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免疫療法薬

執筆者:

Peter J. Delves

, PhD, University College London, London, UK

レビュー/改訂 2020年 4月
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本ページのリソース
  • モノクローナル抗体

  • 融合タンパク質

  • 可溶性サイトカイン受容体

  • 遺伝子組換えサイトカイン

  • 低分子ミメティクス

  • 細胞療法

モノクローナル抗体

モノクローナル抗体(mAb)はin vitroで製造され,特定の標的抗原を認識する;固形腫瘍,造血器腫瘍,および炎症性疾患の治療に用いられる。現在臨床で使用されているモノクローナル抗体には以下の種類がある:

  • マウス抗体

  • キメラ抗体

  • ヒト化抗体

  • 完全ヒト型抗体

マウスモノクローナル抗体は,マウスに抗原を注射し,その脾臓を摘出して抗原特異的抗体を産生するB細胞を採取し,マウス由来の不死化骨髄腫細胞と融合することで作製したハイブリドーマ細胞を増殖させて(例,細胞培養で)抗体を採取することによって生産される。マウス抗体はヒト抗体と似ているが,マウスモノクローナル抗体はヒトで抗マウス抗体産生を誘導して免疫複合体血清病(III型 過敏反応 過敏反応の分類 アレルギー性(アトピー性を含む)およびその他の過敏性疾患は,外来抗原に対する不適切または過剰な免疫応答である。不適切な免疫応答には,内在性の身体成分に対する誤った反応も含まれ,これが 自己免疫疾患を招く。 過敏反応は,ゲル-クームス分類によって4種類の型に分けられる。過敏性疾患には複数の型が含まれることが多い。... さらに読む )を引き起こし,速やかに除去されるため,臨床での用途は限られている。

純粋なマウスモノクローナル抗体に起因する問題を最小限に抑えるため,一部がヒトで一部がマウスのモノクローナル抗体を作り出す組換えDNA技術が用いられている。ヒトの抗体分子が占める比率に応じて,最終産物は以下のいずれかの名称で呼ばれる:

  • キメラ抗体

  • ヒト化抗体

いずれの場合も生産工程は通常,上述のように求める抗原に対する抗体を作るマウスのハイブリドーマ細胞の作製から始まる。次に,マウスモノクローナル抗体の可変領域の一部または全てに対応するDNAをヒト免疫グロブリンに対応するDNAと結合する。その結果としてできたDNAを哺乳動物の培養細胞に移入すると,結合してできた遺伝子を発現し,求める抗体を作り出す。可変領域全体に対応するマウスの遺伝子をヒトの定常領域に接合した場合は,その産物を「キメラ抗体」と呼ぶ。可変領域のうち抗原結合超可変領域のみに対応するマウスの遺伝子を用いた場合は,その産物を「ヒト化抗体」と呼ぶ。

キメラモノクローナル抗体は,マウスモノクローナル抗体よりも効果的に抗原提示細胞(APC)およびT細胞を活性化するが,依然としてヒト抗キメラ抗体の産生を誘導する可能性がある。

多様な抗原に対するヒト化モノクローナル抗体大腸癌 大腸癌 大腸癌は極めてよくみられる。症状としては血便や排便習慣の変化などがある。いくつかある方法のうち1つを用いたスクリーニングを,適切な集団に対して行うことが推奨される。診断は大腸内視鏡検査による。治療は外科的切除とリンパ節転移に対する化学療法である。 米国では,大腸癌の年間症例数は推定147,950例,年間死亡数は53,200例である( 1)。およそ40~50歳で発生率が急激に高まる。全症例の半数以上が直腸およびS状結腸で発生し,95%は腺... さらに読む 大腸癌 乳癌 乳癌 乳癌は乳管や小葉の腺性の乳腺細胞を侵す。大半の患者に無症状の腫瘤があり,それらは診察やスクリーニングのマンモグラフィーで発見される。診断は生検により確定される。治療としては通常,外科的切除と,しばしば放射線療法との併用,場合によりアジュバント化学療法,ホルモン療法,またはその両方を施行することなどが含まれる。 米国では,白人,黒人,アジア系/太平洋諸島系,アメリカンインディアン/アラスカ先住民,ヒスパニック系の女性において,乳癌はがんに... さらに読む 乳癌 白血病 白血病の概要 白血病は,未成熟または異常な白血球の過剰産生が起きることで,最終的に正常な血球の産生が抑制され,血球減少に関連する症状が現れる悪性疾患である。 白血化は,自己複製能が少し制限された造血前駆細胞レベルで生じることもあるが,通常は多能性幹細胞の段階で発生する。異常な増殖,クローン性増殖,異常な分化,およびアポトーシス(プログラム細胞死)の低下... さらに読む ,アレルギー,自己免疫疾患,移植片拒絶,および RSウイルス感染症 RSウイルス(RSV)感染症およびヒトメタニューモウイルス感染症 RSウイルス感染症とヒトメタニューモウイルス感染症は,特に乳児および幼児において,季節性の下気道疾患を引き起こす。無症候性ないし軽症で済むこともあれば,細気管支炎や肺炎を伴った重症となることもある。診断は臨床的に行うのが通常であるが,臨床検査による診断も可能である。治療は支持療法による。 ヒトに感染するウイルスの大半は成人と小児の両方に感染するが,それらについては本マニュアルの別の箇所で考察されている。新生児に特異的な影響を及ぼすウイル... さらに読む の治療に対して利用可能である。

