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マラリア

執筆者:

Richard D. Pearson

, MD, University of Virginia School of Medicine

レビュー/改訂 2020年 11月
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マラリアはマラリア原虫(Plasmodium属原虫)による感染症である。症状および徴候としては,発熱(周期熱のことがある),悪寒,振戦,発汗,下痢,腹痛,呼吸窮迫,錯乱,痙攣発作,溶血性貧血,脾腫,腎臓の異常などがある。診断は血液塗抹標本におけるマラリア原虫(Plasmodium属)の観察と迅速診断検査による。治療および予防法は,マラリア原虫(Plasmodium属)の種,薬剤感受性,および患者の臨床状態によって異なる。急性疾患への治療レジメンには,最も迅速に作用するレジメンであるアルテミシニンベースの多剤併用療法(artemisinin-based combination therapy)のほか,アトバコンとプログアニルの固定配合剤や,頻度は下がるがクロロキン,キニーネ,またはメフロキンなどがある。三日熱マラリア原虫(P. vivax)および卵形マラリア原虫(P. ovale)に感染した患者には,再発予防のためにプリマキンの投与またはタフェノキン(tafenoquine)の単回投与も行う。予防は通常,アトバコン + プログアニルの固定配合剤またはドキシサイクリンによる;クロロキン耐性のない地域ではクロロキンが使用される。三日熱マラリア原虫または卵形マラリア原虫に曝露した可能性が高い患者には,プリマキンまたはタフェノキン(tafenoquine)による最終期治療(terminal treatment)を行う。

世界の人口の約半数に依然としてマラリアのリスクがある。マラリアは,アフリカ,インドおよび南アジアの周辺国,東南アジア,北朝鮮および韓国,メキシコ,中米,ハイチ,ドミニカ共和国,南米(アルゼンチン北部を含む),中東(トルコ,シリア,イラン,およびイラクを含む),ならびに中央アジアで流行している。米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は,マラリアの感染例がみられる具体的な国(CDC: Yellow Fever and Malaria Information, by Countryを参照),マラリアの病型,耐性パターン,および推奨される予防法について情報提供を行っている(CDC: Malariaを参照)。

2018年には,世界のマラリア症例数は2億2800万例で,405,000人が死亡したと推定されているが,大半が5歳未満の小児である。世界のマラリア感染者数の中でアフリカ諸国は不釣り合いに高い割合を占めている。2018年には,マラリアの症例の93%およびマラリアによる死亡の94%がアフリカで発生した。500を超えるパートナー(流行国と様々な組織や施設)が参加したRBM(Roll Back Malaria)Partnership to End Malariaが功を奏し,マラリアによる死亡は2000年から約60%減少した。

マラリアはかつて米国で流行していた。現在,米国における年間発生例数は約1500例である。ほぼ全てが国外感染例であるが,少数は輸血に起因するほか,まれに現地の蚊が感染者の移民や帰国した旅行者を吸血して病気を伝播することもある。

マラリアの病態生理

ヒトに感染するマラリア原虫(Plasmodium属)の種は以下の通りである:

  • 熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum

  • 三日熱マラリア原虫(P. vivax

  • 卵形マラリア原虫(P. ovale

  • 四日熱マラリア原虫(P. malariae

  • P. knowlesi

複数種のマラリア原虫(Plasmodium)属による同時感染はまれであるが,起こりうる。

東南アジア,特にマレーシアでは,二日熱マラリア原虫(P.knowlesi)が新興の病原体となっている。マカクザルが一次宿主である。二日熱マラリア原虫(P. knowlesi)は通常,森の近くや森の中で生活したり働いたりしている人に感染する。

生活環の基本的要素はマラリア属原虫(Plasmodium)の全種に共通である。伝播は,ハマダラカ(Anopheles属)の雌がマラリア感染者を吸血し,生殖母体を含む血液を摂取することで始まる。

続く1~2週間で,蚊の中の生殖母体が有性生殖し,感染性のスポロゾイトを産生する。蚊が別のヒトを吸血したときに,スポロゾイトが接種され,速やかに肝臓に到達して肝細胞に感染する。

