メルクマニュアル18版 日本語版
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人格障害

解離性障害: 解離性同一性障害も参照 。)

人格障害とは,顕著な苦痛や機能的障害をもたらす,広汎な,柔軟性に欠ける固定的行動パターンをいう。10種類の明確な人格障害が特定されており,3群に分類されている。いずれも遺伝的要因と環境要因の複合により生じると考えられている。診断は臨床的に行う。治療には精神療法と,ときに薬物療法を用いる。

人格特性とは思考,知覚,反応,関係樹立のパターンであり,このパターンは長期にわたって,また様々な状況でも比較的一定している。人格特性は通常,青年期後期または成人期初期には明らかであり,多くの特性は人生の大半を通じて持続するが,年齢とともに消失するもの,また修正可能なものもある。人格障害は,これらの特性が非常に硬直的で適応性に欠けるため,機能に問題が生じる場合に認められる。誰もがその時々に無意識に用いている精神的な対処機制(防衛)が,人格障害のある人々の場合には未熟で適応性に欠ける傾向がある( 人格障害: 対処機制表 1: 表を参照)。

表 1

対処機制

機制

定義

結果

関連する人格障害

投影

認められない感情を他者に転嫁すること

偏見,妄想性の疑念による親交の拒絶,外的危険に対する過度の警戒,不正の収集につながる

妄想性人格および統合失調型人格に典型的;境界性,反社会性,または自己愛性人格の人々が急激なストレスを受けた場合にも用いられる

分裂

黒か白,全か無かといった認識または思考で,人を完全な善人である理想的な救済者か完全な悪人のどちらかに分ける

両価的な感情(すなわち,同一の人間に対して愛と怒りの感情をもつ),不確かな感情,絶望的な感情に伴う不快感を回避する

境界性人格に典型的

行動化

苦痛または快感を伴う感情を意識しないで済むように,無意識の願望や衝動を直接行動で表すこと

多くの非行や,無謀な行為,行き当たりばったりの行為,物質乱用行為につながるものであり,これらは習慣性になることがあるため,本人はその行為を引き起こした感情に気づかず,それを否認し続ける

反社会性,循環気質性,または境界性人格の人々にきわめてよくみられる

攻撃性を自分自身に向けること

他者に対する怒りの感情を自己に向ける;間接的な場合は受動攻撃性と呼ばれ,直接的な場合は自傷行為と呼ばれる

他人の失敗に関する感情を内在化する;愚かで挑発的な道化役を演じる

受動-攻撃的な抑うつ性人格の根底にある;境界性人格を有する人々の場合は劇的で,他者に対する怒りを自傷という形で表す

空想

想像上の関係と個人的な信念の体系により葛藤を解決し,孤独を紛らわす傾向

奇行や人との親密な関係の回避をもたらす

回避性人格または統合失調質人格の人々が用いるが,こうした人々は精神病患者とは対照的に自分の空想を信じておらず,したがって空想に従って行動することもない

心気症

身体的愁訴を利用して人の注意を引く

人々が親身に気遣ってくれることがある;相手の知らないうちに,相手に向かって怒りを表すこともできる

依存性,演技性,または境界性人格の人々が用いる(身体表現性障害および虚偽性障害: 心気症を参照 )

人格障害を有する人々はしばしば(医師を含め)周囲の人々にフラストレーションをもたらし,腹立たしい存在ですらある。大部分が生活上の悩みをもち,仕事や社会的関係に問題がある。人格障害はしばしば気分障害,不安障害,物質乱用,摂食障害と共存する。重度の人格障害を有する人々は,心気症や暴力的あるいは自己破壊的行動のリスクが高い。育児方法は一貫性に欠け,冷淡,感情過多,虐待的,無責任なことがあり,子供に身体的,精神的問題をもたらすことがある。

一般人口の約13%が人格障害を有している。反社会性人格障害は人口の約2%に起こり,6対1で女性よりも男性に多い。境界性人格障害は人口の約2%に起こり,3対1で男性よりも女性に多い。

