性的関心・興奮障害

執筆者:Allison Conn, MD, Baylor College of Medicine, Texas Children's Pavilion for Women;
Kelly R. Hodges, MD, Baylor College of Medicine, Texas Children's Pavilion for Women
レビュー/改訂 2021年 3月
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性的関心・興奮障害は,性的関心,性行為を始めること,性的な快感,思考,および空想の欠如または低下;反応的欲求の欠如;および/または主観的興奮の欠如もしくは性的刺激に対する身体的な性的反応(性器以外,性器,またはその両方)の欠如を特徴とする。

女性の性機能および性機能障害の概要も参照のこと。)

性的関心・興奮障害の女性は,セックスにほとんどまたは全く関心がなく,性的刺激に対して主観的にも身体的にも反応しない。関心および性的に興奮する能力の低下の程度は,女性の年齢およびパートナーとの関係の持続期間から予測しうるものよりも大きい。性的関心の欠如および性的に興奮できないことは,それらが女性を苦しめ,性的経験全般において関心が欠如している場合にのみ,障害とみなされる。

性的興奮の低下は,主観的興奮,性器の興奮,これら両方の3つのカテゴリーに分けられる。これらのカテゴリーは臨床に基づくものであり,一部は性器または性器以外の刺激に対する女性の反応により以下のように区別される:

  • 主観的興奮:女性が,あらゆる種類の性器または性器以外の性的刺激(例,キス,ダンス,官能的なビデオの鑑賞,身体刺激)に対して,身体的な性的反応(例,性器の充血)が起こるにもかかわらず,興奮を感じない。

  • 性器の興奮:性器以外の刺激(例,官能的なビデオ)により主観的興奮は起こるが,性器に対する刺激には反応しない。この障害は,典型的には閉経後女性にみられる。腟の潤滑性および/または性器の感受性が低下している。

  • これら両方:あらゆる種類の性的刺激に対する主観的興奮が欠如または低下し,女性は身体的な性的興奮の欠如を訴える(すなわち,潤滑剤を使用する必要があったり,陰核の腫脹がもはや起こらないこと分かると述べることがある)。

病因

性的関心・興奮障害の一般的な原因には,以下のものがある:

  • 心理因子(例,抑うつ,不安,低い自尊心,ストレス,不安,注意散漫,パートナー間のコミュニケーション不足,その他の人間関係の問題)

  • 報われない性的経験(例,性的能力の欠如またはうまく要求を伝えられないことによる)

  • 身体因子(例,閉経関連泌尿生殖器症候群[genitourinary syndrome of menopause]および外陰ジストロフィーなどの疾患,性ホルモン濃度の変化,特定の薬剤,疲労,衰弱)

特に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの特定の薬物,一部の抗てんかん薬,およびβ遮断薬の使用は性的関心を減退させることがあり,過度の飲酒も同様である。特定の慢性疾患(例,糖尿病,多発性硬化症)が自律神経または体性神経,もしくはそれらの経路を障害し,性器部位の感覚を低下させることがある。

ホルモン値の変動および変化(例,閉経期,妊娠中,分娩後,月経周期によるもの)も性的関心に影響を与えうる。例えば,閉経期に生じるエストロゲンの減少は閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause)を引き起こす可能性があり,これにより性交痛が生じて性的関心が低下しうる。加齢に伴うテストステロンの減少は性欲を低下させる可能性があり,高プロラクチン血症(エストロゲン濃度が低下するため性交痛も引き起こすことがある)も同様である可能性がある。

性的刺激が不十分であることや性行為にふさわしくない雰囲気も性的関心や興奮の欠如の一因となりうる。

診断

  • 診断基準(DSM-5)

性的関心・興奮障害の診断は,DSM-5の基準に基づき臨床的に行う。

基準では,以下のうち3つ以上の欠如または有意な低下が認められる必要がある:

  • 性行為への関心

  • 性的または官能的な空想や思考

  • 性行為を開始すること,およびパートナーが始めた性行為に対する受容性

  • 性行為中の75%以上における興奮または快感

  • 内的または外的な,性的または官能的な刺激(例,記述,言語,視覚による)に反応した関心または興奮

  • 性行為中の75%以上における性器または性器以外の感覚

これらの症状は6カ月以上存在し,女性に著しい苦痛を引き起こしていなければならない。

身体的または他の心理的な原因(人間関係の苦痛を含む)により症状を説明しうる場合は,診断は下されない。

性行為中の挿入が痛みを引き起こす場合は,内診を行う。

治療

  • 教育

  • 精神療法

  • ホルモン療法

性的関心・興奮障害の管理には集学的アプローチが最善である。集学的チームには,セックス・カウンセラー,疼痛の専門医,精神療法士,および理学療法士が含まれることがある。

性的な解剖および機能についての指導(例,陰核の前に体の他の部位を刺激する必要性,情緒的な絆や信頼感の必要性)も役立つことがある。セックスパートナー間の率直で中立的なコミュニケーションが不可欠である。

効果的な性的刺激には,身体以外の刺激,身体の性器以外への刺激,および挿入を伴わない性器刺激などがある。医師は,より強い官能的な刺激や空想を用いること,集中を阻害するもの(例,寝室のテレビ)の排除,ならびにプライバシーおよび安心感を高めるための対策を推奨することがある。

患者特有の心理因子に関しては,精神療法(例,認知行動療法)を必要とする場合もあるが,女性が思考や行動のパターンを変えるためには,心理因子が重要であると認識するだけで十分なことがある。マインドフルネス認知療法(MBCT)は,典型的には少人数の女性グループで行い,興奮,オルガズム,その後の欲求や動機を改善しうる。医師は女性をセックス・カウンセラーもしくはセックス・セラピストまたは精神療法士に紹介することがある。

併存するホルモン関連の原因には標的治療が必要である(例,閉経関連泌尿生殖器症候群[genitourinary syndrome of menopause]に対する外用エストロゲンや高プロラクチン血症に対するブロモクリプチン)。症状に寄与している可能性のある他の疾患(例,腹圧性尿失禁)を治療すべきである。

エストロゲン療法

エストロゲンの全身投与は性的関心・興奮障害の治療には適応とならない。しかしながら,これは更年期症状の治療に用いられることがある;気分を改善し,皮膚や性器の感受性および腟の潤滑性の維持に役立ち,併存する血管運動症状(例,ホットフラッシュ)を軽減させる可能性がある。これらの効果により性的関心および興奮が増進する可能性がある。エストロゲン経皮製剤は通常閉経後に好まれるが,製剤のうちどれが性行為に最も有益かを同定した研究はない。女性に子宮がある場合はエストロゲンに加えてプロゲステロンを投与するが,これはエストロゲンを単独で投与すると子宮内膜癌のリスクが高まるためである。

医師は閉経後女性に対して,閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause)の症状を管理するために腟に挿入するタイプのエストロゲン(例,クリーム,腟錠,リング)の使用を推奨することがある。これらのタイプのエストロゲンは腟の健康を維持しうるが,気分,血管運動症状,または睡眠障害には役立たない。

テストステロン療法

経皮テストステロンの短期使用は,性的関心・興奮障害を有する閉経後女性に効果的となる可能性がある(1)。エストロゲンを併用するまたは併用しないテストステロンよる治療により,性的関心・興奮が低下した女性の性機能の改善がみられた。主要評価項目は性欲の亢進であったが,興奮およびオルガズム反応も改善した。

しかしながら,テストステロン療法の長期的な安全性および有効性に関する知見はほとんどない。処方する場合には,その効力について相反するデータがあることと長期の安全性データが得られていないことについての十分な説明が不可欠であり,ざ瘡,男性型多毛症,および男性化などの有害作用の綿密なモニタリングについても同様である。加えて,テストステロン療法を開始する前には,患者の脂質および肝機能検査の結果が正常である必要がある。共同での意思決定が推奨される。