肝細胞内で成熟して組織シゾントとなる。それぞれのシゾントが10,000~30,000のメロゾイトを形成し,1~3週間後に肝細胞が破裂する際にそれらが血流に放出される。一部のメロゾイトは赤血球に侵入して変態し,トロホゾイト(栄養型)になる。

トロホゾイトが発育すると,そのほとんどが赤血球シゾントとなり,シゾントはさらにメロゾイトを形成し,メロゾイトは48~72時間後に赤血球を破裂させて血漿中に放出される。それらのメロゾイトは直ちに新しい赤血球に侵入し,このサイクルを繰り返す。一部のトロホゾイトは生殖母体(ガメトサイト)に発育し,それらがハマダラカ(Anopheles)に摂取される。生殖母体は蚊の腸内で有性生殖をし,オーシストに発育して感染性のスポロゾイトを放出し,スポロゾイトは唾液腺に移行する。

マラリア原虫(Plasmodium)の生活環

マラリア原虫(Plasmodium)の生活環
  • マラリア原虫の生活環は2種類の宿主を必要とする。マラリアに感染した雌のハマダラカ(Anopheles)が吸血時にヒト宿主にスポロゾイトを接種する。

  • スポロゾイトが肝細胞に感染する。

  • そこで,スポロゾイトはシゾントに成熟する。

  • シゾントが破裂し,メロゾイトを放出する。肝臓内でのこの最初の増殖は,赤血球外サイクル(exoerythrocytic cycle)と呼ばれる。

  • メロゾイトが赤血球に感染する。そこで,原虫は無性的に増殖する(赤血球内サイクル[erythrocytic cycle]と呼ばれる)。メロゾイトがリング期(ring-stage)のトロホゾイトに発育する。その後一部がシゾントに成熟する。

  • シゾントが破裂し,メロゾイトを放出する。

  • 一部のトロホゾイトが生殖母体に分化する。

  • ハマダラカ(Anopheles)が吸血時に雄(雄性生殖母体)および雌(雌性生殖母体)の生殖母体を摂取し,スポロゾイト形成サイクルが開始される。

  • 蚊の胃の内部で,雄性生殖体が雌性生殖体に入り込み,接合子を産生する。

  • 接合子は運動型となって伸長し,オーキネートに発育する。

  • オーキネートは蚊の中腸壁に侵入し,そこでオーシストに発育する。

  • オーシストが発育して破裂し,スポロゾイトを放出し,これが蚊の唾液腺に移行する。スポロゾイトが新たなヒト宿主に接種されることにより,マラリアの生活環が持続する。

三日熱マラリア原虫(P. vivax)および卵形マラリア原虫(P. ovale)(熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)または四日熱マラリア原虫(P. malariae)では異なる)では,組織シゾントが肝臓内でヒプノゾイトとして何年も持続する場合がある。卵形マラリア原虫(P. ovale)では症候性マラリアの発症から最長6年後に再発が認められており,その症例は,献血の7年前に曝露を受けた個人からの輸血により感染していた。これらの休眠型は,タイムカプセルのように機能して再発を引き起こし,大半の抗マラリア薬(典型的には血流中の原虫に作用する)で殺傷できないため,化学療法を複雑にする。

輸血または汚染された針の共用による感染伝播,あるいは先天的伝播の場合は,マラリアの生活環の前赤血球期(肝臓期)は迂回される。したがって,これらの伝播様式は潜伏感染または遅発性再発を引き起こさない。

メロゾイト放出時の赤血球の破裂は臨床症状との関連が認められる。重度の場合, 溶血 溶血性貧血の概要 赤血球は正常な寿命(約120日)が尽きると,循環血液から取り除かれる。溶血は,赤血球が未熟な段階で破壊され,それにより赤血球寿命が短くなる(120日未満)ことと定義される。骨髄での赤血球産生が赤血球寿命の短縮を代償できなくなると貧血が生じるが,この状態を非代償性溶血性貧血と呼ぶ。骨髄により代償できている場合,その状態を代償性溶血性貧血と呼... さらに読む 溶血性貧血の概要 により貧血および黄疸が引き起こされ,これらの症状は脾臓内における感染赤血球の貪食により悪化する。貧血は熱帯熱マラリア(P. falciparum)または慢性の三日熱マラリア(P. vivax)で重度化することがあるが,四日熱マラリア(P. malariae)では軽度にとどまる傾向がある。

