メルクマニュアル18版 日本語版
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梅毒

新生児における感染症: 先天梅毒も参照 )

梅毒は,梅毒トレポネーマによって引き起こされる全身性疾患で,一連の3つの臨床段階および何年もの潜伏期を特徴とする。一般的な症状は,性器潰瘍,皮膚病変,髄膜炎,大動脈疾患,および神経性症候群がある。診断は血清学的検査および梅毒の段階に基づいて選択される補助的検査による。ペニシリンが選択すべき薬である。

梅毒は,人の体外では長く生存できないスピロヘータである,梅毒トレポネーマにより引き起こされる。性行為で感染した梅毒において,梅毒トレポネーマは粘膜もしくは皮膚を通して侵入し,数時間以内に局所リンパ節に達し,体内の至るところに急速に播種する。

病毒は第1期,第2期,および第3期に発生し(性感染症: 梅毒の分類表 1: 表参照),各期の間には潜伏期間がある。梅毒を有する人は,最初の2段階を通じて感染力をもち続ける。リンパ球,形質細胞,および後に線維芽細胞への血管周囲浸潤が,小さな血管内皮の腫脹および増殖を引き起こし,閉塞性動脈内膜炎に至る。

表 1

梅毒の分類

タイプ

段階

説明

後天性

第1期

下疳;局所リンパ節腫脹

 

第2期(第1期の直後に続く)

いくつかの疾患によく似た種々の皮膚病変―例,発疹,粘膜のびらん,脱毛症,およびその他複数の症状

 

潜伏期(無症候性;無制限に続くか,または後期段階に入る)

初期潜伏期梅毒(感染期間が2年未満†),感染性病変が再発することがある;後期潜伏期梅毒(感染期間が2年以上†),再発はまれ

 

晩期または第3期(症候性;非伝染性)

良性第3期梅毒,心血管梅毒,および神経梅毒(無症候性神経梅毒,髄膜血管神経梅毒,実質性神経梅毒,脊髄癆)を含む

先天性*

初期

症候性,2歳までの乳児にみられる顕在性疾患

 

晩期

症候性;より後年にみられる徴候―例,ハッチンソン歯,角膜実質炎の瘢痕,骨の異常

*永続的に潜伏性または無症候性として存続することもある。

†報告を目的とする場合に,ときにこの境界を2年ではなく4年とすることもある。

感染は通常,口腔生殖器および肛門直腸接触を含む性的接触によって,および第1期または第2期梅毒の皮膚病変との接触により伝播される。伝播のリスクは,第1期梅毒を有する人との1回の性行為で約30%である。過去に感染しても再感染に対する免疫にはならない。

症状と徴候

梅毒はどの段階でも診断可能で,複数または単一の臓器を侵すことがあり,他の多くの疾患と類似する。梅毒は共在するHIV感染によって加速されうる;その場合には,眼の病変,髄膜炎,および他の神経系合併症がより一般的,より重度になる。

第1期梅毒: 3〜4週間(1〜13週間の範囲)の潜伏期間後,第1期病変(下疳)が接種部位に生じる。最初の赤い丘疹が急速にびらん状になり,硬結した基部を伴う最小限の微痛性潰瘍を形成し,擦過により多数のスピロヘータを含む透明な血清が滲出する。局所リンパ節は硬く不連続で圧痛がない。下疳はどこにでも現れうるが,男性においては陰茎,肛門,および直腸に;女性では外陰部,子宮頸部,直腸,および会陰に;および両性とも唇または中咽頭に最も多く発生する。

第2期梅毒: 第2期梅毒においては,広範囲の播種による菌血症,全身性皮膚粘膜病変,アデノパシー,および多様な臓器症状が起こり,典型的には下疳発症の4〜10週間後に始まる。患者の約25%は下疳が残ったままである。全身症状としては,頭痛および骨疼痛と同様に,発熱,倦怠感,食欲不振,悪心,および疲労性などがよくみられる。

