メルクマニュアル18版 日本語版
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はじめに

細菌は環状の二重鎖DNAおよび細胞壁をもつ(マイコプラズマ種を除く)微生物である。ヒトの病原体となるものはわずかしかない。細菌は形態など複数の基準によって分類される( 細菌および抗菌薬: 一般的な病原性細菌の分類表 1: 表参照)。形態は円柱(桿菌),球(球菌),またはらせん(スピロヘータ)である。数種類の球菌,多くの桿菌,ほとんどのスピロヘータが運動性である。グラム陽性菌はヨウ素固定およびアルコール脱色後にクリスタルバイオレット染色を保持し,一方,グラム陰性菌は保持しない。グラム陰性菌にはさらに,リポ多糖体(内毒素)を包む外膜がある。細菌はさらに莢膜に包まれることがあり(例,肺炎球菌インフルエンザ菌において),莢膜は食細胞による取り込みを防ぐ作用がある。他の要因も細菌の病原性を高めうる(感染性疾患の生物学: 微生物侵入を助長する要因を参照 )。

表 1

一般的な病原性細菌の分類

好気性vs嫌気性

タイプ

微生物

好気性

グラム陽性球菌,カタラーゼ陽性

黄色ブドウ球菌(コアグラーゼ陽性),表皮ブドウ球菌(コアグラーゼ陰性),他のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌

好気性

グラム陽性球菌,カタラーゼ陰性

エンテロコッカス-フェカーリスエンテロコッカス-フェシウムストレプトコッカス-アガラクティエ(B群連鎖球菌),ストレプトコッカス-ボービス肺炎球菌化膿レンサ球菌(A群連鎖球菌),ビリダンス群連鎖球菌, ストレプトコッカス-アンジサノスストレプトコッカス-ミュータンス

好気性

グラム陰性球菌

モラクセラ-カタラーリス, 淋菌, 髄膜炎菌

好気性

グラム陽性桿菌

炭疽菌, ジフテリア菌, クロストリジウム-ジェイケイム, 豚丹毒菌, ガルドネレラ-ヴァギナリス(グラム不定性)

好気性

抗酸菌

鳥型結核菌複合体,マイコバクテリウム-カンサシイ, ライ菌, 結核菌, ノカルジア

好気性

グラム陰性桿菌

腸内細菌科(シトロバクター種,エンテロバクター-エロゲネス大腸菌クレブシエラ種,モルガネラ-モルガニイプロテウス種,プロビデンシア-レトゲリチフス菌,その他のサルモネラ種,セラチア-マルセッセンス赤痢菌種,腸炎エルシニアペスト菌)

好気性

発酵性,非腸内細菌科

エロモナス-ヒドロフィラ, クロモバクテリウム-ビオラセウム, プレシオモナス-シゲロイドス, パスツレラ-マルトシダ, コレラ菌, ビブリオ-ブルニフィカス

好気性

非発酵性,非腸内細菌科

アシネトバクター-カルコアセチカス, フラボバクテリウム-メニンゴセプチカム,緑膿菌, シュードモナス-アルカリゲネス,その他のシュードモナス種,ステノトロホモナス-マルトフィリア

好気性

選好性グラム陰性球桿菌および桿菌

アクチノバシラス-アクチノミセタムコミタンス, 桿菌状バルトネラ, バルトネラ-ヘンセレ, バルトネラ-キンタナ, ブルセラ種,ボルデテラ種,エイケネラ-コローデンス, インフルエンザ菌,その他のヘモフィルス種,レジオネラ

好気性

弯曲桿菌

カンピロバクター-ジェジュニ, ヘリコバクター-ピロリ

好気性

クラミジア科

クラミジア-トラコマチス, クラミドフィラ-ニューモニエ, クラミジア-シッタシ

好気性

リケッチア

発疹チフスリケッチア, 斑点熱リケッチア

好気性

マイコプラズマ

肺炎マイコプラズマ

好気性

トレポネーマ科(らせん菌)

