メルクマニュアル18版 日本語版
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多発性硬化症 (MS)

多発性硬化症は,脳および脊髄に広くちらばる脱髄斑を特徴とする。一般的な症状には,視覚および眼球運動異常,感覚異常,筋力低下,痙縮,排尿不全,軽度の認知的損傷などがある。典型例では複数の神経障害がみられ,寛解と増悪を繰り返しながら次第に能力障害を来す。診断は,寛解と増悪の病歴に加え,臨床的徴候もしくは検査結果,MRI上の病変,症状によっては他の基準から,2つ以上の異なる神経学的異常が客観的に示されることでなされる。治療には,急性増悪に対するコルチコステロイド,増悪予防のための免疫調節薬,支持的方法などがある。

多発性硬化症(MS)には免疫機構が関与していると考えられている。原因として1つ仮定されているのは,潜伏ウイルス(未確認)による感染で,これが活性化されることで二次免疫応答を惹起するというものである。ある種の家系およびヒト白血球抗原(HLA)アロタイプ(HLA-DR2)に高率に発症することから,遺伝的感受性が示唆される。MSは,15歳になるまでの期間を熱帯で過ごした人々(1/10,000)よりも温帯気候の中で過ごした人々(1/2000)に多くみられる。喫煙もリスクを上昇させるようである。発症年齢は15〜60歳にわたり,典型的には20〜40歳である;女性の方がやや罹患頻度が高い。

病態生理

局所的な脱髄(脱髄斑)が生じ,乏突起膠細胞の破壊,血管周囲の炎症,ミエリンの脂質および蛋白質成分の化学変化が脱髄斑の内部や周囲に生じる。軸索の損傷もありうるが,細胞体および軸索は比較的温存される傾向がある。中枢神経全体にわたって主に白質に,とりわけ側柱および後柱(特に頸部),視神経,脳室周囲に広くちらばる脱髄斑には,線維性グリオーシスが生じる。中脳,橋,および小脳の神経路も侵される。中脳および脊髄の灰白質も侵されることがあるが,程度ははるかに少ない。

症状と徴候

MSは,寛解と増悪を繰り返す多様な中枢神経の障害を特徴とする。増悪は平均約3回/年だが,頻度には大きな幅がある。最も多い初発症状は,一肢もしくは複数肢,体幹,または一側顔面の感覚異常;下肢や手の筋力低下または巧緻運動障害;視覚障害(例,球後視神経炎による片眼の部分盲および痛み,眼麻痺による複視,暗点)である。その他よくみられる初期症状として,軽度の肢のこわばりや異常な易疲労感,軽い歩行障害,膀胱制御困難,めまい,軽度の情緒障害などがある;通常,これらはいずれも中枢神経が散在的に侵されていることを示し,ごく軽微な場合もある。過度の熱(例,暖かい気候,熱い風呂,発熱)が症状および徴候を一時的に悪化させることがある。

軽度の認知障害がよくみられる。無感動,判断力の欠如,または不注意が生じることもある。情緒不安定,多幸感などの情緒障害,なかでも抑うつがよくみられる。抑うつは反応性の場合もあれば,MSの脳病変に一部起因している場合もある。少数の患者には発作がみられる。

脳神経: 一側性または非対称性の視神経炎,および両側性の核間眼筋麻痺が典型的にみられる。視神経炎により,視力の喪失(暗点から失明まで),眼痛,ときには視野の異常,乳頭腫脹,または部分的もしくは完全な求心性瞳孔反応欠損(視神経疾患: 視神経炎を参照 )が生じる。核間眼筋麻痺は,第3,第4,および第6脳神経核を連絡する内側縦束の病変により起こる。水平注視時に片眼の内転が減少し,(外転する)他眼の眼振を伴う;輻輳は正常に保たれる。頻度はまれだが,前方注視(第1眼位)における振幅の少ない,すばやい眼球の振動(振子眼振)はMSの特徴である。めまいは一般的にみられる。間欠的な一側性の顔面のしびれまたは痛み(三叉神経痛に似る),麻痺,または攣縮が生じることもある。延髄の減弱,小脳損傷,または皮質制御障害により,軽度の構音障害が生じることがある。その他の脳神経障害はまれだが,脳幹損傷の結果として起こることもある。