熱帯熱マラリア

他の病型のマラリアとは異なり,感染赤血球が血管内皮細胞に接着するため,熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)は微小血管の閉塞を引き起こす。虚血を来すことがあり,結果として組織の低酸素症が特に脳,腎臓,肺,および消化管に生じる。その他に起こりうる合併症としては,低血糖や乳酸アシドーシスなどがある。

感染に対する抵抗性

大半の西アフリカ人は,三日熱マラリア原虫(P. vivax)の赤血球への付着に関与するDuffy血液型の赤血球を欠くことから,三日熱マラリア原虫(P. vivax)に対して完全な抵抗性を有する;多くのアフリカ系アメリカ人もこうした抵抗性を有している。赤血球内でのマラリア原虫(Plasmodium)の発育は, ヘモグロビンS症 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症( 異常ヘモグロビン症)は,ほぼ黒人だけに生じる慢性溶血性貧血である。ヘモグロビンS遺伝子がホモ接合性に遺伝することによって生じる。鎌状の赤血球は血管の閉塞を引き起こし,溶血を起こしやすいことから,重度の疼痛発作,臓器虚血,および他の全身性合併症につながる。急性増悪(クリーゼ)が頻繁に起こることがある。感染症,骨髄無形成,または肺病変(急性胸部症候群)を急性発症し,死に至ることがある。貧血がみられ,通常は末梢血塗抹標本で鎌状... さらに読む 鎌状赤血球症 ヘモグロビンC症 ヘモグロビンC症 ヘモグロビンC症は, 異常ヘモグロビン症の1つで,溶血性貧血の症状を引き起こす。 ( 溶血性貧血の概要も参照のこと。) 米国における黒人のヘモグロビンC保有率は約2~3%である。ヘテロ接合体では,症状がみられない。ホモ接合体では通常,軽度の慢性溶血性貧血,脾腫,および貧血に一致する症状がみられる。 胆石症が最も頻度の高い合併症であり,splenic sequestrationが生じうる。... さらに読む サラセミア サラセミア サラセミアは,ヘモグロビン合成障害を特徴とする先天性小球性溶血性貧血の一群である。αサラセミアは,アフリカ,地中海沿岸,または東南アジアに祖先をもつ人々に特に多くみられる。βサラセミアは,地中海沿岸,中東,東南アジア,またはインドに祖先をもつ人々に多くみられる。症状および徴候は,貧血,溶血,脾腫,骨髄過形成の加え,輸血を複数回経験している場合は鉄過剰に起因する。診断は遺伝子検査およびヘモグロビンの定量分析に基づく。重症型に対する治療とし... さらに読む G6PD欠損症 グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症 グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症は,黒人に多くみられるX連鎖性の酵素欠損症であり,急性疾患後または酸化性薬物(サリチル酸系,スルホンアミド系など)の摂取後に溶血を引き起こすことがある。診断はG6PDの測定に基づくが,急性溶血時には網状赤血球の存在によって(網状赤血球は老化した細胞と比較してG6PDが豊富)検査結果がしばしば偽陰性となる。治療は支持療法である。... さらに読む グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症 ,または 楕円赤血球症 遺伝性球状赤血球症および遺伝性楕円赤血球症 遺伝性球状赤血球症および遺伝性楕円赤血球症は,軽度の溶血性貧血を引き起こす可能性のある先天性の赤血球膜障害である。症状は,一般に遺伝性楕円赤血球症の方が軽度であるが,様々な程度の貧血,黄疸,および脾腫がみられる。診断には,赤血球の浸透圧脆弱性の亢進および直接抗グロブリン試験陰性を証明する必要がある。まれに,45歳未満の症状がある患者で脾臓摘出を要する。 ( 溶血性貧血の概要も参照のこと。)... さらに読む 遺伝性球状赤血球症および遺伝性楕円赤血球症 の患者において遅滞する。

