限にとどめることである。治療目標は,日中は80〜120mg/dL(4.4〜6.7mmol/L),就寝前は100〜140mg/dL(5.6〜7.8mmol/L)に血糖値を維持すること(家庭での測定によって決定する,糖尿病と炭水化物代謝異常症: モニタリングを参照 ),およびHbA1c値を7%未満に維持することである。これらの目標は,高齢者,余命の短い患者,低血糖発作,特に無自覚低血糖を繰り返す患者,低血糖症状の存在を伝えられない患者(例,幼児)など厳格な血糖コントロールが勧められない患者では調整されることもある。

全ての患者で重要となる要素は,患者教育,食事指導,運動指導,および血糖コントロールのモニタリングである。Ⅰ型糖尿病の全患者はインスリンを必要とする。血糖値が軽度上昇したⅡ型糖尿病患者には食事療法および運動療法を試験的に処方すべきであり,生活様式の変更で不十分であれば続いて単一の経口血糖降下薬を処方し,必要に応じて経口薬を追加して(併用療法),2剤以上を使用しても推奨目標の達成に有効でないときにはインスリンを処方する。診断時により顕著な血糖上昇がみられるⅡ型糖尿病患者には,典型的には生活様式の変更および経口血糖降下薬を同時に処方する。妊娠中のⅡ型糖尿病患者,および非ケトン性高浸透圧症候群(NKHS)またはDKAなどの急性代謝代償不全を呈する患者では,インスリンが初期療法として適用となる。血糖調節障害患者は,糖尿病発症のリスク,および糖尿病予防を目的とした生活様式の変更に焦点を当てたカウンセリングを受けるべきである。これらの患者では,糖尿病症状または血糖上昇がないかを慎重に監視すべきである;理想的な経過観察間隔は明らかにされていないが,年1回または2回の検査が恐らくは適切であろう。

糖尿病の原因,食事,運動,薬物,手指での自己血糖測定,ならびに低血糖,高血糖,および糖尿病合併症の症状や徴候についての患者教育は,治療を最適化するために不可欠である。大半のⅠ型糖尿病患者には,インスリン用量の調節方法を指導する。教育は毎回の診察時および入院時に強化すべきである。一般には糖尿病専門看護師および栄養士によって実施される正規の糖尿病教育プログラムは,しばしばきわめて有効となる。

個人の状況に合わせた食事は患者が血糖値の変動を調節する際に有用となる場合があり,Ⅱ型糖尿病患者では体重を減らす上でも役立つ可能性がある。一般に,全ての糖尿病患者は飽和脂肪やコレステロールが少なく,中等量の炭水化物(望ましくは食物繊維含有量の多い全粒粉由来の炭水化物)を含む食事について教育を受ける必要がある。食物中の蛋白および脂肪は熱量摂取(したがって体重の増減)に関与するが,唯一炭水化物が血糖値に直接的な影響を及ぼす。炭水化物が少なく脂質の多い食事は一部の患者で血糖コントロールを改善するが,長期の安全性については不明である。Ⅰ型糖尿病患者は,インスリンの用量と炭水化物の摂取量とを釣り合わせて生理的なインスリン補充に役立てるために,カーボカウントまたは炭水化物交換システムを使用すべきである。食事中の炭水化物量の“カウント”は,食前のインスリン用量の算出に使用する。一般に患者は,食事中の炭水化物15gにつき1単位の超速効型インスリンを必要とする。このアプローチには詳細な患者教育が必要であり,経験豊富な糖尿病専門栄養士が指導を行ったときに最も成功しやすい。一部の専門家は,glycemic indexを使用して急速に代謝される炭水化物と緩徐に代謝される炭水化物との境界を明らかにすることを勧めるが,他の専門家はこの指数にはほとんど効果がないと考えている。Ⅱ型糖尿病患者は熱量を制限し,規則正しく食事をし,食物繊維の摂取を増やし,精製炭水化物および飽和脂肪の摂取を減らすべきである。一部の専門家は,早期腎症の進展を予防するために食事蛋白を0.8g/kg/日以下に制限することも推奨している(糸球体疾患: 糖尿病性腎症を参照 )。栄養指導は医師の診察を補完すべきであり,患者および患者の食事を用意する者のいずれもが指導に参加すべきである。

運動には,どのようなレベルであれ患者が耐容できる程度まで身体活動を漸増させることを含むべきである。一部の専門家は,減量および血管疾患予防には等尺性運動よりも有酸素運動が優れていると考えるが,筋力トレーニングも血糖コントロールを改善する場合があり,あらゆる種類の運動は有益である。運動中に低血糖症状を経験する患者には,血糖値を測定し,必要に応じて炭水化物を摂取するかインスリンの用量を減らし,運動直前の血糖値が基準範囲をわずかに上回るように指導する。激しい運動中に生じる低血糖では,運動中に炭水化物,典型的には5〜15gの蔗糖または他の単糖の摂取が必要となることもある。心血管障害が診断されている,または疑われる患者では,運動プログラム開始前に運動負荷試験を実施すると有益な場合があり,神経障害や網膜症などの糖尿病合併症を有する患者では活動目標を下げる必要が生じることがある。