診断と分類

問題の原因と患者に対する人々の接し方について,患者がどのような情緒的反応と考えを示すかということから,彼らの障害について情報を得ることができる。診断は,悩みを引き起こし社会的機能を妨げている行動や認識の反復的パターンの観察に基づく。こうしたパターンについて,患者にはしばしば認識が欠けている;したがって,まず患者と関わりのある人々による評価を求めることがある。しばしば医師の不快感から,典型的には医師が怒りを感じ始めるか防御的になり始めるならば,患者の人格障害が疑われる。

精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(DSM-IV)の一般的基準では,他の精神疾患や身体疾患(例,うつ病,物質乱用,甲状腺機能亢進症)が患者の行動パターンの説明となりうるか否かを考慮する必要があると強調している。DSM-IVでは10種類の明確な人格障害の存在を認め,それらを3群に分けている:(A)奇妙/風変わり,(B)演技的/移り気,(C)不安/恐怖。

A群: A群の患者は孤立し,懐疑的な傾向がある。

妄想性人格 は,対人関係が冷淡でよそよそしく,親密になると支配欲求が生じ,嫉妬深くなりがちである。患者はしばしば秘密主義で疑い深い。彼らは変化に対して猜疑心を抱き,他人の行動の裏にしばしば敵意や悪意ある動機を見つけようとしがちである。こうした敵意に満ちた動機は,しばしば他者に対する彼ら自身の敵意の投影(人格障害: 対処機制表 1: 表を参照)である。彼らの反応はときに人々を驚かせ,怯えさせる。そしてその結果,相手が怒りや拒絶を示すと,それを自分の元々の感情を正当化するのに利用する(すなわち,投影的同一視)。妄想的な人々は義憤の念を抱きやすく,人を相手取って訴訟を起こすこともしばしばである。このような人々は非常に有能で良心的な場合もあるが,通常は,どちらかというと1人で仕事をする必要がある。この障害は妄想型統合失調症との鑑別が必要である。

統合失調質人格は,内向性,社会的引きこもり,孤独,感情的冷淡さ,よそよそしさによって特徴づけられる。患者はしばしば自分自身の思考と感情にとらわれ,他人と近づき,親しくなることを恐れる。口数が少なく,白昼夢にふけり,実際の行動よりも理論的思弁を好む。

統合失調型人格も統合失調質人格と同様に社会的引きこもりと感情的冷淡さを伴うが,同時に魔術的思考や千里眼,関係念慮,妄想様観念など,思考,知覚,コミュニケーションの奇異さも示す。このような奇異さは統合失調症(統合失調症と関連障害: 統合失調症を参照 )を思わせるが,その診断基準を満たすほど重度ではない。統合失調型人格の人々では,統合失調症を引き起こす遺伝子の弱い発現があると考えられている。

B群: この群の患者は感情的に不安定で衝動的,また激しい傾向がある。

境界性人格は,不安定な自己イメージ,気分,行動,および対人関係を特徴とする。患者は子どもの頃に十分な世話をしてもらえなかったと信じていることが多く,そのため,満たされぬ思いや怒りを感じており,愛情のこもった世話を受ける権利があると思っている。その結果,世話されることを執拗に求め,世話してもらえないと感じることに過敏である。彼らの対人関係は激しく劇的なものとなる傾向がある。ケアされていると感じているときの彼らは,うつ病,物質乱用,摂食障害,過去のひどい仕打ちのために助けを求めている淋しい孤児のようにみえる。自分の面倒を看てくれている人を失うのではないかと感じたときには,理不尽で激しい怒りを表現することがよくある。こうした気分の変化に伴い,彼らの世界観および自分自身や他者に対する見方は,悪から善,嫌いから好きというように極端に変化するのが典型である。見捨てられたと感じると,彼らは周囲との関係を断つか,やみくもに衝動的となる。その現実的概念はときに非常に乏しいことがあり,そのため,妄想的考えや幻覚のような精神病性の思考の短いエピソードを呈することがある。しばしば自己破壊的になり,自傷や自殺を図ることもある。最初,彼らは介護者の心に強い慈愛的な反応を呼び起こすことが多いが,危機的状況やあいまいで根拠のない不平,治療指示を守らないといったことが繰り返されるうちに,助けを拒む不平家であるとみなされるようになる。境界性人格は年齢とともにより軽度になり,または安定する傾向がある。