80%以上の患者が皮膚粘膜病変を有する;種々の発疹および病変が現れ,体表面のどの部分も侵されうる。病変は一過性,数カ月間の持続性,または再発性のことがあるが,全ては最終的に治癒し,通常瘢痕は残さない。

梅毒性皮膚炎は通常は対称的で;屈筋ならびに特に手掌および足底の表面で顕著である;一般的に斑,丘疹,膿疱として現れるが;まれに小水疱性または水疱性となる。個々の病変は色素の多い皮膚においては,色素沈着が起こるか,またはほとんど見えず,色素沈着の少ない皮膚ではピンク,薄赤色,または茶色である。病変は丸く,しばしば鱗屑をもち,融合して硬結しうるが,一般的にかゆみや痛みはない。病変が消散すると,色素沈着または色素脱失が起こりうる。頭皮が侵されると,斑点状の脱毛がしばしば起きる(円形脱毛症)。

扁平コンジロームは,粘膜皮膚の接合部および皮膚の湿性部(例,肛門周囲部,乳房の下部)にできる肥大化して平板な鈍いピンクまたは灰色の丘疹で,極度に感染性がある。粘膜はたびたびびらん状になり,赤い暈を伴うしばしば灰白色で隆起状の円型粘膜斑を形成する。これらはほとんどが口腔粘膜,口蓋,咽頭,または喉頭;亀頭もしくは外陰部;または肛門管および直腸に発生する。

実質的にどの臓器系も侵される恐れがある。患者の約50%は通常,全身性のリンパ節腫脹を有するが,リンパ節は圧痛がなく,硬くて分離性であり,肝脾腫大をしばしば伴う。患者の約10%は眼(ぶどう膜炎),骨(骨膜炎),関節,髄膜,腎臓(糸球体炎),肝臓(肝炎),または脾臓の病変を有する。患者の約10〜30%に軽度の脳脊髄液細胞増加症が現れるが,頭痛,頸部硬直,脳神経の病変,難聴,および乳頭腫を伴う髄膜炎がみられるのは1%未満である。

潜伏期間: 潜伏期間の特徴は,症状および徴候の欠如,正常な脳脊髄液,および血清学的検査の陽性結果である。第1期および第2期の梅毒症状がときにごくわずかであるか,または見落とされることがあるため,梅毒の血清学的検査により患者はしばしば潜伏期に診断される。梅毒は永久に潜伏状態を保つことがある。しかしながら,感染性粘膜皮膚病変の再発が起こることがあり,それはほとんど常に初期の潜伏期(感染後2年未満)で起こる。他の疾患で抗生物質の投与を受けた患者において潜伏期梅毒が治癒することがあり,それが先進国において晩期梅毒がまれなことの説明となりうる。

晩期または第3期梅毒: 未治療者の約1/3が後期梅毒になるが,ときに最初の感染から何年も経たないうちに起こる。病変は臨床的には良性第3期梅毒,心血管梅毒,または神経梅毒として記述されうる。先進国では,どれも現在まれである。

良性第3期ゴム腫性梅毒は通常,感染の3〜10年以内に発症し,皮膚,骨,内臓を侵しうる。ゴム腫は肉芽腫性の腫瘤でときに壊死状態となり,周囲には脈管炎が現れる。ゴム腫はたびたび限局性であるが,臓器または組織にびまん性に浸潤して,ゆっくりと大きくなり,徐々に治り,瘢痕を残す。皮膚において,結節性,潰瘍性,あるいは鱗屑を伴う発疹がしばしば生じる。皮下の場合には,ゴム腫は洗った皮のようにみえる基部をもつ打ち抜き状潰瘍になる。治癒した潰瘍は典型的には萎縮性瘢痕を残す。脚,体幹上部,顔面,および頭皮に最も多く現れるが,ゴム腫は粘膜下組織(特に口蓋,鼻中隔,咽頭,および喉頭)を含めほぼどこにでも生じ,口蓋または鼻中隔の穿孔につながる。

