(嫌気性細菌の概要 嫌気性細菌の概要 細菌は酸素に対する要求性と耐性によって以下のように分類することができる: 通性嫌気性:酸素の存在下と非存在下のどちらでも増殖する 微好気性:低濃度(典型的には2~10%)の酸素を必要とし,多くは高濃度(例,10%)の二酸化炭素を必要とするもので,嫌気的条件下での増殖は極めて不良... さらに読む および クロストリジウム感染症の概要 クロストリジウム感染症の概要 クロストリジウムは,嫌気性グラム陽性芽胞形成桿菌であり,塵埃,土壌,植物や常在菌叢として哺乳類の消化管内など,自然界に広く分布している。病原性菌種は,疾患発生に寄与する組織破壊性および神経性の外毒素を産生する。 ( 嫌気性細菌の概要も参照のこと。) Clostridium属全体で100種近くの菌種が同定されているが,ヒトまたは動物に一般的に疾患を引き起こすものは,そのうち25~30種のみである。... さらに読む も参照のこと。)
C. difficileは抗菌薬関連大腸炎の最も一般的な原因菌であり,典型的には院内感染であるが,市中感染症例が増加している。C. difficile関連下痢症は,入院患者の最大8%に発生し,院内感染による下痢症例の20~30%の原因となっている。
C. difficile関連下痢症の危険因子としては以下のものがある:
極めて若年または極めて高齢
長期の入院
介護施設での居住
重度の基礎疾患
プロトンポンプ阻害薬およびH2受容体拮抗薬の使用
C. difficileは新生児の15~70%,健康成人の3~8%,および入院成人のおそらく20%(長期療養施設の入居者ではより高率)で無症候性に保菌されており,環境中(例,土壌,水,家庭内のペット)にも広く認められる。この疾患は,腸管に内在するC. difficileの異常繁殖から生じる場合と,外部からの感染に続発する場合がある。医療従事者がしばしば伝播を媒介する。
強毒株BI/NAP1/027型(binary/North American pulsed-field type 1 [NAP1]/ribotype 027)が院内アウトブレイクで注目を集めるようになっている。この菌株は,他と比べて毒素の産生量がかなり多く,引き起こす疾患はより重度であり,再発率も高く,また感染力が強く,抗菌薬治療にあまり反応しない。
病態生理
抗菌薬投与による消化管内細菌叢の変化が主な素因である。多くの抗菌薬に関連が指摘されているが,最もリスクが高いのは以下のものである:
セファロスポリン系(特に第3世代)
ペニシリン系(特にアンピシリンとアモキシシリン)
クリンダマイシン
フルオロキノロン系
C. difficile大腸炎は,特定の抗腫瘍薬の使用後にも発生することがある。
この菌は細胞毒素とエンテロトキシン(一般にA型毒素およびB型毒素と呼ばれる)の両方を分泌する。ただし,全てのC. difficile株が毒素を産生するわけではなく,また無症状者が毒素産生株を保菌している場合もある。毒素の主な作用は結腸に影響を及ぼし,そこから液体が分泌されて特徴的な偽膜(容易に除去できる不連続な黄白色の隆起物)が形成される。重症例では偽膜が融合することがある。
中毒性巨大結腸症は,まれにしか発生しないが,腸運動抑制薬の使用後には可能性がいくらか高まるようである。敗血症および急性腹症と同様に,限局性の組織内播種が極めてまれに起こる。C. difficile関連下痢症に続いて反応性関節炎を発症した症例がまれに報告されている。
症状と徴候
C. difficile関連下痢症の症状は典型例では抗菌薬開始5~10日後に始まるが,初日から発症する場合もあれば,最長で2カ月経過してから発症した例もある。下痢は軽度で半固形のこともあれば,頻回で水様のこともあり,ときに血性のことさえある。痙攣または疼痛はよくみられるが,悪心および嘔吐はまれである。腹部に軽度の圧痛を認めることがある。
中毒性大腸炎(toxic colitis)(劇症大腸炎[fulminant colitis])を来した患者では,疼痛がより強く,頻脈と腹部の膨隆および圧痛が生じて,より重症に見える。大腸穿孔が起こると,腹膜刺激徴候がみられる。
診断
グルタミン酸脱水素酵素(GDH)抗原およびC. difficileの毒素に対する便検査ならびに毒素遺伝子に対するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査
ときにS状結腸鏡検査
抗菌薬使用開始後2カ月以内または入院後72時間以内に下痢を発症した患者では,全例でC. difficile関連下痢症を疑うべきである。
グルタミン酸脱水素酵素(GDH)抗原は,全てのC. difficile株によって産生される。酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)は感度が高く,非常に迅速に施行できる。しかしながら,陽性判定はこの微生物の存在を意味するだけで,毒素産生の有無は判断できない(1 診断に関する参考文献 消化管内のClostridioides difficileが産生する毒素により,偽膜性大腸炎が引き起こされるが,典型的には抗菌薬の使用後に発生する。症状は下痢(ときに血性)であり,まれに進行して敗血症および急性腹症を来す。診断は便中のC. difficile毒素の同定による。第1選択の治療は,バンコマイシンまたはフィダキソマイシンの経口投与である。... さらに読む )。
ELISAを用いた毒素検査も迅速に施行でき,活動性疾患の診断に非常に特異度が高いが,感度が特に高いわけではないため,かなりの数の偽陰性が生じる。
