メルクマニュアル18版 日本語版
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解離性同一性障害

解離性同一性障害は,以前は多重人格障害と呼ばれていたもので,その特徴は,2つ以上の同一性または人格が交互に現れ,いくつかの人格に関係する重要な個人情報を思い出せないという点にある。原因は典型的には,小児期の圧倒的な心的外傷である。診断は病歴に基づいて行い,ときに催眠または薬物により誘導した面接が追加される。治療は精神療法であり,ときに薬物療法と併用される。

ある人格が知らないことを他の人格が知っていることがある。一部の人格は,複雑な内面世界に存在する他の人格のことを知っており,それらとやりとりをしているように思えることがある。

病因

解離性同一性障害は,極度のストレス(典型的にはひどい虐待),小児期のきわめて痛ましい経験に対する十分な養育および思いやりの欠如,解離能力(自分の記憶,知覚または同一性を意識から分離する能力)の相互作用に起因している。

小児は生まれつき統合された同一性の感覚をもっているわけではなく,それは多くの情報と経験によって発達する。圧倒的な経験をした小児では,一体となるべき多くの部分がばらばらな状態にとどまる。小児期の長期にわたるひどい虐待(身体的,性的,または情緒的)が,しばしば解離性同一性障害の患者により報告され,また実証されることがある。虐待はなくとも,幼少期の重大な喪失(親の死など),重篤な疾患,その他非常にストレスに満ちた出来事を経験している患者もいる。

自分自身および他者について整合性のとれた複雑な正しい認識能力を身につける多くの小児とは対照的に,ひどい虐待を受けた小児は,様々な知覚や感情が切り離されたまま各段階を経ると考えられる。こうした小児は,自分自身の心の中に“逃げ込む”または“引きこもる”ことで虐待から逃れる能力を発達させることがある。各発達段階は,様々な自己を作り出すために利用されると考えられる。

症状と徴候

以下に示すいくつかの症状が特徴的である:症状像に変動があること;きわめて有能な状態から無能状態まで,機能レベルに変動があること;重度の頭痛または他の肉体的苦痛;時間の歪み,時間的な隔たりおよび健忘;離人症および現実感消失。離人症は,自己から離れ,自身の身体および精神過程から遊離した非現実感を指す。患者は自分の生活の傍観者であるように感じ,まるで映画の中の自分を見ているように感じる。自分が一時的に身体の中に存在していないように感じることさえある。現実感消失とは,見慣れた人々や環境が,親しみのない,見知らぬ,非現実的なもののように感じられることを指す。

自分で説明できない,あるいは見覚えのない物,作品,または手書きのものを見つけることがある。患者は自分のことを一人称複数(私たち)または三人称(彼,彼女,彼ら)で呼ぶことがある。

人格の入れ替わり,および健忘による人格間の障壁が,しばしば生活に混沌をもたらす。人格は互いに相互作用することが多いため,典型的な例では,患者は他の人格間でなされる内的な会話が聞こえる,自分について意見を言ったり話しかけたりするのが聞こえると言う。このため,精神病と誤診されることもある。これらの声は幻覚として経験されるが,統合失調症のような精神病性障害に典型的な幻覚とは明らかに質が異なる。

患者は,不安障害,気分障害,心的外傷後ストレス障害,人格障害,摂食障害,統合失調症,および発作性障害などに類似した一連の著明な症状をしばしば示す。自傷のエピソード同様,自殺念慮および自殺企図もよくみられる。多くの患者に物質乱用がある。

診断

典型的な患者では,3つ以上の異なる精神疾患の診断名が付けられ,治療が失敗した既往がある。医師の中には解離性同一性障害の妥当性に懐疑的な人々がおり,そのことも誤診につながっている可能性がある。

診断には,解離現象について具体的な質問をすることが必要である。長時間の面接,催眠,または薬物(メトヘキシタール)を用いた面接がときに用いられ,患者には面接日の合間に日記をつけるよう指示することもある。これらの方法はいずれも,評価時の人格状態の変化を促す。特別に作られた質問紙が役に立つこともある。

また精神科医は,健忘により思い出せない行動や,離人的あるいは非現実的に感じられた行動に関与している精神の部分に話しかけるよう指示することによって,別な人格と直接接触しようと試みることがある。

予後

症状は自然に消長を繰り返すが,解離性同一性障害が自然に消失することはない。患者は3群に分けられる。第1群の患者は,主に解離症状と心的外傷後の特徴を有し,一般的に機能に問題はなく,治療によって完全に回復する。第2群の患者は,人格障害,気分障害,摂食障害,および物質乱用障害など他の障害の症状とともに解離性症状を示す。この患者群は改善がより緩徐で,治療効果はさほど高くないか,または長くかかり,危機的な状況が多い。第3群の患者は,併存する精神疾患による重度の症状を有するだけでなく,虐待者と目される相手に依然として情緒的な愛着を抱いていることがある。これらの患者にはしばしば長期の治療が必要であり,典型的には,人格の統合を実現するよりも症状のコントロールが目的となる。

治療

最も望ましい転帰は人格の統合である。投薬は抑うつ,不安,衝動性,および物質乱用の症状を管理するのに役立つが,統合を実現するための治療は精神療法が中心である。統合の努力ができない,またはその意志のない患者の場合には,治療は人格間での協力および共同作業を促し,症状を軽減することを目的として行う。

精神療法の最優先事項は,患者を安定させ,安全を確保することであり,心的外傷体験の評価,および問題となる人格の解明はその後に行う。一部の患者には入院が有益であり,その間に継続的な支持と監視を行いながら,痛ましい記憶への対処を行う。心的外傷の記憶を解明し,その影響を拡散させるために,催眠がしばしば用いられる。催眠は,それぞれの人格に近づき,人格間のコミュニケーションを促し,人格の安定化と解釈を進めるのにも役立つ。解離の理由を扱うにつれて治療は進展し,患者のもつ複数の自己とそれらの関係,および社会的機能を再び結びつけ,統合し,再生することも可能になる。一部の統合は自然に生じる。統合は,諸人格との交渉と統一の準備によって,またはイメージおよび催眠による暗示によって促すことができる。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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