骨の良性第3期梅毒は,骨の形成を伴う骨膜炎,または破壊的病変を伴う骨炎を来し,夜間に悪化するのが特徴の深いえぐるような痛みを引き起こす。腫瘤または腫れが触知可能である。消化管および気道も侵されうる。

心血管梅毒 は通常,上行大動脈の拡張した,紡錘状動脈瘤,冠状動脈口の狭窄,または大動脈弁閉鎖不全として,典型例では初感染後10〜25年経て現れる。梅毒性動脈瘤は,縦隔および胸壁の隣接構造を圧迫または侵食することで症状が現れうる。そのような症状には,気管への圧力から生じる金管音様咳および喘鳴,食道圧迫による気管支狭窄およびそれに続いて起こる感染症,反回神経の圧迫から起こる嗄声,および拡張した大動脈が繰り返し脈動することから生じる胸骨および肋骨または脊椎の疼痛性侵食などがある。

神経梅毒が,もし感染後最初の5〜10年間に発症すると,主に髄膜および血管が侵され,無症候性,急性,または髄膜血管性の神経梅毒を引き起こす。実質性神経梅毒および脊髄癆は通常,20〜30年後に発生する。

無症候性神経梅毒により,当初潜伏期梅毒と診断された人の約15%,第2期梅毒では25〜40%,心血管性梅毒では12%,良性第3期梅毒では5%に,異常脳脊髄液(例,リンパ球細胞増加および蛋白上昇)が生じる。未治療の5%においては症候性神経梅毒に進展する。初感染から2年以上経過後の脳脊髄液の正常者は,神経梅毒を発症するとは考えにくい。

神経梅毒の種々の症状型では起こりうるが,他の疾患ではほとんど生じないアーガイル・ロバートソン瞳孔は,収束は正常に調節するが,光に反応しない小さな不正円の瞳孔である。

急性梅毒性髄膜炎は,異常脳脊髄液と同様に発熱および髄膜症を引き起こす。それは初感染後1年以内に通常発症し,ときに第2期梅毒の他の徴候も伴う。脳神経機能不全は髄膜血管性神経梅毒と臨床的に鑑別不可能なことがある。

髄膜血管性神経梅毒は,脳または脊髄の大型から中型の動脈血管炎で,脳梗塞を引き起こし,しばしば多病巣性で脳脊髄液の細胞増加症を伴う。症状は,頭痛,頸部硬直,めまい,奇異な行動,集中力低下,記憶喪失,疲労,不眠,および視力障害などから始まることがある。片麻痺,錯乱,発作,乳頭浮腫,失語,および脳神経麻痺は通常,脳底血管炎を示す。

脊髄が侵されると,肩甲帯ならびに腕の筋肉の脱力および萎縮,尿および/または大便失禁を伴う緩徐進行性の痙性対麻痺が起こり,まれに突然の弛緩性対麻痺および括約筋制御の喪失を伴う横断脊髄炎が起こる。

実質性神経梅毒(進行麻痺または麻痺性認知症)は,皮質実質の破壊を引き起こす慢性髄膜脳炎の結果である。初感染の15〜20年後に通常は発症し,一般的には40代や50代前の患者には発症しない。進行性の行動荒廃を生じ,精神病または認知症と類似しうる。被刺激性,集中困難,記憶力低下,判断力低下,頭痛,不眠,疲労,および嗜眠がよくみられ,ならびに発作,失語症,および一過性の片麻痺も起こりうる。患者は衛生面および身だしなみに無頓着になる。情緒不安定,無力,抑うつ,および洞察力の欠落を伴う誇大妄想が起こりうる。

徴候としては,口,舌,広げた手,および体全体の振戦;瞳孔異常(性感染症: 晩期または第3期梅毒を参照 );構音障害;反射亢進;および一部の例では伸展足底反応がある。筆跡が通常,ふるえて読めなくなる。

脊髄癆(歩行性運動失調症)は,後注および後神経根の緩徐な進行性変性を伴う。機序は不明であるが,典型的には初感染の20〜30年後に生じる。最初に発生する最も特徴的な症状は通常,不規則に再発する背部および足の激しく刺すような痛み(稲妻様)である。歩行失調,知覚過敏,および感覚異常は,発泡ゴムの上を歩いているような感覚を起こしうる。膀胱知覚の欠落は,閉尿,失禁,および再発性感染をもたらす。勃起機能不全はよくみられる。

