振戦

執筆者:Hector A. Gonzalez-Usigli, MD, HE UMAE Centro Médico Nacional de Occidente
レビュー/改訂 2020年 5月
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振戦は,相補的に機能する拮抗筋同士の律動的かつ振動性の不随意運動であり,典型的には手,頭部,顔面,声帯,体幹,または下肢に生じる。診断は臨床的に行う。治療法は原因と病型によって異なるが,具体的には誘因の回避(生理的振戦),プロプラノロールまたはプリミドン(本態性振戦),理学療法(小脳振戦),レボドパ(パーキンソン振戦)のほか,ときに脳深部刺激療法または視床切除術(生活に支障を来す薬剤抵抗性の振戦)も用いられる。

運動障害疾患および小脳疾患の概要も参照のこと。)

振戦には以下の種類がある:

  • 正常(生理的)

  • 病的

生理的振戦は,通常はかろうじて知覚できる程度であるが,身体的または精神的ストレスの下では多くの人が気づくようになる。

振戦は以下の点で多様である:

  • 発生パターン(例,間欠的,持続的)

  • 重症度

  • 急性度(例,緩徐,突然)

振戦の重症度は,基礎疾患の重篤度と関連しない場合がある。例えば,本態性振戦は一般に良性と考えられており,余命を短縮することはないはずであるが,症状によって生活に支障を来す場合があり,一部の神経病理学的研究では,小脳の変性が検出されている。

振戦の病態生理

脳幹,錐体外路系,または小脳における様々な病変が振戦を引き起こしうる。振戦を引き起こす神経機能障害や病変は,外傷,虚血,代謝性の異常,または神経変性疾患に起因することがある。ときに,振戦は家族性の病態である(例,本態性振戦)。

分類

振戦は主に発生状況に基づいて分類される:

  • 安静時振戦は,静止時に観察できるものであり,身体の一部が重力に抗して完全に支えられているときに生じる。安静時振戦は活動時には最小になる,または消失する。3~6サイクル/秒(Hz)の振動数で生じる。

  • 動作時振戦は,身体の一部を随意的に動かすときに最大となる。動作時振戦は,目標に近づくにつれて重症度が変化する場合と,変化しない場合があり,非常に多様な振動数で生じるが,常に13Hz未満である。

動作時振戦には運動時振戦,企図振戦,および姿勢時振戦がある。

  • 運動時振戦は,目標に向かう運動の最後の部分で出現し,振幅は小さい。

  • 企図振戦は,目標へ向かう随意的な運動中に発生し,運動全体での振幅は大きく振動数は小さいが,目標に近づくほど振戦が悪化する(指鼻試験で観察されるように);3~10Hzの振動数で生じる。

  • 姿勢時振戦は,一肢を固定した肢位で重力に抗して保持しているとき(例,腕を伸ばした状態を保持するとき)に最大となる;5~8Hzの振動数で生じる。姿勢時振戦はときに特定の姿勢や作業によって修正されるが,それによって原因が示されることがある;例えば,ジストニアは振戦の引き金になることがある(ジストニア振戦)。

複合振戦(complex tremor)は,複数の型の振戦が混在するものである。

振戦は以下のようにも分類できる:

  • 生理的なもの(正常範囲内)

  • 原発性のもの(本態性振戦,パーキンソン病)

  • 何らかの疾患(例,脳卒中)に続発するもの

振戦は通常,振動数(急速または緩徐)と動きの振幅(細かい[振幅が小さい]か粗大[振幅が大きい]か)に基づいて記述される。

振戦の病因

生理的振戦

生理的振戦は,それ以外の点では健康な人々に発生する。生理的振戦は,両手にほぼ同等に生じる動作時または姿勢時振戦である;振幅は通常,細かい。しばしば,特定のストレス因子が存在する場合にのみ気づかれる。これらのストレス因子としては以下のものがある:

