(神経眼科疾患および脳神経の疾患の概要 神経眼科疾患および脳神経の疾患の概要 特定の脳神経の機能障害は,眼,瞳孔,視神経,または外眼筋とその神経に影響を及ぼす可能性がある;そのため,そういった障害は,脳神経の疾患,神経眼科疾患,またはその両者とみなされる場合がある。 神経眼科疾患は,眼球運動および視覚を制御・統合する中枢経路の機能障害が関与していることもある。... さらに読む も参照のこと。)
三叉神経痛は主に成人,特に高齢者に発生する。女性の方が多くみられる。
三叉神経痛の病因
三叉神経痛は通常,以下によって生じる:
頭蓋内の動脈(例,前下小脳動脈,拡張した脳底動脈)の異常ループによる,三叉神経の根元での圧迫
頻度は低くなるが,第5脳神経(三叉神経)が脳幹に入る部位(root entry zone)での静脈ループによる圧迫
その他の比較的まれな原因として,腫瘍,動静脈奇形,動脈瘤やときに多発性硬化症のプラークによるroot entry zoneでの圧迫(通常は若年者)などがあるが,これらの原因は通常,感覚消失とその他の障害を伴うことから鑑別される。
ときに,同様の症状を引き起こすその他の疾患(例,多発性硬化症)が三叉神経痛とみなされることもある。病因を知ることが重要である。
機序は不明である。一説には,神経の圧迫により局所脱髄が生じ,その結果,異所性インパルスが発生する(エファプス伝達),かつ/または三叉神経核を通る中枢性疼痛経路の脱抑制が起こるとされている。
三叉神経痛の症状と徴候
三叉神経痛の痛みは三叉神経の1つまたは複数の感覚枝の支配領域に沿って起こり,最好発部位は上顎である。疼痛は発作性で,持続時間は数秒から最大2分間であるが,発作は急速に再発することがあり,1日100回に及ぶこともある。耐え難い電撃痛であり,ときに何もできなくなる。
しばしば顔面のトリガーポイントに対する刺激(例,咀嚼,歯磨き,または笑い)で疼痛が誘発される。顔面の患側を下にしては眠れないことも多い。
通常は顔面の片側のみが侵される。
三叉神経痛の診断
臨床的評価
三叉神経痛でみられる症状は,しばしばこの疾患に特有である。そのため,顔面痛を引き起こす他の疾患は臨床的に鑑別できる:
慢性発作性片側頭痛(Sjaastad症候群)は,疼痛発作の持続がより長い(5~8分)こと,およびインドメタシンに劇的に反応することから鑑別される。
帯状疱疹後痛 帯状疱疹後神経痛 帯状疱疹は,水痘帯状疱疹ウイルスが後根神経節で潜伏状態から再活性化される際に生じる感染症である。症状は通常,侵された皮膚分節に沿った疼痛から始まり,その後小水疱が2~3日以内に生じ,通常はこれが診断の決め手となる。治療は抗ウイルス薬であり,皮膚病変発現後72時間以内に投与するのが理想である。 ( ヘルペスウイルス感染症の概要を参照のこと。) 水痘と帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルス(ヒトヘルペスウイルス3型)により引き起こされるが,水痘は同... さらに読む は,持続性であること(発作がない),先行する典型的な発疹および瘢痕,ならびに眼神経支配域への分布傾向によって鑑別される。
三叉神経痛では神経学的診察は正常である。そのため,神経脱落症状(通常顔面の感覚低下)がみられる場合は,三叉神経痛様症状がその他の疾患(例,腫瘍,脳卒中,多発性硬化症のプラーク,血管奇形,三叉神経を圧迫するまたは脳幹における三叉神経の経路を途絶させるその他の病変)によって引き起こされていることが示唆される。
三叉神経痛の治療
通常は抗てんかん薬
三叉神経痛は,カルバマゼピン200mg,経口,1日3回または1日4回の投与により治療し,通常はこれが長期間にわたり効果的である;100mg,経口,1日2回から開始し,疼痛がコントロールされるまで1日100~200mgずつ増量する(1日最大用量1200mg)。
カルバマゼピンが無効または有害作用がある場合は,以下のいずれかの経口薬を試してもよい:
オクスカルバゼピン150~300mg,1日2回
バクロフェン5mg,1日3回,その後は必要に応じて3日毎に5mgずつ(1日3回)増量,最大1日80mg(例,20mg,1日4回)まで
ラモトリギン25mg,1日1回,2週間の投与を行い,続く2週間にわたり50mg,1日1回,その後は必要に応じて2週間毎に50mgずつ増量,最大1日400mg(200mgを1日2回)まで
ガバペンチンを1日目は300mg,経口,1日1回,2日目は300mg,経口,1日2回,3日目は300mg,経口,1日3回,その後は必要に応じて1200mg,経口,1日3回まで増量
フェニトイン100~200mg,1日2回(100mg,1日2回から開始して,必要に応じて増量)
アミトリプチリン25~150mg,就寝時(25mgから開始して,必要に応じて毎週25mgずつ増量)
末梢神経ブロックは一時的に疼痛を軽減する。
このような対策を行っても疼痛が重度である場合は,神経切除による治療を考慮する;ただし,その効果は一時的で,改善がみられても,その後以前の発作より重度の疼痛が再発することがあり,疼痛を緩和する手術により顔面のしびれが起こることがある。疼痛を伴うしびれ(有痛性感覚脱失)が生じることもあり,これは神経根切断術後の患者の4%にみられる。後頭蓋窩開頭術では,圧迫している拍動性の血管ループを三叉神経根から分離するために,小さなパッドを挿入することがある(微小血管減圧術またはJannetta手術と呼ばれる)。ガンマナイフによる定位放射線手術では,γ線を三叉神経が脳幹から出る近位部に集中的に照射し,脳へ痛みの信号が伝わるのを遮断する。経皮的に定位した針を介して,三叉(ガッセル)神経節の電気的損傷または化学損傷,あるいはバルーン圧迫を行うことがある。ときに,ガッセル神経節と脳幹の間の三叉神経線維を切断することがある。
ときに難治性の疼痛に対する最終手段として,三叉神経を破壊する。
微小血管減圧術
微小血管減圧術により,三叉神経痛における血管による脳神経の圧迫に起因する疼痛,片側顔面痙攣,および舌咽神経痛を緩和できる。三叉神経痛では,第5脳神経(三叉神経)および圧迫動脈との間にスポンジを置くことで圧迫が緩和される(Jannetta手術)。通常,この手術で疼痛は軽減するが,約15%の患者で疼痛が再発する。 |
三叉神経痛の要点
三叉神経痛は通常,頭蓋内の動脈による圧迫に起因する。
特徴的にみられる耐え難く,ときに何もできなくなるほどの発作性の電撃痛は,しばしばこの疾患に特有のものである。
カルバマゼピンで治療し,通常は長期にわたり効果が得られるが,カルバマゼピンが無効に終わるか,有害作用が生じた場合は,別の薬剤を試す(例,オクスカルバゼピン,バクロフェン,ラモトリギン)。
このような対策を行っても重度の疼痛が持続する場合は,微小血管減圧術または神経切除による治療を考慮する;ただし,その効果は一時的で,改善がみられても,その後以前の発作より重度の疼痛が再発することがある。