メルクマニュアル18版 日本語版
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フィラリア感染症

糸状のフィラリア成虫は組織内に生息する。受精卵をもった雌は活発に動く子孫(ミクロフィラリア)を産み,ミクロフィラリアは血液中を循環するか組織を移行する。適切な吸血昆虫(蚊またはアブ)に摂取されると,ミクロフィラリアは発育して感染幼虫となり,幼虫は昆虫が刺している間に次の宿主の皮膚に接種される。人に感染するフィラリアは数種のみである。

イヌ糸状虫症

イヌ糸状虫は犬の心臓に寄生する糸状虫で,感染した蚊によって人に伝播する。

症候性の人感染は非常にまれであるが,梗塞した肺組織内で幼虫が被包化され,明確な肺小結節を作りうる。患者は胸痛,咳,ときとして喀血を呈する。多くの患者は無症候性のままであり,ルーチンの胸部X線検査で(腫瘍を疑わせることのある)肺の小結節が発見される。診断は外科的に摘出した検体の組織学的検査により行う。人では治療の適応とならず,感染は自己限定性である。

メジナ虫症

(ギニア虫症;Fiery Serpent‘火の蛇')

メジナ虫症は,メジナ虫による感染症である。症状は有痛性,炎症性の皮膚病変と成虫をとりまく消耗性の関節炎である。診断は視診により行う。成虫を徐々に除去することにより治療する。

20年前,メジナ虫症は熱帯アフリカの大部分の地域,イエメン,インドおよびパキスタンの風土病であった。今日では,感染地域は主としてアフリカの狭く帯状に連なる諸国およびイエメンである。

人は感染した橈脚類(ケンミジンコ)を含む水を飲むことにより感染する。幼虫は放出されて腸壁に侵入し,およそ1年で成虫になる。受精卵を持った雌は皮下組織を移行して通常下肢遠位部に達する。虫の頭端に硬化した丘疹が生じ,丘疹は小疱化し最終的に潰瘍化する。水に触れると,雌虫の子宮のループが皮膚から脱出して運動性のある幼虫を放出する。皮膚に到達できなかった虫は死に,崩壊または石灰化する。大部分の流行地域で伝播は季節性であり,各感染エピソードは約1年続く。

症状と徴候

感染は初期には無症候性で,通常虫の露出に伴い症状が発現する。局所症状は,皮膚病変部の強いかゆみと灼熱痛である。じんま疹,紅斑,呼吸困難,嘔吐,かゆみは,虫体抗原に対するアレルギー反応を反映していると思われる。排虫や除去中に虫が壊れると,日常生活に支障を来すような痛みを伴う重度の炎症性反応が起こる。成虫が排出されれば,症状はおさまり潰瘍が治癒する。約50%の症例において,出現する虫の通った跡に沿って細菌の二次感染が生じる。慢性の続発症として,関節の線維性強直と腱の収縮がある。

診断,治療,予防

診断は,皮膚潰瘍に白い糸状の成虫が出現すれば明白である。石灰化した虫はX線検査で寄生部位が確認される(エジプトのミイラで発見されたことがある)。血清診断法は非特異的である。

治療は,成虫を棒に巻き付けながら,数日から数週間かけてゆっくりと引き出すことにより行う。局所麻酔下での外科的除去も選択肢の1つであるが,流行地域ではほとんど利用できない。メトロニダゾール(250mg,1日3回,10日間)の薬効は,本薬物の駆虫作用よりもむしろ抗炎症および抗菌特性によるものとされる。

飲料水のチーズクロスによる濾過,塩素処理および煮沸は,メジナ虫症防御に有効である。

ロア糸状虫症

ロア糸状虫症は,ロア糸状虫による感染症である。症状は,限局性血管性浮腫(カラバル腫脹)および成虫の結膜下移行である。診断は,末梢血中のミクロフィラリア検出または眼を移行している虫の視診による。治療はジエチルカルバマジンで行う。

ロア糸状虫症はアフリカ西部および中部の熱帯雨林地帯に限定されている。ロア糸状虫はアブによって伝播される(キンメアブ属)。成虫は皮下組織および眼を移行し,ミクロフィラリアは血液中を循環する。感染はときに心筋症,腎症または脳炎を引き起こす。

