免疫不全症が疑われる患者へのアプローチ

執筆者:James Fernandez, MD, PhD, Cleveland Clinic Lerner College of Medicine at Case Western Reserve University
レビュー/改訂 2019年 12月
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免疫不全症は,典型的には反復性感染症として現れる。しかしながら,反復性感染症には免疫不全症以外の原因がある可能性が高い(例,不十分な治療,耐性菌,感染症の素因となる他の疾患)。診断には臨床所見と臨床検査所見の両方が必要である。

免疫不全疾患の概要も参照のこと。)

免疫不全症には以下の種類がある:

  • 原発性:遺伝性で,典型的には乳児期または小児期に現れる

  • 続発性:後天性

続発性免疫不全症には多くの原因があるが,大抵の免疫不全症は,以下のうち1つまたは複数のものに由来する:

  • 全身性疾患(例,糖尿病低栄養HIV感染症

  • 免疫抑制療法(例,細胞傷害性薬剤による化学療法,移植前の骨髄破壊的処置,放射線療法)

  • 長期にわたる重篤な疾病(特に重症[critically ill]患者,高齢患者,および/または入院患者)

原発性免疫不全症は,以下の免疫系の主な構成要素の欠乏,欠失,または欠陥によって分類される:

免疫不全症の臨床像

免疫不全症は,典型的には反復性感染症として現れる。しかし,小児でより可能性の高い反復性感染症の原因は,保育所または学校で感染症に繰り返し曝露することであり(乳児および小児は,正常でも最多で年に10回の呼吸器感染症に罹患する可能性がある),小児および成人でより可能性の高い原因は,抗菌薬による治療期間が不十分であること,耐性菌,および感染の素因となる他の疾患(例,先天性心疾患アレルギー性鼻炎尿管狭窄または尿道狭窄,線毛不動症候群,喘息嚢胞性線維症,重度の皮膚炎)である。

反復性感染症が以下に該当する場合,免疫不全症を疑うべきである

  • 重度

  • 合併症がある

  • 複数の部位にみられる

  • 治療抵抗性である

  • まれな微生物を原因とする

  • 家系員にみられる

免疫不全症による初期の感染症は,典型的には上気道および下気道の感染症(例,副鼻腔炎気管支炎肺炎)ならびに胃腸炎であるが,重篤細菌感染症(例,髄膜炎敗血症)である場合もある。

慢性の下痢および発育不良がみられる乳児または幼児でも免疫不全症を疑うべきであり,まれなウイルス(例,アデノウイルス)または真菌(例,Cryptosporidium)によって下痢が引き起こされている場合は,特にこの診断の可能性が高い。その他の徴候には,皮膚病変(例,湿疹,疣贅,膿瘍,膿皮症,脱毛症),口腔または食道カンジダ症,口腔内潰瘍,および歯周炎などがある。

比較的頻度の低い症状としては,単純ヘルペスウイルスまたは水痘帯状疱疹ウイルスによる重度のウイルス感染症や中枢神経系障害(例,慢性脳炎,発育遅延,痙攣性疾患)などがある。抗菌薬を頻繁に使用すると,一般的な症状と徴候の多くを隠してしまうことがある。特に感染症および自己免疫疾患(例,溶血性貧血血小板減少症)に罹患している患者では,免疫不全症を考慮すべきである。

免疫不全症が疑われる患者の評価

病歴および身体診察は参考になるが,免疫機能検査により補完しなければならない。出生前検査は多くの疾患について利用でき,免疫不全症の家族歴があり,家系員に変異が確認されていれば適応となる。

病歴

医師は,感染症の危険因子,または続発性免疫不全症の症状の病歴および/またはその危険因子がないかを判定すべきである。家族歴が非常に重要である。

反復性感染症が始まった年齢は重要である:

  • 通常は生後6~9カ月間にわたり母親からの移行抗体によって防御されるため,6カ月未満の発症ではT細胞の異常が示唆される。

  • 生後6~12カ月での発症では,B細胞およびT細胞の両方の異常またはB細胞の異常が示唆される場合があり,これらは母体からの移行抗体が消失するころ(生後約6カ月)に明らかとなる。

  • 生後12カ月よりかなり後の発症では,B細胞の異常または続発性免疫不全症が通常示唆される。

一般に,小児で発症年齢が低いほど免疫不全症が重度である。多くの場合,他の特定の原発性免疫不全症(例,分類不能型免疫不全症[CVID])は,成人期まで発現しない。

特定の感染症から特定の免疫不全疾患が示唆される場合があるが(患者の病歴から得られる免疫不全症の種類に対する手がかりの表を参照),1つの疾患に特異的な感染症はなく,多くの場合には頻度の高い特定の感染症(例,呼吸器のウイルスまたは細菌感染症)が発生する。