PCR法で毒素遺伝子を調べる 核酸増幅検査 核酸増幅法 核酸法を用いる同定法(分子生物学的同定法)は臨床現場に広く普及しており,結果として可能になった迅速同定により,現在では特異的な抗菌薬療法を行うことができ,ときに不適切な薬剤を使用する経験的な長期管理を回避することが可能になっている。 核酸検出法では,微生物から抽出した特異的なDNAまたはRNA配列を検出する。配列をin vitroで増幅する場合と増幅しない場合がある。 核酸検出法は通常,特異的で感度が高く,あらゆる分類の微生物に利用でき... さらに読む (NAAT)は,毒素産生株に対して非常に感度が高いが,毒素を活発に産生しているか否かは判断できない。この検査は,治療が成功した後も陽性のままになることが多いため,以前にこの疾患に罹患したことのある患者では解釈が難しくなる可能性がある。
保菌状態の可能性もあるため,検査は通常,症状のある患者(すなわち,液状便が複数回あった患者)にのみ行われる。検査の特性上,これらの検査のうちいくつかまたは全てが同時にまたは順次に施行される。まずGDHと毒素検査を行うのが1つの戦略である。2つの検査結果に矛盾がなければ(すなわち,両者ともに陽性または陰性であれば),診断は確定または除外されたとみなされる。検査結果に矛盾があれば(すなわち,片方が陽性でもう片方が陰性であれば),NAAT検査の結果に基づいて診断が下される。
通常は1回の便検体のみで十分であるが,強い疑いにもかかわらず,最初の検体が陰性の場合は,再度検体を提出すべきである。しばしば便中に白血球が認められるが,特異的ではない。
イレウスを起こしている場合と毒素検査で診断がつかない場合は,偽膜の存在を確認できるS状結腸鏡検査を施行すべきである。
劇症大腸炎,穿孔,または巨大結腸症が疑われる場合には,通常は腹部X線,CT,またはその両方を施行する。
診断に関する参考文献
1.Solomon DA, Milner, Jr, DA: ID Learning Unit: Understanding and interpreting testing for Clostridium difficile.Open Forum Infect Dis 1(1):ofu007, 2014. doi: 10.1093/ofid/ofu007.
治療
経口バンコマイシンまたは経口フィダキソマイシン
メトロニダゾールは,もはやC. difficile関連下痢症の第1選択の治療としては推奨されていない。ただし,バンコマイシンおよびフィダキソマイシンが使用できない場合は,経口メトロニダゾールを使用できる。
重症例(白血球数 > 15,000/μL[15 × 109/L]および/またはクレアチニン値 > ベースラインの1.5倍)には,バンコマイシン125~500mgを6時間毎に10日間にわたり投与する。
例外的な症例では,バンコマイシンを注腸で投与することもあり,その用量は経口投与の場合と同様である。
あるいはフィダキソマイシン200mgを12時間毎に10日間投与することも可能で,その場合はバンコマイシンよりも再発リスクが低くなる。
原因となりうる抗菌薬を使用している場合は,できるだけ早く中止するか,C. difficile関連下痢症を引き起こしにくい抗菌薬のレジメンに切り替えるべきである。
コレスチラミン樹脂,酵母Saccharomyces boulardii,およびプロバイオティクスの有益性は証明されていないものの,しばしば治療に追加される。
ニタゾキサニド500mg,経口,12時間毎,10日間はバンコマイシン125mgの服用と同等のようであるが,米国ではあまり使用されていない。
少数の患者には治癒を得るために結腸全摘術が必要になる。
再発例の治療
C. difficile関連下痢症は15~20%の患者で再発するが,再発時期は典型的には治療中止から数週間以内である。再発は再感染(同一または別の菌株によるもの)が原因であることが多いが,最初の感染から生き残った芽胞が関与する症例もあると考えられる。1回目の再発時は,最初のエピソードのときと同じレジメンで治療する。2回目以降の再発時は,バンコマイシン125mgを6時間毎に経口投与し,数週間かけて漸減し,その後リファキシミン400mgを1日2回,14日間にわたり経口投与する。あるいはフィダキソマイシン200mg,1日2回,14日間の経口投与でもよい。
頻回に重度の再発を繰り返す患者にドナー便を注入(便移植)することで解消の可能性が高くなるが,その機序はおそらく正常な便細菌叢の復旧と考えられる。便は約200~300mL使用し,ドナーには腸内および全身性病原菌について検査を実施する。便は経鼻十二指腸管,大腸内視鏡,または浣腸器を用いて注入することができるが,至適な方法はまだ特定されていない。
ヒトモノクローナル抗体であるベゾロトクスマブ10mg/kgを静注で単回投与すると,C. difficile毒素Bに結合して中和するため,C. difficile関連下痢症の再発予防に使用することができる。
感染拡大の予防
患者間および医療従事者間でのC. difficileの感染拡大を防止するために,感染制御対策が不可欠である。
要点
抗菌薬が投与されると,腸管内で毒素産生性のC. difficileが過剰増殖することで,重症かつ難治性の偽膜性大腸炎が引き起こされることがある。
セファロスポリン系(特に第3世代),ペニシリン系,クリンダマイシン,およびフルオロキノロン系が最もリスクの高い薬剤である。
便中のC. difficile抗原および毒素の検出により診断し,ときに毒素遺伝子のPCR検査も用いる。
重症例はバンコマイシンまたはフィダキソマイシンの服用で治療をする。
再発がよくみられるが,再発時は抗菌薬で再治療を行い,治療抵抗性または重症の再発例には便移植を考慮する。