メルクマニュアル18版 日本語版
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はじめに

頭蓋内腫瘍は脳またはそれ以外の構造(例,脳神経,髄膜)を侵す。脳腫瘍は剖検全体の約2%に発見される。腫瘍は通常,成人期初期または中年期に発生するが,どの年齢層にも発生する;高齢者における頻度が増加している。良性腫瘍の場合もあるが,頭蓋内は増大する余地がないため,これらの腫瘍も重篤になる可能性がある。

分類

原発性頭蓋内腫瘍には,脳実質に由来するもの(例,神経膠腫,髄芽腫,脳室上衣腫)および神経外構造に由来するもの(例,髄膜腫,聴神経鞘腫,その他のシュワン細胞腫)がある。頭蓋外腫瘍は頭蓋内構造または頭蓋骨に転移することがある。脳においては,転移性腫瘍が原発性腫瘍の約10倍多くみられる。

腫瘍の型は部位(頭蓋内および脊髄の腫瘍: 脳腫瘍による一般的な局在症状表 1: 表参照)および年齢によって若干異なる。小児においてよくみられる原発性腫瘍は,小脳の星状細胞腫,髄芽腫,脳室上衣腫,脳幹および視神経の神経膠腫,胚細胞腫,先天性腫瘍である。先天性腫瘍には,頭蓋咽頭腫,脊索腫,胚細胞腫,奇形腫,類皮嚢腫,血管腫,血管芽腫がある。最もよくみられる小児の転移性腫瘍は,神経芽腫(通常硬膜外)と白血病(髄膜性)である。

表 1

PDF 脳腫瘍による一般的な局在症状

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成人においてよくみられる原発性腫瘍は,髄膜腫,シュワン細胞腫,原発性リンパ腫,および大脳半球の神経膠腫(特に,悪性の多型性膠芽腫と未分化星状細胞腫,および,より良性の星状細胞腫とオリゴデンドログリオーマ)である。成人において最もよくみられる転移原発巣は,気管支原性癌,乳房の腺癌,悪性メラノーマ,肺転移する全ての癌であるが,全ての転移性癌が脳に転移する可能性がある。

病態生理

腫瘍による脳組織への浸潤および破壊,隣接組織への直接の圧迫,またまれに傍腫瘍性症候群(癌の概要: 腫瘍随伴症候群を参照 )の結果,神経機能障害が起こる。神経機能障害はまた,頭蓋内圧亢進(腫瘍が空間を占めるために起こる),脳浮腫,硬膜静脈洞閉塞(特に骨腫瘍,または硬膜外転移性腫瘍),閉塞したCSFの排出(早期に第3脳室または後頭蓋窩腫瘍に生じる),あるいは閉塞したCSFの吸収(例,白血病または癌が髄膜を侵した場合)からも起こりうる。悪性腫瘍は内部に血管を新生し出血または閉塞して壊死を起こすことがあるが,これらはいずれも卒中に類似した神経機能障害を引き起こすことがある。

良性腫瘍はゆっくりと成長する。症状を発現する前に非常に大きくなることがあるが,1つにはしばしば脳浮腫が生じないためである。悪性腫瘍は急速に増殖するが中枢神経系を越えて広がることはまれである。死亡は腫瘍の局所における増大の結果起こるため悪性腫瘍と同様,良性腫瘍によっても起こる可能性がある。したがって脳腫瘍の場合,良性か悪性かの鑑別は予後判断上の重要性が低い。

症状と徴候

多くの症状は頭蓋内圧亢進の結果起こる。最もよくみられる症状は頭痛である。頭痛は深いノンレム睡眠(通常入眠後数時間)からの覚醒時に最も強くなるが,これは脳血流の増加とそれによる頭蓋内圧亢進を起こす低換気がノンレム睡眠中に最大になるからである。頭蓋内圧が非常に高い場合,頭痛は嘔吐を伴うことがあり,前兆の悪心がほとんど起こらないこともある。乳頭浮腫が脳腫瘍患者の約25%に発生するが,頭蓋内圧が亢進した場合にも発生しないこともある。乳児および幼児においては,頭蓋内圧亢進により頭部が拡大することがある。頭蓋内圧亢進が十分に大きければ,脳ヘルニアが起こる(昏迷と昏睡: ヘルニア症候群を参照 )。