ボレリア-ブルグドルフェリ, レプトスピラ種,梅毒トレポネーマ

嫌気性

グラム陰性桿菌

バクテロイデス-フラジリス,その他のバクテロイデス種,フソバクテリウム種,プレボテラ

嫌気性

グラム陰性球菌

ベイヨネラ

嫌気性

非芽胞形成性グラム陽性桿菌

放線菌種,ビフィドバクテリウム種,ユーバクテリウム種,プロピオン酸菌

嫌気性

内生胞子形成性グラム陽性桿菌

ボツリヌス菌, クロストリジウム-パーフリンジェンス, 破傷風菌その他のクロストリジウム

嫌気性

グラム陽性球菌

双子菌モルビロルム, ペプトコッカス-ニガー, ペプトストレプトコッカス

好気性菌は空気の存在下で培養すると発育する。嫌気性菌は発育しない;通性菌は好気的にも嫌気的にも発育できる。一部の細菌(例,チフス菌レジオネラ種,マイコバクテリア種,ならびにクラミジアおよびクラミドフィラ種)は選択的に細胞内で生息,複製する。他のほとんどの細菌は細胞外で生息,複製する。

抗菌薬は細菌またはかび,あるいは新しく合成される。“抗生物質”は,しばしば“抗菌薬”と同義的に使用されるが,技術的には細菌またはカビから作られる抗菌薬のみを言う。抗菌薬には,細胞壁の合成阻害,細胞壁を破壊する酵素の活性化,細胞膜透過性の亢進,蛋白合成および核酸代謝の阻害など多くの作用機序がある。

抗菌薬はときに他の薬物と相互作用し,それらの薬物代謝の亢進または抑制もしくは他の様々な機序により,その薬物の血清濃度を増加あるいは低下させる。臨床上最も重要な相互作用には,治療可能比の低い薬物(すなわち,毒性濃度が治療濃度に近い)の関与がある;一般的な薬物を 細菌および抗菌薬: 主な抗生物質の相互作用表 2: 表に挙げる。

表 2

主な抗生物質の相互作用

薬物

毒性が増強されるもの

変化を受けないもの

ワルファリン

抗真菌アゾール

セフォペラゾン*

セフォテタン*

クロラムフェニコール

クラリスロマイシン

ドキシサイクリン

エリスロマイシン

フルオロキノロン系(シプロフロキサシン,レボフロキサシン,オフロキサシン)

メトロニダゾール

リファンピン(プロトロンビン時間短縮)

スルホンアミド系

アミノ配糖体系(静注)

セファロスポリン系(一部)

ペニシリン系

テトラサイクリン

トリメトプリム

テオフィリン

クラリスロマイシン

シプロフロキサシン

エリスロマイシン

リファンピンはテオフィリンの血中濃度を低下させる

アミノ配糖体系

アジスロマイシン

セファロスポリン系

メトロニダゾール

ペニシリン系

スルホンアミド系

テトラサイクリン

トリメトプリム

フェニトイン

抗真菌アゾール

クロラムフェニコール

シプロフロキサシン

イソニアジド

マクロライド系(エリスロマイシン,クラリスロマイシン,ジリスロマイシン)

トリメトプリム-スルファメトキサゾール

リファンピンはフェニトインの血中濃度を低下させる

アミノ配糖体系

セファロスポリン系

ペニシリン系

その他のフルオロキノロン系

ジゴキシン

アジスロマイシン

クラリスロマイシン

エリスロマイシン

テトラサイクリン

トリメトプリム

アミノ配糖体系

セファロスポリン系

ケトコナゾール

メトロニダゾール

フルオロキノロン系

ペニシリン系

スルホンアミド系

*これらはビタミンK依存性凝固因子を阻害し,抗血小板薬や血栓溶解薬と併用すると出血を増大させうる。

多くの抗菌薬は化学的に関連があり,それに従い分類分けされる。各クラスの薬物の構造および機能は類似するが,しばしば異なる薬理学および活性スペクトラムを示す。

抗菌薬の選択および使用

抗菌薬の使用は,臨床上または検査値により細菌感染が示唆される場合に限定するべきである。ウイルス性疾患または未分化型熱に対する使用は不適切であり,患者に何の利益もなく薬物による合併症を来し,耐性菌出現の原因となる。ある種の細菌感染(例,膿瘍,異物による感染)は外科的処置を必要とし,抗菌薬による単独治療には反応しない。