モニタリング: 糖尿病コントロールは血糖,HbA1C,またはフルクトサミンの値を用いて監視できる。指先の血液,試験紙,および血糖測定器を用いた自己全血血糖モニタリングが最も重要である。これは患者が食事摂取量や インスリン を調節し,医師が薬物の投与時間や用量の調節を勧める際に役立てる。多数の異なるモニタリング装置が利用可能である。ほぼ全ての装置が,試験紙および皮膚を刺して検体を採取する手段を必要とする;大半には対照溶液が付属しており,装置が適切に較正されているかを確認するために定期的にこれを使用すべきである。装置の選択は,結果が出るまでの時間(通常は5〜30秒),表示パネルの大きさ(大スクリーンは視力の低下した患者に有益となりうる),較正の必要性など,装置の特色に関する患者の嗜好に基づいて通常は行う。指先よりも疼痛の少ない場所(手掌,前腕,上腕,腹部,大腿)での測定が可能な測定器も市販されている。新型の装置は血糖を経皮的に測定するが,これらの使用には皮膚刺激および不安定な測定による限界が生じている;より優れた技術によって,このような装置によるほぼ持続的な測定が間もなく可能になるであろう。

血糖コントロールの不良な患者,新しい薬物が処方された患者,または既に使用中の薬物の用量が変更になった患者は,自己血糖測定を1日1回(通常は早朝空腹時)〜5回以上行うように求められる場合があり,これは患者の必要性や能力,治療計画の複雑さに依存する。大半のⅠ型糖尿病患者は,少なくとも1日4回の測定を行うことによって恩恵を受ける。

HbA1C値は,先行する2〜3カ月間の血糖値を反映し,したがって受診と受診との間のコントロールを評価する。HbA1C値はⅠ型患者では3カ月毎に,血糖値が安定していると考えられるⅡ型患者では少なくとも年1回(コントロールが不明確なときにはより頻回に)評価すべきである。家庭検査キットは,検査説明書に正確に従える患者に有用となる。HbA1C値によって示唆されるコントロールは,ときに毎日の血糖測定によって示唆されるコントロールと異なるように見受けられ,これは高値や基準範囲内の値が誤って示されるためである。偽高値は,腎不全(尿素が定量を妨げる),赤血球代謝の低下(鉄欠乏性貧血,葉酸欠乏性貧血,またはビタミンB12欠乏性貧血でみられるような),高用量アスピリン,血中アルコール濃度高値などで生じうる。溶血性貧血および異常ヘモグロビン症(例,HbS,HbC)などでみられる赤血球代謝の亢進,または欠乏性貧血の治療中には,基準範囲内の値が誤って生じる。

フルクトサミンは,大半は糖化アルブミンであるがその他の糖化蛋白からもなり,過去1〜2週間の血糖コントロールを反映する。フルクトサミンのモニタリングは,糖尿病の集中治療中の患者や,変異ヘモグロビンを有する患者,または赤血球代謝の亢進している患者(HbA1Cの誤測定が生じる)に用いられることもあるが,主に研究の場で使用される。

尿糖のモニタリングは高血糖の大まかな指標となり,血糖モニタリングが不可能なときにのみ推奨される。一方,嘔気,嘔吐,腹痛,発熱,感冒様症状,インフルエンザ様症状,自己血糖測定上で異常に持続する高血糖(>250〜300mg/dL)など,ケトアシドーシスの症状,徴候,または誘引を認めるⅠ型糖尿病患者では尿ケトン体の自己測定が推奨される。

インスリン: インスリンは,インスリンがなくてはケトアシドーシスを起こすⅠ型糖尿病の全患者で必要となり,多くのⅡ型患者の管理にも有用である。インスリン補充は,2種のインスリンを使用して基礎および食事時の必要量をまかなうことで,理想的にはβ細胞機能を再現すべきである(生理的補充);これには,食事,運動,およびインスリンの投与時間や用量に対する細心の注意が必要となる。現在では大半のインスリン製剤は組換えヒトインスリンであり,インスリンが動物から抽出されていた頃には一般的であった薬物に対するアレルギー反応は実質的になくなっている。レギュラーインスリン静注がまれに使用されることを除き,インスリンは皮下投与される;ヒトインスリン分子を修飾して皮下吸収速度を変化させることで作られた多数のアナログが市販されている。

インスリンの種類は,一般的に作用の発現時間および持続時間によって分類される(糖尿病と炭水化物代謝異常症: ヒトインスリン製剤の作用発現,最大作用,および作用持続時間*表 3: 表を参照)。しかし,様々な因子(例,注射部位,注射技術,皮下脂肪量,注射部位の血流)に依存して,これらのパラメーターは患者内および患者間で異なる。

表 3

ヒトインスリン製剤の作用発現,最大作用,および作用持続時間*

インスリン 製剤

作用発現

最大作用

作用持続時間

超速効型

     

リスプロ,アスパルト,グルリシン†

5-15分

45-75分

3-5時間

速効型

     

レギュラー(R)

30-60分

2-4時間

6-8時間

中間型

     

NPH

2-4時間

6-10時間

12-18時間

レンテ

3-4時間

8-12時間

12-18時間

持効型

     

ウルトラレンテ

4-8時間

10-16時間

16-20時間

グラルギン

1-2時間

ピークなし

24時間

混合型

     

70% NPH/30% R

30-60分

2相性(NPHおよびR)

10-16時間

50% NPH/50% R

30-60分

2相性(NPHおよびR)

10-16時間

75%NPL/25%リスプロ

5-15分

2相性(NPLおよびリスプロ)

