メルクマニュアル18版 日本語版
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はじめに

睡眠時無呼吸も参照 ,小児睡眠障害に関しては正常な乳幼児や小児の治療へのアプローチ: 睡眠を参照 。)

米国では半数近い人が睡眠に関する問題を報告している。睡眠障害は,情緒障害,記憶困難,運動技能の低下,仕事効率の低下,交通事故のリスク増加を引き起こしうる。また,心血管疾患や死亡の一因にさえなりうる。

最も多く報告されているのは不眠症および過度の日中の眠気(EDS)である。不眠症とは入眠あるいは睡眠維持困難,または睡眠により爽快感が得られないという感覚である。EDSは通常起きている時間帯に眠り込む傾向をいう。不眠症とEDSは疾患そのものではなく,様々な睡眠関連障害( 睡眠障害および覚醒障害: 不眠症および過度の日中の眠気の鑑別診断表 1: 表参照)の症状を指す。睡眠時随伴症は睡眠に関連した異常事象である。

表 1

不眠症および過度の日中の眠気の鑑別診断

障害

不眠症

過度の日中の眠気

不適切な睡眠衛生

適応性睡眠障害

 

精神生理性不眠症

 

身体的または精神的な睡眠障害

睡眠不足症候群

 

薬物依存性および薬物誘発性睡眠障害

閉塞性睡眠時無呼吸

 

中枢性睡眠時無呼吸

 

概日リズム睡眠障害

ナルコレプシー

 

周期性四肢運動障害

下肢静止不能症候群

 

=あり。

生理

睡眠には2つの型がある:非急速眼球運動(NREM)および急速眼球運動(REM)である。両者は特徴的な生理学的変化によって示される。

NREM睡眠は成人の総睡眠時間のおよそ75〜80%を占める。NREM睡眠の深度には4つの段階がある。この4段階を一晩で4〜5回繰り返す( 睡眠障害および覚醒障害: 若年成人の典型的な睡眠パターン。図 1: イラスト参照)。脳波は,ステージ1の4〜8Hz(シータ波)から,ステージ3および4の0.5〜2Hz(デルタ波)へと遅くなる。安静覚醒時およびステージ1初期の特徴である緩徐な眼球の回転運動は,睡眠段階が深くなると消失する。同様に筋活動も減少する。ステージ3および4は覚醒閾値が高いため,深睡眠期と呼ばれ,質の高い眠りがこの段階で得られる。

図 1

若年成人の典型的な睡眠パターン。

若年成人の典型的な睡眠パターン。

急速眼球運動(REM)睡眠は夜間を通して90-120分毎に周期的に出現する。睡眠時間に占める割合はステージ1が2-5%,ステージ2が45-55%,ステージ3が3-8%,ステージ4が10-15%,REM睡眠が20-25%である。夜間を通して起こる短時間の覚醒は正常であり,特に各睡眠周期の終わりにみられる。

REM睡眠はNREM睡眠の各サイクルの後に現れる。REM睡眠時の特徴は,脳波上の低電位速波と姿勢筋無緊張である。呼吸の頻度と深さが劇的に変動する。夢を見るのは,ほとんどがREM睡眠時である。

必要な睡眠時間は1日4〜10時間と人によって大きく異なる。乳児は一日の大半を寝て過ごすが,加齢とともに総睡眠時間は減少して眠りが浅くなる傾向があり,睡眠が頻繁に中断されるようになる。高齢者ではステージ4が消失することもある。加齢に伴うEDSの増加や疲労はこうした変化が原因でありうるが,これらの臨床的意義は不明である。

評価

病歴: 睡眠の質と量は,就寝時間,睡眠潜時(就寝から入眠までの時間),覚醒頻度と覚醒していた時間,朝,最終的に目覚めた時間と起床時間,昼寝の回数と長さを測定した上で評価すべきである。数週間の睡眠日誌を患者本人につけてもらう方が問診よりも正確である。就寝行動(例,食事,飲酒,身体的活動,精神的活動)の評価が必要である。薬物,アルコール,カフェイン,ニコチンの摂取および使用中止,ならびに患者の身体的活動のレベルおよびタイミングについても評価すべきである。精神症状,特に抑うつ,不安,躁病,軽躁についても記録すべきである。