脊髄癆患者の大多数がやせていて,特徴的な悲しげな顔貌およびアーガイル・ロバートソン瞳孔(収束は調節するが,光に反応しない)を有する。視神経萎縮が起こりうる。下肢を診察すると,筋緊張低下,反射低下,振動覚および関節位置感覚の障害,踵脛試験での運動失調,深部痛覚の欠落,およびロンベルク徴候が明らかになる。脊髄癆は治療にもかかわらず難治性となる傾向がある。

内臓発症は通常,脊髄癆の異型と考えられる。様々な臓器で激しい疼痛発作が引き起こされ,最も多いのは嘔吐を伴う胃発症である。直腸,膀胱,および喉頭発症も起こる。

その他の病変: 栄養障害性病変は,皮膚または関節周囲組織の知覚鈍麻により二次的に晩期に発生することがある。栄養障害性潰瘍は足底に生じ,その根底にある骨と同じくらい深く貫入する。骨膨張を伴う無痛性の関節変性が生じ,運動範囲に異常を来すシャルコー関節症がよくみられる(関節疾患: 神経原性関節症も参照 )。

診断

梅毒が疑われるのは,特に高有病率地域の患者が,典型的な皮膚粘膜病変または原因不明の神経疾患を呈する場合である。そのような地域では,様々な原因不明の所見を呈する患者においても梅毒が考慮されるべきである。この疾患の臨床症状は実に幅広く,現在ほとんどの先進国において進行した段階は比較的まれであるため,疾患を見落としうる。HIVおよび梅毒の患者では非定型疾患が促進される。実施される診断検査は,疑われる梅毒の段階により異なる。梅毒の診断検査には,レアギン試験,トレポネーマ試験,および暗視野顕微鏡検査が含まれる。

梅毒の診断検査: これらには,梅毒の血清学的検査(STS)および病変部から採取した体液の暗視野検鏡検査などがある。STSは,スクリーニング(レアギン)検査および確定(トレポネーマ)検査から成る。微生物は検査室では培養できない。

レアギン試験では脂質抗原(カルジオリピン,すなわち牛の心臓脂質)を使って,レアギン(すなわち,脂質に結合する人の抗体)を検出する。米国性病研究所(VDRL)試験および急速血漿レアギン(RPR)試験は感度が高く簡単で安価なレアギン試験であり,スクリーニングに使用されるが,梅毒に対して特異的ではない。試験結果は,抗体価として定性的(例,反応性,弱反応性,境界域,または無反応性)および定量的(例,1:16希釈液にて陽性)に示されうる。トレポネーマ感染症以外にも,複数の症状(例,全身性エリテマトーデス,抗リン脂質抗体症候群)により,レアギン試験が陽性(生物学的に擬陽性)となりうる。レアギン試験による脳脊髄液検査は,初期の神経梅毒にはかなり感度があるが,晩期の神経梅毒では感度は低くなる。脳脊髄液レアギン試験を使用すると,神経梅毒を診断したり,抗体価の測定により治療に対する反応をモニターできる。

トレポネーマ試験では,抗トレポネーマ抗体を検出する。こういった定性試験には,蛍光標識抗トレポネーマ抗体吸収(FTA-ABS)試験,梅毒トレポネーマに対する抗体のマイクロ赤血球凝集テスト(MHA-TP),および梅毒トレポネーマ赤血球凝集テスト(TPHA)がある。トレポネーマ試験は梅毒に対して非常に特異的であり,トレポネーマ感染症を確認しなかったことで擬陽性反応が生物学的に同定される。脳脊髄液に対するトレポネーマ試験の適用については議論の余地があるが,一部の専門家はFTA-ABS検査は感度があると考えている。