10-16時間

70%NPA/30%アスパルト

5-15分

2相性(NPAおよびアスパルト)

10-16時間

R=レギュラー;NPH=中性プロタミンハゲドーン;NPL=中性プロタミンリスプロ;NPA=中性プロタミン。

*おおよその時間,皮下投与を仮定,注射技術および吸収に影響を及ぼす因子によって変動する可能性がある。

†リスプロおよびアスパルトは中間型インスリンとの混合製剤としても市販されている。

混合製剤もある(NPH/R)。

リスプロおよびアスパルトを含む超速効型インスリンは,アミノ酸対の反転がインスリン分子の2量体形成および重合体形成を阻害するので迅速に吸収される。超速効型インスリンは血糖値を大抵15分以内に低下させるが,作用持続時間は短い(4時間未満)。これらのインスリンは食事時に最もよく利用され,食後の血糖値の急上昇を制御する。

レギュラーインスリンはリスプロおよびアスパルトよりも作用発現にやや時間がかかるが(30〜60分),長時間持続する(6〜8時間)。レギュラーインスリンは静脈内投与が承認されている唯一の剤形である。

中性プロタミンハゲドーン(NPH,すなわちインスリンイソフェン)およびレンテ(インスリン亜鉛)は中間型であり,最大で数時間は血糖値に有意な影響を及ぼさないが,効果は12〜18時間持続する。ウルトラレンテ(持続型インスリンヒト亜鉛)は最も発現の遅いインスリンで(最大8時間),作用持続時間は18〜24時間である。 ウルトラレンテと異なり,インスリングラルギンは識別可能な作用のピークをもたず,24時間一定の基礎効果をもたらす。 NPHおよびレギュラーインスリンの組み合わせ,ならびにインスリンリスプロおよびリスプロプロタミン(NPH様に作用するように修飾されたリスプロの剤形)の組み合わせは,予め混合された製剤として市販されている(糖尿病と炭水化物代謝異常症: ヒトインスリン製剤の作用発現,最大作用,および作用持続時間*表 3: 表を参照)。

異なる種類のインスリンを同じ注射器で吸い上げて注射することは可能であるが,製造者以外はこれらのインスリンを容器内で予め混合すべきでない。ときにインスリンの混合,特に使用する1時間よりも前に混合することがインスリン吸収速度に影響を与え,効果にばらつきが生じて血糖コントロールを予測しづらくする。インスリングラルギンは,他のいかなるインスリンとも決して混合すべきではない。

バイアルおよび注射器を使用する従来法の代わりに,インスリンを予め充填したペン型装置が多数市販されている。ペン型インスリンは自宅以外での使用における利便性が高く,視力または手先の器用さに限界のある患者に好ましいと考えられる。注射に恐怖心を抱いている患者では,ばね式の自己注射装置(注射器と使用する)がときに有用であり,視力の低下した患者には注射器用拡大鏡がある。

リスプロ,アスパルト,またはレギュラーインスリンは,インスリンポンプを用いて持続的に投与することもできる。インスリン皮下持続注入ポンプは毎日何度も注射する必要性を省いて,食事時間に最大の柔軟性を与え,実質的に血糖値の変動を抑制できる。欠点には,費用,機械の故障とそれによるインスリン供給の中断,体外装置装着の不便さがある。インスリンポンプを安全かつ有効に使用するためには,慎重な自己血糖測定を頻回に行うこと,およびポンプ機能に細心の注意を払うことが必要となる。

吸入インスリンは,インスリンリスプロと同様に迅速な作用発現および短い作用持続時間を示し,間もなく利用可能になるであろう。経口のオリゴマー製剤やリポソーム製剤,経粘膜的(例,鼻腔内噴霧剤,経口噴霧剤)または経皮的な送達システムは有望であるが,さらなる研究が必要である。

低血糖はインスリン治療の最も一般的な合併症であり,患者が厳格な血糖コントロールを達成しようと試み正常血糖に近づくにつれてより頻繁に生じる。軽度または中等度の低血糖の症状には,頭痛,発汗,動悸,浮遊感,霧視,不穏,錯乱がある。より重度の低血糖の症状には痙攣発作および意識消失がある。高齢者では,低血糖は失語または片側不全麻痺といった脳卒中様の症状を引き起こすことがあり,脳卒中,心筋梗塞,突然死を起こしやすくする。罹患期間の長いⅠ型糖尿病患者はもはや自律神経症状を経験しないので,低血糖エピソードに気づかない場合がある(無自覚低血糖)。

患者には低血糖症状を認識するように指導すべきであり,低血糖症状は通常,砂糖菓子,ジュース,ブドウ糖錠などの摂取に急速に反応する。典型的には,10〜15gのブドウ糖またはショ糖を摂取するとよい。意識のない患者または嚥下のできない患者では,グルカゴン1mgを皮下注もしくは筋注するか,または50%ブドウ糖液50mL(25g)を静注して低血糖を迅速に治療し,必要に応じて5%または10%のブドウ糖液の静注を引き続き行って適切な血糖値を維持する。