精神状態の悪化が2番目によくみられる症状である。症状には,傾眠,嗜眠,人格変化,異常行動,認識障害があり,特に悪性腫瘍の患者にみられる。全般発作が起こることもあり,その頻度は原発性腫瘍の方が転移性腫瘍より高い。意識障害(昏迷と昏睡を参照 )が,脳ヘルニア,脳幹機能不全,またはびまん性両側性の大脳皮質機能不全から起こることもある。気道反射も障害される。

局在性脳機能障害により起こる症状もある。腫瘍の部位(頭蓋内および脊髄の腫瘍: 脳腫瘍による一般的な局在症状表 1: 表参照)によっては,局所神経障害,内分泌機能異常,焦点発作(ときに二次性全般化を伴う)が起こることもある。局在性の症状および徴候はしばしば腫瘍の部位を示唆する。しかしながら,局在性神経欠損と腫瘍の部位が対応しない場合もある。このような神経欠損の1例は,偽局在徴候と呼ばれ一側性または両側性の外直筋麻痺である;この麻痺は,頭蓋内圧亢進から生じる第6脳神経の圧迫による眼球外転,対側大脳脚のテントへの圧迫による腫瘍と同側の片麻痺(カーノハン切痕),対側後頭葉の虚血による同側の視野欠損を引き起こす。

髄膜の炎症を引き起こす腫瘍もあり,その結果亜急性または慢性の髄膜炎になる(髄膜炎を参照 )。

診断

初期の脳腫瘍はしばしば誤診される。脳腫瘍を考慮すべき患者は,進行性の局所的または脳全体の脳神経障害,新たに発生した発作,最近始まり説明のつかない持続性頭痛で特に睡眠により悪化するもの,頭蓋内圧亢進の証拠(例,乳頭浮腫,説明のつかない嘔吐)を示した患者である。類似の所見は,頭蓋内のその他の病変(例,膿瘍,動脈瘤,動静脈奇形,脳内出血,硬膜下血腫,肉芽腫,神経有鉤嚢虫症などの寄生虫性嚢胞)または虚血性脳卒中から生じる可能性もある。下垂体または視床下部の内分泌障害の原因としても腫瘍を考慮すべきである。

完全な神経学的診察,神経画像診断,胸部X線(転移の原発巣のため)検査を行うべきである。選択肢にはガドリニウムによるT1強調MRIがある。他の方法として造影剤を用いたCTがある。MRIは低悪性度の星状細胞腫およびオリゴデンドログリオーマを通常CTより早期の段階で検出し,また骨付近の脳構造(例,後頭蓋窩)をより鮮明に示す。全脳画像が標的部位(例,トルコ鞍,小脳橋角,視神経)の細部を十分に示せない場合には,その部位に限局した画像またはその他の特殊画像を得る。神経画像では正常だが頭蓋内圧亢進が疑われる場合には特発性頭蓋内高血圧(頭痛: 特発性頭蓋内圧亢進症を参照 )を考慮し腰椎穿刺を行うべきである。

X線画像における腫瘍の型に関する手掛かりは主にMRI上の部位(頭蓋内および脊髄の腫瘍: 脳腫瘍による一般的な局在症状表 1: 表参照)と増強パターンであるが,これらは決定的なものではなく脳生検が必要である。特殊検査(例,血液およびCSFの分子腫瘍マーカーおよび遺伝子腫瘍マーカー)が有用となりうる症例もある:後天性免疫不全症候群の患者においては,CSFのEBウイルス力価の増加が,中枢神経系リンパ腫の発症時に典型的にみられる。

治療

昏睡または気道反射障害の患者には気管内挿管が必要である。腫瘍による脳ヘルニアは,マンニトール25〜100g点滴静注,コルチコステロイド(例,デキサメタゾン16mg静注,その後4mgを経口または静注にて6時間毎)および気管内挿管により治療する。塊状病変はできるだけ速やかに外科的に減圧すべきである。

