腹膜透析

執筆者:L. Aimee Hechanova, MD, Texas Tech University Health Sciences Center, El Paso
レビュー/改訂 2020年 12月
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腹膜透析では,腹膜を自然の透過性の膜として用い,これを介して水分と溶質を平衡化することができる。血液透析と比較して,腹膜透析には以下の特徴がある:

  • 生理学的にストレスが少ない

  • バスキュラーアクセスが不要である

  • 自宅で実施できる

  • 患者にとっての柔軟性がはるかに高い

腎代替療法の概要も参照のこと。)

しかしながら,腹膜透析では,医療施設内で行う血液透析と比べて,はるかに大きな患者の関与が必要になる。滅菌的手技の維持が重要である。安静時の総内臓血流量推算値1200mL/minのうち腹膜に接触するのは約70mL/minにすぎないため,溶質平衡は血液透析に比べはるかに緩徐に起こる。しかし,溶質および水のクリアランスは接触時間に依存し,腹膜透析はほぼ持続的に施行されるため,溶質除去という面での効力は血液透析と同等である。

一般に,透析液はカテーテルによって腹腔内に注入され,貯留した後,排出される。ダブルバッグ法では,患者は,腹部に注入された透析液を1枚の袋に排出し,次に他の袋から腹腔に液を注入する。

腹膜透析は用手法か自動機器を用いて行うことができる。

用手法は以下の通りである:

  • 連続携行式腹膜透析(CAPD)は,交換を行うための機器を必要としない。典型的な成人では,透析液2~3L(小児では30~40mL/kg)を1日4~5回注入する。透析液は日中は4時間,夜間は8~12時間貯留させる。溶液は用手的に排出する。注入前に輸液セットをフラッシュすることで,腹膜炎の発生率が低下する。

  • 間欠的腹膜透析(IPD)は簡便であり,自動化された間欠的腹膜透析より高い溶質クリアランスを達成でき,主に急性腎障害(AKI)の治療に有用である。成人では透析液2~3L(小児では30~40mL/kg)を37℃に温めて10~15分かけて注入し,30~40分間腹腔内に貯留させた後,約10~15分かけて排出する。12~48時間にわたって複数回の交換が必要になる場合がある。

自動腹膜透析(APD)は,最も一般的な形態の腹膜透析となりつつある。この方法では,自動機器を用いて夜間に複数回の交換を行い,ときには日中の貯留を行う。3種類の方法がある:

  • 持続的周期的腹膜透析(CCPD)は,昼間は長時間(12~15時間)貯留させ,夜間は自動循環装置で3~6回交換する。

  • 夜間間欠的腹膜透析(NIPD)は夜間に交換し,日中は患者の腹腔に透析液を貯留しない。

  • タイダル腹膜透析(TPD)では,1回の交換から次回の交換までの一部の透析液(しばしば半分以上)を腹腔内に残すことで,患者の快適性を改善するとともに,透析液を完全に排出できないことによる問題(例,頻回の体位変換)を回避することができる。TPDには日中の貯留を行う方法と行わない方法がある。

一部の患者では,十分なクリアランスを得るためにCAPDとCCPDの両方が必要となる。

アクセス

腹膜透析には腹腔アクセスが必要であり,通常は柔らかいシリコンゴムまたは多孔性ポリウレタンカテーテルを使用する。カテーテルは手術室で直視下に埋め込まれるか,ベッドサイドでトロカールの盲目的挿入または腹腔鏡による観察下で埋め込まれる。大部分のカテーテルにはポリエステル繊維のカフが付属しており,それによって皮膚や腹膜前筋膜の組織が内部へと増殖することができ,理想的には水密性で細菌不透過の密封がもたらされ,カテーテル管に沿った細菌の導入の予防が得られる。カテーテルを留置してから使用を開始するまでに10~14日の期間を置くことで,治癒が促進され,カテーテル周囲への透析液の早期漏出の頻度が低下する。ダブルカフのカテーテルはシングルカフのカテーテルより優れている。出口部位(カテーテルが腹腔に侵入するトンネルの開口部)を尾側に向けることで,出口部感染の発生率が低下する(例,シャワーを浴びる際にたまる水が減ることにより)。