表&コラム

身体診察

免疫不全症の患者では,慢性的に疾患がみられることも,みられないこともある。斑状発疹,小水疱,膿皮症,湿疹,点状出血,脱毛症,または毛細血管拡張が明らかになることがある。

X連鎖無ガンマグロブリン血症,X連鎖高IgM症候群重症複合免疫不全症(SCID),および他のT細胞免疫不全症では,反復性感染症の病歴があるにもかかわらず,頸部リンパ節,アデノイド組織,および扁桃組織が典型的には非常に小さいか消失している。他の特定の免疫不全症(例,慢性肉芽腫症)では,頭頸部のリンパ節が肥大して化膿性を示すことがある。

鼓膜に瘢痕または穿孔がみられることがある。外鼻孔に痂皮形成がみられることがあり,これは膿性鼻汁を示唆する。慢性咳嗽や断続性ラ音がよくみられ,特にCVIDの成人で多い。

CVIDまたは慢性肉芽腫症の患者では,肝臓および脾臓が肥大することが多い。筋肉量および殿部の脂肪沈着が減少する。

乳児では,慢性的な下痢のために肛門周囲の皮膚がただれることがある。神経学的診察によって,発達遅滞または運動失調が発見されることがある。

他の特徴的な所見により,暫定的に臨床診断が示唆される(一部の原発性免疫不全症に特徴的な臨床所見の表を参照)。

表&コラム

初回検査

特定の続発性免疫不全症が臨床的に疑われる場合は,当該疾患(例,糖尿病HIV感染症嚢胞性線維症原発性線毛機能不全症)に焦点を合わせた検査を行うべきである。

免疫不全症の診断を確定する検査が必要である(免疫不全症の初回および追加臨床検査の表を参照)。初回スクリーニング検査には以下を含めるべきである:

  • 目視法による白血球分画と血算

  • 免疫グロブリン(Ig)の定量

  • 抗体価

  • 遅延型過敏反応に対する皮膚テスト

表&コラム

結果が正常であれば,免疫不全症(特にIg欠損症)を除外できる。結果が異常であれば,具体的な異常を同定するために,専門の検査機関でさらに検査が必要である。慢性感染症が客観的に証明された場合は,初回検査および特異的検査を同時に実施してもよい。免疫不全症がまだ進展している可能性が疑われる場合は,確定診断を行う前に,経時的なモニタリングとともに,検査を繰り返す必要が生じることがある。

血算により,特定の疾患に特徴的な1種類以上の血球(例,白血球,血小板)において,以下に挙げるような異常を検出できる:

  • 好中球減少症(好中球数が1200/μL[1.2 x 109/L]未満)は,先天性の場合も周期性の場合もあり,再生不良性貧血で起こることもある。

  • 循環リンパ球の70%がT細胞であるため,リンパ球減少症(リンパ球数が出生時に2000/μL[2.0 x 109/L]未満,生後9カ月で4500/μL[4.5 x 109/L]未満,またはこれより年長の小児または成人で1000/μL[1.0 x 109/L]未満)があれば,T細胞疾患が示唆される。

  • 白血球増多症のうち感染症の消失後も持続するものは,白血球接着不全症で起こることがある。

  • 血小板減少症は,男子乳児の場合,ウィスコット-アルドリッチ症候群を示唆する。

  • 貧血は,慢性疾患による貧血または自己免疫性溶血性貧血を示唆している場合があり,CVIDおよび他の免疫不全症で起こることがある。

しかし,多くの異常は,感染症,薬物使用,または他の要因による一過性の症状である;そのため,異常を確認して経過観察すべきである。

血液塗抹標本でハウエル-ジョリー小体(赤血球内に残留した核の断片)および他の異常な赤血球形態を調べるべきであり,それにより原発性無脾症または脾機能障害が示唆される。顆粒球に形態学的異常(例,チェディアック-東症候群における巨大顆粒)がみられることがある。

血清中Ig濃度を定量的に測定する。IgG,IgM,またはIgAの血清中濃度が低いと,抗体欠損が示唆されるが,同年齢層の対照群と比較しなければならない。IgG濃度が200mg/dL(2g/L)未満であれば,通常著しい抗体欠損を示すが,このような低値がタンパク漏出性胃腸症またはネフローゼ症候群でみられることもある。