入眠困難(入眠障害)と,睡眠維持困難(睡眠維持障害)は区別すべきである。前者は,睡眠相後退症候群,慢性の精神生理性不眠症,不適切な睡眠衛生,下肢静止不能症候群,小児期の恐怖症を示唆する。後者は,睡眠相前進症候群,大うつ,中枢性睡眠時無呼吸症候群,周期性四肢運動障害,老化現象を示唆する。

もしEDSが問題であるならば,様々な場面での入眠傾向を基に重症度を測定すべきである。エプワース眠気尺度( 睡眠障害および覚醒障害: エプワース眠気尺度表 2: 表参照)が利用でき,その場合,累積スコア10以上で異常な日中の眠気を示す。

表 2

エプワース眠気尺度

状況

座って読書している

テレビを見ている

公共の場所でじっと座っている

車に乗客として1時間継続して乗っている

午後,横になって休息している

座って人と話している

昼食(アルコールなし)の後,静かに座っている

渋滞で数分間動かない車に乗っている

それぞれの状況で眠気が起きる確率を,なし(0),少し(1),中程度(2),高い(3)で自己評価する。スコア10以上は,異常な日中の眠気を示唆する。

臨床医は特定の睡眠障害の症状(例,いびき,呼吸中断のパターン,その他の夜間呼吸障害,四肢の落ち着きのなさ,痙攣様下肢運動)について問診し,その際,同衾者や家族に症状を確認してもらうのが最良である。

一般的な病歴では,慢性閉塞性肺疾患(COPD),喘息,心不全,甲状腺機能亢進症,胃食道逆流,神経疾患(特に運動疾患と変性疾患),睡眠を阻害する有痛性疾患(例,RA)の症状に注目すべきである。

身体診察: 身体診察は主に閉塞性睡眠時無呼吸に関連する徴候を特定するのに有用である。徴候としては,頸部や上腹部周囲に脂肪が沈着した肥満;小下顎症および下顎後退症;鼻閉塞;扁桃腺,舌,口蓋垂,軟口蓋の肥大;咽頭狭窄;過剰な咽頭粘膜などがある。胸部検査では呼気喘鳴や脊柱後側弯症を調べる。右室不全の徴候に留意する。詳細な神経学的診察を実施すべきである。

検査: 検査は通常,臨床診断に疑いがある場合や初期の推定治療に対する反応が不十分な場合に実施する。患者に明らかな問題(例,問題のある睡眠習慣,一過性ストレス,交代勤務)がある場合,検査は必要ない。

睡眠ポリグラフは,閉塞性睡眠時無呼吸,ナルコレプシー,周期性四肢運動障害が疑われる場合に特に有用である。睡眠ポリグラフでは,脳波,眼球運動,心拍数,呼吸,O2飽和度,睡眠中の筋緊張と筋活動がモニタリングされる。ビデオ撮影により睡眠時の異常運動を確認することもある。睡眠ポリグラフは典型的には睡眠実験室内で実施され,家庭用装置は考案されているものの一般的に利用可能ではない。

睡眠潜時反復検査では,2時間おきに昼寝を5回行い,入眠速度を評価する。患者は暗い部屋で横になり,眠るよう指示される。入眠と睡眠の各ステージ(REM睡眠も含む)が睡眠ポリグラフでモニタリングされる。覚醒維持検査では,静かな部屋で起きているよう指示するが,この検査は,日常的な状況での睡眠傾向をより正確に測定できると考えられる。EDSを示す患者の典型例では,腎臓,肝臓,甲状腺機能の臨床検査も必要である。

治療

特異的症状を治療する。病因にかかわらず,良好な睡眠衛生( 睡眠障害および覚醒障害: 睡眠を改善する方法表 3: 表参照)が重要で,しばしば軽度の患者に必要な唯一の治療法である。