完全ヒト型モノクローナル抗体は,ヒト免疫グロブリン遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを使用するか,ヒトB細胞から単離した免疫グロブリン遺伝子のファージディスプレイ(すなわち,バクテリオファージベースのクローニング技術)を利用して作製される。完全ヒト型モノクローナル抗体は免疫原性が低いため,患者への有害作用が少ないと考えられる。

抗腫瘍応答のダウンレギュレーションを防ぎ,従来の治療抵抗性のがんの一部を効果的に治療するために,T細胞上または腫瘍細胞上のチェックポイント分子を標的とするモノクローナル抗体(免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる― 臨床で用いられている主な免疫療法薬 臨床で用いられている主な免疫療法薬 臨床で用いられている主な免疫療法薬 の表を参照)が用いられている。しかしながら,免疫チェックポイント分子は他の種類の免疫応答にも関与するため,免疫チェックポイント阻害薬は免疫関連の重度の炎症反応および自己免疫反応(全身性および臓器特異的のいずれも起こりうる)を引き起こす可能性がある。

融合タンパク質

このようなハイブリッドタンパク質は,2種類の異なるタンパク質の全てまたは一部をコードする遺伝子配列を結合することによって,親分子から望ましい特性を取り入れたキメラのポリペプチド(例,細胞毒素を結合した細胞標的成分)を作り出す。治療用タンパク質の血中半減期は,もともと血清中半減期の長い他のタンパク質(例,IgGのFc領域)と融合することによって改善できることも多い。

可溶性サイトカイン受容体

サイトカイン受容体の可溶型は,治療薬として用いられる。サイトカインが正常細胞表面の受容体に結合する前に可溶性サイトカイン受容体と結合することによってサイトカインの作用が阻害される。

融合タンパク質のエタネルセプトは,腫瘍壊死因子(TNF)αに対するCD120b受容体に由来する2本の同一鎖から成る。そのため,この薬剤はTNF-αを阻害し, 関節リウマチ 関節リウマチ(RA) 関節リウマチ(RA)は,主に関節を侵す慢性の全身性自己免疫疾患である。RAは,サイトカイン,ケモカイン,およびメタロプロテアーゼを介した損傷を引き起こす。特徴として,末梢関節(例,手関節,中手指節関節)に対称性に炎症が生じ,結果として関節構造が進行性に破壊される(通常は全身症状を伴う)。診断は特異的な臨床所見,臨床検査結果,および画像所見に基づく。治療としては,薬物療法,理学療法,およびときに手術を行う。疾患修飾性抗リウマチ薬は症状のコ... さらに読む 関節リウマチ(RA) ,多関節型 若年性特発性関節炎 若年性特発性関節炎(JIA) 若年性特発性関節炎は,16歳までに発症するリウマチ性疾患の一群である。関節炎,発熱,発疹,リンパ節腫脹,脾腫,および虹彩毛様体炎が,一部の病型で典型的である。診断は臨床的に行う。治療としては,コルチコステロイドの関節内注射,および疾患修飾性抗リウマチ薬などがある。 若年性特発性関節炎(JIA)はまれである。JIAの原因は不明であるが,遺伝... さらに読む 若年性特発性関節炎(JIA) 強直性脊椎炎 強直性脊椎炎 強直性脊椎炎は,代表的な 脊椎関節症であり,体幹骨,末梢の大関節,および指の炎症,夜間の背部痛,背部のこわばり,脊柱後弯症の増強,全身症状,大動脈炎,心伝導異常,ならびに前部ぶどう膜炎を特徴とする全身性疾患である。診断には,X線上で仙腸関節炎を示す必要がある。治療は,非ステロイド系抗炎症薬および/または腫瘍壊死因子阻害薬もしくはインターロイキン17(IL-17)阻害薬と関節の柔軟性を維持する理学療法による。... さらに読む 強直性脊椎炎 乾癬性関節炎 乾癬性関節炎 乾癬性関節炎は 脊椎関節症の1つであり,皮膚または爪に乾癬のある人に生じる慢性の炎症性関節炎である。乾癬性関節炎は非対称性であることが多く,病態によっては遠位指節間関節が侵される。診断は臨床的に行う。治療には疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)と生物学的製剤を使用する。 乾癬性関節炎は 乾癬患者の約30%に発生する。AIDS患者では有病率が高い。ヒト白血球抗原B27(HLA-B27)アレルまたは他の特異的な一部のアレルを有する患者,およ... さらに読む 乾癬性関節炎 ,および 尋常性乾癬 乾癬 乾癬は,銀白色の鱗屑で覆われた境界明瞭な紅色の丘疹および局面として生じることが最も多い炎症性疾患である。遺伝因子を含めて,複数の因子が寄与する。よくみられる誘因として,外傷,感染,特定の薬剤などがある。症状は通常軽微であるが,軽度から重度のそう痒が生じることがある。整容的な面で重大となることがある。疼痛を伴う関節炎を合併する重症例もある(... さらに読む 乾癬 の治療に用いられる。