IgM抗体は,同種血球凝集素価(抗A,抗B)を測定することによって評価できる。生後6カ月未満の乳児および血液型がAB型の人を除く全ての患者は,1:8以上(抗A)または1:4以上(抗B)の力価の自然抗体を有する。特定の疾患(例,ウィスコット-アルドリッチ症候群,IgG2完全欠損症)では,A型およびB型血液に対する抗体ならびに一部の細菌多糖体に対する抗体が選択的に欠損している。

IgG抗体価は,予防接種を受ける患者でワクチン抗原(インフルエンザ菌[Haemophilus influenzae]b型,破傷風,ジフテリア,結合型または非結合型肺炎球菌,および髄膜炎菌の各抗原)を接種する前後の抗体価を測定することによって算定できる;接種後2~3週間での抗体価上昇が2倍未満であれば,Ig値にかかわらず抗体欠損が示唆される。自然抗体(例,抗ストレプトリジンO抗体,異好抗体)を測定することもある。

皮膚テストで,免疫能が正常な成人,乳児,および小児のほとんどは,皮内に注射した0.1mLのCandida albicans抽出物(乳児に対しては1:100に希釈,より年長の小児および成人に対しては1:1000に希釈)に反応する。24,48,および72時間後の5mmを超える紅斑および硬結として定義した陽性反応が認められた場合は,T細胞疾患が除外される。Candida属真菌に曝露したことのない患者では,反応がみられないとしても,免疫不全症が確定するわけではない。

胸部X線撮影は,一部の乳児で有用なことがある;胸腺陰影がみられなければT細胞疾患が示唆され,特に胸腺を萎縮させうる感染症または他のストレスが発生する前にX線撮影を施行した場合は,この疾患の可能性が高い。咽頭X線側面像で,アデノイド組織の欠如が判明することがある。

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追加検査

臨床所見または初回検査で,免疫細胞または補体機能の具体的な障害が示唆された場合,他の検査が適応となる。

患者に反復性感染症およびリンパ球減少症が認められた場合,リンパ球欠損を確認するために,フローサイトメトリーならびにT細胞,B細胞,およびナチュラルキラー(NK)細胞に対するモノクローナル抗体を用いたリンパ球の表現型検査が適応となる。

細胞性免疫不全が疑われる場合,血算と白血球分画を行ってリンパ球絶対数が少ない乳児を確認できる。リンパ球数が少ないまたは欠如していることが検査で明らかになった場合,フローサイトメトリーアッセイに続いてin vitroでのマイトジェン刺激試験を行ってT細胞の量と機能を評価する。主要組織適合抗原複合体(MHC)抗原の欠損が疑われる場合,血清学的(遺伝子ではなく)ヒト白血球抗原(HLA)タイピングが適応となる。現在米国の全ての州で,T細胞受容体切除サークル(TREC)による新生児のスクリーニングを行い,T細胞の欠如や機能不全を評価している。

液性免疫不全が疑われる場合,例えば,ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK),CD40およびCD40リガンド,ならびにNEMO(NF-κB essential modulator)をコードする遺伝子の特定の変異について検査を行うことがある。汗試験は典型的には嚢胞性線維症を除外するための評価時に行う。

細胞性免疫および液性免疫の複合免疫不全があり,SCIDが疑われる場合,特定の(例,インターロイキン2[IL-2]受容体γ鎖[IL-2RG,またはIL-2Rγ]の遺伝子における)典型的変異について検査することがある。

食細胞の異常が疑われる場合,フローサイトメトリーによりCD15およびCD18を測定し,好中球走化性を調べる。フローサイトメトリーによる活性酸素産生能(呼吸バースト)測定(ジヒドロローダミン 123[DHR]またはニトロブルーテトラゾリウム[NBT]によって測定)で,食作用で酸素ラジカルが産生されるかどうかを検出できる;産生がないことが慢性肉芽腫症の特徴である。

感染の種類またはパターンから補体欠損が示唆される場合は,抗体で覆われた赤血球を50%溶解するのに必要な血清希釈率を計測する。この試験(CH50と呼ばれる)では,古典経路における補体成分の欠損を検出できるが,どの補体成分に異常があるかは示せない。同じような試験(AH50)が副経路における補体成分の欠損を検出するために実施できる。

診察またはスクリーニング検査でリンパ球または食細胞の異常を示唆する所見を検出した場合は,他の検査を行うことでより正確に具体的な疾患の特徴を明らかにできる(免疫不全症に対する特異的で高度な臨床検査の表を参照)。