経皮テストステロンの用量は300μg,1日1回である。テストステロン値はベースライン時と3~6週間後に測定すべきである;閉経前女性では,年齢で調整した正常値の維持が目標となる。値が閉経前女性の正常範囲を超える場合,テストステロンを中止するか,用量を減量する。治療は短期間に限定することが推奨され,6カ月間使用しても反応がみられない場合はテストステロンを中止すべきである。テストステロンは乳房組織に影響を及ぼす可能性があるため,マンモグラフィーを年1回の定期的な間隔で行い,乳房に何らかの変化がないか確認すべきである。

現在のところ,閉経前女性においてテストステロンの使用を勧めるデータはない。

テストステロンの経口投与または注射は推奨されない。

その他の治療法

プラステロン(デヒドロエピアンドロステロン[DHEA]製剤)の腟内投与は,閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause,これは性的関心および興奮を妨げる可能性がある)による腟の乾燥および性交痛を緩和することがある(2);プラステロンは性器の感受性およびオルガズムを改善することもある。DHEAの全身投与には効果がないことが示されている。どの種類のDHEAも閉経前女性では研究されていない。

セロトニン受容体作動薬/拮抗薬であるフリバンセリン(flibanserin)は,女性の性的関心・興奮障害を有する閉経前女性に使用できる。しかしながら,あるシステマティックレビューでは,その有効性と安全性に関するエビデンスの質は低く,効果は最小限であることが示された(3)。また,フリバンセリン(flibanserin)の添付文書には黒枠警告があり,フリバンセリンとアルコールを短い間隔で一緒に摂取する,中等度または強力なCYP3A4阻害薬を使用している患者が使用する,または患者に肝障害があると,低血圧および失神のリスクが上昇すると記載されている。抗うつ薬を服用している女性はフリバンセリン(flibanserin)の研究から除外されていたため,これらの女性における安全性および有効性は不明である。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬の使用による性的関心・興奮障害を有する女性では,ブプロピオン(ノルアドレナリン-ドパミン再取り込み阻害薬)の追加が有益となりうる。概して,シルデナフィル(ホスホジエステラーゼ5阻害薬)に関する研究は一貫しておらず,ほとんどの場合,女性においてシルデナフィルが無効であることが示されている;1件の小規模研究のみで,SSRIに関連する性機能障害を有する閉経前女性において性的な有害作用がわずかに減少することが示されている(4)。

小規模な予備研究を除いて,バイブレータや陰核吸引器などが性的関心・興奮障害およびオルガズム障害を有する女性に効果的であるというエビデンスは乏しい;しかしながら,これらの製品の一部は店頭で入手可能であり,試してもよい。

治療に関する参考文献

  1. 1.Achilli C, Pundir J, Ramanathan P, et al: Efficacy and safety of transdermal testosterone in postmenopausal women with hypoactive sexual desire disorder: A systematic review and meta-analysis.Fertil Steril 107:475–82, 2017.doi: 10.1016/j.fertnstert.2016.10.028 Epub 2016 Dec 1

  2. 2.Labrie F, Archer DF, Koltun W, et al: Efficacy of intravaginal dehydroepiandrosterone (DHEA) on moderate to severe dyspareunia and vaginal dryness, symptoms of vulvovaginal atrophy, and of the genitourinary syndrome of menopause.Menopause 23 (3):243–256, 2016.doi: 10.1097/GME.0000000000000571

  3. 3.Jaspers L, Feys F, Bramer WM, et al: Efficacy and safety of flibanserin for the treatment of hypoactive sexual desire disorder in women: A systematic review and meta-analysis.JAMA Intern Med 176(4):453-462, 2016.doi: 10.1001/jamainternmed.2015.8565

  4. 4.Nurberg HG, Hensley PL, Heiman JR, et al: Sildenafil treatment of women with antidepressant-associated sexual dysfunction: A randomized controlled trial.JAMA 300 (4):395–04, 2008. doi: 10.1001/jama.300.4.395

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