高血糖が低血糖に続いて生じることがあり,これは糖分の過剰摂取が原因の場合と,低血糖による拮抗ホルモン(グルカゴン,エピネフリン,コルチゾル,成長ホルモン)の急上昇が原因の場合とがある。就寝前のインスリン量が過剰であると血糖値が下がって拮抗反応が刺激され,早朝高血糖につながる(ソモジー現象)。しかし,説明不能な早朝高血糖のより一般的な原因は,早朝の成長ホルモン上昇である(暁現象)。この場合は,夕方のインスリンを増量するか,持続時間の長い製剤に変更するか,またはより遅い時間に注射を行うべきである。

インスリンが誘発するNa-Kポンプ刺激がカリウムを細胞内に移動させて低カリウム血症が引き起こされる場合があるが,まれである。低カリウム血症は,インスリンの静脈内投与が行われる急性期医療の場において,より一般的に生じる。

インスリン注射部位における局所アレルギー反応,特にヒトインスリンの使用に伴うものはまれであるが,バイアルの栓には天然ゴムラテックスが含まれるので,ラテックスアレルギー患者ではやはり局所アレルギー反応が生じる可能性がある。局所アレルギー反応では疼痛または灼熱感が即時に生じ,紅斑,そう痒,硬結がそれに続き,硬結はときに数日間持続する。大半の反応は数週間注射を継続した後に自然消退し,特別な治療を必要としないが,抗ヒスタミン薬が症状を緩和させることがある。

全身性のアレルギー反応がヒトインスリンで生じることはきわめてまれであるが,治療中断後にインスリンが再開されたときに生じる可能性がある。症状は注射の30分〜2時間後に生じ,じんま疹,血管性浮腫,そう痒,気管支痙攣,アナフィラキシーを含む。抗ヒスタミン薬による治療で大抵は十分であるが,エピネフリンやグルココルチコイドの静注が必要になることもある。全身性アレルギー反応後にインスリン治療が必要であれば,一連の精製インスリン製剤を用いた皮膚試験および脱感作を行うべきである。

注射部位での局所脂肪の萎縮または肥厚は比較的まれであり, インスリン 製剤の成分に対する免疫反応に起因すると考えられている。いずれも注射部位をずらすことによって解消する。

インスリン抵抗性は主にⅡ型糖尿病患者に生じる。通常の原因は肥満である。循環血液中の抗インスリン抗体はまれな原因である;これはときにインスリン製剤の変更(例,動物インスリンからヒトインスリンへ),および必要に応じたコルチコステロイド投与によって治療できる。

Ⅰ型糖尿病に対するインスリン投与法: Ⅰ型糖尿病に対する投与法は,1日2回の“混合型分割”法(例,超速効型インスリンと中間型インスリンの用量を分割)から,1日に複数回の注射を行うより生理的な“基礎-ボーラス”法(例,単回投与する固定[基礎]量の持続型インスリン,および食後[ボーラス]投与する様々な量の超速効型インスリン)に及ぶ。強化療法は1日4回以上の血糖測定および1日3回以上のインスリン注射またはインスリン持続注入と定義され,従来の治療(血糖測定を併用または非併用で1日1〜2回インスリンを注射)よりも糖尿病性網膜症,腎症,神経障害を予防する効果が高い。しかし,強化療法では低血糖および体重増加がより頻繁に起こりやすく,自己管理により積極的な役割を果たすことができ,それを望む患者においてのみ一般に有効である。

一般に,大半のⅠ型糖尿病患者は0.2〜0.8単位/kg/日の総インスリン量から開始し,肥満患者はさらに高用量を必要とする場合がある。生理的補充は,1日のインスリン量の40〜60%を中間型製剤または持続型製剤として投与して基礎必要量をまかない,残りを超速効型製剤または速効型製剤として投与して食後の必要量の増加を補う。この方法は,超速効型インスリンまたは速効型インスリンの用量が食前血糖値,予定される食事内容,および血糖モニタリング結果を考慮したスライディングスケールによって決定されるときに最も有効となる;目標血糖値を50mg/dL(2.7mmol/L)上回るまたは下回る毎に,用量を1〜2単位調節する。患者は食事を抜いたり食事時間をずらしても良好な血糖値を維持できるので,この生理的投与法は生活様式の自由度を高める。しかし,他の投与法よりも有効性が高いと立証されている特異的なインスリン投与法はなく,これらの提案は治療開始時を対象とするものである;したがって,投与法の選択は一般に生理反応および患者や医師の嗜好に依存する。

Ⅱ型糖尿病に対するインスリン投与法: Ⅱ型糖尿病に対する投与法も多様である。多くの患者は生活様式の変更または経口薬で十分にコントロールされるが,経口薬2剤以上を用いても血糖コントロールが不十分なときはインスリンを加えるべきである;妊娠女性では経口薬をインスリンに切り替えるべきである。併用療法の最も強固な理論的根拠は,インスリンと経口ビグアナイド薬および インスリン 抵抗性改善薬との併用に関するものである。投与法は,持続型インスリンまたは中間型インスリンの1日1回注射(通常は就寝時)からⅠ型糖尿病患者に用いられる頻回注射法まで多様である。一般に,最も簡便で有効な投与法が選択される。インスリン抵抗性が存在するので,一部のⅡ型糖尿病患者はきわめて大量のインスリンを必要とする(>2単位/kg/日)。一般的な合併症は体重増加であり,この大部分は尿中へのブドウ糖排泄の低下および代謝効率の改善に起因する。