まれな特徴を有する免疫不全疾患を解明するために遺伝子シーケンス法が用いられることが増えてきている。

表&コラム

出生前診断および出生時診断

絨毛採取,羊膜細胞培養,または胎児血液採取により,ますます多くの原発性免疫不全症が出生前に診断可能となっているが,こうした検査は,家系員に変異がすでに同定されている場合にのみ用いられる。

X連鎖無ガンマグロブリン血症ウィスコット-アルドリッチ症候群毛細血管拡張性運動失調症X連鎖リンパ増殖症候群SCIDの全ての型(TREC検査を用いて,米国では現在全ての新生児がスクリーニングされている),および慢性肉芽腫症の全ての型を検出できる。

X連鎖疾患を除外するために,超音波検査による性別判定が利用可能である。

免疫不全症が疑われる患者の予後

予後は,原発性免疫不全症の種類で異なる。

Ig欠損または補体欠損の患者では,早期に診断されて適切な治療を受け,かつ慢性疾患(例,気管支拡張症などの肺疾患)を合併していなければ,ほとんどの予後が良好で余命も正常に近い。

その他の免疫不全症の患者(例,食細胞の異常,またはウィスコット-アルドリッチ症候群もしくは毛細血管拡張性運動失調症などの複合免疫不全症の患者)は予後について慎重な監視を要する;ほとんどが集中的かつ頻繁な治療を要する。

一部の免疫不全症の患者(例,SCIDの患者)は,移植により免疫機能を回復させない限り,乳児期に死亡する。新生児でT細胞受容体切除サークル(TREC)検査をルーチンに実施した場合,全ての病型のSCIDを出生時に診断できる。迅速な診断が生存に不可欠であるため,小児科における真の緊急事態であるSCIDに対して疑念を高くしておかなければならない。生後3カ月になる前にSCIDと診断された場合,適合または半適合(HLA半合致)の血縁者からの幹細胞の移植で,95%を救命できる。

パール&ピットフォール

  • 早期死亡を防ぐために,全ての新生児に対してT細胞受容体切除サークル(TREC)検査を用いたSCIDのスクリーニングを積極的に検討する。

免疫不全症が疑われる患者の治療

  • 生ワクチンと感染曝露の回避

  • 抗菌薬およびときに手術

  • 欠損している免疫成分の補充

免疫不全疾患の治療には一般に,感染予防,急性感染症の管理,および可能な場合は欠損している免疫成分の補充などがある。

感染予防

感染は,環境性曝露を避けるよう患者に助言するとともに,生ウイルスワクチン(例,水痘,ロタウイルス,麻疹,ムンプス,風疹,帯状疱疹,黄熱病,経口ポリオ,経鼻インフルエンザワクチン)またはBCG(カルメット-ゲラン桿菌)を接種しないことによって予防できる可能性がある。肺炎球菌,髄膜炎菌,およびインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)b型(Hib)の各ワクチンが推奨されるリスク特異的なワクチンであるが,これらの有効性は免疫不全症の程度によって異なる。

重篤な感染症のリスクがある患者(例,SCID,慢性肉芽腫症,ウィスコット-アルドリッチ症候群,または無脾症の患者),または特異的感染症(例,T細胞疾患の患者におけるPneumocystis jirovecii感染症)のリスクがある患者には,抗菌薬を予防投与できる(例,トリメトプリム/スルファメトキサゾール5mg/kgを1日2回経口投与)。

輸血後の移植片対宿主病を予防するためには,サイトメガロウイルス陰性のドナー由来の血液製剤を用いるべきである;製剤はフィルターを通して白血球を取り除き放射線(15~30Gy)を照射する。

急性感染症の管理

適切な培養を手配した後に,可能性の高い原因菌を標的とした抗菌薬を迅速に投与すべきである。ときに手術(例,膿瘍からの排膿)が必要である。

通常,易感染性患者では,自然に軽快するウイルス感染症でも重度の持続性疾患を引き起こす。抗ウイルス薬(例,インフルエンザに対してオセルタミビル,ペラミビル,ザナミビル;単純ヘルペスおよび水痘帯状疱疹感染症に対してアシクロビル;RSウイルスまたはパラインフルエンザ3型感染症に対してはリバビリン)で救命できることがある。

欠損している免疫成分の補充

こういった補充が感染予防に役立つ。複数の原発性免疫不全症に用いられる治療法としては以下のものがある:

  • 免疫グロブリン静注療法(IVIG)は,抗体欠損症のほとんどの病型に対して効果的な補充療法である。通常の用量は400mg/kgの1カ月1回の投与である;治療はゆっくりした投与速度で開始する。一部の患者では,より高い用量またはより頻回の投与が必要である。従来の用量では十分に反応しない一部の抗体欠損症患者(特に慢性肺疾患を有する場合)には,IVIG 800mg/kgの1カ月1回投与が有用である。高用量IVIGの目的は,IgGのトラフ濃度を正常範囲(> 600mg/dL[> 6 g/L])に維持することである。

  • 皮下注用免疫グロブリン製剤(SCIG)はIVIGの代わりに投与できる。SCIGは家庭で,通常は患者自身が投与する。通常の用量は100~150mg/kg,週1回である。SCIGとIVIGは生物学的利用能が異なるため,IVIGからSCIGに切り替えた患者では,用量の調節が必要になることがある。SCIGでは,注射部位の反応が起こるリスクがあるが,SCIGは全身性の有害作用はより少ないようである。

  • 骨髄,臍帯血,または成人の末梢血幹細胞を用いる造血幹細胞移植は,致死性のT細胞免疫不全症およびその他の免疫不全症に効果的である。T細胞が欠失した患者(例,SCID患者)に移植前化学療法は不要である。しかし,T細胞機能が損なわれていない患者またはT細胞欠損が部分的な患者(例,ウィスコット-アルドリッチ症候群,T細胞機能は不十分であるが欠如はしていない複合免疫不全症)では,移植片が確実に生着するように,移植前化学療法が必要である。適合同胞ドナーが得られない場合,HLA半合致の親から採取した骨髄を用いることができる。そのような場合,移植前に親の骨髄から移植片対宿主病を起こす成熟T細胞を徹底的に除去しなければならない。HLAが適合する同胞の臍帯血も,幹細胞の供給源として使用できる。場合によっては,適合する非血縁ドナーの骨髄または臍帯血が使用できるが,移植片対宿主病を予防するために移植後に免疫抑制薬が必要であり,その使用によって免疫機能の回復が遅れる。

研究段階の治療

遺伝子治療とは,疾患を引き起こすことが知られている遺伝子の欠損または機能不全が是正されることを期待して,外来遺伝子(導入遺伝子)を1つまたは複数の種類の細胞に導入する治療である。

γ-レトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療は,アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症(SCIDの一種)に用いられており,治療の結果,がん遺伝子にベクターが挿入され,治癒する場合もある;現在のところ白血病は発生していない。

慢性肉芽腫症のマウスモデルでは,CRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats and CRISPR-associated protein 9)技術がCYBB変異の修正に用いられている。

Artemis欠損症のヒトおよびマウスモデルの幹細胞を用いた非臨床試験では,ヒトArtemisプロモーターの内部の転写調節下でヒトArtemis DCLRE1C cDNAを送達するレンチウイルスベクターが欠損を修正するために用いられた(1)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Punwani D, Kawahara M, Sanford U, et al: Lentivirus mediated correction of Artemis-deficient severe combined immunodeficiency.Hum Gene Ther 28: 112–124, 2017. doi: 10.1089/hum.2016.064

免疫不全症が疑われる場合の要点

  • 感染症が異常に頻発もしくは重度の場合,特に家系員にみられる場合,または患者が鵞口瘡,口腔内潰瘍,歯周炎,もしくは特定の皮膚病変を有する場合は,原発性免疫不全症を考慮する。

  • 皮膚,全ての粘膜,リンパ節,脾臓,および直腸を含め,徹底した身体診察を行う。

  • 血算(目視法による白血球分画を含む),定量的免疫グロブリン値,抗体価の検査,および遅延型過敏症に対する皮膚テストを開始する。

  • 疑われる免疫不全の種類(液性免疫,細胞性免疫,食細胞の異常,または補体欠損)に基づいて追加の検査を選択する。

  • 免疫不全症が確認された家系員がいる場合は,胎児の検査(例,胎児の血液,絨毛採取,または羊膜細胞培養を用いた検査)を行う。

  • 感染を回避する方法を患者に教え,適応となるワクチンを接種し,特定の疾患がある患者には予防的抗菌薬を処方する。

  • 抗体欠損に対して免疫グロブリン補充,および重度の免疫不全症で,特にT細胞の免疫不全症に対して造血幹細胞移植を考慮する。

  • 遺伝子治療はまだ研究段階であるが,今後研究が進むことで将来的には実現可能な選択肢となる可能性がある。

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