感染の既往は部分免疫をもたらす。流行が激しい地域の住人がその地域を一旦離れると,獲得免疫は経時的に(数カ月~数年で)減弱し,戻ってきて再感染すると症候性のマラリアを発症することがある。

マラリアの症状と徴候

通常の潜伏期間は以下の通りである:

  • 三日熱マラリア原虫(P. vivax)は12~17日間

  • 熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)は9~14日間

  • 卵形マラリア原虫(P. ovale)は16~18日間

  • 四日熱マラリア原虫(P. malariae)は1カ月間(18~40日)またはそれ以上(年単位)

しかしながら,温帯気候に生息する三日熱マラリア原虫(P. vivax)株の中には,感染後数カ月から1年超にわたって臨床的な疾患を引き起こさないものもある。

全ての型のマラリアに共通する臨床像として以下のものがある:

  • 発熱および悪寒・振戦ーマラリア発作(malarial paroxysm)

  • 貧血

  • 黄疸

  • 脾腫

  • 肝腫大

マラリア発作は,感染した赤血球の溶血,放出されたメロゾイトおよびその他のマラリア抗原,ならびにそれらが誘発する炎症反応によって引き起こされる。古典的発作は,倦怠感,突然の悪寒および39~41℃に達する発熱,速くて弱い脈,多尿,頭痛,筋肉痛,ならびに悪心で始まる。2~6時間後に解熱して2~3時間にわたり多量の発汗があり,次に極度の疲労が生じる。感染症開始時の発熱はしばしば消耗性である。感染が成立すると,典型的にはマラリア発作が原虫種に応じて2~3日毎に発生する。

通常,脾腫は臨床症状が現れて最初の1週目の終わりまでには触知可能となるが,熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)ではみられないこともある。腫大した脾臓は柔らかく,外傷性破裂を起こしやすい。免疫機能が発達するため,マラリア発作の再発に伴い脾腫は軽減する。多くの発作の後,脾臓は線維化して硬くなるか,患者によっては著しく腫大する(熱帯性脾腫[tropical splenomegaly])こともある。脾腫は通常肝腫大を伴う。

熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)の感染でみられる臨床像

熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)は微小血管に作用するため最も重度の疾患を引き起こす。治療しなければ致死的疾患を引き起こす可能性が高い唯一の種である;免疫のない患者は最初の症状出現から数日以内に死亡することがある。スパイク熱と随伴症状は,不規則なパターンで発生するのが一般的であるが,三日熱のパターン(48時間間隔で間欠的な発熱がみられる)で発生することもあり,このパターンは特に部分的な免疫をもつ流行地域の住民によくみられる。

体液量減少,原虫が寄生した赤血球による血管閉塞,または免疫複合体の沈着から腎機能不全が生じることがある。血管内溶血に起因するヘモグロビン血症およびヘモグロビン尿症が進行すると,黒水熱(尿が暗色になることに基づいて付けられた名称)を来すことがあり,これは自発的に生じることもあれば,キニーネによる治療後に生じることもある。

低血糖症がよくみられ,キニーネによる治療およびそれに伴う高インスリン血症により悪化することがある。

胎盤に病変が及ぶと,低出生体重,自然流産,死産,または先天性感染を来しうる。

三日熱マラリア原虫(P. vivax),卵形マラリア原虫(P. ovale),四日熱マラリア原虫(P. malariae)および二日熱マラリア原虫(P. knowlesi)の感染でみられる臨床像

三日熱マラリア原虫(P. vivax),卵形マラリア原虫(P. ovale),および四日熱マラリア原虫(P. malariae)は,典型的には重要臓器を障害しない。死亡はまれで,ほとんどが脾破裂または無脾患者におけるコントロール不良の高度原虫血症に起因する。

卵形マラリア原虫(P. ovale)による臨床経過は,三日熱マラリア原虫(P. vivax)によるものと類似する。感染が成立すると,48時間の間隔(三日熱パターン)でスパイク熱が生じる。

四日熱マラリア原虫(P. malariae)の感染は,急性症状を引き起こさない場合があるが,軽度の原虫血症が何十年も持続して,免疫複合体を介した腎炎またはネフローゼや熱帯性脾腫に至ることがある;症候性の場合は72時間の間隔(四日熱パターン)で発熱がみられる傾向がある。