経口血糖降下薬: 経口血糖降下薬(糖尿病と炭水化物代謝異常症: 経口血糖降下薬の特徴表 4: 表を参照)はⅡ型糖尿病の初期治療であるが, 2剤以上の経口薬でも十分な血糖コントロールが得られないときにはインスリンがしばしば追加される。経口血糖降下薬は,膵臓のインスリン分泌を亢進させたり(分泌促進薬),末梢組織のインスリン感受性を増強させたり(抵抗性改善薬),消化管からのブドウ糖吸収を阻害したりする。作用機序の異なる薬物は相乗的に働く場合がある。

表 4

PDF 経口血糖降下薬の特徴

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スルホニル尿素薬(SU薬)はインスリン分泌促進薬で,膵β細胞のインスリン分泌を刺激することで血糖値を低下させ,糖毒性を軽減することで末梢および肝臓のインスリン感受性を二次的に改善させると考えられる。第1世代薬(糖尿病と炭水化物代謝異常症: 経口血糖降下薬の特徴表 4: 表を参照)は副作用が起こりやすく,ほとんど使用されない。全てのSU薬は高インスリン血症および2〜5kgの体重増加を引き起こし,これはやがてインスリン抵抗性を増強してSU薬の有用性を制限する場合がある。また,全てのSU薬は低血糖を引き起こす恐れがあり,危険因子には年齢65歳以上,長時間作用型の薬物の使用(特にクロルプロパミド,グリブリド,グリピジド),誤った食事および運動,腎不全または肝不全が含まれる。長時間持続型の薬物による低血糖は治療中止後も数日間持続する可能性があり,ときに恒久的な神経障害を引き起こし,致死的となる恐れもある;これらの理由から,一部の実地医家は低血糖患者,特に高齢者を入院させる。クロルプロパミドは抗利尿ホルモン分泌異常症候群も引き起こす。SU薬のみを使用する患者の大半では,正常血糖に到達するために最終的に薬物の追加が必要になり,これはSU薬がβ細胞機能を疲弊させる可能性を示唆している。しかし,インスリン分泌およびインスリン抵抗性の増悪は,糖尿病治療に使用された薬物の特性というよりは恐らく糖尿病自体の特性である。

速効型インスリン分泌促進薬(レパグリニド,ナテグリニド)は,SU薬と類似の様式でインスリン分泌を刺激する。しかし,速効型インスリン分泌促進薬では短時間で作用が発現し,食事中にそれ以外の時間よりも強くインスリン分泌が刺激される。したがって,食後高血糖の軽減に特に有効で,低血糖のリスクも低いと考えられる。SU薬と同様に,体重増加を引き起こしうる。レパグリニドはSU薬またはメトホルミンと同程度の血糖降下作用を示すと考えられる;ナテグリニドはやや有効性が低く,したがって軽度高血糖患者により適していると考えられる。他の種類の経口薬(例,SU薬,メトホルミン)に反応しなかった患者が速効型インスリン分泌促進薬に反応する可能性は低い。

ビグアナイド薬は肝臓でのブドウ糖産生(糖新生およびグリコーゲン分解)を減少させることによって血糖値を低下させる。ビグアナイド薬は末梢インスリン抵抗性改善薬とみなされるが,ビグアナイド薬による末梢でのブドウ糖取り込み刺激は,単純に肝臓に対する効果に起因するブドウ糖減少の結果であると考えられる。ビグアナイド薬は脂質を低下させ,さらに消化管からの栄養吸収も減少させたり,循環血液中のブドウ糖に対するβ細胞の感受性を亢進させたり,プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1の濃度を低下させて抗血栓作用を発揮したりする可能性もある。メトホルミンは米国で市販されている唯一のビグアナイド薬である。メトホルミンは少なくともSU薬と同等の血糖降下作用を示し,低血糖を引き起こすことはまれで,他の薬物やインスリンとも安全に併用できる。さらに,メトホルミンは体重を増加させず,食欲を抑制することによって体重減少を促進する可能性さえある。メトホルミンは一般的に消化管の副作用(例,消化不良,下痢)を引き起こすが,大半の場合は時間とともに消失する。頻度は低いものの,メトホルミンはビタミンB12吸収不良をもたらすが,臨床的に有意な貧血はまれである。メトホルミンが生命を脅かす乳酸アシドーシスの一因となるかについては議論が続いているが,酸血症のリスクを有する患者(腎不全[クレアチニン1.4mg/dL以上],心不全,低酸素症または重度呼吸器疾患,アルコール中毒,その他の代謝性アシドーシス,脱水のある患者を含む)では禁忌と考えられている。メトホルミンは,手術,造影剤の静注,および重篤な疾患の際には使用を控えるべきである。メトホルミン単剤療法が行われている患者の多くでは最終的に薬物の追加が必要になる。

チアゾリジン類(TZD)は末梢インスリン抵抗性を低下させるが(インスリン抵抗性改善薬),特異的な作用機序については十分に解明されていない。チアゾリジン類は,主として脂肪細胞に存在し糖代謝および脂質代謝を制御する遺伝子の転写に関与する核内受容体(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ[PPARγ])に結合する。また,TZDはHDL濃度を上昇させてトリグリセリド値を低下させ,抗炎症作用および抗アテローム性動脈硬化作用を有する可能性もある。TZDはSU薬やメトホルミンと同等のHbA1c低下効果を示す。この種の薬物は比較的新しいので,長期の安全性および有効性に関するデータは得られていない。TZDの1つ(トログリタゾン)は急性肝不全を引き起こしたものの,現在市販されているTZDでは肝毒性は立証されていない;しかし,肝機能の定期的なモニタリングが推奨される。TZDは,特にインスリン使用中の患者で末梢浮腫を引き起こす可能性があり,感受性の高い患者では心不全を悪化させる恐れがある。脂肪組織量の増加による体重増加が一般的にみられ,一部の患者ではそれがかなりの程度(>10kg)となることもある。