表 3

睡眠を改善する方法

方策

実施方法

規則的な睡眠スケジュール

週末も含め毎日,就寝および特に起床を定時に行う。患者はベッドで過剰な時間を費やさないようにする

就床時間の制限

就床時間を制限すると睡眠維持に効果的である。もし20分以内に眠れなければ,起床し,眠くなってからベッドに戻るとよい。ベッドは睡眠と性交以外の活動(例,読書,飲食,テレビを見る,請求書の支払い)に使用しない

交代勤務者,高齢者,ナルコレプシー患者を除き,昼寝は避ける

昼寝は不眠症患者の不眠を悪化させうる。しかしながら,昼寝により,ナルコレプシー患者では刺激薬の必要が減り,交代勤務者では作業効率が改善する。昼寝は毎日同じ時間にとり,30分を限度にすべきである

就寝時の習慣的行動

歯磨き,洗顔,目覚まし時計のセットなど一連の決まった行動が,睡眠に向かう気持ちの準備となりうる

睡眠誘発環境

寝室は暗く静かで適度に涼しい状態にし,睡眠と性交のみに使用すべきである。厚手のカーテンまたは睡眠マスクは光を遮断し,耳栓,ファン,ホワイトノイズ装置は騒音を排除するのに役立つ

膝の間,または腰の下に枕をいくつか置くと快適さが増す。背部に問題のある患者は仰臥位で両膝の下に大きな枕を1つ置くとよい。

定期的な運動

運動は睡眠を促し,ストレスを軽減するが,夜遅くに行うと神経系を刺激し入眠の妨げになりうる

リラクゼーション

ストレスや心配事は睡眠を阻害する。就寝前の読書や入浴はリラクゼーションに役立つことがある。視覚的イメージ,段階的筋肉弛緩法,呼吸訓練などの方法を利用することもできる。患者は時間を気にしないようにする

刺激薬および利尿薬の回避

アルコールまたはカフェイン飲料,喫煙,カフェイン入りの食品(例,チョコレート),食欲抑制薬,処方利尿薬の摂取は,特に就寝時近くには避けるべきである

起床中における明るい光への暴露

日中,光に当たると概日リズムの矯正に役立つことがある

催眠薬: 催眠薬使用に関する一般的ガイドライン( 睡眠障害および覚醒障害: 催眠薬使用ガイドライン表 4: 表参照)の目的は,乱用,誤用,嗜癖を最小限にすることにある。

表 4

催眠薬使用ガイドライン

明確な適応と治療目標を定義する

最少有効量を処方する

使用期間は数週間を限度とする

個々の患者に適した用量とする

中枢抑制薬やアルコールと併用する場合,高齢者や肝または腎障害の患者に使用する場合は,低用量を投与する

睡眠時無呼吸症候群の患者,乱用の既往がある患者,妊娠中の患者には投与を回避する

長期治療が必要な患者には間欠治療も考慮する

突然の薬物使用中断は回避する(すなわち,漸減する)

薬物治療を定期的に再評価し,有効性と有害事象を評価する

一般的に使用されている催眠薬を 睡眠障害および覚醒障害: 一般的に使用される経口催眠薬表 5: 表に記載する。催眠薬は全て,γアミノ酪酸(GABA)受容体のベンゾジアゼピン認識部位に作用し,GABAの抑制効果を増強する。個々の催眠薬の違いは主に消失半減期と作用の発現にある。半減期が短い催眠薬は入眠障害に用いられる。半減期が長い催眠薬は睡眠維持障害の患者に必要だが,特に長期服用や高齢者に投与する場合には日中に持ち越し効果が生じる可能性が高い。鎮静や協調不能など日中に薬物の影響を受ける患者は,敏捷性を必要とする活動(例,運転)は控え,投与量を減らすか,使用中の薬物を中止し,また必要であれば別の薬物を使用すべきである。その他の副作用には,健忘,幻覚,協調不能,転倒などがある。

表 5

一般的に使用される経口催眠薬

薬物

半減期*(時間)

用量†(mg)