二日熱マラリア原虫(P. knowlesi)ではマラリアのあらゆる臨床像と関連する。熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)とは対照的に,感染の可能性が高いのは,森林地帯の近くに住んでいるかまたはそこで働いている15歳以上の男性である。典型例ではスパイク熱が毎日生じる。重症度は患者の年齢とともに上昇する。この原虫は無性生殖の周期が24時間と短いため,原虫血症の発生率が高く,無治療では死に至ることがある。血小板減少がよくみられるが,典型的には出血を伴わない。

化学予防を受けている患者における臨床像

化学予防(マラリアの予防 マラリアの予防 マラリアの予防 の表を参照)を受けている患者では,マラリアは非定型の病像を呈することがある。薬剤中止後に,潜伏期間が数週間から数カ月間延びることがある。感染者は頭痛,背部痛,および不規則な発熱を生じることがあるが,初期に血液検体中に原虫を検出することは困難な場合がある。

マラリアの診断

  • 血液(薄層または厚層塗抹標本)の光学顕微鏡検査

  • 血中のマラリア原虫(Plasmodium)抗原または酵素を検出する迅速診断検査

移民または流行地域から戻った旅行者に発熱と悪寒がみられた場合は,マラリアに対する検査を直ちに行うべきである。症状は感染後6カ月以内に現れるのが通常であるが,発症までに2年,まれにそれ以上の期間がかかる場合もある。

マラリアの診断は,血液の薄層または厚層塗抹標本の顕微鏡検査で原虫を確認することで可能となる。感染種(これにより治療法および予後が決まる)は,塗抹標本の特徴から同定する(血液塗抹標本における各種マラリア原虫の診断的特徴 血液塗抹標本における各種マラリア原虫(Plasmodium)の診断的特徴 血液塗抹標本における各種マラリア原虫(Plasmodium)の診断的特徴 の表を参照)。最初の血液塗抹標本が陰性の場合,塗抹標本が3回陰性になるまで,12~24時間間隔で塗抹標本を繰り返すべきである。

薄層血液塗抹標本のライト-ギムザ染色により,赤血球内の寄生虫の形態評価と,しばしば種分化の判定と感染赤血球率(寄生虫の密度)の算出が可能になり,塗抹標本のうち赤血球同士がある程度接触していて,1視野当たり約400個の赤血球が含まれている部分を油浸オイルを用いて評価する。厚層塗抹標本の方が感度は高いが,染色前に赤血球が溶解するため,作製および解釈がより困難である。感度および精度は検者の経験によってかわる。

マラリアに対する市販の迅速診断検査キットは,特定のマラリア原虫抗原の有無または酵素活性に基づく。検査には,マラリア原虫(特に熱帯熱マラリア原虫[P. falciparum])に関連するHRP-2(histidine-rich protein 2)の検出とマラリア原虫に関連する乳酸脱水素酵素(pLDH)の検出が必要になる場合がある。迅速診断検査は,軽度の原虫血症を検出する上で概して顕微鏡検査と同等の感度があるが,単独感染と複数種のマラリア原虫(Plasmodium属)による同時感染を鑑別することはできず,熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)を除いて種を同定することもできない。

光学顕微鏡検査と迅速診断検査は補完的な検査であり,可能であれば両方とも行うべきである。いずれも感度は同程度である。両方の結果が陰性でも,軽度の原虫血症が存在することはあり,マラリアを除外することはできない。

ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法と種特異的DNAプローブが利用可能であるが,診療現場で広く利用可能になっているわけではない。これらは,マラリアの診断後に感染しているマラリア原虫(Plasmodium属)の種を同定するのに役立つ。血清学的検査は以前の曝露を反映することがあり,急性マラリアの診断には有用ではない。

マラリアの重症度

重症マラリアは,以下に示す臨床所見または臨床検査所見を1つでも認める状態と定義される。重症マラリアは,熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)により引き起こされる傾向がある。

重症マラリアの臨床基準:

  • 急性呼吸窮迫症候群/肺水腫

  • 出血

  • 昏睡または意識障害

  • 黄疸

  • 痙攣発作(反復性)