αグルコシダーゼ阻害薬(AGI)は食物中の炭水化物を加水分解する腸管の酵素を競合的に阻害する;炭水化物はより緩徐に消化,吸収され,したがって食後血糖値が低下する。AGIの血糖降下作用は他の経口薬よりも弱く,消化不良,鼓腸,下痢が生じることがあるので患者はしばしば薬物を中止する。しかし,それ以外の点ではAGIは安全であり,他の全ての経口薬およびインスリンと併用可能である。

グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)(例,エクセナチド[インクレチンホルモン])はブドウ糖依存性のインスリン分泌を増強し,胃内容排出を緩徐にする。また,エクセナチドは食欲を低下させ,体重減少を促す。エクセナチドは1日2回食前に注射し,経口血糖降下薬と併用できる。内因性GLP-1の利用率を上昇させる別の薬物も開発中である。

その他の抗高血糖治療: 膵臓細胞または膵島細胞の移植はインスリン送達の代替手段である;いずれの技術もインスリンを産生するβ細胞をインスリン欠乏(Ⅰ型)患者に有効に移植する。両手法の適用,組織調達法,手技,および限界については移植: 膵臓移植を参照 。

アミリンというホルモンの合成アナログ,プラムリンチドはⅠ型糖尿病およびⅡ型糖尿病の治療にインスリンと組み合わせて使用される。プラムリンチドは胃内容排出を緩徐にし,食後のグルカゴン分泌を抑制して満腹中枢に働きかける。毎食前に注射する。

アドレナリン受容体拮抗薬,ホスホジエステラーゼ阻害薬など,膵臓のインスリン分泌を増加させるその他の経口血糖降下薬が研究されている。遺伝子組み換え型ヒトインスリン様成長因子-1(IGF-1)を含む非TZD系インスリン抵抗性改善薬も開発中である。

補助的な治療: 糖尿病合併症の予防または治療のための補助的な治療は重要である。ACE阻害薬および/またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬は,高血圧症がない場合でも早期腎症(微量アルブミン尿または蛋白尿)が立証されている患者に適用とされ,腎障害がまだ明らかでない糖尿病患者の高血圧治療にもよい選択である。 ACE阻害薬も糖尿病患者における心血管イベントの予防に役立つ。アスピリン325mg,1日1回によって心血管系は保護され,特に禁忌でなければ成人糖尿病患者のほとんどに使用すべきである。Ⅱ型糖尿病患者はトリグリセリド高値,small dense LDL高値,およびHDL低値を示す傾向がある;これらの患者には,既知の冠動脈疾患を有する患者と同一の治療目標(LDL<100mg/dL[<2.6mmol/L],HDL>40mg/dL[>1.1mmol/L],およびトリグリセリド<150mg/dL[<1.7mmol/L],脂質障害: 全米コレステロール教育プログラム成人治療委員会Ⅲ 異脂肪血症に対するアプローチを参照 表 4: 表)を掲げて積極的な治療を行うべきである。

腸管リパーゼ阻害薬オルリスタットは食事脂肪の吸収を抑制し,血清脂質を低下させて体重減少を促す。包括的な減量プログラムの一部として特定の患者で有用となる可能性がある。胃切除術または胃バイパス術などの肥満に対する外科治療も,他の方法では減量できない糖尿病患者で体重減少をもたらし血糖コントロールを改善する。

足趾の爪を切ったり胼胝を削ったりといった専門家による定期的な足のケアは,感覚消失や循環障害を有する患者にとって重要である。このような患者には,あかぎれ,亀裂,胼胝,鶏眼,潰瘍がないか毎日足を調べるように助言すべきである。低刺激性の石鹸を使ってぬるま湯で足を毎日洗い,優しく完全に乾燥させるとよい。乾燥した鱗屑のある皮膚には潤滑剤(例,ラノリン)を,湿った足には非薬用の足用パウダーを塗布するとよい。足趾の爪は,足専門医が切ることが望ましく,まっすぐ横に切り,皮膚近くまで切り過ぎないようにする。絆創膏やテープ,刺激性の化学薬品,鶏眼治療薬,湯たんぽ,電気パッドを皮膚に直接当てて使用すべきではない。靴下は毎日交換し,締めつけるような衣服(例,靴下止め,履き口がきつく弾性に富んだ靴下や長靴下)は着用すべきではない。靴はサイズを合わせ,足趾の幅が広く踵や爪先が露出しないものとし,頻繁に交換すべきである。足が変形していれば(例,趾切断術の既往,槌状足趾,腱膜瘤),外傷を減らすために特別な靴を処方すべきである。裸足での歩行は避けるべきである。神経障害性足潰瘍を有する患者は,潰瘍が治癒するまでは加重を避けるべきである。加重を避けられないならば,適切な整形外科的補助具を装用すべきである。このような潰瘍のある患者の大半には大血管の閉塞性疾患がほとんど,または全くないので,デブリドマンおよび抗生物質がしばしば良好な治癒をもたらし,大手術が避けられることがある(皮膚炎: 治療を参照 )。潰瘍の治癒後は,適切な靴内挿入具または特殊な靴を処方すべきである。難治例,特に骨髄炎が認められる場合は,中足骨骨頭(圧迫の原因)の外科的除去,関係する足趾の切断術,または中足骨横断切断術が必要となることもある。しばしば神経障害性骨関節症は,矯正器具(例,短下肢装具,型取りして作成した靴,スポンジゴムによる足弓支持,松葉杖,義足)によって十分に管理できる。

