神経筋伝達障害

(神経筋接合部疾患)

執筆者:Michael Rubin, MDCM, New York Presbyterian Hospital-Cornell Medical Center
レビュー/改訂 2020年 12月
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    神経筋伝達障害は神経筋接合部を侵し,感覚障害を伴わない,消長する筋力低下を引き起こすのが一般的である。

    末梢神経系疾患の概要も参照のこと。)

    神経筋伝達障害は以下に影響を及ぼすことがある:

    • シナプス後受容体(例,重症筋無力症

    • アセチルコリンのシナプス前放出(例,ボツリヌス症

    • シナプス内部でのアセチルコリンの分解(例,薬物または神経毒性のある化学物質による)

    神経筋伝達を障害する最も一般的な疾患は重症筋無力症である。

    その他の部位を主に侵す疾患の中にも,神経筋系統の臨床像を有するものがある(例,スティッフパーソン症候群アイザックス症候群)。

    イートン-ランバート症候群

    イートン-ランバート症候群は,シナプス前神経終末からのアセチルコリンの放出障害による。最大等尺性運動の10秒前と10秒後に,高頻度(20~50Hz)の反復神経刺激試験,または単回の最大上刺激を行うと,最大400%の反応の増強がみられる。100%を超える増強で神経筋伝達のシナプス前障害の診断を下せるとみなされるが,60%以上の増強でも診断が強く示唆される。

    ボツリヌス症

    ボツリヌス症の場合も,同様にシナプス前神経終末からのアセチルコリン放出の障害が原因であり,これはボツリヌス菌(Clostridium botulinum)の芽胞によって産生された毒素が,シナプス前コリン作動性神経終末の特定の受容体(シナプトタグミンII)に不可逆的に結合することで起こる。結果,重度の筋力低下が生じ,ときに呼吸障害および嚥下困難を伴う。その他の全身症状としては,交感神経系の活動が拮抗されないことに起因する散瞳,口腔乾燥,便秘,尿閉,頻脈などがありうる(抗コリン作動性症候群)。重症筋無力症ではこうした全身所見はみられない。

    ボツリヌス症では,筋電図検査にて低頻度(2~3Hz)の反復神経刺激に対する軽度の漸減応答を認める一方,10秒間の運動後または速い(50Hz)反復神経刺激により著明な漸増応答が生じる。

    薬物または有毒化学物質

    コリン作動薬,有機リン系殺虫剤,および大部分の神経ガス(例,サリン)は,シナプス後受容体の脱分極をもたらす過剰なアセチルコリン活性により神経筋伝達を遮断する。縮瞳,気管支漏,腹部痙攣,下痢,および筋無力症様の筋力低下(コリン作動性症候群)が起こる。

    アミノグリコシド系およびポリペプチド系抗菌薬は,シナプス前アセチルコリン放出およびシナプス後膜のアセチルコリン感受性を低下させる。これらの抗菌薬の血清中濃度が高いと,潜在性重症筋無力症患者において神経筋遮断を増大させることがある。ペニシラミンによる長期の治療は,臨床的にも筋電図検査上も重症筋無力症に類似した可逆性の症候群の原因となることがある。経口または静注によるマグネシウムの過量投与(血中濃度が8~9mg/dL [4~4.5mmol/L] 近くになる)でも,筋無力症症候群に類似した重度の筋力低下が生じる可能性がある。抗がん剤のクラスである免疫チェックポイント阻害薬(例,イピリムマブ,ニボルマブ,ペムブロリズマブ)により免疫関連有害作用が発現する患者は全体の1%未満であるが,それらの有害作用(重症筋無力症を含む)は現在も報告が続いている。

    治療は,薬物または有毒化学物質の除去,ならびに必要な呼吸サポートおよび集中看護を行うことである。コリン作動性神経系が亢進している患者では,アトロピン0.4~0.6mg,経口,1日3回の投与により気管支分泌物を減少させることが可能である。有機リン系殺虫剤または神経ガス中毒に対しては,高用量(例,2~4mg,静注,5分毎)での投与が必要になる場合もある。

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