  • 不安

  • 疲労

  • 運動

  • 睡眠不足

  • アルコールや他の特定の中枢抑制薬(例,ベンゾジアゼピン系薬剤,オピオイド)からの離脱

  • 特定の疾患(例,甲状腺機能亢進症),症候性の場合

  • カフェインまたはレクリエーショナルドラッグ(コカイン,アンフェタミン類,フェンシクリジンなど)の使用

  • テオフィリン,β作動薬,コルチコステロイド,バルプロ酸など,特定の治療薬の使用

病的(非生理的)振戦

多くの原因があるが(振戦の主な原因の表を参照),最も多いのは以下のものである:

表&コラム

薬剤(型別に見た振戦の主な原因薬剤の表を参照)の投与は,様々な型の振戦の発生または増悪につながる可能性がある。一部の鎮静薬(例,アルコール)を低用量で使用すると特定の振戦(例,本態性振戦,生理的振戦)を緩和できることがあるが,高用量での投与は振戦の発生または増悪につながる可能性がある。

表&コラム

振戦の評価

振戦の診断は主に臨床的に行うため,詳細な病歴聴取と身体診察が不可欠である。

病歴

現病歴の聴取では以下を確認すべきである:

  • 発症の急性度(例,緩徐,突然)

  • 発症年齢

  • 振戦のある部位

  • 誘発因子(例,運動,安静,起立)

  • 軽快因子または増悪因子(例,アルコール,カフェイン,ストレス,不安)

突然の発症であれば,引き金となった可能性のある出来事(例,最近の外傷または疾患,新しい薬剤の使用)を尋ねるべきである。

システムレビュー(review of systems)では,以下のような原因となる疾患の症状がないか検討すべきである:

既往歴には,振戦に関連する病態を含めるべきである(振戦の主な原因の表を参照)。家族歴には,第1度近親者の振戦に関する質問を含めるべきである。使用薬剤の聴取では,原因となる薬剤(振戦の原因薬剤の表を参照)を検討し,特にカフェイン摂取,飲酒,およびレクリエーショナルドラッグの使用(特に最近の中断)について質問するべきである。

身体診察

徹底した広範な神経学的診察が必須であり,精神状態,脳神経,運動および感覚機能,歩行,筋伸張反射,ならびに小脳機能(指鼻試験,踵脛試験,および手回内回外試験)の評価を含めるべきである。四肢を可動域全体で動かし,筋強剛の有無を調べるべきである。

バイタルサインを評価し,頻脈,高血圧,または発熱がないか確認すべきである。全身状態の観察では,悪液質,精神運動性興奮,および表情の欠如(動作緩慢を示唆している場合がある)に留意すべきである。甲状腺は結節や腫大がないか触診し,眼球突出または眼瞼遅滞(eyelid lag)の徴候がないかに注意すべきである。

振戦に重点を置いた診察では,以下の状態のときの振戦の分布および頻度を調べるべきである:

  • 振戦のある部位を静止しているとき,またはその部位が完全に支持されているとき(例,膝に置いている)

  • 特定の姿勢をとったとき(例,腕を伸ばした状態を保つ)

  • 歩くとき,または振戦のある部位を使って作業するとき

患者に気をそらす課題(例,100から7を順に引いていく)を行わせて,その間に振戦に変化がみられるかに注意すべきである。患者に長い発声を行わせて,その間の声質によく注意すべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 突然の発症

  • 50歳未満の発症で良性振戦の家族歴がない

  • 他の神経脱落症状(例,精神状態の変化,筋力低下,脳神経麻痺,失調性歩行,構音障害)

  • 頻脈および興奮

所見の解釈

臨床所見が原因の推定に役立つ(振戦の主な原因の表を参照)。

振戦の型と発症様式は有用な手がかりとなる。

  • 安静時振戦は通常パーキンソン病を示唆し,特に片側性の場合と振戦が下顎,声,下肢に限局している場合はその可能性が高い。

  • 企図振戦は小脳障害を示唆するが,多発性硬化症やウィルソン病に起因することもある。

  • 姿勢時振戦は,発症が緩徐であれば生理的または本態性振戦を示唆し,発症が突然であれば中毒性または代謝性疾患を示唆する。

重度の本態性振戦は,しばしばパーキンソン病と混同されるが,通常は特異的な特徴によって鑑別できる(パーキンソン病を本態性振戦と鑑別するための主な特徴の表を参照)。ときに,これら2つの症候群が重複することがある(本態性振戦とパーキンソン病の混合)。