最後に,全ての糖尿病患者は肺炎球菌ワクチン(1回)およびインフルエンザワクチン(毎年)を接種されるべきである。

特別な集団および状況

不安定型糖尿病: 不安定型糖尿病という用語は,明らかな理由もなく再発性の劇的な血糖変動をしばしば呈する患者を指す。患者は,典型的には救急外来受診や入院を繰り返すことになり,日常生活に支障を来す高血糖または低血糖のエピソードを経験する。動揺性の血糖値は,内因性インスリン産生が完全に欠損しているのでⅠ型糖尿病患者に生じやすいが,あらゆる糖尿病患者で起こりうる。既知の原因には,不顕性感染(例,骨髄炎,軟部組織膿瘍),胃不全麻痺(食物中の炭水化物の異常吸収につながる),内分泌障害(例,アジソン病,甲状腺機能低下症)がある。大半の症例では原因は不明であり,不安定型糖尿病は,インスリン投与法が不適切であり,患者教育や患者の理解が不十分でインスリン投与や食事選択に誤りが生じていることが原因である,または誤った摂食パターンや運動パターン,医学的忠告の非遵守,薬物の不適切な自己調節として表出される心理的苦痛(例,怒り,抑うつ,不安)に起因するとされる。

このような患者に対する最初のアプローチは,インスリン製剤,インスリン注射法,および血糖測定を含む糖尿病自己管理技術の徹底的な復習である。自己血糖測定の頻度を増やすことによって,これまで認識されなかったパターンが明らかにされ,患者に有用なフィードバックを提供できる可能性がある。食事時間を含む完全な食事記録をつけて,コントロール不良の潜在的要因を同定すべきである。身体診察および適切な臨床検査によって基礎にある原因を除外すべきである。インスリン治療中の患者の一部では,(血糖測定に基づく)頻繁な用量調整が可能な強化療法への変更が有用である。一部の症例では特別な治療を行わなくても低血糖および高血糖のエピソードの頻度が時間とともに減ることがあり,生活環境が原因として作用していた可能性が示唆される。

青少年: 血糖コントロールは典型的には糖尿病患児が青年期に入るにつれて悪化する。思春期およびインスリンによって誘発される体重増加,インスリン感受性を低下させるホルモン変化,インスリン使用不遵守につながる心理社会的因子(例,気分障害,不安障害),家庭不和,反抗期,仲間からの圧力,体重を調節する手段としての摂食障害およびそれがもたらすインスリン不使用,喫煙や飲酒,薬物使用の経験など,複数の因子が関与している。これらの理由から,一部の青少年は救急外来受診や入院を必要とするような高血糖およびDKAのエピソードを繰り返し経験する。

治療にはしばしば心理社会的介入(例,指導教育グループ,支援グループ),個人療法または家族療法,および適応があれば精神薬理学を組み合わせた集中医学管理が含まれる。青少年が成人期早期の自由を安全に謳歌できるようにするために,患者教育は重要である。医療提供者は,個人的嗜好や挙動について審判するのではなく,慎重な血糖コントロールの必要性,特に頻回な血糖測定および必要に応じた低用量速効型インスリンの頻回使用について継続的に指導強化していかねばならない。

入院: 糖尿病は,入院の主原因になることも,入院治療を必要とする他の疾患に随伴することもある。DKA,NKHS,遷延性または重度の低血糖を呈する糖尿病患者は全て入院させるべきである。SU薬誘発性低血糖,コントロール不良の高血糖,および糖尿病合併症の急性増悪を呈するその他の患者では短期入院が有益と考えられ,糖尿病が新規に発症した小児や青少年でも同様である。制御された入院環境で作成されたインスリン投与法が院外の制御されていない状況に適合しなければ,退院に際してコントロールは悪化する。

他の疾患によって入院が必須となっているときには血糖コントロールが困難となる場合があり,その疾患の緊急性がより高いものであるときには血糖コントロールはしばしば軽視される。多くの患者は薬物の変更を行わずに回復する。運動制限や急性疾患は一部の患者で高血糖を増悪させるが,食事制限および疾患の随伴症状(例,悪心,嘔吐,下痢,食思不振)が,特に血糖降下薬の用量が変更されていないときに低血糖を促進する。さらに,通常は病院の日常業務(例,食事,投薬,処置の時間)は糖尿病の治療計画と比較して柔軟性に欠ける時間設定で行われるので,入院患者では血糖値の適切なコントロールが困難となることがある。食事のできる入院患者では通常の外来治療計画を継続することがある;それ以外の患者は基礎インスリンに速効型インスリンを追加して,または追加しないで適切に治療を行う。スライディングスケールによるインスリン療法を高血糖を修正する唯一の介入法とすべきではない;この方法は前向きというよりも反応性であり,この方法が他のアプローチと同等またはそれよりも優れた転帰をもたらすことを示唆するデータはない。短時間作用型のインスリンのみを用いて高血糖を修正するよりも,作用時間の長いインスリンの用量を調節して高血糖を予防すべきである。