レアギン試験もトレポネーマ試験も初感染後3〜6週間経過しないと陽性にならない。したがって,初期の第1期梅毒におけるSTSが陰性であっても,陰性の結果は6週間後まで梅毒を除外するものではない。レアギン価は効果的な治療後には減少し,第1期梅毒では1年,第2期梅毒では2年で陰性となる。トレポネーマ試験は通常,効果的な治療を受けていても,数十年間陽性を保つ。

暗視野顕微鏡検査では,下疳またはリンパ節から吸引した滲出液のスライドを通して光線を斜めに当てる。まれにしか利用可能ではないが,暗視野顕微鏡検査は初期の第1期梅毒に対して最も感度と特異度が高い検査である。スピロヘータは,暗い背景に対して明るい運動型の細いコイルとして現れ,その大きさは約0.25μm幅,および5〜20μm長である。これらは,特に口内では正常な微生物叢の一部である非病原性のスピロヘータと形態学的に区別する必要がある。

第1期梅毒: 第1期梅毒は通常,性器の,しかしときに性器外の,比較的痛みのない潰瘍に基づいて疑われる。性感染による性器潰瘍のいくつかの原因の特徴の鑑別については,性感染症: 性的感染による一般的な性器潰瘍または丘疹の鑑別に役立つ特徴表 2: 表に示されている。表に記載されていない潰瘍の原因には,第2期梅毒の粘膜発疹,びらん性亀頭炎,第3期梅毒のゴム腫性腫瘍,ベーチェット病,上皮腫,および外傷がある。2種類の病原菌(例,単純ヘルペスウイルスおよび梅毒トレポネーマ)による同時感染はまれではない。

表 2

性的感染による一般的な性器潰瘍または丘疹の鑑別に役立つ特徴

特徴

原因

孤立性潰瘍;硬結性;弾性;無痛性;およびごくわずかの圧痛;比較的圧痛のないアデノパシー

梅毒性下疳

紅斑性基底上の小さい表在潰瘍の集合体;有痛性;ときに小水疱を伴う;鼠径部アデノパシー

単純ヘルペスウイルス

表在潰瘍;軟らかい;有痛性;でこぼこに穿掘された端;赤い境界部分;潰瘍の大きさは多様で,しばしば融合する;横痃

軟性下疳

小さい丘疹または潰瘍,しばしば無症候性または気づかれない;強い圧痛および疼痛のある横痃で,ときに末端リンパ浮腫または皮膚へのドレナージを伴う;発熱の可能性あり

性病性リンパ肉芽腫

複数の表在性病変;他の全身症状(例,発熱,発疹,およびアデノパシー)

一次HIV感染

複数の表在性病変;疥癬においては,特徴的な性器外病変および洞の存在;ケジラミ寄生症ではシラミの存在

擦過創性疥癬またはケジラミ寄生症

隆起型;ベルベット状;悪臭あり;肉芽化病変;鼠径部アデノパシーなし

鼠径部肉芽腫

下疳またはリンパ節から吸引した滲出液を(もし利用できれば)暗視野顕微鏡検査することで診断できる。検査結果が陰性であるか,検査が利用不可能な場合には,STSが行われる。STSが陰性か,速やかに実施できない場合でも,皮膚病変が(STSが陽性になる前の)3週間未満存在し別の診断に対する臨床的な疑いが低ければ,治療を開始し,2〜4週間以内にSTSが繰り返される場合がある。梅毒患者は,HIVを含め他のSTDの検査を診断時および6カ月後に受けるように勧められるべきである。

第2期梅毒: 多数の疾患に類似する可能性があるため,診断がつかないすべての皮膚発疹,粘膜病変においても,梅毒を考慮するべきであり,特に全身性リンパ節腫脹,手掌や足底の病変,もしくは扁平コンジロームが存在する場合,または患者に危険因子(例,HIV,複数のセックスパートナー)がある場合は考慮を要する。第2期梅毒は,薬疹,風疹,伝染性単核球症,多型紅斑,毛孔性紅色粃糠疹,真菌感染症,または,特にバラ色粃糠疹として誤診されることがある。扁平コンジロームは,贅疣,痔,または増殖性天疱瘡に,そして頭皮の病変は輪癬もしくは特発性円型脱毛症に間違えられることがある。