  • ショック

重症マラリアの検査基準:

マラリアの治療

  • 抗マラリア薬

抗マラリア薬は以下に基づいて選択する:

  • 疾患の重症度(臨床基準および検査基準)

  • 感染しているマラリア原虫(Plasmodium属)の種

  • 感染地域の株の耐性パターン

  • 利用できる薬剤の効力および有害作用

アルテメテル/ルメファントリン経口剤などのアルテミシニンベースの多剤併用療法(artemisinin-based combination therapy)は,最も速やかに活性が得られる治療法であり,多くの状況で選択すべき治療である。アルテミシニン系薬剤に対する耐性が報告されているが,まだ一般的ではない。

重症マラリア マラリアの重症度 マラリアはマラリア原虫(Plasmodium属原虫)による感染症である。症状および徴候としては,発熱(周期熱のことがある),悪寒,振戦,発汗,下痢,腹痛,呼吸窮迫,錯乱,痙攣発作,溶血性貧血,脾腫,腎臓の異常などがある。診断は血液塗抹標本におけるマラリア原虫(Plasmodium属)の観察と迅速診断検査による。治療および予防法は,マラリア原虫(Plasmodium属)の種,薬剤感受性,および患者... さらに読む には緊急の治療が必要であり,米国で重症マラリアの注射剤による治療(または経口剤を服用できない患者)に利用できる唯一の薬剤であるアルテスナート(artesunate)の静注剤を使用するのが望ましい。この薬剤が民間の販売業者からすぐに入手できない場合は,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)から暫定的に入手することができ,CDC Malaria Hotline(月曜日から金曜日,東部標準時で午前9時から午後5時までは770-488-7788または855-856-4713,通話料無料;営業時間外,週末,休日は770-488-7100)に電話し,マラリア担当課の専門家に相談すれば,臨床試験用新薬(IND)への特例的な入手に関するプロトコルに沿って手配してもらえる。米国のほとんどの病院では,アルテスナート(artesunate)が届くまでに12~24時間を要すると推定される。アルテスナート(artesunate)を直ちに使用できない場合は,アルテメテル-ルメファントリン,アトバコン-プログアニル,または硫酸キニーネ(+ ドキシサイクリンまたはクリンダマイシンの静脈内投与)による経口治療を,また,これらのいずれも使用できない場合はメフロキンによる経口治療を暫定的に開始する。嘔吐がみられる患者には,制吐薬が役立つことがある。嚥下できない患者(例,せん妄のため)には,アルテメテル/ルメファントリンまたはアトバコン/プログアニルの錠剤を砕いて経鼻胃管から投与してもよい。

パール&ピットフォール

  • 重症マラリアの治療は時間との勝負である。可及的速やかにアルテスナート(artesunate)の静注剤で治療を開始する。アルテスナート(artesunate)の静注剤をすぐに入手できない場合は,他の薬剤による暫定的な経口治療を開始する。

流行地域の一部では,現地で利用可能な抗マラリア薬のかなりの割合が模造品である。そのため,高リスクの遠隔地への旅行者に対し,予防処置を行ったにもかかわらずマラリアに感染したことが臨床的に確認された場合に使用するため,適切な治療レジメン1コース分の薬剤全てを携行するよう指導する医師もいる;この方法により,渡航国での限られた薬剤資源を不足させることも避けられる。

マラリアは5歳未満の小児(死亡率は2歳未満の小児が最も高い),妊婦,およびマラリア曝露歴のない流行地域訪問者では特に危険である。

熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)が疑われる場合は,たとえ初回の塗抹標本および迅速診断検査の結果が陰性でも,直ちに治療を開始すべきである。抗マラリア薬に耐性をもつ熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)が現在では広く蔓延しており,クロロキン耐性三日熱マラリア(P. vivax)はパプアニューギニアとインドネシアでよくみられるほか,他のいくつかの地域でも問題になりつつある。