表&コラム

以下の所見から振戦の原因が示唆される場合がある:

  • 突然の発症は,身体的な病態プロセスを除外した後であれば,心因性振戦に最も典型的である。

  • 階段状の進行は,虚血性血管疾患または多発性硬化症を示唆する。

  • 新しい薬剤の使用後に振戦を発症した場合は,その薬剤が原因であることが示唆される。

  • 入院24~72時間以内に興奮,頻脈,高血圧を伴う振戦が発症した場合は,アルコール,鎮静薬,違法薬物からの離脱症状を示唆している可能性がある。

歩行を観察する。歩行異常は多発性硬化症,脳卒中,パーキンソン病,または小脳疾患を示唆している場合がある。パーキンソン病ではnarrow-basedの引きずり歩行,小脳障害ではwide-basedの失調性歩行が特徴である。心因性振戦の患者では,大袈裟な歩行や一貫性のない歩行がみられることがある。本態性振戦の患者では,歩行は正常であることが多いが,継ぎ足歩行(つま先に踵を合わせて歩行する)は異常であることがある。

心因性振戦は,患者が気をそらされると減少または消失することから,また,健側の部位を随意的に手で叩いて拍子をとらせると振戦の振動数がそれに同期する(同調する)ことから,同定することができる。2つの異なる部位で異なる頻度の随意運動を同時に維持することは困難である。

検査

ほとんどの患者では,病歴聴取と身体診察のみで可能性の高い振戦の病因を十分に同定することができる。しかしながら,以下の場合には,脳のMRIまたはCTを施行すべきである:

  • 振戦の発症が急性である。

  • 進行が急速である。

  • 局所的な神経学的徴候から器質的病変(例,脳卒中,脳腫瘍,脱髄疾患)が示唆される。

病歴や身体所見から振戦の原因がわからない場合,以下を行う:

  • 甲状腺刺激ホルモン(TSH)およびサイロキシン(T4)を測定し,甲状腺機能亢進症がないか確認する。

  • カルシウムおよび副甲状腺ホルモンを測定して,副甲状腺機能亢進症または副甲状腺機能低下症がないかを確認する。

  • 低血糖を除外するために血糖値を測定する。

中毒性脳症の患者では,通常は基礎疾患が明らかであるが,BUNとアンモニア値を測定すれば病因の確定に役立つことがある。原因不明の難治性高血圧がある患者では,血漿遊離メタネフリン濃度の測定が適応となる。患者が40歳未満で,原因不明の振戦があり(パーキンソニズムの有無は問わない),かつ良性振戦の家族歴がない場合には,ウィルソン病がないか確認するため血清セルロプラスミン濃度と尿中銅濃度を測定すべきである。

筋電図検査では,真の振戦を他の運動障害疾患(例,ミオクローヌス,クローヌス,持続性部分てんかん[epilepsia partialis continua])と鑑別できるが,これが必要になることはまれである。しかしながら,神経障害が臨床的に疑われる場合には,筋電図検査は振戦の原因として末梢神経障害を同定するのに役立つことがある。

振戦の治療

生理的振戦

症状が煩わしくなければ,治療の必要はない。誘因(カフェイン,疲労,睡眠不足,薬剤,可能であればストレスや不安など)を回避することが症状の予防または軽減に役立つことがある。

生理的振戦は,アルコール離脱症状,甲状腺機能亢進症,薬剤の使用,振戦を引き起こす病態によって増強される。振戦は,基礎疾患の治療に反応する。

振戦とともに慢性の不安がみられる患者には,経口ベンゾジアゼピン系薬剤(例,ジアゼパム2~10mg,ロラゼパム1~2mg,オキサゼパム10~30mg)の1日3回または1日4回投与が有用となりうるが,継続的な使用は避けるべきである。薬剤または急性不安(例,舞台負け)により増強する振戦には,プロプラノロール(20~80mg,経口,1日4回)および他のβ遮断薬がしばしば効果的である。

本態性振戦

プロプラノロール20~80mg,経口,1日4回(または他のβ遮断薬)がしばしば効果的であり,プリミドン50~250mg,経口,1日3回も同様である。一部の患者では,少量のアルコールが効果的であるが,乱用のリスクがあるため,アルコールが治療法としてルーチンに推奨されることはない。