第2期梅毒は,陰性レアギンSTSにより除外され,STSは第2期においては事実上常に反応性となり,しばしば高い抗体価を伴う。(レアギンまたはトレポネーマのいずれかの)陽性STSと矛盾しない症候群が,治療の根拠となる。まれに,この組み合わせが別の皮膚疾患を合併している潜伏期梅毒を示すことがある。第2期梅毒患者は,他のSTDおよび無症候性神経梅毒について検査されるべきである。

潜伏期梅毒: 無症候性潜伏期梅毒は,活動性梅毒の症状または徴候が欠如する中で,レアギンSTSおよびトレポネーマSTSが陽性であるときに診断される。そういった患者は,第2期および第3期梅毒を除外するために徹底的な検査,特に性器,皮膚,神経学的,および心血管の検査を受けるべきである。レアギンSTSの抗体価はゆっくりと低下するので,治療の成功を確認するためには数年間までの治療および血清学的なフォローアップが必要となりうる。潜伏期後天性梅毒は,潜伏期先天性梅毒(新生児における感染症: 先天梅毒を参照 ),潜伏性イチゴ腫,および他のトレポネーマ性疾患と鑑別される必要がある。

晩期または第3期梅毒: 第3期梅毒の症状または徴候(特に原因不明の神経学的異常)を呈する患者はSTSを有しているはずである。反応性があれば,(STSを含めた)脳脊髄液検査のための腰椎穿刺,脳および大動脈の画像検査,ならびに臨床的に関与が疑われる他のどんな臓器系についてもスクリーニングが実施されるべきである。レアギンSTSは,脊髄癆の少数例を除き,ほぼ必ず陽性である。

良性第3期梅毒においては,生検なしで他の炎症性腫瘤病変または潰瘍との鑑別は難しいであろう。心血管梅毒では,動脈瘤による隣接構造の圧迫症状,特に喘音または嗄声は示唆的であり,臨床評価はほぼ特徴的となりうる。梅毒性大動脈炎は,大動脈弁狭窄を伴わない大動脈弁閉鎖不全,胸部X腺上での大動脈根の拡張,および上行大動脈壁の線状石灰化により示唆される。動脈瘤の診断は大動脈画像(経食道心エコー図,CT,またはMRI)により確定される。

アーガイル-ロバートソン瞳孔を除き,神経梅毒のほとんどの症状および徴候は非特異的なため,診断はあらゆる可能性を疑うことに大きくかかっている。無症候性神経梅毒の診断は,異常な脳脊髄液(典型的にはリンパ球性細胞増加および蛋白上昇)および反応性のある脳脊髄液レアギン試験に基づいて下される。実質性神経梅毒において,脳脊髄液レアギン試験および血清トレポネーマ試験は反応性であり,脳脊髄液では典型的にリンパ球性細胞増加および蛋白上昇がみられる。HIVは軽度の細胞増加および他の種々の神経学的症状を起こすので,診断を混乱させることがある。脊髄癆においては,患者が以前に治療経験があると,血清レアギン試験が陰性となりうるが,血清トレポネーマ試験は通常は陽性である。脳脊髄液では通常,リンパ球増加,蛋白上昇,およびときにレアギンまたはトレポネーマの陽性結果が示されるが,治療を受けた多数の症例では脳脊髄液は正常である。

治療

梅毒の全段階における最適治療は,妊娠中も含めて,徐放性ペニシリンとなる。公的な保健機関への症例報告が必要となる。過去3カ月以内(第1期梅毒の場合)および過去1年以内(第2期梅毒の場合)の全ての性的接触者が評価されて,感染していれば治療されるべきである。