重篤な感染症に対する薬物の選択には,培養および抗生物質感受性試験が不可欠である。しかしながら,治療はしばしば培養結果を待たずに開始しなければならず,最も感染の可能性の高い菌に基づく選択(抗生物質の経験的選択)を余儀なくさせている。培養結果に基づく選択,経験的選択のいずれにしても,抗菌活性スペクトラムが最も狭域の薬物を使用するべきである。複数の病原体のうちいずれか1つが関与する(例,好中球減少患者の発熱),または複数の病原体に起因する(例,複数菌による嫌気性感染)と思われる重篤な感染症の経験的治療では,広域活性スペクトラムが望ましい。最も可能性の高い菌とその菌の抗菌薬に対する感受性は,地理的条件により様々であり(都市内,または1病院内においても),月毎に変化することもある。

殺菌薬はin vitroにおいて細菌を死滅させる。静菌薬はin vitroにおいて細菌の発育を抑制または停止させるが,細菌を殺そうとする生体の防御に依存する。

定量的検査法により,抗生物質がin vitroにおいて発育を阻害できる最小濃度(最小発育阻止濃度;MIC),または死滅させうる最小濃度(最小殺菌濃度すなわちMBC)が確定される。しかしながらin vivoにおける抗菌薬の有効性には,薬理学(例,吸収,分布,体液中や組織中の濃度,蛋白結合,排泄や代謝の速度),薬物相互作用や阻害物質の存在,宿主の防御機構など,他の因子が関与する。通常,in vitroにおける強い殺菌力が重要となるのは,宿主の局所的または全身的防御が弱い場合(例,心内膜炎,髄膜炎,好中球減少症または他の免疫不全患者の重篤な感染症)に限られる。

抗生物質に対する細菌学的応答の優勢的決定因子は,抗生物質の血中濃度がMICを上回る期間(時間依存),またはMICと比較した血中ピーク濃度(濃度依存)のいずれかである。βラクタム系抗生物質およびバンコマイシンは時間依存の殺菌活性を示す。これらの濃度をMIC以上に増やしても殺菌活性率は増加せず,in vivoにおける殺菌は一般に緩徐である。さらに,MIC以下に濃度が低下した後の細菌発育阻害効果(postantibiotic effect;PAE)は皆無か,または非常に短時間の残留であることから,βラクタム系抗生物質およびバンコマイシンは,MICを超える血清遊離薬物(すなわち,血清蛋白と結合しない薬物)濃度時間が50%以上のときに最も有効である。セフトリアキソンは血清半減期が長いため,丸24時間の投与間隔により,非常に感受性の高い病原体菌のMICを上回る血清遊離濃度が得られる。しかしながら,血清半減期が2時間以下の他のβラクタム系抗生物質は,頻回投与または持続注入が必要である。バンコマイシンの場合,トラフ濃度を10〜15μg/mLに保つべきである。

アミノ配糖体系,フルオロキノロン系,およびダプトマイシンは,濃度依存性の殺菌活性を示す。これらの薬物は,MICをわずかに超えるレベルからMICをはるかに超えるレベルへ濃度を上昇させると,その殺菌活性率は高まり細菌量が減少する。さらに,MICを超える濃度に対する短時間暴露後は,アミノ配糖体系およびフルオロキノロン系は残留細菌に対してPAEを示し,その期間も濃度依存性である。PAEが長ければ,薬物濃度がMICを下回る時間を薬効の低下なく延長でき,投与頻度も減らせる。したがって,アミノ配糖体系およびフルオロキノロン系は通常,血清中ピーク遊離濃度が感染微生物のMICの10倍以上を達成する間欠的ボーラスとして最も効果的である。

抗生物質の併用療法は,感染菌の可能性のある複数の種を治療するか,または1つの細菌種に相乗的に作用することから,しばしば重篤な感染症において必要である。相乗作用とは通常,抗生物質の併用(通例,細胞壁活性薬,つまりβラクタム系抗生物質またはバンコマイシン+アミノ配糖体)により得られる,いずれかの単独投与よりも急速で完全な殺菌作用と定義される。

