ウィスコット-アルドリッチ症候群(Wiskott-Aldrich syndrome)は,B細胞およびT細胞両方の異常に起因し,反復性感染症,湿疹,および血小板減少症を特徴とする。
(免疫不全疾患の概要および免疫不全疾患が疑われる患者へのアプローチも参照のこと。)
ウィスコット-アルドリッチ症候群は,液性免疫および細胞性免疫の複合免疫不全が関与する原発性免疫不全症である。
遺伝形式はX連鎖劣性である。ウィスコット-アルドリッチ症候群は,正常なB細胞およびT細胞のシグナル伝達に必要な細胞質タンパク質であるWiskott-Aldrich症候群タンパク質(WASP)をコードする遺伝子の変異によって引き起こされる。
B細胞およびT細胞の機能が損なわれているため,化膿性細菌および日和見病原体,特にウイルスおよびPneumocystis jiroveciiによる感染症が起こる。水痘帯状疱疹ウイルスおよび単純ヘルペスウイルスによる感染症がよくみられる。
ウィスコット-アルドリッチ症候群の症状と徴候
初発症状は出血性(通常,血性下痢)のことが多く,反復性の呼吸器感染症,湿疹,および血小板減少症が続く。
がん,特にB細胞リンパ腫(EBV陽性)および急性リンパ性白血病が10歳以上の患者の約10%に発生する。
ウィスコット-アルドリッチ症候群の診断
免疫グロブリン定量
血小板数および血小板容積の評価
白血球機能検査(例,好中球走化性,T細胞機能)
ウィスコット-アルドリッチ症候群の診断は以下に基づいて行われる:
T細胞の減少および機能低下
IgEおよびIgA高値
IgM低値
IgG低値または正常
ナチュラルキラー細胞の細胞傷害性の低下
好中球走化性の障害
多糖体抗原(例,血液型抗原AおよびB)に対する抗体が選択的に欠損していることがある。血小板は小さく不完全で,脾臓での血小板破壊が増えて,血小板減少症を引き起こす。診断確定に遺伝子変異解析を用いることがある。
第1度近親者には遺伝子検査が推奨される。
リンパ腫および白血病のリスクが高いため,白血球分画を伴う血算を通常6カ月毎に行う。B細胞の機能不全に関連する症状の急性の変化には,さらに詳細な評価が必要である。
ウィスコット-アルドリッチ症候群の治療
予防的免疫グロブリン,抗菌薬,およびアシクロビルを用いる支持療法
症候性の血小板減少症に対しては,血小板輸血およびまれに脾臓摘出
造血幹細胞移植
ウィスコット-アルドリッチ症候群の治療としては,反復性の細菌感染を予防するための予防的抗菌薬投与および免疫グロブリン,重度の単純ヘルペスウイルス感染症を予防するためのアシクロビル,ならびに出血を治療するための血小板輸血がある。血小板減少症が重度であれば,脾臓摘出を行うことがあるが,敗血症のリスクが高まるため通常は避ける。
唯一確立した治療は造血幹細胞移植であるが,遺伝子治療が研究段階にある。
移植をしなければ,ほとんどの患者は15歳までに死亡する;ただし,成人期まで生存する患者もいる。