メルクマニュアル18版 日本語版
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蛋白同化ステロイド

蛋白同化ステロイドは身体能力や筋肉の成長を増強するために使用される。医学的管理なしに高用量を長期的に使用すると,常軌を逸した非理性的な行動および広範囲にわたる身体的副作用を引き起こすことがある。

蛋白同化ステロイドには,テストステロンと,化学的および薬理学的にテストステロンに近い筋肉成長促進薬が含まれる。蛋白同化ステロイドは,男性化作用(例,毛髪や性欲の変化,攻撃性)や蛋白同化作用(例,蛋白質の利用増大,筋量の変化)を有する。男性化作用は蛋白同化作用と切り離せないが,蛋白同化ステロイドの中には男性化作用を最小限に抑えるように合成されているものもある。

テストストロンは肝で急速に分解される;経口テストステロンは急速に不活性化されるため効果はないが,テストステロン注射剤は,吸収または分解を遅らせるために修飾(例,エステル化)される必要がある。17-α-アルキル化された類似化合物は,しばしば経口投与で効果を現すが,副作用を増大させることもある。経皮製剤も存在する。

副作用は用量と薬物によって大きく異なる。生理的補充量(例,メチルテストステロン1日10〜50mgまたは等価物)では副作用はほとんどみられない。運動選手はこの範囲の10〜50倍の量を使用することがある。高用量では,作用が明らかなものもあるが,明確でないものもある( 薬物使用と薬物依存: 蛋白同化ステロイドの副作用表 1: 表)。不確実さの原因は,用量を正確に報告しない乱用者や,闇取引で入手し,その多くが偽物で(表示にもかかわらず)含量や含まれる物質も様々な薬物を使用している乱用者が大部分の研究に含まれているためである。

表 1

蛋白同化ステロイドの副作用

明らかな症状

赤血球増多症

脂質プロフィール異常(HDL低下,LDL上昇)

肝機能異常*:肝臓紫斑病,浮腫

気分障害(高用量の場合)

男性化作用:座瘡,脱毛,女性の男性化や多毛

生殖腺の抑制(精子数減少,精巣萎縮)

女性化乳房

骨端の早期閉鎖

あいまいな症状

高血圧/LVH

前立腺肥大または既存の癌の悪化

肝癌

ほとんど見られない症状

運動選手における突然死のリスク増加

低用量での重要な気分障害

HDL = 高比重リポ蛋白;LDL = 低比重リポ蛋白;LVH = 左室肥大。

*主として17α-アルキル化物質による。

臨床では,蛋白同化ステロイドはテストステロン低値の治療に用いられる(男性の生殖内分泌学: 男性の性腺機能低下症を参照 )。加えて,蛋白同化ステロイドは抗異化作用をもち,蛋白質の利用を向上させるため,熱傷,寝たきり,その他衰弱した患者の筋肉の消耗を防ぐために投与されることがある。医師の中には,蛋白同化ステロイドをAIDSに関連したるいそう患者や癌患者に処方する人々もいる。しかしながら,こうした治療法を推奨するデータはほとんどなく,アンドロゲン補充が基礎疾患にどのように影響を与えるかに関する指針もほとんどない。テストステロンは創傷治癒と筋肉損傷に有効であると言われているが,こうした主張を裏づけるデータはない。

蛋白同化ステロイドを乱用すると,除脂肪体重と筋力が増す;これらの効果は筋力トレーニングと適切な食事療法の併用により増強される。蛋白同化ステロイドが持久力またはスピードを増強するという直接の根拠はないが,多くの証拠事例から,蛋白同化ステロイドを使用する運動選手は,強度の練習を回数多くこなせることが示唆されている。筋肉の肥大は明らかである。

蛋白同化ステロイド乱用の生涯発生率は人口の0.5〜5%と推定されるが,その値は集団によって大いに異なる(例,ボディビルダーや運動競技選手ではさらに高い値を示す)。米国で報告されている使用率は,高校生男子では6〜11%であり,予想以上に多くの非運動選手を含む高校生女子では約2.5%であった。

運動選手は,一定期間ステロイドを使用し,中断し,また再開するというサイクルを1年に数回行うことがある。薬物の間欠的な中断は,内因性のテストステロンレベル,精子数,および視床下部-下垂体-性腺軸を正常に戻すと考えられている。事例証拠から,サイクル化することで有害な作用が軽減され,望む効果を実現するために使用量を増やす必要も少なくてすむことが示唆されている。

運動選手は,しばしば多くの薬物を同時に使用し(スタッキングと呼ばれる行為),また様々な投与経路で使用する(経口,筋注,経皮)。周期的に用量を増やしていく方法(ピラミッド法)によって,結果的に生理的用量の5〜100倍にもなることがある。スタッキングおよびピラミッド方法は,受容体への結合を増大させ,副作用を最小限に抑える目的で行われるが,そうした効果は今のところ証明されていない。

症状と徴候

最も特徴的な徴候は,急激な筋肉量の増加である。増加の速度と程度は投与量に直接関係している。生理的用量を投与している患者では,増加は緩徐で,しばしば気がつかないくらいであるが,大量投与の患者では,1カ月に数ポンド(1ポンドは455g)も除脂肪体重が増加することがある。エネルギーレベルおよび性欲(男性の場合)も増大するが,同定は困難である。

心理的な作用(一般には,非常に高用量の場合のみ)は,しばしば家族が気づくことがある:すなわち,常軌を逸した幅広い気分変動,非理性的な行動,攻撃性の増大(“ステロイドの怒り”),易刺激性,性欲亢進,抑うつなどである。

座瘡の増加や女性化乳房の訴えも多く,女性には男性化作用がみられる。これらの作用(例,脱毛,クリトリス肥大,多毛,声の低音化)の中には不可逆性のものもある。加えて,乳房の大きさの減少;腟粘膜の萎縮;月経の変化または無月経;性欲の増大,まれに減少;攻撃性および食欲増大が生じることもある。

診断,予防,治療

通常は尿スクリーニング検査で蛋白同化ステロイドの使用者を発見する。蛋白同化ステロイドの代謝物は,薬物中止後最大6カ月まで(ある種の蛋白同化ステロイドではさらに長い)尿から検出可能である。

青少年と若年成人の治療にあたる医師は,ステロイド乱用の徴候に注意し,その危険性について患者を教育する必要がある。蛋白同化ステロイドについての教育は,中学の初めから開始すべきである。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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