反社会性人格は,他人の権利や感情を平然と無視することを特徴とする。患者は物質的利益や個人的満足のために他人を利用する。すぐに欲求不満を抱き,こらえ性がない。特徴的なのは,自分の葛藤を衝動的で無責任なやり方で行動化し(人格障害: 対処機制表 1: 表),ときに敵意や激しい暴力を伴う。通常は自分の行動の結果を予想しようとせず,後になって後悔や罪の意識を感じることもないのが典型である。彼らの多くは,口先で自分の行動を合理化したり,他人のせいにすることに長けている。彼らの人間関係には不誠実と欺瞞が充ち満ちている。罰を与えても,行動が変わったり判断力が向上することはほとんどない。反社会性人格はしばしばアルコール症,薬物依存,乱交,責任完遂の失敗,頻繁な引っ越し,犯罪の原因となる。平均寿命は短いが,加齢とともに障害は減退ないし安定する傾向がある。

自己愛性人格には誇大妄想がある。患者は誇大な優越感を抱き,人が自分に敬意を払うことを期待する。その対人関係は賞賛されたいという欲求によって特徴づけられ,批判や失敗,敗北に対して極端に過敏である。高い自己評価と現実の違いに直面させられると,腹を立てたり,あるいは深刻な抑うつ状態となって自殺することがある。人々は自分をうらやんでいるとしばしば信じている。他人を利用することもあり,自分は優れているのだからそれくらい当然だと思っている。

演技性人格には,人の注意を惹きたいという強い欲求がある。また患者は極端に外見を気にし,芝居がかった態度をとる。感情表現はしばしば誇張され,子供じみて,表面的であるように思われる。それにもかかわらず,人の同情や性的な関心を喚起することがよくある。すぐに人と親しくなり,関係は過度に性的なものとなることもしばしばだが,表面的で一時的なものになる傾向がある。彼らの誘惑的な行動および身体的問題を誇張する傾向(すなわち心気症[人格障害: 対処機制表 1: 表])の背後には,しばしば依存と保護を求めるより根元的な願望が存在する。

C群: この群の患者は神経質で受動的,またはかたくなで物事にとらわれる傾向がある。

依存性人格は責任を人に委ねるのが特徴である。患者は,人から援助を得,それを維持するために人の言うなりになることがある。例えば,彼らはしばしば自分自身より自分が依存している相手の欲求を優先させる。自信がなく,自分で自分のことがうまくできないと強く感じている。他者の方が有能であると考え,攻撃的な態度を示すと自分が必要としている相手の機嫌を損ねるのではないかと恐れて自分の意見を表明したがらない。他の人格障害における依存性は,顕著な行動上の問題によって隠されていることがある;例えば演技性または境界性人格的な行動によって,背景にある依存性が覆い隠されている。

回避性人格の特徴は,拒絶に対して過敏であること,失敗や失望のリスクを恐れて新しい対人関係や何か新しいことを始めるのを恐れることである。愛情と受容を求める強い自覚的欲求があるため,自分が孤立していることや他者とうちとけた関係を結べないことを明らかに悩んでいる。彼らはほんのわずかな拒絶を感じ取っただけで引きこもってしまう。

強迫性人格は,良心的できちんとしており信頼できることが特徴だが,柔軟性に欠けるため,しばしば変化に適応できなくなることがある。まじめに責任を果たすが,ミスや中途半端を嫌悪するため,些細なことにとらわれて目的を忘れてしまう。その結果,決断を下したり,仕事を完成することがなかなかできない。こうした問題があると,責任は不安の原因となるため,彼らは自分が達成したことに対して大きな満足を味わうことがほとんどない。強迫性人格のほとんどの特性は適応的なものであり,極端にならないかぎり,この特徴をもつ人はしばしば,特に秩序や完全主義や忍耐力が望まれる諸科学やその他学術分野で大きな業績を上げる。しかし,感情面や対人関係の面,また自分でコントロールできないか他人に頼らざるをえない状況,あるいは出来事が予測できない状況では居心地の悪さを感じる。

