メルクマニュアル18版 日本語版
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シャーガス病(アメリカトリパノソーマ症)

シャーガス病は,クルーズトリパノソーマによる感染症で,サシガメ類昆虫の刺咬により伝播する。症状は皮膚病変または一側性眼窩周囲浮腫で始まり,発熱,倦怠,全身性のリンパ節腫脹,および肝脾腫大に進行し,一部の症例では慢性心筋症,巨大食道,または巨大結腸がみられる。診断は末梢血または感染臓器吸引物中のトリパノソーマの検出による。PCR法,血清学的検査,および外因診断法が有用なことがある。治療はニフルチモックスまたはベンズニダゾールで行う。

病因と病態生理

クルーズトリパノソーマはサシガメ類昆虫(reduviid bug,kissing bug,assassin bugとも呼ばれる)により伝播される。感染した昆虫は,刺咬しながら発育終末トリポマスティゴートを含む糞を皮膚上に落とす。これらの感染型原虫は刺咬傷から,または粘膜を貫通して侵入する。その後原虫は侵入部位においてマクロファージに侵入し,二分裂により増殖するアマスチゴートに変態し,トリポマスティゴートとして血液中および組織空間に放出され,さらに別の細胞に感染する。細網内皮系,心筋層,筋肉,神経系の細胞が最もよく侵される。保有宿主は犬,猫,フクロネズミ,ラットおよび他の動物である。感染は輸血,臓器移植を介して,または経胎盤性にも伝播しうる。

感染したサシガメ類は北米,中米および南米において発見される。アメリカ大陸では2000万人以上がクルーズトリパノソーマに感染しているが,防圧対策により有病率は低下している。南米の農村地域の一部では,シャーガス病が死因の第1位となっている。米国では媒介昆虫が伝播する疾患はまれであるが,米国在住のラテンアメリカ人移民の一部は慢性的に感染している。これらの人々が輸血または臓器提供を介して感染源となる可能性がある。

症状と徴候

急性感染後に潜伏(不確定)期間が続き,無症候性のまま経過することもあれば,慢性疾患に進行することもある。免疫抑制は潜伏感染を再活性化し,高度原虫血症および第2急性期,皮膚病変,または脳膿瘍を生じることがある。妊娠の1〜5%において先天性感染が生じ,流産,死産または高死亡率を伴う慢性新生児疾患を来す。

流行地域における急性感染は通常小児に起こり,無症候性のこともある。症候性の場合は,暴露後1〜2週間で症状が発現し始める。原虫の侵入部位に,硬化した紅斑性皮膚病変(シャゴーマ)が現れる。接種部位が結膜の場合は,結膜炎ならびに耳介前リンパ節腫脹を伴う片側性の眼周囲および眼瞼の浮腫がみられ,ひとまとめにロマーニア徴候と呼ばれる。急性シャーガス病は,ごく一部の患者で心不全を伴う急性心筋炎または急性髄膜脳炎のために致死的となる。それ以外の患者では,未治療でも症状がおさまる。AIDS患者などの免疫不全患者における一次性急性シャーガス病は,重症かつ非定型的であり,皮膚病変およびまれではあるが脳膿瘍を伴う。

数年または数十年の潜伏期の後に,20〜40%において慢性疾患を発現する。慢性心筋症は全心腔の弛緩性拡張,心尖部動脈瘤,興奮伝導系の限局性変性病変を引き起こし,心不全,失神,心ブロックまたは心室不整脈が原因の突然死,および血栓塞栓が生じる。心電図で右脚ブロックまたは完全心ブロックを認める。胃腸疾患はアカラシアまたはヒルシュスプルング病に似た症状を示す。シャーガス病の巨大食道は嚥下障害として現れ,吸引による肺感染症または重度の栄養失調に至ることがある。巨大結腸は便秘期間の延長および腸捻転を来しうる。

診断

急性期には末梢血トリパノソーマ数が多く,薄層塗抹または厚層塗抹標本により容易に検出できる。対照的に,潜伏感染または慢性疾患の期間には,血液中に原虫はほとんど存在しない。リンパ節などの臓器の吸引物の検査により確定診断を行う。血清学的検査は高感度であるが,内臓リーシュマニア症や皮膚粘膜リーシュマニア症または他の疾患を有する患者は偽陽性結果を示すことがある。その他の診断方法として,外因診断法(研究室で飼育した昆虫に感染の疑いのある患者の血液を吸血させた後,昆虫の直腸内容物を調べる),および血液または組織液からPCRで増幅した原虫DNAを検出する方法がある。

治療と予防

急性期の治療は原虫血症を急速に減少させて不確定期を短縮し,死亡のリスクを低下させるが,感染の根絶にはならないことが多い。不確定期感染の小児および若年成人の治療が推奨されているが,多くは治癒しない。慢性期の治療は対症療法である。宿主の炎症反応が一因と思われる慢性臓器損傷は,ほとんどが不可逆性のようである。支持療法は,心不全用薬物,ペースメーカー,抗不整脈薬,心臓移植,食道拡張,および胃腸管手術である。

唯一の有効薬は,ニフルチモックス(成人では2〜2.5mg/kg,経口,1日4回,3〜4カ月間;1〜10歳の小児では4〜5mg/kg,1日4回,3カ月間;11〜16歳の小児では3〜3.75mg/kg,1日4回,3カ月間),またはベンズニダゾール(成人では2.5〜3.5mg/kg,経口,1日2回,1〜3カ月間;12歳以下の小児では5.0mg/kg,1日2回)である。これらの長期治療コースは,胃腸の重度の有害作用,末梢神経障害,耐容性不良,低コンプライアンスとしばしば関連する。

壁の漆喰塗り,草葺き屋根の交換,家屋への残留性殺虫剤の反復散布により,サシガメ類昆虫を制御できる。旅行者の感染はまれであり,そうした住居内で睡眠しないか,それが止むを得ないのなら蚊帳を使用することにより,感染を避けることができる。

輸血に起因するシャーガス病は,流行地域における重大な健康問題である。米国においても少数の症例が報告されている。抗体のスクリーニングが提案されているが,米国の血液銀行は現在のところ,病歴情報に基づいて感染の可能性のある供血者を除外している。血清学的検査による血液スクリーニングを実施できないならば,流行地域においては血液にゲンチアナバイオレットを添加することによっても輸血に起因するシャーガス病を予防できる。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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