入院中の高血糖が多数の急性疾患で短期予後を悪化させ,これは脳卒中や心筋梗塞で最も顕著であり,しばしば入院を長期化させる。重篤な疾患は,既知の糖尿病がない患者においてさえもインスリン抵抗性や高血糖を引き起こす。血糖値を100〜150mg/dL(4.4〜6.1mmol/L)に維持するインスリン注入は臓器不全などの有害な転帰を予防し,脳卒中からの回復を促す可能性があり,長期(6日以上)に及ぶ集中治療を要する患者の生存の改善につながる。重篤な患者,特にグルココルチコイドまたは昇圧薬を投与されている患者は,インスリン抵抗性が原因できわめて大量のインスリン(>5〜10単位/時)を必要とする場合がある。インスリン注入は,TPNが行われている患者や経口摂取のできないⅠ型患者でも考慮するとよい。

手術: 外科手術の生理的ストレスは糖尿病患者で血糖値を上昇させ,Ⅰ型糖尿病患者でDKAを誘発する恐れがある。Ⅰ型患者では,朝に通常投与する中間型または持続型インスリンの1/22/3量を,5%ブドウ糖液100〜150mL/時の点滴静注と併せて手術当日の朝に投与する。術中および術後は,血糖値(高血糖によって必要性が示唆されるならばケトン体も)を少なくとも2時間毎に調べるべきである。ブドウ糖注入を持続してモニタリングを2〜4時間間隔で継続し,患者が経口食に移行して通常の インスリン 投与法を再開できるようになるまでは,必要に応じてレギュラーインスリンを4〜6時間毎に皮下投与して血糖値を100〜200mg/dL(5.55〜11.01mmol/L)に維持する。通常の投与法を再開するまでにかなりの遅れ(>24時間)があるならば,中間型インスリンまたは持続型インスリンを追加投与すべきである。このアプローチはインスリン治療中のⅡ型患者にも使用する場合があるが,ケトン体の頻回測定は省略する。

一部の医師は,手術当日はインスリンの皮下注射を控えて静注を選ぶ。1つの方法は,0.9%生理食塩水または水で作成した5%ブドウ糖液1Lに6〜10単位のレギュラーインスリンを加えて,100〜150mL/時で手術当日の朝に血糖値に基づいて点滴開始する。または,インスリン(1〜2単位/時)とブドウ糖(5%ブドウ糖液75〜125mL/時)を別々に注入する方法を用いて,用量の増減を容易にする。静注管のインスリン吸収が作用のむらにつながる恐れがあり,これは静注管にインスリン液をあらかじめ流しておくことによって最小限に抑えられる。インスリン注入は回復期間を通じて継続し,インスリン投与量は回復室で測定された血糖値に基づいて調節し,その後は1〜2時間間隔で調整する。

経口血糖降下薬で治療が行われている大半のⅡ型糖尿病患者は,絶食中は許容できる血糖値を維持し,周術期にインスリンを必要としない場合がある。SU薬およびメトホルミンを含むほとんどの経口薬は手術当日は中止し,術前,術後,および静脈内輸液中は6時間毎に血糖値を測定すべきである。食事ができるようになれば経口薬を再開するが,腎機能が正常であることが術後48時間確認されるまではメトホルミンは中止する。

予防

Ⅰ型糖尿病の発症または進行を確実に予防する治療はない。アザチオプリン,コルチコステロイド,およびシクロスポリンは一部の患者において早期Ⅰ型糖尿病の寛解を誘発し,これは恐らく自己免疫性のβ細胞破壊の抑制を介して生じる;しかし,毒性および生涯にわたる治療の必要性がこれらの使用を制限している。少数の患者では,抗CD3モノクローナル抗体を用いた短期治療が自己免疫性のT細胞反応を抑制して,発症後間もない糖尿病で少なくとも最初の1年間はインスリン必要量を減少させる。

Ⅱ型糖尿病は通常は生活様式の修正によって予防できる。ベースライン時の体重からわずか7%減量し,これに中等度の強度の運動(例,1日30分のウオーキング)を組み合わせると,高リスク者における糖尿病発生率を50%以上低下できる。メトホルミンも耐糖能異常患者の糖尿病のリスクを軽減することが示されている。中等度のアルコール摂取(5〜6杯/週),ならびにACE阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬,スタチン類,メトホルミン,TZD,およびアカルボースによる治療も保護的であり,これは恐らくPPAR γ活性の誘導によるものであるが,ルーチンでの予防的使用を推奨できるようになるまでにはさらなる研究が必要である。

厳格な血糖コントロール(HbA1c7.0%未満と定義),ならびに高血圧症および脂質濃度のコントロールによって糖尿病合併症のリスクは低減できる(動脈高血圧: 一般的治療および脂質障害: 予後と治療を参照 )。一度検出された合併症の進行を予防する特異的な方法については,合併症(糖尿病と炭水化物代謝異常症: 合併症を参照 )および治療(糖尿病と炭水化物代謝異常症: 治療を参照 )で論じられている。

最終改訂月 2007年5月

最終更新月 2005年11月

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