症状,徴候,診断

感染により身体のあらゆる部位(大部分は四肢)に血管性浮腫(カラバル腫脹)を生じるが,移行する成虫が放出するアレルゲンに対する過敏性反応を反映していると推測される。現地の住人においては腫脹が通常1〜3日続くが,外来者においてはさらに高頻度かつ重度である。虫が眼の結膜下を移行することもある。不安を起こす症状だが,眼に損傷が残ることはまれである。

腎症は一般的に蛋白尿として発現し,軽度の血尿を伴うことがある。免疫複合体の沈着に起因すると考えられている。脳障害は通常軽度で,漠然とした中枢神経系症状を伴う。

顕微鏡検査による末梢血中のミクロフィラリア検出が診断を確定する。採血はミクロフィラリアの密度が最も高くなる真昼に行う。血清診断ではロア糸状虫と他のフィラリア感染とを鑑別できない。

治療と予防

ジエチルカルバマジン(DEC)はミクロフィラリアおよび成虫を死滅させる唯一の薬物である。DECを1日目に経口,50mg,2日目に50mg,経口,1日3回,3日目に100mg,1日3回,4〜14日目に3mg/kg,1日3回を投与する。集団治療プログラムでは6mg/kg,単回投与が使用されており,一部で推奨されている。完治までに複数のクールが必要である。重度の感染患者においては,DECによって一時的に蛋白尿が悪化し,脳障害が誘発されて昏睡および死亡に至ることがある。重度の感染患者に低用量のDEC(0.5〜1.0mg/kg,1日1回)とコルチコステロイドを併用する。こうした患者では,アフェレーシス,またはアルベンダゾールによる初期治療が有効である。重度感染患者におけるイベルメクチン投与も,脳障害および死亡を引き起こしうる。

DEC(300mg,経口,1回/週)を感染予防のために使用できる。防虫薬は感染したアブに対する暴露を軽減しうる。

バンクロフトおよびマレー糸状虫症(リンパ系フィラリア症)

リンパ系フィラリア症は,フィラリア上科3種のうちのいずれかによる感染症である。急性症状として,発熱,リンパ節炎,リンパ管炎,精索炎,副睾丸炎がある。慢性症状としては,膿瘍,角質増殖,多発性関節炎,陰嚢水腫,リンパ浮腫,象皮病がある。気管支痙攣,発熱および肺浸潤を伴う熱帯性肺好酸球増加症も感染の症状である。診断は血液中のミクロフィラリア検出,成虫の超音波による視覚化,または血清診断による。治療はジエチルカルバマジンにより行う;細菌性蜂巣炎の合併には抗生物質を用いる。

病因と病態生理

リンパ系フィラリア症は,バンクロフト糸状虫マレー糸状虫,およびチモール糸状虫が原因で,蚊によって伝播される。蚊を介して侵入する感染幼虫はリンパ管に移行し,6〜12カ月以内に糸状の成虫に発育する。受精卵を持つ雌成虫はミクロフィラリアを産み,ミクロフィラリアは血液中を循環する。

バンクロフト糸状虫症はアフリカ,アジア,太平洋地域,およびハイチを含むアメリカ大陸の熱帯および亜熱帯地域にみられる。マレー糸状虫症は南アジアおよび東南アジアの風土病である。現在,約1億2900万人が感染していると推定される。

症状と徴候

感染はしばしば,明らかな臨床症状のないミクロフィラリア血症を引き起こす。しかしながら,急性炎症性フィラリア症は,47日間のエピソード(しばしば再発性)を持つ発熱とリンパ管炎を伴うリンパ節の炎症(ADLと称される)または急性副睾丸炎とからなる。感染した四肢の限局性病変が膿瘍となり,外部に排膿して瘢痕を残すことがある。ADLはしばしば細菌の二次感染に関連する。

リンパ系以外の徴候として,慢性の顕微鏡的血尿と蛋白尿,および軽度の多発性関節炎があり,全て免疫複合体の沈着に起因すると推定される。

慢性フィラリア疾患は,潜行性で何年も経てから発現する。ほとんどの患者で無症候性のリンパ管拡張が起こるが,成虫に対する慢性炎症性反応および細菌の二次感染により,感染した身体領域の慢性リンパ浮腫または陰嚢水腫が生じることがある。下肢の慢性圧痕リンパ浮腫が象皮病に進行することがある。細菌および真菌感染症に対する局所的な易感染性が,象皮病の発現に関与している。他の型の慢性フィラリア疾患はリンパ管の破裂やリンパ液の異常漏出によって引き起こされ,乳び尿症および乳び性陰嚢水腫を来す。