マラリアの治療および予防に推奨される薬剤とその用量については, マラリアの治療 米国におけるマラリアの治療 米国におけるマラリアの治療 および マラリアの予防 マラリアの予防 マラリアの予防 の表を参照のこと。頻度の高い有害作用および禁忌を 抗マラリア薬の有害反応および禁忌 抗マラリア薬の有害反応および禁忌 抗マラリア薬の有害反応および禁忌 の表に記載する。CDCのウェブサイト(Malaria Diagnosis and Treatment in the United States)を閲覧するか,治療に関する緊急のコンサルテーションとしては上記の番号でCDC Malaria Hotlineに電話すること。

流行地域の旅行中に発熱性疾患を発症した場合は,専門家による医学的評価を直ちに行うことが重要である。速やかに評価を行えない場合(例,患者が僻地にいる)は,検査を待つ間にアルテメテル/ルメファントリンまたはアトバコン/プログアニルの自己投与を考慮してもよい。旅行者が流行地域から戻った後に発熱を来し,他に考えられる診断がない場合は,たとえマラリアの塗抹標本および/または迅速診断検査が陰性であったとしても,合併症のないマラリアに対する経験的治療を考慮すべきである。

治療に関する参考文献

  • 1.Aldámiz-Echevarría LT, López-Polín A, Norman FF, et al: Delayed haemolysis secondary to treatment of severe malaria with intravenous artesunate: Report on the experience of a referral centre for tropical infections in Spain.Travel Med Infect Dis 2016. pii: S1477–8939(16)30166-1. doi: 10.1016/j.tmaid.2016.10.013 [Epub ahead of print]

三日熱マラリア原虫(P. vivax)および卵形マラリア原虫(P. ovale)によるマラリアの再発予防

三日熱マラリア原虫(P. vivax)または卵形マラリア原虫(P. ovale)の再発を予防するには,プリマキンまたはタフェノキン(tafenoquine)により肝臓からヒプノゾイトを駆除しなければならない。プリマキンまたはタフェノキン(tafenoquine)の投与はクロロキンと同時でも後からでもよい。一部の株の三日熱マラリア原虫(P. vivax)は,感受性が比較的低く,再発して再治療を要することがある。熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)または四日熱マラリア原虫(P. malariae)は肝臓に持続感染しないため,これらのマラリア原虫種に対してプリマキンは不要である。三日熱マラリア原虫(P. vivax)または卵形マラリア原虫(P. ovale)に対して強いまたは長期間の曝露を受けたか,旅行者が無脾である場合は,旅行者が帰国後にリン酸プリマキンによる14日間の予防コースを開始するか,タフェノキン(tafenoquine)を単回投与することが再発リスクの低減に役立つ。主な有害作用は,グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症の人々でみられる溶血である。プリマキンまたはタフェノキン(tafenoquine)を投与する前にG6PD濃度を測定しておくべきである。

プリマキンは,妊娠中および授乳期(乳児にG6PD欠損症がないことが判明している場合は除く)には禁忌である。妊婦には,残りの妊娠期間にわたってクロロキンの週1回投与による化学予防を施行でき,分娩後は女性にG6PD欠損症がなければプリマキンを投与できる。

マラリアの予防

流行地域への渡航者には化学予防を行うべきである(マラリアの予防 マラリアの予防 マラリアの予防 の表を参照)。マラリアの流行国に関する情報は米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)から入手でき(CDC: Yellow Fever and Malaria Information, by CountryおよびCDC: Malariaを参照),具体的には,マラリアの病型,耐性のパターン,地理的分布,推奨される予防法などの情報が提供されている。

妊娠中のマラリアは母体および胎児の双方にとって深刻な脅威である。マラリア原虫(Plasmodium)にクロロキン感受性がみられる地域では,妊娠中にクロロキンを使用できるが,他に安全かつ効果的な予防レジメンが存在しないため,妊婦はクロロキン耐性の地域に旅行することを可能な限り避けるべきである。妊娠中のマラリアの治療は,感染しているマラリア原虫(Plasmodium)の種および感染地域における既知の耐性パターンに依存する(CDC: Treatment of Malaria: Guidelines For Clinicians (United States): Alternatives for Pregnant Womenを参照)。

妊娠中のメフロキンの安全性は立証されていないが,ベネフィットがリスクを上回ると判断される場合に使用してもよいことが,限られた経験から示唆されている。ドキシサイクリン,アトバコン/プログアニル,プリマキン,およびタフェノキン(tafenoquine)は,妊娠中に使用してはならない。