アクセスを作製したら腹膜平衡試験を行うが,そこでは4時間貯留させて排出した透析液を分析し,血清と比較して溶質クリアランス率を算出する。この方法は,患者毎の腹膜輸送の特徴,必要な透析量,および最適な手法を決定する上で役立つ。一般に十分な量は,週毎のKt/Vが1.7以上(Kは尿素クリアランス[mL/min],tは透析時間[分],Vは尿素の分布容積[体内総水分量とほぼ等しい][mL])と定義される。

腹膜透析の合併症

腹膜透析で最も重要かつ一般的な合併症腎代替療法の合併症の表を参照)は,以下のものである:

  • 腹膜炎

  • カテーテル出口部位の感染*

腹膜炎

腹膜炎の症候としては,腹痛,腹水混濁,発熱,悪心,触診での圧痛などがある。

腹膜炎の診断は臨床基準と検査による。腹水検体を採取して,グラム染色,培養,および白血球数測定(分画を含む)を行う。以下の基準のうち少なくとも2つに該当する場合,腹膜炎が存在する:

  • 腹膜炎と一致する臨床的特徴(例,腹痛,圧痛,および/または透析排液の混濁)

  • 透析排液中の白血球数 > 100/μLかつ最低2時間の貯留後に多形核白血球 > 50%

  • 腹水培養陽性(1)

グラム染色はしばしば明白ではないが,培養は90%以上で陽性である。約90%で白血球数が100個/μLを超え,通常は好中球(真菌性腹膜炎ではリンパ球)である。培養陰性かつ白血球数100個/μL未満では腹膜炎は除外されないため,臨床基準または臨床検査基準に基づき腹膜炎が疑われる場合は治療適応であり,培養の結果を待たず,直ちに治療を開始すべきである。腹水検査では,過去の抗菌薬の使用,カテーテルの出口またはトンネル内に限局した感染,腹水検体の採取量不足などにより,偽陰性となる可能性がある。

パール&ピットフォール

  • 臨床基準に基づき腹膜炎が疑われる場合,臨床検査での所見にかかわらず直ちに治療を開始する。

経験的治療は特定施設の細菌の耐性パターンに適合させるべきであるが,典型的な推奨は,初期治療としてグラム陽性菌に活性を示す薬剤(例,バンコマイシンまたは第1世代セファロスポリン系薬剤)との併用で,グラム陰性菌に活性を示す第3世代セファロスポリン系(例,セフタジジム)またはアミノグリコシド系薬剤(例,ゲンタマイシン)などがある。腎不全に対して用量を調節する。薬剤は腹膜透析液の培養の結果に基づいて調節する。抗菌薬療法は通常,腹膜炎に対しては静脈内または腹腔内投与とし,出口部の感染には経口投与とする。腹膜炎患者は,静脈内投与による治療が必要な場合,または血行動態が不安定であるか,あるいはその他の有意な合併症が発生した場合は,入院させる。

腹膜炎のほとんどの症例は迅速な抗菌薬療法に反応する。腹膜炎が抗菌薬に5日以内に反応しない場合,または同一の細菌もしくは真菌の再発に起因する場合は,透析カテーテルを抜去する。

カテーテル出口部位の感染*

カテーテルのトンネル出口部の感染では,トンネル上または出口部の圧痛に加え,痂皮形成,紅斑,または排膿を呈する。診断は臨床的に行う。排膿を伴わない感染症の治療は消毒薬(例,ポビドンヨード,クロルヘキシジン)の外用であり,無効の場合はバンコマイシンが通常経験的に使用され,その後の治療は培養の結果を指針とする。

合併症に関する参考文献

  1. 1.Li PK-T, Szeto CC, Piraino B, et al: ISPD (International Society of Peritoneal Dialysis) peritonitis recommendations: 2016 Update on prevention and treatment.Perit Dial Int 36(5):481-508, 2016.

予後

全体的に,腹膜透析患者の5年生存率は血液透析患者よりもやや良好である(血液透析の42%に対して腹膜透析では約50%)。

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