第1期,第2期,および潜伏期梅毒: ベンザチンペニシリンG240万単位,筋注1回により,血中レベルが2週間にわたり第1期,第2期,および初期(1年未満)の潜伏期梅毒の治療のために十分な高さとなる。通常は両側の殿部に120万単位ずつ投与され,局所反応を抑える。240万単位の追加注射が7日後および14日後に投与されるべきであるのは,潜伏期梅毒が後期である(1年以上経過している)か,単回投与レジメン後に脳脊髄液中にトレポネーマがときに存続しているため期間が不明な場合である。

ペニシリン-アレルギーの患者に対しては,セフトリアキソン(125mg,筋注,1日1回,10日間),アジスロマイシン(1g,経口,1回),またはドキシサイクリン(100mg,経口,1日2回,14日間)が使用されるが,これらの薬の効果は,特に潜伏後期梅毒に対して未だ十分に定義されておらず,14日間のレジメンには良好なコンプライアンスが必要である。

晩期または第3期梅毒: 良性または心血管第3期梅毒は,潜伏後期梅毒と同じ方法で治療できる。

眼の梅毒または神経梅毒については,水溶性ペニシリン(300〜400万単位,静注,4時間毎,10日間;中枢神経系に最も浸透するが,それでも実用的ではないことがある),またはプロカインペニシリンG(240万単位,筋注,1日1回),に加えてプロベネシド500mg,経口,1日4回をどちらも10〜14日間,この後にベンザチンペニシリン(240万単位,週1回,3回)投与が推奨される。脱感作できない重度のペニシリンアレルギー患者では,セフトリアキソン2g,筋注または静注,14日間連日投与は成功している。無症候性神経梅毒の治療は新しい神経学的欠損の進行を防ぐと思われる。神経梅毒の対症療法には,経口または筋注の抗精神病薬が含まれ,不全麻痺の管理に役立つことがある。稲妻様の疼痛がある脊髄癆患者には必要に応じて鎮痛薬が投与されるべきであり,カルバマゼピン200mg,経口,1日3回または4回がときに有用である。

ヤーリッシュ-ヘルクスハイマー反応(JHR): 50%以上の第1期または第2期梅毒患者,特に第2期梅毒患者が,最初の治療後6〜12時間以内にヤーリッシュ-ヘルクスハイマー反応を来す。その機序は不明である。典型的には,倦怠感,発熱,頭痛,発汗,硬直,不安,または梅毒病変の一時的悪化として現れる。アレルギー反応として誤診されることがある。JHRは通常,24時間以内に消失し,危険はない。しかしながら,全身不全麻痺または脳脊髄液細胞数が高い患者は,発作または卒中を含めたより重篤な反応を示すことがあり,それに応じて警告および観察されるべきである。予期しないJHRは,その他の症状に抗トレポネーマ性の抗生物質を投与された診断未確定の梅毒患者で発生しうる。

治療後の監視

治癒を確認するために繰り返して検査を行うことの重要性を,治療前に患者に説明すべきである。診察およびレアギン価は治療の3カ月後,6カ月後,12カ月後に実施されるべきであり,その後も無反応となるまで年1回行われる必要がある。6カ月の時点で1/4に減少していないと,治療の失敗が示唆され,再治療の必要を意味する。治療が成功すると,一次病変は急速に治癒し,レアギン価が低下し,通常は9〜12カ月以内に定性的に陰性となる。トレポネーマ試験は通常,数十年間または永久に陽性を保つため,継続的に測定される必要はない。

神経梅毒患者では,脳脊髄液検査を3カ月後,6カ月後,ならびに脳脊髄液が正常になるまで2年間にわたって6カ月毎に実施するべきである。2年間にわたり脳脊髄液,血清学的検査,および診察が正常であると治癒の可能性が示唆される。血清学的または臨床的な再発はときに6〜9カ月後に起こり,通常は神経系が侵される;再感染も考慮されるべきである。より集中的な抗生物質レジメンを用いた再治療の適応には,1年間以上陽性のままであるレアギン試験,力価の上昇,および臨床的再発が含まれる。最大限の治療から6〜12カ月後において,引き続き脳脊髄液が異常な場合,最大限の治療を続ける必要があるかどうかについては不明である。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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