ADLエピソードは通常,慢性疾患発症より20年以上先行する。急性フィラリア症は,現地住人よりも暴露歴のない流行地域への移住者において重症である。流行地域を離れると,ミクロフィラリア血症は徐々に消失する。

熱帯性肺好酸球増加症(TPE)は,再発性気管支痙攣,一過性肺浸潤,微熱および顕著な好酸球増加を伴うまれな症状である。ミクロフィラリアに対する過敏性反応が原因である可能性が最も高い。慢性TPEは肺線維症を引き起こすことがある。

診断

顕微鏡検査により血液中のミクロフィラリアを検出して診断を確定する。血液の濾過または遠心分離による濃縮法が,血液厚層塗抹標本より高感度である。血液試料はミクロフィラリア血症のピーク時,すなわちバンクロフト糸状虫の流行地域では夜間,マレー糸状虫およびチモール糸状虫が流行している多くの太平洋諸島では昼間に採取しなければならない。超音波検査により,拡張したリンパ管で生きた成虫を観察できる;成虫の動きはフィラリアダンスと呼ばれている。

バンクロフト糸状虫用の高感度かつ特異的な迅速抗原検査が利用可能であるが,他の糸状虫には利用できない。抗フィラリアIgG測定は米国立衛生研究所(National Institutes of Health)から入手でき,初期スクリーニングとして非常に高感度であるが,過去の暴露と現在の活動性感染との鑑別ができない。このため流行地域への訪問者において最も有用である。バンクロフト糸状虫およびマレー糸状虫DNAのPCRに基づく検査法は,研究の場で利用できる。

治療と予防

ジエチルカルバマジン(DEC)はミクロフィラリアおよび成虫を死滅させるが,成虫に対する効果は一定していない。推奨用量は,1日目は経口,50mg,2日目は50mg,経口,1日3回,3日目は100mg,経口,1日3回,4〜14日目は2mg/kg,1日3回をそれぞれ投与する。アルベンダゾール(400mg経口)をイベルメクチン(200μg/kg,経口)またはDEC(6mg/kg)と同時に単回投与すると,ミクロフィラリア密度が急激に低下するが,イベルメクチンの単独投与では殺成虫効果はない。ADLの急性発作は一般的に自然に消退するが,細菌の二次感染を抑制するために抗生物質を要することがある。DEC療法が慢性リンパ浮腫を予防または軽減するかどうかは,いまだに意見が分かれている。

慢性リンパ浮腫は,抗生物質の全身投与による細菌の二次感染予防を含む慎重なスキンケアを必要とし,それにより象皮病への進行を遅延または予防しうる。罹患した四肢に弾力包帯を施すなどの保存的治療により腫脹が緩和される。象皮病の極端な症例においては,リンパ液のドレナージを促進するためのリンパ節-静脈シャントによる外科的減圧術がある程度の長期的効果をもたらす。大きな陰嚢水腫も外科的処置が可能である。

TPEはDEC(2mg/kg,1日3回,12〜21日間)に反応するが,25%までの症例で再発することがあり,治療クールの追加が必要となる。

流行地域における蚊の刺咬の回避が最良の防護である。DECによる予防的化学療法または抗フィラリア薬の併用(イベルメクチン/アルベンダゾールまたはイベルメクチン/DEC)で,ミクロフィラリア血症を抑制できる。一部の流行地域では食卓塩の添加物としてDECを使用している。

オンコセルカ症

(河川盲目症)

オンコセルカ症は,フィラリア線虫の回旋糸状虫による感染症である。症状は皮下小結節,かゆみ,アデノパシーとリンパ管閉塞,慢性皮膚疾患,および失明を来しうる眼の病変である。診断は,皮膚小片,角膜,前眼房におけるミクロフィラリアの検出;皮下小結節における成虫の同定;PCRまたはDNAプローブの使用による。治療はイベルメクチンで行う。

病因と病態生理

オンコセルカ症は急流の川で繁殖するブユ(ブユ属の種)によって広がる(河川盲目症という名前の由来である)。感染幼虫はブユが刺している間に皮膚に接種され,12〜18カ月で成虫に発育する。雌の成虫は皮下小結節内で最高15年にわたり生存しうる。成熟した雌虫はミクロフィラリアを産み,ミクロフィラリアは主に皮膚を移行して眼に侵入する。