第2選択の薬剤は,トピラマート25~100mg,経口,1日2回とガバペンチン300mg,経口,1日2回または1日3回である。他の薬剤で振戦をコントロールできない場合は,ベンゾジアゼピン系薬剤を追加してもよい。

小脳性振戦

効果的な治療薬はない;理学療法(例,患肢に重りをつける,活動時に四肢近位部に装具を装着するように患者を指導する)がときに有用である。

パーキンソン振戦

パーキンソン病を治療する。

レボドパは通常,ほとんどのパーキンソン振戦に対して第1選択の治療となる。

一部の症例では抗コリン薬を考慮してもよいが,その有害作用(集中力の低下,口腔乾燥,ドライアイ,尿閉,タウ病態を促進する可能性)が便益を上回ることがあり,特に高齢患者でその傾向が強い。

その他の薬剤としては,ドパミン作動薬(例,プラミペキソール,ロピニロール),MAO-B阻害薬(セレギリン,ラサギリン),カテコール O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬(エンタカポン,トルカポン―レボドパとの併用のみ),アマンタジンなどがある。

生活に支障を来す振戦

生活に支障を来していて薬剤に抵抗性を示す重度の本態性振戦には,片側の定位視床凝固術,または長期の片側もしくは両側の視床脳深部刺激療法による外科的管理が考慮される。

ジストニア振戦は,淡蒼球内節を標的とする機能的脳神経外科手術によく反応する場合がある。

パーキンソン病では,視床,淡蒼球内節,または視床下核の脳深部刺激療法の施行後に振戦がかなり軽減する。

これらの手法は広く利用可能であるが,妥当な薬物療法が不成功に終わった場合にのみ,重大な認知および精神障害がない患者に限定して用いるべきである。

老年医学的重要事項:振戦

多くの高齢患者は,振戦の発生を正常な加齢現象と考えて,医師の診察を受けない場合がある。高齢者においては本態性振戦の頻度が高いが,他の原因を除外するため,また症状が薬剤または外科的治療を正当化できるほど重症であるかどうか判断するために,徹底的な病歴聴取および身体診察が必要となる。

高齢患者では,比較的低用量の薬剤が振戦を増悪させる場合があり,慢性的に使用されている薬剤(例,アミオダロン,メトクロプラミド,選択的セロトニン再取り込み阻害薬,サイロキシン)の用量を最小有効量に調整することを考慮すべきである。同様に,高齢患者は振戦の治療に使用される薬剤の有害作用を受けやすく,したがって,これらの薬剤は高齢患者では慎重に使用するべきであり,通常は,高齢患者以外では至適とみなされる用量より低い用量とする。可能であれば,抗コリン薬は高齢患者に使用すべきでない。

振戦は高齢患者の機能的能力に有意な影響を及ぼす可能性があり,他に身体または認知障害がある場合の影響は特に大きい。理学療法および作業療法では,単純な対処方略を与えることができ,補助器具は患者の生活の質を維持するのに役立つことがある。

振戦の要点

  • 振戦は安静時振戦と動作時振戦(企図,運動時,および姿勢時振戦)に分類される。

  • 振戦の最も一般的な原因は,生理的振戦,本態性振戦,パーキンソン病などである。

  • 病歴および身体診察によって一般的に振戦の病因を同定できる。

  • 安静時振戦があればパーキンソン病を考慮し,姿勢時振戦または動作時振戦があれば本態性振戦または生理的振戦を考慮し,企図振戦があれば小脳性振戦を考慮する。

  • 振戦が突然始まった場合や,良性振戦の家族歴がない50歳未満の患者で発生した場合は,脳画像検査および臨床像に基づく臨床検査により迅速かつ徹底的な評価を行う。

  • 振戦の原因および型に応じて治療し,具体的には誘因の回避(生理的振戦),プロプラノロールまたはプリミドン(本態性振戦),理学療法(小脳振戦),通常はレボドパ(パーキンソン振戦)のほか,ときに脳深部刺激療法(生活に支障を来す薬剤抵抗性の振戦)も用いられる。

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