アルテミシニン系薬剤は半減期が短く,予防投与には有用でない。

蚊に対する予防対策としては以下のものがある:

  • ペルメトリンまたはピレスラムを含有する残留性殺虫スプレー(作用持続時間が長いもの)を使用する

  • 戸口および窓に網戸を張る

  • ベッドの周囲に蚊帳(ペルメトリンまたはピレスラムを浸透させたものが望ましい)を使用する

  • 衣服や備品(例,ブーツ,ズボン,靴下,テント)を0.5%ペルメトリンを含有する製品で処理するべきであり,一度処理すれば数回洗っても保護作用が残る(前処理された衣服もあり,保護効果がより長く持続する可能性がある)

  • 露出部の皮膚に25~35%DEET(ジエチルトルアミド)などの防蚊剤を塗布する

  • 肌を防護できる長袖のシャツと長ズボンを着用する(特にハマダラカ[Anopheles]が活動的となる夕暮れから夜明けまで)

DEETを含有する防虫剤を使用する予定のある人には,以下のことを指示する:

  • 防虫剤は添付文書の指示に従って露出部の皮膚にのみ塗布し,耳の周囲には少なめに使用する(防虫剤は眼や口に塗布・噴霧してはならない)。

  • 塗布後は手を洗うこと。

  • 子供には防虫剤を取り扱わせない(最初に大人が防虫剤を自分の手に塗布してから,それを子供の皮膚にやさしく広げる)。

  • 露出部を覆うのに過不足のない量の防虫剤を塗布する。

  • 屋内に戻ったら防虫剤を洗い流す。

  • 製品の添付文書に別の指示がある場合を除き,衣類は再度着用する前に洗濯する。

大半の防虫剤は乳児および生後2カ月未満の小児に使用できる。Environmental Protection Agency(米国環境保護庁)は,認可を受けた防虫剤を小児または妊婦もしくは授乳婦に使用する際にその他の予防措置を取ることを推奨していない。

マラリアワクチンが開発中であるが,利用可能になる時期は不明である。

マラリアの要点

  • 2018年には,全世界でのマラリア患者数は推定2億2800万人で,約40万5000人が死亡したが(多くはアフリカの5歳未満の小児),マラリアによる死亡は2000年から約60%減少した。

  • 熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)は微小血管閉塞および組織の虚血を引き起こし(特に免疫のない乳児および成人の脳,腎臓,肺,および消化管において),患者は最初の症状出現から数日以内に死亡することがある。

  • 三日熱マラリア原虫(P. vivax),卵形マラリア原虫(P. ovale),および四日熱マラリア原虫(P. malariae)は,典型的には重要臓器を障害せず,死亡はまれである。二日熱マラリア原虫(P.knowlesi)への感染では,マラリアのあらゆる臨床像がみられる。この原虫は無性生殖の周期が短いため,原虫血症の発生率が高く,無治療では死に至る可能性がある重度の病態となる。

  • 症状としては繰り返す発熱および悪寒・振戦,頭痛,筋肉痛,悪心などがあり,溶血性貧血と脾腫もよくみられる。

  • 血液(薄層または厚層塗抹)の光学顕微鏡検査および/または迅速診断検査を用いて診断する。

  • 感染が発生した地域の種(判明している場合)および薬剤耐性パターンに基づいて抗マラリア薬により治療する。

  • アルテミシニン療法(例,アルテメテル/ルメファントリン,アルテスナート[artesunate],その他のアルテミシニン系薬剤)は最も迅速に作用が現れる治療法であり,アトバコン + プログアニルは合併症のないマラリア患者に対する代替選択肢である。

  • 三日熱マラリア原虫(P. vivax)および卵形マラリア原虫(P. ovale)による感染が確定するか疑われる場合は,妊婦,授乳中,G6PD欠損症,またはG6PDの状態が不明でない限り,再発予防のためにプリマキンまたはタフェノキン(tafenoquine)を使用する。

  • 流行地域に渡航する人には化学予防を行い,蚊の刺咬を予防する方法を指導する。

マラリアについてのより詳細な情報

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