可溶性インターロイキン(IL)受容体(例,IL-1,IL-2,IL-4,IL-5,およびIL-6に対する受容体)が炎症性疾患,アレルギー疾患,およびがんの治療に対して開発中である。

遺伝子組換えサイトカイン

コロニー刺激因子(CSF)として,エリスロポエチン,顆粒球CSF(G-CSF),顆粒球マクロファージCSF(GM-CSF)などが血液疾患やがんに対する化学療法または移植を受けた患者および重度の慢性好中球減少症の患者に用いられている(臨床で用いられている主な免疫療法薬 臨床で用いられている主な免疫療法薬 臨床で用いられている主な免疫療法薬 の表を参照)。インターフェロンα(IFN-α)およびIFN-γは,がん,免疫不全疾患,およびウイルス感染症の治療に用いられている;IFN-βは,再発した 多発性硬化症 多発性硬化症(MS) 多発性硬化症(MS)は,脳および脊髄における散在性の脱髄斑を特徴とする。一般的な症状としては,視覚および眼球運動異常,錯感覚,筋力低下,痙縮,排尿機能障害,軽度の認知症の症状などがある。典型的には複数の神経脱落症状がみられ,寛解と増悪を繰り返しながら,次第に能力障害を来す。診断には,時間的・空間的に独立した複数の特徴的な神経病変(部位は中枢神経系)を示す臨床所見またはMRI所見を必要とする。治療法としては,急性増悪に対するコルチコステロ... さらに読む 多発性硬化症(MS) の治療に用いられている。他にも多くのサイトカインが研究段階にある。

関節リウマチの治療に用いられるアナキンラ(anakinra)は,自然界に存在するIL-1R拮抗物質をわずかに改変した遺伝子組換え型である;この薬剤はIL-1受容体に結合して,IL-1の結合を阻止するが,IL-1と違い,受容体を活性化させることはない。

サイトカイン受容体を発現する細胞は,関連するサイトカインの修飾型によって標的にできる可能性がある(例,IL-2由来およびジフテリア毒素由来の遺伝子配列を含む融合タンパク質であるデニロイキンジフチトクス)。デニロイキン(denileukin)は,皮膚T細胞リンパ腫に用いられており,IL-2受容体のCD25成分を発現する細胞を標的に毒素を送達する。

低分子ミメティクス

小さな直鎖状ペプチド,環状ペプチド,および小さな有機分子が様々な用途の作動薬または拮抗薬として開発されている。ペプチドおよび有機化合物のスクリーニングライブラリーにより,可能性のあるミメティクス(例,エリスロポエチン,トロンボポエチン,およびG-CSFの受容体に対する作動薬)を同定できる。

細胞療法

免疫系の細胞を採取して(例,白血球除去療法により),in vitroで活性化させ,患者の体内に戻す。この目的は,正常ではがんに対する不十分な自然免疫応答を増強することである。免疫細胞を活性化する方法としては,サイトカインを用いて抗腫瘍性の細胞傷害性T細胞を刺激してその数を増加させる方法や,樹状細胞などの抗原提示細胞を腫瘍抗原にパルス的に曝露させる方法などがある。T細胞を患者に戻す前に,腫瘍抗原を認識できるキメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を発現するように遺伝子改変を加えることが可能であり,このアプローチは 白血病 白血病の概要 白血病は,未成熟または異常な白血球の過剰産生が起きることで,最終的に正常な血球の産生が抑制され,血球減少に関連する症状が現れる悪性疾患である。 白血化は,自己複製能が少し制限された造血前駆細胞レベルで生じることもあるが,通常は多能性幹細胞の段階で発生する。異常な増殖,クローン性増殖,異常な分化,およびアポトーシス(プログラム細胞死)の低下... さらに読む および リンパ腫 リンパ腫の概要 リンパ腫は,網内系およびリンパ系から発生する不均一な一群の腫瘍である。ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別される( ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の比較の表を参照)。 リンパ腫はかつて, 白血病とは全く異なる疾患と考えられていた。しかし現在では,細胞マーカーとそれらのマーカーを評価するツールについて理解が深まったことで,これら... さらに読む の患者において効力が示されている。

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