コメント

ベンゾジアゼピン系

フルラゼパム

40-250

15-30

次の日まで鎮静作用が残留するリスクが高い;高齢者には勧められない

クアゼパム

40-250

7.5-15

親油性が高いため,継続使用の7-10日目で鎮静残留効果が軽減しうる

エスタゾラム

10-24

0.5-2

睡眠誘発および維持に有用

テマゼパム

8-22

7.5-15

睡眠誘発までの潜時が最長

トリアゾラム

< 6

0.125-0.5

前向性健忘を誘導することがある;反復使用後の耐性出現および反跳の可能性が高い

イミダゾピリジン

ゾルピデム

2.5

5-10

睡眠誘発および維持に有用

ピラゾロピリマジン

ザレプロン

1

5-20

超短時間作用型;初期不眠症(入眠障害)または夜間の覚醒後(覚醒から最短で4時間)に投与可;正常就寝時に投与すれば残留効果の可能性が最も少ない

*親化合物と活性代謝物を含む。

†就寝時に投与。

催眠薬は,肺不全の患者には慎重に使用すべきである。高齢者の場合,催眠薬は低用量であっても,不穏や興奮,あるいはせん妄と認知症の悪化を引き起こしうる。

薬物への耐性を生じさせ(薬物使用と薬物依存: 抗不安薬と鎮静薬を参照 ),また突然の服用中断により反跳性不眠のほか,不安,振戦,てんかん発作を引き起こしうるため,長期的な投与は控える。こうした副作用はベンゾジアゼピン系(特にトリアゾラム)により一般的にみられる。最少有効量を短期間使用し,使用中止前に投与量を漸減することで,問題を最少限にできる(薬物使用と薬物依存: 治療も参照 )。新たな中期作用型催眠薬エスゾピクロン(1〜3mgを夜間投与)は長期使用(最長6カ月)で耐性を形成せず,離脱症状も現れないようである。

その他の鎮静薬: 不眠症に特異的適応がある薬物以外にも,多くの薬物が,睡眠の誘発と維持に用いられている。

アルコールは広く使用されているが,長期間大量に摂取すると,夜中に頻繁に目が覚め,疲労感の残る質の悪い睡眠が生じ,しばしば日中の眠気を招くことになり,よい選択肢であるとはいえない。また,アルコールは閉塞性睡眠時無呼吸患者の睡眠中の呼吸をさらに障害しうる。

一般用医薬品の抗ヒスタミン薬(例,ドキシラミン,ジフェンヒドラミン)はしばしば眠気を誘発しうる。しかしながら,こうした薬物は効果が予測できない上に,日中の鎮静,錯乱,高齢者に特に注意が必要な全身性抗コリン作用などの副作用がみられる。

抗うつ薬の中には,低用量で就寝時に使用すれば睡眠を改善するものがある:例えば,ドキセピン25〜50mg,トラゾドン50mg,トリミプラミン75〜200mg,パロキセチン5〜20mgなどである。しかしながら,抗うつ薬投与は主に,標準的な催眠薬に忍容性がない場合(まれ)や,抑うつが認められる場合に行うべきである。

メラトニンは松果体から分泌されるホルモンである。暗闇により分泌が促進され,光によって阻害される。メラトニンは視交叉上核のメラトニン受容体と結合することで概日リズムを調節し,特に生理的睡眠誘導に関与する。経口メラトニン(典型的には0.5〜5mg,就寝時)は,交代勤務,時差ぼけ,失明による睡眠障害,睡眠相後退症候群,高齢者の睡眠分断化に有効と思われる。メラトニンは適時(内因性メラトニンが正常に分泌されるとき)に投与する必要があり,投与のタイミングを誤ると睡眠障害を増悪しうる。メラトニンの効果は立証されておらず,動物実験では冠動脈疾患誘発の可能性も示唆されている。入手可能なメラトニン製剤には規制がないため,含有量や純度は保証の限りではなく,長期使用の影響も分かっていない。使用にあたっては医師の指導が必要である。メラトニンはある種の食品に自然発生する。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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