約1800万人が感染しており,そのうち約27万人が失明し,さらに50万人が視覚障害を持っている。オンコセルカ症は世界的な失明原因の第2位である(第1位はトラコーマ)。オンコセルカ症はアフリカの熱帯地域およびサハラ以南において最もよくみられる。イエメン,メキシコ南部,グアテマラ,エクアドル,コロンビア,ベネズエラおよびブラジルアマゾンにも小規模の発生地がある。失明はアメリカ大陸ではかなりまれである。

症状と徴候

成虫を含む皮下(またはさらに深部)の小結節(オンコセルカコーマ)は可視または触知可能であるが,それ以外は無症候性である。小結節は,様々な割合の炎症細胞および線維組織からなる。古い小結節は乾酪化または石灰化しうる。

オンコセルカ皮膚炎はミクロフィラリアによって引き起こされる。軽度感染の人々においては,激しいかゆみが唯一の症状でありうる。通常,皮膚病変部には二次性の表皮剥離,鱗屑性の潰瘍および苔癬化を伴う特徴のない斑点状丘疹と,軽度から中等度のリンパ節腫脹がみられる。早発性のしわ,皮膚萎縮,鼠径部または大腿部のリンパ節の腫脹,リンパ管閉塞,斑状色素脱失,ならびに限局性一過性の浮腫および紅斑が生じうる。オンコセルカ皮膚炎はほとんどの患者で全身性であるが,イエメンとサウジアラビアでは,角質増殖,鱗屑化,および色素変化を伴う限局性で輪郭が鮮明な湿疹様皮膚炎(Sowdah)がよくみられる。

眼の疾患は軽度の視覚障害から完全な失明まで様々である。前眼部病変には,点状(雪片)角膜炎(瀕死のミクロフィラリアを取り巻く急性炎症性浸潤で,恒久的損傷を残さずに消失する),硬化性角膜炎(線維血管性の瘢痕組織が内側に成長して水晶体亜脱臼および失明を引き起こしうる),前部ブドウ膜炎または虹彩毛様体炎(瞳孔を変形させうる)がある。脈絡網膜炎,視神経炎,および視神経萎縮も生じることがある。

診断

皮膚小片におけるミクロフィラリアの証明が,従来の診断法である(寄生虫感染へのアプローチ: 寄生虫感染症の顕微鏡診断のための検体の採取と取り扱いを参照 表 1: 表)。ミクロフィラリアは,細隙灯顕微鏡検査により眼の角膜および前房においても見えることがある。皮膚小片中の寄生虫DNAを検出するPCRに基づく方法は,標準的な手法より高感度と思われるが,利用できるのは研究の場に限られている。血清学的診断法も専門的な研究所で利用できるが,抗原によって特異性が異なり,回旋糸状虫と他の蠕虫との間にかなりの交差反応性がある。血清学的検査では過去の感染と現在の感染とを区別できない。

触知可能な小結節(あるいは先進国において超音波検査またはMRIによって検出される深部小結節)を切除して,成虫の検査を行うことができる。

治療と予防

イベルメクチン150μg/kgの単回経口投与を,症状がなくなるまで6〜12カ月毎に繰り返す。イベルメクチンにより皮膚と眼のミクロフィラリア数が低下し,ミクロフィラリアの産出が数カ月にわたり減少する。標準投与量においてはイベルメクチンに殺成虫効果はないようであるが,雌虫によるミクロフィラリア放出を抑制する。有害作用は質的にはジエチルカルバマジン(DEC)の有害作用に類似するが,かなり低頻度で重症度も低い。DECは重度の過敏性(マゾッティ)反応を引き起こして,皮膚および眼の損傷の悪化ならびに心血管虚脱を来す恐れがあるため,現在ではオンコセルカ症には使用されていない。フィラリア成虫の細胞内共生体を標的とするドキシサイクリンについては現在研究中である。

回旋糸状虫感染に対する予防効果を示している薬はない。しかしながら,年1回または年2回のイベルメクチン投与は疾患を効果的にコントロールし,伝播を抑制すると思われる。到達可能なオンコセルコーマの外科的除去により皮膚のミクロフィラリア数を軽減できるが,イベルメクチン療法が取って代わっている。

理論的には,ブユの蔓延している地域を避ける,保護用衣服を着用する,防虫薬をふんだんに使用することによりブユ属に刺されるのを最小限に抑えることが可能である。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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