その他の人格タイプ: 他にも複数の人格のタイプが記述されているが,DSM-IVでは障害として分類されてはいない。

受動-攻撃性(拒絶症的)人格は,無能または受動的にみえるのが典型だが,これらの行動は責任逃れや他者を操ったり罰したりするために密かに企図されたものである。受動-攻撃的行動は,ぐずぐずしていること,非効率的なこと,またはとても考えられないような無能ぶりによって明らかになることがしばしばある。自分のやりたくない仕事があると,やると言いながらも巧妙にその仕事の完了に水をさすということがよくある。通常こうした行動は,敵意や意見の相違を否認したり隠したりする役目を果たす。

循環気質性人格気分障害: 気分循環性障害も参照 )では,威勢のよい快活さと憂うつで悲観的な気分が交互に起こる;各々の気分は数週間ないしそれ以上続く。特徴的なのは,この周期的気分変動が規則的で,はっきりとした外的な原因がなくとも起こることである。これらの特徴が社会的適応を妨げない限り,循環気質は一種の気質であるとみなされており,多くの才能ある創造的な人々にみられるものである。

抑うつ性人格は,慢性的に不機嫌,心配性で自意識が強いことを特徴とする。患者は悲観的なものの見方をし,それが彼らの自主性を損ない,人の気分を滅入らせる。自己満足は不当で罪深いもののように感じられる。彼らは自身の苦悩が,他者の愛や賞賛を得るために必要な報賞メダルであると無意識のうちに信じている。

治療

治療は人格障害のタイプにより異なるが,全てに該当するいくつかの一般原則がある。家族や友人の存在は,患者の問題行動や思考を強化するように働くこともあれば抑制するように働くこともあるため,彼らの治療への関与は有益で,しばしば不可欠となる。最初は,問題が患者自身にあるということをわからせるよう努力すべきある。もう1つの原則として,人格障害の治療には長い時間がかかるということが挙げられる。通常,長期の精神療法または同じような人々とのエンカウンターによって繰り返し直面化を行うことで,自身の防衛,信念,および不適応的な行動パターンを本人に気づかせることが必要である。

人格障害は治療が特に困難なため,経験を積み,熱意に富み,また患者の感情に触れそうな領域や通常の対処方法を理解しているセラピストが重要となる。思いやりと指導のみでは人格障害を変えることはできない。人格障害の治療は精神療法と薬物療法の併用となる場合がある。しかし,症状に対して薬物はさほど効果がないのが典型である。

不安と抑うつの軽減が最初の目標であり,これには薬物療法が有益な場合がある。環境ストレスを軽減すると,こうした症状が速やかに緩和することがある。無謀,社会的孤立,主張の欠如,かんしゃくの爆発などの不適応行動は数カ月間で変化しうる。デイホスピタルや居住施設内ではグループ療法と行動修正が行われることもあるが,これは効果がある。自助グループや家族療法への参加も,社会的に望ましくない行動を変える一助となる。境界性,反社会性,回避性人格障害の患者では,行動の変革が最も重要である。弁証法的行動療法(DBT)は境界性人格障害に有効であることが証明されている。DBTは,週1回の個人精神療法およびグループ療法と,予定されているセッションとセッションの間に行われるセラピストとの電話連絡からなり,患者が自身の行動について理解するのを助け,彼らに問題解決と適応行動を教えることを目的とする。境界性人格障害および回避性人格障害の患者には,力動的精神療法も非常に有効である。こうした治療の重要な要素となるのは,人格障害患者が自分自身の感情の状態を認識し,その行動が人々に与える影響について考えるのを助けることである。

対人関係上の問題,すなわち依存性,不信感,傲慢,操作的態度などを変えるには通常1年以上を要する。対人関係の変化をもたらすかなめは個人精神療法で,これは患者が自身の対人関係における問題の原因を理解するのに役立つ。セラピストは患者の思考と行動パターンの望ましくない結果を繰り返し指摘する必要があり,ときには患者の行動に制限を設ける必要がある。このような療法は演技性,依存性,受動-攻撃性人格障害の患者にとって不可欠である。一部の人格障害(例,自己愛性や強迫性のタイプ)では,態度,予想,信念が精神的にどのように体系化されているかということが関係しており,このような患者に対しては,通常3年以上の精神分析が勧められる。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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