運動性: 筋力低下が一般的にみられる。通常,これは脊髄の皮質脊髄路の損傷を反映しており,主に下肢が侵され,両側性で痙性である。通常は深部腱反射(例,膝およびアキレス腱反射)が亢進し,しばしば伸展性足底反応(バビンスキー徴候)およびクローヌスが認められる。痙性不全対麻痺により,硬直したアンバランスな歩行が生じ,進行例では車椅子生活を余儀なくされる場合もある。後になって,感覚刺激(例,寝具の布)に対する有痛性の屈曲発作が生じることもある。大脳病変により片麻痺を生じることがあり,ときにこれが現症状となる。

企図振戦は直線運動時に肢が振れ,小脳性運動測定障害(失調性の肢運動)に似ることがある。安静時振戦も生じることがあり,特に頭部が支えられていないときに明らかである。

小脳性: 進行MSでは,小脳性運動失調および痙縮が重度の障害をもたらすことがある;その他,小脳性の症候には,不明瞭言語,断続性言語(単語や音節の出だしがためらいがちになる,ゆっくりした発音の仕方をする),シャルコーの三徴候(企図振戦,断続性言語,および眼振)などがある。

感覚性: 感覚異常およびいずれかの感覚の部分的喪失がよくみられ,しばしば局在化する(例,手または脚)。特に脊髄が侵されている場合には,痛みを伴う様々な感覚障害(例,燃えるような,または電撃様の痛み)が自発的に,または触れられると発現することがある。一例としてレルミット徴候,すなわち頸部屈曲の際に脊椎を下方に向かって,または下肢まで放散する電撃様の痛みがある。客観的な感覚の変化は一過性で実証が難しいことが多い。

脊髄: 本疾患に伴い,膀胱の機能不全が一般的に生じる(例,尿意切迫または排尿遅延,部分的な尿閉,軽度の尿失禁)。便秘,男性の勃起不全,および女性では性器の感覚脱失が生じることもある。進行MSでは,明らかな尿および便失禁が生じることがある。

視神経脊髄炎(デビック病)と呼ばれるMSの1型では,ときに両側性となる急性視神経炎,および頸髄または胸髄の脱髄が生じ,視力喪失および不全対麻痺を来す。他に,脊髄運動麻痺以外に障害がみられない1型もある(進行性脊髄障害)。

診断

視神経炎,核間眼筋麻痺,またはMSを示唆する他の症状が患者にみられ,特に障害が多巣性または間欠性の場合には,MSが疑われる。大部分のMSの診断基準では,増悪と寛解を繰り返す病歴に加え,診察または検査により2つ以上の異なる神経学的異常が客観的に実証されることが必要である。脳MRI,ときには脊髄MRIも実施する。MRIと臨床データで結論が得られない場合は,追加の検査により,別の神経学的異常の存在を客観的に実証する必要があろう。通常,こうした検査ではまずCSFを分析し,必要に応じて誘発電位を調べる。

MRIは,MSに関する最も高感度な画像検査であり,脊髄と延髄の接合部の非脱髄性病変(例,クモ膜下嚢胞,大後頭孔腫瘍)など,MSに似た他の治療可能な障害を除外することが可能である。ガドリニウム造影による強調画像で,古い脱髄斑と炎症が活発な脱髄斑とを識別できる。代わりに,造影増強CTを実施してもよい。MRIおよびCTの感度は,造影剤の用量を倍増し,スキャニングを遅らせることで(倍量投与遅延スキャン)上昇する。

通常,CSF蛋白質中の割合(正常は11%未満)またはCSFアルブミン中の割合(正常は27%未満)または他のCSF指標中の割合として示されるCSF IgGが上昇する。IgGレベルは疾患重症度と相関している。通常はCSFのアガロース電気泳動により,オリゴクローナルバンドが検出できる。脱髄が活発な時期にはミエリン塩基性蛋白が上昇することがある。CSFリンパ球数および蛋白質含量がやや上昇することもある。

MSに関しては,症状や徴候よりも誘発電位(感覚刺激に対する電気的反応の遅延―神経疾患患者へのアプローチ: 筋電図検査と神経伝導速度検査を参照 )の方がしばしば感度が高い。視覚誘発応答は感度に優れ,頭蓋病変が一切確認されない患者(例,病変が脊髄のみの患者)に特に有用である。体性感覚誘発電位および脳幹誘発電位も測定することがある。一部症例では,ルーチンの血液検査により全身疾患(例,SLE)および感染症(例,ライム病)を除外する必要がある。