経口投与により優れた血中濃度が得られる多くの抗生物質があり,静脈内投与にほぼ匹敵する速さでそれを達成するものもある。静脈内投与が選択されるのは,経口抗生物質を許容できない(例,嘔吐のため)または吸収できない(例,腸管手術後の消化不良のため),腸管運動性が低下している(例,オピオイドにより),経口製剤が入手できない(例,アミノ配糖体系),患者が重篤で消化管の還流低下が考えられる,または経口投与のわずかな遅延も有害でありうる,などの場合である。抗生物質は,全身性感染の客観的証拠が数日間消失(例,発熱,症状および臨床検査の異常所見などの消失)するまで継続するべきである。一部の感染症(例,心内膜炎,結核,骨髄炎)の治療クールは,再発予防のため数週間ないし数カ月である。

乳児,高齢者,および腎不全患者では,抗菌薬の用量および投与計画を調整する必要がある( 細菌および抗菌薬: 一般的に処方されている抗生物質の常用量表 3: 表参照)。よく使用される抗菌薬で肝不全患者において用量調整が必要なのは,セフォペラゾン,セフトリアキソン,クロラムフェニコール,クリンダマイシン,メトロニダゾール,ナフシリン,リファンピンなどである。妊娠中に最も安全な抗菌薬としてペニシリン系,セファロスポリン系,エリスロマイシンがあり,テトラサイクリン系は禁忌である。ほとんどの抗生物質の母乳中濃度は授乳中の乳児に影響を与えうる値に達するため,授乳保育中の女性にはときに禁忌である。

表 3

PDF 一般的に処方されている抗生物質の常用量

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抗生物質療法の合併症には,非感受性細菌または真菌による菌交代症および,一般的には,皮膚,腎臓,血液,消化管の有害作用がある。有害作用はしばしば原因薬物の中止と,病原体が感受性である別の抗生物質の代用を必要とする;ときに,代用薬がないこともある。

抗生物質耐性

抗生物質耐性は特定の菌種に固有のこともあれば,突然変異または抗生物質耐性をコードする別の微生物遺伝子の獲得に起因することもある。これらの遺伝子によりコードされる耐性の機序について 細菌および抗菌薬: 抗菌耐性の一般的機序表 4: 表に簡単に記載する。耐性遺伝子は形質転換(他の微生物に由来する裸のDNAの取り込み),形質導入(バクテリオファージによる感染),または接合(独自に複製する染色体外DNA片であるプラスミド,または染色体DNAの可動因子であるトランスポゾンのいずれかによる,遺伝物質の交換)により2個の細菌細胞間を移動できる。プラスミドおよびトランスポゾンは耐性遺伝子を迅速に播種させうる。

表 4

抗菌耐性の一般的機序

機序

細胞壁透過性の減少

イミペネム耐性緑膿菌における細胞外壁D2ポーリンの欠損

酵素による不活性化

ペニシリン耐性黄色ブドウ球菌インフルエンザ菌大腸菌におけるペニシリン系を不活性化するβラクタマーゼ産生

 

ゲンタマイシン耐性腸球菌におけるアミノ配糖体不活性化酵素の産生

標的の変化

ペニシリン結合蛋白のβラクタム抗生物質に対する親和性の低下(例,ペニシリン感受性の低下した肺炎球菌

 

MLSB耐性黄色ブドウ球菌における標的であるメチル化したリボソームRNAのマクロライド系,クリンダマイシン,キヌプリスチンに対する親和性の低下

 

変化した細胞壁前駆物質のバンコマイシンに対する親和性低下(例, E.フェシウム

 

フルオロキノロン耐性黄色ブドウ球菌におけるDNAジャイレースのフルオロキノロン系に対する親和性低下

抗生物質排出ポンプの増加

テトラサイクリン,マクロライド系,クリンダマイシン,またはフルオロキノロン系の排出増加(例,黄色ブドウ球菌

抗生物質による阻害のバイパス

菌体内の合成産物(例,トリメトプリム-スルファメトキサゾール)のみでなく環境中に存在する産物(例,チミジン)を利用して生存できる変異株の発現

MLSB =マクロライド,リンコサミド,ストレプトグラミンB。

抗生物質の使用により非耐性菌が選択的に排除され,残留する耐性菌の比率が増す。このことは病原性細菌のみでなく正常細菌叢にもあてはまり,耐性正常細菌叢は将来病原菌へと拡散しうる耐性遺伝子の保有者の役割を果たす。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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