リステリア症

(リステリア)

執筆者:Larry M. Bush, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University;
Maria T. Vazquez-Pertejo, MD, FACP, Wellington Regional Medical Center
レビュー/改訂 2021年 3月
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リステリア症とは,Listeria属細菌に起因する菌血症,髄膜炎,脳炎,皮膚炎,眼腺症候群,子宮内および新生児感染症,またはまれに起こる心内膜炎のことである。症状は侵された器官系により異なる。子宮内感染症では胎児死亡に至ることがある。診断は検査室での分離による。治療には,ペニシリン,アンピシリン(しばしばアミノグリコシド系薬剤と併用),トリメトプリム/スルファメトキサゾールなどがある。

See page 新生児リステリア症。)

Listeria属細菌は,非抗酸性で莢膜をもたないβ溶血性の好気性および通性嫌気性の小さな無芽胞グラム陽性桿菌であり,特徴的な回転運動をする。これらの細菌は世界中で,環境中ならびにヒト,ヒト以外の哺乳類,鳥類,および甲殻類の腸管内に分布している。Listeria属にはいくつかの種があるが,ヒトにおける主な病原体はL. monocytogenesである。

米国では,毎年約1800例のリステリア症が報告されており,ピークは夏季にみられる。発病率は新生児,60歳以上の成人,およびHIV/AIDS患者などの易感染性患者で最も高い。リステリア症の頻度は,一般集団と比べてHIV/AIDS患者では300倍,妊婦では18倍高い。

伝播

L. monocytogenesは環境中に遍在するため,食品生産工程で混入する機会が非常に多く存在する。L. monocytogenesは,ほぼ全ての食品に混入して伝播する可能性があるが,感染に至るのは通常,汚染された乳製品,生野菜,食肉のほか,特に食べる前に加熱調理を必要としない冷蔵食品を摂取した場合である。L. monocytogenesは冷蔵庫内の温度でも生存・発育できるため,食品の汚染が生じやすい。

直接接触による感染や感染動物の解体処理中の感染も起こりうる。

パール&ピットフォール

  • Listeria monocytogenesは冷蔵庫内の温度でも増殖できるため,わずかに汚染された冷蔵食品がひどく汚染された状態になることがある。

危険因子

L. monocytogenesは細胞内で増殖するため,リステリア症を抑制するには細胞性免疫が必要であり,したがって以下の集団ではリスクが高い:

  • 易感染性患者

  • 新生児

  • 高齢者

妊娠中の女性もまた,リステリア感染症の発生リスクが高いが,通常は軽症である。しかしながら,感染は分娩前および分娩中に母から子へ伝播することがあり,流産,死産,早産,または乳児の早期死亡を引き起こす可能性がある。

Listeria属細菌は,新生児で菌血症肺炎などの生命を脅かす感染症を引き起こすことがあり,新生児細菌性髄膜炎の一般的な原因の1つである。

リステリア症の症状と徴候

原発性のリステリア菌血症はまれで,高熱を引き起こすが,局所の症候はみられない。心内膜炎,腹膜炎,骨髄炎,化膿性関節炎,胆嚢炎,および胸膜肺炎が発生することがある。汚染された食品を摂取した後に,発熱を伴う胃腸炎が発生することがある。妊娠中のリステリア菌血症は,子宮内感染症,絨毛膜羊膜炎,切迫早産,胎児死亡,または新生児感染症につながる可能性がある。

新生児および60歳以上の患者に生じる髄膜炎の最大20%は,リステリア(Listeria)に起因するものである。20%の患者は脳炎(びまん性脳炎またはまれであるがrhombencephalitis)および膿瘍へ進行し,Rhombencephalitisは意識変容,脳神経麻痺,小脳徴候,および運動または感覚消失として現れる。

眼リンパ節リステリア症(oculoglandular listeriosis)は,眼炎と所属リンパ節腫大を引き起こす(パリノー症候群)。結膜への菌の侵入に続いて発生することがあり,無治療では菌血症や髄膜炎に進行しうる。

リステリア症の診断

  • 培養

リステリア感染症は血液または髄液培養により診断する。誤ってジフテリア菌と診断されやすいため,L. monocytogenesを疑う場合は,検査室に情報を提供しておく必要がある。

全てのリステリア感染症において,発症から2~4週間でIgG凝集素抗体価がピークに達する。

リステリア症の治療

  • アンピシリンまたはベンジルペニシリン,通常はアミノグリコシド系薬剤と併用

リステリア髄膜炎はアンピシリン2g,静注,4時間毎で治療するのが最善である。ほとんどの専門家は,in vitroでみられる相乗効果を根拠として,ゲンタマイシン(1mg/kg,静注,8時間毎)の追加を推奨している。セファロスポリン系薬剤は効果的ではない。新生児髄膜炎の治療については, see page 起因菌に特異的な抗菌薬療法を参照のこと。

心内膜炎および原発性のリステリア菌血症は,アンピシリン2g,静注,4時間毎にゲンタマイシン(相乗作用のため)を追加して,解熱後も継続して計6週間(心内膜炎の場合)または2週間(菌血症の場合)投与する。眼リンパ節リステリア症と皮膚リステリア症は,エリスロマイシン10mg/kgを6時間毎に経口投与し,解熱後も1週間継続することで反応が得られる。セファロスポリン系薬剤はin vitroで活性が認められておらず,使用してはならない;バンコマイシンによる治療失敗が報告されている。トリメトプリム/スルファメトキサゾール5/25mg/kg,静注,8時間毎が代替治療である。リネゾリドはin vitroで活性を示すが,臨床での使用経験はない。

リステリア症の予防

食品汚染がよくみられるが,L. monocytogenesは冷蔵庫内の温度でも増殖できるため,わずかに汚染された食品が冷蔵期間中にひどく汚染された状態になる場合がある。この問題は,それ以上加熱しない食品(例,出来合いの冷蔵保存食品)で特に懸念される。したがって,食品の衛生管理を適切に行うことが重要であり,特に高リスクの集団(例,易感染性患者,妊婦,高齢者)では非常に重要である。高リスクの集団では,以下の食品の摂取は避けるべきである:

  • ソフトチーズ(例,フェタ,ブリ,カマンベール)

  • 冷蔵食品(例,ホットドッグ,デリミート,パテ,ミートスプレッド)のうち,給仕前に内部温度が73.9℃(165°F)になるまで,または湯気が出るほどの熱さまで加熱されていないもの

  • 冷蔵された燻製魚介類(例,ノバスタイル,ロックス,キッパー,スモークド,ジャーキー)のうち,調理されていないもの

  • 生乳(低温殺菌処理されていないもの)

リステリア症の要点

  • L. monocytogenesは環境中で非常によくみられる細菌であるが,米国における年間の感染者数は約1800例に過ぎず,典型的な感染経路は汚染食品の摂取である。

  • 発病率は新生児,60歳以上の成人,および易感染性患者で最も高い。

  • 様々な器官系統が侵される可能性があり,妊娠中の母親が感染すると,胎児死亡につながることがある。

  • アンピシリンに加えて通常はゲンタマイシンを投与する。

  • 高リスク患者には,予防のため,汚染されている可能性が非常に高い食品を食べないように忠告する。

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