予後と治療

経過はきわめて多様で予測不能である。大部分の患者,特にMSが視神経炎で始まった患者の場合には,寛解が数カ月から10年以上持続する。しかしながら,一部の患者,特に中年期に発症した男性は,頻回の発作を経験し,急速に身体機能が失われる。喫煙が経過を加速することもある。短命となるのはきわめて重症の症例に限られる。

目標は,急性増悪を短期間に抑えること,増悪の頻度を減らすこと,症状の軽減などであり,患者の歩行能力の維持は特に重要である。機能障害(例,視力,力,または協調運動の喪失)を来すほどの客観的な障害を生じる急性増悪には,短期クールのコルチコステロイド治療を行う(プレドニゾン60〜100mg,経口にて1日1回,2〜3週間かけて漸減,メチルプレドニゾロン500〜1000mg,静注にて1日1回,3〜5日間)。コルチコステロイドは急性発作を短縮し,おそらく進行を遅らせると考えられるが,長期的転帰に影響を及ぼすことは示されていない。しかしながら,メチルプレドニゾロンは,急性の重症視神経炎からMSへの進行を遅らせる可能性がある。

免疫調節療法は急性増悪の頻度を低減し,最終的な能力障害に至るのを遅らせる。免疫調節薬には各種インターフェロン(IFN)があり,IFN-β1b 800万IUを1日おきに皮下投与,IFN-β1a 600万IU(30μg)を週1回筋注,IFN-β1a 44μgを週3回皮下投与などの方法がある。一般的な副作用として,感冒様症状および抑うつ(時間とともに軽減する傾向がある),数カ月にわたる治療による中和抗体の発現,血球減少などがある。酢酸グラチラマー20mgを1日1回皮下投与することもある。IFN-βおよびグラチラマーは免疫抑制薬とはみなされていない。特に一定の進度で進行するMSには,免疫抑制薬のミトキサントロン12mg/m2を3カ月毎に,24カ月にわたって静注するのが有用な場合がある。抗α4インテグリン抗体のナタリズマブは,白血球の血液脳関門通過を阻害する;月1回の注入により発作の回数および新規脳病変の数が抑えられるが,進行性多巣性白質脳症との関連の有無を評価中であり,販売延期となっている。免疫調節薬が無効な場合は,月1回の免疫グロブリン静注が有用なことがある。ミトキサントロン以外の免疫抑制薬(例,メトトレキサート,アザチオプリン,ミコフェノール酸,シクロホスファミド,クラドリビン)は,より重症の進行性MSに用いられているが,異論も多い。

痙縮には,バクロフェン10〜20mg,経口にて1日3〜4回,またはチザニジン4〜8mg,経口にて1日3回の漸増投与を行う。歩行訓練および可動域訓練は,筋力が低下した痙性の肢に有用である。通常,有痛性の感覚神経障害には,ガバペンチン100〜600mg,1日3回の経口投与を行う;その他の選択肢として,三環系抗うつ薬(例,就寝時にアミトリプチリン25〜75mgを経口投与,アミトリプチリンの抗コリン作用に不耐容の場合は,就寝時にデシプラミン25〜100mgを経口投与),カルバマゼピン200mg,1日3回経口投与,オピオイドなどがある。抑うつには,カウンセリングおよび抗うつ薬による治療を行う。膀胱の機能不全は,基礎にある機序に基づき治療を行う(排尿障害を参照 )。

励ましや安心を与えることも役に立つ。定期的な運動(例,ステーショナリーバイク,ランニングマシン,水泳,ストレッチ)は,心臓および筋肉の状態を整え,痙縮を軽減し,拘縮を予防し,心理的効用があるため,進行MS患者にも推奨される。患者はできるだけ正常で活動的な生活を維持し,過度の労働,疲労,および過度の暑さは避けるようにすべきである。ワクチン接種により増悪のリスクが高まることはないようである。身体が弱っている患者には,褥瘡性潰瘍およびUTIに対する予防対策が必要であり,間欠自己導尿が必要な場合もある。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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