腫瘍による頭蓋内圧亢進がヘルニアを伴わない場合はコルチコステロイド投与(例,デキサメタゾンを上述の方法による,またはプレドニゾン30〜40mgを,経口にて1日2回)により治療する。

脳腫瘍の治療は病理および部位によって決まる(聴神経腫瘍は内耳障害: 聴神経腫瘍を参照 )。診断および症状緩和のため外科的切除を用いるべきである。良性腫瘍であれば治癒することもある。脳実質へ浸潤している腫瘍では治療は多方式である。放射線療法が必要であり,また,化学療法が有効な患者もあるようである。

転移性腫瘍の治療には放射線療法があり,定位放射線手術が行われる場合もある。孤立性転移の患者では,放射線療法の前に外科的切除を行うことにより,よりよい結果が得られる。

終末期の問題: 脳腫瘍による死期が近いことが予測された場合には,終末期の問題を考慮すべきである(臨死患者を参照 )。

放射線療法および神経毒性

放射線療法は,びまん性または多中心性の腫瘍に対しては全頭に広く行い,境界明瞭な腫瘍に対しては局所的に行う。脳への局所放射線療法は,正常組織に損傷を与えないよう腫瘍を標的にする原体照射か,または密封小線源治療法と呼ばれる方法で放射性安定ヨウ素(125I3)もしくはイリジウム-192 (192Ir4)の刺入を行う,またはガンマナイフもしくは線形加速器を用いる定位放射線照射が考えられる。神経膠腫は原体照射法により治療し,転移性腫瘍にはガンマナイフまたは線形加速器による治療が有用である。照射を毎日行うことにより,効果が最大になり正常な中枢神経系組織への損傷(神経毒性)が最小になる傾向がある。

神経毒性の程度は,総照射線量,1回線量,治療期間,照射を受けた組織の容積,個々の感受性によって決まる(放射線障害も参照 )。感受性は多様なため照射による毒性は正確には予測できない。毒性症状は,治療後の最初の数日以内(急性),数カ月以内(初期遅発性),数カ月から数年後(晩期遅発性)に発現する可能性がある。まれに放射線照射の何年も後に神経膠腫,髄膜種,末梢神経鞘腫瘍が発症する。

小児および成人における脳への放射線照射による急性毒性は,頭痛,悪心,嘔吐,傾眠,およびときに局在性神経徴候の悪化が特徴的である。頭蓋内圧が高い場合には特にその傾向が強い。コルチコステロイドを用いて頭蓋内圧を低下させることにより急性毒性を回避または治療できる。急性毒性はその後の治療により軽減する。

初期遅発性の脳毒性は小児または成人において脳症を引き起こす可能性があり,脳腫瘍の悪化と再発との鑑別をMRIまたはCTにより行わなければならない。脳症は,白血病に対する予防的な全脳照射を受けた小児において起こり傾眠を起こすが,数日から数週かけて自然に軽減し,またコルチコステロイドの使用によりさらに速やかに軽減する場合もある。頸部または胸部上部への放射線治療後,初期遅発性の毒性によりミエロパシーを発症することがあり,レルミット徴候(頸部屈曲時に電気ショック様の感覚が背部から下肢に放散する)を特徴とする。ミエロパシーは自然に消失する。

晩期遅発性の毒性は,全脳照射後の長期生存例の大部分の小児および成人において発現する。小児において最もよくみられる原因は,白血病の予防または髄芽腫の治療のために行った全脳照射である。全脳照射治療後の主な症状は進行性認知症であり,多くの成人に不安定歩行もまた起こる。MRIまたはCTでは大脳萎縮がみられる。局所照射治療後の毒性には局所神経障害の方が多い。MRIまたはCTでは,造影剤により増強される病変がみられ,原発性腫瘍の再発との鑑別が困難である。この塊状物の切除生検は診断に有効であり,またしばしば症状を改善する。

脊髄外腫瘍(例,ホジキンリンパ腫による)に対する放射線治療の後,晩期遅発性ミエロパシーを発症することもある。これは進行性の不全麻痺および感覚消失を特徴とし,しばしばブラウン-セカール症候群(同側の不全麻痺と固有覚低下,対側の痛覚と温覚の低下)の1つの症状として生じる。大部分の患者は最終的には対麻痺になる。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月

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